姑からの速達で離婚届が届いた瞬間、私は震えが止まらなかった。アパートのポストを開けたのは、いつもと変わらない平日の夕方だった。中には夫・拓也の署名済みの離婚届と、姑の手紙。「年収四千万の息子と結婚できたのに、本当にバカな娘ね」——その一文を読んだ時、私は思わず笑ってしまった。だって、私が彼と結婚したのは、愛なんかじゃなかったから。双子の妹が六年間婚約していた男に捨てられ、うつ病になった姿を、…

姑からの速達で離婚届が届いた瞬間、私は震えが止まらなかった。アパートのポストを開けたのは、いつもと変わらない平日の夕方だった。中には夫・拓也の署名済みの離婚届と、姑の手紙。「年収四千万の息子と結婚できたのに、本当にバカな娘ね」——その一文を読んだ時、私は思わず笑ってしまった。だって、私が彼と結婚したのは、愛なんかじゃなかったから。双子の妹が六年間婚約していた男に捨てられ、うつ病になった姿を、...

「みささん、もう少しうちに顔を出せないのかしら?息子の嫁として、親戚の集まりに顔を出すとか、もっとこう、夫を支えるってことができないの?今回だって、兄嫁たちに任せっぱなしで、一体何を考えてるの?親戚中が、拓也がどうしてあんな女と結婚したんだって言ってるわよ」

姑から電話がかかってくるたびに、みさは同じ言葉を繰り返すしかなかった。

「私なりに精一杯やっているつもりですが、ご期待に添えず申し訳ありません」

「あのね、うちは由緒ある家なのよ。お正月は嫁が実家に寄り添って、親戚はもちろん近所の人にも挨拶回りをするのが決まりなの。他の嫁はみんなちゃんとやってるのに、あなただけよ。こんな出来の悪い嫁をもらって、拓也も見る目がないわ」

「申し訳ありません」

「これ以上私たちに恥をかかせるようなら、拓也にもそれなりの対応を取るように言いますからね。年収四千万の息子をなくして困るのは、あなたの方なんだから。もう少し賢くなりなさい」

電話を切った後、みさはため息をついた。数分もしないうちに、今度は夫の拓也からLINEが来た。

「お母さんから連絡来たんだけど。確か、お前、今年は実家に帰らなくていいって言われてたよな?なんでここまで文句言われなきゃいけないんだよ」

「私が知るわけないでしょ。あなたのお母さんよ」

「そんなの聞き流せばいいだろう。俺は仕事で忙しいんだから、そんなことで連絡してくるなよ。義母とうまくやるのも、嫁の仕事だろうが」

「義母と嫁が衝突しないようにうまくやるのも、旦那の仕事じゃないの?」

「俺が食わせてやってんだから、文句言うなよ。偉そうなことを言うなら、俺より稼いでから言うんだな。あと、クリーニング出しとけよ。明後日は、家に渋田さんと三井さんを連れてくるから、食事の用意もしておくように。返事は?」

「……はい、分かりました」

「お前の価値なんて、俺に従順であるかどうかしかないんだから、ちゃんとやれよ」

その夜、友人からLINEが届いた。

「ねえ、みさ、今度ランチ行こうよ。暇?」

「行きたいのは山々なんだけど、ちょっと夫の母とごたついてて」

「まだ離婚してなかったの?もう別れなって。そもそも結婚だって反対してたんだから。あの人、マジで近年稀に見るクズだよ」

「まさにその反対が身に染みてるところ。ごめんね、心配ばかりかけて」

「みさのことだから、うまくやるって信じてるよ。なんかあったらいつでも相談に乗るからね」

一ヶ月後。みさの元に、見覚えのない封筒が届いた。差出人は姑だった。

「みささん宛てに、速達で書類を送ったんだけど、届いてるかしら?」

「すみません、まだポストを確認していなかったので」

数分後、みさは封筒を開けて固まった。

「あの……何の冗談ですか?離婚届を送ってくるなんて。しかも、拓也さんの分は記入済みなんですけど、どういうことですか?」

「あなたが悪いんでしょ?親戚の集まりがあるから、今度こそ手伝いで顔を出しなさいって言ったのに、それを無視した。家に尽くせない嫁なんていらないのよ。今すぐ記入して、五分で提出してきなさい。拓也の籍に入れて年収四千万の息子と結婚できたっていうのに、本当にバカな娘ね。自分のプライドなんかのせいで、バツイチになるんだから」

