あの日、リビングでお茶を飲んでいたら、義母が突然「私たちの部屋はどこかしら?」と聞いてきた。何のことかと思ったら、夫が勝手に同居を決めていて、義両親はもうアパートの契約まで解約済みだった。私は結婚前からコツコツ貯めたお金で、念願の一軒家を建てたばかり。なのに夫は電話越しにこう言い放った。「お前みたいな売れ残り女を拾ってやったんだから、親との同居くらい我慢しろよ」。さらに「物置きで寝ろ」とまで…

あの日、リビングでお茶を飲んでいたら、義母が突然「私たちの部屋はどこかしら?」と聞いてきた。何のことかと思ったら、夫が勝手に同居を決めていて、義両親はもうアパートの契約まで解約済みだった。私は結婚前からコツコツ貯めたお金で、念願の一軒家を建てたばかり。なのに夫は電話越しにこう言い放った。「お前みたいな売れ残り女を拾ってやったんだから、親との同居くらい我慢しろよ」。さらに「物置きで寝ろ」とまで...

「アカさん、新居での生活はどう?自分で買った家とはいえ、まだ慣れませんね。お母さんたちには引っ越しのときに手伝ってもらって。もう引っ越して一ヶ月くらいかしら?」

「そうですね。そろそろそれくらいです。」

「たかしと結婚したのが半年前でしょ。新婚早々一軒家なんて憧れちゃうわ。うちもずっと賃貸だから余計にね。」

「結婚前から個人的に貯金してたんです。うちの実家って持ち家じゃなくて賃貸で、アパートだったんですよ。」

「それが嫌だったわけじゃないんですけど、やっぱり持ち家にはずっと憧れがあったんです。独身の頃からコツコツ貯金してました。」

「すごい努力よね。まだ三十代で女なのに。」

「そこは仕事に恵まれましたね。地方で土地も建築費も安かったとはいえ、今の会社のお給料あっての貯金でしたから。」

「確か子供は考えてないんだっけ?」

「そうですね。私も出産するのは難しい年齢ですし、たかしも子供は別に、私と一緒ならいいって言ってくれてるので。」

「お互い三十を超えての結婚だものね。一応貯金してたのは、将来子供ができたらって思いもあったんです。それで家のことも悩んでたら、たかしが背中を押してくれて。『いいじゃない、今の時代子供がいない夫婦なんていくらでもいるわよ』って。」

