みおさん、いい加減にしなさいよ。いつになったら孫の顔を見せてくれる気なの? お医者様だからって何が偉いっていうのよ。嫁っていうものはね、子供を産んでようやく一人前なんだからね。
もう成人したちゃんとした大人です。子供ができるかできないかで人の価値を決めるなんて、時代遅れですよ。
時代なんて関係ないわ。私が孫が欲しいって言ってるんだから、それに応えるのが嫁の役目でしょ。うちは夫が早くに亡くなってね、私は寂しい思いをしてるのよ。なのに同居もしてくれないし、本当に失礼な嫁だわ。
それはどうもすみませんでした。
すみませんと思う気持ちがあるなら、一日でも早く孫を見せなさいよ。みおさんももう三十六歳でしょ。高齢出産になるんだから。あなたたち夫婦のことを思って言ってるのよ。それこそお医者様なんだから、不妊治療でも何でも方法はあるでしょ。ちょっと考えればわかることなのに、本当にどんくさいんだから。
数分後。
ねえ、またお母さんから孫の催促が来たんだけど。子供を作るかどうかなんて、他人が口出ししていいことじゃないでしょ。勇志からも、これ以上口出ししないように言ってよ。私、限界だわ。
ああ、うまくやっておいてよ。
みおって面倒な患者の相手はしてるでしょ。そういう口うるさい理解のないおばちゃんだと思っておけばいいじゃん。
その日限りの患者さんと、義母とじゃ全然違うでしょ。
俺さ、みおが俺の母さんとうまくやれると思って結婚したんだよ。クレーマーの患者とか、面倒な人には慣れてるって言ってたじゃん。なのにそれができないって、本当に期待外れなんだけど。
クレーマーとか面倒な患者さんなんて言い方してないわ。体調が悪かったり、中には大きな手術を控えてる患者さんもいる。精神的に不安定になったり、感情的になってしまう人もいるって言ったのよ。
今日は家に帰るのやめるわ。お前、機嫌悪そうだし。
また。
いい加減にしてよ。
――一ヶ月後。
今日も帰らないのね。もう何でもいいけど、一度どこかで直接話す時間をちょうだい。私ももう限界なの。
数日後。
みおさん、今度そっちに泊まりに行かせてくれないかしら? 家にいても暇でね。外に食べに行くのもお金がもったいないし、適当に作っておいてくれる? 私は豚肉はだめなの。お魚にしてくれる?

ああ、そうよ。お寿司の出前とかどうかしら? あなたお医者様だし稼いでるんでしょ。特上でお願いね。
数分後、ちょっと返事しなさいよ。既読するなんて失礼だわ。
すみません。今、ちょっとお母さんに対応する余裕がないんです。食事会のことですけど、開催するかどうか直接勇志さんに聞いてもらえますか? 勇志さんがいいって言えば、私も対応しますので。
数分後。
ねえ、勇志。勇志の家でご飯が食べたいの。いいわよね。
ああ、ごめん。今ちょっと俺もみおも仕事がバタついててさ。俺だけ外食じゃだめ? 奢るし。
ええ、しょうがないんだから。
――一ヶ月後。
母さん、どうしよう。
どうしたの?
俺、この前の健康診断に引っかかって、心臓の病気だったんだ。精密検査したら、弁膜症っていう心臓の病気でね。
なんですって。大変じゃないの。それって命に関わるの? 手術すれば助かるみたいなんだけど、手術費用が千二百万円もするんだ。
そんなに。どうしたらいいの? 母さんが助けてくれるなら嬉しい。俺もそんなお金、さすがにポンと出せなくて。
待って。みおさんは妻なんだから、夫の手術費用を出すのは当然でしょ。それにあの人、お医者様なんだから稼ぎはあるでしょ。
どうだろう。みおに頼むのは難しいかな。
信じられない。あの女。今度こそガツンと言ってやらないと気が済まないわ。絶対に手術費用を払わせるわよ。子供も産まない。夫の世話もできないなんて。どんな薬病神だわ。
数分後。
ちょっとみおさん。夫の命がかかってるんだから、手術代払いなさいよ。千二百万円、急いで。姑に言われる前に普通払うでしょ。何考えてるのよ。不細工でお金も出さないなんて。何のために結婚したかわからないじゃないの。もし勇志を見捨てるような最低な真似をしてごらんなさい。離婚させてやるから。
あの、もう離婚済みですが。
は? 何言ってるのよ。こんな時に変な冗談やめてよ。
冗談じゃないです。てっきり話しているのかと思っていました。連絡が遅れてすみません。
勇志とは二ヶ月くらい前からうまくいってなくて、先月に至ってはほとんど家に帰ってきていませんでした。その間に私も探偵事務所に依頼して、勇志の行動を調べてもらっていたんです。そしたら出てくるわ、出てくるわ。馬鹿らしい浮気の証拠の数々。結婚して二年の間に、五人もの女性とお付き合いしていたそうですよ。
嘘よ。勇志がそんなことするはずないわ。
ご希望があれば、証拠資料全てお送りしましょうか。
それと、手術費用がないっていうのも、貯金がすっからかんだからじゃないですか。私への慰謝料が九十万。家を解約して引っ越して一人暮らししてるでしょうから、初期費用なんかで結構なお金が飛んだと思いますよ。
じゃあ、その慰謝料を返してあげなさいよ。頭金くらいにはなるかもしれないし。
離婚の原因は勇志さんかもしれない。でも、今はそんなこと言ってられないでしょ。
それと、これは親切心からの質問なんですけど、勇志さんって何の病気で、手術が必要と診断されたんですか?
