結婚式の最中、突然ドアが開いてマスクの男が現れた。隣のルミが彼を見て「立花さん…」とつぶやいた瞬間、彼女の顔がみるみる輝いていくのに気づいた。あの朝、目が覚めたら隣にルミがいて、妊娠したと言われて、責任を取るべきだと思って結婚を決めた。でも昨夜の記憶はどうしても曖昧なままだ。それから偶然会った幼なじみの優香に、ルミの過去や元彼からの借金の話を聞かされるまで、全てが計算だったのかもしれないと疑…

結婚式の最中、突然ドアが開いてマスクの男が現れた。隣のルミが彼を見て「立花さん…」とつぶやいた瞬間、彼女の顔がみるみる輝いていくのに気づいた。あの朝、目が覚めたら隣にルミがいて、妊娠したと言われて、責任を取るべきだと思って結婚を決めた。でも昨夜の記憶はどうしても曖昧なままだ。それから偶然会った幼なじみの優香に、ルミの過去や元彼からの借金の話を聞かされるまで、全てが計算だったのかもしれないと疑...

結婚式が順調に進んでいたその瞬間、式場の扉が大きく開かれた。全員の視線が一斉に入口へと向く。そこにはマスクをした男が立っていた。招待客たちがざわめき始めるなか、隣にいたルミが驚いた顔でその男を見つめた。

「立花さん……」

その名前を聞いて、俺の心臓は嫌な音を立てた。ルミは席を立ち上がると、なぜか興奮したような表情を浮かべて男に向かって声を張り上げた。

「奪いに来てくれたのね。待ってたわ」

俺は菅野大輔。大手企業に勤める三十歳の普通のサラリーマンだ。あの日までは、自分がこんなことになるなんて想像もしていなかった。

あの朝、目が覚めたら隣に誰かがいた。ゆっくりと顔を上げると、そこには会社の後輩であるルミが眠っていた。その寝顔を見た瞬間、心臓が跳ね上がった。

「え? なんで俺の隣に……」

昨夜は会社の若手だけで集まって飲み会をしていた。確かに少し飲みすぎた記憶はあるが、泥酔するほど飲んだ覚えはない。それなのに、まさかこんな状況になるなんて。頭の中が混乱していた。どうやってこんなことになったのか、記憶をたどっても曖昧な断片しか思い出せない。

俺は体を起こし、頭を抱えた。昨日のことを考えれば考えるほど焦りが募っていく。これまでルミとはただの後輩として接してきただけだ。特に個人的な感情もなかった。それどころか、あまり深く関わりたいとは思っていなかった。それがいきなり一夜を共にしてしまったなんて信じられない。

しばらくしてルミが目を覚ました。彼女も最初は驚いていたが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべた。

「おはようございます、大輔さん。昨夜は楽しかったですね」

その言葉を聞いて、俺の中の不安がさらに膨らんだ。

「ルミ、昨夜何かあったのか?」

ルミは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに微笑んで答えた。

「覚えてないんですか? まあ仕方ないですね。大輔さん、結構酔ってましたもんね」

そう言ってルミは軽く肩をすくめた。俺の胸の中で嫌な予感が広がっていく。しかし、はっきりとした記憶がない以上、問い詰めることもできなかった。気まずい沈黙が部屋に漂った。何も確かめることができないまま、俺はただそこに立ち尽くしていた。

その後、俺はルミと仕方なく付き合い始めることになった。最初こそ戸惑っていたが、ルミが積極的に関わってくるため、あの日の後ろめたさも手伝って断れなかった。仕事の後に食事に行ったり、休日に会ったりと、恋人と呼ぶには微妙な関係が続いていった。しかし心の奥底では、常に何かが引っかかっていた。あの夜、本当に何が起こったのか。自分は本当に彼女と関係を持ったのか。確信が持てないまま、時間だけが過ぎていった。

ある日、そんな曖昧な関係が続いていた頃、ルミが突然「話がある」と言ってきた。彼女は真剣な表情で俺の前に座り直した。

「大輔さん、実は私、妊娠しました」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。妊娠? 俺の子供? 信じられない気持ちが込み上げてくる。しかしルミの表情を見る限り、冗談で言っているわけではなさそうだった。

