夫の母から速達で離婚届が届いたとき、私は台所で味噌汁を作っている最中だった。「家に尽くせない嫁はいらない。今すぐ記入して出してきなさい」。受話器の向こうで、義母はそう言い放った。二年間、私はずっと我慢してきた。夫の浮気も、姑の嫌がらせも、すべて飲み込んできた。でもその瞬間、心のどこかで何かが弾けた。「ありがとうございます。今日は最高の日です」と私は答え、すぐに書類を書き上げて提出した。夫は「…

夫の母から速達で離婚届が届いたとき、私は台所で味噌汁を作っている最中だった。「家に尽くせない嫁はいらない。今すぐ記入して出してきなさい」。受話器の向こうで、義母はそう言い放った。二年間、私はずっと我慢してきた。夫の浮気も、姑の嫌がらせも、すべて飲み込んできた。でもその瞬間、心のどこかで何かが弾けた。「ありがとうございます。今日は最高の日です」と私は答え、すぐに書類を書き上げて提出した。夫は「...

義母からの電話は、いつものように一方的な説教から始まった。

「ねえ、みささん、もっとうちに顔を出せないのかしら?息子の嫁として挨拶回りに付き合うとか、もっと内助の功で夫を支えるってことができないの?今回の集まりだって兄嫁たちに任せっぱなしで、一体何を考えてるのかしら?親戚もみんな言ってるわよ。拓也はどうしてあんな女と結婚したんだって。」

「私なりに精一杯やってるんですが、ご期待に添えず申し訳ありません。」

「でも私も働いてるのよ。あんたのパートみたいなスズメの涙の稼ぎなんて、あってもなくても一緒なのよ。あのね、うちは本家なの。正月は嫁が実家に帰省して、親戚はもちろんご近所さんにも挨拶回りするのが決まりなのよ。他の嫁はみんなちゃんとやってるっていうのに、あなただけだからね。こんなはすれ嫁をもらって、拓也も見る目がないわよ。」

「ご期待に添えず申し訳ありません。」

「これ以上私たちに恥をかかせるなら、拓也にもそれなりの対応を取るように言いますからね。年収4000万の有能な息子をなくして困るのはあなたの方なんだから。もう少し考えて行動した方がいいわよ。もっと賢くなりなさい。」

通話を終えて数分後、今度は夫の拓也からLINEが来た。

「お母さんからLINEが来たんだけど、『実家に帰省しなくてもいい』って言ってたわよね。どうしてお母さんからここまで文句を言われないといけないのよ。」

「そんなの聞き流せばいいだろう。俺は仕事で忙しいんだから。そんなことで連絡してくるなよ。義母とうまくやるのも嫁の仕事だろうが。」

「義母と嫁が衝突しないようにうまくやってくれるのも、旦那の仕事じゃないの?」

「俺が食わせてやってんだから文句言うなよ。偉そうなことを言うなら俺より稼いでから言うんだな。あと、クリーニング出しとけよ。明後日は会食の帰りにうちに茂木田さんと三井さんを連れてくるから、食事の用意もしておくように。返事は?」

「はい、分かりました。」

「お前の価値なんて俺に従順であるかしかないんだから、ちゃんとやれよな。」

その日の夜、友人からランチの誘いが来た。

「ねえ、みさ、今度ランチ行こうよ。暇?」

「行きたいのは山々なんだけど、ちょっと旦那と義母とごたついてて。」

「まだ離婚してなかったの?もう離れなって。そもそも結婚だって反対してたのに。マジで近年稀に見るクズだって。」

「まさにその反対が身に染みてるところ。ごめんね。心配ばっかりかけちゃって。」

「みさのことだからうまくやるって信じてるよ。なんかあったらいつでも相談に乗るからね。」

それから一ヶ月後、今度は義母から封書が届いた。宛名はみさ宛て、速達で。

「みささん宛てに速達で郵便物を送ったんだけど、届いてるかしら。」

「すみません。まだポストを確認してなくて。今確認しますので、少しお待ちください。」

数分後、みさは電話口で声を震わせた。

「あの、何の冗談ですか?離婚届を送ってくるなんて。しかもこれ、拓也さんの分が記入済みなんですけど。どういうことですか?」

「あなたが悪いんでしょ?親戚の集まりがあるから、今度こそ手伝いで顔を出しなさいって言ったのに、それを無視して。家に尽くせない嫁なんていらないのよ。今すぐ記入して、五分で提出してきなさい。拓也の妻でいられるのが年収4000万の息子と結婚できたっていうのに、本当にバカな娘ね。自分のプライドなんかのせいでバカになるんだから。」

