朝の静かなリビングで、コーヒーを飲みながらマイホームのカタログを眺めていた時、玄関のチャイムが鳴った。夫の姉が突然現れて、義母が言ってたわよ、「みんなで一緒に住むのもいいんじゃないか」って。その一言から、私たちの夢が勝手に乗っ取られていった。義両親は土地を勝手に契約し、義姉は「八千万円の支払いをどうしろって言うのよ!助けて!」と電話で叫んだ。でも夫は冷静に言った。「契約書に僕たちの名前もサイ…

朝の静かなリビングで、コーヒーを飲みながらマイホームのカタログを眺めていた時、玄関のチャイムが鳴った。夫の姉が突然現れて、義母が言ってたわよ、「みんなで一緒に住むのもいいんじゃないか」って。その一言から、私たちの夢が勝手に乗っ取られていった。義両親は土地を勝手に契約し、義姉は「八千万円の支払いをどうしろって言うのよ!助けて!」と電話で叫んだ。でも夫は冷静に言った。「契約書に僕たちの名前もサイ...

朝のリビングに、コーヒーメーカーの音が静かに響いていた。まだリモートワークの開始時間までは少し余裕がある。私はカップを片手に、テーブルの引き出しからハウスメーカーのカタログを取り出した。先週末、夫の淳と二人で住宅展示場を巡って集めたものだ。

結婚して三年。二人で共働きをしながら、少しずつ貯金を重ねてきた。その努力の甲斐あって、ついにマイホームの頭金を用意できるところまできた。夢に見た一軒家が、ようやく手の届く場所にある。ページをめくりながら、私は心の中で未来の光景を思い描いていた。

広くて日当たりのいいリビング。大きな窓から陽射しが差し込み、木漏れ日が床に映る。休日の朝、私たち夫婦と子供たちがダイニングテーブルを囲む。庭では小さな子供たちが走り回っている。淳はいつものように家事を手伝いながら笑っている。そんな光景が、ありありと浮かんでくる。私の夢は、庭のある一軒家に子供が二人。淳と二人で家を建て、幸せな家庭を築くことだった。

あとどの家にするか、まだ迷うな。私はカタログを広げたままコーヒーを一口飲んだ。温かいコーヒーが喉を通るたび、小さな夢が現実味を帯びてくるようだ。次の休みにもう一度展示場へ行って、イメージを固めよう。そう考えながら、私は未来への期待を膨らませていた。頭金の準備も、ローンの見積もりも、引っ越しの計画も、すべて二人で力を合わせて進めてきた。一歩一歩、夢のマイホームへと近づいている実感があった。

しかし、その時だった。突然、玄関のチャイムが鳴り響いた。こんな朝早くに誰だろう。驚きながらも、私はカタログをテーブルに置いて立ち上がった。ドアを開けると、そこには義姉の薪が立っていた。

「ミクさん、お久しぶり。近くまで来たから、寄らせてもらっちゃった」

突然の訪問に戸惑ったが、夫の姉を無碍にはできない。私は何とか笑顔を作り、彼女を招き入れた。薪は軽やかな足取りでリビングへ進み、まるで自分の家のように周囲を見渡している。彼女の訪問はいつも突然で、事前の連絡もない。私たちの生活に勝手に入り込んでくるあの態度が、私は前から少し苦手だった。

「今日はお休みですか?」
「うん。今日は午後からの出勤なの。それで時間があったから」

私が何か答える前に、薪の目がテーブルの上の不動産カタログに留まった。

「ねえ、聞いたわよ。新しい家を建てるんですってね」

薪はカタログを手に取りながら、楽しそうに言った。どうやらこれが本題らしい。私は内心ため息をつきながら答えた。

「そうなんです。まだ考えている段階ですけど」

だが薪の目は輝き始め、カタログをめくりながら次々に話を始める。

「素敵ね、この家。この玄関なんてどう? 淳も気に入りそうだわ。ああ、でもキッチンがちょっと狭いかしら。このリビングは広くていいわね」

「えっと、まだ場所も決まってなくて……」

私が言いかけると、薪は遮るように話を続けた。

「でもね、お母さんが言ってたわ。みんなで一緒に住むのもいいんじゃないかって」

え、お母さんも? その一言に、私はどきりとした。義母も巻き込んで、義実家との同居を計画しているのだろうか。義母の意向が絡むと、物事はいつも厄介になる。それでも私は冷静を装い、「まだ私たち、具体的には何も決まっていないんですけど」と答えた。だが薪の勢いは止まらない。勝手に家の内装から間取り、設備に至るまで、次々に注文をつけていく。

「この間取りだと、お母さんの部屋が狭すぎるわね。もう少し広い方がいいかも」

どんどんエスカレートしていく薪の提案に、私は心の中でため息をつくしかなかった。

その日、淳が仕事から帰ってくると、私はリビングで彼を迎えた。いつものように「お帰り」と笑顔を見せようとしたが、どうしても気持ちが沈んでしまう。私の様子がおかしいことに気づいた淳が、心配そうな顔で尋ねてきた。

