「お母さんに家をプレゼントする」と私が言った瞬間、義姉の美佐が目を輝かせて割り込んできた。「まあ、素敵!新しい家なら、私たちも一緒に住めるわね!」その日から、彼女は豪邸に住む夢を見始め、近所中に自慢しまくった。完成したドールハウスを母に渡すと、美佐は青ざめて叫んだ。「何これ?おもちゃの家?冗談でしょ!」母は静かに言った。「美佐さん、これは私の大切な家。あなたが一緒に住む話は、私が一度も望んだ…

「お母さんに家をプレゼントする」と私が言った瞬間、義姉の美佐が目を輝かせて割り込んできた。「まあ、素敵!新しい家なら、私たちも一緒に住めるわね!」その日から、彼女は豪邸に住む夢を見始め、近所中に自慢しまくった。完成したドールハウスを母に渡すと、美佐は青ざめて叫んだ。「何これ?おもちゃの家?冗談でしょ!」母は静かに言った。「美佐さん、これは私の大切な家。あなたが一緒に住む話は、私が一度も望んだ...

「マキが家をくれるだなんて、夢みたいだわ。どんな家なのかしら。すごく楽しみ」母は夢見るような目で、心を本当に贈られたかのようにときめかせていた。ちょうどその時だった。義姉がふらりと部屋に現れたのは。「ごめんなさい、今の話、つい聞こえちゃって。アキ、本当にお母さんに家を買ってあげるの?」「ええ、前から計画していたんです。なかなか難しくて、ようやく実現できることになりました。これから贈る家には、ちょっと特別な仕様を考えているんです」その時は、これが後で騒動に発展するとは想像もしていなかった。

私、伊藤マキは久しぶりに実家を訪れていた。都会のマンションから電車で一時間ほど。商社勤めの夫、貴之は出張中で、ちょうどいい機会だった。父が三年前に他界してから、母の由子は郊外にある築三十年の家でひとり暮らしをしている。今日は久しぶりに、ちゃんと娘らしいことをしようと思ったのだ。門をくぐると、母が丹精込めて植えた花々が迎えてくれた。庭の花の中に、母の後ろ姿が見える。最近植えたばかりのバラの新苗の手入れをしているところらしい。「わあ、きれい。お母さん、本当にガーデニング上手だね」感心して言うと、母は嬉しそうに微笑んだ。「ようこそ、マキ。私のちっぽけな庭が、あなたのドールハウスの庭みたいに素敵になればいいんだけど」「お母さん、私のドールハウスが好きになってくれたんだね」私は子どもの頃から好きだったドールハウス作りを仕事にしている。会社勤めとクリエイターとしての道で悩んだ時、背中を押してくれたのは母だった。「あなたの作品は本当に細かいところまで作り込まれていて、まるで本物の家みたいだもの」私はちょっと神秘的な表情を浮かべて、母に言った。「実はね、お母さんに今日、特別な話があるの。今、新しいプロジェクトに取り組んでいるんだけど……お母さんに、特別な家をプレゼントしようと思っているの」「本当に?」母は驚きと喜びが入り混じった表情で私を見た。「もちろんよ。お母さんの好きなように間取りを考えたいの。出窓がいいか、リビングに暖炉をつけるか、何でも言ってね」「まあ、マキが家をくれるだなんて、夢みたいだわ。どんな家かしら。すごく楽しみ」母の顔は輝き、本当に夢の住まいを手に入れるかのように心を躍らせていた。まさにその時だった。玄関の方で物音がして顔を上げると、義姉の美佐がひょこっと入ってきた。二歳上の兄は少し頼りないけれど、優しいところがある。母を心配して、今も近くのアパートに住んでいる。ただ、気になっていたのは美佐のちょっと尖った性格だった。「こんにちは、お母さん。ちょっと顔を見に来たわ。あら、マキもいたのね。いらっしゃい、美佐」「マキがたまたま遊びに来てくれたのよ」母が微笑みながら言うと、美佐は一瞬だけぎこちなく唇を引き結んだ。けれど、次の瞬間には好奇心に満ちた目で私たちを見て、母と私の間に割って入った。「さっきの話、つい聞こえちゃったんだけど……マキ、本当にお母さんに家を贈るの?」美佐は目を輝かせて私を見つめた。「ええ、前から計画していたんです。なかなか大変でしたけど、ようやく動き出せることになりました」私は現状をそのまま説明した。私の返事を聞いた瞬間、美佐は満面の笑顔で母の方を向き、ほぼ言葉を遮るようにして話し始めた。「まあ、素敵じゃない、お母さん。マキが家をくれるなんて。新しい家だなんて、最高だわ。どんな間取りになるのかしら。間取りが変わるなら、みんなで一緒に住めるわよね」私は一瞬言葉を失ったが、美佐は気にする様子もなく続けた。一緒に暮らすというアイデアを何度も繰り返し、兄と自分も母と一緒に引っ越すのが楽しみだと言い出す始末だった。母は美佐と私を交互に見て、少し困った様子だったが、美佐の同居の提案を拒否するでもなく、穏やかに「それは、楽しそうね」と返した。その光景を見て、私はかすかな不安を覚えた。母の反応を見た美佐はますます興奮し、満面の笑みを浮かべたまま「お母さん、私が何でもお手伝いするわ」と言い、自分たち夫婦が一緒に住む計画がすでに動き出しているかのような様子だった。私はその場でさっと口を挟もうとしたが、美佐を止めることはできなかった。彼女は「それじゃあ、家ができたら、一緒に新しい生活を始めましょうね」と続け、母が「頼もしいわね」と答えた時には、会話の流れはもう止められなくなっていた。もしかしたら母は寂しかっただけで、一緒に暮らす時期を待っていたのかもしれない。そう思うと、私は何も言えなかった。こうして、私が母に贈るはずだったドールハウスの話は、いつの間にか兄夫婦も一緒に住む新しい家をもらう話にすり替わり、美佐は新しい家に住めることを目の前で大喜びしていた。「さあお母さん、マキが素敵な家をくれますって。準備しましょう!」美佐がすっかり舞い上がっているので、私は「ちょ、ちょっと待って!」と慌てて言おうとしたが、彼女は興奮しすぎて話を聞く耳を持たなかった。誤解をどう解消すればいいのか、場を荒立てずに収めるにはどうすればいいのかと焦っていると、母が優しく微笑みながら、そっと首を横に振った。彼女に任せておけば大丈夫だと言っているようだった。母なら何か考えがあるのだろう。私はその日は母に任せて、家に帰ることにした。

