「一緒に住もうって誘ってやったのに」――母の葬儀の日、父は弔問客の前でそう言った。十年以上ぶりに会った父は、母が亡くなった悲しみよりも再会の喜びが勝っているようで、私に笑顔で話しかけ続けた。「いやあ、大きくなったな、綾」葬儀の最中だというのに。私は夫と二人で暮らしている。それなのに父は「四人で暮らさないか」と提案し、断ると母の悪口を延々と並べ始めた。母が死んだばかりの日に。ようやく日常が戻り…

「一緒に住もうって誘ってやったのに」――母の葬儀の日、父は弔問客の前でそう言った。十年以上ぶりに会った父は、母が亡くなった悲しみよりも再会の喜びが勝っているようで、私に笑顔で話しかけ続けた。「いやあ、大きくなったな、綾」葬儀の最中だというのに。私は夫と二人で暮らしている。それなのに父は「四人で暮らさないか」と提案し、断ると母の悪口を延々と並べ始めた。母が死んだばかりの日に。ようやく日常が戻り...

一緒に住もうって誘ってやったのに――父はあの日、母の葬儀でそう言った。まるで私が何か恩を仇で返したかのような言い草だった。両親が離婚してから十年以上が経ち、私は母と暮らし、弟の陸は父に引き取られた。それから一度も会っていなかった父を、母の葬儀に呼んだこと自体が間違いだったのかもしれない。

その葬儀の日、父は弔問客の前で笑顔を絶やさなかった。母が亡くなった悲しみよりも、十年ぶりに私と再会できた喜びのほうが勝っているようだった。

「いやあ、大きくなったな、綾。お前とまた会えて嬉しいよ」

葬儀の最中にまで話しかけてくる父に、私は軽く窘めた。

「父さん、今日は母さんの葬儀なんだよ」

「そんなの分かってるよ」

父は面倒くさそうにそう返すだけで、それからもずっと私に話しかけ続けた。葬儀の後の食事会で、父はとんでもないことを言い出した。

「お前も母さんがいなくなって寂しいだろう。そうだ、四人で暮らさないか」

私はすでに夫と結婚している。隣には夫が座っている。それなのにこの人は何を言っているのだろう。私ははっきりと断った。

「今は夫と二人で楽しく暮らしているし、父さんに面倒を見てもらう必要はない」

夫も私の困惑に気づいて、そっと助け舟を出してくれた。

「僕が一緒にいるから大丈夫です」

すると途端に父は機嫌を悪くして、母の悪口を言い始めた。

「何なんだよ。せっかく俺が一緒に住もうって誘ってやったのに。きっと母さんと一緒に暮らしていたから、それが染みついて抜けないんだろうな。だから綾は俺と暮らすべきだって、あれほど言っていたのに」

まるで母が私に悪い影響を与えたかのような言いようだった。母の葬儀が終わったばかりだというのに、父の口からは悪態ばかりが飛び出す。あいつはこの世からいなくなって良かった、あいつの何もかもが気に食わなかった、と。離婚のとき、二人を引き取ろうとしたのに母が邪魔したせいでできなかった、とすべてを母のせいにして怒りを吐き出し続けた。

「いい加減にしろよ」

それを止めたのは弟の陸だった。

「母さんと一緒に暮らしていた姉さんのことも考えろよ。母さんが亡くなったばっかりのときに、母さんの悪口なんか聞きたいはずないだろう」

陸の言葉でようやく父の暴言は止まった。離婚のとき、父が陸を連れて行こうとしたとき、陸は「いい加減にしないと俺も母さんの方に行くぞ」と言って、私を思って犠牲になってくれたのだ。それから陸は私と夫に頭を下げて、父を引きずるようにして連れ帰った。

それから一ヶ月ほど、私は夫との日常に戻っていた。母が亡くなったことに加えて父の葬儀での振る舞いで精神的に参っていたけれど、夫がずっと寄り添ってくれて、少しずつ元気を取り戻していった。夫は父のことにはほとんど触れず、ただただ私を支えてくれた。改めてこの人と結婚して本当に良かったと思える日々だった。

そしてようやく以前のような日常の感覚が戻ってきたとき、私は奈落の底へ突き落とされた。夫が母と同じように、夜間の見通しの悪い場所で車に引かれて亡くなったのだ。

わずか一ヶ月で、私にとって大切な二人を続けて失った。私は呆然とするばかりで、夫の親族が葬儀の準備をすべてやってくれたらしかった。記憶がほとんどない。気がついたら葬儀に出席していて、そこに父もいた。そのことで現実感を取り戻したと言ってもよかった。

葬儀の後、母のときと同じように食事会があった。父はそこでも満面の笑顔で言った。

「一人になってしまったな。それなら俺たちと一緒に暮らそう」

またもやデリカシーのない言葉だった。夫を亡くした喪失感よりも、父への怒りのほうが大きくなっていた。おそらくその怒りが顔に表れていたのだろう。父は私の表情を見て、不愉快そうな顔をした。

