義母の誕生日会。私と夫は義母を連れて、義姉夫婦も一緒に高級フレンチレストランを訪れていた。お店の雰囲気は柔らかな照明とウエイターの丁寧な所作に満ちていて、今日という日を特別に彩ってくれている。義母も普段よりも華やいだ表情で、料理を運んでくるたびに目を輝かせていた。
しかし、そんな幸せな雰囲気に水を差す言葉が、向かいの席から投げかけられる。
「うち、足りないからね。ちゃんと割り勘にしてよ」
ニヤリと笑いながら言ったのは義姉だ。私と夫、そして義母に向かって、高いワイングラスをくるくると指で回しながら。
義姉は私から見ても、自分の夫の稼ぎを鼻にかけた物言いをするのが好きな性格だった。そして、私と夫がいないと決めつけた貧乏夫婦だと思っていることを、こんな場面でも平気で口にした。
正直、もう慣れていた。私たちが何か言えば言うほど火に油を注ぐだけだということも分かっていた。
でも、今日は違った。今日は義母の誕生日で、私たちは心からこの時間を祝いたいと思っていた。それを最初からぶち壊すようなこの一言に、私は心の奥で何かが煮えたぎるのを感じた。
「今日は母さんの誕生日だろ。楽しくやろうよ」
隣に座っていた夫のハルトが、しれっとした顔でそう言った。彼はこちらを手で制しながら、優しくもどこか疲れの混じった笑みを浮かべた。
「そうよ。せっかくの誕生日なんだから、割り勘とかやめてちょうだい」
義理の母である陽子さんが、やや強い口調で義姉を睨んだ。しかし義姉は全く堪えた様子もなく、へらりと笑いながら脚を組み直した。
「まあいいけどさ。私は主人の稼ぎがきちんとあるから、あんたたちと違って心配しなくてもいいからね」
その言葉に、私はカトラリーを握る手に力が入った。
義姉は、私たちが貧乏でお金に困っているから義母と同居を始めたと思い込んでいる。いや、思い込もうとしている。実際は違う。私たちは義母が一人で心細くないように、そして何より、家族として支え合って生きていきたいと思って同居を始めたのだ。
義姉の言動に腹が立ったのは、私だけではなかった。それまで黙って聞いていた義母が、静かにだが確かな怒りを込めた声で口を開いた。
「ちょっと待ちなさい。あなた、言っていいことと悪いことがあるでしょう」
義母は、これまで私たちを実の親子のように可愛がり、いつも温かく迎え入れてくれる。そして息子のハルトの妻である私との関係を、何より大切にしてくれている人だった。私の実の両親は数年前に他界しており、義母は私にとって実の母親のように慕っている存在でもある。そんな義母が怒ると、さすがの義姉も一瞬怯んだようだった。
だが、義姉の大人げなさは、そんなことで止まることはなかった。
「あら? 私、何かおかしなこと言ったかしら。本当のこと言っただけじゃない。お母さんも、貧乏な息子夫婦と暮らさなくちゃいけなくなって、気の毒だなって思っていたんだから」
「おい」
さすがのハルトも、グラスを持つ手の動きを止めて義姉を睨んだ。姉である渓子は、弟のその視線にも全く動じない。
「どうしたの? まさか、私の言ってること、間違ってるって言うの? 」
「間違ってるよ。俺たちは母さんのことが心配で一緒に暮らし始めたんだ」
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
完全に馬鹿にした口調。義母は怒りで頬を赤く染め、義姉を強い目で見つめている。私はもう食事を楽しむ気分ではなくなっていた。それでも、せっかく義母のために来ているのだ。私が騒ぎ立てるのは避けたい。
「お母さん、せっかく美味しいお店来たんだから、私が作ってあげるわよ」
にこやかに言い放つ義姉。その言葉には、今日だけでなく、これまでに何度も浴びせられてきた数々の嫌味が凝縮されていた。
義姉は元々、私に嫉妬のような感情を抱いているのだと思う。私は結婚してからも仕事を続けてきた。夫と共に働き、家計を助け、義母との同居も決めた。それは社会人として当然のことかもしれない。しかし、フリーターを転々とし、自分で金を稼ぐよりも実家の財布を当てにしていた義姉には、私の生き方が許せないようだった。
義姉は今の夫と結婚するまでは、定職にも就かずにアルバイトを転々とし、実家を出てからも頻繁にお金を無心していた。私や夫はそれを見ていた。義父母も頭を悩ませていたほどだ。
そんな義姉が今では、「あなたたち稼ぎがないんでしょう。しっかりしないとね」などと偉そうに語る。
馬鹿馬かしいと思った。同時に、義母を悲しませる義姉に腹立たしさを覚えた。
しかし、ここで何を反論しても無駄だと分かっていた。義姉はこちらの言い分を聞く耳を持たない。それでも黙っているのは悔しい。
義母は、義姉に言い返そうとして荒くなる呼吸を整えると、一旦言葉を飲み込んだようだった。
「もういい加減にしなさい。今日は私の誕生日よ。それを覚えていないのかしら、あなたは」
「忘れてないわよ。だからわざわざ高いお店に付き合ってあげてるんでしょ。それで、これから何を食べるの?

