佐子さん、お久しぶりです。うわ、お義母さん。その「うわ」は何?どういうこと?大嫌いな嫁にわざわざしてあげた義母からの連絡なら、いただかなくて結構です。さようなら。ちょっとちょっと、三年ぶりだっていうのに随分じゃない?そりゃこういう反応にもなるでしょう。お義母さん、ご自分が何をされたか忘れたんですか?三年も前のことでしょ?覚えてないわね。妊娠中の私を蹴っ飛ばしたんですよ。そうだったかしら。それだけじゃありません。同居していた一年間、毎日毎日こき使って。あれは楽しかったわね。何も楽しくありません。しかも我慢の限界でこちらが文句を言ったら、「あんたみたいな嫁は大嫌い、絶縁よ」って。だって仕方ないでしょ。私、あんたみたいな言うことを聞かない嫁は嫌いなんだもの。こちらもお義母さんのことは大嫌いです。良かったですね、両思いですよ。まあまあ、感情的にならないで。そんなんじゃ、これからの私の介護が大変よ。介護?誰が誰をですか?佐子さんが私を。いや、なんで私が。私、ちょっと前に事故で車椅子生活になってね。それは一応義兄から聞いてますが。でもだからって、なんで私が介護?私だって、あんたなんかに介護されるのは嫌よ。あら、でも仕方ないでしょ。うちの長男夫婦は一切連絡取れないし。ああ、お兄さんの奥さんにも義母いびりをしてたから、失礼しちゃうわよね。いびられるのは嫁の問題でしょ。それで私が息子から避けられるなんて、意味不明だわ。意味不明なのはこっちですけど。お義母さんは何なんですか?世界の中心ですか?そんな重力なんて放ってないわよ。重力を放ってるのは地球の中心では?ニュートンもびっくりして、りんごを握りつぶしますよ。ニュートンって?ま、そういうわけだから。嫁のあんたは大嫌いだけど、私の介護をやらせてあげる。絶縁は今日で解除ね。バカなことを言わないでください。お義母さんの介護なんて、絶対にやりたくありません。嫁の分際で私の言うことが聞けないって言うの?聞けませんし、聞きたくもありません。文句ばかり言ってないで、言うことを聞きなさい。ほら、今すぐに来なさい。両平も、あんたに全部任せるって言ってたんだから。え、ちょっと待ってください。介護って、両兵が決めたことなんですか?あら、言ってなかった?そうよ。これは両兵の決定なの。分かったら、さっさとしなさいよ。
その日の夜。両兵、仕事終わった?え?終わったけど、佐子はどうしたの?お義母さんの介護の件について話があります。あ、ああ、そのね、本当にごめん。ごめん。ごめんで済む話じゃない。いや、勝手に決めて悪いとは思ってるよ。だったら、なんで何の相談もなく決めたの?せめて一言くらいあってもいいよね。それはそうなんだけど。うん。ほら、佐子は母さんと仲悪いだろ。絶縁を叩きつけられてるからね。そりゃ仲も悪いでしょうよ。「だろ」じゃないから。ごめん。でも、ほら、母さんも色々と苦労してるみたいだしさ。車椅子生活になったから。そうでも、だからってなんで私が介護?両兵だって、何があったかは覚えてるよね。母さんの嫁いびりについては、もちろん覚えてる。妊娠中に蹴っ飛ばされた挙げ句、転んだ私を見て笑ってたんだよ。お腹の優馬に何かあったかもしれないのに。でも、何事もなかったわけだし。何事もなかったから良かったね、とはならないでしょ。それに、これだけじゃないからね。私の洋服が処分されてたこともありました。分かってるよ。ただ、洋服は俺が新しいのを買ってあげただろう。それは本当にありがとう。でも、買い直したからOKってならないの。もちろんそれは分かってるよ。俺だって、母さんとは距離を置いた方がいいと思ったし。なら、なんで今更になって?それは、ほら、母さんも一応は反省してるみたいだし。反省してないでしょ。いやいや、昔とは違うはずだって。多分今日、LINEで「大嫌い」って言われましたけど。それはごめん。いや、両兵に謝ってほしいわけじゃないんだけど。ただ、あの調子じゃ、何も変わってないよ。でも、車椅子の母さんを一人にはできないだろう。ヘルパーさんを雇うとか、お父さんの遺産があるとか言ってたし。