「40を超えた生き遅れの女に、私の息子をあげられるわけないでしょ。」
その言葉が部屋に響き渡った。私の名前は杉子。四十二歳。今日は十五歳年下の彼の母親である雅子に、結婚の承諾をもらいに行った日だった。
雅子は冷たい目で私を見下ろす。
「あなたが杉子さんね。四十二歳って聞いたわ。うちの息子はまだ二十七歳よ。もう子どもが産めない女に、うちの息子はやれないわ。」
私の顔が一瞬で硬直した。
「結婚したいんなら、誠意として三百万円持ってきなさい。それが無理なら、四十を超えた生き遅れの女にうちの息子はやれないわ。」
「それはおかしいと思います。」
その瞬間、雅子の手が私の頬を思いっきり打った。乾いた音が部屋に響く。雅子は鬼のような形相で叫んだ。
「何を言ってるのよ。四十を超えた生き遅れの豚が。」
私は頬を押さえながら、その場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
夕暮れ時、私は実家に帰ってきた。頬を押さえながら、歪んだ表情で玄関のドアを開ける。母がリビングのソファで本を読んでいた。私が顔を上げると、母が驚いたように私を見る。
「杉子、どうしたの? 何があったの?」
私は唇をぎゅっと噛みしめ、何かをこらえるように瞳を揺らした。
「いや、何も。」
しかしその顔は明らかに何かがあったことを示していた。頬が赤く晴れ上がっている。
「杉子、何があったの? 正直に話しなさい。」
私の目から涙が溢れ出した。
「さっき、彼の母親にひっぱたかれちゃった。」
その言葉を聞いた瞬間、母の心臓が大きく跳ね上がった。私はすべてを語り始めた。彼の母親である雅子が私に侮辱的な言葉を投げかけ、三百万円を要求し、抵抗した私をひっぱたいたこと。四十を超えた生き遅れの女、もう子どもが産めない女として馬鹿にしたこと。
その残酷な言葉を聞いた瞬間、母の顔からいっさいの感情が消えた。七十九歳の母。私のためにすべてを捧げてきた母。そのすべてが、たった一人の傲慢な女によって踏みにじられた。
母は静かに本を置いた。
「なぜ、それ以上言い返さなかったの?」
「怖かった。彼との関係が壊れてしまうのが。ひっぱたかれた後、それ以上言い返す勇気がなかった。」
私の目からまた涙が溢れる。
「杉子、あんたは何も悪くない。でも、あんたは自分を守れなかった。あんたはあの女に何をされても、ただ耐えるだけだった。」
その言葉が私の胸に突き刺さる。
「そうね。私は何もできなかった。」
「あんたはあの女に侮辱され、暴行されても、何も言い返せなかった。あんたはまず、自分の弱さを認めなさい。」
私の涙は止まらない。
「私は弱い。何もできなかった。」
「でも、あんたは今、何かできるかもしれない。」
その瞬間、私の心に燃えるような怒りが宿った。私は無言で立ち上がり、自分の部屋へと向かった。私の目には冷たい光が宿っていた。
四十を超えた生き遅れの女として馬鹿にしたあの女が、本当にそんなによくできた人間なのか。見てやろうじゃないか。
事件から二週間が経った。信頼できる知人に依頼して、私は雅子の行動を調べ始めた。日が経つにつれて、雅子の本性がどんどん暴かれていく。そして私は雅子の重要な証拠を掴んだ。
行ける。これだけの証拠があれば、あいつを地獄に突き落とせる。
私は雅子に電話をかけた。
「雅子さん、三百万円用意できました。」
雅子の声がスピーカー越しに響く。
「上出来だわ。四十を超えた生き遅れの女でも、考えてあげるわ。」
「ありがとうございます。」
雅子は電話を切った。その声には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。私はこの電話の内容を録音した。
運命の日。駅前のカフェに、私は先に到着していた。母は私の頼みで、少し離れた席で私を見守っていた。雅子がカフェに現れる。勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、私を見下ろすように座った。
「杉子さん、三百万円は持ってきたの?」
私は封筒を机の上に置いた。
「はい。三百万円を用意しました。」
雅子が勝ち誇った笑みを浮かべながら封筒を手に取る。
「三百万円って、なかなか分厚いのね。テンション上がっちゃう。」
雅子が封筒を開ける。その瞬間、雅子の顔が歪んだ。顔色がみるみる青ざめていく。封筒の中には三百万円ではなく、雅子の浮気の証拠が大量に入っていた。写真や動画、記録など、明確な証拠が揃っている。
雅子の手が小刻みに震え始める。封筒が手から滑り落ち、中の写真が床に散らばった。