え? 心臓の病気よ。なんて言ったかしらね。
勇志さんからもし診断名が送られているなら、スクリーンショットで送ってください。私も内科ですから。ある程度病名を見れば、どういう状態なのかは分かりますから。
数分後。
なるほど。勝子さん、これ嘘ですよ。
は? 勇志が病気じゃないって言いたいの? 違います。本当に診断が出ているのかもしれませんが、言いたいのはそこではありません。弁膜症は確かに手術が必要ですが、千二百万円なんて費用は聞いたことがないです。
どういうことよ。
人工弁の手術が必要になるでしょうが、この手術は保険適用になります。収入によって変動しますが、だいたい二十万から三十万を見ておけば足ります。それに勇志さんは保険にも加入していますから、保険が降りるはずですよ。
ええ、ちょっと待って。心臓の手術は外科でしょ。あなた内科じゃないの?
私が素人だと思って、適当にそれっぽいことを言ってるだけでしょ。騙そうったって、そうはいかないわよ。
そうですか。では勇志さんの診察に勝子さんが付き添われてはいかがですか? おそらく入院日や手術日について、もうスケジュールを立て始めているはずです。母親として息子の手術の説明を聞きたいと言えば、断れないでしょうし、費用についても直接説明してもらえるはずです。それでも千二百万円かかるというなら、私がその医師に質問しに行きますよ。
勇志に聞いてみるわ。このやり取りを送ってもいいかしら? もちろん。それが一番早いと思います。
数分後。
ねえ、さっきの画像見てくれた? みおさんに手術費用を請求したら、離婚したって言われてびっくりしたわよ。
うん。まあ、それはもういいんだけど。この手術に千二百万円もかからないって言われたんだけど、本当なの?
ねえ、勇志。今度私も病院に付き添っていいかしら? それではっきりするわよね。
なんで電話に出ないの? 勇志、私を騙そうとしたの? ねえ、答えなさいよ。
数分後。
勇志が電話に出てくれないの。ねえ、これって私が騙されたってことなの?
心臓病の手術費用っていうのは、詐欺に使われやすいんですよ。心臓が悪い、命に関わる、難しそうな手術、高額に違いないと連想されやすいせいでしょうね。でも、意外とすぐ終わる手術も多いですし、外科じゃないこともざらです。日本は特に医療体制に加えて、高額医療費制度も整っていますからね。
医者のくせに、とばしていた私に、どうしてそんな風に教えてくれたの? 私は今は内科ですが、四年前までは心臓外科医でした。
え? 事情があって内科に転科して、それ以来、元外科医という事実は伏せていたんです。でも、心臓手術が詐欺に使われるということが我慢できなくて、つい助言してしまったんですよ。別に勇志さんが勝子さんから千二百万円を絞り取ろうと、どうでも良かったんですけどね。
お仕事にプライドがあったからこそ、詐欺を見過ごせなかったんでしょ。色々とごめんなさいね。
謝ってもらわなくて結構です。私が勝子さんと和解することはありえませんし。普通に人として嫌いなので。
私だって寂しかったのよ。夫が亡くなったのに、息子は家に帰ってきてくれないし、結婚したのに同居してくれないし、それに嫁とはうまくやれないし。
勝子さんは、あまりにも自分が強すぎなんですよ。そういう人とは距離を置くのが一番だと考えているので。
息子のことはほっといても問題ないってことなのよね。二十万くらいなら消費者金融で借りられる額ですし、仕事もしてるでしょうからね。でも、離婚してからもすっきりはしてないんですよ。私の貴重な二年間を奪われたのに、慰謝料九十万で納得できると思いますか? それは、それはそうかもしれませんけど。でも、お母さんから絞り取ろうとしたのも、お金に困ってるからだと思いますよ。
あの子がお金に困ってるですって?
