「おい、なんでお前来てないんだよ。娘の七子さんに来ないとか母親格もいいとこだ。娘泣いてるぞ。今すぐ会場に来いよ。くず女。」
彩佳はスマホの画面を見て首をかしげた。夫の健太郎から送られてきたLINEは、明らかに自分宛てではないものだった。
「何言ってるの?娘は大学生だけど。七子さんって誰?」
しばらくして、健太郎から「ごめん、誤送信。職場の後輩の話」という返事が来た。
「職場の後輩?何がどうなったらそうなるのよ」
「えっと、実は後輩から相談されててさ。奥さんが家庭を顧みない人で、よく愚痴を聞いてたんだ。今日も娘の行事を休んでずる休みしそうだって聞いて、俺がガツンと言ってやろうと思って」
「それで母親失格とかくず女とか言うの?その後輩の奥さん、かわいそうね」
「俺も頭に血が上っちゃってさ。ほら、俺たちにも娘がいるだろう。子供を大事にしない親が許せなくて」
「でも言っていいことと悪いこともあるし、今の発言だと浮気してると疑われても仕方ないわよね」
「誤解だよ。俺がそんなことするわけないだろ」
「じゃあその後輩の名前教えて。娘さんが七子さんなんでしょ。お祝いを送りたいから」
「いや、それは個人情報だし。お祝いは俺経由で渡すから」
「そう。まあいいわ。信じる。かなり苦しい言い訳だったけどね。次から気をつけて」
「ありがとう。ごめんな、嫌な思いさせて」
その夜、彩佳はぼんやりと考え込んでいた。健太郎の会社はほとんど独身か、子供が中学生以上の家庭ばかりのはずだ。七子さんという年齢の子供がいる後輩がいるなんて、今まで聞いたことがなかった。
数時間後、健太郎は改めて謝罪してきた。最近残業が多くて疲れているのだろう、そういうことにしておいた。
しかし、その二日後だった。みさという女性からLINEの写真が届いた。七子さんという娘さんの写真だった。
「健太郎さん、ソフボが七子さんに連れて行ってくれた写真見てくれた?いい写真が撮れたって送ってくれたの」
彩佳は画面を見つめた。これは健太郎が勝手に写真を送っていた相手。それも、とても親しげな口調で。
「あの日は本当にごめんね。高熱で行けなくて。でもあんな言い方されるとは思わなかったわ。さすがに傷つく」
その言葉が、健太郎の「母親失格」「くず女」という暴言の余波であることはすぐに分かった。彩佳は静かにスマホを置いた。
「はあ。俺がお前を傷つけた被害者ぶるなよ」
そのやり取りを最後まで見たとき、彩佳の目は冷めきっていた。健太郎はこのみさという女性に「俺の金で養ってやってるんだぞ」「捨てられて困るのはお前らだろ」「お前の娘の入院費を出したのは誰だ」と言い放っていた。そして「お前が口応えしたら子供が餓死するぞ」「俺の言うことは絶対だ」と。
彩佳は毎日笑顔で「お帰りなさい」と言ってきた。健太郎はいつも疲れた顔で帰ってきて、残業続きで大変だと言っていた。あの日々のすべてが、この裏で築かれていたのだ。
翌日、健太郎が言った。
「おい、来月の生活費ちょっと減らすぞ。会社の業績が悪くて給料上がらねえんだよ」
「そんな、物価も上がってるし、今でもギリギリで」
「あ、今口応えしやがったな」
「違います。ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
「俺だって大変なんだよ。少しは自分でなんとかしろ。俺がいなきゃ生きていけないくせに文句言うなよな」
彩佳は下を向いたまま、何も言わなかった。
数時間後、健太郎が帰宅すると、彩佳は部屋にこもっていた。
「どうしたの?帰ってきた途端、扉を閉める音が大きかったけど」
「あ、ごめん。ちょっとむしゃくしゃしてて」
「珍しいわね」
「仕事の覚えの悪いやつがいてさ。何度も指導してるのに全然覚えなくて、昨日も突きっきりで教えたのにまだ学習してないんだよ」
