義母から電話が来たのは、いつもと同じ平日の午後だった。「今月の生活費、まだ振り込まれてないんだけど」その一言で、私は三年間の嘘に気づいた。毎月振り込んでいたのは治療費のはずだった。でも義母は「生活費でしょ」と当然のように言い放った。「お金の管理は嫁の仕事よ」その言葉に、私は冷や汗をかいた。実は一ヶ月前、私は息子と離婚していた。なのに義母は何も知らされていなかった。そして、もっと衝撃的な事実が…

義母から電話が来たのは、いつもと同じ平日の午後だった。「今月の生活費、まだ振り込まれてないんだけど」その一言で、私は三年間の嘘に気づいた。毎月振り込んでいたのは治療費のはずだった。でも義母は「生活費でしょ」と当然のように言い放った。「お金の管理は嫁の仕事よ」その言葉に、私は冷や汗をかいた。実は一ヶ月前、私は息子と離婚していた。なのに義母は何も知らされていなかった。そして、もっと衝撃的な事実が...

「お母さん、今日銀行に行ったんですけど、ひどいじゃないですか。今月の生活費、振り込んでくださらないんですね」

「こんにちは、お義母さん。いえ、しずえさん」

「なんで名前で呼ぶのよ。あなたは嫁でしょ。それとも、私を義母だと思ってないから、そんな嫌がらせをしてるの?」

「嫌がらせ? どうしてそうなるんですか。そんなに名前で呼ばれるのが嫌なら、苗字で呼びましょうか?」

「そこまで私のことが嫌いなのね。本当にひどい人だわ」

「呼び方だけでそこまで怒らなくても……」

「私が怒ってるのは呼び方だけじゃないわ。今月の生活費の振り込みを忘れるなんて、嫁として失格よ」

「はい。振り込み、してましたよ。毎月してたじゃないですか」

「ええ、そうでしたね。でも、最近物価が上がって足りなくてね。五万上乗せして、三十五万ほど振り込んでほしいの」

「あの、どうして私が? 息子さんの大輔さんに頼めばいいじゃないですか」

「お金の管理は嫁の仕事でしょ」

「その息子さんとは、離婚しましたけど」

「え?」

「一ヶ月前に離婚届を役所に出しました。無事に受理されてますから、もう私たちは赤の他人です。ですから、お金を振り込む義務はありませんし、そもそも私は一度も生活費を振り込んでいませんよね」

「毎月振り込んでくれてたじゃないの」

「いえ、あれは生活費ではないでしょう」

「何を言ってるの? まり子さん、おかしいわよ。さっきから話が通じないわ」

「全く同じことを私も思ってますよ」

「どうしちゃったの? ボケるのはまだ早いわよ」

「年寄り扱いしないでちょうだい。これでもラジオ体操は全部覚えてるし、漢字だってすらすら書けるんだから」

「ええ、随分お元気そうで何よりです。でしたら、今言ったことを理解できると思うんですけど。だから、離婚したんですって」

「離婚したなんて聞いてないわ。大輔がそんな大事なことを黙ってるはずないもの。あの子は私に一度だって嘘をついたことはないわ」

「では、息子さんは私たちの関係について、何とおっしゃってるんですか?」

「確か別居中って聞いたわよ。あなたが勝手に出て行ったって」

「では、息子さんは人生で初めてあなたに嘘をつきましたね。嘘つき記念、おめでとうございます」

「バカにしないでちょうだい。とにかくお金を振り込んで。今はあくまで別居。嫁であることには変わりないわ」

「だから、離婚してるんですってば」

その頃、大輔が電話に出た。

「ねえ、ちょっと。さっきお母さんから生活費を振り込めって言われたの。どういうこと?」

「生活費って、そのままの意味だろう」

「え? 私が振り込んでたのは生活費じゃなくて、お母さんの治療費でしょ」

「あれ? そうだっけ?」

「ちょっとふざけてるの? お母さんが病気になって大変だから、せめて治療費だけは助けてほしいって、あなたから言い出したんじゃない」

「けど、振り込んだのはお前じゃん。そのまま三年振り込みを続けたのもお前の意志だろ。別にそれが生活費でもよくね? 問題ないだろう。結局、金を渡してることに変わりはないんだし」

