「あねさん、結婚式は半年後だったわよね」「ええ、そうです。今は準備の真っただ中です」「こんなに決めなきゃいけないことがあるなんて思わなかったですよ」「式も大事だけど、仕事もちゃんと頑張ってもらいたいわね」「仕事ですか?」「そうよ。あなた、サトシと同じ代理店で働いてるんでしょ」「はい」「私はね、女だからって仕事を怠けるのは絶対にダメだと思ってるの。昔みたいに女は家庭に入ればいいなんて時代じゃない。女だってしっかりキャリアを積まなくちゃ」「確かにそうですね」「うちの息子は大手でしっかり働いてる。それに比べてあなたはどう? 大したことない会社で働いてるじゃない」「そんな言い方はやめてください。どんな会社にいるかで人の価値を決めるのは間違ってます」「だってあなた、大手に入れなかったからそんな中小企業にいるんでしょ?」「どうしてそうやって決めつけるんですか」
「私はね、サトシの妻にふさわしい結果を残しなさいって言いたかっただけよ。でもあなたは現実から目をそらすタイプだったのね。そりゃ仕事で成果も出せないわよね」「勝手なことばかり言わないでください。私は今の会社で満足してます。成果だって、言われなくても出し続けてますよ」「サトシは今、大きな仕事を取るために必死なのよ。なのにあなたは結婚式にかまけて」「私だって仕事も式も、両方きちんと納得いくものにしたいだけです。お母さんにも素敵な式だったって思ってもらいたいので」「私はそんなことより、あなたがサトシの妻にふさわしい結果を残してくれる方が嬉しいわ」「それもちゃんとやってますから」「とにかく、仕事で手を抜くことだけは絶対に許さないからね。これからもあなたのことはしっかりチェックさせてもらうわ」「そんなことは会社がやってくれてますから、結構です」
その日の夜、アカネはサトシに話しかけた。「ちょっと聞いてくれる?」「なんだよ。仕事中だって言ってるだろ。式のことは全部お前に任せてるんだから、いちいち聞いてくるなよ」「式のことに文句を言いたいわけじゃないの。今日は違うの」「じゃあなんだよ」「お母さんのことよ。ちょっとひどいの」「どうしたんだ」「私にね、あなたの嫁にふさわしくなれって言ってきたの。仕事で結果を残せって命令されたわ」「ああ、そうなんだ」「そんなのってある? 前はそんなこと言ってこなかったのに。仕事に口出しされるのは我慢できないわ」「それはお前が母さんを怒らせたからだろ」「怒らせた? そんなことしてないわよ」「同居を断っただろ。それが理由なんだよ」「それが理由なの? 最初から同居はしないって言ってたじゃない」「そうだけど、やっぱり母さんはしてほしかったんだよ。なのにお前がばっさり断るから。正直、お前の言い方も冷たかったぞ。断るにしても言い方ってもんがあるだろ」「変に期待させたらダメだと思って、しっかり断っただけよ。それに同居が前提なら、私だって結婚を考え直してたわ」「そんなに同居が嫌なのか」「嫌よ。あなたも分かってるでしょ。私は家でも仕事をするタイプなの。だから家ではできるだけ集中したいの。そのためには家の中に人が少ない方がいいって、ちゃんと説明したはずよ」「分かってるけどさ……」「あなたからお母さんに言ってよ。私を敵だと思ってるのは間違いだって説明して」「嫌だよ。めんどくさい。そういう争いに俺を巻き込まないでくれよ」「誤解を解いてくれればいいだけよ」「そんな時間はない。そっちで勝手にやってくれ。嫁と母親の争いに男が入るもんじゃないだろ」「味方はしてよ」「俺は中立だ」「何それ?」「それじゃあな。もう勝手に連絡してくるなよ。あと、俺は仕事で遅くなるから飯は一人で食ってくれ」「またなの?」「でかい仕事を取るためなんだよ。俺はお前と違って家に仕事を持ち込まないタイプだからな。どうしても帰りは遅くなるんだよ」「分かったわ」
