「お母さん、もうあなたとの同居は限界です。荷物をまとめて出て行ってください」——娘が放ったその一言で、私は56歳にして家を追い出されることになった。数日前、ぎっくり腰で動けなくなった私に、娘は「超迷惑でした」と笑顔で言い放った。「将来的な介護なんて真っ平です」と。夫も「正直、清々するわ」と賛成し、二人は自由を祝うパーティーを開いた。私は実家も売ってしまい、行く場所もない。仕方なく、私は彼らに…

「お母さん、もうあなたとの同居は限界です。荷物をまとめて出て行ってください」——娘が放ったその一言で、私は56歳にして家を追い出されることになった。数日前、ぎっくり腰で動けなくなった私に、娘は「超迷惑でした」と笑顔で言い放った。「将来的な介護なんて真っ平です」と。夫も「正直、清々するわ」と賛成し、二人は自由を祝うパーティーを開いた。私は実家も売ってしまい、行く場所もない。仕方なく、私は彼らに...

お母さん、もうあなたとの同居は限界です。

え、さなさん急にどうしたの? いきなりそんなこと言われても。

お母さんの介護とかしたくないですし、同居は解消します。だから荷物をまとめて出て行ってください。

だから急にどうしたの? そもそも介護って、私はまだ56よ。体だって健康だし。

将来的な話ですよ、それは。それに、この間のぎっくり腰。あの時に痛感しました。こんな年寄りの世話なんて、もう真っ平だって。

いやいやいや。いくらなんでもそれは言いすぎじゃない? 確かに、ぎっくり腰の時は色々と手間を取らせたけど。

取らせたってレベルじゃないですよ。ちょっと動くだけで腰が痛いって騒いで、悶絶してるだけだったじゃないですか。家事もできずに寝てるだけだし、はっきり言って超迷惑でした。

そんなこと言われても……。

あの時確信したんです。数日のぎっくり腰でもあの迷惑さ。本格的に介護なんて始まったら、私の精神が持ちません。というわけで、我が家から出て行ってください。できれば今すぐに。

だから本当にちょっと待ってって。家から追い出されたら、行く所がないんだって。

お母さんには実家があるじゃないですか。

あなたに言われて売っちゃったわよ。あれ?

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そうでしたっけ? そもそも、この同居だってあなたの提案だったんじゃないの? だとしても、です。それに、これからは二人の生活を邪魔する人もいなくなるんですから、むしろ喜ぶべきですよ。

え、というか、私が出て行って本当に大丈夫なの? どういう意味ですか?

だって、あなたも生活力には不安があるって言ってたじゃない。

問題ありません。私はちゃんとやりますから。

そう言うけどね。

いいですか、お母さん。私、もう大人です。夫の管理は妻の仕事ですから、これからは私がしっかりやります。

……まあ、確かに。そうね。

ほら、わかったでしょ。じゃあ、そういうことなので。早速、荷物をまとめてください。

お母さん、出て行くってよ。

え、本当に? 何を言い出したんだ、あの人は。

わかんねえけどよ。なんか、うちに居候してる場合じゃないって言われたんだと。まあ、二人の邪魔をするなってことだろうよ。

ふうん。まあ、確かに、あの人いると色々とうるさかったからな。

だよな。正直、清々するわ。

でも、家事をやってくれる人がいなくなるのは痛いよな。

それは仕方ないだろ。俺たちも大人なんだし、自分たちでやるしかないんだよ。

まあ、そうだね。そういや、お袋、どこに行くんだろうな。

さあな。実家は売ったって言ってたから、親戚の家とかに転がり込むんじゃねーの。

ふーん。まあ、私たちには関係ないか。なあ、今日は酒でも飲もうぜ。自由になった記念日だ。

いいね。私も友達呼んで、盛大にパーティーしちゃおうかな。

おいおい、毎日はやめろよ。

大丈夫だって。今日だけだよ、今日だけ。

数週間後。

もう無理。我慢の限界です。

あらあら。どうしたの、ユウト君。何だかデジャブを感じるわね。

……何の話ですか、それ。

あ、いや、こっちの話よ。それで、サナさんはどうしたの? お袋が出て行った後、あいつ、毎日のように友達呼んで酒飲んで騒いでるんですよ。夜遅くまでうるさいし、後片付けもしないし。おかげで仕事どころじゃないんだ。

それは大変ね。でも、あなたたち、週末だけってルールにしてたんじゃないの? それが、お袋が決めたルールだからって、あいつが無視しちゃって。結局、家事も全部お袋任せだったから、今になってそのツケが回ってきてるんですよ。

ふうん。なるほどね。

それで、悪いんだけど、母さんの方から言ってやってくれないか?