「何?ショックで言葉も出ないのかしら?今更後悔したって遅いわよ。」

「ありがとうございます。」

「ああ、なんですって?」

「今日は最高の日です。ありがとうございます。早速私の分を記入して、離婚届を提出してきますね。」

「強がっちゃって。提出ができたらすぐ荷物をまとめて出ていくのよ。いいわね。」

「はい。喜んで。」

三十分後、みさは友人に電話をかけていた。

「ねえ、義母から速達で既成の離婚届が送られてきたんだけど、何それ?マジやばすぎない?しかも拓也の分は記入済みって、どういう神経してんだろうね。」

「さすがにもう我慢する必要ないじゃん。」

「うん。これ以上我慢するのはさすがに馬鹿らしいから、今出してきたところ。」

「さすがみさ。元夫にはもう行ったの?」

「これから報告するところ。」

「おっしゃ。行ったれ、行ったれ。」

数分後、みさは拓也に連絡を入れた。

「今、離婚届を出してきたわ。」

「お、早いな。もっと泣きつくLINEが来るかと思ったわ。俺は一週間出張で家を開けるから、その間に荷物をまとめて出てけよ。もし出てかなかったら、業者でも何でも使って追い出すからな。」

数週間後、拓也から突然の電話がかかってきた。

「おい、お前、いつの間に株なんか買ってたんだ?」

「離婚したのに連絡してくるからおかしいと思ったわ。なんで私の保有株式なんて知ってるのよ。」

「ばーさんが財産分与だのなんだので揉めるのは面倒だから、離婚後でもいいから書類を作るように言ってきたんだよ。」

「まあ確かに、面倒はない方がいいからな。それで家を整理してたら、お前宛ての株配当の書類が残ってたんだよ。」

「ああ、バタバタしてて置き忘れたかもね。あなたが一週間以内に出ていけなんて無茶言うから。でもそれは私のお金で買ったものだし。」

「結婚してから買ったもんだろう。だったら分配対象だろうが。生活費は俺だって出してたんだ。俺の出した生活費を流用して買った株かもしれないだろう。弁護士に、共有財産の分配と結婚後に購入した株式の分配は正当な離婚の財産分与に当たるって言われてんだ。」