みさは一瞬言葉を失ったが、すぐに口元がほころんだ。

「……ありがとうございます」

「ああ?なんですって?」

「今日は最高の日です。ありがとうございます。早速、私の分を記入して、離婚届を提出してきますね」

姑は「強がっちゃって」と鼻で笑ったが、みさの声は震えていなかった。

「提出できたら、すぐに荷物をまとめて出ていくのよ。いいわね?」

「はい、喜んで」

三十分後、みさは友人に電話をかけていた。

「ねえ、聞いて。義母から速達で、拓也の離婚届が送られてきたんだけど」

「は?何それ。マジでありえないんだけど。しかも拓也の分は記入済みって、どういう神経してるんだろうね」

「さすがにもう我慢する必要ないじゃん」

「うん。これ以上我慢するのは馬鹿らしいから、もう出してきたところ」

「さすが。で、拓也には行ったの?」

「これから報告するところ」

みさは拓也にLINEを送った。「離婚届を出してきたわ」

数分後、返信が来た。

「お、早いな。もっと泣きついてくるかと思ったわ。俺は一週間出張で家を空けるから、その間に荷物をまとめて出てけよ。もし出てかなかったら、業者でも何でも使って追い出すからな」

みさは「承知しました」とだけ返し、荷物の整理を始めた。

数週間後。拓也から突然電話がかかってきた。

「おい、お前、いつの間に株なんか買ってたんだ?」

「離婚したのに連絡してくるから、おかしいと思ったわ。どうして私の保有株式なんて知ってるの?」

「ばあさんが財産分与だのなんだので揉めるのは面倒だから、離婚後でもいいから書類を作るように言ってきたんだよ。まあ確かに面倒はない方がいいからな。それで、家を整理してたら、お前宛ての株配当の書類が残ってたんだよ」

「ああ、バタバタしてて置き忘れたかもね。あなたが一週間以内に出ていけなんて無茶を言うから」

「でも、それは結婚してから買ったもんだろう。だったら分配対象だろうが。生活費は俺だって出してたんだ。俺の出した生活費を流用して買った株かもしれないだろう。弁護士に、共有財産の分配と結婚後に購入した株式の分配は正当な離婚の財産分与に当たるって言われてるんだ」

「だったら、あなたも財産分与に応じて貯金を私に支払わないといけなくなるわよ。どっちの方が得か、考えた方がいいわ」

「何度も言わせるなよ。ごねるなら、それこそ裁判でもするか。お前にそんな金があるわけもないだろうけどな」

「共有財産を分配してでも、私から株を取り上げたいのね」

「だから、何度も言わせるなって言ってるんだ」

みさはしばらく沈黙した後、静かに言った。

「分かった。結婚してから買った株は四社分よ。だから二社をあなたに譲る。それでいいわね。ビークエンシーとマークマントル。納得できる?」

「聞いたことねえな。今の株価と会社運営に問題がないかチェックするから待て」

「意外と用心深いのね。どうぞ、お好きなだけ調べてください」

数日後。拓也から連絡が来た。

「お前が提示してきた二社の株を俺に譲るってことで、手を打ってやるよ」

「確認した上で了承したってことね。念のため、名義変更とかはちゃんと弁護士を通してやらせてもらうから」

「了解したわ。それと、共有財産の分配金は通帳も送ったでしょう。分配金は四百万よ」

「年収四千万にしては少ない貯金額ですこと」

「まあ、あれだけ派手に同僚と飲み歩いたりしてたら、そうなるか」

「それも立派な営業だって言ってるんだ。お前みたいな主婦には分かんねえんだよ。それに、結婚する前に投資に回したりして、手元の現金がそこまで残ってないだけだし。でも、結婚する前の財産は分配の対象外だ。残念だったな」