「ちょっと。私がお金を振り込んでたのは、お金がなくて治療ができない悔しさを知ってたからよ。あなたもその理由は知ってるでしょ?」

「ああ、確かお前の母親は病気したけど、治療費払えなくて亡くなったんだっけ?」

「そうよ。治る見込みもなかったから、私のためにって、お金を残してくれた。お金なんてかかってもいいから、少しでも長くそばにいてほしかったのに。その悔しさがあったから、お母さんに治療費を振り込んでたのよ。それなのに、本当は生活費? ふざけんな。私の気持ちを利用してお金を搾り取ってただけじゃない」

「気づかなかったお前も悪いだろう。母さん、元気そうなの見てたんだから」

「確かに元気そうだなとは思ったけど、病気のことはプライベートだし、詮索するのは失礼でしょ。目に見えない病気だってあるんだから。実際、足が悪くて病院に行ってたし」

「いや、ちょっと勘違いしてるって。確かに治療費の一部は生活費になってた。それは認めるよ。でも、母さんはもう一人だし、年金だけじゃ厳しいんだ。治療費って言っても、全部治療に回す余裕もない。だから、生活費って母さんは言ったんじゃないかな」

「もういいわ。関係のないことだもの。離婚したんだし、もうそこまで面倒を見る必要はないもの」

「そこをなんとか。お金はお前が出してくれ」

「は? 嫌よ。なんでそんなことしないといけないの?」

「女手一つで育ててくれた母親を失ったお前なら分かるだろう。俺だって、女手一つで俺を育ててくれた母さんを見捨てたくないんだよ。頼む。あと三ヶ月だけ」

「三ヶ月? なんでそんなに時間がかかるのよ」

「俺、転職して今は契約社員でまだ苦しいんだよ。でも、三ヶ月の試用期間を終えたら正社員で雇ってもらえるんだ。そうしたら給料も増えるし、ボーナスだって出る。三ヶ月我慢してくれたら、俺が母さんにかかるお金は何とかするから」

「虫が良すぎるわ。その間、私は貯金を失えって言うの?」

「いや、今出してる分のお金もちゃんと返すって。だから、あと三ヶ月だけ頼む」

「嫌よ。少なくとも、治療費を生活費に回されてた。そのことを黙ってた時点で許せないわ。それに、治療費っていうのも嘘でしょ? だって、お母さんははっきりと生活費って言ってたもの。つまり、お母さんの中ではあのお金は生活費だったのよ。もう離婚してるのに、生活費を払うのはおかしいわ」

「なんだと。この人殺し」

「は?」

「生活費だとしても、なかったら母さんが苦しむんだぞ。母さんを見殺しにするつもりかよ」

「そんなつもりは……」

「お前の母親だって、金があればもっと長く生きられたんだろう。同じ思いをさせるつもりか?」

「何よそれ。私がお金を出して当たり前って思ってるの? 拒否権もないわけ? ふざけんじゃないわ。大体ね、態度からしておかしいのよ。お母さんは私が生活費を出すのが当たり前って態度だし、あなたはお金を出さないと分かった瞬間、人殺し扱い。もう許さない。私はあんたたちのATMじゃないのよ」

翌日。

「まり子さん、今日銀行に行ったんだけど、まだ生活費を振り込んでくれてないなんて」

「あの、しずえさん。本当に大輔さんから何も聞いてませんか? 私たち夫婦のこととか」

「え、何よ、急に。別に何も聞いてないわよ。あなたが出て行って寂しいとか言うだろうから、気にするなって言うくらいで」

「そうですか。でも、大輔さんって、何でもしずえさんに報告してくれる優しい息子さんですよね」

「そうよ。あの子は小さい頃から私に隠し事なんてしたことないわ。テストで悪い点を取った時も泣きながら報告してくれたし、彼女ができた時だって、付き合った初日に報告してくれたのよ。そんな子が嘘をつくとは思えないわ」

「でも、家庭内のことを何も話さないって、おかしくないですか?」

「男の人って、家庭のことは話したがらないものよ。それに、仕事も忙しいでしょうし。そりゃ、子供の頃に比べたら口数は多少なくなったでしょうけど。でも、昔から私には何でも話してくれるのよ」

