幼なじみが私の結婚式のケーキに突っ込んできた瞬間、会場が静まり返った。「この泥棒猫!」と叫ぶアカの声だけが、妙に響いていた。数日前、彼女は私に「かずやを返せ」とLINEで何十通も送ってきていた。私はただ、夫になる人を愛していただけなのに。なんでこんなことになったのか、頭が真っ白で。それでも、指輪をはめた手を見て、笑うしかなかった。あの日、私は決めていた。この結婚を守ると。

幼なじみが私の結婚式のケーキに突っ込んできた瞬間、会場が静まり返った。「この泥棒猫!」と叫ぶアカの声だけが、妙に響いていた。数日前、彼女は私に「かずやを返せ」とLINEで何十通も送ってきていた。私はただ、夫になる人を愛していただけなのに。なんでこんなことになったのか、頭が真っ白で。それでも、指輪をはめた手を見て、笑うしかなかった。あの日、私は決めていた。この結婚を守ると。

美ゆ、お前また残業してるのか?かずや。なんで私が残業してるかわかる?なんでって?この間あなたが持ってきた契約、あれの後始末に奔走してるからでしょ。

後始末って?あの契約は我が者にとっていい契約だっただろう。

表面上はね。でも実際には論外、話にならない。

そこまで言わなくても。かずや、あなたまた相手の話を鵜呑みにしたでしょう。

いや、うちと携を組みたいって話だろ。ちゃんと詳細も確認したぞ。

じゃああの会社の昨年の業績は確認した?してないけど、でも大幅な黒字だったはずだ。

黒字寸前だけどね。うちに定型携を頼んできたのは契約のため。それで一時しのぎでもしてなんとかしようってなのよ。

そうだったのか。

かずや。あなたは人を信じすぎよ。もちろん人を信じることは素敵なことだけど、次期社長としてもう少し疑うことも覚えないと。

悪い。

私はね、あなたの妻として支えていきたいって思ってるけど、それにも限界があるってのは分かっておいて。

親父みたいなことを言うんだな。

お父さんと私は現実主義だもの。

俺が理想家だって言いたいのか?

そこが悪いとは言ってないでしょう。私とは違う視点で見れるのは素直に尊敬してる。

それは分かってるよ。

けど金だけが全てじゃないだろう。会社経営だってもっと人と人の関係を大事にして。

その気持ちも分かるけどね。いい顔するだけじゃ会社は経営できないと思うの。あなたの判断ひとつに社員の人生がかかってるんだから。

そうだな。気をつけるよ。

かずやは優秀なんだからさ。もっと自分に自信を持って。

お前は俺の母ちゃんか。

母ちゃんじゃなくて妻ね。

いい奥さんが持てて俺も嬉しいよ。

私もあなたみたいないい旦那がいて幸せよ。まあ、ちょっと夢見がちすぎるけど。

悪かったって。そういえばなんだけどさ。

何?

今度の俺たちの結婚式やるだろう。

あ、仕事が忙しくて後回しにしてた。

それがあれ、アカも呼んでいいか?

アカってあなたの幼馴染みの?

そうそう。あいつも参列したいって連絡が来たんだよ。

ええ、私あの人苦手なんだけど。なぜか目の敵にされてるし。

そう言わずに頼むよ。俺にとってアカは家族みたいなもんなんだ。

それは知ってるけど。

頼む。

あ、かずやがそこまで言うならいいよ。

ありがとう。

けど私が何か言われてたら助けに来てよ。

分かってる。まあ、さすがのアカもめでたい日に何かすることはないだろう。

だといいんだけどね。

数日後。

みゆさん、あなたは本当に最低な女よ。

アカさん。

いつも言ってますよね。

何をよ。

LINEしてくるなら、せめて会話をしましょうって。

は?何?どういうこと?

アカさんはいつも一方的なんですよ。知ってます?LINEはコミュニケーションツールです。

コミュニケーションは取ってるでしょ?