「そうね。それじゃあ、これで本当にさようならにしましょう」

「ああ、マジでクソ嫁だったわ。もっと従順なやつを探さないとだめだな」

「次の結婚がうまくいくことを祈ってるわ」

数時間後、みさは友人と電話で笑い合っていた。

「離婚後の財産分与、終わったわ。これで心置きなく飲みに行けるよ」

「おめでとう。長かったね」

「やっとだわ。すぐお店を予約する」

「ところで、どの会社の株を分配したの?」

「マークマントルとビークエンシーよ」

「ああ、なるほどね。いいチョイスしてんじゃん」

「でしょ。でも、私、何にも悪いことはしてないわよ。向こうも自分で調べて、それでいいって納得してることだし」

「そうね。この後のことは、知ったこっちゃないって感じだわ。今日はうまい酒が飲めるわよ」

数ヶ月後。拓也から、みさの携帯に怒鳴り声が飛んできた。

「お前、なんて株を渡してきやがったんだ、この野郎!マークマントルは粉飾決算が発覚して株価が暴落するし、ビークエンシーは製品不良で集団訴訟。二千万も損失が出たんだぞ!」

「どうもこうもないわよ。私にその二社の暴落を予想できたと思う?株価の変動が分かって取引できる人間なんていないでしょう」

「だからって、こんな都合よく二社とも落ちるなんて、仕組まれてるとしか思えねえ」

「そんなこと、できないって分かってるでしょ。運がなかった。それだけの話よ。株って、そもそもそういうものだから」

数時間後、みさは友人に言った。

「ねえ、あの二社、見事に落ちたわね。ここまでひどいとは思わなかったけどね」

「そろそろ売っちゃおうと思ってたところだったし。ちょっとついでに暴落してくれたらラッキーくらいに思ってたけど」

「みさのその勘は、びっくりするくらい当たるよね。株の損切りのタイミングも天才的だし」

「離婚と暴落のタイミングが噛みすぎたわ。笑っちゃうくらいよ」

「私のこの変な勘を信じてくれた人、それはこっちも同じだから」

「ていうかさ、そろそろ聞かせてくれない?悪いこと、悪い人の勘が当たるみさが、わざわざ拓也さんと結婚した理由」

みさは少し黙ってから、ぽつりと言った。

「うーん。言っちゃえば、仕返しかな」

「仕返し?」

「うん。仕返しなんて、生ぬるいものじゃないわね」

「どこからどこまでが、みさの仕込みなの?」

「仕込みというほどのことは、必要なかったわね。もちろん、結婚すればより地獄に落とせると思って、準備してきたことはあるけど。それ以上の転落は、私の仕込みとは関係なく、自業自得よ。これからあの人は、私と離婚したことで、ドミノ式に悪いことが起こる。そんな予感がするの」

同じ頃。拓也の実家では、姑がテレビのワイドショーを観ながら青ざめていた。

「ねえ、拓也。あなたの会社、大丈夫なの?連日ワイドショーに出てくるじゃないの」

「俺みたいな営業にまで話が降りてくるわけないだろ。俺だって知らなかったよ。朝のワイドショーで知ったんだ」

「経営は大丈夫なの?このスキャンダルのせいで、取引先も離れていくんだろうって」

「息子の暴行事件をもみ消すために、会社の経費から慰謝料を払って横領なんて……。俺もこれからどうなるか分かんないんだ。今、LINEしてくるのはやめてくれ。何も答えられることがないんだよ」

