「お姉さん、お父さんがさっき亡くなりました」昼下がりの何気ない瞬間に、正彦からの一本の電話で世界が止まった。葬儀の準備で忙しいという夫の代わりに、私が対応した。長い闘病生活の末の死。それなのに、彼の次の言葉が胸に突き刺さった。「お姉さんたちは子供がいないから分からないと思いますけど」—家族が多いと忙しいのだと。子供を産めない私に、何が分かるというのか。実家を相続した後、正彦夫婦は「そのボロい…

「お姉さん、お父さんがさっき亡くなりました」昼下がりの何気ない瞬間に、正彦からの一本の電話で世界が止まった。葬儀の準備で忙しいという夫の代わりに、私が対応した。長い闘病生活の末の死。それなのに、彼の次の言葉が胸に突き刺さった。「お姉さんたちは子供がいないから分からないと思いますけど」—家族が多いと忙しいのだと。子供を産めない私に、何が分かるというのか。実家を相続した後、正彦夫婦は「そのボロい...

正彦さんから突然の電話がかかってきたのは、昼過ぎのことだった。「お姉さん、お久しぶりです。えっと、お父さんがさっき亡くなりました」私は一瞬、言葉を失った。「そうか……親父が」本来なら夫である大地が連絡するべきなのだろうが、彼は今、葬儀の準備で忙しいのだという。「そうですか。親父は苦しまずに行けましたか?」「はい、ずっと病院生活で大変だったと思いますが、最後は眠るように息を引き取りました」「それは良かった」本当に良かった。長い闘病生活だった。そして、正彦は言った。「お父さんは、ずっと正彦さんがお見舞いに来るのを望んでいましたよ」しばらくの沈黙の後、彼は重い口を開いた。「それは本当に申し訳ないと思ってます。俺もミカも色々と忙しくてですね。家族が多いと、それだけやらないといけないことが多いんです。お姉さんたちは子供がいないから分からないと思いますけど」その言葉に、私は内心で眉をひそめた。だが、あえて冷静に返した。「そうですね。私たちはできる限りお父さんのそばで看病を続けていました。それは、子供がいなかったからというのもあるのかもしれませんね」「それはそうですよ。俺やミカだって時間的な余裕があれば、親父の近くにいてあげたかったですから」「本当ですか?」「もちろんです。だって家族なんですよ。家族ってのは常に支え合わないといけないんです」その言葉が、どれほど空疎に響いたことか。しかし、私はそれ以上何も言わなかった。「それじゃあ、今から家族全員で実家に帰ります」「わかりました。葬儀でしばらくこっちに滞在することになると思いますが、大丈夫ですか?」「仕事は問題ないですよ」「できれば、近くにあるホテルに宿泊してもらえればと思ってます」電話の向こうで、正彦の声のトーンが変わった。「え、どうしてですか?実家は?」「ちょっと実家の方が色々ありまして」「何があると言うんですか?どうして俺たちが実家に帰っちゃいけないんですか?」「お父さんが入院されてからずっと誰もあそこには住んでないんですよ。私たちも違うところで生活をしていたので、手入れができていない状態なんです。まだ人が住めるような状況じゃないんです」正彦はさらに詰め寄った。「お姉さんは何をやってたんですか?時間はたくさんあったでしょう」「私だって仕事をしてるんですよ。そんな時間が山ほどあるわけじゃないです」「だとしても、そこら辺は長男の嫁としてしっかりやってもらわないと」「とにかくこちらにいる間はホテルにお願いします」彼は不満そうに言った。「別にいいですけど。ホテル代はそちらで出してもらえますか?急にホテルに止まれなんて言われても困りますよ。それに原因はそちらが管理責任を怠ったからでしょ。だったらその分のお金は出してくださいって」「夫に相談してみます」「お願いしますよ。とりあえず俺たちはすぐにそっちに向かいますから」