「妊娠……本当か?」

「はい。病院で確認しました。間違いありません」

俺は言葉を失った。結婚という言葉が頭をよぎる。もし彼女が妊娠しているなら責任を取らなければならない。子供ができた以上、逃げるわけにはいかない。

「そっか。じゃあ結婚するしかないな」

俺は覚悟を決めてそう言った。ルミは嬉しそうに微笑んで「ありがとうございます」と言ったが、俺の心の中は複雑だった。本当にこれでいいのか。あの夜のことが思い出せないまま、妊娠を理由に結婚を決意してしまって正しいのだろうか。心の中で何度もその疑問が湧き上がった。

結婚の準備を進めるなかで、俺の胸には違和感が残り続けた。彼女の妊娠を信じて結婚を決意したものの、あの夜の記憶は曖昧なままだ。俺が本当に父親なのか。このまま結婚していいのだろうか。そんな疑問が消えないまま、日々を過ごしていた。

そんなある日のこと、久しぶりに幼なじみの優香と再会した。近所に住む俺たちは家族ぐるみの付き合いで、二歳年下の優香は、明るくて俺の気持ちを理解してくれる数少ない存在だった。

「大輔、久しぶりじゃない? 元気にしてた?」

街中で偶然見かけた優香に声をかけられ、俺は懐かしさが込み上げてきた。

「優香か。本当に久しぶりだな。元気そうで何よりだよ」

俺たちはすぐに打ち解け、近くのカフェに入ることになった。昔と変わらない彼女の笑顔に安心感を覚え、俺の中で抑えていた悩みを打ち明けたい気持ちが強くなっていった。

「実はさ、俺、結婚することになってさ」

そう切り出すと、優香は目を大きくして驚いた。

「え、結婚? それはおめでたいね。でもなんか、あまり嬉しそうに見えないけど」

優香は俺の内面をすぐに見抜いた。彼女は昔から鋭く、俺が抱えている悩みを見透かしてくれる。

「実は相手のことがちょっと引っかかってて。彼女、ルミって言うんだけど、突然妊娠したって言ってきたんだ。でも、その夜のことがどうも思い出せなくて。こんなこと言ったら悪いのかもしれないけど……本当に俺が父親なのかも分からないんだ」

俺はルミとの出会いから妊娠の話まで、すべてを優香に話した。あの夜の記憶が曖昧なこと。妊娠を告げられた時の戸惑い。そして、その後の不安。全部を打ち明けた。優香は真剣な表情で聞いてくれていたが、しばらく考えた後、少し困ったような顔で切り出した。

「大輔、ちょっと驚かせちゃうかもしれないけど、そのルミって……私の知ってるルミだよね」

俺は少し驚きながら頷いた。

「そうだよ。知ってるのか?」

優香は小さく息をついて答えた。

「実はルミと私、大学の同級生なの。あの頃、同じゼミで知り合ったんだけど、彼女って結構計算高いところがあったのよ。ルミが付き合ってた、立花シュウっていう男がいたんだけど、彼からも色々聞いててね」

「立花……そいつが元彼か」

優香は頷き、さらに話を続けた。

「そう。立花君も同じゼミだったんだけど、彼もルミに振り回されて大変だったみたいで。最近、立花君が話してくれたんだけど、どうもルミにまだお金を貸しているらしいの」

その話を聞いた瞬間、俺は息をのんだ。ルミが借金? しかも元彼から? そんな話は今まで一度も聞いたことがない。

「それにさ、ルミってば立花君との結婚を目指してたけど、結局思い通りに行かなかったみたいだったの。でも『絶対に今年中に結婚する』って周りの友達に言っていたんだよね。もしかしたら……大輔がはめられた可能性があるかもしれない」

優香の言葉が頭の中で響いた。ルミが俺をはめた? それなら、彼女があの夜の出来事を巧妙に仕組んだ可能性だって考えられる。俺はふと、結婚の準備を進めるなかで彼女が時折見せる不自然な笑顔を思い出した。

