夕べ、スマホが鳴って画面に見えた名前、十五年ぶりの妹だった。出たら最初の一言が「お姉ちゃん、私と彼、実家に帰るから。だから出て行く準備しといてね」って。あの日、私の夫を奪って駆け落ちした女が、まるで何もなかったかのような軽い声だった。私は怒りで声が震えて「何言ってるのよ」とだけ返した。そしたら妹はけろりとして「私の実家でもあるし、帰る権利あるよね。それにどうせお姉ちゃんまだ独身でしょ。出て行…

夕べ、スマホが鳴って画面に見えた名前、十五年ぶりの妹だった。出たら最初の一言が「お姉ちゃん、私と彼、実家に帰るから。だから出て行く準備しといてね」って。あの日、私の夫を奪って駆け落ちした女が、まるで何もなかったかのような軽い声だった。私は怒りで声が震えて「何言ってるのよ」とだけ返した。そしたら妹はけろりとして「私の実家でもあるし、帰る権利あるよね。それにどうせお姉ちゃんまだ独身でしょ。出て行...

久しぶりの妹からの電話は、開口一番そんな言葉から始まった。十五年前、私の夫を奪って駆け落ちしたはずの妹が、まるで何もなかったかのような軽い口調で言う。「お姉ちゃん、私と彼、実家に帰るから。だから出て行く準備しといてね」

私は呆気に取られて、思わず言葉を返した。「何を言ってるのよ。今更何なの?久しぶりに連絡してきて、いきなり意味不明なことを」

「え、私なりの気遣いでしょ。お姉ちゃん、私と会うの気まずいでしょ?だから一応連絡しといたんだよ」

「気まずい?気まずいで済むと思ってるの?十五年前に私の夫を奪って逃げたくせに、私の住む実家に帰るとか、何様のつもり?」

妹はけろりとして言う。「でも、私の実家でもあるんだから、帰る権利あるよね。それにどうせお姉ちゃんまだ独身でしょ。なら出て行った方が結婚できるんじゃない?」

「一人暮らしだろうが、結婚できるかどうかは関係ないわ」

「うわ、相変わらず言い訳ばっかりで惨めだね。けどさ、出て行った方がお姉ちゃんのためだよ。さすがに元夫がいたら住みにくいでしょ。だから出て行ってほしいの」

「元夫?あなた、何を言ってるの?さっきから自分の主張ばっかりだし、私がいるところにいたくないなら来なければいいでしょ」

妹は全く引かなかった。「ちょっと節約したくてさ。実家なら家賃かからないじゃん。私の家でもあるんだし、お姉ちゃんが追い返すとか意味わかんない。勝手に決めないでよ。大体、私はあなたと会いたくもないのよ。私の夫を略奪して、どの面下げて来たの?」

「死は増えるよ。お姉ちゃんが出て行くのは決定事項だよ。私が帰るんだもん、当然でしょ。お姉ちゃんに拒否権なんてないから。実家の鍵、まだ同じでしょ?勝手に入るから大丈夫」

「何を勝手に」

「お姉ちゃんの荷物も適当に処分しとくね。部屋はそのまま使うから」

私は怒りで声が震えた。「何が実家だから帰る権利よ。あなたこそ十五年間、音信不通だったじゃない。それで実家は私の帰るところって、図々しいにも程がある」

「そんなの知らないし、家は家だもん。ていうかお姉ちゃんこそ、なんで結婚しないの?」

「結婚より仕事してる方が好きだからよ。もう結婚はこりごり」

「見えっぱりは相変わらずだね。結婚できないのは、実は男に魅力がないからでしょ。お姉ちゃんって昔からドン臭かったもんね。だから浮気されるのよ。魅力がないから」

「それは違うわ。確かに浮気した彼を許すつもりはない。でも、わざと私の夫を狙ったのはあなたでしょ」

「結果的に彼も私を選んだんだよ。分かる?仕事ばっかりで、彼の気持ちが離れたことにも気づかないくせに、妻ヅラするとか。お姉ちゃんには魅力がなかったから捨てられたの。認めなよ」