そりゃ金銭的には可能だろうけど、母さんがそれで納得すると思う?しなさそう。家族ですら介護されるのに抵抗あるみたいだし。でもさ、佐子の気持ちはよく分かるよ。だから、一週間だけ。一週間?そう、一週間だけ様子を見る期間を作ればどう?様子って、一週間介護してみて、やれそうか見るってこと?そうそう。母さんが困ってるのは事実だし。それでも無理だってなったら、やめてくれていいから。いや、でも、その間、優馬はどうするの?まだ三歳だよ。その点は大丈夫。佐子のご両親が預かってくれるって。私に相談する前に、うちの親に話してたんだ。うん。ごめん。両兵はどうするの?俺は最近残業も増えてるし。その代わり、家事とかはできる限り手伝う。まあ、私たちのために仕事を頑張ってるんだもんね。分かった。とりあえず一週間だけなら。本当か?ありがとう。ただし、何かあればすぐにやめるからね。分かってる。一応、俺も相談には乗るからさ。お願いね。
一週間後。無理だ。無理。無理。実家に帰らせていただきます。佐子、どうしたの?お義母さんは、一切何も変わってません。あんなのの相手をしてたら、こっちが参っちゃうわ。佐子がそこまで言うなんて、何があったの?気に食わないことがあると、物を投げてくるの。おかげで私の体はあざだらけ。え、そうだったんだ。大丈夫?一週間様子見ってことだから、我慢して付き合ったけど、これ以上はさすがに無理。でも、一週間は我慢できたんでしょう。我慢ね。我慢。平気だったわけじゃなくて、必死に飲んだのよ、私が。あのさ、母さんは車椅子だろ。そうだけど、それが体を自由に動かせなくて、ストレスが溜まってるんだよ。ええ、溜まってるでしょうね。私に向かって「クズ」「ゴミ」「ボケ」って、毎日毎日言ってくるくらいにはね。何あれ?お義母さんの口はナイフでできてるの?そこまで尖ってはないと思うけど。それに、介護される側も色々と大変だろ。少しくらい多めに見てやってくれないかな?多めに見て。一週間も付き合ったんですけど。大変なのは分かるけど、ここまで来て投げ出すのは違うんじゃない?じゃあ、両兵がやれば?それはごめん。それに、様子見で無理ならやめていいって言ってたよね。それはそうなんだけど、できるなら最後まで見てあげてほしいなって。最後っていつ?何年後?それまで私にずっと耐えろってこと?佐子も分かるだろう。母さんがあの調子じゃ、ヘルパーを呼んでもだめだ。すぐに誰も来なくなる。それはそうだろうけど、お兄さんたちだって、今さら介護をしてくれるとは思えない。そうなったら、母さんは頼れる相手がいなくなるんだよ。だから私に犠牲になれって?そこまでは言ってないけど。そもそもさ、なんかおかしいよね。おかしいって、何が?なんでそこまで両兵がお義母さんの肩を持つのか?それは息子だし。私が絶縁を叩きつけられた時さ、両兵は「佐子が絶縁なら、俺も絶縁」って言ってくれたのに。あの時とは状況が違うだろう。無理を言ってるのは分かるけど、どうにかお願いできないか?私は一週間っていう義理は通しました。そこをなんとか。どうしてそこまでこだわるのかは知らないけど、これ以上お義母さんとは関わりたくありません。どうしてもって言うなら、自分でなんとかしてください。以上。
翌日。ちょっと、佐子さん、早く来てくれる?もう十時なのよ。朝から出勤とは、あんた、いつからそんなに偉くなったの?お会いしたいのは山々ですが、私はもうそちらには伺いません。はあ?何を言ってないで、早く来なさい。いいえ、行きません。お義母さんの介護は昨日でおしまいです。何言ってるの?母の介護は嫁の仕事でしょ。知るか、そんなこと。あなたが変わってない以上、付き合いきれません。絶縁の解除を解除します。何を言ってるんだか。私の介護をやめていいと思ってるの?元々、両兵に頼まれたからやっていたことです。やりたくてやってたんじゃありません。それで困るのがどっちか分かってるわけ?お義母さんですよね。私たちは一切困りませんから。ああ、全く。本当に佐子さんは何にも知らないのね。はい、何ですか?私の介護をやめて困るのは、そっちでしょうに。いや、なんで私たちが困るんですか?そもそも、佐子さんが良くても、両兵が良くないでしょ。そりゃまあ、両兵は続けてほしそうでしたけど。それと、私たちが困るって話がどう繋がるんです?さてね。まあ、どうせすぐに佐子さんの気も変わるわ。変わりません。介護したいって言うならさせてあげるから、来なさい。そんな態度でいいの?問題ありません。はい、はい。じゃあ、したくなったら来てちょうだい。とはいえ、そこまで強く拒否してるんだから、お願いする時は土下座して頼みなさいね。