「だったら、あなたも財産分与に応じて貯金を私に支払わないといけなくなるわよ。どっちの方が得か考えた方がいいわ。」

「何度も言わせるなよ。ごねるなら、それこそ裁判でもするか。お前にそんな金があるわけもないだろうけどな。」

「共有財産を分配してでも、私から株を取り上げたいのね。」

「だから、何度も言わせるなよ。」

「あ、分かった。結婚してから買った株は四社分よ。だから二社をあなたに譲る。それでいいわね。ビークエンシーとマークマントル。納得できる?」

「聞いたことねえな。今の株価と会社運営に問題がないかチェックするから待て。」

「意外と用心深いのね。どうぞ。お好きなだけ調べてください。」

数日後、拓也から連絡があった。

「お前が提示してきた二社の株を俺に譲るってことで手を打ってやるよ。」

「確認した上で了承したってことね。念のため、名義変更とかはちゃんと弁護士通してやらせてもらうからな。」

「了解したわ。それと、共有財産の分配金は通帳も送っただろう。分配金は四百万だ。」

「年収4000万にしては少ない貯金額ですこと。」

「まあ、あれだけ派手に同僚と飲み歩いたりしてればそうなるか。」

「それも立派な営業だっつうの。お前みたいな主婦にはわかんねえんだよ。それに、結婚する前に投資に回したりして、手元の現金がそこまで残ってないだけだし。」

「でも、結婚する前の財産は分配の対象外だ。残念だったな。」

「そうね。それじゃあ、これで本当にさようならにしましょう。」

「ああ、マジでクソ嫁だったわ。もっと従順なやつを探さないとだめだな。」

「次の結婚がうまくいくことを祈ってるわ。」

数時間後、みさは友人と乾杯していた。

「離婚後の財産分与、終わったわ。これで心置きなく飲みに行けるわよ。」

「おめでとう。長かったね。やっとだわ。すぐお店を予約する。ところで、どの会社の株を分配したの?」

「マークマントルとビークエンシーよ。」

「ああ、なるほどね。いいチョイスしてんじゃん。」

「でしょ。でも私、何にも悪いことはしてないわ。向こうも自分で調べて、そこでいいって納得してることだし。」

「そうね。この後のことは、知ったこっちゃないって感じだわ。今日はうまい酒が飲めるわよ。」

数ヶ月後、拓也から怒鳴りの電話がかかってきた。

「お前、なんて株を渡してきやがったんだ、この野郎。マークマントルは粉飾決算が発覚して株価が暴落するし、ビークエンシーは製品不良で集団訴訟、上場廃止。二千万も損失が出たんだぞ。」

「知らないわよ。私にその二社の暴落を予想できたと思う?株価の変動が分かって取引できる人間なんていないでしょう。あなたが納得して、その二社でいいって言ったんじゃないの。」

「だからって、こんな都合よく二社どっちも落ちるなんて、仕組まれてるとしか思えねえ。」

「そんなことできないって分かってるでしょ。運がなかった。それだけの話よ。株ってそもそもそういうものだから。」

その夜、みさは友人に笑いながら言った。

「ねえ、あの二社、見事に落ちたわね。ここまでひどいとは思わなかったけどね。そろそろ売っちゃおうと思ってたところだったし、ちょっとついでに暴落してくれたらラッキーくらいに思ってたけど。」

「みさの直感って、びっくりするくらい当たるよね。株の損切りのタイミングも天才的だし。離婚と暴落のタイミングが噛みすぎたわ。怖いくらいだよ。私のこの変な勘を信じてくれた人、それはこっちも同じだから。ていうかさ、そろそろ聞かせてくれない?悪いこと、悪い人の勘が当たるみさが、わざわざ拓也さんと結婚した理由。」

「うーん。言っちゃえば、仕返しかな。」

「仕返し?」

「うん。仕返しなんて生ぬるいものじゃないわね。」

「どこからどこまでが先の仕込みなの?」

「うん。仕込みというほどのことは必要なかったわね。もちろん、結婚すればより地獄に落とせると思って準備してきたことはあるけど、それ以上の転落は私の仕込みに関係なく自業自得ね。これからあの人は私と離婚したことで、ドミノ式に悪いことが起こる。そんな予感がするの。」