数日後、母に作っていたドールハウスの制作は最終段階に入っていた。私は仕上げにこだわり、日に日に完成に近づくにつれて胸を躍らせていた。母もこの贈り物を楽しみにしてくれているはずだ。喜ぶ母の顔を想像すると、ドールハウス作りへの情熱がさらに湧いてきた。そんなある日、私の電話が鳴った。母からだった。「マキ……」「実は、美佐がもう家に荷物を運び込み始めたの」電話の向こうの母の声は、少し戸惑っているようだった。どうやら美佐はアパートの契約を解約してしまったらしい。「ちょっと待って、お母さん。まさか、押しかけるようにして一緒に住もうとしているの?」母は考え込むように言葉を選びながら話した。美佐が兄の浩一を急かして、母の実家に同居させようとしているらしい。気の弱い兄は、美佐に「もう決まったことだから」と言われ続けて、そのまま折れてしまったようだった。「それにね、マキ。美佐はご近所さんに、みんなで新しい家に引っ越すんだって話して回っているみたいなの」「え、ご近所さんに?」私は驚いて声を上げたが、母は楽しそうに笑った。「どうやら、すっかり舞い上がっちゃってるみたいね」みんなに言いふらしているところを見ると、美佐は立派な豪邸に住む大きな夢を描いているのは明らかだった。いくら兄が気弱でも、論理的に考えれば、私が母のために家を買ってあげるなら、住むべきは母だ。夫の言いなりになって疑いもせずに従うなんて、おかしいと気づいてほしい。兄として、正直情けない。「あらマキ、あなたのご主人、高収入なんでしょ?たくさん稼いでいるんですってね」「お母さんに豪華な家を買ってあげるだなんて、すごいわね」美佐が兄にこんなことを言っていると聞いて、私が思わず苦笑いしてしまう。「ねえ、お母さん。私が兄に本当のことを話してあげようか?」もう一度確認すると、母は少し呆れたように笑いながら言った。「ここまで盛り上がっちゃったんだから、このまま静かに見守ってみましょう」そう言い残して、私たちは母に任せることにした。