」
義姉は、さも自分が主導権を握っているかのように、メニューへと視線を落とした。隣で夫が小さくため息をつく。
私は心の奥で何度も自分に言い聞かせていた。せっかくの義母の誕生日なのだ。影でこそこそと悪口を言うのではなく、ここは思い切り義母に喜んでもらいたい。それだけだ。
注文を終え、運ばれてきた前菜を口に運ぶ間も、義姉の嫌味は止まらなかった。
「ねえ、あなたたち。新しい家の間取りを見たんだけど、リビングがすごく広いのよね。あれって、何のためにそんなに広くしたの? 」
「広くないわよ。水回りが使いやすいようにしただけよ」
「あら、そう。同居してるお母さんがいるから、家事しやすいようにって? お母さんに家事させてるんじゃなくて? 」
「そんなこと言ってないわ。お母さんには手伝ってもらってるけど、私たちでしっかりやっているし、これからも支え合っていけるようにって決めたのよ」
「はいはい。立派だわ。お母さん、貧乏な息子夫婦に家事を任されて、大変ね」
「あなた、本当に黙ってくれないかしら。私が自分から望んで今の生活を選んだの。無理やり同居させられてるわけじゃないのよ」
「お母さんがそう言ってくれるなら、ご立派ね。でも、私はこうして心配してるのよ」
私は、まさに火を見るよりも明らかだった。義姉という人間は、他人が不幸でいる姿を想像するのが好きだ。いや、他人を貶めずにはいられないのだ。なぜなら自分が幸せではないから。
「昔からそうなんでしょ。しょうがないわよ。私たちが出来すぎてるんだから」
私が小さく呟くと、ハルトが苦笑いしながら足にそっと触れてきた。私は思わず唇を引き結ぶ。これ以上、義姉の言葉に耳を貸してはいけない。そう言われている気がした。
義母との幸せな生活。それが何よりも大事。
この日、私たちが義姉夫婦と外で食事をするのは初めてではなかった。しかし、こんなにも露骨に馬鹿にされたのは、ここ数年で一番だった。
何も言い返せない私たちが悪いのだろうか。いや、そうじゃない。
義母は今日、誕生日なのに、何度も何度も義姉に悲しそうな顔を見せていた。そしてついに、黙り込んでしまった。
食事を終えて、会計の時に義姉が言った。
「で、今日の分はどうするの。きっちり私たちに支払い分を渡してよ」
「だから、母さんの分は私が持つって言ってるだろ」
「二言は無いわね」
ハルトが財布を出そうとした時、私が立ち上がった。
「いいえ、今日は全部私たちに払わせて。お母さんの誕生日だったんだもの。私たちがプレゼントするわ。本当は今日だけでいいから、楽しく祝いたかったんだけどね」
私は、こう言って義姉をキッと睨んだ。義姉は一瞬驚いたようで、目を丸くしていたが、すぐにフンと鼻で笑った。
「あっそ。無理して借金なんかしないでよ。まあ困ってる時は言いなさいよ。うちも夫の稼ぎがあるから、少しなら何とかしてあげられないこともないけど」
余計なお世話だ。
私たちは会計を済ませ、席を立った。義母は、相変わらず不機嫌そうな顔をしていたが、何かやわらかな空気をまとっていることに気が付いた。
店の外に一歩出て、夜の空気にゆっくりと触れる。すると義母が、私たちにだけ聞こえるように呟いた。
「今日はあんなに食事が不味く感じるなんて、めったにないわ。本当にごめんね。あの子の言葉、気にしないで」
「お母さん、謝らないでください。今日は本当にいいお店でしたよ。お母さんの誕生日、私も一緒に祝えて嬉しかったです」
私の言葉に、義母の顔が少し綻んだ。
隣ではハルトが、義姉夫婦の姿が見えなくなるのを待ってから、安心したように息を吐いた。
義母と私たちは、しばらくその場で風に吹かれ続けていた。頭に来るより先に、心が疲れてしまう。義姉には、きっとずっと分からないだろう。私たち家族の何が大切かということを。
