「ただいまって帰ったら、私の荷物が全部廊下に出されてた。生まれたばかりの赤ちゃんを抱えて、産後に帰る家がそれだったんだよ」里帰り出産から帰る日、義母から「明日から私たちも住むから、荷物は廊下に出しといたわ」とLINEが来た。夫は苦笑いしながら「親父たちが勝手に住み着いたんだよ」と言うだけ。私は「この家はもうもらったから」と言い放つ義母の言葉に、腹が立つより先に凍りついた。でも、私は黙って従う…

「ただいまって帰ったら、私の荷物が全部廊下に出されてた。生まれたばかりの赤ちゃんを抱えて、産後に帰る家がそれだったんだよ」里帰り出産から帰る日、義母から「明日から私たちも住むから、荷物は廊下に出しといたわ」とLINEが来た。夫は苦笑いしながら「親父たちが勝手に住み着いたんだよ」と言うだけ。私は「この家はもうもらったから」と言い放つ義母の言葉に、腹が立つより先に凍りついた。でも、私は黙って従う...

「のぞみさん、明日には帰ってくるんだって」
「はい、お母さん。誠が迎えに来てくれるのが一番だったんですけど、あの子も仕事で忙しいので」
「そうね。出産の立ち合いには来てくれたんだから、十分でしょう」
「はい。明日は向こうのご両親が送ってくださるそうです」
「ならいいけど。でも、里帰り出産ってやつね」
「何か?」
「いや、出産のためとはいえ、嫁が家を空けるなんて。どうなのかしらって思ってね」
「まだ言ってるんですか? もう帰るんですし、終わったことじゃないですか」
「だとしてもよ。夫を一人残して自分だけぬくぬくと。嫁としての自覚が足りないんじゃない?」
「誠は全部承知の上で里帰りを認めてくれました。優しいんです」
「文句があっても言わないだけよ」
「誠は確かに優しいですけど、嫌なことがあればきちんと言ってくれます」
「本当かしら。のぞみさんに気を使ってるんじゃないの?」
「そんなことありません」
「ああ、そういえば、これどうなってるの?」
「これって?」
「この家、すごく広くて綺麗で、住み心地抜群ね。やっぱり一軒家は素敵だわ」
「うん……。お母さんたちの家って、前はアパートでしたよね?」
「そうよ」
「なのに、この一軒家はどういうことですか?」
「どうって、のぞみさんたちの家に決まってるでしょ?」
「え、もしかして今、私たちの家に遊びに来てるんですか? でも、この時間は誠は仕事のはず――」
「違う違う。のぞみさんがいない間に、私たちも住むことにしたのよ」
「は?」
「一軒家にはずっと憧れてたの。こうして住んでみると、やっぱりいいわね。買ってくれた誠とのぞみさんには感謝感謝よ」
「いや、え、一体何の冗談ですか?」
「理解力のない嫁ね。あなたが里帰りしてる間に、この家はもらったの。これからは私たちも一緒に住むから」
「そんなこと、私に無断で――」
「でもこの家の持ち主は誠でしょ。誠がいいって言ってるんだから、いいじゃない」
「は? 誠が?」
「そういうこと。じゃあ、明日の帰りを待ってるわね。家事も溜まってるから、よろしく」