「私は仕事も家事も全部やってたのよ。それなのに浮気されて」

「それってお姉ちゃんが悪いってことじゃん。私は彼をちゃんと満足させられたもん。お姉ちゃんができなかっただけ。お姉ちゃんに女としての魅力がなかったってことじゃん。仕事できても、女としてダメなら意味ないよね」

「私がどれだけ頑張ってたか…」

「頑張ってた?でも結局浮気されたんでしょ。って、頑張り方が間違ってたってことじゃん。お姉ちゃん、本当に頭悪いよね。だから実家も当然私がもらうね」

「もらう?何を言ってるの?」

「え?意味分かんない?でも安心してよ。家族の面倒は適当に私が見るし。お姉ちゃんは養ってもらえる相手もいないし。施設とか入れば?施設って、そんな年でもないけど…今から探した方がいいんじゃない?施設の写真とか送ってあげるね」

「大きなお世話よ。大体なんでそんなこと言い出すの?」

「しばらく親とは関わらないといけないしさ」

「なんで今更関わろうと?」

「だってその方がお金の管理もできて、最後にもらえるものが多くなるでしょ。遺産よ。最後には私がもらうって言ってるの。お母さんたちの貯金とかどうなってる?ちゃんと貯めてるかな?」

「お母さんたちの財産…まだ生きてるのに、そんな話をするなんて不謹慎よ」

「まあ、どうせお姉ちゃん一人じゃ何もできないでしょ。私が帰ったら全部管理してあげるから。そうなれば遺産は私のもの。それ目当てなところもあるし」

「遺産目当て?ちょっと待って。あなた、本気でそんなこと考えてるの?」

「当たり前じゃん。お父さんとかお母さんの貯金とか不動産とかあるでしょ?ゆくゆくは相続することになるし、その時は全部私がもらうから」

「あなた、十五年も連絡してこなかったのに、いきなり遺産の話?」

「お姉ちゃんこそ、ずっと実家にいたのに何してたの?お金貯めてないの?まあ、お姉ちゃんの稼ぎじゃ無理か」

「私はちゃんと働いて貯金もしてるわよ」

「へえ。でもどうせ大した額じゃないんでしょ。あのさ、お父さんとお母さんの介護とかどうするつもりなの?お姉ちゃん、面倒見るって言ってたけど」

「介護?そんなの施設に入れればいいじゃん。お金あるんでしょ?」

「簡単に言うわね」

「だってめんどくさいし。お姉ちゃんがやればいいじゃん。ずっと実家にいたんだし。あ、そうだ。お姉ちゃん、私が帰るまでに部屋の掃除しといてね。あと私の寝具も新しいの買っといて。お金はお姉ちゃんが出してよ」

「なんで私が…自分で買いなさいよ」

「だって家族でしょ。当然じゃん。あとね、冷蔵庫も新しいの欲しいから買っといて。エアコンもクリーニングよろしく」

「はあ?あなたは…私はもう妹とすら思ってないんだけど」

「血の繋がりも戸籍もあるんだから、家族でしょう。お姉ちゃんの主張とかどうでもいいから。ぐちぐち言い訳しないでよ。みっともない」

「お姉ちゃんって人生失敗したよね。私を見習えば?」

「見習う?人の旦那を略奪した奴から見習うことなんて、一ミリもないと思うんだけど」

「十五年前のこと、まだ根に持ってんの?さすがにどうかと思うよ。もう過去のことなんだからさ」

「過去のこと?あなた、謝罪の一つもしてないのよ」

「謝罪?なんで?私、悪くないし。お姉ちゃんに魅力がなかったから、彼が私を選んだだけ。お姉ちゃんには価値がなかったのだから、実家も私がもらうね。両親も、可愛い私の方が必要に決まってるし」

「なんでそう思えるのよ」

「だって十五年前、お姉ちゃんの夫を奪ったけど、お姉ちゃんは怒ってただけで済んだし。あの時お母さんも、結局私の味方してくれたじゃん。お姉ちゃんが一人で怒ってただけだから、今回も私の味方してくれるに決まってるもん」

