美ゆ、お前また残業してるのか?かずや。なんで私が残業してるかわかる?なんでって?この間あなたが持ってきた契約、あれの後始末に奔走してるからでしょ。
後始末って?あの契約は我が者にとっていい契約だっただろう。
表面上はね。でも実際には論外、話にならない。
そこまで言わなくても。かずや、あなたまた相手の話を鵜呑みにしたでしょう。
いや、うちと携を組みたいって話だろ。ちゃんと詳細も確認したぞ。
じゃああの会社の昨年の業績は確認した?してないけど、でも大幅な黒字だったはずだ。
黒字寸前だけどね。うちに定型携を頼んできたのは契約のため。それで一時しのぎでもしてなんとかしようってなのよ。
そうだったのか。
かずや。あなたは人を信じすぎよ。もちろん人を信じることは素敵なことだけど、次期社長としてもう少し疑うことも覚えないと。
悪い。
私はね、あなたの妻として支えていきたいって思ってるけど、それにも限界があるってのは分かっておいて。
親父みたいなことを言うんだな。
お父さんと私は現実主義だもの。
俺が理想家だって言いたいのか?
そこが悪いとは言ってないでしょう。私とは違う視点で見れるのは素直に尊敬してる。
それは分かってるよ。
けど金だけが全てじゃないだろう。会社経営だってもっと人と人の関係を大事にして。
その気持ちも分かるけどね。いい顔するだけじゃ会社は経営できないと思うの。あなたの判断ひとつに社員の人生がかかってるんだから。
そうだな。気をつけるよ。
かずやは優秀なんだからさ。もっと自分に自信を持って。
お前は俺の母ちゃんか。
母ちゃんじゃなくて妻ね。
いい奥さんが持てて俺も嬉しいよ。
私もあなたみたいないい旦那がいて幸せよ。まあ、ちょっと夢見がちすぎるけど。
悪かったって。そういえばなんだけどさ。
何?
今度の俺たちの結婚式やるだろう。
あ、仕事が忙しくて後回しにしてた。
それがあれ、アカも呼んでいいか?
アカってあなたの幼馴染みの?
そうそう。あいつも参列したいって連絡が来たんだよ。
ええ、私あの人苦手なんだけど。なぜか目の敵にされてるし。
そう言わずに頼むよ。俺にとってアカは家族みたいなもんなんだ。
それは知ってるけど。
頼む。
あ、かずやがそこまで言うならいいよ。
ありがとう。
けど私が何か言われてたら助けに来てよ。
分かってる。まあ、さすがのアカもめでたい日に何かすることはないだろう。
だといいんだけどね。
数日後。
みゆさん、あなたは本当に最低な女よ。
アカさん。
いつも言ってますよね。
何をよ。
LINEしてくるなら、せめて会話をしましょうって。
は?何?どういうこと?
アカさんはいつも一方的なんですよ。知ってます?LINEはコミュニケーションツールです。
コミュニケーションは取ってるでしょ?
取れてないから言ってるんですよ。私がかずやにふさわしくないとか、離婚しろとか、一方的に罵倒するのは会話じゃありません。
お黙り。
お黙りって、どこのお嬢様ですか?私はね、怒ってるのよ。大体アカさんが連絡してくる時は怒ってません。私、知ってるんだから。
何をですか?
あなた、金のためにかずやと結婚したんでしょ?
はい。どういうことですか?
あなたの母親、病を患ってるらしいわね。
はあ。そうですけど。
その治療費はかずやのご両親が払ってるんだって。
そうですね。
それが、かずやから聞いてるわ。あなたはかずやのご両親の勧めで結婚したって。元々私がかずやの後輩として働いてたんで、面識はありましたけどね。
そんなことはどうでもいいの。かずやは次期社長ですからね。私にかずやを支えてほしいと打診されたんです。
それってつまり、略奪結婚ってことじゃない?
そんな大それたものじゃないですけど。
これではっきりしたわね。
え?何が?
あんたはかずやの遺産目当てで結婚するクズ女。私の白馬の王子様を奪ったゴミ女よ。
クズかゴミかはっきりしてください。というか、白馬の王子様って、知らないの?女はね、白馬の王子様に迎えに来てほしいものなのよ。
人によると思いますけど。あと、会話してくださいって言いましたよね。私の疑問への返答です。
白馬の王子様といえばかずやに決まってるでしょ。
決まってるんだ。知らなかった。
私とかずやは子供の頃からの幼馴染み。これはもう運命の赤い糸で結ばれてるってことよ。
その赤い糸、もう切れてません?かずやは私と結婚するんですし。
お黙り、この泥棒猫。
にゃんにゃん。ふざけてんの?
クソ真面目です。
じゃあどういうことか説明してみなさいよ。
確かに私の母の治療費を払ってもらっているのは事実です。お父さんたちから結婚の話をもらった際、約束したんで。
ほら見なさい。ですが、治療費のためだけに結婚はしません。
あ、どういうこと?
好きでもない相手とは結婚しないってことです。治療費は事実ですが、かずやを好きだから結婚するんですよ。
この後に及んでまだ減らず口を叩くのね。いいでしょう。
え、何が?
