「結婚式、ドタキャンするわ。車椅子の血管女と本気で結婚すると思ったか?ただのドッキリだよ、バカ」…

「結婚式、ドタキャンするわ。車椅子の血管女と本気で結婚すると思ったか?ただのドッキリだよ、バカ」...

かおりの結婚式まで、あと数か月に迫っていた。式場の準備、新居の契約、招待状の発送。やることは山積みだが、佳織はどこか晴れやかな気持ちでいた。車椅子の自分を、こんなにも大切にしてくれる人がいる。それだけで十分幸せだった。

「こ介さん、車椅子の私なんかをお嫁さんにしてくれて、本当にありがとう」

「何言ってるんだよ。車椅子だからって引け目を感じることなんてないよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私、できないことも多いから。その分、周りに迷惑をかけちゃってるって自覚してるの」

「そんな寂しいこと言うなよ。俺はお前の世話を迷惑だと思ったことなんて一度もないから」

そう言ってもらえるのが、どれほど心強いか。佳織は思わず微笑んだ。すると、こ介が少し気まずそうに切り出した。

「あ、そうだ。実は相談なんだけどさ。ちょっとお金を貸してくれないか?」

「え、また?」

「新居の準備で家具を買いに行ってるだろ。さっき家電量販店から電話があってさ、家電の保険が支払われてなかったんだって。クレカで一括で買ったせいで、限度額ギリギリになっちゃって。五万だけ立て替えてくれないか? 家電って壊れやすいし、保証は必要だろ」

「確かにそうね。分かったわ。私の代わりに色々手続きしてくれてるし、保険代くらいは持つわよ」

「ありがとう。助かるよ。かっこつけて一括で支払ったのが悪かったな」

佳織は、その時は何の疑いも持たなかった。婚約者を信じるのは当然のことだと思っていた。しかし、その日の夜、世話係のり子に相談せずにはいられなかった。

「り子さん、今いいかしら?」

「これは、かおり様。いかがなさいましたか?」

「ちょっと相談したくて。私は事故で両親をなくして、相談相手もいないでしょ。り子さんがずっと私のお世話をしてくれて、本当に助かってるの。だからこんな相談をするのは心苦しいんだけど……こ介さんがおかしくって」

「こ介様が?」

「結婚の準備でお金がいるのは分かるの。私もお金を出すつもりだった。でも最近、何かとつけてお金をせびってくるのよ。最初は新居の頭金が足りないって言って、次は両親への挨拶用に高級腕時計を買いたいって、その次は式用のオーダースーツ代が予算オーバーだって。ちょっと変だなと思って」

「なるほど。確かに不自然なお金の借り方をしていますね」

「やっぱりそう思うよね。最近、こ介さんがお金のことばかり言うの。このままだと厄介でしょ。だから、調べてもらえないかしら?」

「かしこまりました。金の切れ目が縁の切れ目。こういう話は白黒はっきりつけておいた方がいいですね」

「ごめんね、手を煩わせて」

「何をおっしゃいますか。これくらい大したことありませんよ」

二か月後。佳織はリハビリを終えて、待っていたこ介の顔を見た。

「今日もリハビリお疲れ様。迎えに来たよ」

「ありがとう。今日はいつもより調子が良かったの。いつも迎えに来てくれて、本当にありがとう」

「調子良かったのか? よかった。俺も佳織が元気だと嬉しいよ」

「ねえ、ちょっと相談があるんだけど」

「何だ?」

「親戚の挨拶周りのお菓子を買うのに、四万円ほど使っちゃって。半分持ってくれないかな?」

「また? この前も新居の件でお金を……」

「ああ、そうだった。でもこれは結婚前の大事な挨拶だし、佳織の印象にも関わるからさ」

「私の印象?」

「そうそう。俺の親戚って結構厳しい人たちでさ、嫁がどんな人かってすごく気にするんだよ。安いお菓子持って行ったら、こ介の嫁はケチなのかって思われちゃうだろ。佳織のメンツに関わるよ」