健太郎はそう言いながら話題を変えた。
「ああ、そうだ。来月、優香の誕生日だよな。今年は何を欲しがってるとか分かるか?」
「そうね。最近は文房具にはまってるみたいだけど、そういうのは自分で買うだろうし。大型雑貨屋さんの商品券とかの方が喜ぶかも」
「まあ、確かに現金より使い道もありそうだな」
「欲しいものを買ってあげたらいいわよ。大学に行っちゃったけど、たまに帰ってくるし」
「そうだな。久しぶりに優香を買い物に誘ってみるよ」
「いいと思うわ。でも、優香の誕生日は再来月よ」
健太郎は一瞬固まった。「あ、そうだっけ?やっべえ。間違えた」
「誰の誕生日と間違えたの?」
「いや、なんでもない。ただの勘違い」
彩佳はその反応を見逃さなかった。
一週間後、彩佳はママ友から聞いた話を切り出した。
「ねえ、あの誤送信の件なんだけど、気になってママ友に聞いてみたわ」
「はあ?まだそんな話してんの?」
「うん。旦那さんがあなたと同じ会社に勤めてる人なんだけど、最近七子さんラッシュで大変ですよねって話したのよ。そしたら、そんな話聞いたことないって言われて」
「そ、それは部署が違うからだろう。俺の会社、いくつか部署あるし」
「そう。それじゃあ、はっきり聞くけど、その後輩、本当に実在するんだよね?」
「するよ。何言ってんだよ、急に」
「名前は?」
「だから、それはプライバシーで」
「そう。それは言えないわね。残念だわ。みささんに七子さんのお祝いを送ろうと思ったのに」
健太郎の顔色が変わった。「あ、え、今なんて?」
「だから、みささんよね。娘さんが七子さんなのは」
「何の話だよ」
「実はね、半年前からあなたのこと調べてたの。探偵に依頼してね。あなたが残業って言った日、どこに行ってたか、誰と会ってたか、全部知ってるわ」
「はあ?ちょっと待てよ。俺のこと監視してたってことか?そんなの違法じゃないか」
「違法?浮気の証拠を集めるのは正当な権利よ。弁護士もそう言ってるわ」
「何かの勘違いだ。俺とよく似た人がいて、きっとその人と勘違いしてるんだよ」
「バカにしないでくれる?何年あなたと連れ添ったと思ってるの?簡単に顔を見間違えるくらい、あなたの顔はちゃんと見てきたわよ」
健太郎は押し黙った。
「決定的な証拠を教えてあげる。あなたが残業で遅くなるって言った日、会社に電話してみたの。そしたら言われたわよ。佐藤は本日休みましたってね。それなのにあなたはその日、朝帰りだった」
「それは、急に呼び出されて」
「誰に?どこで?何時まで?全部答えられる?」
健太郎は何も言えなかった。
「私は答えられるわよ。確か電話した日は十月十日。その日、あなたは会社から直接ターミナル近くのマンションに行き、みささんとファミレスで食事。その後、始発までみささんの家で過ごした。全部、日付と時間付きでね」
「それは仕事の関係で」
「仕事で女性とレストラン?子供連れで?仕事って嘘ついて自宅で打ち合わせ?一体、何をしてたのかしら」
「お前、さっきから俺を攻めて楽しいのか?こんなネチネチ言いやがって」
「逆切れしないでくれる?あなた、自分がやったこと理解してるの?私は毎日、笑顔でお帰りなさいって言ってお疲れさまって言ってた。あなたもずっと家族の元に帰ってきてたはずよ。でもその裏では、ずっと別の女性のところに行ってたんだよね。娘の誕生日も間違えて、私には残業って嘘ついて」
「もういいよ。全部分かったわ。もう帰ってこなくていいから」
「ちょっと待ってくれよ。さあ、話し合おう」
三十分後、健太郎は家の鍵を回したが、鍵は開かなかった。
「なんで鍵が使えないんだ?」
「そりゃ変えたからね。あなたを家に入れたくなかったのよ。今、荷物をまとめてる最中だし」