電話を切った後、私は夫の大地に話しかけた。「あなた、忙しいところ悪いんだけど、ちょっと相談があるの」「うん。どうかした」「さっきね、正彦さんに連絡をさせてもらったの」「ありがとうな。俺があいつと話をすると喧嘩になりそうだったから」私は小さく笑った。「うん。それは別にいいのよ。2人の関係性に関しては私もよく分かってるから。それで正彦さんたちは家族全員でこっちに向かってくれることになったのよ」「そうか。それはよかった。親父も全員に見送られれば浮かばれるだろう」しかし、大地の表情はすぐに曇った。「正彦は結局一度もお見舞には来なかったがな」「家族が多くて色々と忙しかったって言われたわ」「そんなわけがないだろう。時間を作ってお見舞いに来ることはできたはずだ。あいつは昔から俺たちに対する思い入れがないんだよ。いつも自分のことばかり考えてる」その後、私はホテル代の話を伝えた。「それで相談のことなんだけど、実家には止まれないじゃない?だからホテルに泊まってもらおうと思ったんだけど、正彦さんの方からホテル代は出してくれって言われてね」「そんなことを言ってきたのか」「実家に止まれないのは管理してなかった私たちが悪いからって」「あいつをどうしよっか。本当にいつまでも金に汚いやつだ」「もしあれなら私がしとくけど」「そんなことはしなくていいよ。それに俺たち2人の貯金だからな。どっちが払っても結果は変わらない。仕方ない、ホテル代は渡そう。ごねられても困るからな」そして大地は付け加えた。「今はとにかく親父をしっかりと天国に送り届けることを優先しないと」「そうね。私もそれがいいと思うわ」その日の夜、私たちは裁判ではないが、将来の話を少しだけした。相続のことだ。大地は言った。「親父の家は、俺たちが相続することになるだろう。あいつらに不利益なことは何もないはずだが、すんなりと受け入れてくれればいいがな」私もそう願った。だが、その願いは、すぐに裏切られることになる。

葬儀が終わり、一ヶ月が経ったある日、正彦の妻であるミカから電話がかかってきた。「お姉さん、この間はどうもありがとうございました」「いえいえ。わざわざ来てくれてありがとうございました。どう?そっちはあれから変わりはない?」「いや、まあ、ないこともないんですけどね」「あら、どうかしたの?」「実は正彦が仕事をやめちゃって」「え?そんな話、私たちには全くしてなかったけど」「ずっと考えてたみたいなんですよね。やっぱり家族もいますし、ちょっと不安ですよ」「そうよね」すると、ミカは本題を切り出した。「そこでちょっとお姉さんたちにお願いがあるというか」「うん。何?」「確か実家ってお兄さんたちがもらったんですよね」「そうね。相続でね」「それを私たちにくれませんか?」私は耳を疑った。「え、どういうこと?お姉さんたちってマンションに住んでるんですよね」「いや、もう引き払ったわ。引っ越しも終わって実家で生活をしてるのよ」「だったら、今すぐに出てってください。私たちをその家に住ませてくださいよ。そうしたら家賃が浮いて、生活が楽になるんです」私は思わず声を強めた。「ちょっと待ってよ。さすがにそれは出ていくなんてできないわよ」「そんなケチケチしないでくださいよ。あんなボロい家、お姉さんには必要ないでしょ」「そんな言い方しちゃだめよ。あれは大地にとっては思い出の家なんだから」「そんなの私たちには関係ないじゃないですか。雨風をしのげる単なる家でしかないんですよ。そこを私たちが有効活用してあげるって言ってるんです。どうですか?悪い話じゃないでしょ」私は深く息を吐いた。「これは私たちだけで決めることじゃないわ。兄弟で話し合ってもらった方がいいんじゃない?」「まあ、それはそうですね」「とりあえず大地に話をしておくから」

