「ねえ、け太郎さん、奥さんのキャンピングカーでこんなことするのって、最高に悪いことね。」
つややかな声が車内に響いていた。隠しカメラはすでに回っている。私はその映像を確認した直後、怒りで震える指先を抑えながら復讐を決心した。
「ああ、終わりにしよう。」
私は運転席のドアを開け、無言で乗り込んだ。裸のままの二人は悲鳴をあげ、服は助手席の横に脱ぎ捨てられていた。
「出発進行よ。」
私はアクセルを踏んだ。二人は血の気を引かせた。
私の名前は島田直美。四十代後半。アウトドアが趣味で、夫のけ太郎とはキャンプ場で出会った。子供はいないけれど、同じ趣味を共有して穏やかに暮らしていた。そして私には夢があった。キャンピングカーで夫婦二人の第二の人生を旅すること。ローンを組んで買ったキャンピングカーはご近所でも評判で、「かっこいいね」と老婦人が声をかけてくれた。幸せの象徴だった。あの日までは。
深夜、仕事終わりにキャンピングカーへ行くと、窓をコンと叩く音がした。そこには若い女性の姿。近所に住む大学生のエリが立っていた。
「内装を見せて欲しくて。すごく運が良くて」
無邪気な笑顔だった。その日は遅い時間なので、「また今度ね」と返した。しかし、まさかこの子が後に私の人生を壊す存在になるなんて、思いもしなかった。
忙しい日々が続く中、久々にキャンピングカーへ入り込むと匂いが違う。シーツのシワが不自然。誰かが使った形跡?け太郎なら、必ず使ったよと報告してくるはずだ。私は迷った末、小型の隠しカメラを通販で購入。毎朝仕事に行く前に設置して、帰宅後に回収した。
一週間、二週間、何も映らない。気のせいだったのかな、そう思いた頃、ある休日出勤の夜、いつものように隠しカメラの映像を確認すると、け太郎とあの女子大生エリが全裸で絡み合っていた。
膝が抜け、言葉が出ない。夢のキャンピングカーの中で、あんなことを。この瞬間、私の中で何かが静かに切れた。
見せてやる。翌日から私は休日出勤と偽り、探偵事務所と弁護士事務所へ通った。探偵はエリの住所、家族構成、浮気頻度をすぐに持ってきた。浮気を当たり前のようにしていたらしい。しかも彼女は男を渡り歩くタイプだと判明し、吐き気がした。弁護士には内容証明と慰謝料請求を依頼した。探偵によれば、浮気は私が休日出勤で家を開けるタイミングだけ。つまり今日も確実にキャンピングカーにいる。
私はけ太郎に休日出勤と告げて家を出た。一時間後にこっそり戻る。ガレージのシャッターの向こう、カーテンを締め切ったキャンピングカー。聞き耳を立てれば、野生動物のような声が聞こえる。
「もう終わりよ。」
シャッターを上げて突入した瞬間、男と女の悲鳴。服を全部外へ投げ捨て、私は運転席に座り直した。さあ、ドライブの時間よ。地獄の幕がゆっくりと上がる。
裸のまま震える二人を後ろに乗せ、私はガレージを出た。
「おい、直美。どこに連れて行く気だよ。やめてくれ。警察呼ぶわよ」
「うるさい。」
私はバックミラー越しにゆっくり微笑んだ。
「好きにすれば。その格好で警察のお世話になりたいなら、どうぞ。」
二人は一瞬で黙った。車内は沈黙し、ただエンジン音と震える息遣いだけが響く。
「ねえ、どこ行くの?」
エリはまだ状況を理解していない。私は淡々と答えた。
「あなたたちが一番行きたくない場所よ。」
カーテンを少し開けると、エリの顔が真っ青になる。
「やだ。ここ、地元の実家に向かってるの?やめて。本当にやめて。」
裸のまま床に頭を擦りつけて土下座した。
「お父さんとお母さんには絶対知られたくないの。」
「知ってもらうために来たのよ。」