「なんだその顔は。俺はお前一人だと悲しいだろうと思って、一緒に暮らそうって言ってやってるんだ。全くこっちの気も知らないで。これだけ気を使っているのに、何が気に食わないって言うんだ」

私からすればただのお節介でしかなく、そんな恩着せがましいことを言われても不愉快でしかなかった。夫の親族が周りにいるのに、父は自分のことしか考えていない。私は本気で腹が立って、叫んでいた。

「もう帰って。はっきり言ってやるけど迷惑なのよ。今すぐにここから出ていって」

父はそれに頭に来たらしく、せっかく来てやったのに一体何様のつもりだと暴れ始めた。テーブルの寿司をひっくり返し、椅子を蹴ってやりたい放題だった。夫の親族がなんとか父を抑えてくれて、私はその場を抜け出そうと移動していた。すると陸が私のそばにそっと近づいてきて、ささやくように言った。

「このままこの店を出て逃げよう」

陸の言葉の調子は、あまりに切迫していた。私はその顔をまじまじと見た。

「これを聞いてくれれば分かるよ」

そう言って陸はスマホで音声を流し始めた。私はどういうことだろうと思っていたけれど、その内容を把握した途端、全身の血が引いていくのが分かった。それは父が夫をある場所に呼び出したときの音声だった。そしてその場所は、夫が交通事故に遭った場所から五十メートルも離れていなかった。

「あんたは地獄で永遠に苦しむべきだよ」

その音声が何を示しているのか。なぜ陸がこんなにも焦って逃げようと言ったのか。すべてを悟って、私は恐ろしさと怒りを同時に抱えた。

陸は家にいるのは危険だからとビジネスホテルに移動しようと言い、私は黙って頷いた。ホテルの部屋に着いた後、陸は自分が体験したことを話し出した。父と夫の電話での不穏な会話に気づき、すぐに録音を開始したらしい。それから父を尾行すると、父と夫は待ち合わせ場所から三十分ほどで出てきて、二人で歩き出した。多少距離があったので声は聞こえなかったけれど、二人は明らかに口喧嘩をしている雰囲気で、たまに大きな声の一部が陸にも聞こえてきたという。それから曲がり角で二人が見えなくなったので、陸が小走りで角を曲がったとき、父が夫を車道に突き飛ばす瞬間を目の当たりにしたのだ。

「いくら父さんが凶暴だと言っても、そんなことをするとは信じたくなかった。でも自分が見た事実を見逃すことなんてできなかった。すぐに警察に通報して、今は捜査中だよ」

「警察がすぐに捕まえてくれると思ったから、まさか葬儀に出席するなんて思わなかった。証拠を集めるのに手間取ってるのかも。とても見通しの悪い場所で、目撃者は俺しかいなかったと思うから」

私は夫をあの世に送ったはずの父が、堂々と夫の葬儀にやってきたことに対して、本気で吐き気を覚えた。一体どの面を下げて葬儀に来られたのだろう。しかもそこで、私と一緒に暮らさないかと笑顔で言っていたのだ。あまりに常識を逸した言動ばかりで、陸の話を聞いている間、私は血が凍るような思いを抱き続けた。

「大丈夫? そりゃ顔色も悪くなるよな、この話」

「大丈夫」

私はそう言って、目の前にあった水を一気に飲み干した。それから陸は、実はという感じで、母の葬儀のときに私が席を外している間、父と夫と陸の三人になったときの会話について教えてくれた。私がいないのをいいことに、父は夫に職業や家柄、夫の両親のことについてしつこく質問を続けていたらしい。正直で真面目な夫は苦笑いしながら、自分が証券会社に務めていることや両親が資産家であることを仕方がないといった感じで話してしまったようだ。それを聞いた父は目の色が変わり、突然四人で暮らそうと私に言い出したのだ。

つまり父は、私の夫のお金を目当てに、あんな信じられない提案をしてきたことになる。夫は父から質問攻めに遭ったことを、私には何も話さなかった。きっと夫の優しさからだろうけれど、その話を聞いていたら、もっと私にできたことがあったかもしれない。悔しさと悲しさで、涙が勝手に大量にこぼれてきた。陸は私の肩に軽く手を触れて、泣くのも当然だよというふうに無念そうに何度も首を横に振った。

やりきれない思いが部屋に立ち込める中、それを一層重くする人物から私に電話がかかってきた。

「綾、お前今どこにいるんだ? せっかくお前の旦那の葬儀に来てやったのに、俺を放置していくとはどういうことだ。いる場所を早く教えろ」

旦那の葬儀に来てやった。自分があの世に送っておきながら、よくもまあこんなことを言えるものだ。私は怒りのあまり呼吸が乱れてしまい、何かを叫んでやりたかったけれど、言葉を発することができなかった。陸は私の反応から父と話しているとすぐに分かったらしい。

「スピーカーモードにして」

私はすぐにその通りにした。父は私に対する我慢に耐えかねたように大声で怒鳴っていたけれど、陸はそれを遮るように大声で叩きつけた。

「少し黙って俺の言うことを聞け。いい加減にしろよ。お前はもう俺の親でもないんだよ、この犯罪者が。俺はお前が姉さんの旦那を車道に突き飛ばすところを見ていた。もちろん警察には通報済みだから、お前は捕まって終わりだよ」

