「お母さんと暮らすのが嫌なら、お前が出ていけばいいだろ」——夫がそう言い放った夜、私はようやく決心した。この男と離婚しよう、と。義父が急逝したあと、夫は泣きながら「母さんを一人にできない」と言い、私は反対したのに、義母は私たちのマンションに引っ越してきた。それから夫は義母に食事も洗濯も世話を焼かれ、私の作ったご飯は一度も食べなくなった。ある日、私が「私とお母さん、どっちが大事なの」と聞くと、…

「お母さんと暮らすのが嫌なら、お前が出ていけばいいだろ」——夫がそう言い放った夜、私はようやく決心した。この男と離婚しよう、と。義父が急逝したあと、夫は泣きながら「母さんを一人にできない」と言い、私は反対したのに、義母は私たちのマンションに引っ越してきた。それから夫は義母に食事も洗濯も世話を焼かれ、私の作ったご飯は一度も食べなくなった。ある日、私が「私とお母さん、どっちが大事なの」と聞くと、...

「お母さんと暮らすのが嫌なら、お前が出ていけばいいだろ」

夫のその言葉を、私は心の中で待っていた。義母との同居をめぐる喧嘩の最中、彼がそう言い放った瞬間、私はようやく決心がついた。この男とは、最初の機会に離婚しよう、と。

夫のユキオと私の間には、まだ子どもはいない。二人とも仕事が忙しくて、子どもを作るタイミングをずっと逃してきたからだ。年齢の割には広い高級タワーマンションに住んでいたのは、結婚したときに義父が「年を取ってまで金を持っていても仕方がない」と一括で買い与えてくれたからだった。だが、私たちが引っ越してから間もなく、義父は脳卒中であっけなくこの世を去った。

義父の葬儀のあと、涙を流しながら息子を抱きしめる義母の姿を見て、ユキオは「母さんを一人にしておけない」と言い出した。私は反対したが、ユキオの耳に私の言葉は届かなかった。こうして義母は、私たちのマンションに住むことになったのだ。

義母が引っ越してきてから、ユキオはこれまで以上に幸せそうに見えた。その一方で、私はみじめな思いをしていた。何しろ、私が結婚前から知っていた通り、義母は病的なくらいの潔癖症だったからだ。食卓に食べ物以外のものが一粒でも落ちていれば、不快だと言って食事をやめてしまう。お風呂に髪の毛が一本でも落ちていれば、大げさに騒いで掃除を始める。最初はその潔癖さに圧倒されたが、何に気をつければいいのかを学んでからは、慣れて少しは楽になった。

しかし、不安の種は他にもあった。義母はユキオに「お風呂は先に入る? それともご飯は先にする?」と毎日尋ねる。ユキオが先にお風呂に入ると言えば、すぐに清潔なタオルと着替えを用意し、時には背中を流してやることもあった。そしてユキオが風呂から上がれば、義母はタオルで彼の体を拭いてやるのだった。夕食に関しても、最初に一緒に暮らし始めた頃、義母が「ユキオの好みは私が一番よく知っている」と言い張って、彼の食事の世話は自分がやると主張した。それ以来、私はユキオのご飯を作るのをやめてしまった。

ある日、私はユキオに尋ねた。「私とお母さん、どっちが大事なの」。彼は「もちろん、どっちも同じくらい大事だ」と答えた。私は「そうは思えない」と言ったが、彼は「余計なことを考えなくていい」と話を打ち切ってしまった。

引っ越してしばらくしてから、私はこれ以上ないほどの侮辱を受けた。洗濯は私が担当しているのに、義母は私が洗った後で、自分の服を手洗いしていたのだ。私の洗濯ではきれいにならないと思っているに違いない。私は驚いて、思わず義母に「洗濯に不満があるのですか」と尋ねずにはいられなかった。

義母は動じる様子もなく、落ち着いて「不満があるわけではないけど、自分で洗うのが好きなだけよ」と答えた。私は「では、これからは別のかごに入れてください。そこに入っているものには一切触れませんから」と言った。すると義母は「なんて不躾なお嫁さんだ」と言い放った。

その直後、ユキオが風呂から上がってきた。彼は私を一瞥するなり、何も言わずに義母と一緒に夕食を食べ始めた。そして夕食が終わり、寝室に入った瞬間、ユキオは興奮した口調で私を問い詰め始めた。

「母さんに何てひどいことを言ったんだ」

私は何もひどいことは言っていないし、いじめてもいないと説明した。するとユキオは、義母が泣きながら「お嫁さんにいじめられた」と訴えていると言う。私は言った。「つまりユキオは、お母さんの言うことだけを信じて、私のことは信じてくれないのね」。すると彼は、はっきりと言った。

「お前の言うことなんて聞く価値もない」

私は黙って、ドアの外に出て行った。そして、そのまま真っ直ぐリビングへ向かった。そこには義母がいた。彼女は私が部屋を出てきたのを見ると、勝ち誇ったように笑っていた。私は自分を抑えられなくなった。

「あなたに言われた通り、出て行きます」

私はこれから出て行くと言って、そう言った。むしろ、ここを出て行けて清々するとも言い放った。義母は「ユキオが寂しがるわね」と言いながらも、うれしそうだった。私は荷物をまとめて、その夜のうちに家を出た。ユキオが仕事から帰ってきたときに、義母が何か言ったのかもしれない。しかし、ユキオが私を追いかけてくることはなかった。