「ありがとうございます。」

「うん。立派なお嫁さんで私も鼻が高いわ。で、私たちの部屋はどこかしら?」

「あ、えっと、私たちの部屋とは?」

「とぼけないでよ。私とお父さんの部屋に決まってるでしょ?」

「いや、うん。あの、同居の話とかしてませんよね。」

「あらあら。たかしから何も聞いてないの?たかしから、家ができて落ち着いたら一緒に暮らそうって。」

「え?何ですかそれ?そんなの私は一言も聞いてませんよ。」

「困ったわね。私たちもう同居できると思って、家の契約も切ったのに。」

「は?え、冗談ですよね。」

「大家さんとは話し終わって、あとは私たちが引っ越すだけよ。」

「ちょっと、え、本当に待ってください。頭が混乱してきた。私に何の相談もなくそこまで進めてたんですか?」

「そう言われても、もう契約切っちゃったもの。引っ越しの準備も進めてあるから、受け入れお願いね。」

「いやいやいや、先にたかしと話をさせてください。」

「え、たかしと?」

「はい。何か大きな誤解がある様子なんで、その後に連絡しますからお待ちくださいね。」

五分後。アカはたかしに電話をかけたが、相手は苛立った声で出た。

「いや、無理だろ。仕事中だぞ。お前は休みだからいいんだろうけどさ。」

「それはごめん。じゃなくて、お母さんたちとの同居って何?私、そんな話一切聞いてないんだけど。」

「ああ、そのことか。何もクソもないだろう。来週からうちの親と同居するんだから。」

「はあ?来週?」

「そう、来週。ママたちにはその予定で準備を進めてもらってるから。」

「いや、ちょっと待ってよ。なんで私の意見も聞かずに勝手に決めてるの?」

「だって、言ったらお前が反対するだろう。」

「そりゃそうでしょ。私たちまだ結婚して半年の新婚だよ。夢の一軒家で二人で過ごせるって楽しみにしてたのに。」

「それはご愁傷さま。」

「笑い事じゃないから。そもそもこの家は私の家。勝手にこんなことされると困るよ。」

「ああ、めんどくさいなあ。」

「は?めんどくさいって何が?もしかして私ですか?」

「お前以外に誰がいるんだよ。」

「だって何よ、その言い方。私何か間違ったこと言ってる?」

「間違ってるとか間違ってないとか、どうでもいいわ。てか、お前みたいな売れ残り女を拾ってやったんだからさ。親との同居くらい、いいだろ別に。」

「は?売れ残り女を拾ってやった?それ本気で言ってるの?」

「お前の方こそ本気で言ってるのかよ。何よ?俺みたいなイケメンが、お前みたいな売れ残り女とただで結婚するか?するわけねえだろ。」

「何それ?どういうこと?」

「お前が貯金があるって知ってたから結婚したんだよ。二千万だか三千万だか。しかもその金で家を立てるって言うじゃん。これはブスと結婚しても割に合うなと思っただけ。」

「でも、私と一緒になれればそれでいいって言ったじゃない。」

「お前の買った家で両親と一緒に住めればそれでいいって言ったんだよ。悪いな、言葉が足りなかったみたいだ。」

「じゃあ、今まで優しくしてくれたのも、お前が家を買うまで待ってただけなの?」

「そんなことより、お前が子供よりも家の夢を優先したいって言ってくれたから、私も家を買う決心がついたのに。」

「買ってくれないと俺が困るんだよ。ま、お前みたいなブスの売れ残り女が俺と結婚できたんだ。それだけで感謝してくれてもいいだろ。さって、ここは私が建てた家なのに。」

「お前が建てた家だろうが、家主の俺の決定は絶対だ。パパとママと住むのは決定事項だ。」

「あ、そう。狭くなるし、お前は物置きで寝ろ。」

翌日。義母から職場に電話がかかってきた。

「アカさん、仕事中にごめんなさいね。昨日の話の続きをしようと思って。大丈夫?」

「すみません。ちょっとたかしとの話し合いで疲れてしまっていて。」

「たかしとの話し合い?一度LINEで連絡は取り合ったんですが、その後たかしが帰ってきてからも話し合いをしたんです。ただ、すみません、色々ありまして。」

「そうなの?その様子だとまだまとまってないみたいね。」

「その、お母さんに言うのはどうかと思うんですが、たかしは最初から私の貯金が目当てで結婚したらしく、そのことがショックで……」

「なるほどね。ああ、そう。私たちの荷物もう送ったから、今日か明日には届くんじゃないかしら。面倒だと思うけど、受け取りはアカさんがお願いね。」

「いや、あの、何言ってるんですか?」

「何って、同居するんだから当然でしょ。」

「それは待ってくださいって言いましたよね。」

「でも、もうたかしは同居決めてるのよね。」

「そうですけど、私はまだ納得していません。たかしの本心を知った以上、そもそもこれからのことだって……」

「じゃあ何も問題ないわね。」

「はい?私の話、聞いてました?」

「一家の大黒柱はたかし。夫の決定に従うのは嫁として当然よ。」

「そういう問題じゃなくてですね。」

「そういう問題です。そもそも夫の決定に口を挟むなんて嫁失格よ。アカさんも我が家の嫁なら立場をわきまえなさい。まったく、これだから最近の若い子は。私の若い頃なんてね。夫に意見なんてしたら大目玉だったのよ。」

「時代が違います。」

「時代が変わっても変わらないものってあるわよね。嫁の立場なんていつの時代も一緒。私たちの言うことを聞いてればいいの。」

「そういうことなんですね。」

「急に何?」

「あなたは最初から私の意見なんて興味ないんですね。」

「興味がないんじゃなくて、意見する資格がないのよ。嫁なんて家の中じゃ人権ないんだから。」

「そうですか。たかしやお母さんたちのお考えはよくわかりました。」

「わかったなら結構。じゃあ私とお父さんの部屋を開けておいてね。」

「はい。しっかりと準備しておきます。」

二週間後。たかしと義両親は温泉旅行に出かけていた。アカは一人で家に残り、リフォームの立ち合いをしている。

「いやあ、温泉旅行最高だわ。楽しんでくれてるみたいでよかった。」

「温泉旅行をプレゼントした甲斐があったわね。東京に強く反対したお詫びに、とか言ってなかった?」

「おかげでパパもママも喜んでるよ。プレゼントした本人は一人留守番ってのは笑えるけど。」

「仕方ないよ。リフォームの立ち合い人は必要だったんだし。」

「そうそう。それもそうだ。いや、あれだけ反対してたのに急にさ、『パパとママが過ごしやすいように』とか言い出して、業者の手配とか近所への騒音の対応とか、全部お前一人でやるもんだから驚いたよ。」

