深夜0時、会社の非常階段でスマホが震えた。「美ゆ、また残業か?かずや。なんで私が残業してるか分かる?あんたが持ってきた契約の後始末よ」夫は次期社長。私はその妻。表面上は円満な私たちに、幼馴染みのアカが「離婚しろ」とLINEを送り続けていた。無視しても、無視しても、彼女は叫ぶ。「あんたは金目当てのクズ女よ」。結婚式当日、アカは本当に来た。ウェディングケーキにダイブして、号泣しながら暴れた。翌日…

深夜0時、会社の非常階段でスマホが震えた。「美ゆ、また残業か?かずや。なんで私が残業してるか分かる?あんたが持ってきた契約の後始末よ」夫は次期社長。私はその妻。表面上は円満な私たちに、幼馴染みのアカが「離婚しろ」とLINEを送り続けていた。無視しても、無視しても、彼女は叫ぶ。「あんたは金目当てのクズ女よ」。結婚式当日、アカは本当に来た。ウェディングケーキにダイブして、号泣しながら暴れた。翌日...

美ゆ、お前また残業してるのか? かずや。なんで私が残業してるか分かる? なんでって? この間あなたが持ってきた契約、あれの後始末に奔走してるからでしょ。 後始末って? あの契約は我が者にとっていい契約だっただろう。 表面上はね。でも実際には論外、話にならないわ。 そこまで言わなくてもいいだろう、かずや。あなた、また相手の話を鵜呑みにしたんでしょ。 いや、うちと提携を組みたいって話だろ。ちゃんと詳細も確認したぞ。 じゃあ、あの会社の昨年の業績は確認したの? してないけど、でも大幅な黒字だったはずだ。 黒字寸前、だけどね。うちに定型提携を頼んできたのは契約のため。それで一時しのぎでもしてなんとかしようってわけよ。 そうだったのか。 かずや。あなたは人を信じすぎよ。もちろん人を信じることは素敵なことだけど、次期社長として、もう少し疑うことも覚えないと。 悪い。 私はね、あなたの妻として支えていきたいと思ってる。でも、それにも限界があるってことは分かっておいて。 親父みたいなことを言うんだな。 お父さんと私は現実主義なのよ。 俺が理想家だって言いたいのか? そこが悪いとは言ってないでしょ。私とは違う視点で見れるのは素直に尊敬してる。 それは分かってるよ。けど金だけが全てじゃないだろう。会社経営だって、もっと人と人の関係を大事にしていいんじゃないか。 その気持ちも分かるけどね。いい顔するだけじゃ会社は経営できないと思うの。あなたの判断一つで社員の人生がかかってるんだから。 そうだな。気をつけるよ。 かずやは優秀なんだからさ。もっと自分に自信を持って。 お前は俺の母ちゃんか。 母ちゃんじゃなくて、妻よ。 いい奥さんが持てて、俺も嬉しいよ。 私も、あなたみたいないい旦那がいて幸せよ。まあ、ちょっと夢見がちすぎるけどね。 悪かったって。そういえば、なんだけどさ。 何? 今度の俺たちの結婚式、やるだろう。あ、仕事が忙しくて後回しにしてた。 それがあれ、アカも呼んでいいか? アカって、あなたの幼馴染みの? そうそう。あいつも祝辞を述べたいって連絡が来たんだよ。 ええ、私、あの人苦手なんだけど。なぜか目の敵にされてるし。 そう言わずに頼むよ。俺にとってアカは家族みたいなもんなんだ。 それは知ってるけど。 頼む。あ、かずやがそこまで言うなら、いいよ。 ありがとう。 けど、私が何か言われてたら、助けに来てよ。 分かってる。まあ、さすがのアカも、めでたい日に何かすることはないだろう。 だといいんだけどね。