「どうした? 何かあったのか?」

私は薪が訪ねてきたことを説明した。突然の訪問。カタログを見て勝手に同居話を進める姿勢。そして、その話を聞いた義母や義父まで、私たちと一緒に住む家を探すつもりでいるということ。淳は黙って聞いていたが、次第に眉をひそめ、険しい表情になっていった。

「やっぱり……」
「どうしたの?」

不安になって尋ねると、淳は少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。

「実はさ、俺、ずっと思っていたんだ。うちの家族って、どこかおかしいよなって」

その言葉に、私は驚いて淳の顔をじっと見つめた。これまで義両親について不満を口にしたことのなかった淳が、そんなことを言い出すとは思ってもみなかった。

「どういうこと?」

さらに問いかけると、淳は迷ったような表情を浮かべたが、やがて覚悟を決めたように深く息を吸い込んだ。そして話し始めたのは、子供の頃から家族からひどい扱いを受けてきたこと。家族の中でいつも薪が一番大事にされていたこと。薪が何か欲しいと言えば、親は何でも買い与えて甘やかしてきたこと。彼女が失敗しても怒られることはなかったのに、淳が何かお願いしたり失敗したりすると、いつも怒られてばかりだったこと。

「それでも俺は、自分なりに家族に認められたくて、必死に努力してきた。でも両親にとって、俺はどうでもいい子供だったんだ。姉さんが欲しいものは全部与えられて、俺には何も残らない。それが当たり前だって思ってた」

淳の言葉に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。そんな思いを抱えながら、彼は私と一緒にここまでやってきたのか。そう考えると、悲しくてたまらなかった。

「淳、そんなことがあったなら、どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」
「言ったところで、どうしようもないと思ってたんだ。俺自身も家族の一員だし、彼らの期待に応えようとずっと思ってたから。でも今日の話を聞いて、確信したよ。もう限界だって」

「限界?」

私の問いかけに、淳はうなずいた。

「そう。俺たちの家なのに、勝手に同居話を進めるなんて信じられない。もう俺たちの生活を好き勝手にされるのはごめんだ。これからは、自分たちのために動かなきゃいけないと思うんだ」

決意のこもった淳の声に、私は強くうなずいた。彼がこれまでどれだけ家族に抑圧されてきたのかを知り、今度は私が彼のそばで一緒に戦いたいと思った。

「どうすればいい? どうすれば私たちの生活を守れる?」

私たちは二人で話し合い、知恵を絞った。

「そうだな。まずは彼らと俺たちの生活は別だってことを、思い知らせるんだ。振り回されて嫌な思いをするのは、これで終わりにする」

その言葉に、私は勇気づけられた。そして、これから訪れるであろう義実家との対決に備えて、二人で力を合わせる決意を固めた。

週末になり、私と淳は住宅展示場へ行く準備をしていた。しかし、その時玄関のインターホンが鳴り響いた。アポイントメントなしの来客といえば、決まって義実家の人たちだ。私は重たい気持ちで玄関を開けた。案の定、義母の恵子と義父の良雄が立っていた。義実家の面々は「どうぞ」と言わないうちから、ずかずかと家に上がり込み、当然のようにソファーに座り込んだ。

「薪から聞いたけど、いい家を探しているんですって。お父さんと一緒に住めるような家がいいわね」

義母まで巻き込まれ、私の心は一層重くなった。

「そうだな。庭付きでリビングが広い家がいいな」

義父までもが、自分勝手に夢を語り始める。そして挙げ句の果てには、「近所にいい土地を見つけたから、そこにしたらいいんじゃないか」とまで言い出す始末だ。黙って聞いていられなくなった淳が、言い返した。

「ちょっと、父さんも母さんも、勝手に話を進めないでくれない? 俺らにも計画ってものがあるんだよ」

共働きの私たちに、予算が無限にあるわけじゃない。そもそも義実家の面々と同居するなんて、一言も言っていないのに。どうしてこんなことになっているのだろう。だが義両親は、こちらの言い分を全く聞き入れようとしない。

「ほら、早くしないと、あんなにいい土地、売れちゃうわよ」
「そうだな。手付け金を払っておいた方がいいぞ」

二人して勝手なことばかり言い出す。どうしたらいいかわからず、私は助けを求めるように淳を見つめた。淳は少し考え込んだ後、何か思いついたように顔を上げた。

「今は仕事が忙しくて、土地を見に行く暇なんてないよ。そっちで勝手にやってくれ」

その言葉に、義両親は驚いたような顔をしたが、すぐにお互いを見て笑い合った。

「じゃあ、こっちで勝手に決めさせてもらうからな」

義父が楽しそうに言った。

それから数日、私たちは義両親の動きを確認しながら対策を練った。義両親は早速その土地を見に行き、「あの土地、とてもいい場所よ」と電話で報告してきた。それを聞いた淳は、穏やかな口調で答えた。