「まあ、これもお詫びの一環。旅行だって、私がいない方が親子三人で楽しめるでしょ?」

「それはそうなんだけど。お前、何か変なもんでも食った?」

「食べてないけど。だったらあなたたちも変なもの食べてることになるよ。料理を作ってるのは私なんだから。」

「仕事もあるのに家事も全部お前だもんな。母さんも楽できるって喜んでたわ。」

「郷に入っては郷に従え、ってね。もう同居が始まって二週間は経ったし、私も意地になってばかりじゃいられないってことよ。」

「お前が理解ある嫁で助かるよ。」

「いたしまして。あ、そうだった。」

「なんだよ、物置き。」

「あそこは私の部屋ってことでいいんだよね。」

「今更何言ってんだ?もう何週間も物置きで寝泊まりしてるくせに。」

「一応の確認。もうちょっと過ごしやすくしたくて。まあ、ちょうどリフォームするわけだしな。」

「そう。いいんだよね。物置きは私がどう使っても当たり前だろう。」

「ま、そこ以外はお前は使用禁止だけど。」

「そっか。ありがとう。」

「物置きで満足とか、安い女だな。」

「まあまあ、経済的って言ってよ。今回の温泉旅行は一週間でしょ。ちょうど俺の長期休暇と重なったからな。」

「だから温泉旅行をプレゼントしたのよ。一週間、俺とママたちはしっかり羽を伸ばすよ。リフォームも一週間あれば終わるはずだし。帰ってきたら変化に驚くと思うわよ。」

「うん、楽しみが増えたわ。ああ、そうだった。旅行から帰ったら会社の同僚を呼ぶから。」

「呼ぶって、うちに?」

「一軒家に引っ越したわけだしな。旅行終わっても休暇はまだ数日残ってるし。庭でバーベキューパーティーとかいいだろう。」

「いいね。もちろん準備はお前一人でやれよ。」

「はいはい。物置きが煙臭くなったら、まあどんまい。」

「じゃあそういうわけだから、お前も物置き生活楽しんでな。」

一週間後。たかしが帰宅したとき、そこに家はなかった。更地だけが広がっている。アカは物置の中で電話に出た。

「おい、なんで電話に出ねえんだよ。」

「あれ?たかし、ごめん。電話気づかなかった。」

「気づかなかったじゃないだろう。何回物置きのドアを叩いたと思ってんだ。あれだけどんどんやってたら普通気づくだろう。」

「いや、最近の防犯って性能いいんだね。てか、もう帰ってたんだ。どう?リフォームした我が家は。」

「バカかお前。これのどこがリフォームなんだよ。」

「え、かなり大胆にやったと思うんだけど。変化に気づけなかった?」

「大胆ってか、更地じゃん。家は?俺の家はどこに消えたんだよ。」

「なんということでしょう。匠の手により、あの一軒家がすっきりと風通しよく。風通しはいいだろうな。壁も屋根も床も何もねえんだから。」

「これぞビックリ。ビフォーアフター。アフターはどこだよ。」

「アフターさんは旅行って帰ってきてないよ。多分もう一生帰ってこないんじゃない?」

「ふざけんな。お前、これリフォームじゃなくて解体じゃねえか。」

「少し前から業者と連絡を取り合って下見してもらって、騒音の対応でご近所さんへ持って挨拶に行って、大変だったんだよ。」

「リフォームじゃなかったのかよ。」

「全部、解体のためでした。ちょっとしたリフォームじゃ、そんな騒音出ないでしょ?申請が終わって工事スタートから最短で一週間で解体可能って言ってたけど、あなたたちにプレゼントした旅行の一週間でできて本当に良かった。」