数日後。 美ゆさん、あなたは本当に最低な女ね。 アカさん。いつも言ってますよね。何をよ。 LINEしてくるなら、せめて会話をしましょうって。 は? 何? どういうこと? あなたはいつも、一方的に話してくるじゃないですか。知ってます? LINEはコミュニケーションツールです。 コミュニケーションは取ってるでしょ? 取れてないから言ってるんですよ。私がかずやにふさわしくないとか、離婚しろとか、一方的に罵倒するのは会話じゃありません。 お黙りなさい。 お黙りって、どこのお嬢様ですか? 私はね、怒ってるのよ。 大体あなた、連絡してくる時はいつも怒ってませんか。私、知ってるんだから。 何をですか? あなた、金のためにかずやと結婚したんでしょ? はい? どういうことですか? あなたの母親、病気を患ってるらしいわね。 はあ。そうですけど。 その治療費は、かずやのご両親が払ってるんだって。 そうですね。 それが、かずやから聞いてるわ。あなたとかずやは、かずやのご両親のすすめで結婚したって。元々私がかずやの後輩として働いてたんで、面識はありましたけどね。 そんなことはどうでもいいの。かずやは次期社長ですからね。私にかずやを支えてほしいと、打診されたんです。 それってつまり、略奪結婚ってことじゃない? そんな大げさな物じゃないですけど。 これではっきりしたわね。 え? 何が? あんたは、かずやの遺産目当てで結婚するクズ女。私の白馬の王子様を奪ったゴミ女よ。 クズかゴミか、はっきりしてください。というか、白馬の王子様って何ですか? 知らないの? 女はね、白馬の王子様に迎えに来てほしいものなのよ。 人によると思いますけど。あと、会話してくださいって言いましたよね。私の疑問への返答が、白馬の王子様の話ですか? 白馬の王子様といえば、かずやに決まってるでしょ。 決まってるんだ。知らなかった。 私とかずやは、子供の頃からの幼馴染み。これはもう運命の赤い糸で結ばれてるってことよ。 その赤い糸、もう切れてませんか? かずやは私と結婚するんですから。 お黙りなさい、この泥棒猫。 にゃんにゃん。 ふざけてるの? 真面目です。 じゃあ、どういうことか説明してみなさいよ。 確かに、私の母の治療費を払ってもらっているのは事実です。お父さんたちから結婚の話を頂いた際、約束したんで。 ほら、見なさい。 ですが、治療費のためだけに結婚はしません。 あ、どういうこと? 好きでもない相手とは結婚しないってことです。治療費は事実ですが、かずやを好きだから結婚するんですよ。 この後に及んで、まだ減らず口を叩くのね。いいでしょう。 え、何が? かずやを助けるため、結婚式をめちゃくちゃにしてやるわ。 はい? 愛のない結婚なんて、私が壊してやるわ。覚悟しておきなさい。

結婚式当日。 かずやさん、ようやく落ち着いたよ。 そう。ああ、本当に最悪。ありえないでしょ。人の結婚式に乗り込んできて、号泣しながら暴れるとか。 それはまあ、アカもかわいそう。 金目当てのクズ女に騙されて、とか言いながら泣くわ。挙句の果てに、ウェディングケーキにダイブだもんな。 ケーキも驚いたでしょうね。 ケーキ入場どころか、ケーキダイブだもの。 まあまあ、アカにも事情があったんだし。 以上。今回の式には取引先の重役も来てたのよ。 それはまあ、式をやり直すにしても、まずは謝罪に行かないと。旦那の幼馴染みがケーキにダイブして、すみませんって。 考えただけでも頭痛くなってきた。