一週間後、アカネの兄から電話がかかってきた。「おい、元気にしてるか?」「何よ、急に。別に普通に元気よ」「そう冷たくするなよ。兄貴として妹のことはいつだって心配なんだから」「この前も実家で会ったばかりじゃない」「いや、そう言うなよ。実はちょっとお願いがあって電話したんだ」「お願い? 珍しいね」「今度式をあげるって言ってただろ」「うん、そうだけど」「その話を友達にしたらさ、みんな俺たちも行って盛り上げたいって言い出したんだよ」「ちょっと待って。さすがにそれは衆目の集まる場でしょ。どうかなって思ってさ」「もちろん私も知ってる人たちだし、よくしてもらったと思ってるよ。でもね、それはちょっと式では遠慮したいな」「マジか」「その代わりに食事会を開こうよ。私だって久しぶりにみんなに会いたいし」「まあ、そうするか。式に呼ぶと人数がすごく増えちゃうからね。だからお兄ちゃんの仲間とは別にご飯を食べる会をやるの。もちろんご祝儀とかはなしでね。お返しが大変だからって言っといて」「あいつらがそれで納得するかな」「いざとなったらお兄ちゃんがきつく言えばいいでしょ」「まあ、そうだな」「とにかく式には呼ばないってことでよろしくね」「分かった。食事会をするって伝えておくわ」「お願いね」
結婚式当日。式が終わり、アカネは新郎のサトシに連絡をした。「サトシ、今どこにいるの? 早く帰ってきてよ。ご祝儀の確認とか、出席者へのお礼とか、やることが山積みなんだから」「アカネ……俺はもうそっちには帰らないよ」「は? 何を言ってるの?」「式が終わったばかりで悪いけど、やっぱり離婚してほしい」「何をわけのわからないことを言ってるの? こんなタイミングで離婚なんてあるわけないでしょ」「ごめんな。でもやっぱり無理だって思ったんだ」「どうしてよ? これからこの新居で二人で幸せに暮らすんじゃなかったの?」「お前の態度に冷めたんだ。もう顔も見たくない」「何それ?」「母さんに対して冷たかっただろ。あんなことをする奴と結婚生活なんて続けられるわけがないんだよ」「あの人が式の前でも仕事のことを聞いてきたから、今は結婚式に集中させてほしいって言っただけよ。それの何が悪いの?」「俺たちのことを心配して聞いてくれたんだろうが」「いいえ、全然違う。あの人は世間体を気にしてただけよ。私に嫌味を言いたかっただけ。自分の息子の嫁はエリート社員ですって周りに自慢したいだけの人よ。結局、自分のことしか考えてないの。同居を断られたから嫌がらせをしてくるような人よ」「人の親に向かってよくそんなことが言えるな」「それだけこっちは色々やられてるのよ。あなたに言ってないこともたくさんあるんだから」「言えばいいだろ」「『関わりたくない』って言ってきたのはそっちでしょ。だから私はずっと我慢してきたの。なのに式場でもあんなことを言って、うちの親も来てるのに何のお構いなしに来たから注意しただけよ。それで嫌われるなんてありえないわ」「お前のそういう気の強いところも、俺はもう受け入れられないんだよ。マジでとんでもない地雷女に引っかかったぜ」「地雷? 私がそうなの?」「お前と一緒にいても俺には何のメリットもないんだよ。だから離婚するんだ」「信じられない。その程度の気持ちならプロポーズなんてしないでよ」「お前の本性を知らなかったんだから仕方ないだろ。もうちょっと融通の効く性格だと思ってたよ。こっちは騙された気分だ」「私が悪いって言うの?」「そうだろうが」「もういいわ。話にならないから。だったら離婚でいいわよ」「そっちに離婚届を送るから、サインして役所に出しておいてくれ」「本当にいいのね」「ああ、マジで頼む」
十分後、アカネのスマホに元義母から連絡が来た。「離婚を突きつけられたみたいね。これもあなたの差し金かしら?」「いいえ。サトシが自分で決めたことよ」「でも式の当日に離婚するなんて、ありえないことよ。ギネスに申請してみたら? 式からの最短離婚記録として」「そんなことをわざわざするつもりはありませんよ。不名誉すぎますから」「こちらとしては離婚は喜ばしいことじゃないけど、あなたと縁が切れるのは嬉しいと思ってるわ。これでもうあなたの嫌味を聞かなくて済むからね」「私はただ真実を伝えてただけよ。あなたからしたら耳が痛い話だったかもしれないけどね」「私が聞く限り、真実なんて一つもありませんでしたよ。偏った考えを押し付けられてただけです」「もうこんな話をするのは不毛ね」「確かにそうですね。これからサトシはとっても幸せな人生を歩むことになるわ。お願いだから邪魔しないでね」「そんなことするわけないでしょう」
