新幹線の座席でスマホを見た瞬間、娘のミキの前に義母が立っていて、卵焼きを口元に押し付けていた。娘は卵アレルギーなのに。「あら、一口食べてごらんなさい。アレルギーなんてわがままでしょ」と義母は笑う。ミキは「ママがダメって言った」と首を振るが、義母は無理やり押し込もうとする。私は焦って陽平に電話した。だが、義母は「過保護に育てたらかわいそうよ」と平然と言い放つ。その瞬間、私は決意した。これ以上は…

新幹線の座席でスマホを見た瞬間、娘のミキの前に義母が立っていて、卵焼きを口元に押し付けていた。娘は卵アレルギーなのに。「あら、一口食べてごらんなさい。アレルギーなんてわがままでしょ」と義母は笑う。ミキは「ママがダメって言った」と首を振るが、義母は無理やり押し込もうとする。私は焦って陽平に電話した。だが、義母は「過保護に育てたらかわいそうよ」と平然と言い放つ。その瞬間、私は決意した。これ以上は...

新幹線の座席に深く腰掛け、私は大きく息を吐いた。久しぶりの出張が終わり、解放感と同時に早く帰りたい気持ちで胸がいっぱいだった。スマホで仕事の資料を整理しながら、ふと娘の顔が見たくなり、見守りカメラのアプリを開いた。在宅で仕事をしている夫の陽平が手を離せない時のために設置してあるカメラだ。仕事の合間に何度か確認していたが、特に問題はなかったはずだった。

画面が切り替わり、リビングの映像が映し出された。次の瞬間、私は息を呑んだ。ソファに座る娘のミキの目の前に、義母がいた。昨年義父が亡くなり、一人になった義母は、私たちのマンションから歩いて五分ほどのアパートに引っ越してきた。それからというもの、何かにつけて我が家に顔を出し、昔ながらの育児方法を押し付けてくる。私も陽平も適度な距離を保とうと努力してきたが、義母はそれを良しとせず、孫に自分の考えを押し付けようとしていた。

テーブルの上に何かを置いた義母が、ミキの前にそれを差し出している。嫌な予感がして、私は画面を拡大した。そこにあったのは卵焼きだった。嘘でしょ。心臓が嫌な音を立てて跳ねる。スマホを握る指が震えた。一瞬、頭が真っ白になる。

ミキは卵アレルギーを持っている。下手をすればアナフィラキシーを起こし、命に関わる。陽平もそのことを理解し、徹底してきた。当然、義母にも何度も説明している。なのに義母は卵焼きを箸でつまみ上げた。ミキは困惑した表情でじっと義母を見つめ、小さな手を膝の上でぎゅっと握りしめると、義母の言葉を否定するように首を横に振った。

その仕草に義母は笑いながら言った。

「あら、一口食べてごらんなさい。こんなに美味しいのに」

そう言って、箸で卵焼きを持ち上げ、ミキの口元に差し出した。

何してるの。私は思わず声に出していた。ミキは義母の手元をじっと見つめ、小さな口を開いた。

「ママがダメって言ってた」

しかし義母はミキの言葉をまるで気にせず、笑いながら続けた。

「何言ってるのよ。アレルギーなんてわがままでしょ。ちょっとずつ慣らしていけば平気なのよ」

私は耳を疑った。アレルギーをわがままだと言うのか。アナフィラキシーショックで死ぬこともあるのに、なぜ理解してくれないのか。悲しみと怒りが入り混じり、奥歯を噛みしめた。ミキはますます怯えたように首を横に振る。

「やだ、ママがダメって言ったの」

「いいから食べなさい」

次の瞬間、義母は無理やりミキの口元に卵焼きを押し付けた。新幹線の中だというのに、私は「やめて」と叫びそうになった。必死にスマホをタップし、すぐに陽平に電話をかける。

「お願い、出て」

何度コールがなってもなかなか繋がらない。新幹線の振動が耳に響き、焦燥感が胸を締めつける。私は再び画面を確認した。ミキは必死に体をよじらせ、顔を背けようとしている。しかし義母はその小さな体を押さえ、さらに卵焼きを口に押し込もうとする。