翌日、私はユキオに離婚の話をしようとした。すると彼は、私の話を聞こうともせずに言った。

「分かった。分かった」

「いいだろう。離婚してやる」

「手続きは全部、俺がやる」

なぜかユキオは、少しでも早く離婚したがっているようだった。今さら理由を尋ねるのも馬鹿らしかったので、私は言った。財産分与は一切要求しない、と。すると彼は、それはこっちのセリフだ、と言い放った。

家を出てから、私はようやく気づいた。義母もユキオも、最初から私を追い出すつもりだったのだ。彼らは二人で、この高級マンションを手に入れようとしていた。

家を追い出された後、私は高校時代からの親友を訪ねた。彼女は私の荷物を見て、すぐに「家出してきたの?」と尋ねた。私は、職場が実家から遠いので、しばらく一人暮らしの友人の家に住まわせてほしいと頼んだ。彼女は「いくらでもいなさい」と快く承諾してくれた。私は、いつか彼女が困ったときには、必ず恩返しをしようと心に誓った。

それから数ヶ月が経った頃だった。コンビニで買い物をしていると、偶然、ユキオと義母に会った。義母は「久しぶりね」と、まったく誠実味のない言葉をかけてきた。ユキオも笑顔で「元気だった? 病気はしてない?」と、今までに一度も言ったことのないようなことを言ってきた。

私は早くその場を離れたくて、署名済みの離婚届を差し出した。「サインして出してください」と言って、立ち去ろうとした。すると義母が「そんなに急がないで、ちょっと座っていきなさいよ」と引き止めた。ユキオも「何か食べていけばいいだろ」と勧めた。私は、最初からこの二人がこんなに気遣ってくれていたなら、離婚なんてしなかったのにと思いながらも、せっかくの誘いだし、お腹もすいていたので、ユキオの家でご飯を食べることにした。

しかし、ご飯を食べ終わっても、義母もユキオも私を帰そうとはしなかった。手続きを終えたら、二人とも私に用があると言う。何かと思えば、二人は私に金を無心してきたのだ。

「あのマンション、売らないとお金が足りないのよ。あなたも出資してくれない?」

私は二人の変わりように驚いた。離婚する前、私たちは財産分与は一切しないと約束したはずだ。そう言うと、ユキオは「そんな約束、した覚えはない」と言い張り、義母も「そんな話、聞いたことがないわよ」と言った。私が「では、私の分は一切要求しません」と言うと、今度はユキオが「それはこっちのセリフだ」と、勝手なことばかり言い出す。ユキオは「証拠があるなら見せてみろ」と、しらばっくれる始末だった。

この二人は、急に金が必要になって、以前の約束を反故にしたに違いない。私は黙って鞄から書類の束を取り出した。そこには、ユキオと別れる直前の給料明細が入っていた。私の会社は忙しいが、その分給料はいい。私は明細をテーブルの上に広げた。

「あなたたちがいくら稼いでいたか、見てみましょう」

ユキオは「俺の給料を自慢しているのか」と食ってかかった。義母も「離婚して正解だわ。本当に性格が腐っているものね」と嫌味を言った。私は、給料記録を見れば分かる通り、これまで家計のほとんどを自分の収入で賄っていたと説明した。そして、ユキオが給料を競馬と麻雀に使い込んでいたことを指摘すると、彼は「自分の金に何をしようが俺の勝手だろう」と開き直った。

義母は青ざめ、ユキオに「本当なの?」と問い詰めた。ユキオは不機嫌そうな顔をしたまま、何も答えない。私は続けた。

「ユキオは借金もあるみたいよ」

ユキオは知らないふりをした。義母は血の気が引いたように青ざめ、「借金があるの?」と迫った。ユキオは顔をそらしたまま「あるけど、賭けで勝てば全部返せるから問題ない」と言った。それを聞いた義母は、遂に泣き出してしまった。

私は優しく提案した。「愛する息子のために、このマンションを売ったらどうですか」。義母は泣き崩れるばかりだった。私は言った。「あなたたちが要求するなら、私は養育費を請求しますよ。養育費に不満があるなら裁判で決めましょう。私は負けるつもりはないので」

すると義母は、土下座して頭を床に擦り付け、なんとか彼を助けてやってほしいと懇願した。私は「見苦しいので、頭を上げてください」と言った。だがユキオは「老いた女をいじめて楽しいか」と怒鳴り返した。私は言った。「私は真実を言っただけです。いじめていません」。そんな私に、ユキオは「今すぐ出て行け」と叫んだ。

「言われなくても、もう二度とここに戻るつもりはないわ。それに、あなた借金を返すために、このマンションも売らなきゃいけなくなるかもしれないものね。きっと、ここにも来たくても来られなくなるわよ」

私は、そのまま部屋を出て行った。振り返りもせずに。

あれから数ヶ月が過ぎた。私は以前と同じように仕事に励み、充実した日々を送っている。それに、私はもう一つの生きがいを見つけた。今、付き合っている人がいるのだ。一度目の結婚に失敗しているから、今度こそはしっかり相手を見極めたいと思い、慎重に付き合っている。それでも、最近はほぼ毎日のように会っている。毎日会うことで、仕事を頑張るエネルギーをもらっている。

いつかこの人と一緒に暮らせたら、とよく考える。海の見える高層マンションに住んで、リビングのソファでコーヒーを飲みながら、いろんな話をしたい。叶うことなら、いつか二人の間に赤ちゃんができたらいいなと、もう遠い先のことまで想像している。

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