「ごめんね。帰りに、甘いものでも食べて帰らない?
あの店、いつも美味しそうだなって思ってたんだ」
ハルトが、道路の向こうのベーカリーカフェを指さした。私は「そうね」と微笑む。私たちは何も言わずとも、義姉の嫌味を消化する方法を無意識に見つけていたのだった。
あれから数日、義姉から何の連絡もなかった。普段通り、義母との穏やかな時間が戻ってきた。仕事から帰れば、義母が笑顔で出迎えてくれる。温かいご飯が食卓に並ぶ。何気ない会話を家族として交わす。それがどれほど幸せなことか、私は身に染みて分かっていた。
あの日から約一ヶ月後。廊下を歩いていると、洗面所で何やらゴソゴソと音がする。のぞいてみると、義母が鏡の前で、何やら悩んでいた。
「お母さん、どうしたんですか? 」
声を掛けると、義母はビクッとしてこちらを振り返った。
「ああ、ちょっとシミが気になってきてね。年を取るのは嫌だわ」
そう言いながら、伸ばした手はシミを隠すように頬に触れている。
私はゆっくりと義母の隣に立ち、鏡の中の二人を見つめた。確かに、あれから義母の顔にシミが増えたように見える。いや、昔からあって写真では目立たなかったものが、日々の暮らしの中ではっきりと見えるようになっただけなのかもしれない。
「お母さんはこのシミ、こめかみにまだらにできてるだけ。すごくきれいですよ」
私がそう言うと、義母はクスッと笑った。
「人を、おだてるのねえ。あなたは」
「おだててなんかいません。私が保証します」
鏡に向かって微笑みかけながら私は言った。義母は「まあ」と照れながらも、どこか自分をよく見せようと、化粧水を丁寧に肌に馴染ませている。
近くに立ってその様子を見ながら、ふと思う。同居を始めた頃はここまで気にしなかったのに、最近、義母の体調の変化が気になる。
「お母さん、何か最近、体調どうですか? 」
「え、急にどうしたの、道野さん。心配しすぎよ。私は元気だって、あれほど言ってるでしょ」
「そうじゃないんですけど、何かあったらすぐ私に言ってくださいね。ほら、私、育児休暇前だし、今のうちに色々手伝えますから」
「育児休暇……って」
しまった、と私は思わず口を押さえた。まだハルトにも義母にも伝えていないつもりだったのだ。
「ごめんなさい、今のは忘れてください。何でもないです」
「ちょっと待って、今、育児休暇って言ったわよね」
義母の声がほんの少し裏返る。私は言葉を失くして、鏡の中の自分と義母の顔を交互に見つめた。
「道野さん、まさか」
「ですから、まだなんです。思い違いかもしれないって、私も今、自分で確信できてるわけじゃ……」
「ちょっと、待ちなさい。こっちに来て」
義母は私の手を引っ張り、居間のソファまで連れて行くと、向かい合うように座らせた。そして、いつもよりずっと真剣な顔で言った。
「あなた、ひょっとして」
「妊娠してるかもしれないんです。まだ病院には行ってなくて、検査薬で調べただけなんです。それで、もしかしたらっと思って」
私はそこで言葉を切った。義母はしばらくの間、何かを噛み締めるように黙っていたが、やがて目に涙を浮かべて言った。
「お母さん……いや、私が言うのもなんだけど、本当に嬉しい」
義母は声を震わせ、何度も目頭を指先で拭った。その様子に、私も急に胸が熱くなった。
まだ結果は分からない。病院でちゃんと診てもらわないと分からない。それなのに義母は、孫が出来たかもしれないという事実に、これ以上ないほど喜んでくれているのだ。
「ありがとうございます。お母さん、ありがとうございます」
私は素直にお礼を言った。「お母さんには、一番最初にちゃんとお話ししようと思ってたんです。たぶん、ハルトにもまだ伝えてないんですよ」
「ウソ、そうなの? お母さんだけに言ってくれたの?