「家が完成したから、持って行くね」数週間後、母のためのドールハウスがついに完成した。繊細な家具や装飾品をひとつひとつ丁寧に配置し、最後の仕上がりに満足している自分がいた。完成したドールハウスを箱に丁寧に詰め、母の家へ向かった。今回は夫の義太が車で送ってくれることになっていた。義太にはこれまでの経緯を話し、訪問先で何かあるかもしれないと伝えてあった。不安で、義太に愚痴をこぼさずにはいられなかった。「お母さんは早く誤解を解いた方がいいと思うんだけど、様子を見ようって言うばかりで、心配なの」義太は優しく微笑んで私を安心させ、「何かあればすぐに手伝うから」と支えてくれる言葉をかけてくれた。実家に着くと、母は玄関で嬉しそうに待っていてくれた。「お母さん、やっと持ってきたよ。約束した家。喜んでもらえると嬉しいな」そう言うと、母はパチパチと手を叩いて喜んだ。「本当?楽しみだわ。さあ、二人とも入って」母は私たち二人をリビングに案内してくれた。義太と私は、大きなドールハウスをテーブルの上に置いた。母は細部まで作り込まれた精巧な仕事に、目を丸くして驚いていた。箱からドールハウスを取り出してテーブルに置くと、母はその精密な構造に感嘆の声を上げ、隅々まで夢中になって眺めた。「まあ、なんて素敵なのかしら。細かいところまで作られていて、まるで本物のお屋敷みたい」私は最高の作品を、お母さんのためだけに作ったのよ。お母さんがこの家を気に入ってくれるといいな。「こんな素敵な家をありがとう、マキ。こんな贈り物は他にないわ」母の声は喜びに満ち、まるで本物の家をもらったかのように感動していた。母が本当に嬉しそうに話すのを聞いて、私は報われた気持ちでいっぱいになった。しかし、その時、背後から刺すような声とため息が聞こえてきた。驚いて振り返ると、義姉の美佐が腕を組んで立っていた。「何これ?」「なによ、これが家なの?本物じゃなくて、こんなおもちゃ?」美佐の顔は一瞬で青ざめ、声はヒステリックに震え始めた。「冗談でしょ?新しい家に住めると思ってたのに」私は冷静に答えた。「美佐さん、これが私がお母さんに贈ると約束した家よ。心を込めて作ったドールハウスなんだ。あなたは一体、何を期待していたの?」私が冷静に返すと、美佐は一瞬言葉を失ったが、次の瞬間には怒りで顔を歪めた。「は、何?豪邸を楽しみにして東京まで来たのに、こんなおもちゃの家なんて!」彼女はドールハウスを指さして、大声で文句をまくし立て始めた。兄の浩一は彼女の声に驚いて、部屋に入ってきた。状況を察した兄は、母を見て少し気まずそうな様子だった。「でも美佐、論理的に考えて、マキが僕たちに家を買ってくれるなんて一言も言ってなかっただろう」兄がそう確認すると、美佐はさらに激怒した。「でも、マキさんのご主人は一流企業で働いてるんでしょ?きっと収入もいいから、新しい家のひとつくらい買ってくれてもおかしくないと思ったのよ!」美佐は激怒し、立っている義太を睨みつけながら言葉を吐き捨てた。彼女は完全に妄想に取り憑かれていた。それまで黙って見守っていた母が、ついに厳しい表情で美佐にはっきりと言った。「美佐さん、私はこの家に深い愛着を持っているの」「マキが私のために作ってくれたこのドールハウスも、この家の思い出と重なって、とても素敵なものよ」「でも、あなたは私の気持ちを少しも理解してくれなかったみたいね」母の穏やかな口調に美佐は揺らぎ、言葉が見つからなかった。母は美佐の動揺を無視して、臆することなく続けた。「この家は、亡き夫と共に過ごした思い出が詰まった大切な場所なの」「私が引っ越したり、建て替えたりするつもりは一度もないし、あなたに一緒に住んでほしいと頼んだこともないわ」「実際、あなたが突然一緒に住むと言い出した時は、正直驚いたのよ」美佐の表情がさらに青ざめていくのがわかった。「お母さん、本当なの?美佐から、お母さんがひとり暮らしで不安だから、一緒に住んでほしいって言ってるって聞いたから、そのまま信じてたんだけど……」「美佐さん、あなたが浩一に嘘をついて、豪邸を期待してここに住もうとしたのなら、もうここにいる理由はないと思うわ」美佐はその言葉に一瞬息を呑んだが、反論しようとした。しかし、その時、兄が美佐の方に向き直り、静かな声で話し始めた。「美佐、もうやめてくれ。この家はお母さんにとって、かけがえのない場所なんだ。豪邸のことしか考えずに、お母さんの気持ちを尊重しないなんて、俺は見逃せない」「浩一、あなたまでそんなこと言うの?」美佐は衝撃を受けた様子で夫に食ってかかったが、兄は真剣な表情で続けた。「俺は、このことをきっかけに、もう一度ちゃんとやり直したいんだ。美佐のわがままには、もううんざりだよ」「誤解の上に成り立った結婚を続けるより、冷静にお互いの道を選んだ方がいいのかもしれない」「何を言ってるの、ちょっと……」最後まで聞かずに、兄は言った。「美佐、俺たち、離婚しよう。お母さんやマキに迷惑をかけたことを、お前が反省しないなら、このままではやっていけない」美佐は言葉を失い、呆然としていた。美佐のヒステリックな叫びが収まり、夫の義太と兄の浩一に止められて我に返った彼女は、気まずそうな様子だった。そのあと、彼女は兄と話し合うと言って、家を出て行った。兄と美佐が去った後、母は私を見て静かに微笑んだ。「素敵な贈り物をありがとう、マキ」「このドールハウスのおかげで、厄介者まで追い払えたわ」その日から、母の家には穏やかな静けさが戻ってきた。美佐の騒がしい訪問もなくなり、母は大好きな花の手入れをしながら、穏やかな日々を楽しんでいると聞く。兄も落ち着きを取り戻し、離婚に向けて別居を始めたようで、時々母に会いに来ているそうだ。