その日。ちょっと、佐子。母さんが怒ってたよ。私はちゃんと両兵にもう無理だって伝えたよね。それはそうだけど、でも、ちゃんと続けてほしいって頼んだろう。だから、だからじゃなくて、困るよ。逆に聞くけど、あの状況で私が行くって本気で思ってた?そういう問題じゃなくてさ。どうするの?どうするも何も、無理なものは無理。子供じゃないんだからさ。母さんには俺から言って聞かせるから、お願いだよ。それで効果があったことってある?いや、ないけど。というか、私は両兵に聞きたいことがあるんだけど。う、聞きたいこと?ずっと疑問だったんだよね。なんでここまで両兵がお義母さんの肩を持つのか。前にも言っただろう。一応は息子だから。優しい両兵のことだから、そういうこともあるかなって思ったけど。それだけじゃないよね。それだけじゃないって、何?お姉さんから聞いた。お姉さんから、何を?お義母さんの介護を引き受けたら、遺産の相続で優遇してくれるんだって。え?なんでそのお姉さんが知って?お義母さんね、両兵に話をする前に、お兄さんたちに話をしたんだって。「介護してくれたら、相続で優遇するぞ」って。兄貴たちに先に声をかけてたのか。母さん。そんなことは一言も。それよりも説明して。両兵は遺産のために、お義母さんの介護を引き受けたの?う、それは、ほら、優馬はまだ三歳だろ。これから色々と金がかかるわけだし。だから、私に何の説明もなしに介護を?家族のためになると思ったんだ。なら、少しくらい説明してくれてもいいよね。それとも何?私には話せないような事情でもあるの?そんなことない。ただ、お金のためだって知ったら、嫌がるかなって。そりゃそうでしょ。でも、これで分かっただろう。母さんの介護をすれば、優馬も佐子も助かるわけだし。全部、家族のためだったんだよ。なら、お兄さんたちにお金を借りようとしたのは、なんで?あ、少し前に両兵が頼んできたって言ってた。「後で必ず返すから、すぐに貸してほしい」って。それは、その。確かに優馬の将来を考えれば、お金が必要なのは分かるけど、すぐに欲しいわけじゃないよね。それこそ、兄から借金してまでは必要ない。いや、ほら、母さんの介護をするってなったら、佐子も色々と疲れるだろう。だから、少しでもこう、何かできたらなって。何かって、何?その、ちょっと豪華なご飯を食べたりとか。それ、借金してまでする必要はある?どうだろうね。どうだろうねって、何?というか、介護もそうだけど、借金も黙ってするわけ?ごめん。ごめんじゃないんだよ。そんな言葉だけで流せるようなことじゃないでしょ。それはそうかも。あ、こんなことが続くなら、もう両兵を信用できない。悪いけど、優馬も連れて実家に帰るから。え、ちょっと待ってくれよ。なんで?言ったでしょ、信用できない。少し、私も両兵も頭を冷やした方がいいよ。今は距離を取った方がいいと思う。じゃあ、また頭を冷やしたら連絡するから。それじゃ。
数日後。頼む。早く帰ってきて。どうしたの?母さんの介護をやってるんだけど、俺の言うことを聞かないし、物を投げてくるし。こんなの続けられないって。それを何の了承もなく私に押し付けたのは、両兵です。だよね。なら、黙ってやれ。本当にごめん。けど、これ以上は無理。助けてくれ。助けてくれって言われても、私はもう帰らないから無理。は?帰らないって?あなたとは離婚するから。いやいやいや、ちょっと待ってくれよ。は、いくらなんでも急すぎない?私さ、両兵の話を聞いて、ちょっと思ったんだよね。は、何?離婚と関係ある話?ある話でさ、思ったのよ。両兵が欲しがったのって、絶対、私たちのためじゃないなって。