もしかしたら他額の借金があるのか、新しい女性に入れ込んでるのか。そんなこと、ありえないとも言えないのね。ショックだわ。
なので、勝子さんに協力して欲しいんです。それで、結婚時代の無神経な嫌味攻撃はチャラにしてあげますから。なんてね。どうです? 安いと思いません? ――翌日。
勇志、この前はあんなLINEしてごめんなさいね。勇志がお金が必要って言うんだから、嘘なわけないわよね。
俺のこと信じてくれるの? もちろんよ。母親ですもの。
ありがとう、母さん。それで手術の日取りなんだけど、二週間後になってるんだ。それまでに振り込んでくれる?
分かったわ。
お医者さんへの付き添いは、いらないの? それは大丈夫。東京の大きい病院に行くから、母さんが電車で来るのも大変だろうし。あと、俺、新しく彼女もできたんだ。結婚も考えてるんだ。離婚から間が短いから反対されたくなくて、色々と報告ができなくてごめん。
そうなの? そう。だから心臓病の手術を乗り越えたら、俺、二度目の結婚をするんだ。俺、今度こそ幸せになるよ、母さん。
そうなのね。応援してるわ。そうだ、よかったら、その結婚を考えてる彼女さんの連絡先を教えてくれない? 今後も病気のサポートとかもあるだろうし、顔も合わせるわよね。
そうだな。四つ葉っていう、すごく可愛くて綺麗な人なんだよ。今、連絡先を共有する。
数分後。
初めまして。勇志の母です。この度は病気の息子を支えてくださるということで、ありがとうございます。
いえいえ。こちらこそ。ひとまず手術費用が一番の問題なので、お母さんを頼りにさせていただきます。私が払えればよかったんですけど、まだ二十三歳で稼ぎもなくて。
あら、そんなにお若い方が、息子なんて、おじさんじゃない?
私、年上好きなので。また連絡しますね。
数分後。
勇志の手術は二週間後で、それ以内に振り込んで欲しいって。典型的な振り込め詐欺ですね。ここまで来ると、ご褒美にして欲しいレベルですけど。実の息子から詐欺の標的にされるなんて。ああ、もう情けない。
では、その二週間が勝負ですね。あとはこちらに任せてください。確認しておきますけど、結構ガチ目に手を打っちゃって大丈夫ですか? 離婚して他人になっているあなたにお世話になることじゃないのは分かってるけど、お願いします。それと言われた通り、彼女の連絡先も手に入れたから、必要な時に使ってちょうだい。共有するからね。
勝子さんって、冷静になれば案外普通の人なんですね。
息子が絡むとバカになるってやつですか。
あ、きつく言ってくれるわね。でも、そうかもしれないわ。夫からも、お前は勇志に甘すぎる。それが心配だよって言われていたのよ。私としてはそんなことないって思ってたんだけど、今ここでやっとその意味を理解するとはね。
お父さんも天国で、やっと気づいたかって言ってるんじゃないですか。
だとしたら、早く安心させてあげないとだわね。
――二週間後。
なあ、母さん。いつになったら振り込んでくれるんだよ。もう約束の日だよな。まさか用意できなかったなんて言わないよな。
用意してないわ。あなたの嘘はもう、全部わかってるのよ。手術に関しては本当みたいだけどね。
なんで。なんでそんなこと言うんだよ。俺を信じてくれないのか。
久しぶりね、勇志。
なんでお前と母さんは、仲悪かったじゃねえか。
勝子さんは目を覚ましてくれたのよ。私が元外科医ってわかってね。
元心臓外科医? 何言ってんだよ、こんな時に。それこそ詐欺だろ。
くらくら総合病院を受診してるのよね。
なんで、それは? 探偵事務所で、あなたの約二週間の行動は調べてあるから、言い訳しない方がいいわよ。で、くらくら総合病院には同期が勤めてるから、話を聞いてみた。
は、そんなの個人情報だろ。漏洩だ。
落ち着いて。手術内容と費用について聞いただけ。やっぱり弁膜症の手術なら、千二百万円になることなんてありえないですって。そもそも国内でそこまで高額な治療が必要なものなら、即入院になるわよ。
外科って何なんだよ。
まさか、あなたが心臓病を語った詐欺をやろうだなんてね。本当にがっかりよ。軽い性格だけど、フットワークの良さとか人当たりの良さとか、あなたのいいところだと思ってたのにね。
待て。話せば分かる。俺はマジで手術するんだよ。それの金は必要なんだ。これは嘘じゃねえから、病院に問い合わせてもらってもいいし、書類とかの写真を送ってもいいし。信じてくれよ。
でも、それ以外にも出費が必要なんでしょ?