その30分後、大地が正彦に電話をかけた。「正彦、仕事をやめたってのは本当か?」「ああ、そうだよ。もうしんどかったからさ」「これで仕事をやめたのは何度目だ?」「数えてないからわかんねえや。別に俺だってやめたくてやめたわけじゃねえって。俺に合わない仕事を続けても意味がないだろう」「だとしても家族はどうなるんだ。食わせていかないといけないんだろ」「そうだよなあ。本当に子供のいない兄さんが羨ましいぜ。マジで子供がいると出費が多いからさ」「子供を産んだのは自分たちだろう」「そんなことを言うんじゃない。まあ、そっか。あんたに言っても理解できないか」「お前な……」「それでさ、家の件だけど、別にいいよね。あんたら夫婦が親父から相続したあの家、くれよ」大地の声が一瞬で冷たくなった。「そんな軽々しく言うんじゃない。そもそも俺たちが家を相続した代わりに、お前には現金を渡したはずだぞ」「もらったよ。でもあれじゃまともな生活はできない。親父もう少し金を残してくれてればなあ」「ふざけたことを言うな。父さんが俺たちのために残してくれてたんだぞ」「だとしても少ないって言ってんの。親父の愛情なんてあんなもんだったのかってさ」「そんなことを言う奴を、あの家に住ませると思うのか?」「あんたらにあの家はいらねえだろ。子供のいない夫婦にあの広さは不要だろ。だから譲れよ」「お前、俺たちに子供がいないことを今までずっとバカにしてきただろう」「だってそうだろうよ。俺なら子供を産めないような女ならさっさと切るね。そんな女と結婚する意味ねえもん」大地は堪えきれずに怒鳴った。「お前はゆいのことまで馬鹿にするのか?」「間違ってねえだろ。親父にとってどっちが可愛い子供だよ。孫を産んで血筋を絶やさなかった俺と、子供のいないあんたらでどっちが大切だと思う?どう考えても俺たちだろう。そもそもあんたらは遺産を受け取る資格すらなかったんだよ。それを当たり前のようによ」長い沈黙の後、大地は静かに言った。「分かった。それじゃあ出てくよ。あそこはお前たちが好きにしろ」正彦の声が、驚くほど軽くなった。「やった。正直めちゃくちゃ粘られると思ってたんだ。兄さんが素直で本当に良かったよ。あの家のことは頼んだぞ」「ああ。それじゃあさっさと出てってくれる?俺たち、今すぐに引っ越したいから」

その10分後、再びミカから電話がかかってきた。「みかさん、家をお譲りするということになりました」「でしょ?もう私は最初からこうなるって思ってたんです。わざわざ時間を取らせないでくださいよ」私は、その傲慢な態度に腹が立ったが、あえて冷静に言った。「こちらがお譲りするということは、忘れないでください」「子供を産めないような女にあの家は不必要でしょ」「なんですって?」「私たち実はお兄さんに同情してたんですよ。あなたみたいな女と結婚してかわいそうだなって」私は声を震わせた。「それを大地に言われるなら、まだ分かりますよ。迷惑を被ってるのは大地ですからね。でも、それをどうしてあなたたちに言われないといけないんですか?」「家族を心配してるからですよ。お父さんもきっと同じように思われてましたって」「あなたにお父さんの何が分かるの?」「ちょっとヒスはやめてください。更年期ですか?とりあえず、関わらないでくださいよ」私は、それでも最後に伝えた。「もういいです。私から言いたいのは、押入れにお父さんが大事にされていた骨董品なんかを置いてあります。それには絶対に触れないようにしてください。できれば私たちが管理したいのですが、持ち出したりすると危ないので」「うん。わかりました。そういうのは全部こちらにお任せください。そして、あまり私たちと関わらないようにお願いしますね」「ええ、そうさせてもらうわ」そう言って、私は電話を切った。

それから3週間後、今度は正彦から電話がかかってきた。声は明らかに焦っていた。「ちょっとこれはどういうことですか?」「あら、何かしら」「もう連絡しないとか言ってたけど、そんなこと言ってられない時なんですよ」「どうかしたの?」「雨漏りがひどいんですよ。雨が降り出したと思ったら、あちこちから雨漏りして。こんなところに住めるわけないでしょ」「そうなのよ。そこって大変でしょ」「知ってたんですか?」「当たり前よ。何度もその家には行ってたんだから。お父さんがまだいた頃はギリギリ問題なかったんだけど、お父さんが入院して家を空けるようになったら、正直人が住めないレベルまでになっちゃったの。家主がいなくなると家が一気に老朽化するって話は聞いたことはあったけど、ここまで分かりやすく出るなんてね」「じゃあ、なんでこのことを言ってくれなかったんですか?」「葬儀の時に話したと思いますよ。実家は色々ありますのでホテルにしてくださいって」「いや、あれじゃ分からないですよ」「だとしても、あなたは自分でそこをボロい家だって言ってたでしょ。だから分かってるものだと思ってたわ」「ふざけないでくださいよ。こんな嫌がらせみたいなことをして、どういうつもりなんですか?」「嫌がらせなんて私はしてないわよ。そもそもそこには私たちが住む予定だったの。雨漏りもひどいし、住める状況じゃないって分かってたけどね。その家を無理やり奪い取ったのはそっちでしょ。なのにどうして私たちが悪者扱いをされないといけないの?むしろ悪いことをしたのはそっちでしょ」「なんですって?」「それに家のことなら、私じゃなくて旦那さんと話し合った方がいいんじゃない?」「この夫に伝えていいんですね」「いいに決まってるわ」「もしダメだって言ったら、黙っててくれるんですか?」「もういいです。それじゃあ」