はい?なんでそうなるんだよ。俺は家族のためになると思って。いや、どう考えてもおかしいよね。何?疲れてる私に贅沢をさせたいから借金って、言い訳するにしても、もうちょっとあると思わない?いや、確かにその理由は俺もどうかと思うけど。そこで私は色々と調査しました。は、調査?普通に考えて、借金してまでってことはさ、直近でお金が欲しいってことだよね。しかも私に黙ってってことは、私には言えないこと。いくら何でも、佐子の考えすぎだって。俺は別に、やましいことなんて。じゃあ聞くけど、嫁に介護を押し付けて飲むシャンパンは美味しかった?は?あなたの同僚、友達、お兄さんたち全員に連絡しました。そしたら、同僚の方から興味深い話が聞けたの。なんでも、キャバクラにはまってるとか?いや、それは付き合いで。キャバクラが原因で借金が二百万もできた。で、同僚の方に愚痴ってたらしいわね。頭を抱えてたって聞いたけど。付き合いで借金する?あなたは。ちなみに、あなたが通ってたキャバ嬢さんに会ってきました。は?あの間も高額シャンパンを入れていたそうで。嫁と子供がいるくせに、随分と楽しそうだね。いや、ごめん。ごめんじゃなくてさ、説明してよ。付き合いってのは嘘なんだよね。最初は仕事の付き合いで行ったんだ。ただ、ちょうど仕事が忙しくて疲れてた時期だったし。それで通うようになって、そのまま借金を作ったの?ごめん。つまり、あなたが遺産を欲しがったのは、私に借金がバレる前に処理するため。お兄さんたちから借りれなかったから、仕方なく、ってことでいいんだよね。そうだよ。でも、別に佐子のことが嫌いになったとかじゃない。ちょっとした息抜きで、悪かった。息抜き?あくまで客としてってこと?そうだ。だから、何?いや、それは、その。私は両兵が頼むから、お義母さんの介護もした。その間、私がどれだけの目にあったか分かってる?怪我をしたのは聞いたけど。それだけじゃないから。お前みたいな嫁をもらったのは失敗だった。優馬もお前に似てるから、私の孫は認めない。嫁なんて、ただの雑用係。義母に言われたのか。一回や二回じゃないよ。顔を合わせるたびに、毎日言われ続けて。それでも一週間って我慢して、笑顔を作って。私が何のためにそこまで我慢したと思ってるの?俺のため。そうだよ。両兵がお願いするから、一週間って我慢した。その結果がこれ。本当にごめん。けど、母さんの介護さえすれば、借金は解決する。そうなれば、何の問題もなくなるだろう。借金のことを黙って、介護のことを黙って、我慢して傷ついた嫁にかける言葉がそれ?いや、だって。いやだ、って、そうやって言い訳して。あなたって本当にずるい。私はね、あなたの借金を返すために生きてるんじゃないの。ごめん。謝って済む段階は、とっくの昔に過ぎてるから。あなたとは離婚します。借金の返済がしたいなら、一人で勝手にどうぞ。私と優馬をこれ以上巻き込まないで。
一週間後。佐子さん、本当に介護しないなんて、一体何考えてるの?何を考えてるも何もありません。義兄から聞いたでしょう。もう離婚したんですよ、私たちは。そんなことは私には関係ありません。あんたが介護に来ないせいでね、こっちは大変なのよ。今は両兵が介護してると聞きましたが。両兵はやってるわよ。けど、全然だめ。気遣いが足りないし、要領が悪いし。これなら佐子さんの方がましよ。文句を言える立場ですか?しかも、何?あの子、借金二百万ですって。介護もろくにできないくせに、迷惑ばかりかけて。ああ、お義母さんって、本当にお義母さんですね。はあ?何?どういうこと?いつだって自分のことばかり。ま、その点は、両兵も同じか。世界はあなたたち中心で回ってないんですけど。うるさいわね。嫁の分際で、姑に説教でもするつもり?説教ってのは、聞く耳を持ってくれる人にするものです。お義母さん相手に説教なんて、そんな時間をどぶに捨てるような真似はしませんよ。なんですって。そもそも、両兵に不満があるなら、追い出したらどうですか?だめよ。介護させる人がいなくなるじゃない。ヘルパーでも雇ったらどうですか?