「もしそちらでいいと思うなら、その土地で好きな家を立ててもらっても構わないよ」

義母と義父はますます乗り気になり、「それじゃあ、早速手付け金を払うわ」と息巻いた。私たちはその様子を冷静に見守った。そう、この時から私たちの反撃は始まっていたのだ。

しばらくして、義両親は本当に手付け金を支払い、土地を購入する手続きを進め始めた。休みの日に呼び出された私たちは、テーブルの上に広げられた土地の売買契約書を見せられた。売買契約書の買主の欄には、義父の名前が記入されていた。

「なかなかの立地だからな。少し高いが、これから値上がりもするだろう。いい買い物だった。お前たちも、いずれは相続するんだし、文句はないよな」

義父は満足そうにふんぞり返った。そして義母と薪はパンフレットを広げて、「やっぱりリビングはもっと広くしたい」とか「キッチンはアイランド型がいい」とか「最近のトレンドだし、インテリアにもこだわりたい」などと勝手なことばかり言い、次々にオプションをつけていく。義実家の欲は止まることを知らない。果ては「バスルームにはジェットバスを入れる」とか「エアコンも最新型を」などと注文を出していく。私は呆然としながらその提案を聞いていた。すでに話がどんどん膨らんでいくのを感じていたが、義実家の勢いは止まらない。まるでお金がどこかから湧いてくるような話しぶりだ。どうして家を建てる話を、こんな風に勝手に進めてしまうのだろう。計画性のなさに、戸惑いを隠せない。

「あの、資金計画は大丈夫なんですか?」

さすがに心配になり、私は聞いてみた。しかし義母は気にする様子もなく、けらけらと笑いながら答えた。

「何言ってるの? あんたたち、まだ若いんだから、どうにでもなるじゃない」

義両親は、私たちにローンを払わせる気満々だ。あまりの暴虐無人な様子に、私は言葉を失った。

「不動産関係の借金は、いずれ資産になるんだから、気にしないでいいのよ。だから大丈夫」

そう言って薪は手をひらひらさせる。義実家の今後が心配だったが、薪が大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだろう。私はその言葉を信じて、淳と一緒に義実家を後にした。

「あなたたち、どこにいるの?」

突然のLINEに、私たちの計画が漏れたのかと一瞬心配になった。しかし淳の表情は、どこか余裕を感じさせた。私は彼の横顔を見つめながら、心を落ち着ける。しばらくすると、淳のスマホが鳴り響いた。淳がスマホをタップすると、電話越しに薪の怒声が聞こえてくる。

「あんたたち、どこに行ったのよ! アパートも明け渡してるじゃない!」

その声には焦りと苛立ちが混ざり合っていた。私は少しだけ心の中で笑いをこらえた。計画がうまくいった証拠だ。

「どこって? 仕事の都合で、北海道に転勤になったんだよ」

淳が淡々と答える。そう、私たちは義実家から離れるため、着々と準備を進めていたのだ。淳は会社に転勤願いを出し、リモートワークの私は問題なくついていくことができた。義実家に振り回される生活を終わらせるため、遠く離れた土地へ移住する決意を固めていたのだ。

「じゃあ、建てる家はどうするのよ! もう契約しちゃったんだから!」

薪の声が電話越しに響く。淳はにやりと笑い、優しくも冷静な声で答えた。

「そうだね。家を持つのは、素晴らしいことだと思うよ。父さんと母さんが業者と契約したんだろう? でも僕たちは、一言も同居するとも、ローンを払うとも言っていない。それに契約書に僕たちの名前もサインもないよね。だから、今回の新築の件は、僕たちには全く関係ない話だ」

「八千万円の支払いをどうしろって言うのよ! そんなの無理よ! 助けて!」

電話の向こうで薪の取り乱した声が聞こえる。その背景には、義父母の慌てふためく声も重なっていた。だが淳は動じることなく続けた。

「ミクが心配して聞いた時、不動産は資産になるって、姉さんが言ってたよね。だから、その資産を失わないように、頑張って支払えばいいんじゃないかな。まあ、もう僕たちが会うこともなくなるだろうから、さよなら」

そう言って、淳は静かに電話を切った。その瞬間、部屋の中に静寂が訪れ、私は思わず深呼吸をした。淳の表情は、義実家の呪縛から解放されたように、晴れやかなものだった。

「やっと自由になれたね」

私がそう言うと、淳は微笑んでうなずいた。

私たちは新しい土地で、新しい生活を始めることを決めた。自然に囲まれた広々とした場所で、私たちだけの穏やかな日々が待っている。義実家の干渉から解放され、自分たちのペースで歩んでいける未来がある。家を建てる夢は一度潰れかけたけれど、今はそれ以上に素晴らしいものが手に入ったと感じる。私たちは一緒に笑いながら、新しい住まいでの生活を楽しみにしていた。これからは、私たちのペースで進んでいく。そして、幸せな家庭を築いていくのだ。心からの安堵と希望に満ちた新しい日々が始まる。これでもう、義実家に振り回されることはない。私たちは新しい地で、新しい未来を切り開いていく。

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