その瞬間、スマホが震えた。陽平からの着信だ。

「早くリビングに行って!ミキが危ない!」

陽平は慌てたように電話を切った。見守りカメラを通して、夫がリビングに駆け込む様子が見えた。

「母さん、何やってるんだ!」

陽平の怒鳴り声が響いた瞬間、義母は驚いて手を引っ込めた。ミキは怯えたように涙目で陽平を見上げる。陽平はミキを抱きしめ、義母を睨みつけた。

「お母さん、何してるんだよ。ミキは卵アレルギーだって知ってるだろ」

しかし義母は反省するどころか、自分こそ正しいとばかりに不満そうに口を尖らせた。

「何よ、大げさね。ちょっとずつ食べさせればアレルギーなんて治るものなのよ」

「ふざけるな」

陽平の怒声が響き、義母は驚いたように目を見開いた。

「そんな理屈が通るわけないだろう。もしミキに何かあったらどうするつもりだったんだ」

「だから大丈夫だって言ってるじゃない。そんなに過保護に育てたら、ミキちゃんがかわいそうよ」

「もういい。お母さん、すぐに家を出て行ってくれ」

義母は驚いたように口をぱくぱくさせた。私は画面越しにその様子を見ながら、大きく息を吐いた。ミキが無事で本当に良かった。だが、これは到底許せることではない。私はスマホを見つめ、心の底から怒りが込み上げてくるのを感じた。絶対に義母をこのまま許すわけにはいかない。

新幹線が駅に着くと同時に、私は足早に改札を抜け、タクシーに飛び乗った。焦燥感で胸がいっぱいになり、スマホを握る手にも力が入る。陽平がすぐに義母を止めてくれたとはいえ、ミキはどれほど怖い思いをしただろうか。そして義母がやったことは、許されるものではない。

家に着き、玄関のドアを開けるなり、ミキが駆け寄ってきた。私はミキを抱きしめ、その小さな体の震えを感じる。まだ不安が消えていないのか、ミキはぎゅっとしがみついてくる。

「ごめんね、ミキ。ママがいない間に怖い思いをさせちゃったね」

ミキは小さく頷くと、私の胸に顔をうめた。私は彼女の背中を優しく撫でながら改めて決意する。この子を守れるのは、私しかいない。

数日が経ったが、義母からの連絡は一切なかった。あの一件でさすがに反省したのだろうか。そう思いたかったが、心の奥では違和感が拭えない。義母がこんなに簡単に引き下がるはずがない。何かを企んでいる。そんな不安が頭を離れなかった。陽平と何度も話し合い、対策として玄関にも隠しカメラを設置することにした。今まではリビングだけだったが、次は侵入の瞬間から記録できるようにする。それでも、もう二度と関わりたくないと願った。

その日の夕方、仕事を終えて帰宅した。マンションのエントランスを抜け、部屋の前まで来ると、義母の姿があった。派手な服を身にまとい、腕を組みながら苛立った様子で足を鳴らしている。この数日連絡がなかったのは、このタイミングを狙っていたのかもしれない。オートロックを抜けて勝手に敷地内に入り込んでいる義母は、玄関ドアに手をかけていた。

スマホを取り出し、すぐに陽平にメッセージを送る。「お母さんが来てる。ドアを開けないで」。送信したタイミングで義母がこちらに気づき、まっすぐ歩み寄ってきた。近づくにつれ、義母の表情に怒りと苛立ちが混ざっているのが見て取れた。口を開くと、真っ先に発せられたのは私を責める言葉だった。これまでの出来事を反省するどころか、彼女の中では自分が被害者になっているようだった。

「陽平にも散々言ってるんだけど、何よ、あなたたちの態度は。私はミキのおばあちゃんなのよ。家に入れなさいよ」

「そういうわけにはいきません。お帰りください」

私はできる限り冷静に淡々と返した。義母は一瞬立ちすくんだが、すぐに開き直ったように言った。

「もういい加減、機嫌を直しなさいよ。ちょっと卵を食べさせようとしたくらいで、そんなに怒ること?」

卵アレルギーを持つ子供に卵を食べさせようとしたことを、大したことではないと言う義母。本当にこの人には何を言っても無駄なんだと痛感する。

「母さん、もう一度言いますけど、ミキは卵アレルギーなんです」

「だからそれが甘えだって言ってるのよ。昔はそんなこと言う子供なんていなかったわ。食べて慣らせば、体もちゃんと順応するのよ。家に入れなさい。いつまでも機嫌を損ねている場合じゃないでしょ」