「あの時お母さんは味方なんてしてないわよ。あなたが自分の都合のいいように言葉を解釈して、勝手な言い分だけ言って逃げたんでしょ」

「現実が見えてないのはお姉ちゃんの方じゃん。ていうかお姉ちゃんが私に嫉妬してただけでしょ。私の方が可愛いし若いしモテるし。お姉ちゃんは地味で真面目なだけのつまんない女。そんな人に価値なんてないでしょ。なら、価値のある人間の言うことを聞けっての」

「あのね、お母さんは、あなたに楓ちゃんを傷つけたことを謝りなさいって、何度も言ってたのよ。でもあなたは聞く耳持たなかったじゃない」

「そんなの覚えてないし。お母さん、私のこと可愛がってくれてたもん。お姉ちゃんが嫉妬してるだけ」

「可愛がってた?お母さんはあなたの行動に心を痛めてたのよ」

「そんなわけないじゃん。お母さん、私のこと褒めてくれてたもん。お姉ちゃんより私の方が可愛いって」

「…そっか。分かった。もうあんたに何言っても無駄ね」

「でしょ。お姉ちゃんも分かってくれて嬉しい」

「じゃあ、ちゃんと話そうか」

「話?何?まだなんか文句あるの?」

「さっき、実家に帰るって言ってたけど、実家ってどこのこと?」

「は?何言ってんの?実家は実家でしょ。お姉ちゃん、ボケた?」

「実家はもうないよ。十年前に売却済み。その後、一応新しい家を建てて引っ越したの。だから、あなたの帰る家なんてないよ」

「は?嘘でしょ?何それ?ちょっと待って。家を売った?バレバレの嘘やめてよ」

「信じないなら勝手にすれば。前の実家の住所に行けば分かることだし」

翌日、妹は実家があった場所に行った。しかしそこには知らない家が立っていて、知らない家族が住んでいた。電話がかかってきて、妹は声を荒げた。「どうなってんの?実家に行ったら知らない家が立ってて、知らない家族が住んでたんだけど」

「そりゃ、売り払って別の人が土地を買ったからね」

「じゃあ本当に家はもうないの?勝手に売るとかありえないんだけど」

「勝手に?さっき、勝手に入る。勝手に処分するって言ってたよね。私も同じことしただけだよ。大体、勝手に家を出て行ったのはそっちでしょ」

「それは違うでしょ。私には権利があるの」

「どんな権利?この十五年、こっちの連絡は無視してたくせに。その状態で主張できる権利って、何があるの?」

「連絡できなかったのは、私だって忙しかったし…」

「忙しかった?十五年ずっと?一度の連絡すらできないほど?そんなに忙しくしてたのに、必要なのはお金って、何?詐欺にでもあった?それとも家が燃えたとか?」

「それは…とにかく権利はあるのだから。何のよ?」

「家に住む権利?実際に家に住む権利があるのは、土地を買った人。今回の場合は私たちの両親ね。つまり子供の私たちには、何の権利もないの」

「家族なんだし、住むの当たり前じゃん。なら、その新しい家に住ませてよ」

「嫌よ」

「なんでよ。お姉ちゃんが決める権利ないじゃん」

「だって、この家を買ったの、私だから。さらに言うなら、家にはもう私しかいないの。十年前にお父さんとお母さんが実家を売却して、そのお金で海外に移住したから。私の家は二人の日本での住所地として利用してるわ。そういう意味で、実家って言ったのよ」