あいつをちょっと叱ってほしいんだ。

私はもうあの子の保護者じゃないからね。自分たちの問題でしょ。

でも、母さんにしか頼めないんだよ。お願いします。

ふうん。……わかったわよ。一回だけだからね。

ありがとう。助かるよ。

数日後。

あの野郎、また夜中まで騒ぎやがって。もう我慢ならねえ。おい、母さん! 何とか言ってくれよ! あら、私のせいなの? 違う!

そうじゃなくて! あいつ、今日も酒飲んで、ソファでリビングに吐き散らかしてるんだよ! 見てられないだろ! まあまあ。で、あなたはどうしたいのよ。

どうしたいって……。

自分で何とかする気があるの?

それとも、このままずっと私に頼りたいの? それは……。

散々私に頼ってたくせに、必要なくなったら追い出す。そして、今度はそのツケが回ってきた。

母さん、それは言いすぎだって……。

私はもうあなたたちの世話はしないって言ったでしょ。自分のことは自分でしなさい。私も、もうこれからは自由に生きるから。

そう言うと、母は立ち上がり、コートを手に取った。

ちょ、どこ行くんだよ! 外は寒いし、コンビニにでも行ってくるわ。あとはそうね、実家を売ったお金も、もうほとんど残ってないけどね。

は? それってどういうことだよ!

だから、そういうことよ。いい? 子供は親を頼りにしちゃダメ。あなたたちはもう大人なんだから。……まあ、こんな感じで私は崖から突き落とされたってわけよ、サナさんにね。

母はそう言って、ひょいと肩をすくめた。

……それ、言い方違くない? 何が? 「かわいい子には旅をさせよ」っていうけど、これは旅じゃなくて、ただの投げっぱなしだと思うんだけど。

あら、そうかしら。私は、ちゃんとあなたたちに自分の人生を歩ませてあげたのよ。それのどこがいけないの?

……はあ、わかりましたよ。わかりました。

素直でよろしい。じゃあ、私は行くわ。あなたたちも、後片付けをしたら、ちゃんと寝なさいよ。

母はそれだけ言い残すと、玄関から出て行った。

翌朝、ユウトがソファで目を覚ますと、リビングのテーブルに一枚の封筒が置いてあった。

何だこれ……。銀行の通帳? それにメモ? 封筒を開けると、そこには銀行の通帳と、母からの手紙が入っていた。

「ユウトへ。この通帳には、私が貯めてきたお金が入っています。実家を売ったお金とは別に、こっそり貯めてたの。同居してた時は生活費として入れてもらってて、ありがとう。老後は、これで何とかするから、心配しないでください。それに、あなたたち二人には、申し訳なかったと思ってる。もっと早く、ちゃんと自立させるべきだった。ごめんね。そして、ありがとう。母より」

ユウトは通帳を手に取り、呆然とした。

「……母さん、これ、このくらいの額、入ってるぞ。まさか、こんなに貯めてたのか……」

サナも、リビングに降りてきて、手紙を読んだ。

「お母さん……。私たち、色々と心配かけてたんだね」

「……ああ。俺たち、大人ぶってたけど、結局、親に頼ってばっかりだったんだな」

ユウトが電話をかけると、母は数回のコールの後、出た。

「もしもし? ユウト?

どうしたの、朝から」

「……母さん、通帳、見たよ。こんなに貯めてくれてたんだな。ありがとう。俺たち、ちゃんとやるからさ。だから、どこかで元気にやってくれよ。私たちのことは、心配すんな」

電話の向こうで、母が少し息をのむ気配がした。

「……そう。ちゃんと、そう言えるようになったのね。嬉しいわ。じゃあね、元気で」

「ああ、母さんもな」

電話を切ると、ユウトはサナの方を向いた。

「なあ、サナ。これからは、ちゃんと自分たちでやっていこう。酒もほどほどにしてさ。家事も、分担しよう。友達呼ぶなら、一日一回までにしよう」

「……わかった。私が悪かったよ。頼ってばかりでごめん。これからは、二人で力を合わせて、やっていこう」

ユウトはうなずきながらも、どこか照れくさそうに笑った。

「……それにしても、母さんのあの崖から突き落とす発言、本当に山をかけてたんだな」

サナが首をかしげる。

「あれは『思いきって突き放す』って意味であって、文字通り崖から落とすって意味じゃないよな? 」

「え? そうなの?

」

「……だから、そうだって。お前、本気で心配してたのかよ。まあ、結果的に、突き放したのは正解だったのかもしれねーけどな」

ユウトが手に持っていた封筒を、テーブルの上に置く。

「さて、と。……今日から、俺たちは本当の意味で大人になるってわけだな」

サナが小さくうなずく。

「そうだね。お母さんに、ありがとうって伝えないとね。そして、私たちも、ちゃんと生きていかないと」

二人はそろって、玄関の外に広がる青い空を見上げた。母は今ごろ、どこで何をしているのだろう。自由になった喜びと、親へのかけがえのない感謝の気持ちが、二人の胸の中に静かに広がっていくのだった。