私にとってはどれも聞き飽きた言葉だった。それに、ミキのアレルギーのことなどまるで問題にしていない。義母の言葉を聞けば聞くほど、胸の奥に怒りが募る。あの時、卵を無理やり食べさせようとしたことすら、ちょっとしたこととして片付けようとしている。それどころか、過保護にしすぎているとこちらを責めるような言葉を並べてきた。

もうこの人とは何を話しても無駄なのだと、心の底から実感した。私は静かに一歩前に出る。

「お帰りください。娘を大切にしてくれない人とは、もう二度と関わりたくありません」

その決意を込め、まっすぐ義母を見つめた。義母の顔には初めて焦りが浮かんだ。どうにか言い訳しようとする様子が見て取れたが、私の態度が変わらないと分かると、途端に苛立ちをあらわにする。それでも私は揺らがなかった。今まで義母の暴走を止めるために、何度も言葉を尽くしてきた。だが、何を言っても聞く耳を持たず、自分の価値観を押し付けるだけだった。ならば、もう関わらないのが一番だ。

義母はまだ何かを言いたそうだったが、私の強い視線を前にして、とうとう言葉を飲み込んだ。それでも「陽平に話すから」と強気の姿勢を見せる。しかし、すでに対策は済んでいる。玄関前に設置したカメラが、全てを記録している。義母が何かを言い出す前に、私は静かに宣言した。

「これ以上続けるなら、警察を呼びます」

義母の顔が強張る。さすがに警察沙汰になるのは避けたいのか、わずかに後ずさった。それでも最後に何かを言いたそうだったが、ぐっと唇を噛みしめ、足早にエントランスを出ていった。その背中を見送りながら、私は静かに息を吐く。これで終わりにできるのか? いいや、きっとまた何かしてくる。義母の執着心の強さを考えれば、このまま黙っているはずがない。次に何かあれば、もう完全に終わりにする。今度こそ決定的な証拠を掴んで、完全に断ち切る。私は強く心に誓った。

しかし、義母がエントランスを後にしてから数日が経った。あの日以来連絡はない。ようやく平穏な日常が戻ってきたように思えた。しかし、私はまだ警戒を解いていなかった。義母は絶対にこのまま引き下がる人ではない。何かしらの形でまたミキに接触しようとするはずだ。陽平とも相談し、さらに監視体制を強化した。玄関カメラだけでなく、ベランダ側にも監視カメラを設置した。そして万が一のために、近所のママ友にも事情を話し、義母を見かけたらすぐに知らせてもらうよう頼んだ。ミキの安全を守るためには、どんな手も惜しまない。

その日は私の仕事が早く終わり、夕方には家に帰ってきた。キッチンで夕食の準備をしながら、ミキと陽平がリビングで遊ぶ声を聞いていた。ようやく穏やかな時間を取り戻せた気がする。しかし、その静けさは突然のチャイムの音によって破られた。インターホンの画面を見ると、予想通りの人物が映っていた。義母だった。

私はすぐにスマホを取り出し、録画を開始する。画面越しの義母は、強引にドアを開けようとしていた。しかしロックがかかっているため、入ることはできない。それでも諦める様子はなく、しつこくチャイムを押し続ける。陽平と目が合った。彼もすぐに状況を察し、ため息をつきながら立ち上がる。しかしドアを開けることはしなかった。私が小さく首を振ると、彼も頷いた。玄関カメラが全てを記録している。迂闊に対応するよりも、まずは証拠を残すことが先決だった。

義母はドアの向こうで苛立った様子で何かを叫んでいる。手にはスーパーの袋をぶら下げていた。何かを持ってきたのかもしれないが、それが何かは分からない。私はしばらく様子を見守ることにした。義母はドアが開かないと分かると、次にベランダへ回った。ベランダ側のカメラがその様子をしっかりと捉える。彼女はなんとかして窓を開けようと試みたが、全ての窓はロックされている。それでもしつこくガラスを叩き、こちらの気を引こうとしていた。最初は手で叩くだけだったが、次第に力が強くなり、最後には物置から持ち出したものでガラスを打ち続けた。

ピシッとガラスに亀裂が入る。嫌な音が響く。このままだと本当に危険だ。とうとう家族に危険が及ぶと判断した陽平は、警察に通報した。私はすぐにミキを抱き上げ、鍵のかかるトイレに駆け込む。娘の小さな体が震えているのが分かる。