そりゃそうよね。今付き合ってる彼女が、キャバ嬢兼インフルエンサーじゃない。お金もかかるわよね。二週間の間に買い物に付き合って、ブランド店にも次々入っていったし。ちょっと羽振り良すぎるんじゃない? 持たないわよ、あの使い方。
キモいな。
なんて言うんだよ、マジで。
どの口が言ってるの? キモいのはあんただからね。
そこまでひどかったら病気だよ。
本当にうるせえな。マジで、お前のそういう口うるさいところがマジで無理なんだよ。母さんともうまくやれねえし、マジ失敗したわ。何のために、お前みたいな年増のババアと結婚したと思ってんだよ。
黙りなさい。このバカ息子が。女性が外科医になるまでに、どれだけの苦労があるか分かってるの? 私もね、おばさんが医者だったから分かるんだよ。頭も良くて、性格も良くて、根性もあって、親戚中の憧れだった私だってそう。でも、その分苦労も多かったから、最後は体を壊して外科を引退してね。だから、みおさんの苦労は全部わからなくても、どれだけ努力してきたかは分かるのよ。偉い大学に行って遊んだりすることもほとんどできないような、厳しい環境を耐え抜いて外科医になるのよ。それも心臓外科医だなんて。あんたの次元とは比べ物にならない努力をしないと、入れないんだから。
なんだよ。そんな急に手のひら返して。もういい。あんたらには頼らねえよ。
勝子さん。
ほら、まだ残ってるんでしょ。きっちり追い込まないとね。私、いびりは得意なのよ。知ってるでしょ。
そうですね。
――数十分後。
あんたね、勇志をたぶらかしてくれたのは計画に乗ったあの子もどうしようもないけど、話を持ちかけたあんたも最低よ。詐欺の計画の証拠は、全部手元に揃ってるからね。
いきなり何?
怖いんですけど。ヒステリーですか? 人の息子を財布扱いして、恥ずかしくないの? は? 私が愛されてるから、勇志さんがお金を出すんでしょ?
文句あるなら息子に言えば。この計画だってノリノリだったし。
そうよ。息子にもきっちり責任は取らせるわ。そして、それはあんたも一緒。
いやいや、その辺にいるおばさんに何ができるって言うんですか? 私、こう見えてフォロワー二十万人のインフルエンサーなんですよ。キャバでもめっちゃ稼いでるんで、顔も広いし。おばさん一人潰すくらい簡単ですけど。
それでも、お金が足りないくらい金遣いが荒いのよね。探偵事務所の調査では、ホストに入れ込んで一晩で二百万円は使うらしいじゃないの。
私が稼いだ金をどう使おうが、私の勝手でしょ。ほっといてくれる? 私はただのおばちゃんだけどね。こう見えて、あなたと一緒で顔が広いの。知り合いのママ友の息子さんがインフルエンサーでね。うん。なんだっけ? フォロワー五十万人だったかしら?