「とにかく入れてくれよ。話し合おう」
「あなたがみささんに俺の金で養ってやってるって偉そうに言ってたでしょ。あなたのLINE、全部見たわよ。すごく笑ったわ。何が養ってやってるよ?この家のローン、私の収入で審査通ったの、知ってるでしょう?」
健太郎は黙った。
「私ではマウント取れないから、経済的に窮してるみささんに偉そうにしてストレス発散してたのね。だからあなたにはみささんが必要だった。都合のいいサンドバッグとして」
「分かった、認めるよ。確かに浮気してた。それは認める。だからやり直させてくれ」
「それ、あなたが言う権利ないから。よりを戻してみささんを切れば問題なしとか思ってるんでしょ。でも残念。もう手は打ってあるわ」
「何したんだよ」
「別に特別なことはしてないわ。ただ証拠を私の親に見せたの」
「親?なんで」
「私の父親の大学の後輩があなたの上司なのは知ってるよね。父さん、すごく怒ってたわ。来週、人事面談があるかもしれないわね」
「待ってくれ。頼むよ。話し合おう。俺が悪かった」
「何が悪かったと思ってるの?」
「それは、浮気してること」
「今さら私が全部知ってるって言ってるのに、苦し紛れに言い訳してきたのはどこにいるの?これまで何度も話し合うチャンスはあったよね。でもあなたは嘘をつき続けた」
「俺、お前のことが大好きなんだよ。頼む。やり直せないか」
「無理。もう弁護士に依頼済みよ。半年前からね。離婚協議の準備も整ってるわ。慰謝料とか財産分与、楽しみにしててね」
「そんな」
「絶望するのは早いわよ。ここからが本当の制裁の始まりなんだから」
一時間後、彩佳はみさに電話をかけていた。
「初めまして、みささん。佐藤健太郎の妻、彩佳です。夫の携帯から電話番号を入手しました」
「えっ」
「あなたと健太郎が浮気していることは知っています。知っていてご連絡しました」
「ごめんなさい」
「謝罪は不要です。どうせ許すつもりもないから」
みさは声を震わせた。「そうですよね」
「そんなに落ち込まないでください。驚かせてしまって申し訳ないですけど、どうしてもあなたと話したくて」
「私とですか?」
「あなた、夫からくず女、母親失格って言われたことありますよね」
「なんでそれを?」
「夫が私に誤送信したんですよ。七子さんの日に、娘の七子さんに来ないとか母親失格だ、今すぐ来い、くず女って。うちの娘はもう大学生です。あなたと勘違いして送信したようですけど、随分な言葉遣いに私も驚きましたよ」
「それで、私たちの関係に気づかれたんですね」
「いいえ。半年前から夫を調査していました。探偵に依頼して、あなたとの関係も全部把握してますよ」
みさは絶句した。
「あなたがシングルマザーで、娘さんの医療費を夫に頼っていたことも、夫があなたに暴言を吐いていたことも、全部知ってるわ。探偵さんが言ってました。夜遅くに暴言が聞こえてくるって。近所の聞き込みでも有名な話で、何度か通報もあったみたいですけど、状況は改善されなかったと」
「はい。警察が来る時は決まってあの人はいないので、私がごまかしていました」
「共依存だったんでしょ。あなたは経済的に困っていて、日常的にDVを受けていた。現状から抜け出せず、夫に頼るしかなかった」
「はい。本当にごめんなさい。私の両親はもう年で、生活まで頼れないんです。悪いことだと分かっていたのに、あの人から逃げきれないと思って怖くて」
「私に謝っても無駄ですよ。夫があなたに渡していたお金は、元は私の収入なんです。夫の収入だけじゃ、あなたを支援する余裕なんてなかったから」
みさは息を飲んだ。
「つまり、あなたは私のお金で生活してたってことよ。夫は俺の金で養ってやってるって偉そうに言ってたみたいですけど、実際は私の稼ぎを勝手に使ってただけ。あなたもそれに乗っかっていたの」