「良くねえよ。俺の家だぞ。何勝手なことしてんだ。」

「いやいやいや、ご冗談きついですよ。あの家は私の家なんで、何しても私の自由でしょ。」

「だからって、お前、俺やパパやママはこれからどうしたらいいんだよ。寝る場所もないじゃねえか。」

「あるでしょ。どこに?そこ、その更地で寝るってのか。」

「ちゃんとあなたたちの荷物はそのまま置いてあるでしょう。」

「そのままってか、更地なんだけど。こんな場所で寝れるわけがないだろう。」

「文句があるなら別の場所に行ったら?私は困らないから、どうぞご自由に。」

「何言ってんだよ、お前。ためだ。話にならねえ。もういいから、そこから出てこい。」

「え、嫌ですけど。」

「出てこないって言うなら、無理にでも引きずり出すぞ。こんな物置き、大人の男が本気出せば……」

「無理でしょ。防犯だけはばっちりにしてあるからね。見た目以上に頑丈よ。」

「うるさい。こっちには俺とパパの二人がいるんだ。パパのゴルフクラブとか使って叩けば壊れるだろう。」

「ああ、だめだめ。監視カメラついてるから。」

「は?監視カメラ?」

「そう。ドアはもちろん、カメラ自体を壊そうとしても無駄だから。スマホ連動のタイプでね、壊す姿が録画されて、データもこっちに送られてくるから証拠もばっちりよ。」

「なんだよそれ。」

「あと鍵は電子ロックだし、窓とかもないしね。」

「こんな物置き程度にいくらかけてんだ?」

「すごいでしょ。百人乗っても大丈夫だよ。あなたの言う通り、物置きは好きにさせてもらったけど、こりゃ快適ですわ。」

「ふざけんな。どうすんだよ。」

「どうもしないけど。あ、そうそう。言い忘れてた。」

「何だよ。」

「あなたの言ってたバーベキューパーティーね。もうあなたの同僚の奥さん方に声をかけたから。」

数日後、たかしの同僚たちが集まってバーベキューが開かれた。もちろん会場は更地だ。たかしと義両親は姿を見せなかった。

「お前、本当に勘弁してくれよ。あの更地でバーベキューパーティーとか。」

「みんな楽しんでくれてたよ。そういえば、たかしとお母さんたちは来てなかったっけ?なんで?」

「なんでじゃねえだろう。家が急になくなって、それどころじゃないんだよ。」

「そうなの?ご苦労様。てか、そもそもいつ開催とか聞いてなかったぞ。お前、俺に黙って勝手に話を進めやがって。同僚の奴らに聞いても、なんかはぐらかされたし。」

「だって、開催したら断るでしょ?だからみんなにはサプライズってことで黙ってもらった。」

「バカじゃねえの。」

「家を無断で解体したのは、あなたたちのほうがバカだったな。」

「あのさ、お母さんたちとの同居の時、私に何て言ったか覚えてないの?」

「何の話だよ。」

「『私に言ったら断るから黙ってた』って言ったの。そちらのご家庭では都合が悪いことは黙ってるんでしょう?郷に入っては郷に従え、ってね。私もそちらの風習に習っただけだよ。」

「それとこれじゃ話が違うだろう。お前がパーティーで盛大に演説したせいで、俺は……」

「演説?ああ、あれはかなり良かったよね。物置きの中で何日も台本考えてさ。」

「その結果が俺の今の状況だ。会社でも遠巻きにされて、影口叩かれてんだぞ。『嫁を物置きに押し込んだ最低男』って。」

「嫁の家を奪って更地に変えた最低男だ。」

「なんだそれ?噂されるにしても斬新すぎるだろう。『更地に変えた男』って、なんかゲームのキャラみたいでかっこいいね。」

「かっこよくねえよ。会社で噂されてるせいで肩身が狭いし。そんな簡単に新しい家も見つからないから、パパとママと一緒にホテル暮らしだし。これからどうしたらいいんだよ。」