「待ちなさい、拓也」

数日後。姑は、評判の霊媒師のもとを訪れていた。

「霊媒師のゆ香先生ですか?とにかく当たると評判だと、いろいろな方からお聞きしました。お願いです。息子を止めていただきたいんです」

「事前に情報をお伺いしておりますが、息子さんは、ミクスチャラにお勤めなんですね。大手の重鎮でしたが、あのスキャンダルを耐え抜けるかどうか」

「何か悪いものが憑いてるんですか?」

「息子さんの直近の写真を見せていただきましたけど、かなりまずいですね。黒いオーラがまとわりついていて、転落していく証拠が見えます」

「なんとかなりませんか?お払いするとか」

「まず、私にお払いする力はありません。あくまで見る力なんですよ。霊視は占いとは異なります。私の場合は、これから人間がたどっていく道が色で見えるんです。そして息子さんですが、この黒さは、かなり多くの人間から恨みを買っているようにも感じます」

「恨みですって?」

「最近、誰か人との別れを経験したりはしていませんか?例えば、離婚したとか、彼女や婚約者と別れたとか」

「離婚しました。でも、それは嫁の方に問題があったんですよ」

「そうですか。じゃあ、お嫁さん以外にも、息子さんが人から恨みを買っている可能性がありますね。こういう、人の恨みを買いすぎた人間は、遅かれ早かれ転落するようになっています。例えば、AとB、どちらも既婚者でありながら女遊びをしていたとします。A氏は女性に対する扱いが雑で、金払いも悪い。一方、Bは女性に対する扱いがスマートで、毎回お金や物を贈っている。何かあった時、恨みが募ってリークされる可能性があるのはどちらか、一目瞭然ですよね。どちらもやっていることがクズだったとしても、人に対する接し方で運気やその後の道はガラリと変わるんですよ」

「それは、そうかもしれないですけど」

「霊媒師や占い師もよく言ってますよ。運をよくしたいなら、人に親切にしろってね。情けは人のためならず。相手に行った理不尽な行為は、全て自分に帰ってくると思って行動するのが基本ですね」

「とにかく、私から言えることは、これからの転落に備えること。もし恨みを買った人間に心当たりがあるなら、誠心誠意謝ること。それ以外にできることはありませんよ。そして、あなた自身も同じことです」

「どういうことですか?」

「息子さんの直近の写真に、あなたが映っている写真が一枚あったんですが、あなたにも黒い霧が取り憑いているように見えるんですよ。それでは、ご相談ありがとうございました」

数時間後。姑は、みさに電話をかけていた。

「みささん、あんな風に意地悪を言ってごめんなさい。嫁は姑の言うことを聞くのが当たり前だと思ってたの。それに、大した稼ぎもないくせに、偉そうな態度で実家のことを手伝わなかったから。でも、もうそんなこと言わないから、お願い、許して。私たちを許してちょうだい。このままじゃ、家が破綻しちゃう」

数分後、拓也が実家に呼び出され、母に土下座を迫られていた。

「みささんに謝りなさい。すぐによ。土下座でも何でもしなさい。それから、他に何か悪いことをした心当たりのある人がいるなら、謝りなさい」

「いきなりなんだよ」

「何でもいいから、言うことを聞きなさい。あなた、地獄に落ちたいの?」

「マジで意味わかんないし、怖いよ。もうほっといてくれ」

数日後。拓也が、みさに直接電話をかけてきた。

「みさ、あの、俺、本当にみさに何か恨まれることしたか?これ、全部お前の呪いなのか?」

「オカルト話?どうしたのよ。ホラーでも見た?」

「冗談で言ってんじゃねえんだよ。最近、母さんがおかしいんだ。霊媒師か何かに見てもらったのか知らねえけど、俺が人の恨みを買ったせいだって。会社もマジでどんどん良くない情報が週刊誌で連発されてるし、もう今月の給料から払えないって通達が来てるんだよ。ここまで悪いことが重なると、オカルトだって信じたくなるだろう」