」
「だって、私のお母さんですから。本当の親子みたいなものですから」
義母は感極まった顔で、うんうんと何度も頷いた。
「もし本当にお父さんのところに来てくれるなら、お母さん、この家に早く来てくれて、本当に良かったって思うわ」
そう言われて、私は昨年、二人で話し合って決めた同居のことを思い出していた。義理の父が病気で亡くなり、独り残された義母が心配で始めた同居。
「お母さん、うちに来てくれませんか。私たちと一緒に暮らしてほしいんです。家族なんだから」
ハルトのその一言に説得された日。あの日から私たちは、ただの義理の親子ではなく、本当の親子のような時間を重ねてきた。
その集大成のような今日。
「正直、私はあなたに良い報告ばかりもしたことがないから、ずっと心に引っかかってたところもあるのよ。渓子みたいな血の繋がらない人から、あんなに馬鹿にされてて、居心地が悪くはなかった? 本当にこの家に来てまで苦労させてしまって、私のせいで道野さんまで……」
「お母さん、そんなこと絶対にないです。私が望んでここに住んでるんです。それに、義姉の言うことなんて、本当は全然気にしてないんですよ。たまたま嫌なこともあるけど、それでも私はここに居たいって思ってます。ハルトも、お母さんも大好きです。ずっとこの家にいさせてください」
義母は遠慮がちだった。あの頃の私たちは、義母を一人で泣かせておくのは絶対に嫌だった。反対する義母を、ハルトと二人で何度も説得した。
「母さんが元気でいることが、一番の親孝行なんだから」
何度言われても渋っていた義母に、最後は「孫の顔を見せてくれないと困ります」とまで言ってしまったほどだ。
そして今、その願いが叶うかもしれない。
「赤ちゃんが、本当なら、この家に来てくれるのね」
義母の言葉に、私は堰を切ったように涙があふれた。義母の膝に手を置いて、何度も何度も頷いた。
「まだ、分からないですけど、たぶん」
「ちゃんと病院に行くのよ。今すぐハルトに電話して」
私はうなずき、スマートフォンを手に取った。電話をかけると、すぐに夫の慌てた声が聞こえてくる。
「もしもし、どうしたの? 何かあった? 」
「ハルト、大丈夫よ。ちょっと話をしたいの」
「え、今、会議中なんだけど。待って、今すぐ終わらせる」
「いいのよ。無理しないで。帰ってきたら話しましょう。それと、今日は早く帰ってきて。大事な話があるから」
電話越しのハルトは、少し不安そうな様子で承知した。
スマートフォンを置くと、目の前でハンカチを握って祈るようにしていた義母と、目が合った。
「お母さん、先にお茶にしましょう。今夜、ハルトにもちゃんと伝えます。それまで誰にも内緒ですよ」
「ああ、分かってるわ。楽しみね」
義母は台所に立ち、急須の準備を始める。その後ろ姿が、たまらなく大きく見えた。
そして夜、リビングのテーブルを挟んでハルトと義母と向き合っていた。
「え、妊娠……?