うん。私もあんまり詳しくないんだけど。彼に今回のことを話そうかしら。心臓病の詐欺で、手術費用を母親に要求、みたいな感じで。
そんな嘘に騙されるわけないでしょ。
ああ、あった、あった。このアカウントよ。共有するわね。
数分後。
待って。マジの知り合い。このアカウント、ガチじゃん。
は、え、ちょっと待って。
だから、ガチだって言ってるんでしょ。暴露系とかじゃないけど、知り合いとか視聴者さんからのお困り事を配信して、有識者から解決法を集めるコーナーが人気なのよね。それに、私の息子が心臓詐欺の片棒を担がされそうになっている。助けてって送ればいいと思うのよね。知り合い経由で相談すれば、取り上げてくれる気もするし。
待って。こんなことされたら、私マジで終わるから。
詐欺を働くってのはね、そういうことよ。バレなきゃいいじゃないの。やっちゃダメなのよ。お灸、しっかり据えてもらいますからね。
――数分後。
勝子さんからも連絡が来てると思いますけど、一応補足として、手元にある証拠について開示しておきますね。二週間、探偵事務所の人に依頼して、四つ葉さんを探ってもらってました。その中で、カフェであなたが勇志さんに対して詐欺の入れ知恵をしている音源を取ることに成功してます。
は? ストーカーじゃん。何なの? どうぞ。好きなだけ罵倒していただいて結構です。こっちが負ける要素がないので。心臓病の手術費用詐欺に関しては未遂だから、特に犯罪として立件はできないけど、インフルエンサーとして終わらせることはできるから、覚悟してください。
本当にやめて。マジで出来心だったの。お金持ちになれると思っただけで。私なんだから許してよ。お願い。
あんたたちがどんな関係になろうと、知ったこっちゃないわよ。結婚でも何でも好きにすれば。未練なんて一ミリもないしね。でもね、心臓病の患者さんの苦しさを一ミリも理解せずに、詐欺に利用しようとしたことが許せない。徹底的に潰させてもらうわよ。
――数日後。
頼む。助けてくれ。もう首が回らない。四つ葉のために借りたお金。利息がすごいことになってて、今もう四百万円くらいになっててやばいんだよ。頼む。一時的でいいから貸してくれよ。お前なら、利息なしでいいだろ。
もう離婚済みなので、頼む相手が違うんじゃない? 浮気三昧、借金三昧、人としても夫としても落第点のあなたと、今後接点を持つことはありえないので、失礼します。
――翌日。
私、家を売って引っ越すことにしたわ。勇志とは距離を置くつもりよ。みおさんの受言通り、今はホテル暮らししてるわ。案外いいもんね。
それがいいと思います。顔を合わせたら、甘やかしたくなるかもしれないですからね。
本当、気持ちが楽になったわね。
ねえ、みおさん。どうして外科をやめてしまったの?
言いたくないならいいんだけど、どうしても気になって。
手術に失敗して、患者さんの命を救うことができなかったんです。元々確率の低い手術で、それでもということで、ご本人もご家族も同意の上で行いました。でも、結果として患者さんは術後数週間で亡くなってしまいました。医療ミスではないとはいえ、もし私ではない別の医師が執刀していたらと思ったら、もう二度とオペをしてはいけない。私が私を許せなかったので、外科をやめることに決めたんです。
そうだったの。辛かったわね。それでも、あなたが外科医として頑張ってきたからこそ、今回の心臓病の詐欺を見抜いて防げたのよ。本当に感謝してるわ。ありがとう。あなたは尊敬できる人だった。
私、本当に反省してるの? そうですね。勝子さんは顔も広いし、肚も据わったしっかりした人だということが今回のことで分かったので、息子としっかり決別できた時には、お茶でもどうですか? 私とのお茶は長いわよ。覚悟なさい。
――その後。
勇志は借金して手術を受けたようですが、お金に関しては結局どうすることもできず、自己破産になったそうです。そして、キャバ嬢インフルエンサーの四つ葉も、心臓の手術を語った詐欺を、恋人関係になった自分の視聴者と一緒に働こうとしたことが暴露されて、大炎上。アカウントは消えてしまいました。ただ、ネットストーカーに必要以上に追いかけ回されているみたいで、疲弊した様子が見られますね。どの道、しばらくは地獄になることでしょう。
ちなみに私は別の病院に転院して、内科勤務を続けています。外科に戻らないという強い意思は変わりませんが、それでも外科医だったことで一つの詐欺を防げて、本当に良かった。だからこそ、私の失敗と経験を生かして、SNSでの発信は試してみようと考えています。義母のことは嫌いですが、それでも私の努力を認めてくれたことは、素直に嬉しかったので。私の経験が心臓病に苦しむ人の助けになったり、詐欺を防ぐ啓発になれば、私が身につけた経験も無駄にならずに済むと思って、一歩踏み出してみようと思います。
ご視聴ありがとうございました。動画の評価とチャンネル登録も、よろしくお願いします。それでは、次回の動画でお会いしましょう。