「うん。まあ、自業自得じゃない」

「どういうことだよ」

「だって、私の顔を見ても名前を聞いても思い出しもしないで、結婚までするような最低な男だからね」

「何のことだよ。何の話をしてるんだ?」

「浜田彩は、覚えてないの?」

「……は?」

「あんたが二十歳から二十六歳まで、六年間交際して結婚の約束をしていた人の名前よ」

「なんでお前から彩の名前が出てくるんだって、聞いてるんだよ。まさか、友達だったのか?」

「私は彩の双子の姉よ」

拓也は絶句した。

「中学生の頃に親が離婚して、私は父の方、彩は母の方に引き取られたから、苗字は違ったし、一卵性の双子だから分からないかもしれない。でも、私はね、あんたに近づいた時、彩の洋服を着てたわ。彩の鞄を持ってたわ。何も気がつかないなんて、本当にクズよね」

「そ、それは……」

「結婚の約束をしていたのに、他の女と三股をかけてたんだから。彩がどれだけ傷ついたか知ってる?知らないわよね。うつになって、ご飯も食べられなくなって。本当に恨んでるなんてもんじゃないわ。絶対に不幸になってもらわないと、割に合わないのよ」

「だ、頼むよ。もう過去の話じゃないか。それに、彩にはちゃんと慰謝料も払った」

「お金の話じゃないんだよ。彩に『あんたに近づいて復讐してやる』って言ったら、止められたわ。友達にも、あんたと結婚すれば間違いなく不幸になるって言われた。でも、これは私が私のために決めた復讐なの。もし一度でも彩の名前が出れば、その時点で説明して、結婚はしなかったかもしれないけどね」

「そんな……頼むよ。もう許してくれよ。ここまで不幸になってんだぞ。お前と結婚したせいだけじゃ済まないくらいの転落だろ」

「あなたと結婚したのは、絶対に浮気するって分かってたから。情報を集めて、社会的に追い詰めて離婚してやろうと思ってたの。調べはついてるのよ。私との結婚生活二年の間にも、三人と浮気してるものね」

「違う。そんなの本気じゃないって。結婚したんだから、みさが本命に決まってるだろう」

「本気じゃなかったら女遊びしていいと思ってることが気持ち悪いのよ。なら、遊んでる方がよっぽどスマートで誠実だからね。それに、あなたから離婚を突きつけられなくても、方法はいくらでもあったの。今回はお母さんが暴走したから、一番いいルートに進めただけ。株の譲渡なんて、私も想定してなかったもの。ラッキーだったわ」

「そんな……」

「いいことを教えてあげる。私の悪い予感はね、ほぼ百パーセント当たるの。あなたも近いうちに良くないことになる予感はあった。でも、その時点で私が何か特別な情報を持っていたわけじゃない。ただ予感がしていただけ」

「じゃあ、俺が落ちたのは、お前のせいじゃないってことか?」

「別に株のことがなくても、あなたが落ちていくことなんて決まってたわ。さらに、私に浮気して捨てられた女性たち。それ以外にも、どれだけの人間がいるのかしらね」

「そんな……」

「それともう一つ、いいことを教えてあげる。あなた、私が何か言うたびに『もっと稼いでから文句を言え』って言ってたけど。私、MSKの代表取締役だから。調べたら出てくるわよ。成長企業IT部門でランクインしてるし。年収は八千万。あなたの倍稼いでるわよ」

「そんな嘘だろ。ありえない」

「こんなことになるまで気づかなかったんだから。私が会社の事務受付って言うわけないじゃない。稼げる女なんて、あなたの好みじゃないでしょ。まあ、私のことを調べられたら終わりだったけど、そうしないことも計算済みだったわ。あなたが私と結婚したいと思った理由は、控えめで大人しそうで、見た目がタイプ。それだけでしょ。あなたの好みの女性は調べ尽くしてたから、寄せるのは簡単だったわね」