同時刻、拓也の実家では母親が息子に電話をしていた。

「ねえ、拓也。あなたの会社、大丈夫なの?連日ワイドショーに出てくるじゃないの。」

「俺みたいな営業にまで話が降りてくるわけないだろ。俺だって知らなかったよ。朝のワイドショーで知ったんだ。」

「経営は大丈夫なの?このスキャンダルのせいで取引先も離れていくでしょう。息子の暴行事件の揉み消しに、会社の経費から慰謝料を払って横領なんて。」

「ああ、俺もこれからどうなるかわかんないんだ。今LINEしてくるのはやめてくれ。何も答えられることがないんだよ。」

「待ちなさい。拓也。」

数日後、母親は霊媒師の元を訪れていた。

「霊媒師の由香先生ですか?とにかく当たると評判だと、いろいろな方からお聞きしました。お願いです。息子を止めていただきたいんです。」

「事前に情報をお伺いしておりますが、息子さんはミクスチャラにお勤めなんですね。大手の上場企業でしたが、あのスキャンダルを耐え抜けるかどうか。」

「何か悪いものが憑いてるんですか?」

「息子さんの直近の写真を見せていただきましたけど、かなりまずいですね。黒いオーラがまとわりついていて、転落していく証拠が見えます。」

「そんな。なんとかならないんですか?お祓いするとか。」

「まず、私にお祓いする力はありません。あくまで見る力なんですよ。そして大前提として、霊視は占いとは異なります。霊視は基本、見えるものからいい兆候、悪い兆候をお伝えしているんですが、私の場合はこれから人間が辿っていく道が色で見えるんです。そして息子さんですが、この黒さはかなりの人間から恨みを買っているようにも感じます。」

「恨みですって。最近、誰かとの別れを経験したりはしていませんか?例えば離婚したとか、彼女や婚約者と別れたとか。」

「離婚しました。でも、それは嫁の方に問題があったんですよ。」

「そうですか。じゃあ、お嫁さん以外にも息子さんが人から恨みを買っている可能性がありますね。こういう人間の恨みを買いすぎた人間は、遅かれ早かれ転落するようになっています。ほら、最近いろんな芸能人がスキャンダルで一発退場してるでしょ?あれも、いろいろな人の恨みが積もりに積もって足かせとなったということです。例えばA氏とB氏、どちらも既婚者で女遊びをしていたとします。A氏は女性に対する扱いが雑で金払いも悪い。一方、B氏は女性に対する扱いがスマートで毎回お金やものを渡している。何かあった時、恨みが募ってリークされる可能性があるのはどちらか、明白ですよね。どちらもやっていることがクズだったとしても、人に対する接し方で運気やその後の道がガラリと変わるんですよ。」

「それはそうかもしれないですけど。」

「霊媒師や占い師もよく言ってますよ。運をよくしたいなら人に親切にしろってね。情けは人のためならずという言葉も、情けは巡り巡って自分に帰ってくる。相手に行った理不尽な行為は全て自分に帰ってくると思って行動するのが基本ですね。とにかく、私から言えることはこれからの転落に備えること。もし恨みを買った人間に心当たりがあるなら、誠心誠意謝ること。それ以外にできることはありませんよ。そして、あなた自身も同じことです。」

「どういうことですか?」

「息子さんの直近の写真にあなたが映っている写真が一枚。あなたにも黒い霧が取り憑いているように見えるということですよ。それでは、ご相談ありがとうございました。」

数時間後、義母はみさに電話をかけていた。

「みささん、あんな風に意地悪を言ってごめんなさい。嫁は姑の言うことを聞くのが当たり前だと思ってたの。それに、大した稼ぎもないくせに偉そうな態度で実家のことを手伝わなかったから。でも、もうそんなこと言わないから。お願い、許して。私たちを許してちょうだい。このままじゃ家が破散しちゃう。」

数分後、今度は拓也の電話が鳴った。

「みささんに謝りなさい。すぐによ。土下座でも何でもしなさい。それから、他に何か悪いことをした心当たりのある人がいるなら、謝りなさい。」

「いきなりなんだよ。」

「何でもいいから言うことを聞きなさい。あなた、地獄に落ちたいの?」

「マジで意味わかんないし怖いよ。もうほっといてくれ。」

数日後、拓也はみさの職場にまで押しかけてきた。

「みさ、あの、俺、本当にみさに何か恨まれることしたか?これ、全部お前の呪いなのか?」

「オカルト話?どうしたのよ。幽霊でも見た?」

「冗談で言ってんじゃねえんだよ。最近、母さんがおかしいんだ。霊媒師かなんかに見てもらったのか知らねえけど、俺が人の恨みを買ったせいだって。会社もマジでどんどん良くない情報が週刊誌で連発されてて、もう今月の給料から払えないって通達が来てるんだよ。でも、何人かはすでに転職が決まって逃げたやつもいて、俺はその波に乗れなかったんだよ。ここまで悪いことが重なると、オカルトだって信じたくなるだろう。」