その5分後、正彦は大地に電話をかけ、怒鳴り散らした。「兄さん、どうしてくれるんだよ。こんなところじゃまともに生活なんてできないだろう」「今更何を言ってるんだ。お前がそこに住みたいと言ったんだ。俺に怒っても意味ないだろ」「このことは知ってたんだな」「当たり前だろ。ここは修理しないと住めないよな」「だったら、俺たちがこの家を修理するのか?」「そうだよ。俺たちは業者の人たちとも話し合っていた。引っ越してすぐにでも着工してもらうはずだったが、お前らの横やりが入ったからやめたんだよ」「ちなみに、いくらかかるんだよ?」「屋根だけじゃなく他にも色々と修理するところがあると言ってたから、200万くらいになるらしい」「200万?それを俺に払えっていうのか?」「そこに住むのなら、それくらいの出費が必要ということだ」「ふざけるな。あのクソじじい。こんな不良債権を残しやがって」その言葉に、大地の堪忍袋の緒が切れた。「おい、前にも言ったよな。親父のことを悪く言うなと」「悪く言わないでどうするんだよ。こんなところさっさと潰してしまえばよかったんだ」「それじゃあお前がやってくれよ。潰すのだって金はかかるがな」「何でもかんでも金金言いやがって」「それは自分に言ってるんだろ」「は?俺が何も知らないと思ってんのか?お前が過去に何度も父さんに金をせびっていたのをな。父さんはできる限りお前に金を渡していたはずだ。それなのにお前は父さんのお見舞いにも来ず、葬儀では家を奪い取り、今度は親父の悪口か。どこまで親不幸なんだ?」「俺はちゃんと子供を産んでるんだ。一番の親不幸をしてるあんたに言われたくないね」「散々迷惑をかけといて」「うるせえな。俺は俺の好きなように生きてるだけだ。親ならそのサポートくらいしろってんだよ」「もういい。お前とは絶縁だ。お前は俺の弟でもなけりゃ、父さんの息子でもない」正彦は嘲るように笑った。「なあ、そうかよ。それは大助かりだ。あんたらみたいな家族なんて、最初からクソだったからな。絶縁してもらって清々するぜ」「その家から今すぐに出てけ」「そうさせてもらうよ」

3日後、今度はミカが私たちに会いに来た。「お姉さん、私たちこの家を出て行きますから」「そうみたいですね。できるだけ早くお願いしますね」「私たちがそっちに引っ越すことになるから」私はあえて何かを言う代わりに、ただ返した。「あら、そうなんですか。最初からこうなることは分かってたから、時間を取らせないで欲しかったです。あんなボロい家がそんなにお気に入りなんですねえ」「私も何度か行かせてもらったけど、思い出深い家ではありますし。大地にとっては家族との思い出が詰まったかけがえのないものでしょうから」ミカは嫌な笑みを浮かべて言った。「修繕費は払われるんですか?」「もちろんです。実はお父さんが入院される前から、修繕しないといけないっていう話は出ていたんです。その時からずっと夫と貯金をしていたから、問題はないんです」すると、ミカは怪しげな情報を口にした。「あんな家のために本当に無駄なお金の使い方ですよね」「それは人によるでしょ。まあでも、あそこは資産価値もあるし、そこまで無駄なお金ってわけでもなさそうですしね」「え、そうなんですか?」「今はまだ計画段階らしいけど、なんかあの近くに新幹線の通る駅ができるっていう話があるんです。それができたら一気に再開発されるみたいで、そうなるとあそこの土地は価格が跳ね上がるって話ですよ。実際に不動産屋の人たちが何度か話をしに来ましたからね」「そうなの?」「不動産屋の方たちの話では、ほぼ決定しているそうですよ」その瞬間、ミカの目つきが変わった。「だったら私たちはここに残るわ。修繕費用だって私たちが出すから」「バカなことを言わないでください。そこは私たちの土地だし、家なんですよ」私が静かに返すと、ミカは食い下がった。「今はまだ私たちの家のはずです」「違います。相続をした時点で名義は大地になってるんです。だけど、あなたたちは家族だから住ませてあげていたというだけなんですよ」「そういうことだったんですか?」「そうよ。私たちの温情で住めてたの。でも、2人で話し合った結果、あなたたちは家族ではなくなったから、そんな人たちがあそこに住むのを許すわけないでしょ。だから、さっさと出ていってもらえますか?もし出てかないようなら、今すぐに強制退去させてもいいですよ」ミカは悔しそうに唇を噛んだ。「わかりましたよ。出ていけばいいんでしょう」「早くお願いしますね」