「……」

「ここまで綺麗にことが運んでくれて、私は大満足。どうもありがとう」

「頼む。許してくれ。お願いだよ。俺、もう十分反省したから」

「あら、離婚した元嫁にすがるなんて、寄生体みたいなことはやめてちょうだい。それじゃあ、さようなら」

数ヶ月後。みさは友人とカフェで話していた。

「いや、倒産したね」

「ミクスチャラもやばいことになってるし。ちなみに、拓也には浮気不倫の慰謝料も請求してあるわ。三百万円。少ないくらいでしょ」

「もっと絞り取れないもんかね」

「婚姻期間が短かったし、財産分与もした後だったしね。でも、拓也の浮気相手の中に既婚者がいたから、相手側に情報も渡してあるの。その人の話では、慰謝料八十万を請求することになったって。で、株の損失が二千万でしょ。浪費で貯金もほとんどないって言ってたし」

「うん。まあ、地獄確定か」

「ああ。あ、もう一人忘れてた。リボはどうなったの?」

「今回のことがご近所に知れて、白い目で見られるようになったみたい。拓也のお兄さんとか奥さんから、あれこれLINEが届くわよ。まあ、最終的にお金の無心になるから、ブロックしたんだけど」

「とりあえず実家は売り払って、義母は田舎の親戚の家に引き取られたそうよ」

「ああ、そんな貧乏神を呼び寄せるなんて、物好きね。その家もそのうち、ろくなことにならないわ」

「怖い怖い。ゆ香の霊視の当たる率は、恐ろしいものがあるからね。大企業の社長さんも、役員決めのためにゆ香に霊視を頼むんでしょ。すごいわよね」

「まあまあ、所詮オカルトだから、信じるか信じないかはあなた次第ってやつでも、信じてくれた人にいい効果をもたらす自信はあるよ。一応、仕事として霊視してるプロですから」

「私も、ゆ香に出会えたのは、この勘の良さのおかげだと思ってるから。悪いことばかりじゃないもんだね」

「それにしても、まさか双子の妹のための復讐だとは思わなかったわよ」

「ものすごい強い意志だったから、反対しても無駄だって分かってたけどね」

「心配かけてごめんね。妹の元婚約者なんて言ったら、何が何でも止めると思ったから」

「まあまあ、結果オーライってことで。妹さんは今、どうしてるの?」

「北海道に引っ越ししてから、リゾートで楽しく住み込みで働けてるみたい。あとは、いい出会いに恵まれるのを待つばかりね」

「でも、最近の彩を見てると、そろそろな感じがするんだけど。みさの勘は百パーセントだからね。いい報告が楽しみだわ」

その後も、拓也からは慰謝料の支払いの件で何度か連絡が来た。みさから譲渡された二つの株が暴落し、配当金でローンを払う計画が崩れ、融資も停止。担保にしていた株価が下がったことで証券会社から入金を迫られ、自分でも保有していた株を手放すはめになった。年間で数百万円は受け取っていた配当と融資がゼロになったことに加え、慰謝料の支払いもしなければならなくなった。

年収四千万あったとはいえ、彼は浪費癖が激しく、キャバクラで派手に使うのが趣味だったので、財産分与をした後の貯金が減っていくのも折り込み済みだった。結局、拓也は消費者金融とカードローンに手を出し、借金は雪だるま式に膨らんでいるそうだ。

ただ、元々大手企業で営業として働いていた人間。経歴自体は優秀なので、給料の良さで飛びついた会社に即採用されたものの、相当なブラック企業に当たってしまったんだとか。朝から晩まで働いて、会社に泊まり込みはしょっちゅう。社内のいびりも上下関係も厳しい。転職したくても、転職先を探す時間もない。「心が死んでいく感じがする。俺はこのまま死ぬんだろうか」と、弱音がぽつぽつと届いてくる。

みさには関係のないことだ。しっかりと慰謝料は支払い続けてもらう。延滞すれば、職場に連絡して給料を差し押さえてもらう取り決めになっている。一方、みさはゆ香と一緒に、彩が移住した北海道へ遊びに行く予定だ。

妹の敵を取って、みさも体が軽くなった。人の恨みは、なるべく買わないようにしたいものだ。

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