「そうなんですね。じゃあ、最近の大輔さんの様子はどうですか?」

「普通よ。仕事も順調だし、真面目に働いてるって聞いたわ。あなたを養うために頑張ってるんでしょ?」

「仕事、順調なんですね。そうですか」

「当然でしょ。うちの大輔は優秀なんだから。あなたみたいな嫁でももらってあげて、本当に優しい息子だわ。それなのに、あなたと言ったら生意気な態度ばかり。というか、夫婦なのに、なんで仕事のことを聞くの? あなたが頼りないから、夫の様子も分からないのよ」

「ああ、根本からずれてるんですよね。では、改めて現状をお伝えします。どうせ信じないでしょうけど」

「現状って何よ? 何か問題でもあるっていうの?」

「ええ、とても大きな問題があります。お母さんにもお話ししておかないと」

「何よ、まさか離婚とか言い出すんじゃないでしょうね」

「いや、もうだから、離婚してますって。……あ、もういいです。否定するのもめんどくさい」

「なんなのよ、その態度は」

「とにかく、大輔さんは本当に何も言ってませんか?」

「だから、何も聞いてないって言ってるでしょ。あの子が黙ってるはずないわ」

「そうですか。息子さんを信じてらっしゃるんですね」

「当たり前よ。母親と息子の絆を舐めないで」

「絆ですか。嘘つきの息子を信じるバカな母親に、そんな強固な絆があるわけないじゃないですか」

「なんてことを言うの!」

「では、息子さんの嘘を暴いていきますね。まず、法律上、離婚すれば私には一切の扶養義務はありません。ですから、お金を振り込む言われはないです」

「だから、別居と離婚は違うでしょ。全く、これだからダメ嫁は」

「大輔さんが離婚してないって言ったなら、証拠を見せますよ」

「証拠って何よ? あなたが勝手に騒いでるだけでしょ」

翌日。

「しずえさん、今送った写真、確認できますか?」

「何これ? 戸籍の写し?」

「はい、私の現在の戸籍です。住所とかは隠してますけど、よく見てください。見えないなら、老眼鏡を使ってくださいね」

「失礼ね。そんなのなくても見えるわよ」

「では、よく見てください」

「……な、何なのよ、もう。こんなの見て何になるの? ……って、これ、大輔の名前がない!」

「そうです。もう席はありませんよ。一ヶ月前に離婚が成立してますから」

「嘘よ。そんなはずない」

「役所の正式な書類です。なんなら、大輔さんの戸籍を取り寄せてみれば、そこにも私の名前はありません。分かりましたか? 息子さんは嘘をついてたんです。あなたの愛する息子さんは、嘘つきだったんですよ」

「そんな……あの子が私に嘘なんて……」

「ショックですか? でも、これが現実です。息子さんを信じてらしたのに、裏切られた気分はいかがですか?」

「こんなの、何かの間違いよ。いや、違うわ。あの子だってプライドがあるもの。きっと、言いづらくって。それで、まだ言えてないだけなのよ」

「プライド? そうよ。離婚だって、あなたが頼りないからでしょ。大輔さんが愛想を尽かしたに決まってる。ただ、世間体が悪いから隠してるのよ」

「離婚理由は、浮気ですよ」

「大輔が、浮気?」

「はい、浮気です。私と結婚してるのに、別の女性と肉体関係にありました」

「嘘よ。うちの大輔がそんなことするはずないわ」

「何ですか、この写真は」

「何って、大輔さんが若い女とホテルに行く写真です。あと、ホテルのレシート、女とイチャついてるLINE、その他諸々の証拠です」

「これ、本当なの?」

「はい、本当です。あなたの息子は、嘘しかつけない最低野郎です」

「そういえば、しずえさんって、旦那さんがDVで仕方なく離婚したんですよね。女手一つで大輔さんを育ててきたって、結婚式で涙ながらに語ってましたね。あれには私も感動しました」

「そうよ。あの子は私の全てなの」

「でも、それ、嘘ですよね」

「何を言ってるの?」

「本当は、あなたの浮気や金遣いの荒さが原因で捨てられたんでしょ? 親戚からこっそり聞いたんですよね」

「そんなことまでバレてたの?」

「まさか、浮気症も息子さんに遺伝するなんて。クズな遺伝子がばっちり遺伝してましたね。それに、足が悪いのだって痛風でしょう。贅沢な食事やアルコール摂取を繰り返した結果、体を壊すまで贅沢できたのは、私の振り込みがあったからです。もう二度と、贅沢な生活はできないと思ってくださいね。これからは生活水準が激下がりするでしょうから」

