搭乗ゲートで警報音が鳴り響いたのは、私がチケットを機械にかざした瞬間だった。あの日、息子夫婦に三百万円を渡して、夢のヨーロッパ旅行に連れて行ってもらえると思っていた。ところが、搭乗券は無効で、息子は冷たい目で「母さんは帰ってくれ」と言い放った。その瞬間、私の心は砕けた。彼らが私の貯金を狙っていただけだと気づいたのは、その時だった。三百万円を騙し取られ、家事も毎月の支援も全部無駄にされた。でも…

搭乗ゲートで警報音が鳴り響いたのは、私がチケットを機械にかざした瞬間だった。あの日、息子夫婦に三百万円を渡して、夢のヨーロッパ旅行に連れて行ってもらえると思っていた。ところが、搭乗券は無効で、息子は冷たい目で「母さんは帰ってくれ」と言い放った。その瞬間、私の心は砕けた。彼らが私の貯金を狙っていただけだと気づいたのは、その時だった。三百万円を騙し取られ、家事も毎月の支援も全部無駄にされた。でも...

搭乗ゲートで警報音が鳴り響いたのは、私がチケットを機械にかざした瞬間だった。

「お客様、申し訳ございません。お客様のお名前のチケットはシステムに登録されていません」

空港職員の困惑した声が、周囲の好奇の視線とともに私に降り注いだ。息子のヨシが首をかしげる。

「どういうこと? 母さんのチケット、ちゃんと購入したはずなんだけど」

嫁のマイカも戸惑ったふりをして言った。

「え、おかしいですね。私たち、ちゃんと購入したんですけど」

私はその瞬間、すべてを理解した。空港に向かう車内で感じたあの違和感は、間違っていなかったのだ。

ヨシが冷たい目で私を見た。

「というわけだから、母さんは帰ってくれ」

その言葉が、私の心を打ち砕いた。七十年生きてきて、これほど理不尽な仕打ちを受けたことはなかった。

事の始まりは、二週間前に遡る。嫁のマイカが私の部屋にやってきたのは、ある夕方のことだった。

「お母さん、実は来月ヨーロッパ旅行に行くんです。パリとロンドンを回る十日間の旅行ですよ」

「それは素敵ね」

「お母さんも一緒に行きませんか? 費用は半分負担していただければ、私たちが残りを負担します」

私は三十年間市役所で働いてきた退職金と、こつこつ貯めた貯金から三百万円を用意した。

「分かったわ。楽しみにしているわね」

マイカはわざとらしい笑顔で答えた。

「ありがとうございます。本当に楽しみです」

実は、マイカがヨシと結婚してから、私は毎月五万円の仕送りを続けていた。それに加えて、毎朝五時に息子夫婦の家に行き、家事もすべて引き受けていた。朝食、昼食、夕食、洗濯、掃除。すべて私がこなしていた。

「お母さん、公務員だったんだから、雑用係は得意でしょ。家計簿も全部つけてくださいね。年寄りなんだから、体を動かしたいでしょ。文句を言わないでください」

「公務員の退職金なんて大した額じゃないでしょうけど、私たちが管理してあげます」

そんな言葉を、何度も聞かされてきた。

マイカはフリーランスのデザイナーとして活動していたが、実家は貧しく、親は借金まみれだった。自分自身も借金を抱えており、私からの支援がなければ生活できない状態だった。それなのに、マイカは私を見下し、私の年金や退職金を当然のように使っていた。

旅行の前日、私は旅行の準備をしていた。パスポート、着替え、カメラ。すべてを用意し、胸を膨らませていた。三十年間公務員として働き、退職後は息子夫婦の世話をしてきた。久しぶりの旅行だった。

空港に向かう車内で、マイカが笑顔で言った。

「お母さん、楽しみですね。パリのエッフェル塔とロンドンのビッグベン、本当に楽しみです」

ヨシも満面の笑みで頷いた。

「母さんも一緒に行けるから、本当に良かった」

私はその笑顔に、何か違和感を覚えた。なぜか不自然に感じられた。でも、気のせいだと思い、その違和感を無視した。

そして、空港に到着。出国審査を通過し、搭乗ゲートに向かった。搭乗券をスキャンした瞬間、機械が警告音を鳴らしたのだ。

周囲の視線が一斉に私に集まる。空港職員が困惑した表情で私を見た。

「お客様、もう一度確認させていただきます」

ヨシがしらじらしく言った。

「母さん、大丈夫だよ。きっとシステムの不具合だ」

しかし、空港職員が再度確認した結果、私のチケットはシステムに登録されていなかった。

「マジか。残念。母さんは帰ってくれ」

ヨシの言葉が、私の心を打ち砕いた。三百万円を渡したのに、私のチケットは購入されていなかった。息子夫婦は、お金を出してもらうことが目的で、私を旅行に連れて行く気は、はなからなかったのだ。

空港から帰宅した私は、静かにすべてを整理した。三十年間市役所で真面目に働いてきた経験が、今役に立つ。

公務員として、私はすべての記録を残す習慣があった。銀行の振り込み記録、会話のメモ。すべてを保管していた。市役所では、すべての書類を整理し、記録を残すことが仕事だった。そして、公務員として、法的な手続きにも詳しかった。