1ヶ月後、私は正彦に最後の連絡をした。「正彦さん、1つよろしいですか?」「なんだよ。もうあんたとは無関係のはずだぞ」「そうですね。ですが、これだけはお伝えしておこうと。あなたなのかミカさんなのか、はたまた2人なのか。それは分かりませんが、実は押入れに置いてあったお父さんの骨董品がなくなっていたんです」電話の向こうで、正彦が息を呑むのが分かった。「あ、その様子だと、どうやら知らないようですね。となると、やったのはミカさんですね」「それは本当なんですか?」「ええ。こちらはちゃんと何があるのかを調べてますし、写真を撮って証拠も残してあります。だから、なくなっているのは確実です」「あいつが盗んだのか」「そうだと思いますよ。それで大地と話し合った結果、なくなった分をすぐに戻してもらえれば、警察に被害届は出さないと言っています」「待ってくれよ。戻すって、どうやって?」「売ったのなら、買い戻して我々に渡してくれればいいです」「それっていくらくらいになるんですか?」「全部合わせれば100万は確実に超えると思います」「いや、待ってくださいよ。そんなの払えるわけないでしょう」「みかさんは売ったお金を持ってるんです。払えないわけないですよ」「いや、でもきっとあいつはもう使ってますって」「だから何ですか?返すつもりはないということですか?だったら警察に被害届を出します。みかさんは警察に逮捕されることになるでしょう」「いや、それは勘弁してくださいよ。うちには子供もいるんですよ」「子供のためにも、悪いことをしたら逮捕されるというのを教えてあげるいい機会です。あなたたちのように子供がダメにならないようにね」「勘弁してくれよ。家族だろ」「家族ではありません。絶縁をしたはずです」「冷たすぎるって。親戚だからって」「大地はあなたのことをブロックしてます。電話も拒否してますから、話せませんよ」「なんでだよ。なんで見捨てるようなことをするんだよ」「甘えたことを言わないで」私は、そこで初めて、ずっと胸にしまっていたことを口にした。「あなたのことを、どれだけ大地がかばってたと思ってるの?」「かばってた?」「お父さんはね、ずっと前にあなたのことを失望すると言ってたんですよ。お金を借りて返さないことに怒ってたんです。そんな時に、大地があなたの代わりにお金を返してたんです。あなたが返済したと言ってね。そうやって、あなたとお父さんが仲違いをしないように、ずっと気を使っていたんですよ。それなのに、あなたはそんな大地をバカにして。それに、子供ができないことがそんなに悪いことなの?私だって大地だって、そのことで苦しんだわ。だからって、あなたにそんなことを言われないといけないの?」正彦の声が、初めて小さくなった。「それは……謝ります」「謝らなくていいです。とにかく、ちゃんとお父さんの大切にしてた骨董品を返してください」「また家族に戻ることはできないんですか?」「無理に決まってるでしょ。あなたはもう、私たちの血筋から外れたんですから」

その後、正彦さんは借金をして骨董品を買い戻し、私たちに返してくれました。その結果、引っ越しの初期費用などもあり、彼はさらに借金を抱えることになりました。そこから正彦さんはミカさんに働くように言ったそうですが、ミカさんは拒否したそうです。2人の仲は急速に悪くなり、最終的に離婚ということになりました。ミカさんはシングルマザーとなりましたが、実家の両親からは同居を拒まれ、結果的にワンオペで家事に育児に仕事にと奔走する日々を送ることになったのだとか。正彦さんも借金を返すためにアルバイトをいくつも掛け持ちし、肉体的にも精神的にもギリギリの生活を送っているとのことです。一方の私たちは、実家をきれいに修繕し、快適な生活を送っています。お父さんがいなくなって寂しい気持ちはありますが、お父さんが残してくれたこの家と、夫と2人で、素敵な思い出をたくさん作っていきたいと思っています。

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