「困るわ。私はあまり働けないのよ」

「痛風だと大変ですもんね。ああ、ついでに、もう一つ嘘を教えておきますね」

「まだあるの?」

「あなたの息子さん、今、契約社員なんですよ」

「え? 契約社員? 嘘よ。正社員のはずでしょ?」

「浮気がバレて、会社を首になりましたよ。何せ、社内不倫でしたから。それに、今は慰謝料の支払いもあります。なので、母親に仕送りする余裕がないんですね。お母さんにお金の無心ができないから、元嫁の私に頼るように仕向けてたんです。生活費は、あなたの善意じゃない。息子さんの卑劣な計画だったんですよ。義母の治療費と言えば、私が断れないと計算してた。だから、私は生活費ではなく治療費を振り込んでるつもりでしたよ。あなたに生活費と言われるまでは。まさか、そんな実の母親に嘘をついて、嫁も騙して。これが、優秀で真面目な息子さんの正体です。どう思われますか?」

「信じられない……あの子がそんな……」

「現実を受け入れてください。これが、あなたの息子さんの本当の姿です」

その頃、大輔に電話がかかってきた。

「大輔、私に嘘をついてたの?」

「え? 何? 母さん、いきなり。答えてちょうだい。離婚って何?」

「ああ、まり子から何か聞いたのか。離婚してるって本当なの? しかも、不倫で仕事も首になったって」

「いや、それはまり子が大げさに言ってるだけで……」

「戸籍の写しまで見せられたわよ」

「ああ、バレちゃったか。でも、仕方なかったんだよ」

「仕方ないって何よ。私に嘘をついて」

「別に嘘じゃないよ。ただ、離婚のことを言ってなかっただけで」

「言ってなかっただけ? それを嘘って言うのよ」

「言わなかったことを嘘って言わないでくれよ。それに、母さんの生活費は必要だろ。まり子にも少しは面倒を見てもらわないと」

「でも、あなた不倫したんでしょ。慰謝料だって払ってるって」

「そうだよ。だから俺も苦しいんだって。月に十五万も取られてんだよ」

「十五万も?」

「そんなに払ってるなら、まり子さんもあんなに怒らなくてもいいのに、ね」

「だろ? 母さん、俺だって慰謝料払わされて大変なんだ。それなのに、悪者みたいに言われて、侵害だな」

「そうよね。ごめんなさい。あなたも大変なのね。全く、うちの大輔を苦しめて。浮気だって、向こうが冷たかったからだし。俺だって好きでやったわけじゃない」

「そうよね。浮気なんて、嫁がちゃんとしてないからだし。浮気される方が悪いに決まってる」

「結局、女って自分のことしか考えないんだよ。俺の立場なんて、どうでもいいんだ」

「かわいそうに。まり子さんは、あなたの気持ちを全然分かってくれなかったのね。しかも、今度は母さんまで攻撃して。ひどいわ」

「本当にひどい子だわ。あなたを追い詰めて平気なんて」

一方その頃。

「まり子さん、やっぱり生活費はあなたが払うべきよ。離婚しても、情くらいあるでしょ。大輔さんは、本来私に振り込むはずの生活費をあなたに取られてるの。だから、あなたが私の生活費を払うのは当然よ」

「なんという傲慢さ。すごいですね。あの、あなたが慰謝料なんて請求しなかったら、あの子だってお金の心配をせずに済んだのよ」

「いい加減にしろ。何なんですか? 浮気を我慢してきた私に、まだ息子さんの尻拭いをしろって言うんですか? 私はもうあなたの娘でもない。もう十分すぎるほど尽くしました。これ以上は無理です。確かに夫婦でしたが、もう他人です。他人の分際でお金を無心してくる人と関わり合いたくなんてない」