「うん。まあ、自業自得じゃない。」

「どういうことだよ。」

「だって、私の顔を見ても名前を聞いても思い出しもしないで結婚までするような最低な男だからね。浜田沙紀、覚えてないの?あんたが二十歳から二十六歳まで六年間交際して、結婚の約束をしていた人の名前よ。」

「なんでお前から沙紀の名前が出てくるんだって、聞いてんだよ。まさか友達だったのか?」

「私は沙紀の双子の姉よ。」

「は?」

「中学生の頃に親が離婚して、私は父さん、沙紀は母さんに引き取られたから苗字は違ったし、一卵性の双子だから分からないかもしれない。でも私はね、あんたに近づいた時、沙紀の洋服を着てたわ。沙紀の鞄を持ってたわ。何も気がつかないなんて、本当にクズよね。」

「そりゃそうか。結婚の約束をしていたのに、他の女と三股かけてたんだから。沙紀がどれだけ傷ついたか知ってる?知らないわよね。うつになって、ご飯も食べられなくなって。本当に恨んでるなんてもんじゃないわ。絶対に不幸になってもらわないと割に合わないのよ。」

「だ、頼むよ。もう過去の話じゃないか。それに沙紀にはちゃんと慰謝料も払ったし。」

「お金の問題じゃないんだよ。沙紀があんたに近づいて復讐してやるって言ったら、止められたわ。友達にも、あんたと結婚すれば間違いなく不幸になるって言われた。でも、これは私が私のために決めた復讐なの。もし一度でも沙紀の名前が出れば、その時点で説明して結婚はしなかったかもしれないけどね。」

「そんな。頼むよ。もう許してくれよ。ここまで不幸になってんだぞ。お前と結婚したせいだけじゃ済まないくらいの転落だろ。」

「あなたと結婚したのは、絶対浮気するって分かってたから。情報を集めて、社会的に追い詰めて離婚してやろうと思ってたの。調べはついてるのよ。私との結婚生活二年の間にも、三人と浮気してるものね。」

「違う。そんなの本気じゃないって。結婚したんだから、みさが本命に決まってるだろう。」

「本気じゃなかったら女遊びしていいと思ってることが気持ち悪いのよ。だったら遊んでる方がよっぽどスマートで誠実だからね。それに、あなたから離婚を突きつけられなくても、方法はいくらでもあったの。今回はお母さんが暴走したから、一番いいルートに進めただけ。株の譲渡なんて私は想定してなかったもの。ラッキーだったわ。そんなことよりも、いいことを教えてあげる。私の悪い予感はね、ほぼ百パーセント当たるの。会社も近いうちに良くないことになる予感はあった。でも、その時点で私が何か特別な情報を持っていたわけじゃない。ただ予感がしていただけ。」

「ああ、俺のことは最初から見抜いてたってことか。結婚したのが間違いだったってことか。」

「別に株のことがなくても、あなたが落ちていくことなんて決まってたわ。さらに、私に隠れて浮気して捨てられた女性たち。それ以外にも、どれだけの人間がいるのかしらね。それともう一つ、いいことを教えてあげる。あなた、私が何か言うたびに『もっと稼いでから文句言え』って言ってたけど、私、MSKの代表取締役だから。調べたら出てくるわよ。成長企業IT部門でランクインしてるし。年収は八千万だから、あなたの倍稼いでるわよ。」

「そんな嘘だろ。ありえない。だってお前、会社の事務受付って言うじゃないか。」

「稼げる女なんて好みじゃないでしょ。まあ、私のことを調べられたら終わりだったけど、そうしないことも計算済み。あなたが私と結婚したいと思った理由は、控えめで大人しくて、見た目がタイプ。それだけでしょ。あなたの好みの女性は調べ尽くしてたから、寄せるのは簡単だったわね。ここまで綺麗にことが運んでくれて、私は大満足。どうもありがとう。」