「確かに、結婚前だし印象は大切よね」

「だろ? それに佳織は俺と違ってお金持ちだしさ。二万円くらい、佳織には下金だろ?」

「お金って、そんな風には思わないわ。このお金は両親が私に残してくれたものだし」

「あ、ごめん、ごめん。そういう意味じゃなくてさ。俺みたいな貧乏人と違って、余裕があるじゃん」

「まあ、確かに多少の蓄えはあるけど」

「ほら、やっぱり。でも心配しないでくれ。結婚したら、俺が佳織を一生大切にするからさ」

「まあ、調子がいいわね。分かったわ。お菓子代、半分出すわね」

「ありがとう。佳織って本当に優しいな。俺、佳織と結婚できて幸せだよ」

その日の夜、り子が深刻な表情で報告に来た。

「り子さん、調査の件はどう?」

「かおり様。実は、とんでもないことが判明いたしました」

「え? どういうこと?」

「こ介様の過去を調べたところ、結婚詐欺が三件もありました。しかも、すべて車椅子の女性が被害者です」

「何を言ってるの? 詐欺? こ介さんが何かの間違いじゃない?」

「私もそう思い、調査に調査を重ねました。しかし、どれだけ調べても彼の身の潔白を証明できませんでした。むしろ、手口的な犯罪のようで……」

「そんなこと……」

「かおり様、今からお辛いとは思いますが、私が調べたこの二か月の証拠を全てお伝えします。これを見て、どうかご判断ください」

二時間後、佳織は全ての資料を見終えていた。こ介は、本当に詐欺師だった。佳織が希望を託した相手も、他の女性を騙した男とまったく同じ手口で近づいてきたのだ。

「結婚式費用って言ってお金をせびってきたのは、そういうことだったのね。でも、私は彼を信じたかった」

「かおり様……」

「車椅子の私に優しくて、大当たりに接してくれて、大好きと言ってくれる彼を、私も愛してたの。ねえ、り子さん。私に寄ってくるのって、変な男ばかりじゃない? 車椅子でお金を持っていて、騙しやすいと思われてるのかな? 私ってそんなにバカに見えるの? 障害があるから判断力が鈍ってると思われてるのかな?」

「そんなことありません。かおり様は聡明な方です」

「でも、結果的に私は騙されてたのよ。り子さん、私、本当に悔しい。なんで私ばっかり。優しいと思ってた人はみんなお金目当てで、車椅子の私から何かを奪っても逃げ切れると思ってる。どうしてこんな目に遭わないといけないの? 私が何をしたっていうの?」

「かおり様、このままで良いと思ってはいませんね」

「当たり前よ。あいつは私からお金を奪うためだけに、心にもない言葉で優しさをちらつかせて、裏切ったのよ。このままやられっぱなしなんて絶対に嫌だし、許せない」

「その心意気です。私も全力でお手伝いします」

「結婚式当日に、こ介を完全に追い詰める。その時まで、私は純粋な花嫁を演じ続けるわ。何も知らない、車椅子のバカ女をね」

「さすがかおり様です。では、作戦会議を始めましょう」

結婚式前日。佳織はり子と最終確認をしていた。

「り子さん、証拠は全部そろった?」

「はい。過去の被害者の方々とも連絡を取り、証言を集めております。私もこ介さんとのやり取りを全部録音してます。渡したお金の金額も、振り込み履歴も、全部証拠になるものです」

「完璧ね。さすがり子さん」

「正直、騙されてる女を演じるのは辛かったわ。あの優しい言葉が全部嘘だって分かってて、毎日、憎しみしか感じなかった。でも、それも明日で終わるのね。こ介さんの本性を暴いて、二度とこんなことができないようにしてやる」

