母さん、俺、ナミと結婚することになったんだ——その電話のあと、両家の顔合わせで起きたことを、俺は今でも夢だと思いたい。レストランに現れたナミの母親は、うちの母に向かってこう言い放った。「うちは名門なので、中学までしか出てない人は家族とは認めません」。“普通の会社員”とだけ答えた母は、その場で黙って頭を下げた。俺は何も言えなかった。帰り際、俺の婚約者の母親が口にしたひとことが、頭から離れない。…

母さん、俺、ナミと結婚することになったんだ——その電話のあと、両家の顔合わせで起きたことを、俺は今でも夢だと思いたい。レストランに現れたナミの母親は、うちの母に向かってこう言い放った。「うちは名門なので、中学までしか出てない人は家族とは認めません」。“普通の会社員”とだけ答えた母は、その場で黙って頭を下げた。俺は何も言えなかった。帰り際、俺の婚約者の母親が口にしたひとことが、頭から離れない。...

母さん、俺、ナミと結婚することになったんだ。
え、そうなの?ああ、昨日プロポーズしたんだ。ナミも受け入れてくれて、婚約したんだよ。
へえ、そうなんだ。あんたが結婚するなんてね。なんだか変な感じだわ。私の中じゃ、ついこの間までランドセル背負ってたんだもの。
いや、さすがにそれはないって。俺との思い出がまるでないみたいじゃん。
そんなことないわよ。でも、それだけあっという間だったってことよ。
まあ、本当に怒涛の日々だったからな。
うん、そうね。お父さんもきっと天国で喜んでくれてるわよ。
そうだといいんだけどな。
絶対にそうよ。あの人は息子の幸せを、自分のことみたいに喜べる人だったから。その顔が目に浮かぶわ。
それでさ、両家の顔合わせとかしなきゃいけないんだ。
そうね。ちゃんとした服を買っておかないとね。
いや、母さんそういうの山ほど持ってるだろ。
だめよ。あんたに恥をかかせないように、きちんとした服を着ないとね。
それでさ、ひとつ頼みがあるんだけど。
何?
母さんの仕事の話は、なしにしてもらっていい?聞かれても、適当にごまかしといてくれないかな。やっぱり、母さんの仕事が知られるのは嫌なんだ。
ごめんな。俺のしょうもないプライドのせいで。
いいのよ。そんなこと気にしないで。あんたが私のせいで辛い思いをしてきたことは、ちゃんと分かってるから。
母さんが悪いわけじゃないんだ。
私のこと、ナミさんも知らないのよね。
ああ、まだ話してないと思ってる。
そうね。奥さんになるんだから、ちゃんと話したほうがいいわよ。
あと、もうひとつ話しておきたいことがあるんだ。
何?
向こうの家ってさ、ナミしか子供がいないんだって。うちと一緒だろ。でも、なんか血筋とかそういうのを気にしてるみたいで、結婚するなら養子に入らないとダメなんだって。
ああ、そういうこと。
まだ正式に向こうのご両親から言われたわけじゃないんだ。でも、ナミはそういう話を聞かされてたんだって。
だから、多分、養子になるかどうかは聞かれると思うんだ。母さん的にどうかな?
私は全然気にしてないわよ。苗字がどうなろうと、あんたはあんたで、私の大切な息子よ。それが変わらないなら、他はどうでもいいわ。それよりも、あんたが幸せになれないほうが嫌よ。
だから、あんたがナミさんと一緒になれるなら、養子でも何でも気にしないからね。
本当?
ええ、そこは気にしないでいいわよ。
ありがとう。息子らしいこと、何もできなかったけど。
あら、もう息子をやめるつもりなの?それは困ったわね。
違うって。後継ぎとか、そういうことだよ。
そんなこと、あんたが考えることじゃないわ。私のことなんか気にせずに、幸せになりなさい。それが私のいちばんの望みだから。
ありがとう。本当に、母さんの息子でよかったよ。
今度、ナミさんも連れてきて、一緒にご飯でも食べましょう。
ああ、必ず連れてくるよ。