翌日。

「のぞみ、仕事終わったよ。昼過ぎの電話って、何だったんだ?」
「誠? お母さんたちのこと?」
「ああ、それな」
「それな、じゃないから。一体どういうこと?」
「いや、俺も正直困っててさ。なんか急にうちに来たと思ったら、そのまま住み着いたんだよ」
「そのままって……父さんと母さんだけじゃなくて?」
「はるかも住み着いてる。子ども連れでな」
「はるかちゃんのところって、子ども何人だっけ?」
「五人。はるかの旦那は単身赴任中だから、一緒に来なかった」
「じゃあ、お母さんたちと合わせて八人? 八人で押しかけて、家に住み着いてるの?」
「そういう感じ。帰ってもうるさいし、片付けもしないし」
「だったら、すぐに追い出せばいいじゃない」
「そうは言うけど、あの人たちが俺の言うことなんて聞くと思うか?」
「それは誠も微妙な立場だろうけど」
「微妙ってか、うちの家族の中じゃ一番下だよ。妹のことは都合よく使われる立場なんだ」
「それは……単純に誠がお父さんの連れ子だからでしょ。お母さんとは血が繋がってない」
「そう。俺のことは母さんはずっと邪魔者扱いだよ。逆に父さんと母さんと血の繋がったはるかはお姫様だ」
「お父さんたちが再婚してからずっとでしょ」
「それは何度も聞いてるけど、大人になった今も変わってない。俺たちが一軒家を建てたから、すり寄ってきたんだろう」
「お母さん、言ってたよ。もう家はもらったって」
「あの人たちにとって、どこまで行っても俺は都合のいい存在でしかないんだよ」
「それだけ分かってるなら、なんで――」
「分かってる。でも昔はな、親の愛ってやつにすがってたんだよ。真面目に言うことを聞けば、いつかは息子として愛してくれるかもしれないって。でもあの人たちは変わらない」
「……私たちにはもう子どもがいるわ。いつまでも勝手にはさせられない」
「だからさ、あの家、あいつらにくれてやろうと思う」
「え?」

翌日、のぞみの実家に義母から電話が入った。

「のぞみさん、今日帰ってくるんでしょ?」
「予定ではそうでしたけど」
「はるかちゃんが帰ってきたら、片付けやるのよ」
「は? 片付け?」
「ほら、お母さんたちも入れて八人になったでしょ。部屋が足りなくなってね、のぞみさんの部屋、私の部屋にしたの」
「はい?」
「のぞみさんの荷物は廊下に出しといたから、それの片付けをちゃんとしなさい」
「片付けって、それのことですか?」
「うちの下の子はまだ保育園だし、廊下に荷物があったら危ないでしょ」
「勝手に荷物を出されて、危ないとか言われても――」
「のぞみさんの荷物なんだから、自分の荷物を片付けるのは当たり前でしょう」
「それはそうですけど、全くもってこちらが原因ではないですよね」
「まあまあ、そう言わずに。あ、そうそう。他の部屋もお母さんたちの部屋とか子ども部屋にしたから。物置きとかの荷物も廊下に出してあるわ。それも片付けなさい」
「他の部屋って、物置きのことですか?」
「そうよ。それも全部、のぞみさんたちの荷物なんだから。当然でしょ」
「勝手に家に住み着いて、勝手に荷物を出して、挙げ句の果てに片付けろって。それが当然って?」
「え? 何か変なこと言った?」
「変なことしか言ってないですけどね」
「な、何よ」
「この話はもういいです。あと、お母さんからの伝言です。息子がずっとここに住めって言ってるから、部屋もないし、あんたは廊下で寝なさい、だそうです」
「はあ、お母さんなら言いそうですね」
「でしょ?」
「じゃあ、皆さんごゆっくりどうぞ。出産したばかりの嫁を廊下に追い出して、両親が痛まないなら」
「痛まないから言ってんでしょ」
「皮肉がきついですね」
「皮肉じゃなくて事実です」
「てか、随分素直じゃない? お兄ちゃんにも思ったけど、情けないとか思わないの?」
「私も誠も、あなたたちより心が広いからじゃないですか?」
「何それ?」
「そもそも、あなたたちがいる家に帰る気はありませんから」
「え? 今日帰ってくるって言ってたのに」
「状況が変わったんです。生まれたばかりの子どもを抱えて、そんな家に帰りたいわけないでしょ」
「じゃあ、このまま家をもらっていいの?」
「まあ、いいと思いますよ。あとはご自由に。じゃあね」