二週間後、今度はサトシから連絡が来た。「ちょっといいかしら」「はあ? なんだよ。もう離婚は成立してるんだぞ。俺たちは何の関係もないんだ。なのに馴れ馴れしく連絡してくんなよ」「こっちだってあんたと連絡を取りたくて取ってるわけじゃないわ。でもせざるを得ない状況になったの」「なんだよ、それ」「あんたに慰謝料を請求しようと思って」「慰謝料?」「離婚の原因を作ったのはあんただから、慰謝料を払ってもらいたいのよ」「何をわけのわからないことを言ってるんだ。俺たちは合意の上で離婚したんだぞ。どっちが悪いとかそういう問題じゃない。言い出したのは俺かもしれないけど、お前も納得したんだからな。俺に構ってほしいなら他を当たれ」「そんなことしないわよ。事実があったから、それについて請求するだけよ。あんた、私以外に女を作ってたみたいね」「は?」「正直、ちょっと怪しいとは思ってたのよ。仕事にかこつけて全然家に帰ってこなかったから。でも忙しくて調べる気力もなかったから、そのままにしてたの。証拠もないまま離婚になっちゃったけどね。そしたら有力な証拠が向こうからやってきたのよ」「どういうことだ」「あんたの浮気相手の子って、ユカって言うんだってね」「何のことだかさっぱり分からねえな」「もうそういう言い訳もごまかしもいらないわよ。浮気してたって証言してくれたのは、そのユカって子なんだから。三日前に突然ユカさんから連絡があったのよ。あんたの携帯を使って私のLINEを手に入れたみたい。それであんたとどうやって会ってたかとか、自分が嫁にふさわしいとか、自慢げに送ってきたわ。あのバカ、何を血迷ったのか、勝ち誇った感じでマウントを取ってきたのよ。私としては不倫の証拠をペラペラ喋ってくれてありがたかったけどね。会社の後輩さんなんだってね。結婚もするって言ってたけど、本当なの?」「いや、それは……」「まあ、おめでとうって言っておくわ。でもその前に、私への慰謝料の支払いはきっちりやってもらうからね」「ちょっと待ってくれよ。いきなりそんなこと言われてもさ」「私はあんたからいきなり離婚を申し出られても、ちゃんと対応してあげたでしょ。だったら慰謝料くらいさっさと払ってよ」
三日後、今度はアカネの兄がサトシの家を訪ねた。「お前、とんでもないことをしてくれたな」「お兄さん、どうしたんですか」「お前が何をしたか分かってるから来たんだよ。どうしても一言言わせてもらいたくてな」「これは夫婦の問題ですよ。いくらお兄さんでも口出しは無しです」「人の妹を騙しておいて、他に女を作ってたくせに、偉そうなことを言ってくれるんだな」「色々あったんですよ。母とアカネの仲が悪くて、俺はその間に挟まれて苦しかったんです。そんな時に俺に優しくしてくれたのがユカだったんです。見た目も可愛いし、好きだって言ってくれた。そう言ってくれるのはユカしかいませんでした。俺だって不倫したくてしたわけじゃない。あの時の俺には逃げ場が必要だったんです。じゃないと精神がどうにかなりそうで……」「ふざけたことを抜かすな。お前はアカネが困ってる時に、平気で見捨ててたじゃねえか。何が間に挟まれてたんだ。関わらないように逃げてたくせに。適当なことを言ってんじゃねえぞ」「そもそもアカネが同居を断らなかったら、こんなことにはならなかったんです。最初からお前が同居する可能性があるって言っておけば、揉め事すら起きなかったんだよ」「お前が説明をしなかったことが全ての原因だ。人のせいにするな」「もう終わったことですよ」「まあそうだな。でも本当に終わらせるためには、お前は落とし前をつけないといけねえよな」「落とし前?」「慰謝料だよ。聞くところによると、お前は支払いを渋ってるらしいな」「アカネに余計なことを言ったからですよ。あのせいで金もないし、払えないから無理だと言ってるだけです」「そんな理屈が通ると思うなよ。