美ゆ、それについてなんだけど。 何? 俺たち、離婚しよう。 はい? 何言ってんの? アカの話を聞いて、俺が間違ってたって気づいたんだ。 確かに間違ってるわね。私たち、まだ結婚してないから、離婚とかないし。 そこじゃない。お前との結婚についてだ。 何が? 説明してくれる? 美ゆ。お前、治療費のために俺と結婚するんだろ? その話か。アカさんね、全部教えてくれたんだ。 あのね、アカさんにも言ったけど、私は別にそのためだけに結婚するんじゃないから。 でも、実際治療費は出してもらってるけど、好きでもない男と結婚とかしません。 美ゆ、尊敬してるって言ったでしょ。それでも、ごめん。 雪、ごめんって何? まさか本気で結婚を取りやめにする気? アカの今日の言動を見て思ったんだ。俺を心から愛してくれてるのは、アカだって。 いや、まあ、白馬の王子様らしいからそうでしょうけど。 元々アカとは、結婚する約束だったんだ。 え、そうなの? ああ。だが、お前と結婚するって決めたんだ。それは本当だ。 じゃあ、何で今さらそんな話をするの? アカの気持ちを無駄にできないと思ったんだ。あいつの涙を見て、俺が間違ってたって気づいた。 つまり、あなたはアカさんと結婚したいの? そういうことになる、たぶん。 たぶん、じゃないでしょ。はっきりしてよ。 悪い。やっぱり俺、アカと結婚するわ。 はあ。まあ、そういうことなら、仕方ないわね。 え? 怒らないの? 怒ってるわよ。でも、無理に結婚しても、お互い不幸になるだけだしね。 それは、そうかもしれないけど。 あなたがそこまで言うなら、私は身を引くわ。かずや、あなたの幸せを祈ってる。 美ゆ…。 ただし、これで終わりだと思わないでね。私が選ばれた意味。それを身を持って味わって。 え、どういうこと? さあね。じゃあ、元気で。美ゆ、待ってくれ!

数日後。 どう? 美ゆさん。真実の愛の勝利よ。 はあ。真実の愛って何ですか、それ? 私からかずやを奪ったんだから、当然よ。 そうですか。てか、この状況でその余裕、何? この状況が、その答えだと思うけど。 この状況? 俺が次期社長候補から外れたことか? あなた、優秀ではあるけど、理想ばかり追いかけるから、現実を見られない。そんな社長に、会社を任せられるわけがないでしょ。 それは、アカの言い分か? 違うわよ。私の意見。 美ゆ、お前、まさか…。 ええ、そうよ。私はあなたのことを、ただの後継者候補として見てたわけじゃない。あなたが次期社長になるから、結婚しようと思ったの。でも、あなたがその座から外れたなら、私が結婚する意味はないわ。 何て言ったんだ、今? 略奪婚も何も、私はただ、自分に有利な相手を選んだだけ。あなたが社長の座を失ったなら、私の夫としての価値はないのよ。 最初から、そういうことだったのか? そうよ。あなたがアカさんと結婚しようがしまいが、私には関係ないわ。私は自分が一番になる方法を選ぶだけ。 美ゆ、お前って、本当に…。 何よ、気持ち悪いわね、その顔。まあ、あなたにはアカさんがいるでしょ。あの人、本気であなたを想ってるみたいよ。せいぜい、あの人のこと、大事にしなさいよ。 ふざけるな! ああ、怖い怖い。じゃあね、かずや。私、これから新しい男を探すから。 待て、美ゆ! 何よ、まだ何か用? お前、最初からこうなること分かってて、俺と結婚しようとしたのか? そんなこと、今さら気にすること? そりゃあ、あなたが次期社長じゃなかったら、そもそも話もしてなかったわね。でも、あなたが私に夢中になってくれたから、話は早かったのよ。 この、裏切り者め! 裏切り者? 笑わせないでよ。私はあなたに何も約束してないわ。あなたが勝手に期待して、勝手に裏切られた気になってるだけよ。 よくも、そんなことが言えたな。 あら、怒らないでよ。あなたの方こそ、アカさんと結婚するって言って、私を振ったくせに。お互い様でしょ。 くそっ…。