数日後。

「のぞみさん、実家はどう?」
「何ですか、お母さん、急に。こっちは最高ですよ」
「そう?」
「なんてたって、この家が本当に私のものになるんですから」
「どういうことですか?」
「誠が言ったのよ。この家が気に入ったなら譲るって」
「ああ、そうですか」
「ただね、『い、どうぞ』じゃないらしくて。増税対策もあるし、家と土地なんだから、普通の売買の形にしようって。誠が一旦買ってくれって言ったのよ」
「なるほど。売買の形にすれば、税金的にも有利になるんでしょうね」
「そういうこと。誠が言ってたわ」
「自分で考えたみたいに言うのは恥ずかしいですよ」
「いいじゃない、これくらい」
「というか、よくそんなお金がありましたね」
「この話を聞いて、すぐに旦那さんとはるかに相談したの。二人とも大喜びで、お金を出し合ったわ。足りない分は借金して用意したのよ」
「それは……なんというか、おめでとうございます」
「誠は私たちの自慢の息子よ。一度だって期待を裏切ったことなんてないもの」
「自慢の息子?」
「都合のいい息子の間違いでは?」
「人聞きの悪い言い方はやめてよ」
「事実でしょ。それにしても、よくそんな条件で家を買いましたね」
「どういうこと?」
「いや、買ったってことは、お金を払ったんですよね?」
「ああ、そのなら心配ご無用よ」
「どこがですか?」
「払ったお金は後で返してくれるって、誠が言ってくれたのよ。一応税金対策もあるから、すぐではないけどね。でも、お金は返ってくる。つまり、ただで一軒家をもらったのと一緒よ」
「ああ、呆れますね」
「何が?」
「今の口ぶりからして、口約束ですよね」
「それが何?」
「誠が本当にお金を返してくれると?」
「もちろん、のぞみさんは知らないでしょうけどね。誠は私に逆らったことがないのよ」
「知ってますよ。家庭環境が原因だってことも」
「高校生の頃はバイト代を全部家に入れてたわ。大学進学後もそう。頼めば何でもやってくれるの」
「何を偉そうに。親として恥ずかしくないんですか?」
「全然。車の免許を取った後は、はるかの運転手もやってくれたわ。遊びに行くのも習い事も、全部誠が送り迎えしてたのよ」
「それだけ誠は私たちの言いなりなの。そんな誠を疑うなんて、母親としてできないわ」
「母親としてだなんて、やめてください。立場を利用して、逆らわないお人形を作っただけのくせに」
「何とでも言いなさい。この家が私たちのものであることは変わらないんだから」
「そうですね。せいぜい今を楽しんでください。お人形遊びができるうちにね」