大人なら責任を取れ」「俺は何も悪くないのに、何で金を払わないといけないんだよ」「てめえ逆切れか。これ以上俺を刺激しないでもらえますか? 俺は一度切れたら手がつけられないんですよ」「お前、アカネに手を出すってのか?」「このままだとそうなりますよ」「分かった。今からお前の家に行くわ。俺の仲間を連れてな。アカネに手を出したらどうなるか、分からせてやるよ」「あんた、ヤンキーだったのかよ」「安心しろ。大人数でやるような卑怯な真似はしねえ。あくまでタイマンでやってやる。ただ俺も一度切れたら止まらないからな。間に入ってくれる仲間が必要なんだよ。そいつらはお前のセーフティネットになってくれるからな」「もしかして、お兄さんは本当にヤンキーだったんですか?」「ああ、そうだよ。喧嘩で負けたことはないって感じだな。まあ、こんなの何の自慢にもならねえ。でも妹を守るためなら、俺は何でもやるぞ。お前にその覚悟があるのか?」「いや、そういうわけじゃなくて……」「喧嘩する度胸もねえのなら、俺を刺激すんなよ。こっちは家族のためなら何でもやる覚悟があるんだからな」「すみません。もうこんなことは言いません。慰謝料についてもきちんと話し合いをします。だから勘弁してください」「約束だぞ。必ず慰謝料を払え。それと、アカネに変なことをしようとするな」「分かりました」「あと二度と俺の前に現れるな。お前のために言ってんだ。痛い思いしたくないだろ」
一週間後、今度は元義母がアカネに頭を下げに来た。「アカネさん、本当にごめんなさい。うちの息子があなたに不快な思いをさせてしまって」「え、何ですか?」「どうしてもあなたに謝りたくて来たのよ」「別に、あなたに謝ってもらいたいとは思ってませんけど」「でもそうしないと私の気が収まらないのよ」「ああ、そうですか。じゃあ謝罪の言葉を聞いたので、もう終わりでいいですね」「あのね、慰謝料のことなんだけど、ちょっとだけ少なくしてくれないかしら」「やっぱりそういうことですか。お義母さんも、サトシに頼まれたんでしょ」「違うの。本当にお金に困ってるのよ」「どういうことですか?」「実は結婚するにあたって、ユカさんが我が家に住むことになったのよ」「良かったですね。念願の同居じゃないですか」「全然良くないの。突然仕事をやめてね、もうわがまま放題なのよ」「そうなんですか」「こんなに常識がない子だとは思わなかった。私もサトシも、正直お手上げ状態なのよ」「厄介そうな子だなとは思いましたけど、まさかそこまでとは」「もう金使いも荒くってね。勝手にカードで色々買っては、私たちに払えって要求してくるのよ」「無視すればいいじゃないですか」「無視したら暴れて手がつけられないの。それでどんどんお金がなくなってるのよ。だから私に減額をお願いしろって言われたのね」「無理に決まってるでしょ。それに、あなたにも悪いところがありますよ。私、ユカさんとサトシの不倫のことを知ってたでしょ? 全部、あなたから聞いてますからね。大手に勤める自分の息子が結婚できるって、嬉しくて仕方なかったみたいじゃないですか」「まさかこんな人だとは思わなかったのよ」「そんなの知りませんよ。少なくともあなたは、内面のことなんて何も話してなかったでしょ。エリートであればそれでいいって言ってたんですから。それに、話を聞く限り私はお似合いだと思いますけどね」「どこがよ」「自分勝手でわがままなところなんて、サトシとそっくりじゃないですか。本当にサトシにふさわしいお嫁さんだと思いますから、どうか皆さんでお幸せになってくださいね。もちろん慰謝料はしっかり払ってもらいますけど」