「かおり様のお怒り、ごもっともです。悪人には相応の報いを受けさせましょう」

翌朝。佳織が起きて支度を始めようとしたところに、こ介から電話がかかってきた。声の様子がおかしい。

「ああ、佳織。それなんだけどさ。結婚式、ドタキャンするわ」

「え? どういうこと?」

「車椅子の血管女と本気で結婚すると思ったか? ただのドッキリだよ、バカ。式場に誰も行かねえよ」

「うそでしょ? こ介さん、私のことを愛してるって言ったじゃない」

「察しが悪いな。足だけじゃなく頭も終わってんのか?」

「待って、本当に結婚式に来ないつもり?」

「ドッキリだよ。車椅子のゴミと結婚なんてありえねえって。今まで金を出してくれて、サンキューな。この金で別の女と遊ぶわ」

「そうですか。それが本心ですね。ありがとうございました」

「……は? なんだよ、その態度は。お前がずっと待ってた結婚式がなくなったんだぞ。こういうのは、泣いてすがりつくもんじゃないのか?」

「泣く必要がありませんので。全て、記録させていただきました」

「記録? なんだそれ、負け惜しみか? ああ、分かった。現実を受け止められなくて、現実逃避してるんだろ」

「現実を見るのは、あなたの方よ。私はね、あなたが裏切ることは分かってたの。式に来ないってことも。だから、私も準備してたのよ」

「準備って、何を言ってんだ? 意味が分かんねえ。どうせ俺に騙されて悔しいんだろ?」

「あなたの親族、ぶち切れよ」

「ああ、親族? 俺の両親なんていないって言っただろ」

「両親はいないって嘘をついてたけど、実際は存命なのよね。住所も嘘。でもね、ちゃんとご両親を式場に呼んであげないとね」

同時刻。り子から連絡が入る。

「かおり様、こ介様のご家族が式場に到着されました」

「そう。家族はいないって言ってたけど、こうして式に来たってことは、仲が悪いわけじゃないのね」

「はい。皆様、とてもこ介様を愛していらっしゃるようです。式場に来ても、こ介様の幸せを願っている発言が見受けられます」

「挨拶にも来ていない花嫁に対して、何か言ってなかった?」

「招待は私の方で手配しましてお届けしました。その際、お母様よりご連絡をいただきましたので、ある程度のことはお伝えしています」

「ある程度?」

「こ介様がご両親に結婚を黙っていた理由は分かりかねますが、こ介様がご家族のことを大切に思われていたので、是非ともサプライズで式場にいらしてくださいとお伝えしました」

「随分、強引な誘い方をしたのね」

「急な結婚の話に驚かれていましたし、どうしてもご両親には参加していただきたかったので」

「そうね。騒がれるくらいなら、サプライズってことにしておきましょう。り子さん、真実をご両親に伝えて。本当のことをね」

「かしこまりました」

一時間後。こ介が式場に怒鳴り込んできた。

「おい、佳織! 何やってんだ! 両親がブチ切れてるぞ!」

「だから言ったじゃない。ぶち切れよ、って」

「お前、俺の親族に何か吹き込んだだろ! 呼んでもないのに式に呼びやがって!」

「ひどいわね。『親がいないもの同士、仲良くなれる』って言ってたくせに。ご両親と仲がいいなんて。あんまり連絡してなかったみたいだけど、生きてるうちに親孝行してあげないとね」

「お前がその親孝行を邪魔してるんだろ!」

「私からお金を巻き上げてる犯罪者が、何を言ってるのかしら。それに、変なことは吹き込んでないわよ。私はただ、証拠を見せただけ」

「証拠って何だよ!」

「『車椅子の血管女と本気で結婚すると思ったか』って言ったの、忘れたの? ああ、あと、あなたが私から騙し取った結婚費用。八百万の名目で今まで引き出してきたお金の証拠も見せたわ。すべて、揉め事に備えてスクショしてたのよ。他にもたくさんあるけどね。あなたのお母さんは、息子がそんなこと言うはずないって最初は信じてくれなかったけど、証拠を見せたら納得してくれたわ。銀行口座の振り込み履歴を見て、信じない人はいないわよね」

「おい、まさか全部ばらしたのか?!」

「お母さん、今泣いてるわよ。『まさか息子がそんな卑劣なことを』って。お父さんも『人様の娘を騙していたのか』って怒ってらっしゃるわ」

「両親に何てことを言うんだ! 早く誤解を解かないと!」

「誤解じゃないでしょ。あなたは結婚をちらつかせて金銭を奪った。これは歴とした詐欺行為であり、あなたは犯罪者なの。さっき、あなたのお父さんが『もう俺の息子じゃない。一族の恥晒しが!』って、それはすごい剣幕で怒鳴ってたわ。今も電話かけてきてるみたいだけど、出なくていいの?」

十分後、こ介の携帯が震え続けた。こ介は震える手で電話を切った。

「おい、何で俺の家族がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……」

「それ、そっくりそのまま返すわ。あなたが隠してたんでしょ。聞いたわよ、半年に一度、まとまったお金を家族に送ってたって。そうやって家族を言い訳にして、ずっと騙してきたんでしょ」