二週間後。

「誠、少しでいいからお金返しなさい」
「いや、早くない? まだ支払いしてもらってから二週間だよ」
「ほら、せっかく家が手に入ったでしょ。だから家具とか奮発して買ったのよ」
「そう言われてもさ」
「何よ、文句でもあるの? 誠がのぞみさんと一緒がいいってあっちの実家に行ったから、家具がなくなったんでしょ」
「そう言うけど、買い換えなくても良かっただろう。母さんたちやはるかが持ってたやつがあったはずだし」
「ずっと狭いアパート暮らしだったの。ようやく一軒家を手にしたんだから、家具にもこだわらないとだめよ」
「そういうもんか」
「そういうもんよ。ってことで、百万程度でいいから返して」
「嫌だね」
「はあ。もしかして、百万だと駄目? 税金対策としては、もう少し低い金額じゃないと――」
「そうじゃなくて、最初からあんたらに金を返す気なんてないんだよ」
「はあ? あんた何言ってるの?」
「言った通りだよ」
「約束はどうなるのよ! 払った金は返してくれるんでしょ?」
「いや、俺はそんなこと一言も言ってないけど」
「何言ってるの! 俺が今回の家の売買を提案した時、あんたらが勝手に言ってただけだろう。『後から誠が返せば完璧だな』って」
「でも、私はあんたにそうしろって言ったわよね」
「言ってたな。けど、俺は一言も『そうする』とは言ってない」
「……確かに言ってなかったかもしれない。でも、あんたが私の言うことを聞かないはずがないと思ってた」
「そんなの、あんたらの都合のいい思い込みだろ」
「こっちはあんたを信じて家と土地を買ったのよ!」
「勝手に信じられても困る」
「家代と土地代、合わせて五千万よ! 借金までして、私とお父さんの老後資金も全部出したの!」
「はるかも、旦那に黙って貯金を切り崩したんだったっけ?」
「そうよ! なのにこんなこと許されるはずない! 詐欺よ、詐欺!」
「俺はただ『売る』と言っただけだよ。それを勝手に都合よくねじ曲げただけだろう。そっちが強弁してるんだよ」
「そんなの屁理屈でしょ!」
「理屈を言ってるのはそっちだ。諦めろ」
「私たち、生活費も出してるのよ! 来月には家具の支払いだってあるのに!」
「確認しなかったそっちの落ち度だろ」
「こんなのってあんまりよ! 誠は私たちには逆らわないはずじゃないの!」
「なあ、母さん。俺さ、のぞみと結婚して気づいたんだよ」
「気づいた? 何に?」
「利用されるだけが家族じゃないってこと。俺はこの年まで、あんたらに利用されてきた。都合のいい息子だったよな」
「そんなことないわ! 私たちはちゃんと息子として可愛がってきたわ!」
「俺の服はいつも近所の人からのもらい物だった。反対に、はるかはいつも新品の服を着てた。違う?」
「誠は文句なんて言わなかったじゃない!」
「文句を言わないことが、俺の存在意義だと思ってたんだよ。いい子にしてれば、言うことを聞いてれば、いつか本物の家族になれるんだって」
「なら、なんで――」
「そんなことしなくても、本物の家族を手に入れたから。本当の家族って、そんなもんじゃないって気づいたからだよ」
「誠……」
「俺はもう、あんたらの都合のいいお人形じゃない。のぞみの夫で、生まれた子の父親なんだよ」

数日後、義母からのぞみの実家に電話が入った。

「誠が! 誠がおかしくなっちゃった!」
「はい。何言ってるんですか?」
「あんたのせいよ! あんたのせいで、私の誠が言うことを聞かなくなりました!」
「そうよ。そのせいで私たちは――」
「なんか、あれですね」
「何?」
「いえ、加害者が被害者面って、こんなに腹が立つんだなって」
「何ですって!」
「誠が血の繋がらない息子だから、はるかちゃんと差をつけて育ててきた。だからこうなってるんでしょ?」
「私はそんなことしてない!」
「今更そういうのは無理ですよ。誰が見たってそうですから」
「だって誠は私の本当の息子じゃないし――」
「だからって、あんまりでしょう。お父さんも味方につけて、都合よく使ってた。それなのに、やり返されたら被害者面か。寝言は寝てから言ってください」
「それでもあの子はずっといい子だったの! 私たちに反抗したことなんて一度もなくて!」
「つい先ほど、誠本人から言われたんじゃないですか。本物の家族を見つけたって」
「なんで……」
「そりゃあ、誠は今私の隣にいますから。なら、誠に言ってください。『あんたのせいで親が困ってる。今すぐ金を返せ』って」
「土地と家を、正当な手順で売って買ってもらっただけです。返すも何もありませんが」
「五千万よ! 五千万! 私とお父さんで三千万、はるかも二千万出してるの!」
「家と土地なら、妥当な値段では」
「そういうことじゃない! あんたさえいなければ、五千万も払わないで済んだのよ!」
「ダイナミックな責任転嫁ですね」
「うるさい! バカにして!」
「バカにしてるんじゃなくて、バカだと思ってるんですよ」
「さっきから何よ! 義理の母親相手に、何様のつもり!?」
「すみません。自分の旦那を都合よく利用してきた相手を敬うような教育は、受けておりませんので」
「何よ! 何よ! 誠はずっと言いなりだったじゃない! 今までの扱いで問題なかったじゃない! なのになんで――」
「こういうことになるまで、追い込まれて追い詰められて、本当に困った時に助けてもらえない。それがあなたたちが誠にしてきたことの結果です」
「だから――」
「私は誠と結婚して本当に良かったと思ってます。毎日が幸せで、家族っていいなって」
「何? 急に何よ」
「誠が入れてくれるコーヒーって、すごく美味しいんですよ」
「はあ?」
「朝起きて挨拶して、コーヒーを一緒に飲んで、他愛のない話をする時間が好きです」
「それが何? くだらない話をしないで」
「くだらないですか?」
「くだらないわよ。そんなありきたりな時間が何だって言うの?」
「あなたたちは誠に、そのくだらない時間すら与えなかった。その何気ない日常が幸せなんです。誠がそれを私に教えてくれました。家族の温もりも優しさも、誠に与えず奪うことばかり考えてきたくせに、それが家族? 親? ふざけないでください」
「だって……だって……」
「でも安心してください。あなたたちが与えなかった家族は、私が与えます。誠と子どもと三人で、本物の家族になります。だから、偽物の家族は消えてください」