お父さんの遺産があるんですよね。これは、その。はあ、そっか。遺産があるなんて嘘っぱちだから、無理なんだな。嘘っぱちって何よ。事実ですよね。お兄さんたちが言ってましたよ。そんなことないわよ。というか、あの子たちにはちゃんと財産目録も見せて。それ、偽装ですよねえ。お兄さんたちは不思議がってましたよ。お父さんが亡くなった時、言ってた遺産よりも多いって。言ってた。まさか、あの人が何か言ってたの?亡くなる前に、謝罪されたそうです。残せる遺産は実家だけだけど、その実家はお義母さんに残したいって。だから、お兄さんたちには何も残せなくてすまないって。あの人がそんなことを。だから、あの子たちは私の介護を断ったのね。単純にお義母さんの性格の問題もありますけどね。でも、こうなると、おかしい部分があると思いません?何がよ。実家が残ってるなら、実家を売ればいいじゃないですか。何をバカなこと言ってるの?この家は家族の大切な思い出があるの。そう簡単に手放せるもんですか?お義母さんじゃなければ、それで納得しましたけど。お義母さんは私のことが大嫌いですよね。ええ、そうよ。それが、そんな大嫌いな私に介護されるなら、実家を売って介護施設にでも入りますよね。それなら、なんでそうしなかったのか。答えは単純。売れないから。何を失礼な。売れるわよ。でも、採算が合わないですよね。その家はお父さんのご実家と聞いてます。築年数はもう五十年以上ですし、立地も悪い。売るならリフォームは必須でしょう。別に、家なしで土地だけでも売れるわよ。その場合は、リフォームではなく解体費用がかかります。どちらにしても、売って手元に残る金額は雀の涙です。知ったような口を聞いて。でも、当たりですよね。じゃないと、偽の遺産をでっち上げる意味がありません。このこと、両兵は知ってるんですか?あの子は知らないわ。今も介護してるのは、うちにお金があると思ってるから。このことを両兵に言ったら、どうなりますかね?あなた、何考えてるの?やめなさい。冗談ですよ、冗談。両兵に伝えるつもりはありません。そうなの?ただし、お義母さんが今後、私たちに関わらなければの話です。言ってる意味、分かりますよね。脅すつもり?脅すも何もありません。私はもう、あなたたち親子に振り回されたくないだけです。介護も借金も遺産も。やりたければ、二人で勝手にやっててください。でも、あの子の介護が下手でも、何もないよりはましでしょ。でも、あの子は今は離婚のショックで介護も適当だし、それに、もしバレたりしたら。そこまでは面倒見きれません。お義母さんが土下座で頼んできたとしても、私はもうあなたたちに関わる気はありませんから。
その後、お義母さんと両兵は、今でも同居して介護生活を送っています。お義母さんは随分と気が立っているようで、八つ当たりは日に日に悪化。両兵も、仕事に家事に介護にと、離婚したばかりのショックから立ち直る暇もない日々で、心身ともに疲弊。それが原因で、また介護の質は落ちて。お義母さんはストレスで髪が抜け落ち、顔色も最悪なんだとか。びっくりするくらいの悪循環です。ちなみに、私は両兵と離婚した時に、優馬の養育費を請求。両兵が作っていた借金は財産分与の対象にはならず、そのまま二百万の借金を抱えた状態で、月五万の養育費を払うことに。慰謝料については、残念ながら請求しても回収できる可能性がありません。そこで、養育費だけはしっかりといただくことになりました。金銭的な負担に、精神的な肉体的な負担。それらを抱えた両兵にとって、唯一の希望はお義母さんの遺産です。しかし、その希望である遺産すら、存在しないものだと知ったら。この事実を、お義母さんが自分で言うことはないでしょう。私も言うつもりはありませんし、お兄さんたちも、勇気はないようです。これから何年後の未来かは分かりません。しかし、その未来が来た時、時限爆弾はきっと両兵にとどめを刺すことでしょう。一方で、私はといえば、今は実家に帰り、優馬と両親と共に生活を送っています。シングルマザーとして大変なこともありますが、それでも、耳障りのいい言葉だけを吐く夫との生活よりは幸せです。