「でもさ、なんで俺だったんだろう? 俺が何か間違ったことをしたのか?」

優香は優しく微笑んで首を振った。

「大輔、あんたが悪いんじゃないよ。ただ、ルミが昔からお金やステータスに敏感だったのは事実だし、大手企業で働く大輔との結婚はメリットがあるでしょ」

俺は信じられない気持ちで、呆然と目の前のコーヒーを見つめた。ルミがそんな風に考えていたなんて、今まで一度も思ったことがなかった。でも、優香の話を聞けば聞くほど、彼女の行動への疑念が深まっていく。

「立花君に会って話を聞いてみたら? 彼ならもっと詳しく知ってるかもしれないし。今のままじゃ、大輔もこの結婚に納得できないでしょ」

優香の提案に、俺は少し迷ったが、結局頷いた。今のままでは、このままルミとの結婚を進めるのはあまりにも危険すぎる。もしルミが俺を利用しているのだとしたら、結婚なんてすべきじゃない。

「そうだな。立花に話を聞いてみるよ。優香、ありがとう。君がいてくれて本当に助かる」

俺の感謝の言葉に、優香はニコッと笑って答えた。

「いつでも力になるよ、大輔。困ったらすぐに連絡してね」

こうして俺は、立花シュウと話をする決意を固めた。

立花との話を終えた俺は、ルミに対する疑念をさらに深めていた。あいつは、ルミにどれだけ振り回されてきたかを包み隠さず話してくれた。俺の耳を疑うような話ばかりだったが、それだけではなかった。ルミが俺をはめるために、あの夜のことを仕組んだらしいという話も聞けた。全てがつながった。

そして、俺は結婚式当日を迎えた。会場は華やかで、式は滞りなく進行していたが、俺の心は落ち着かなかった。ルミは明るい笑顔を振りまき、招待客たちと楽しそうに話していたが、その姿がますます不気味に見えてきた。

その時、式の最中だというのに突然式場のドアが大きく開き、一人の男が入ってきた。何事かと全員がその方向に目を向ける。男はマスクをしていたが、俺にはすぐに分かった。立花シュウだ。

招待客たちがざわつくなか、ルミは驚いた顔で立花を見つめた。

「立花さん」

隣にいたルミがその男を見つけると、驚いたような、いやどこか興奮したような表情を浮かべた。彼女は思わず席を立ち、その男に向かって声を張り上げた。

「奪いに来てくれたのね。待ってたわ」

俺は驚いて見つめたが、心のどこかで「やっぱりな」と思っていた。周囲の参列者は凍りついたように静まり、会場全体が緊張感に包まれた。俺はその様子を固唾をのんで見守った。

奪いに来てくれた? 一瞬の静寂の後、その男は冷静に口を開いた。

「いや、俺は貸した金を返してもらいに来ただけだ。今すぐとは言わないから、早く返してくれよ」

その言葉が会場に響き渡った瞬間、誰もが驚愕し、視線がルミに集まった。俺以外の全員が、何が起こっているのか理解できず、ただそのやり取りを見守っていた。ルミは一瞬動揺を隠せない顔をしたが、すぐに取りつくろいながら男に言い返した。

「ちょっと、ここまで来てそんな風に照れなくてもいいじゃない。迎えに来たって素直に言ってよ」

しかし、立花シュウは冷たい視線で彼女を一瞥すると、さらに追い打ちをかけるように言葉を続けた。

「迎えなんてないさ。今まで一度も返してこなかった借金の取り立てに来ただけだ。それに、ルミが大輔さんをはめて結婚しようとしてるのも知ってるんだ。酒に薬を混ぜたんだろ。ルミ、俺にもやったもんな」

ルミは一瞬言葉に詰まり、焦った表情を浮かべたが、すぐに必死に言い訳を始めた。

「違うわ。そんなことしたことないわ。本当に誤解よ、全部」

そんな言い訳をしても、立花の発言を会場の全員が聞いている。それに、ルミの焦っている姿は、誰が嘘をついているのか明白だった。

そして、優香が立ち上がり、ルミに向かって言葉を投げかけた。

「もうやめなよ、ルミ。妊娠も嘘だって、全部知ってるんだから。大輔を騙して結婚しようとしていたんでしょ」

優香の言葉に、ルミの顔から血の気が引いていくのが分かった。彼女は真っ青な顔で周囲を見回し、何か言い返そうとするが、言葉が出てこない。会場にいる参列者たちもざわめきながら、真実に気づき始めていた。