翌日、今度ははるかからのぞみに電話がかかってきた。

「勝ち誇ってるところ悪いけどね、こんなのじゃ私は負けないから」
「はるかちゃん? 別に勝ち誇ってないけど」
「私たちに家を買わせて、お金もらってラッキー、みたいに思ってるんでしょ?」
「別にラッキーでもないし。自分たちで買った家を売ったんだから、プラマイゼロよ」
「でも――あ、ごめん。これ、ちゃんとLINE見えてる? 一方的に送ってない?」
「見えてますよ」
「よかった。勝手に盛り上がって勝手に打ち切ってるのかと思った。てっきりこっちのLINEが見えてないのかと」
「いいから、私の話を聞け」
「聞けって言ったのはそっちでしょ? で、逆転って何?」
「よくぞ聞いてくれたわね」
「聞けって言ったのはそっちだって」
「私が出したのは二千万。五千万で買ったこの家を売れば、帰ってくる金額よ」
「どうと言われても、まあ確かに二千万は帰ってくるでしょうね、としか」
「その場合、お母さんたちは家と土地を売ったとしても、五千万は無理よ」
「知らないわよ。元々お兄ちゃんの話に乗ったのはお母さんたち。私は誘われたから付き合ってあげただけ」
「その言い分には言いたいことはあるけど、つまり何? 自分は関係ないって言いたいわけ?」
「そう。だから、家と土地を売ったお金は全部私がもらう。さすがお姫様。どこまでも自分本意で甘いわ」
「いい計画でしょ?」
「計画って呼ぶほどのものでもないけどね。これで私は大丈夫。旦那は単身赴任中だし、この騒動には気づいてないし。金が帰ってくれば全て問題なしよ」
「ああ、そうですか。なら、旦那さんにも教えて正解だったわね」
「あ、旦那?」
「ええ、怒ってるわよ。無断で貯蓄の二千万を使ったこと」
「は、ちょ、なんで――なんで旦那が知ってるのよ!」
「そりゃ、私たちが連絡を入れたからだけど」
「はあ!?」
「ああ、そうそう。旦那さんからあなたへの伝言です」
「伝言なんか、嫌な予感がするんだけど」
「『すぐに帰るから、離婚届を用意して待ってろ』。だそうです」
「――出そうよ、嫌な予感。当たったみたいね」