数年後、私にも小さな家族ができ、子どもを連れて再び母の家を訪れる時が来た。いつものようにチャイムを鳴らすと、少しだけ年を重ねた母と、兄が私たちを迎えてくれた。「まゆ、おばあちゃんにご挨拶して」私がそう言うと、母の顔がぱっと輝いた。「まあ、大きくなったね。寒いでしょう、さあさあ、入って」そう言って、母は私たちをリビングへ案内してくれた。部屋に入ると、最初に目に飛び込んできたのは、あのドールハウスだった。あの時と同じように大切に飾られていて、母がちょっとした小さな飾りをいくつか足してくれたのか、さらに美しく見えた。私がドールハウスを見ているのを察した母は、少し照れくさそうに微笑んで言った。「あのね、今でも毎日、このドールハウスを眺めているのよ」「本当に見事な出来栄えね。見れば見るほど、新しい発見があるの」「まるでそこに住んでいる人たちが本当にいるみたいで、心が温かくなるの」母の目は若かりし頃と同じように輝き、その視線は家のすべての細部を愛おしむように見つめていた。それを眺めながら、この家が本当に母にとって特別なものになったのだと感じて、私は心から嬉しくなった。「お母さん、ずっとこのドールハウスを大事にしてくれていたんだね」私が尋ねると、母はそっと頷いた。「ええ、もちろんよ。マキがくれたこの家には、たくさんの思い出が詰まっているから」「あの時の騒動も、全部ひっくるめてね。だから、ずっとずっと大切にするつもりよ」私の子ども、まゆが小さな両手でドールハウスを覗き込み、大きな目を輝かせて「すごい」と言った。それを見て、母と私は目が合い、思わず笑みがこぼれた。「この小さな家が、三世代にわたって楽しんでもらえて……ドールハウスもきっと嬉しいわね」「そうね。これもみんな、マキのおかげよ。ありがとう、マキ」母はそう言って、そっと私の手を握った。その午後、母と子どもと一緒にこの小さな家を囲んで過ごした時間は、何とも言えない温かさと幸せに包まれていた。このドールハウスを母に贈ったことで、余計な悩みは消え去り、家族で穏やかな時間を共有するこの瞬間が、深く心に刻まれた。母と、私と、私の子ども。この家に刻まれた小さな思い出は、これからも私たちを結びつける、かけがえのない宝物であり続けるのだろう。そんな未来を感じながら、私たちはその日の残りの時間を、のんびりと穏やかに過ごした。

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