「海外?じゃあお母さんたちはどこにいるの?」

「今は海外で優雅に暮らしてるよ。すっごく幸せそう。去年遊びに行った時は、綺麗な海とか美味しいレストランに連れて行ってもらったわ。行きつけなんだって」

「は?何それ?なんで私を置いて、そんないい暮らししてるの?普通連れて行くものでしょ?」

「連れて行くもの?十五年間連絡もしなかったのに。大体、一応連絡はしてたはずよ。お母さんが。でも無視していたのはそっちよ」

「でもお姉ちゃんだけずるい。私だって家族なのに」

「家族?さっき、私には価値がないって言ってたわよね。家族なのに」

「それとこれとは別。都合よく家族って言葉使うのね。じゃあ連絡先教えて」

「教えない。お母さんたちと連絡取りたいなら、自分から連絡すれば。でも十五年間、一度もしなかったよね。お母さんは何度も先に連絡しようとしたけど、全部無視したのは先だよね」

「そんなの知らない。お母さんから連絡なんてなかったもん」

「なら、私からするのもおかしくない?本当に?お母さん、先の誕生日に毎年送ってたって言ってたけど」

「そんなの覚えてない」

「履歴残ってるんじゃない?確認してみれば」

「そんなの見てないし」

「見てない?それとも見たくなかったの?ブロックしてるとか?」

「うるさい。とにかく私には権利があるの」

「バカの一つ覚えで権利権利、うっさいのよ。十五年前、あなたは私から夫を奪って、謝罪の一つもなく駆け落ちした。家族を裏切って勝手に出て行ったのは先だよね。それなのに今更『実家に帰る。お姉ちゃんは出て行って』どの口が言ってるの?舐めるのも大概にしろっての」

「でも…だって、私には帰る場所が必要なの。お姉ちゃんは一人なんだし、別にいいじゃん」

「私のこの家は、両親が帰る場所であって、あなたみたいな最低の女の帰る場所じゃないの。私には価値がないって言ったよね?じゃあ、先は何?十五年間逃げ回って、家族が実家を売ったことも知らず、困ったら姉に頼る。そんな人間に価値があるの?それは詐欺が当然だと思ってることは全部、先の妄想だよ。あなたが育ってきた実家はもうないの。両親からの連絡も無視して、家族からの信用を失ったのもそっちの自業自得。先が権利だと思ってるものは、何一つ存在しないの」

「じゃあ私はどうすればいいの?」

「それは私の知ったことじゃないわ。自分で考えて」

「姉ちゃん冷たいよ。家族でしょ?私、ちょっとお金に困ってて…来週アパートを解約するのだから、家がないと困るんだって」

「来週解約?あなた、何してたの?この十五年で」

「それは色々あったのよ。とにかく、お姉ちゃんが助けてくれないなんてひどい」

「あのさ、いい加減、私を便利な姉として使うのやめなよ。正直、見ててキモいわよ。私はもう先の便利な姉じゃない。先の都合で利用される人生は終わり。私はあなたの駒使いでも便利屋でもないの。いい年して姉に泣きつくとか、恥ずかしくないわけ?」