数日後。

「あんたのせいで、私はもう終わりよ! 旦那に離婚されるし、子どもの親権も全部取られるって!」
「あれだけ勝ち誇ってたのに、かわいそう」
「かわいそうじゃないわよ! 何よ、他人事みたいに言って!」
「確かにかわいそうじゃないわね。こういうのを自業自得って言うんです」
「うるさい! お母さんとお父さんも使い物にならないし!」
「使い物にならない?」
「家を売ってお金に変えたけど、売れた金額は三千万。足りなかったのよ」
「でも、あなたの分はあると思うけど」
「うちの両親は、最後まで自分たちが可愛いらしいのよ。自分たちに二千万、私には一千万。ひどいと思わない?」
「確か、お父さんたちは借金して用意したんでしょ?」
「元々五百万程度しか持ってなかったみたいだからね。消費者金融や知り合いにも頼み込んで、足りない二千五百万を用意してた。そう考えると、実質的には五百万の借金ってこと?」
「二千万は帰ってきたわけだし。加えて、家具や家電は全部入れ替えたから、合わせて八百万は借金が残ったわ」
「あ、はい」
「であなたは、一千万は全部旦那に取られて」
「取られたんじゃなくて、返したが正しいでしょ。勝手に使ったのはあなたなんだから。回収しきれてない一千万は請求するって」
「まあ、財産の使い込みだからね。旦那さんには請求する権利があるでしょ」
「そんなの知らない! こんなことになるって分かってたら、最初からお母さんたちの話になんか乗らなかった!」
「見る限りノリノリだったけどね」
「あなただって、こうなるって分かってなかったでしょ!」
「分かってなかった。じゃあ済まないのが世の中なのよ」
「……お姫様」
「こんなの、おかしい!」
「何が?」
「だって私がこんなに苦労してるのに、なんであんたらは幸せそうなの? それの何がおかしいのよ!」
「お兄ちゃんは血の繋がらない他人だから、私が大事にされてきたみたいね。お兄ちゃんは私たちのために生きてるんだから、お金も家も全部私たちがもらうの」
「なんでそうなるのか知らないけど、そうやって奪ってきた分が帰ってきただけでしょ」
「奪ってない! お兄ちゃんが勝手にやってたことなの!」
「勝手に? 本当にお母さんといい、あなたといい、ふざけたことしか言わないわね」
「だって――」
「いい? 誠にそういう人生を選ばせたのは誰? ただ純粋に温かい家族を望んでた誠を、都合よく使い続けたのは誰なの?」
「それは……でも、お母さんがやってたことだし、私は――」
「子どもの言い訳はいいのよ。いい年して、ママの言うことしか聞けないの?」
「でもでもだって――」
「そればっかりね。あなたたちは都合のいい誠をお人形扱いしてたけど、本当のお人形はあなたよ。この後に及んで、自分で考えることもできない。お姫様扱いのお人形。お母さんもお父さんも、子育てのセンスゼロね」
「……は?」
「ありがとう、はるかちゃん」
「へ?」
「あなたたちのおかげで、私はうまく子育てができそうよ。自分の意思で、自分の考えで、人生を歩いていける子を育てる。あなたたちを反面教師にして、誠と一緒に、あなたたちがやってきたことを否定してやる。だから、指を加えて見てなさい。これから幸せになる私たちの姿をね」

その後、義両親は二人で八百万、はるかは一千万、それぞれが借金を抱えることになった。

今回の件をきっかけに、義父と義母の仲は決裂した。昼も夜も働いて、帰ってきたら夫婦喧嘩を繰り返す地獄の日々。はるかも離婚に加えて親権まで奪われ、家族を失った。今は多額の慰謝料を払うために、水商売をしているんだとか。

結果として、誠のことを「家族」という枠で縛っていた義家族は、家族そのものを失った。

一方、そんな縋るだけの家族から解放された誠は、のぞみと生まれたばかりの娘と三人で、幸せな日々を送っている。

あちらは家族を失い、こちらは本物の家族を得た。なんとも皮肉な話だが、誰かの犠牲で成り立っていた家族には、お似合いの末路ということだろう。

のぞみと誠はこの経験を生かして、娘を立派に育て上げるつもりでいる。いつかこの子が温かい家庭を持ってくれる。そんな日を夢見ながら、これからも人生を歩んでいく。

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