「LINEのやり取りを見ると、最初は既婚者と知らなかったみたいですね。でも途中で気づいた」
「はい。でも娘のためにもう離れられなくて」
「法律上、あなたも不貞行為の相手として慰謝料請求の対象になります。既婚と知った時点で関係を続けた以上、言い訳は通用しないわ」
「慰謝料……それだけは、え、払います。今すぐには難しいですけど、借金して働いて返しますので」
「そんなお金がないのは知ってますよ。お金があれば、あなたはとっくに逃げていたでしょうから。でも同情的になるつもりはありません。あなたは夫に依存して、私の稼いだお金で生活して、その上で私の家庭を壊した」
「はい」
「娘のため、経済的に困っていたのは分かります。でもそれは私には関係ない。私だって娘を守るために必死だった。あなたが夫にすがってる間、私は家族を守るために働いて家事をして、一人で全部やってきたの」
みさは泣き出した。「ごめんなさい」
「謝って済むなら法律はいらない。あなたには責任を取ってもらいます」
「でも私、本当にお金がないんです。慰謝料はすぐ払えません。娘もまだ小さいし、仕事も見つからなくて」
「条件を飲めば、今の生活から抜け出せると言ったら」
「条件って、私に何をしろと?」
「まず、夫との関係を完全に清算すること。二度と連絡を取らないこと。そして、夫の暴言の証拠を全て私に提供すること」
「それは……でも、それだけで許してもらえるんですか?」
「許す?甘いですよ。慰謝料は分割で必ず払ってもらいます。でも現実的に厳しいでしょうから、私の会社の人手不足の部署に就職してもらいます。力労働だし、私の監視付き。絶対に逃しませんよ」
「え、でも」
「嫌なら裁判で争ってもいいですよ。でもあなたに勝ち目はないし、弁護士費用も払えないでしょう」
みさは黙った。
「確かにすごく大変ですし、多忙な部署です。でもお給料はきちんと出ます。あと、その部署の上司は昔DVを受けていたので、あなたの力になってくれますよ」
「どうして、そこまで」
「感謝されるようなことはしてません。私はあなたに慰謝料を払わせたいだけですから」
「でも、結果的には私を助けようとしてくれてる」
「私はあなたに刺されても仕方ないことをしたのに、そうまでしてくれるんですか」
「だって、むかつくじゃないですか。夫はあなたに、俺がいなきゃ生きていけないくせにって言ってふんぞり返ってた。私のお金を使って。あいつはあなたを完全に見下してたんです。でもそんなあなたが、経済的にも自立していつ手を借りなくていいようになる。長く伸び切ったその花を、へし折るにはちょうどいいとは思いませんか?」
彩佳は続けた。
「今度は自分の力で生きていけるようになってください。それが本当の復讐よ」
翌日、健太郎のもとにみさからLINEが届いた。
「健太郎、もう会えない。関係を終わりにする。だから家にも来ないで」
「は?何言ってんだ?俺がいなきゃ生きていけないだろ」
「あなたの奥さんから連絡があった。全部バレてるわ」
「知ってるよ。だからなんだ。お前は黙ってればいいんだよ」
「もう無理よ。この関係を続けていた私も悪いわ。だから自分を被害者にするつもりはない。私は奥さんにとって立派な加害者だから、その償いはするつもりよ」
「おい、一体何の話をしてるんだ?」
「あなたが私に送った暴言をスクリーンショットして、全部奥さんに渡した。あなたは浮気で離婚されるの。これであなたは言い逃れできないわよ」
「は?何してんだ?勝手なことしやがって。くそ。お前ごときが俺を裏切ったというのか」
「そう、裏切ったわ。バカよね。逃げようと思えば、なんでも方法はあったのに。あなたに、くずだとか子供がかわいそうだとか、そういうことを言われ続けて、本当に私は世界で一番ダメな人間なんだと思ってたわ」