「ちょっと待って。お姉ちゃん、私本当に困ってるの。お願いだから助けて」

「今更何を言っても遅いわ。あなたが十五年間、私を無視し続けた、その結果よ」

「でも血の分けた姉妹じゃない」

「血を分けた?その姉妹から夫を奪ったのは誰?それは私だけど…なら、ごめんなさいもできないわけ?あなた幼稚園児?幼稚園児でも、ごめんなさいって言えるわよね」

「分かった。悪かった。あの時のこと謝るから。だからもう許してよ」

「…あ、もういいわ。分かった。なら一つだけ教えてあげる」

「何?お姉ちゃん、やっぱり助けてくれるの?」

「お母さんの連絡先、知りたいよね」

「うん。教えて」

「じゃあ、お母さんに直接聞いてみれば」

「どういうこと?」

「お母さんの連絡先は自分で探しなさい。十五年無視してたんだから、それが筋でしょ。私の方からお母さんにも連絡しとく。それなら、あなたから連絡しやすいでしょ」

数時間後、妹は何とか両親の連絡先を見つけ、電話をかけていた。「お母さん、やっと連絡先見つけた。お姉ちゃんがひどいの。実家を勝手に売ったって。助けて」

電話の向こうの声は、妙に冷静だった。「あら。どちら様かしら?」

「え、お母さん、私だよ。さきだよ」

「ああ、さきちゃん。十五年ぶりね。お元気だった?その様子じゃ元気そうね」

「元気だよ。ていうかお母さん、実家のことなんだけど」

「実家ね。驚いたでしょ?十年前にお父さんと売却したのよ」

「へ?ならお母さんたちは本当に海外に…」

「今ね、ハワイでゆっくり暮らしてるのよ。お父さんの長年の夢だったの。今までずっと仕事だったでしょ。だから今は毎日海が見えて、とっても幸せよ」

「何そのいい暮らし。私も行きたい」

「顔を見に来れば良かったじゃない。楓ちゃんは年に二回会いに来てくれるの。とってもいい子よね。あなたも、私たちと縁が切れていなければ、この生活ができていたかもしれないのに」

「でも私、連絡先知らなくて」

「あら、私は毎年お誕生日にメッセージ送ってたのよ。あなたが…略奪していたことを責めたら、メッセージくれないと思って。もちろん言葉だけだったけど」

「それは…埋もれてて」

「あらあら。十五年もメッセージが埋もれるなんて。さきちゃんはいろんな人とやり取りしてるのね。すごいわ。私も気づくのが遅れる時はあるけど、十五年全く気づかないなんて。そんなことあるなんてね。毎年気づけるように送っていたお祝いのメッセージも無駄だったわね。だって十五年間、一度も返事がなかったから、きっとお忙しいんだなって思ってたわ」

「そんなの覚えてない」

「そうね。きっと大事なことじゃなかったのね。私たちのことなんて」

「でもお母さん、私にも実家の権利あるよね」

「権利?あなた、十五年前に家を出た時、もう帰らないって言ってたわよね。それに実家はお父さんと私の名義だったの。あなたには最初から権利なんてないのよ。楓ちゃんは、ずっと私たちと連絡を取ってくれてたから、ちゃんと説明したのよ。さきちゃんね、あなたは十五年前、楓ちゃんから大切な人を奪って、家族を裏切って出て行ったのよ。一度も謝罪もなく、連絡もなく。困った時だけ『助けて』って言われても、お母さん、どうすればいいか分からないわ。あなたもあんなバカなことしなければ、今頃ハワイで家族みんなで暮らせてたのにね」

「私も今から連れて行ってよ」

「さきちゃん。ずっとメッセージを送っていたのは、これを伝えるためだったの。私には娘は一人しかいません。あなたは赤の他人。もう連絡してこないで。ようやく毎年送っていたメッセージからも解放されるわ。それじゃあね」

「待ってよ。お母さん。お母さんてば」

しかし、既読はつかなかった。ブロックされたのだ。妹は姉に電話をかけて怒鳴った。「お母さんからブロックされたんだけど、実の母親のくせに冷たい。マジありえないんだけど」

「それだけのことをしたのよ。もういいかしら。私もそろそろ、あなたと話すのに疲れたわ」

「何よ、負け犬のくせに」

「負け犬?私には彼がいるもん。お姉ちゃんは捨てられた女のくせに」

「ああ、それね。実は気になってたんだけど、彼と一緒に実家に帰るって言ってたわよね。その彼って、誰のこと?」

「何言ってんの?ケントに決まってるでしょ」

「ケント?あのケント?」

「そうだよ。私の彼」

「ケントは十年前に咲を捨ててるわよね。知ってるわよ」

「は?いや、何言ってるの?ケントは…」

「ケント、十年前に私のところに謝罪に来たの。土下座してね。その時に慰謝料もきっちり払ってもらったよ。その金で新しい人生始められたから、ある意味感謝してる」

「そんなわけない。ケントは私と一緒にいる。あいつが慰謝料なんて…そんなわけ…」

「じゃあ聞くけど、ケントと最後に会ったの、いつ?」

「それは…最近忙しくて」

「最近?何年前の最近?」

「ここ数年会ってないけど、連絡は…」

「連絡?LINEの履歴見せてもらえる?ていうか、数年会ってないって、夫婦として関係が破綻してるでしょ」

「それは…」

「ケントは今、実家に帰ってお母さんの介護してるみたい。さっきのことを完全に過去のことだと思ってるよ。実は知ってたのよね。あなたたちが破綻してたの。だから最初から『夫と住む』って誰よ、って思ってたわ」