「そうだよ。両親も体を悪くしてるし、ばあちゃんだってまだ生きてるんだ。治療のためには金が必要だったんだよ!」

「家族のために仕方なく詐欺をしたって? 笑わせないで。そんな言い訳に使われて、あなたのご両親もかわいそうだわ」

「家族のためだったのに……なんで俺を信じてくれないんだよ!」

「同じようなことを繰り返してるわよね。被害者が全員、車椅子の女性。誰がどう見ても計画的犯行だって分かるわ。そんな悪質なことをしておいて、信じられるわけないでしょ」

式場はカオスだった。こ介の母は泣き崩れ、父は何度も頭を下げていた。

「親にこんなことをさせて、恥ずかしくないの? 早く来た方がいいんじゃない? 来ても地獄だけどね」

翌日、こ介は両親に説得されて、仕方なく佳織のもとを訪れた。憔悴しきった顔だった。

「……佳織。俺は、家族のためにやったんだ。両親もばあちゃんも病気で、治療費が必要だったんだよ。家族のないお前に、この気持ちが分かるはずがない。それなのに、俺から家族を奪うなんて、最低だ」

「家族のため? ふざけないでよ。じゃあ、どうして私だったの? 私が車椅子だから、騙しやすいと思ったんでしょ。私の障害を利用して、私の心を踏みにじったくせに、被害者面するな」

「いや、でも……お前に家族の大切さなんて、分からないだろう」

「私は事故で車椅子になった。でも、それでも人を愛することを諦めなかったし、家族と思えるくらい大切な人だっているわ。あなたよ。私はあなたを心から愛してた。結婚式を夢見て、幸せな家庭を築くことを信じてたのよ。それなのに。それなのに、あなたは最初から私を騙すために近づいた。だから私は、絶対にあなたを許さない。私にとってあなたは、家族と同じくらい大切だった。私から家族を奪ったのは、あなたよ。地獄に落ちろ。あなたの大切なものは、もう全部なくなればいいのよ」

十分後、り子が報告に来た。

「かおり様、お母様がかおり様にお詫びしたいとおっしゃっています」

「そう、でも結構よ。お母さんに罪はないわ」

「息子が取り返しのつかないことを……と、深く頭を下げていらっしゃいます。こ介様は、お父様より『お前はもう俺の息子じゃない。一族の恥晒しが』と勘当を宣告され、その場で殴られ、警備員に連れて行かれました。しかし、隙を見て逃亡。現在、警察にも通報して探しております」

「そう、逃げたの。まあ、当然よね。家族からも見放されたのだから。みんなこ介さんを愛してたのに」

「ご家族の皆様、かおり様に心から謝罪されています。すぐにでも詫びるものなら何でもすると」

「それなら、り子さん。次の準備を進めて。私たちだけでやろうと思ったけど、ご両親のご協力があった方が都合がいいわ」

「かしこまりました。ご両親には私から説明いたします。かおり様はお休みください。ここ数日、寝てらっしゃらないのでしょう」

「いろんな人と同時にやり取りしてたからね。でも大丈夫。ここで私が倒れるわけにはいかないわ。動いてくれた人たちのためにもね」

三日後、こ介はテレビのニュースに釘付けになっていた。両親が取材を受けている。「犯人の家族」として。こ介は激怒して佳織に電話をかけた。

「おい! なんだよ、あのニュースは! 俺の両親がニュースに出てたんだぞ!」

「あら、こ介さん、久しぶりね。ニュースを見てくれて、よかったです」

「なんで俺に教えてくれなかったんだ! 家族が犯人の家族だって取材受けてるなんて聞いてないぞ! ここまでするなんて、やりすぎだろ!」

「やりすぎ? あなたがやったことの方が、よっぽどやりすぎでしょ。あれから調べて、被害者を見つけたの。七人も騙して、二千八百万円も奪ったくせに、よく言えるわね」

「なんでそこまで知ってるんだよ!」

「被害者を探して、直接会ってきたの。みんな泣いて縋ろうとしたみたいだけど、あなたが懲りずに同じような女性をターゲットにしてると知って、みんな激怒してたわ。これ以上被害者を出さないようにって、被害者の全員で警察に行ったのよ。みんな、あなたに相応の罪を受けてほしいって言ってるわ」