「笑えばいいんじゃない?」

「笑えるか。てか、お前も何なんだよ。」

「何なんだよとは?家を更地にしたのが俺たちへの仕返しなのは分かるけど、あの家だってただじゃないだろう。土地や建築費で二千万はかかってたはずだ。」

「そうだね。それが、一軒家はお前の夢だったんだろう?なのに、俺たちへの仕返しだけでここまでやるか?」

「ああ、そういうことなら安心して。家代は帰ってくるから。」

「は?帰ってくるって、どこから?」

「あなたたちから。」

数日後、たかしがアカに詰め寄った。

「おい、アカ。昨日のあれは一体どういうことだ?」

「昨日?ああ、離婚のこと?そっちは一旦いい。今の状況だと良くはないが。まあいい。俺が言ってるのはもう一つの方だ。」

「ああ、結婚詐欺であなたを訴えるってやつ?」

「そうだよ。お前がどうしても話があるからって出向いたのに。指定された喫茶店に行ったら、いるのは弁護士だけ。しかも離婚届と一緒に結婚詐欺で訴えると来たもんだ。」

「うん。まあ実際そうなんだからしょうがないよね。」

「しょうがなくないだろう。てか、結婚詐欺ってどこが?」

「私と結婚したのは、貯金ひいては家のためでしょ?」

「そうだけど。」

「つまり、私との結婚は目的じゃなかった。結婚した後に手に入る金銭を目的としてた。」

「いや、でも実際にちゃんと結婚したし、そもそも証拠とかないだろう。」

「あのさ、私がお母さんたちとの同居中、何もしてなかったと思う?」

「同居中って言っても二週間かそこらだろう。そんな短い間に一体何ができるってんだよ。」

「そこについては同意するけど、あなたたちって分かりやすいからね。懐に入ったら自分たちは安全だって安心する。」

「どういうことだ?」

「私を物置きに押し込めて、楽しそうに話してたじゃない。あなたが最初から金銭目的で結婚したこと、そしてお母さんたちもそのことを承知してたこと。」

「え?いや、確かに話したとは思うけど、なんでお前がそれを……。」

「自分でLINEを使って自白したの忘れたの?」

「それは覚えてるけど、パパやママがそのつもりだったことまでは、俺は話してない。」

「まあ、普通に考えてあの態度を見れば察しはつくでしょ。」

「察しがついても、それじゃ証拠にならないだろう。」

「察しただけじゃ無理だね。けど、察した結果、家に録音機を仕掛けてたら。」

「は?お前、いつそんなこと?」

「東京が決まってすぐよ。」

「嘘だろ。あの売れ残りブス女のおかげで予定通り家を手に入れた。あとは物置きに押し込んでおけば黙ってるだろう。それもそうね。何か言っても黙らせればいいんだし。俺の知り合いがあの女の会社で重役をやってる。最悪の場合、そちらから圧をかけてもらえばいい。」

「録音したって言ったでしょ。筒抜けだよ。」

「そんなものだけで、結婚詐欺とは?」

「私が家を買うのを悩んでた時、背中を押したのはあなた。そして私は友人に、背中を押してくれたことを伝えている。」

「友人?そいつが知ってるから何だって言うんだよ。」

「これは家を買う前に伝えてたこと。つまり、友人が証言してくれれば、私が家を買うように誘導されていた証拠になる。」

「じゃあ、結婚詐欺で訴えるってのは、はったりとかでも何でもなく……。」

「集まった証拠を使って可能だと判断した結果だよ。」

「こんなの嘘だろ。結婚詐欺って、一体何を請求されるんだ?」

「家を立てたのも土地を買ったのも、あなたに誘導されてから。ここにかかった資金は全額請求します。」

「それって二千万?」

「加えて、騙されていたことによる精神的苦痛の慰謝料も請求させてもらうね。百万。合わせて二千百万。」

「そんな金払えるわけない。お前だって知ってるだろ。俺は今、会社でも微妙な立場にいて。」

「こちらの家庭内では、微妙どころか最低男になっておりましたが。」

「それはお前が変えたんだろ!って、そうじゃなくて。お前はいい嫁だし。」

「あのさ、私、結婚前に行ったよね。一軒家で家族と一緒に暮らすのが夢だって。」

「知ってるよ。だからそのお前と結婚したんだし。」

「それに対してあなたはこう言いました。『お前と一緒にいられるだけでいいから、子供のことを諦めたとしても後悔はない』って言ったと思う。」

「子供が難しい年齢になってきて、将来のことに不安を抱えていた私は、その言葉にどれだけ救われたか。あなたとなら幸せな未来が待ってるって信じてた。それが何?蓋を開けてみたら全部嘘でした。」

「そりゃこっちは家があればよかったんだし。」

「人の夢を踏みにじって、自分たちだけが幸せに通るわけないでしょう。家もお金も、これからの将来だって。あなたたちには何一つ残す気なんてありません。震えて眠れ、このバカ男。以上、物置き女からでした。」