取れてないから言ってるんですよ。私がかずやにふさわしくないとか、離婚しろとか、一方的に罵倒するのは会話じゃありません。

お黙り。

お黙りって、どこのお嬢様ですか?私はね、怒ってるのよ。大体アカさんが連絡してくる時は怒ってません。私、知ってるんだから。

何をですか?

あなた、金のためにかずやと結婚したんでしょ?

はい。どういうことですか?

あなたの母親、病を患ってるらしいわね。

はあ。そうですけど。

その治療費はかずやのご両親が払ってるんだって。

そうですね。

それが、かずやから聞いてるわ。あなたはかずやのご両親の勧めで結婚したって。元々私がかずやの後輩として働いてたんで、面識はありましたけどね。

そんなことはどうでもいいの。かずやは次期社長ですからね。私にかずやを支えてほしいと打診されたんです。

それってつまり、略奪結婚ってことじゃない?

そんな大それたものじゃないですけど。

これではっきりしたわね。

え?何が?

あんたはかずやの遺産目当てで結婚するクズ女。私の白馬の王子様を奪ったゴミ女よ。

クズかゴミかはっきりしてください。というか、白馬の王子様って、知らないの?女はね、白馬の王子様に迎えに来てほしいものなのよ。

人によると思いますけど。あと、会話してくださいって言いましたよね。私の疑問への返答です。

白馬の王子様といえばかずやに決まってるでしょ。

決まってるんだ。知らなかった。

私とかずやは子供の頃からの幼馴染み。これはもう運命の赤い糸で結ばれてるってことよ。

その赤い糸、もう切れてません?かずやは私と結婚するんですし。

お黙り、この泥棒猫。

にゃんにゃん。ふざけてんの?

クソ真面目です。

じゃあどういうことか説明してみなさいよ。

確かに私の母の治療費を払ってもらっているのは事実です。お父さんたちから結婚の話をもらった際、約束したんで。

ほら見なさい。ですが、治療費のためだけに結婚はしません。

あ、どういうこと?

好きでもない相手とは結婚しないってことです。治療費は事実ですが、かずやを好きだから結婚するんですよ。

この後に及んでまだ減らず口を叩くのね。いいでしょう。

え、何が?

かずやを助けるため、結婚式をめちゃくちゃにしてやるわ。

はい。

愛のない結婚なんて、私が壊してやるわ。覚悟しておきなさい。

結婚式当日。

かずやさんはようやく落ち着いたよ。

そう。ああ、本当に最悪。ありえないでしょ。人の結婚式に乗り込んできて号泣しながら暴れるとか。

それはまあ、アカがかわいそう。金目当てのクズ女に騙されたとか言いながら泣くわ。はめくるわ。そこからウェディングケーキにだいぶ突っ込んだもんな。

ケーキも驚いたでしょうね。ケーキ入場どころか、ケーキダイブだもの。

まあまあ、アカにも事情があったんだし。

以上。今回の式は取引先の重役も来てたのよ。

それはまあ、式をやり直すにしても、まずは謝罪に行かないと。旦那の幼馴染みがケーキにダイブしてすみませんって。

考えただけでも頭痛くなってきた。

美ゆ、それについてなんだけど。

何?

俺たち、離婚しよう。

はい。

何言ってんの?アカの話を聞いて、俺が間違ってたって気づいたんだ。

確かに間違ってるわね。私たちまだ結婚してないから、離婚とかないし。

そこじゃない。お前との結婚についてだ。

何が。説明してくれる?

美ゆ。お前、治療費のために俺と結婚するんだろ?

その話か。アカさんね、全部教えてくれた。

あのね、アカさんにも言ったけど、私は別にそのためだけに結婚するんじゃないから。でも実際、治療費は出してもらってるけど、好きでもない男と結婚とかしません。美ゆ、尊敬してるって言ったでしょ。それでも。

ごめん。

雪、ごめんって何?まさか本気で結婚を取りやめにする気?