「嘘。お姉ちゃんが嘘ついてるだけ。証拠見せてよ。お姉ちゃんが勝手に言ってるだけでしょ」

「証拠?ケントからの謝罪の手紙、まだ持ってるけど見る?あと慰謝料の振り込み記録も残ってるよ。日付も金額もはっきり分かる。それとも、ケントに直接確認してみる?連絡先教えようか」

「そんな…お姉ちゃんにバレてるなんて」

「私に捨てられたってバレたくないから、私を追い出そうとしてたの。バレバレなのよ。見てて滑稽というか、惨めだったわね。そこまで見え張りたいのかって思ったわ」

「うるさい。うるさいのよ。このバカのせいだ。お姉ちゃんに魅力がないから、ケントが私のところに来たんでしょ。お姉ちゃんがもっとちゃんとしてれば、私だって略奪なんてしなかった。全部お姉ちゃんが悪いのに、なんで私ばっかり攻められるの?」

「逆切れするにしても、もっとまともな切り方したら?あんたは結局、捨てられたのよ。ていうかさっき、最初に言ったよね。『お姉ちゃんには価値がなかった。捨てられた女』って。でも実際にケントに捨てられたのは先の方だった。お母さんにも見放されて、実家もなくて、頼る場所も人もいない。大体、お金がないのもホストに貢いだからでしょ。自業自得だわ」

「ホスト?なんで知ってるの?」

「あなたの動向は、ずっと探ってたの。正直もう関わり合いたくなかったけど、困った時にこっちに泣きつかれたら迷惑だから、先回りして自衛できるようにしてたってわけ」

「そんな…」

「お母さんは心配してたわよ。さきちゃん大丈夫かしらって。でもあなたは助けを求める時しか連絡しなかった。だからもう娘と思わないようにしたんだって」

「私だって大変だったのよ」

「大変?自分で選んだ道でしょ。地上は知ってるんでしょ?お願いだからお金だけでも貸して。本当にやばいの。今月返さないとどうなるか分からなくて」

「なら、自分で何とかしてね。あなたが借りたお金よ。ちなみにいくら借りたの?」

「三百万…」

「なんだ。それくらい払えるでしょ」

「無理だって」

「そうよね。私は年収千二百万あるけど、そんなお金ないものね」

「な、何よ、その年収。千二百万?」

「転職に成功して、今は役職にもついてるの。そういうのがあったから、海外移住はできなかったんだけどね。ああ、そういえばさっき、私のこと人生失敗とか言ってたよね。どこが失敗してる?略奪した男に捨てられて、ホストに貢いで借金し、実家が売られてることも知らされず、親からも絶縁されてる人の方が、人生失敗してるよね」

「そんな…お金がないと、私…」

「それじゃあ、頑張ってお金稼がないとね。少しは私を見習えば?」

その後、妹は行く当てもなく友人を頼るも、昔お金を貸して返してもらっていないと拒否され、完全に孤立した。派遣の仕事も見つからず、生活保護を申請するも却下され、最終的には借金取りから全財産を奪われ、借金返済のために夜の店で働かされているという。しかし限界までボロボロのため、客がつかずかなり苦労しているらしい。

一方、私は仕事に邁進しつつ、両親とも定期的に連絡を取り合っている。妹には言っていなかったが、ケントからもらった慰謝料で得た資金を元手に、小さな投資を始めていた。それも順調で、経済的にも精神的にも安定している。夫を略奪された時は本当に辛かったが、人生がずっとどん底かどうかは、その後の行動で変わる。私はこれからの人生、下を向いていたくないので、これからも自分と家族の幸せのために生きていきたい。

Thumbnail