一週間後。義母がアカを訪ねてきた。

「ねえ、アカさん、もう十分じゃないかしら。」

「はい。何がですか?」

「あなたの行動でたかしは会社で浮いてるって聞いてるわ。仕事から帰っても、いつもげっそりした顔してるし。」

「でしょうね。毎日影口叩かれて、白い目で見られてるでしょうから。それに帰ってくる場所も安いビジネスホテル。安心できる家もなく、ねぎらってくれる妻もいない。」

「妻でしょ?捨てたんでしょ?癒しを求める相手を間違ってますよ。ママがよしよししてあげたらどうですか?」

「聞きなさいよ。そんな状況で、結婚詐欺やら慰謝料で二千百万って、あんまりじゃない?」

「私の正当な権利です。」

「これ以上たかしを苦しめるのはやめて。」

「は?何?喧嘩売ってます?」

「お金のことも家のことも仕事のことも。これじゃあたかしがかわいそうだわ。」

「え、自分たちが私に何をしたか忘れたんですか?私の方がかわいそうなんですけど。」

「嫁が家を買うなら、それをもらうのは当然です。」

「バカなの?」

「いや、バカだったわ。」

「あなたの母親に対して、なんて口を聞くの?」

「あの、分かりやすいからお母さんと呼んでるだけです。もう私とは離婚してますから、他人ですよね。」

「だとしても、一度は親子だったじゃない。」

「知らんがな。そんな誤解されるなら別の呼び方にしますよ。えっと、ヒステリックババアとか。」

「ヒステリックババア?あ、いや、だって的確な呼び名だと思います。」

「だっても何もありません。なんて失礼な。」

「失礼さで言えば、そっちのほうが上だと思いますけど。というか、さっきから聞いてたら何ですか?まるで他人事のような態度だなと思って。」

「それはそうでしょ?これはあなたとたかしの問題よ。私とお父さんは巻き込まれてるだけで。」

「はい。あなたたちも共犯ですよね。」

「共犯?私たちが?」

「ええ。知ってたんですよね。たかしの目的も、私と結婚した理由も。知ってたけど、それはたかしが勝手にやったことで、それで通るほど世の中は甘くないんですよ。」

「あなたの言う家の中とは違ってね。つまり何?どうなるって言うの?」

「お母さんとお父さんも訴えますよ。」

「え?」

「結婚詐欺の幇助をしたとして。」

「いや、ちょっと待って。なんでそんなことになるの?」

「だって知ってて私に黙ってたんですよね。」

「それはそうだけど。」

「それどころか、結婚の後押しもしましたよね。」

「でも、それは親として当然だし。」

「当然?息子の結婚詐欺に加担するのが?そんなつもりはなくて、あってもなくても、実際にそうなるんですよ。まあ、安心してください。お母さんたちへの請求額は、せいぜい二百万とかなんで。」

「は?二百万?そんなの無理よ。今だってホテル暮らしなのに。」

「お母さん、言ってましたよね。『嫁は家の中じゃ人権ない』って。それが何だっていうの?」

「良かったですね。犯罪者相手でも今の世の中は人権が認められてます。家の中よりもマシだと思いますよ。払うものは払ってもらいますけど。」

「そんなの、いや、お願いします。許してください。」

「立場をわきまえてくださいよ。」

「え?時代が変わっても変わらないことってあるんですよ。例えば、被害者と加害者の立場とか。あなたが私に対して意見する権利とかありません。」

たかしは抱えた二千百万の支払いのため、仕事を辞めることもできず、今も針のむしろの状態で働いている。義両親についても二百万という支払いを抱え、残りの人生を労働という社会貢献に捧げることだろう。家を失い、人からの信頼を失い、お金を失い。「家の中で嫁に人権はない」と言った義母。そんな義母のかげに隠れ、なるほど同行していた義父。そして「私のような売れ残りのブスと結婚してくれた優しい優しい」たかし。そんな三人がたどった末路は、自業自得のざまあと言わざるを得ない。人を騙し、人のお金を奪おうとしたのだから。結果として自分が全部失っても、仕方ないことだ。

ちなみに、家を取り壊して残った土地についてだが、両親にもお金を出してもらい、改めて両親と住む一軒家を建てた。夢であった「夫と一緒に一軒家で生活を送る」というのはもう無理かもしれないが、その代わり「家族と一緒に夢の一軒家で過ごす」ことはできている。ちなみにあの時お世話になった物置きは、唯一取り壊していなかったため、今も我が家の庭で、私の今後を見守ってくれている。

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