かずやを助けるため、結婚式をめちゃくちゃにしてやるわ。
はい。
愛のない結婚なんて、私が壊してやるわ。覚悟しておきなさい。
結婚式当日。
かずやさんはようやく落ち着いたよ。
そう。ああ、本当に最悪。ありえないでしょ。人の結婚式に乗り込んできて号泣しながら暴れるとか。
それはまあ、アカがかわいそう。金目当てのクズ女に騙されたとか言いながら泣くわ。はめくるわ。そこからウェディングケーキにだいぶ突っ込んだもんな。
ケーキも驚いたでしょうね。ケーキ入場どころか、ケーキダイブだもの。
まあまあ、アカにも事情があったんだし。
以上。今回の式は取引先の重役も来てたのよ。
それはまあ、式をやり直すにしても、まずは謝罪に行かないと。旦那の幼馴染みがケーキにダイブしてすみませんって。
考えただけでも頭痛くなってきた。
美ゆ、それについてなんだけど。
何?
俺たち、離婚しよう。
はい。
何言ってんの?アカの話を聞いて、俺が間違ってたって気づいたんだ。
確かに間違ってるわね。私たちまだ結婚してないから、離婚とかないし。
そこじゃない。お前との結婚についてだ。
何が。説明してくれる?
美ゆ。お前、治療費のために俺と結婚するんだろ?
その話か。アカさんね、全部教えてくれた。
あのね、アカさんにも言ったけど、私は別にそのためだけに結婚するんじゃないから。でも実際、治療費は出してもらってるけど、好きでもない男と結婚とかしません。美ゆ、尊敬してるって言ったでしょ。それでも。
ごめん。
雪、ごめんって何?まさか本気で結婚を取りやめにする気?
アカの今日の言動を見て思ったんだ。俺を心から愛してくれてるのはアカだって。
いや、まあ、白馬の王子様らしいからそうでしょうけど。元々アカとは結婚する約束だったんだ。
え、そうなの?
ああ。だが、俺はお前を選んだんだ。
選んだ?
そうだ。お前と結婚するために、アカとの約束を破ったんだ。
…そう。
だから、申し訳ないけど、結婚はなかったことにしてほしい。
かずや。あなた、本気で言ってるの?
ああ。ごめん。
はあ。
何だ、そのため息は。
いえ、アカさんが言ってた通りだなと思って。
何て言ってたんだ?
私がかずやを好きじゃないって。治療費のためだけに結婚するって。全部当たってるわね。
美ゆ…。
でもね、ひとつだけ間違ってるわ。私は確かにあなたと治療費のこともあったけど、それだけじゃない。私はあなたのことが好きよ。信じられないなら、それでもいい。でも、私の気持ちを無視して、アカさんの言葉だけで判断するなんて、私は許さないから。
かずや、私はあなたと結婚したい。愛のない結婚でも、あなたと一緒にいたい。それが私の本心よ。もしあなたがそれでも私を信じられないなら、それでもいい。でも、私はあなたを諦めないから。
美ゆ…本当に、俺でいいのか?
いいも何も、俺はお前の夫になるんだろ?なあ、美ゆ。もう一度、俺と結婚してくれるか?
…バカね。こっちからお願いしたいくらいよ。
じゃあ、決まりだな。
でも、かずや。ひとつだけ、わかっておいて。
何だ?
もし私を信じられないなら、それはそれでいい。でも、私を傷つけるようなことをしたら、今度こそ許さないから。
ああ、分かってる。
結婚式の後、二人は改めてやり直すことを決めた。アカの暴言も、周囲の噂も、二人の絆を壊すことはできなかった。かずやはアカに正式に結婚を報告し、美ゆもまた、自分の気持ちに正直になることを選んだのだった。
数日後。
どう?美ゆさん。真実の愛の勝利よ。
はあ。真実の愛って何ですか、それ?
私からかずやを奪ったんだから、当然よ。
そうですか。てか、この状況でその余裕、何?
この状況がその答えだと思うけど。
この状況?俺が次期社長候補から外れたことか?
あなたは優秀ではあるけど、理想が高すぎるのよ。現実を見なさいって言ってるの。
はあ?何言ってんの?
かずやはあなたに騙されてるんだから、私が目を覚まさせてやるって言ってるのよ。今度こそ、本当に結婚をぶち壊してやる。
アカさん、本気で言ってるんですか?
もちろんよ。私がどれだけかずやを想ってるか、思い知らせてやるんだから。
美ゆ、もういい。
かずや…。
アカ、もう終わりにしよう。俺は美ゆを愛してる。これからも、ずっと。お前の気持ちは嬉しいけど、俺の気持ちは変わらない。
かずや…どうして?私のほうがずっとお前を愛してるのに!
それは違うな。お前のは執着だよ。俺の幸せを願ってくれるのが、本当の愛じゃないのか?
そんなの…そんなの、ずるいわよ。
アカ、お前にも幸せになってほしい。だから、もう過去を手放してくれ。
…分かったわ。でも、ひとつだけ、覚えておきなさい。私は絶対に、あなたたちを許さないから。
アカ、それは…
行くわ。
アカが去った後、美ゆはかずやの隣に立った。
大丈夫?
ああ。ありがとう、美ゆ。
私は何もしてないわよ。
そんなことないさ。お前がいてくれたから、俺は自分自身を信じられたんだ。
かずや…。
昔みたいに、あだ名で呼んでいいか?
…ミユって、ずっと呼んでみたかったんだ。
おかしなやつね。でも、いいわよ。
これからも、ずっと一緒だぞ。
ええ。あなたの愛を疑わないわ。
二人は手を繋ぎ、静かに微笑み合った。嵐のような日々も、ようやく収まったのだった。