「何をしてるの? あなた、私を落とし入れようとしてるのね。そんなもの、全部でっち上げよ。」
私は無言で冷静に、散らばった写真を一枚一枚机の上に並べていく。雅子と複数の男性が一緒にいる写真。ホテルに入る様子を捉えた動画。不倫関係を示す記録。すべてが明確に示された。
「は、は。こ、これ、私じゃないんだけど。」
「じゃあ、これならどうでしょう?」
私は合図を送った。その瞬間、雅子の浮気相手の男性たちがぞろぞろと現れる。複数の男性が雅子の前に並んだ。雅子の顔が真っ青になる。
「雅子さん、独身だって言ってたじゃないですか。なんでこんなことになってるんですか?」
「雅子さん、もうすぐ別れるから待っててねって言ったじゃないですか。僕の心を持て遊んだんですか?」
浮気相手の男性から数々の声が上がる。
「誰よ、こいつら? 知らないわよ。」
「往生際が悪いですね。じゃあ、入ってください。」
その瞬間、雅子の旦那が現れた。雅子の表情が一瞬で絶望の色に染まる。
「まさ、お前、こんな……」
「なんで、あなたがここにいるのよ。違う違うわ。私たちは嵌められてるわ。」
「嘘つくな。これでも白を切れるって、やばすぎるぞ。もう無理だ。離婚だ。」
雅子の顔から一糸の血の気も失われた。カフェにいた他の客たちが雅子の様子を見てざわめき始める。視線が雅子に集中する。さっきまで見下ろすように座っていた雅子の体は、みるみる小さく縮こまっていった。
私は雅子の耳元で静かに囁いた。
「四十を超えた生き遅れの女だからって私を馬鹿にした人間が、この程度で終わると思った? 今、どんな気持ち?」
「あんた、えげつない浮気してるじゃない。散々私を侮辱したあんたが、この有り様なのは笑っちゃうんだけど。」
雅子が声を震わせながら叫ぶ。
「あんた、こんなことして何がしたいのよ。やっぱり生き遅れ女は性格が歪んでるのね。」
私の声が低く、冷たく震えていた。
「知らないからって、何でも言っていいわけじゃないのよ。あんたは私に、四十を超えた生き遅れの女にはうちの息子はあげられないって言ったんでしょ。挙げ句の果てには、私に暴行まで加えた。私を侮辱したあんたが、実は家族を裏切ってる。それなのに、あんたはここまで来ても一度も謝罪しない。あんたは自分が何をしたのか、全く理解していない。もう絶対に許さない。この証拠、すべて公にします。」
雅子は言葉を失った。口を開こうとするが、何も言えない。雅子の目から大粒の涙が溢れた。しかし、誰もその涙を見ようとしなかった。旦那は無言で背を向け、浮気相手の男性たちも次々と去っていく。
雅子の膝から力が完全に抜けた。その瞬間、雅子の体が椅子から滑り落ち、床に崩れ落ちた。カフェの床に、雅子はうずくまるように座り込んだ。
「なんで……なんでこんなことに……なんで、夫まで……」
その声はもはや叫びではなく、絶望の底から絞り出されるようなか細い声だった。カフェの客たちの視線がさらに冷たくなる。雅子は床に散らばった自分の浮気の証拠の写真を見つめながら、ただただ震えていた。
私は静かに立ち上がり、雅子に吐き捨てた。
「じゃあ、お疲れ様。残りの地獄みたいな人生を、噛みしめて生きてくださいね。」
雅子はもう何も言えなかった。ただ床に崩れ落ちたまま、涙を流し続けている。あの傲慢だった女の姿は、もうどこにもなかった。
私は実家に戻った。すべてが終わった。
私は鏡の前で立ち尽くす。四十を超えた生き遅れの女として侮辱された私。でも、私は復讐を果たした。私の目から涙が溢れる。あの時、私は自分を守るために動いた。弱かったが、自分で復讐を果たした。
あの屈辱的な事件から一年。私は四十三歳になった。心は以前よりもずっと軽やかだった。
雅子のその後は、雅子の元旦那から聞いた。雅子は旦那から離婚を告げられ、高額の慰謝料を請求され、支払いを余儀なくされた。さらに、不倫相手の男性の中には結婚している人も多数いて、相手の妻からも複数訴えられていた。複数の不倫相手の妻からそれぞれ数百万円の慰謝料を請求され、合計で数千万円もの慰謝料を背負うことになった。
雅子は実家に助けを求めたが、追い返され、家に入ってもらえなかったという。かつての知人たちも次々と離れていき、あの傲慢だった雅子は完全にどん底に落ちた。
夕闇が完全に訪れた空には、美しい満月が輝いている。四十を超えた生き遅れの女として侮辱された。苦労がなかったと言えば嘘になる。しかし、その逆境があったからこそ、私は他のどんな人にも負けないほど強く、そして美しい人生を歩むことができたのだ。