年金の振り込み先変更、連帯保証人の解除。すべてを自分で行うことができた。

私は静かに復讐を決意した。公務員としての経験と知識を生かし、完璧な復讐計画を立てる。

まず、年金の振り込み先を息子夫婦の口座から、自分の口座に戻した。公務員として、手続きの方法は熟知していた。

次に、息子が私を連帯保証人にしていたローンについて、法的に解除できる方法を調べた。市役所で働いていた頃、法律の知識も身につけていた。

そして、すべての証拠を集めた。銀行の振り込み記録、会話の録音。すべてを体系的に整理した。

銀行の振り込み記録を見ると、三百万円が息子夫婦の口座に振り込まれていた。しかし、私のチケットは購入されていなかった。すべての証拠が、息子夫婦の裏切りを証明していた。

公務員として三十年間働いてきた経験が、今私を支えている。すべての記録を残す習慣。法的な知識。計画的な実行力。すべてが、今私の武器となった。

私は静かに、復讐計画を実行する準備を整えた。

一週間後、私は息子夫婦に連絡を取った。

「ヨシ、マイカちゃん、話があるの」

息子夫婦は不機嫌そうに、私の部屋にやってきた。

「なんだよ、急に。旅行の件は悪かったって」

「それは一旦いいわ。実は、年金の振り込み先を私の口座に戻したの」

マイカの顔色が変わった。

「え? どういうことですか? 私たちが管理していたのに」

「自分のお金は、自分で管理するのが当然でしょ」

ヨシが慌てた様子で言った。

「母さん、それは困るって。俺たちの生活を潰す気か」

「あなたたちの生活? 私の三百万円を騙し取ったくせに、私の生活のことは考えなかったの?」

息子夫婦は言葉を失った。私は続けた。

「それとヨシ、あなたが私を連帯保証人にしていたローンだけど、明日銀行に行って解除手続きをするわ」

ヨシの顔が青ざめた。

「母さん、それは……」

マイカが泣きそうな顔で言った。

「お母さん、私たちが悪かったです。許してください」

「許す? 私は家事から、毎月の支援まで、あなたたちに尽くしてきた。多少の理不尽にも目をつぶった。それなのに、期待させて三百万円を騙し取って、私を旅行に連れて行く気もなかった。それで、許せというの」

私は静かに答えた。

「すべての記録を残しておいて良かったわ。あなたたちの行動も、すべて記録してあるからね。三百万円を騙し取ったことも、すべて証拠があるのよ」

ヨシが慌てて言った。

「はっ、どうせ使えない証拠だろう。それで脅してるつもりかよ」

「銀行の振り込み記録が、すべてを証明しているわ。あなたたちが私の三百万円を騙し取ったことも、すべて記録されているのよ」

マイカが泣きそうな顔で言った。

「お母さん、許してください。三百万円は返しますから」

「もう遅いわ。人の心をもて遊んだ責任、しっかり取ってもらうわよ」

二週間後、息子夫婦の生活は完全に崩壊していた。

年金の振り込みが止まり、生活費がなくなった。ヨシのローンも、連帯保証人がいなくなったことで、銀行から厳しい条件を突きつけられた。

マイカはフリーランスのデザイナーとして活動していたが、借金を抱えており、私からの支援がなくなったことで、完全に破綻していた。

息子夫婦は私の部屋にやってきて、泣きついた。

「母さん、お願いだ。助けてくれ」

「お母さん、許してください」

息子は完全に追い詰められていた。ヨシは会社を首になり、マイカは借金を返済できず、実家にも追い返された。ヨシは安いパートに就いたが生活費がなくなり、コンビニで夜のバイトを始めた。疲れ果てた顔で、うつむいている。かつての傲慢な態度は、完全に消えうせていた。目が泳ぎ、手が震えていた。

マイカも、かつてのわざとらしい傲慢な笑顔は完全に消えうせ、疲れ果てた様子だった。

息子夫婦は私の部屋に再びやってきて、土下座した。

「母さん、お願いだ。許してくれ」

「お母さん、私たちが悪かった。許してください。もう二度としません」

私は静かに答えた。

「もう、何も言うことはないわ」

ヨシが最後の手段として、脅すような口調で言った。

「母さん、もし俺たちが自己破産したら、三百万円は返せなくなるんだぞ」

私は冷静に答えた。

「もう、三百万円だってどうでもいいわ。あんたたちがどん底に突き落とされれば、もうそれでいいのよ」

息子夫婦は完全に追い詰められ、何も言えなくなった。

半年後、すべてを終えた私は、自分の家で静かに暮らせるようになった。

年金の振り込み先を自分の口座に戻し、すべてのお金を自分で管理するようになった。毎月の仕送りも止めた。

経済的な余裕が生まれ、心にゆとりができた。息子夫婦の身の回りのことをしなくて良くなり、早朝に起きて家事をする必要もなくなったからか、ぐっすりと眠れるようになった。

朝はゆっくりと紅茶を飲み、本を読む。午後は近所を散歩し、時々、昔の同僚と会う。

息子夫婦のその後は、知人から聞いた。ヨシは会社を首になり、マイカは借金を返済できず、安いパートで暮らしているという。

私は静かに思った。これで良かったのだろうか。でも、理不尽を許すことは必要だった。

今、私は平凡だけれど穏やかな日々を送っている。それで、十分だ。

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