アカの今日の言動を見て思ったんだ。俺を心から愛してくれてるのはアカだって。

いや、まあ、白馬の王子様らしいからそうでしょうけど。元々アカとは結婚する約束だったんだ。

え、そうなの?

ああ。だが、俺はお前を選んだんだ。

選んだ?

そうだ。お前と結婚するために、アカとの約束を破ったんだ。

…そう。

だから、申し訳ないけど、結婚はなかったことにしてほしい。

かずや。あなた、本気で言ってるの?

ああ。ごめん。

はあ。

何だ、そのため息は。

いえ、アカさんが言ってた通りだなと思って。

何て言ってたんだ?

私がかずやを好きじゃないって。治療費のためだけに結婚するって。全部当たってるわね。

美ゆ…。

でもね、ひとつだけ間違ってるわ。私は確かにあなたと治療費のこともあったけど、それだけじゃない。私はあなたのことが好きよ。信じられないなら、それでもいい。でも、私の気持ちを無視して、アカさんの言葉だけで判断するなんて、私は許さないから。

かずや、私はあなたと結婚したい。愛のない結婚でも、あなたと一緒にいたい。それが私の本心よ。もしあなたがそれでも私を信じられないなら、それでもいい。でも、私はあなたを諦めないから。

美ゆ…本当に、俺でいいのか?

いいも何も、俺はお前の夫になるんだろ?なあ、美ゆ。もう一度、俺と結婚してくれるか?

…バカね。こっちからお願いしたいくらいよ。

じゃあ、決まりだな。

でも、かずや。ひとつだけ、わかっておいて。

何だ?

もし私を信じられないなら、それはそれでいい。でも、私を傷つけるようなことをしたら、今度こそ許さないから。

ああ、分かってる。

結婚式の後、二人は改めてやり直すことを決めた。アカの暴言も、周囲の噂も、二人の絆を壊すことはできなかった。かずやはアカに正式に結婚を報告し、美ゆもまた、自分の気持ちに正直になることを選んだのだった。

数日後。

どう?美ゆさん。真実の愛の勝利よ。

はあ。真実の愛って何ですか、それ?

私からかずやを奪ったんだから、当然よ。

そうですか。てか、この状況でその余裕、何?

この状況がその答えだと思うけど。

この状況?俺が次期社長候補から外れたことか?

あなたは優秀ではあるけど、理想が高すぎるのよ。現実を見なさいって言ってるの。

はあ?何言ってんの?

かずやはあなたに騙されてるんだから、私が目を覚まさせてやるって言ってるのよ。今度こそ、本当に結婚をぶち壊してやる。

アカさん、本気で言ってるんですか?

もちろんよ。私がどれだけかずやを想ってるか、思い知らせてやるんだから。

美ゆ、もういい。

かずや…。

アカ、もう終わりにしよう。俺は美ゆを愛してる。これからも、ずっと。お前の気持ちは嬉しいけど、俺の気持ちは変わらない。

かずや…どうして?私のほうがずっとお前を愛してるのに!

それは違うな。お前のは執着だよ。俺の幸せを願ってくれるのが、本当の愛じゃないのか?

そんなの…そんなの、ずるいわよ。

アカ、お前にも幸せになってほしい。だから、もう過去を手放してくれ。

…分かったわ。でも、ひとつだけ、覚えておきなさい。私は絶対に、あなたたちを許さないから。

アカ、それは…

行くわ。

アカが去った後、美ゆはかずやの隣に立った。

大丈夫?

ああ。ありがとう、美ゆ。

私は何もしてないわよ。

そんなことないさ。お前がいてくれたから、俺は自分自身を信じられたんだ。

かずや…。

昔みたいに、あだ名で呼んでいいか?

…ミユって、ずっと呼んでみたかったんだ。

おかしなやつね。でも、いいわよ。

これからも、ずっと一緒だぞ。

ええ。あなたの愛を疑わないわ。

二人は手を繋ぎ、静かに微笑み合った。嵐のような日々も、ようやく収まったのだった。

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