俺はもう一度深く息を吸い、冷静にルミに向かって告げた。

「ルミ? これ、どういうことなんだ?」

俺の声は冷たく、彼女を追い詰めるようだった。ルミは明らかにパニックに陥っていたが、なんとか言い訳をしようと必死に言葉を探している。

「いや、誤解よ。大輔、これには理由があって……」

「誤解じゃないだろう。立花さんに聞いたよ。君が彼に借金をしていたことも、返していないことも。そして、立花さんと結婚したくて言い寄っていたんだよな」

その言葉を聞いた瞬間、ルミの顔から血の気が引いていくのがはっきりと見えた。式場にいる誰もが、事態の深刻さを感じ取っていた。

「そんなこと……」

ルミは焦りながらなんとかその場を収めようとするが、俺の怒りは抑えきれないものになっていた。

「俺は君の妊娠を信じて結婚を決意したんだ。でも今は、君の全てが疑わしい。ルミ、君は俺を騙して何がしたかったんだ? 本当に俺のことを愛してたのか? それともただ金が目当てだったのか?」

ルミは返事をすることができず、ただ俯いて震えている。俺は冷静にその様子を見つめながら、さらに追い打ちをかけるように言った。

「ルミ、お前は花嫁でありながら他の男に連れ去られることを望んだ。ここにいるみんなが証人だ。俺はお前とこのまま結婚するつもりはない。式費用や、お前が招いた迷惑の責任は、全てお前が負うべきだ。慰謝料も含めて、きっちり支払ってもらうからな」

ルミは必死に「違う、誤解なの」と叫んだが、俺の冷たい目に恐れを感じたのだろう。次第に声が弱まり、言葉を失っていった。

そして、立花が一言付け加えた。

「俺からの借金も忘れるなよ。さっさと返せ」

会場の雰囲気は完全に冷え込み、誰もが困惑しながらも真実を理解していた。ルミは完全に孤立し、恥ずかしさと後悔に押しつぶされるようにして、その場で泣き崩れた。ルミの両親は娘の失態に焦りを隠せなかった。ルミを追い詰めるように攻め立てた。明らかにパニックに陥っているルミだったが、なんとか言い訳をしようと必死に言葉を探している。

「い、いや、誤解よ。誤解なの」

ルミは泣き崩れたが、誰も彼女を慰める者はいなかった。会場全体が彼女の欺瞞に気づき、冷たい目で見ている。俺はそんなルミを一瞥すると、立花に向かって軽く頷いた。

「ありがとう。おかげで真実が分かったよ」

「いや、大輔さんこそ。俺も協力できて嬉しいよ。ルミに人を騙されることがなくなって、すっきりした」

俺たちはそのまま式場を後にし、ルミはその場に取り残された。会場に残る人々のなかで彼女の涙声が聞こえたが、もう俺はルミに一片の未練もなかった。俺は世間的には花嫁に騙された情けない男になったわけだが、入籍前だったことが唯一の救いだった。

後日、ルミのご両親から慰謝料と結婚式の費用が振り込まれた。これはルミのご両親が一時的に立て替え、ルミがご両親へ返済していくと聞いた。そして、立花への借金も返済されたようだ。ルミはこの先、多額の借金返済のために働き続けなければならないだろう。俺を騙し続けた彼女への制裁が下ったのだ。彼女はすでに社会的な信用も失い、ご両親からは呆れられ、孤立しているという噂を聞いた。

俺はそれを聞いても、もう何も感じなかった。ただ一つ、自分の人生を取り戻せたことに感謝している。そして、立花との新たな友人関係が始まり、優香とは幼なじみの関係から恋人同士へと変わった。俺は新しい人生へと歩き始めた。過去の苦しみを乗り越え、今は晴れやかな気持ちで未来を見つめている。

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