「まあ、なんて口が悪いのかしら。とにかくお金を振り込んで」

「そりゃ困りますよね。月三十万ももらってたのに、いきなりゼロになれば生活が成り立たない。家の支払いとかできますか? できませんよね」

「そうよ。困るのよ」

「知りませんよ。もうダメ嫁はいなくなりましたから、関係ないんです。そして、あなたは私を徹底的に怒らせた。その報いは受けてもらいますから」

一時間後。

「お金の件、どうにかならないか」

「はい? 何の話?」

「生活費だよ。まり子さんは何を言っても聞いてくれなくて、もう振り込んでくれないんだ」

「ああ、それか。でも、俺も今厳しいんだよ。契約社員だし、給料安いんだ。それに、慰謝料も払ってるし」

「厳しいって。でも、息子でしょ。母親を見捨てるつもり?」

「見捨てるとかじゃなくて、本当に金がないんだって。三十万だよ。たった三十万も出せないの?」

「たった? 俺の手取り二十万ちょっとなのに、どうやって三十万出すんだよ」

「じゃあ、十五万でも十万でもいいから」

「そんな金ねえんだよ。自分で何とかしろよ。俺だって借金あるし、母さんまで面倒見れるか?」

「ひどい子だわ」

「うるさい。大体、息子だからって何でもできるわけじゃない。もう知らねえ。連絡してくんな」

「待って、大輔!」

「こっちだって大変なんだってのに。……やっぱり女は自分のことしか考えてねえな」

「そんな……あなたまで、私を捨てるなんて」

その頃、まり子の元に大輔から電話がかかってきた。

「お前が母さんに変なことを吹き込んだから、面倒なことになったじゃねえか」

「私からお金も信頼も奪ったのはそっちでしょ。さっきLINE来たわよ。ブロックされたって。母親を切り捨てるなんて、最低ね。けど、自業自得よ」

「ああいう人、自分がひどい目にあっても学ばないから。代わりに、あの人が大切にしていたものを潰そうと思うの」

「何の話だよ」

「あのさ、あなた、慰謝料も踏み倒してるわよね。弁護士に相談してたの。まだ振り込みがないって。そして、今回のことがあったから、時間はかかるけど、差し押さえの手続きを取ることにしたわ」

「ちょっと待てよ。そんなことしたら……」

「踏み倒せないわよね。私、反省したの。あの時、情をかけたのがいけなかった。徹底的に叩き潰さなかったのは、私の落ち度。こんな悔しい思いをするくらいなら、さっさとそうしておけばよかったって」

「待ってくれって。ちょっと話し合おうな。給料差し押さえとか、マジでやめてくれよ。せっかく新しい仕事決まったのに、会社にバレたら首になる」

「ごめん。本当にごめん。もう二度としないから」

「で、浮気して私の気持ちを踏みにじったくせに、それだけじゃなく、私の母親のことまで利用して金を搾り取ってた。私が一番辛いと感じてた、母親を助けられなかった罪悪感につけ込んで、治療費が必要と嘘をついて騙してたのは誰? 私の母子家庭という境遇を聞き出して、それを利用して、私の心の傷を、あなたは金を絞り取るための道具として使ってた。ここまで卑劣だとは思わなかったわ。このクソ野郎」

「職場にバレたくないって言ってたけど、バレて困ることをしてるのが悪いんでしょ」

「頼む。許してくれ」

「許さない。絶対に許さない。差し押さえが始まれば、会社にも当然バレるわ。たとえ転職しても、手続きしてやる。どこに行っても、浮気して慰謝料請求されてることは、全部バレるでしょうね。そうなったら、今度こそ本格的におしまいよ」

「そんな……そんな……」

「もう二度と、私に関わらないで。あなたみたいなクズと関わった時間が、人生最大の無駄だったわ」

その後、しずえは息子から裏切られ、さらに一部連帯保証人にされていたことで借金を背負うことになった。あれだけ息子が好きなら、借金くらい肩代わりできるだろう。ボロボロのアパートで、ギリギリの生活。それどころか、一日食べられない日もあるそうで、支援を受けて生活していた。あの人はもう、再起不能だろう。

大輔は、職場でこれまでのことが全て露見してしまい、人生の再起が潰えた。生活苦で借金をし、現在は借金地獄へと逆戻りし、人生に絶望している。頼れる母親を、自分で切り捨てたのだ。今後は、孤独に生きていくことだろう。

一方、私は新しい職場で充実した毎日を送っている。そして、離婚の経験を糧に、女性の権利に関するボランティア活動も始めた。人を見下して利用しようとする人は、最終的に誰からも相手にされなくなる。残念ながら、一部では女性だからという理由で見下されたり、不当な扱いを受ける人もいる。そんな人が一人でも減るように、私は私が経験したことを生かして、誰かの役に立ちたい。今は、そう思っている。

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