「待てよ。俺は家族のためにやったんだ!」

「その言い訳、聞き飽きたし。そもそも、そんな理由で許されると思ってるの?」

「おかしいだろ! なんで俺だけこんな目に遭うんだ!」

「自分だけ、なんて勘違いしないで。あなたはもうたくさんの人を不幸にしたの。みんなすでに不幸で、あなただけが幸せだった。そんなの、不公平でしょ」

その日の深夜。こ介は旧友に電話をかけていた。

「おい、田中か。俺だ。緊急事態だ。逃してくれるって話、まだ有効か? やばいことになっちまって、海外に飛びたいんだ」

「あなたのお仲間は、皆、捕まりましたよ」

「は? お前、誰だ?」

「それを言う必要はありません。何が家族のためですか。グループで詐欺行為をして、結局は欲のためでしょ。その証拠に、騙し取ったお金の大半は、もう使ってしまっているようですし」

「お前、一体誰なんだよ! 何者だ!」

「しつこいですね。お答えするつもりはありませんよ。それに、私の正体を知ったところで無意味です。あなたの居場所は分かっています。もうすぐお迎えが来ますよ」

「嘘だろ? まさか田中まで……俺たち、今まで一度も捕まったことなかったんだぞ!」

「そうですか。ですが、もう逃げ道なんてありませんよ。観念なさい」

「どうして……なんでそこまでするんだ!」

「あなたは私の大切な人を傷つけたのです。それだけじゃ足りません。あなたのことを心から愛していた全ての女性に、深い悲しみを与えた。その罪を、一生をかけて償いなさい」

遠くでサイレンの音が聞こえ始めた。

「まさか、本当に俺の居場所を……」

「どこへ逃げても、必ず追い詰めます。あなたを地獄に落とす、その時まで。そうしなければ、私の大切な家族が笑顔を取り戻せませんから」

十分後、り子が佳織に報告した。

「かおり様、全て終わりました。先ほど、警察に連行されていくところを目撃しましたので」

「そう。逃げ切れなかったのね」

「結婚式の日から行方知れずで、テレビやネットニュースで取り上げられて。ようやく動きを追えたわけですね」

「今まで捕まってなかったのに、今回だけ捕まるようなミスをするのかしら?」

「さあ。ご両親にバレて、動揺してしまったのではないですか? それに、人間ですからミスをしてしまうこともあるでしょう」

「こ介さんの仲間が同時に逮捕されたのも、居場所がピンポイントで分かったのも、全部たまたまだって言うの? っていうか、被害者の女性を全員見つけたり、そもそも隠してたこ介さんのご両親に連絡を取ったり……り子さん、あなた、一体何者なの?」

「ただの家政婦ですよ。それに、私が何者かなんて、どうでもいいじゃないですか。大切な人を助けるのに、理由はいりません。かおり様は、私にとって娘同然のように見守ってきた、大切な方です。あなたがまた笑って暮らせるようになればいい。そう思って行動したまでのことです。そこに、深い意味はありません」

「本当にありがとう。り子さんがいなかったら、私はどうなってたか分からないわ」

「何をおっしゃいますか。かおり様は私の誇りです。これからも、一緒に歩んでいきましょう」

その後、こ介には懲役十年の判決が下った。出所後も、家族からも社会からも完全に見捨てられ、全財産を失った。さらに、詐欺被害者の会が結成され、追加で五百万円の損害賠償請求も行われた。社会復帰もできないまま、こ介はホームレス状態で孤独の中で生きていくことになった。

一方、佳織は今、り子と一緒に静かに暮らしている。両親を失い、そんな佳織にずっと寄り添ってくれたり子。佳織にできることは少ないが、今度は自分がり子に恩返ししたい。そう伝えると、り子は嬉しそうに「私が幸せならそれでいい」と言ってくれた。だが、それでは佳織の気が済まない。だから今は、歩行器をつけて歩けるようにならないか、リハビリの先生と相談している。完全に歩くことはできないかもしれない。それでもほんの数歩だけでいい。自分の足で立って歩く姿を、り子さんに見せたい。それが、今の佳織の目標だった。

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