「大丈夫だからね」

背中をさすりながら、ドア越しに外の気配を探る。ガラスを叩く音が止んだかと思うと、今度は玄関ドアがどんどんと叩かれ始めた。

「そんなところに隠れていないで、出てきなさい!」

義母の怒鳴り声と、それを止める陽平の声が響く。言葉の内容は聞き取れなかったが、義母が何かしらの暴言を吐いているのは間違いない。ミキが怯えたように小さくすすり泣く。

「怖くないよ。大丈夫だよ」

そう言いながら、私自身の手も震えていた。

どれほどの時間が経っただろうか。遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。警察が到着した頃、義母はまだ玄関前で騒いでいた。しかし制服姿の警官が視界に入ると、慌てた様子で言い訳を始めた。

「ちょっと孫に会いに来ただけなのに、大げさすぎるんじゃない?」

しかし、すでに録画された映像が全てを証明していた。インターホンカメラ、ベランダカメラ、スマホで撮影した映像を全て警察に提出すると、義母の表情が凍りつく。警察官が義母に対し、住居侵入未遂及び器物破損の疑いがあると説明した。その言葉に義母は青ざめた顔で何かを言い返そうとしたが、警察官の冷静な態度を前に、ついに沈黙した。

陽平は一歩前に出て、低い声で静かに言い放った。

「もう終わりにしよう。これ以上、俺たちに関わらないでくれ」

「う、そんな……」

今になって自分の立場の危うさに気づいたのかもしれない。しかし、もう遅い。警察の指示に従い、義母はその場を離れることになった。私はミキを抱いたまま、ようやく大きく息を吐いた。ミキの小さな指が、私の服をしっかりと握っている。

私はミキを抱きしめながら、心の中で誓った。もう絶対にミキを危険にさらさない。このままではまた義母が何かしてくる可能性がある。陽平と私はその夜、改めて警察に相談し、接近禁止命令を申請することを決めた。このまま放置すれば、また同じことを繰り返す可能性があるからだ。そして、私は転勤願いを出し、私たち家族は地方へ移り住むことを決めた。これで、もう二度とミキを危険にさらすようなことはさせない。

数日後、義母が警察署で事情聴取を受けたことが確認された。そして、その後の彼女の様子を近所の知人から耳にすることになった。義母は完全に孤立していた。近所付き合いが好きだった義母だが、今回の一件が噂になり、誰も近寄らなくなったらしい。元々昔ながらの考えを押し付ける義母に不満を抱いていた人も多く、事件を知った住民たちは距離を置くようになった。近くに知り合いもおらず、息子の陽平からも見放されたことで、頼る人がいなくなったのだ。何度か陽平の携帯に連絡を試みたようだが、すでに着信拒否されていた。義母のわがままで歪んだ考えが、完全に自分自身を追い詰めることになったのだ。

義母が孤立し、私たち家族に平穏が戻ってからしばらく経った。ある日の午後、ミキと手をつなぎながら近くの公園へ向かって歩いていた。ミキは少しずつ言葉を覚え、元気に話しかけてくるようになった。最近は食事の時間を楽しめるようになってきた。アレルギーがあっても、美味しくて安全な食事を選べることをミキは少しずつ理解し始めている。

「ママ、今日は何して遊ぶの?」

ミキの声を聞きながら、私は柔らかく微笑んだ。

「砂場でお城を作ろうか」

「うん!」

娘の無邪気な笑顔を見ながら、心から安心する。もうあの恐怖に怯える必要はない。家のチャイムが鳴るたびに身構えたり、カメラをチェックして警戒することもなくなった。義母が再び何か企めば、警察が動く。もう何もできない。

それでも、今までのことを完全に忘れることはできない。私たちが義母に対して願っていたのは、孫を愛してくれる家族として、支え合える関係だった。そんなごく普通の関係を望んでいた。そう信じていたのに、義母はその思いを簡単に裏切った。それが何よりも悲しかった。

しかし、私たちは前を向いて生きていかなければならない。ミキには穏やかで幸せな毎日を送ってほしい。アレルギーがあっても、美味しくて安全な食事を楽しめることを知ってほしい。何よりも、自分は大切にされていると感じながら成長してほしい。私はミキの手をぎゅっと握りしめる。もう誰にも、ミキの安全を脅かさせはしない。私たち家族は、ようやく本当の意味での平穏を手に入れたのだ。

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