二週間後。
初めまして。ナミの母の日高ミホです。
どうも、初めまして。ヨシの母の立花トコです。
急な連絡ですみませんね。
いえいえ、全然気にしないでください。ヨシから私に話があると聞きましたが、何でしょうか?
いいえ。まずは、娘を嫁に出してくれることを受け入れてくれたことへのお礼をお伝えしたくて。
ああ、そのことですか。お気遣いありがとうございます。こちらとしては、まったく問題ありませんでしたので、わざわざお礼なんて良かったんですよ。
ごめんなさいね。うちって、それなりに名家でして、この血筋を絶やすのは良くないって、姑から口酸っぱく言われてたんですよ。
そうだったんですね。でも、本当にヨシさんって素晴らしい人ですよね。有名な大学に進学して、今は大手企業の営業マンですから。こんな素晴らしい人が娘を娶ってくれるなんて、本当に嬉しいことなんですよ。
ありがとうございます。少し頭でっかちなところもありますけど、性格は優しい子なので。
そういえば、ナミさんも同じ大学を卒業されてるんですよね。二人は大学のゼミで知り合って、仲良くなったと言ってましたよ。
そう、そう。うちの家系って、みんな名門出身者ばかりなんですよ。私も関西の方の大学を卒業してて。
ええ、立派な方たちばかりで。ナミにもその辺は厳しく言って、しっかりと勉強させたので、無事に有名大学に進学してくれてよかったですよ。少しだけ肩の荷が下りた感じがしてたんです。
いろいろと重圧があるんですね。
そうなんです。あとは結婚だなって思ってたんですけど、まさかあんな素晴らしい人を連れてきてくれるなんて、もう本当に嬉しかったんですよ。
そう言っていただけると、本当にありがたいです。
ちなみに、母子家庭なんですよね。
そうです。夫を早くになくしまして。女一人で子供を大学に行かせるなんて、本当に素晴らしいことです。尊敬します。
いえいえ、そんな。お仕事は何をされてるんですか?
まあ、普通の会社員ですよ。
ちなみに、大学はどこを卒業されたんですか?
あ、いえ、私は大学には行ってなくて。
高卒ってことですか?
違います。中学までしか卒業してなかったんです。すみません、いろいろありまして。
うちは名門なので、そういうのは家族とは認めないんですよ。申し訳ないです。ただ、ヨシはちゃんといい大学を卒業してますので。
それはそうですけど。すみません。今後ともよろしくお願いします。
ちょっと、夫と話をしてみます。
話したところで、私の学歴は変わりませんが。
開き直らないでもらえますか?
そんなことしてません。息子には関係ないので、何卒よろしくお願いいたします。

一週間後。
母さん、向こうで顔合わせの日程が決まったよ。
そうなんだ。私も言っていいのかしら?
何を言ってんだよ。当たり前だろ。
一応、来月の土日にしようって話になったんだけど、休みは取れる?
ええ、それは問題ないと思うわ。
それじゃあ、休みが取れたら連絡して。向こうのお母さんがレストランを予約してくれるみたいだから。
うん、分かった。

一ヶ月後。
あら、トモさん、どこに行っちゃったの?私がお手洗いから帰ったら、姿が見えなくなってるけど。
私の食事は終わったので、帰らせてもらいます。
もしかして、本当に私が出したカップ麺を食べ切ったの?随分と面白いことをするのね。
そりゃ出されたものですから、美味しくいただきましたよ。
こんな高級レストランで、あんな粗末なご飯を平気で食べられるなんて。やっぱり貧乏人はすごいわね。私もつい、あなたを見て笑っちゃったわ。結婚の挨拶に、一人だけ間違いなく貧乏人が来てるわってね。
あのカップ麺を、粗末なご飯だと言ってるんですか?
そりゃそうでしょう。カップ麺なんて貧乏食でしょ。あんなものを食べる人間の気が知れないわ。
じゃあ、なんで持ってたんですか。
それは…。
そうか。カップ麺はどうした?
それが、バカみたいに食べてたのよ。
本当か?低学歴の貧乏人ってのは、プライドもねえんだな。そんな風にだけはなりたくないな。
本当、本当。ちなみに、あいつが食ってるところの写真があるけど、見たい?
送ってくれ。
分かった。あんまり声出して笑わないようにね。
おい、なんだこれは?
何よ、あの女が美味しそうにカップ麺を食べてるところの写真じゃない?
なんか、生成AIとかで作ったのか?
母の仕事ですか?
そうだよ。これが母の仕事なんだ。

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