かずやはその場で崩れ落ちた。アカのことを、心から愛してると思ってた。だが、美ゆの一言で、自分の何もかもが間違ってたことに気づいた。彼を支えようとしていたのは、美ゆの方だったのかもしれない。それなのに、自分はアカの言葉に惑わされて、美ゆを傷つけてしまった。 かずやは、深い後悔に苛まれながらも、時は戻らない。 そして、アカの元へと向かった。 アカ、話がある。 かずや、どうしたの? そんなに辛そうな顔して。 お前と結婚するって言ったけど、やっぱり、俺は…。 何? かずや、まさか、考え直したとか言うんじゃないわよね? ああ。すまない。俺は、やっぱりお前とは結婚できないと思った。 はあ? 何言ってるの? 私たち、運命の赤い糸で結ばれてるんでしょ? アカ、それはもう言うな。俺が間違ってたんだ。アカと結婚するって決めたのは、俺の方なのに、美ゆの言葉を聞いて、何だか自分が馬鹿みたいに思えてきたんだ。 美ゆの言葉? あの女が何か言ったの? 美ゆは結婚しなくていいって言ったんだ。俺に価値がないからって。 何ですって? あの女、私のことも、かずやのことも、何も分かってないわ! その言葉を聞いて、俺はやっと気づいたんだ。アカは、俺のことが好きなんじゃない。俺を支えてくれる人じゃない。ただ、俺を自分のものにしたいだけなんだって。 何言ってるのよ! 私は、あなたのことを…。 もういい。アカ、俺たち、終わりにしよう。 かずや! 待って! ごめん、アカ。今までありがとう。お前のことは、友達として、ずっと大切に思ってる。だが、結婚はできない。 かずやは、アカに背を向けて、その場を去った。アカは、その後ろ姿を、呆然と見つめることしかできなかった。 数日後、かずやの元に、一通の手紙が届いた。 「かずやへ。お元気ですか。私は、あなたと離婚して、正解だったと思っています。あなたは、本当の愛に気づくべきです。あなたを心から思ってくれる人を、大事にしてください。美ゆ」 かずやは、その手紙を握りしめ、何度も読み返した。 美ゆ…。俺は、お前に何てひどいことをしたんだ。 かずやは、美ゆに会いに行こうと思った。しかし、美ゆの連絡先は、既に変わっていた。 こうして、かずやは、本当に大切なものを、失ってしまったのだった。

それから、かずやは、会社を辞め、地元に戻った。そして、自分の小さな会社を立ち上げた。理想ばかり追いかけるのではなく、現実を見据えた経営を心がけた。アカという過去の過ちを、繰り返さないために。 そして、数年後。かずやは、会社を大きく育て、立派な経営者になっていた。ある日、街で美ゆにそっくりな女性を見かけた。 あれ、美ゆ…? 思わず声をかけると、その女性は振り向いた。 はい? あ、すみません。人違いでした。 かずやは、そう言って、その場を去ろうとした。 あの、ちょっと待って。 その女性に呼び止められ、かずやは足を止めた。 何でしょう? もしかして、かずやさんですか? え? 私、美ゆです。こんなところで、会うなんて、奇跡ですね。 かずやは、言葉を失った。美ゆは、幸せそうに笑っていた。 お元気そうで、何よりです。 あなたも、ね。 かずやは、何と言っていいのか分からなかった。今さら、何を言っても、美ゆを傷つけてしまったことには変わらない。 あの時は、すみませんでした。 急に、かずやは謝った。 何を言ってるんですか? あなたは、間違ってないですよ。 いや、俺が、アカの言葉に惑わされて、あなたを傷つけてしまった。 もう、いいですよ。自分でも、あの時は、何を言ってるのか分かってなかったでしょう。 でも、 かずやは、何かを言いかけたが、言葉を飲み込んだ。 かずやさん、これからも、お元気で。 美ゆは、そう言って、かずやの前から去っていった。 かずやは、その背中を、いつまでも見つめていた。 自分の愚かさが、胸に痛んだ。 あの時、美ゆの言葉を、信じていれば。 そう思っても、もう遅い。 かずやは、静かに目を閉じた。そして、自分を変えてくれた美ゆに、心の中で、ありがとうと呟いた。 彼は、これからも、自分らしく、歩んでいくのだろう。 美ゆの幸せを願いながら。

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