キャンピングカーがエリの実家前に止まると、玄関から男女が出てきた。エリの両親だ。私は窓を開けて声をかけた。
「後ろの扉、開けていただけますか。」
扉が開いた瞬間、「きゃあああ!」とエリの両親の悲鳴が夜に響いた。私は淡々と説明した。
「お宅の娘さんが、うちの夫とここで何度もお楽しみをしていたんです。文句があるなら、ご自由にご本人へどうぞ。」
さらに追い打ちをかけた。
「続きがしたいなら、今ここでどうぞ。ご両親の前でね。」
エリは蒼白になり、け太郎は震えて声も出ない。地獄のドライブはまだ終わらない。
エリの実家を出た後、私は高速道路へ入った。後部座席ではエリの両親が困惑した顔で座り、裸の不倫カップルは震えて身を寄せ合っている。
「次、どこに行くか分かる?」
バックミラー越しに聞くと、け太郎は顔を覆った。
「やめてくれ。」
そう、次はけ太郎の実家だ。深夜、家の前に到着すると、義理の両親が玄関から出てきた。招き入れられた私たちはリビングに座り、ブランケットをパジャマに巻いたけ太郎とエリを中央に立たせた。私は淡々と事実を述べた。キャンピングカーの違和感。隠しカメラで複数回の浮気を確認。エリの男遍歴調査。結婚。け太郎は言い訳をする。
「俺は無理やりじゃない。」
エリは即座に被せる。
「違う。私は被害者。この人に襲われたの。」
くだらない言い争い。義理の両親は耐えられず怒鳴った。
「自分のケツは自分で拭け。お前とは縁を切る。」
私は二枚の書類をテーブルに置いた。
「これで全て終わりにしましょう。一枚目は誓約書。慰謝料、私に対してけ太郎が五百万、エリが五百万。キャンピングカーは六百万。そして今後一切私に接触しないこと。二枚目は離婚届。拒否するなら、け太郎の会社とエリさんの大学に全部報告します。」
エリの両親は土下座し、泣き叫んだ。け太郎は蒼白のまま震えている。最後に義理の父が低い声で言い放った。
「サインしろ。ここまでしておいて、逃げられると思うな。」
二人が震えながら印鑑を押す音だけが響いた。復讐はほぼ完了した。誓約書と離婚届にサインが押され、全てが終わった。け太郎は項垂れ、エリは泣きすぎて声も出ない。私は静かに立ち上がり、義理の両親へ一礼した。
「ご迷惑をおかけしました。あとは皆さんでご自由に。」
もうこの家に執着はない。夢だったキャンピングカーも、け太郎との生活も、今日で終わりだ。玄関に向かう私の背中に、エリの父の怒鳴る声、け太郎の母が泣き崩れる声が混ざる。
け太郎の父の声が聞こえた。
「直美は優しい子や。わしやったら、あれ斬っとるわ。」
「ほんまにね。よう我慢したわ。」
少しだけ笑ってしまった。
数日後、実家に戻った私のスマホに着信。慰謝料一千万円入金のお知らせ。父がそれを見るなり、満面の笑みで言った。
「おっしゃ。ほなら、今からうまいもん食いに行こ。」
母は「新しい人生のスタートね」と肩を叩いた。空っぽだった心に、温かさが少し戻ってきた。キャンピングカーはもう嫌な思い出でしかないけれど、キャンプそのものは捨てたくなかった。私は慰謝料の一部でキャンプ仕様の新車を購入した。小さめだけど、一人で動くには十分。ギアを触るたび、胸がすっと軽くなる。これからは誰にも邪魔されない。
木々が揺れる音と焚き火のパチパチという音。夜空の下、私は一人、湯気の立つコーヒーをすする。炎を見つめると、不思議と心が落ち着いた。あの日の怒りも裏切りも、全ては私を自由にするための通過点だったのかもしれない。
「悪くないわね。一人の旅も。」
風が頬を撫で、炎が少しだけ強く揺れた。その揺らぎが、まるで新しい人生の始まりを祝福してくれているようだった。私はもう過去に縛られない。これからは私の足で、私の道を歩いていく。
