「母さん、今月の援助がまだ振り込まれてないんだけど」 朝の8時、開口一番の息子のその言葉に、私は驚くほど冷静にこう答えました。 「ああ、それは停止させていただきましたので」 「は?何言ってるんだ?困るよ!」 でも、私はもう何も動じなかった。孫の無邪気な一言から始まった、この3年間の真実。家計簿に書かれた数字。ふたりの会話。そして、あの日の言葉。…
孫の大機が無邪気な声で言った言葉に、私は手に持っていたおもちゃを落としそうになった。 「ママのおじいちゃんとおばあちゃんも、ここに住むんだって!楽しみだね、おばあちゃん」 息子夫婦の新居で、大機と遊んでいた穏やかな午後。その一言の意味が、すぐには飲み込めなかった。 「大きちゃん、それってどういうこと?」 私が優しく尋ねると、台所から慌てて出てきたのは義理の娘のリカさんだった。その顔は明らかに焦っていた。 「余計なことを言わないで」 リカさんの鋭い声に、大機は驚いたように黙り込む。私の胸に、冷たいものが広がっていった。 私は長谷川ゆ子、65歳。夫の明と二人、静かで穏やかな日々を送ってきた。病院の受付として30年間働き、コツコツと貯めたお金は全て息子のために使ってきた。新太郎の教育費に850万円。大学まで全て私たちが出した。結婚式には200万円。新居の頭金として300万円。そして今も、毎月15万円を援助し続けている。3年間で540万円になる。 そのお金が、リカさんのご両親との同居費用に使われていたのだとしたら? その夜、私は一睡もできなかった。大機の言葉が頭の中で何度も繰り返される。翌週、私は決意して息子の家を訪れた。 「お母さん、今日はどうされたんですか?」 リカさんの声には、明らかに迷惑そうな響きがあった。 「少しお話があって。新太郎はいるかしら?」 リビングに通された私の目に、テーブルの上に置かれた家計簿が飛び込んできた。リカさんが慌てて隠そうとしたが、一瞬見えた文字に、心臓が凍りついた。 『両親との同居準備費用 月8万円』 新太郎が仕事から帰ってきて、私は静かに尋ねた。 「私が援助しているお金、何に使っているの?」 息子は一瞬目を泳がせた。 「生活費だよ、母さん」 「リカさんのご両親との同居費用には使っていないの?」 その言葉に、二人の顔色が変わった。 「お母さん、それは生活費の一部ですから」 リカさんが先に口を開く。 「一部?毎月15万円も援助しているのに、それを義理のご両親のために?」 私の声は、怒りではなく悲しみで震えていた。 新太郎が言い訳を始める。 「母さんは一人だし、遠慮できるだろう。リカの両親は色々教えてくれるから、同居した方が助かるんだ」 「私たち夫婦は、私たちとの同居は考えなかったの?」 新太郎が言葉を濁した瞬間、リカさんが冷たく言い放った。 「正直に言えばいいじゃない。お母さんとは価値観が合わないんです」 その言葉が、胸に鋭く刺さった。 数日後、私はもう一度息子の家を訪れた。夕方、開いた窓から聞こえてくる会話に、足が止まった。 「お母さんは遠いし、正直面倒なのよね」 リカさんの声だった。 「そうよね。でもお金は出させればいいのよ。うちは同居して孫の教育もできるし、一石二鳥じゃない」 返事をしたのは、リカさんのお母様だった。 「新太郎も、私の両親の方が話しやすいって言ってますし。お母さんは正直時代遅れなところがあって」 笑い声が聞こえてきた。 私はその場に立ち尽くすことしかできなかった。 玄関のチャイムを鳴らすと、リカさんが驚いた顔で出てきた。 「お母さん、いつから?」 「今来たところよ」 嘘をついた。真実を知った今、まだ心の準備ができていなかった。 その夜、新太郎から電話がかかってきた。 「母さん、来月の援助の件なんだけど。義父の誕生日も近いから、できれば20万円にしてもらえないかな」 私は握っていた手に力を込めた。 「新太郎、私、聞きたいことがあるの。私はあなたたちにとって、何なの?」 「何って?母さんだろう?何を言ってるんだ?」 「本当に、母親として見てくれているの?それとも……」 言葉が続かない。沈黙が流れるだけだった。 「母さん、変なこと考えないでよ。俺たちは感謝してるって」 その言葉が、どれほど空疎に聞こえたことだろう。 翌日、私が偶然通りかかった喫茶店で、リカさんとそのお母様が話しているのを見かけた。窓際の席で、二人は楽しそうに笑っている。 「お母さんには援助だけしてもらえばいいのよ」 … Read more