陸がそう叫ぶと、あれだけやかましかった父が完全に黙ってしまった。だが当然ながら、父が言われっぱなしのまま黙っているわけがない。

「なるほどな。だから警察から連絡が来るわけだ。陸、お前は親を売ったりして恥ずかしくないのか? 実の親が警察に捕まってもいいのか? そこは黙って墓場まで持っていくもんだろうが」

父はとんでもない暴論を口にし、今度は陸を延々と責め始めた。そしてさらにとんでもないことを口走った。

「もう我慢できない。お前らが出てこないって言うのなら、今から綾の家を燃やして灰にしてやる」

それを最後に、父からの電話は切れてしまった。

私はその瞬間、ビジネスホテルの一室から飛び出そうとした。陸は慌てて「姉さん、どこに行くんだ」と止めようとしたけれど、私は陸をすり抜けてホテルを飛び出し、自宅へ全速力で走り出した。もしすべてが燃えてしまったら、私と夫の思い出がなくなってしまう。思い出は心の中に残るかもしれない。でも、一緒に暮らした部屋にあるものは、私と夫にとっての宝物なのだ。そんなの、耐えられない。

自宅に到着したとき、父はまだ来ていなかった。辺りはいつものように静かだった。急いで鍵を開けて家の中に飛び込み、目についたバッグに目についたものを一気に詰め込み始めた。そのわずか三分後、ドアを叩く凄まじい音が聞こえてきた。私はその音にぎょっとして飛び上がった。まるで金属バットで殴り付けているような、とんでもない巨大な音だった。

「電気がついているってことは、家の中にいるんだよな。綾、陸も一緒にいるのか? 早く出てこないとドアを破壊して中に入るぞ」

まるで獣のような叫び声を上げながら、父はドアを何度も何度も叩き続けた。私はあまりの恐怖に足がすくんでしまった。父の声はもう人間とは思えないほど悪魔じみた調子に満ちていて、その叫び声と同時にドアを本当に破壊しそうな大きな音が、地獄のようなアンサンブルを奏でるようにずっと響き続けた。

「何だ、火を使うつもりか。さすがにそれは今更無理だろう」

「おい、いい加減ドアを開けないとどうなるか分かっているんじゃないか。俺は有言実行の男だぞ。本気で今から火をつけるがいいのか。ガソリンもたっぷり持ってきているからな」

この調子から言って、ドアを開けなければ間違いなく本当に火をつけるだろう。私は詰め込んだだけの荷物を持って、バレないように裏口から逃げるべきなのは頭では分かっていた。でも、父の凄まじい圧力に心の底から震え上がってしまい、足がその場に釘付けにされたかのようにまったく動かなかった。

「はい、時間切れだ。私の娘でありながらこんなに愚かだとはな。俺の言うことを聞けないお前らは、もう生きている価値なんてないんだよ」

そして、ドアに何か液体のようなものがかけられた気配がした。おそらくガソリンをぶちまけたのだろう。私の頭の中では「まずい、まずい」という言葉が延々とリピートされていたけれど、それでも足が動かない。私の人生はこんな最低な終わり方をするのか。玄関のドアを見つめて立ち尽くしたまま、私は炎に焼かれてしまうのだろう。私は目をつぶり、もう完全に逃げるのを諦めてしまった。

だがそのとき、「動くな」という誰かの叫び声がして、それからすぐに父の叫び声が聞こえた。突然スマホが鳴り、まるで縛りが解けたように私はすぐに誰からかを確認した。陸からだった。

「姉さんがビジネスホテルから飛び出した後、すぐに警察に通報したんだ。どうやらギリギリ間に合ったみたいで、本当に良かった」

私は腰が抜けたようにその場に座り込んで、助かったと深いため息をついた。

警察に捕まって連行された父は、最初は否認していたものの、我慢ができないというように自分のやったことを白状し始めたらしい。父はなんと、母も夫と同じように呼び出して、走っている道に突き飛ばしていたのだ。実は父はギャンブルでとんでもない額の借金を抱えており、首が回らなくなって母に金の無心を何度もしていたという。何度も断られて腹を立てた父は、衝動的に母を突き飛ばしたらしい。

父は母と夫、二人をあの世に送り、さらには私を家ごと焼き殺そうとした。そんな重罪を犯してしまえば、裁きが重いのも当然だった。父は極刑に処されることになった。

でも、それを知っても私の心は晴れなかった。父が極刑になったとしても、母は帰ってはくれないのだから。

私は今、夫と住んでいた家で、陸と一緒に暮らしている。陸が私を心配してくれたこともあるけれど、十年以上顔を合わせていなかったことも理由の一つだった。私と陸は、心に負った傷を乗り越えるために、頑張って生活している。立ち直るまでには時間がかかるだろうけれど、私と陸はきっとこの困難を乗り越えられると信じている。

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