「実際そうだろう。俺を裏切るってことは、子供を飢えさせるってことなんだぞ」
「いいえ、それはないわ。そうならないように道を示してもらえた。それに、あなたがいないと困るって言うけど、子供の教育上、あなたといる方が何十倍も悪影響よ。そのことに気づいていなかったのは、確かに母親失格ね。あなたに言いたいことはたくさんある。でもそれを言う資格は私にはない。あなたの奥さんと違ってね」
三日後、健太郎は彩佳に電話をかけていた。
「頼む、彩佳。もう一度話し合わせてくれ。俺が悪かった。だからチャンスをくれよ。全部謝るから」
「急にどうしたの?私があなたに鍵を投げつけて家を出ていった後も、連絡はなかったのに」
「会社に匿名で通報があったんだよ。社員の浮気についての情報提供って。上司から呼び出された。このままじゃ出向になる」
「お前が通報したんだろ」
「私じゃないわよ」
「でも、お前の父親だろ。どうせ」
「父さんは何も言ってないわ。優香が迷ったらしいんだけど、なかなかあなたの上司と会うタイミングがなくて、まだちゃんと言えてないって」
「それなら誰が?」
「あら、分からないわね。そうよね。だってあなた、彼女をすごく見下してたもの。自分がしてやられるとは考えもつかないわよね」
「え、通報したのはみさなのか?」
「みささんが証拠を全部会社に送ったみたいね。私にくれた証拠も含めて」
「あの女にそんな行動力があるわけない」
「あるのよ。今までその行動力をあなたが力で抑え込んでいた。でもそれももうおしまい。子を持つ母親って強いのよ。私も含めてね」
「頼む。許してくれ。離婚だけは勘弁してくれよ。家族が大事なんだ。俺にとっての心の寄り所だったんだよ」
「そして満たされない支配欲はみささんで発散してた。笑わせないで。あなたの異常性に付き合うのはごめんよ。家族が大事って、あなたは娘の誕生日すら間違えたのに」
「ああ、それと、あなたの子供ってまだ七子さんよね。うちの子じゃなかったわ。優香はあなたに会いたくないって」
「優香は……俺の娘だぞ」
「あなた、優香のことだけは本当に大切にしてたものね。でも、あなたは優香も傷つけた。二度と父を呼ばないで」
健太郎は絶句した。
「みささんに、俺がいなきゃ生きていけないくせにって言ってたみたいだけど、その言葉そっくりそのまま返すわ。あなた、私がいなきゃ生きていけなかったのよ。それを忘れて調子に乗ったツケを払いなさい」
「慰謝料は五百万。払えないと言うなら給料差し押さえでも何でもやってやる。出向させられれば給料も減るわよね。でもあなたのこれまでの年収で計算してるから、文句言わないでね」
「頼む。話を聞いてくれ。娘の……優香のことは」
「あなたと話すことは、何もないのよ」
その後、健太郎はごね続けたが、半年後に離婚は成立した。慰謝料五百万円と財産分与で経済的に困窮し、狭いアパートで一人暮らしを余儀なくされた。会社では地方の関連会社への出向が決定し、給料も大幅ダウン。同僚からも浮気で出向させられた人と後ろ指を刺され、居場所を失った。
みさは彩佳の紹介で、生産管理部門の現場作業員として就職した。力労働で彩佳の監視がある中でも、毎月きちんと慰謝料を分割で支払っている。その都度謝罪してくるみさに、彩佳はこう言い続けた。
「謝罪よりも、自立して娘さんを育てることが何よりの謝罪になるわ。子供に罪はないんだから」
一方、彩佳は一人穏やかに暮らしている。優香も大学からたまに帰ってきて、変わることなく家族として一緒の時間を過ごしている。健太郎はかつて、優香にとってよい父親だった。しかしそれが嘘の上に成り立っていたと知り、正直悲しい気持ちはある。それでも、前を向いて乗り越えていこうと思っている。