さらに一週間後、今度はサトシからLINEが来た。「やってくれたな」「あら? 何の連絡? 慰謝料とか手続き系の話以外はしないって約束だったはずよ」「お前と一緒だよ。せざるを得ない状況ってやつだ」「何かあったの?」「俺が長年準備してたクライアントとの仕事を、お前に奪われたんだよ」「ああ、あの案件ね」「俺が時間をかけて準備してたのは知ってたはずだ。よくもこんなことができたな」「別にいいでしょ。この業界、仕事は取り合いなんだから。文句を言われる筋合いはないわ」「最低の嫌がらせだな。俺が頑張ってた仕事を奪って、気分がいいのか?」「勘違いしないでよ。こっちはあんたが頑張ってる仕事だから取らないように遠慮してたのよ。そもそもこの仕事はコンペで、向こう側に選ばれないともらえないの。私も参加しないかって誘われてたの。でもあなたが頑張ってるのを知ってたから、わざと出品しないようにしてたの。夫から仕事を奪うなんてしない方がいいと思ったからね。でもあんたとはもう夫でも何でもなくなった。だから遠慮なく自分の作品を出させてもらっただけよ。それに文句を言われる筋合いなんてないわ」「出世がかかってたんだぞ」「そんなの知らないわ。だったら採用されるように質のいいものを作ればよかったじゃない。それができなかったのを私のせいにするわけ?」「俺には金が必要なんだよ。お前への慰謝料の支払いだってあるし、ユカはバカみたいに金を使いまくるし」「だったら他の仕事で頑張りなさいよ。仕事で結果を出せば出世だってできるでしょ」「簡単に言うなよ」「確かにそうね。大きな仕事は基本的に私がやっちゃってるからね。あんたが必要とされることはないでしょうね」「調子に乗りやがって。俺はお前のそういう偉そうなところが嫌いだったんだよ。仕事ができることを鼻にかけやがって」「出会った時は、そんな私のことを好きだって言ってくれてたのにね。いつの間にか百八十度変わっちゃったみたいね」「お前が変わったからだろ」「変わったかもね。でもあんたも変わったわよ。お互い変わったんだから、そこはチャラでしょ。というか、変化を楽しめないような関係なら、どっちにしても長くは続かなかったわ。そもそもあんたは私に何を求めてたの? どうして結婚しようと思ったのよ。どうせ深く考えずに、その場の思いつきで結婚しようと思っただけでしょ。同居のこととか、後からコロコロ考えが変わってるから分かるわ。あんたは結局、何にも考えてないのよ。そんな無責任な人間だから、家庭がめちゃくちゃになってるのよ」「俺が悪いって言うのかよ」「そう言ってるの、伝わってないわね。それと、お母さんに肩書きばっかり求めてくるのは見当違いだって言っといてくれる? 他の業界がどうか知らないけど、広告業界において肩書きとか役職は大した意味がないのよ。一番大事なのは、実力とセンスよ」「なあ、助けてくれよ。もう俺は限界なんだ」「何が?」「母さんとユカの関係がもう最悪でさ。最悪のことが起きるんじゃないかと思ってるんだ」「私には何もできないわよ」「相談に乗ってくれるだけでいいんだ。頼むから、俺の話を聞いてくれよ」「いやよ。私を巻き込まないでくれる? 私は中立だから。この『中立』って言葉の意味、あんたには分かるでしょ。無関心ってことよ。自分で何とかしなさい」
その後、サトシは他の仕事で成果を上げようとしたが、まったく結果が出なかった。社内での立場はどんどん悪くなり、家庭でのストレスも重なって、同僚や部下に厳しい言葉や嫌みを言うようになった。結局それが問題になって、パワハラで解雇されてしまった。ほぼ同時期に、ユカと元義母はお金の使い道で激しい言い争いになり、それが大喧嘩に発展して警察沙汰になった。その後、話し合いを経てサトシはユカと離婚が成立した。しかし、重なるストレスのせいで元義母は体調を崩し、今は通院と薬を飲んで生活している。昔のような元気さは、もう見る影もない。すべてを失ったサトシは、待ち伏せしてアカネに助けを求めてきた。だがその時、たまたま近くに兄がいてくれて、みんなでサトシを撃退してくれた。サトシは恐怖のあまり泣きながらその場から逃げ出し、それ以来二度とアカネの前に現れることはなかった。一方のアカネは、今も仕事を続けている。一人暮らしになったことでより仕事に集中できるようになり、どんどん結果を残せるようになった。将来再婚するかどうかは、今はまだ考えられない。もし結婚を考えたとしても、外側だけを見ずに、相手の本質をしっかり見極めて決断したいと思っている。