「頼む。許してくれ。お願いだよ。俺もう十分反省したから。」

「あら、離婚した元嫁にすがるなんて、寄生虫みたいなことはやめてちょうだい。それじゃあ、さようなら。」

数ヶ月後、みさは友人と報告を兼ねて電話していた。

「いやあ、倒産したね。」

「ミクスチャラもやばいことになってるし。ちなみに拓也には浮気不倫の慰謝料も請求してあるわ。百万円。少ないくらいでしょ。もっと絞り取れないもんかね。」

「婚姻期間が短かったし、財産分与もした後だったしね。でも、拓也の浮気相手の中に既婚者がいたから、相手側に情報も渡してあるの。その人の話では、慰謝料八十万請求することになったって。で、株の損失が二千万でしょ。学費で貯金もほぼないって言ってたし。」

「うん。まあ、地獄確定か。」

「ああ。ああ、もう一人忘れてた。リボはどうなったの?」

「今回のことがご近所に知れて、白い目で見られるようになったみたい。拓也のお兄さんとか奥さんから、あれこれLINEが届くわよ。まあ、最終的にお金の無心になるからブロックしたんだけど。とりあえず実家は売り払って、義母は田舎の親戚の家に引き取られですって。」

「あー、そんな貧乏神を呼び寄せるなんて物好きね。その家もそのうち不幸が起こって没落だわ。」

「怖い怖い。由香の霊視の当たる率は恐ろしいものがあるからね。大企業の社長さんも役員決めのために彼女に霊視を頼むんでしょ。すごいわよね。」

「うん。まあまあ、所詮オカルトだから、信じるか信じないかはあなた次第ってやつでも、信じてくれた人にいい効果をもたらす自信はあるよ。一応仕事として霊視してるプロですから。」

「私も由香に出会えたのは、この勘の良さのおかげだと思ってるから。悪いことばっかりじゃないもんだね。それにしても、まさか双子の妹のための復讐だとは思わなかったわよ。」

「ものすごい強い意思だったから、反対しても無駄なのは分かってたけどね。心配かけてごめんね。妹の元婚約者なんて言ったら、何が何でも止めると思ったから。」

「まあまあ、結果オーライってことで。妹さんは今どうしてんの?」

「北海道に引っ越してから、リゾートで楽しく住み込みで働けてるみたい。あとはいい出会いに恵まれるのを待つばかりね。」

「でも、最近の沙紀を見てる感じ、そろそろな感じがするんだけど。」

「みさの勘は百パーセントだからね。いい報告が楽しみだわ。」

その後、拓也からは何度か慰謝料の支払いの件で連絡があった。みさから譲渡された二つの株が暴落し、配当金でローンを払う計画が崩れ、優待も停止。担保にしていた株価が下がったことで証券会社から入金を迫られ、自分でも保有していた株を手放すはめになった。年間で数百万円は受け取っていた配当と優待がゼロになったことに加え、慰謝料の支払いもしなければならなくなった。年収四千万あったとはいえ、彼は浪費癖が激しく、キャバクラで派手に使うのが趣味だったので、財産分与をした後の貯金がめべりしていくのも折り込み済みだった。結局拓也は消費者金融とカードローンに手を出し、借金は雪だるま式に膨らんでいるそうだ。ただ元々大手商社に営業で勤めていた人間。経歴自体は優秀なので、給料の良さで飛びついた会社に即採用されたはいいものの、相当なブラック企業に当たってしまったんだとか。朝から晩まで働いて会社に泊まり込みはしょっちゅう。車内のいびりや上下関係も厳しい。転職したくても転職先を探す時間もない。「心が死んでいく感じがする。俺はこのまま死ぬんだろうか」と弱音がぽつぽつとこぼれる。ああ、みさには関係ないので、しっかり慰謝料は支払い続けてもらう。延滞すれば職場に連絡して給料を差し押さえてもらう取り決めだからね。

一方、みさは由香と一緒に、沙紀が移住した北海道へ遊びに行く予定だった。妹の敵を取って、自分も体が軽くなった。人の恨みはなるべく買わないように。そして理不尽に対しては百倍返し。人生の主役は自分。誰にも主導権を渡さないようにしていきましょう。

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