」
ハルトはいい年をした大人の男のくせに、声を震わせて、まるで壊れ物を触るように私の腹のあたりに視線を落としている。
「病院には行ってないけれど、多分、そうみたい」
自分の言葉に、驚くほど落ち着いている自分がいた。朝方のあの会話から、ずっと頭で反芻していた。整理していた。そしてやっと、二人に話す時を待っていた。
「お前、本当に? 」
「まさか、そんないい加減なこと言わないよ。来月、病院に一緒に行ってもらおうと思って」
「病院! そうだよな。うん、絶対に行こう」
ジーンと目を潤ませながらハルトは何度も頷いた。そして、気が付いたら僕とハルトは握手を交わしていた。いや、互いの手を握り合っていた。
その隣で、義母がテーブルの上に置いた湯飲みを二つ見つめながら言った。
「大事なことは、ね。私も、良かったら……その、一緒に病院に行ってもいいかしら? やっぱり嫁姑だと、何かと来月から準備することも多いだろうし、初めての事で分からないこともあるでしょう。手伝えることがあるかもしれないし、ね」
「お母さん、本当ですか?
すごく心強いです」
「ええ、ぜひお願いしたいわ」
「やはり、そう言ってもらえると嬉しいわ」
義母は恥ずかしそうに微笑んだ。ハルトもパッと顔をほころばせ、家族の団欒が戻ってきた。
ふと、あの冷たい義姉の言葉を思い出した。義母を悲しませ、私たちを馬鹿にしたあの言葉。
「貧乏な夫婦は、本当に余計なことばかりするのね」
義姉には一生、理解できないだろう。私たちが今、どれほど幸せか。義母との絆を深めて、こうして家族が増えていく喜びに包まれている、この生活の温かさを。
あの日、私たちが義母と暮らすと決めた時、義姉に何を言われようと、人を傷つけるような言葉は言うまい、と心に決めていた。しかし、今日、こうして新しい命の存在を家族みんなで喜ぶことができて、あの選択は間違いではなかったと確信した。
「ありがとう、お母さん。私たち、必ず幸せになります」
「ええ、なってちょうだい。私からも、ありがとうね」
義母のその言葉に、私は何度も何度も頷いた。目尻を拭いながら、私はそっと自身のお腹に手を当てた。
まだ確かではない命だけれど、この温かい家族の中で迎えられる幸せを願ってやまない。
「さて、今夜は何か美味しいものでも食べようか。お母さん、何か買ってきましょうか? 私が出前を取るわ」
「道野さんは疲れてるんだから座ってなさい。私が何か作るわ」
「でも、お母さんの手料理、いつも楽しみにしてるんです」
「うれしいこと言ってくれるわね。じゃあ、張り切って作るわよ」
立ち上がった義母が、キッチンの電気を点ける。優しいオレンジ色の光が、部屋中に広がっていく。ハルトが私の隣に立って、肩を抱いた。
「お腹はどんな感じだ? 」
「まだ何も感じないよ。でも、何だか朝から胸がどきどきしてる」
「そっか。俺もだ。明日から、もっと仕事頑張らなきゃな」
「うん。ありがとう」
私たちはしばらく、キッチンから聞こえてくる義母の鼻歌を聞きながら、静かに肩を寄せ合っていた。
そしてその一週間後、私たちは病院へ行き、本当に赤ちゃんが来てくれていることが分かった。
私もハルトも、義母も、みんなで喜んだ。
帰り道、義母は窓の外の風景を眺めながら、呟くように言った。
「あの子にも、早く教えてあげないとね。きっと、また何か言ってくるかもしれないけど」
「……ええ、まあ、仕方ないですね」
「でも、もう大丈夫。私にはあなたたちがいるもの。どんなことを言われても、負けないから」
そう言って義母が微笑むと、夕日が染まる空に、一番星がちかちかと輝き始めていた。この幸せが、ずっと続きますように。私は心の中でそっと祈った。