夕方、スーパーのレジで買い物をしていたら、元夫から電話がかかってきた。「息子の入学式、なんで母親が来ないんだ?」——私は確かめたかった。私たちには小学生の息子なんて、いないはずだって。気づけば、彼は私と離婚してもなお、人生を狂わせ続けている。私をストーカーし、子どもの存在を利用して脅してきた。そして今夜…私は夫と警察に相談した。彼は必ず怒り狂って、私を殺しに来るだろう。だから今、私はここに隠…

夕方、スーパーのレジで買い物をしていたら、元夫から電話がかかってきた。「息子の入学式、なんで母親が来ないんだ?」——私は確かめたかった。私たちには小学生の息子なんて、いないはずだって。気づけば、彼は私と離婚してもなお、人生を狂わせ続けている。私をストーカーし、子どもの存在を利用して脅してきた。そして今夜…私は夫と警察に相談した。彼は必ず怒り狂って、私を殺しに来るだろう。だから今、私はここに隠...

「おい、息子の入学式が始まるっていうのに、なんで母親が来ないんだ?」

離婚してだいぶ経つのに、今さら何の用なの?

「離婚したって、お前は子供の母親だろうが。今すぐ来いよ。うちの子、まだ一歳だぞ」

え? あれ? まゆみの方?

「まゆみの方って何だよ。打ち間違いだ。気にするな」

久しぶりに連絡してきたかと思えば、息子の入学式ってどういうこと? 一体何を言ってるの?

「この際、お前でもいいや。今からA小学校に来れるか?」

さっきも言ったけど、今日は息子の入学式って言ってるのよ。ちょっと待って、なんで私が母親ってことになってるの? 勇気に小学生になる子供がいたの?

「そうなるな。六年前に子供が生まれたってことだろ。おかしいか?」

おかしいでしょ。だって私と結婚したのは十年前で、離婚したのは二年前よ。計算が合わないわ。

「つまり、俺が結婚してる間に子供を作ったって言いたいのか?」

それしか考えられないでしょ。

「再婚相手の連れ子だよ」

なんだ、そういうことか。だったら最初からそう言ってよ。

「まあ、そいつとも離婚したんだけどな」

なのに入学式に行くの?

「一応、父親だったしな。俺に懐いてたから、入学式くらいは参加してやろうと思って」

じゃあ、私じゃなくて、その再婚相手に連絡すればいいんじゃない?

「連絡が取れないんだよ。息子も遅れてるし、何やってんだか。やっぱりダメな母親だな」

急に来れなくなった理由があるのかもしれないでしょ。それか、あなたより先に着いて中に入ってるのかもよ。

「もし居なかったら、お前が学校まで来て謝罪しに来いよ」

なんでそうなるのよ。そもそも私、一歳児の育児中だから無理よ。まだ授乳も昼寝も必要で、すぐぐずる子なの。そんな簡単に出かけられるわけないでしょ。

「お前、再婚したのか?」

離婚したんだから自由でしょ。

「離婚してたったの二年だぞ。一歳ってことは……お前も浮気してたな?」

悪いけど、あなたとは最後の三年くらい、ほとんど会話もなかったじゃない。だからって早すぎるでしょ。離婚後に出会った人がすごくいい人で、すぐに子供に恵まれただけよ。浮気なんかしてないわ。

「怪しいけどまあいいか。お前と不毛なやり取りをしてたら、もう始まる時間だ。もし居なかったら絶対に謝れよ」

知らないわよ。あ、子供が泣いちゃった。これで終わりね。もう連絡してこないで。

入学式が終わった後、中に入ってみたら、元嫁も息子もいなかった。

「私に報告する必要はないんだけど、でも心配ね。入学式に来れないなんて、何かあったんじゃない?」

いや、俺の方を心配しろよ。ずっと探してたら、教師に声をかけられてさ。「関係者以外はお引き取りください」だってよ。保護者だっていうのに。おかげで他の奴らから変な目で見られたんだぞ。

「自分のことより、心配すべきことがあるでしょ。あなたって本当に思いやりのない人ね」

そんな話をしてるんじゃないんだよ。俺が変な父親だと思われたらどうするんだ?

「離婚してるなら、どうだっていいじゃない?」

良くないんだよ。もし俺たちの子供が同じ小学校に通うことになったら、あの教師が担任になるかもしれないんだぞ。

「はあ? 何の話をしてるの?」

この二年間で気づいたんだ。やっぱりお前がいい。

「あのさ、この間も言ったよね。私は再婚して、子供まで産んでるのよ」

じゃあ、俺がその子の父親になってやる。

「何言ってるか、さっぱり分からないわ。お互い嫌になって離婚したのに、なんで戻らなきゃいけないのよ」

今の旦那とは離婚しろ。あいつはお前に合ってない。

「何も知らないくせに、適当なこと言わないで。自分のこともまともにできないあなたに、育児なんて高度なことが出来るわけないでしょ」

二年前までの俺はそうだったかもしれない。だけど今の俺は違う。俺は変わったんだ。

「あれだけ何一つやらなかった人が、今さら変わる? 料理や掃除、洗濯といった家事はもちろん、妊活にも非協力的だったじゃない」

だから、今は自分で箸やスプーンも持てるようになったし、お皿だってちゃんと流しに運ぶんだぞ。

「それは三歳児でもできるお手伝いなんだけど。当然、洗い物までしてるんでしょうね?」

それは女の仕事だろ。

「……それで離婚するわ。再婚相手の人も、あなたと結婚して苦労しただろうね。でも今は離婚したみたいだし、よかったよかった」

バカにしてるのか? 言っとくけど、バツがついた男ってのは魅力的らしいぞ。

「バツがついた数イコール、結婚に失敗した数よ。それのどこが自慢になるの?」

離婚してから二年経っても、俺の魅力が分からないとはな。

「今は幸せよ。あなたと違って、今の旦那は家事も育児も協力的なの。家事全般をやってくれるし、子供の面倒まで見てくれるのよ」

女の腐ったようなやつだな。その旦那がかわいそうだわ。

「そういう古い考え方を持ってない、素敵な人よ。おかげで、あなたといた頃よりずっと幸せ」

当て付けか?

「そんなんじゃないけど、あなたには感謝してるのよ。私と離婚してくれなければ、今の旦那に出会えなかったから。私と離婚してくれてありがとう。それじゃあね」

三十分後。

「おい、まゆみ」

返信はない。何かあったのだろうか。

「どうしたの? 元夫から連絡があったって」

うん。なんかね、息子の入学式に母親として来てくれって、意味不明な話だったの。

「はあ? そいつ、俺の妻に何言ってるんだ?」

もちろんしっかり断ったよ。でも、なぜか再婚してくれって迫られて、少し怖かったな。

「話に聞いてた通り、本当に自分勝手なやつだな」

だから離婚したんだけど、まさか再婚を迫られるとは思わなかったわ。

「心配だな。これからは一人で行動するのは控えよう」

ごめんね、迷惑かけて。

「出かける時は車で送るよ。念には念を入れよう。なんか嫌な予感がするんだ」

ありがとう、けい。

翌日。

「おい、まみ。なんで入学式に来なかったんだ?」

ごめん。車で向かってたんだけど、行く途中で事故に遭って。

「事故? 何やってんだよ。これだから運転が下手なやつは」

私のミスじゃないのよ。赤信号で止まってたら、後ろからぶつかられちゃったの。ちゃんと学校には連絡しておいたから。

「俺はずっと待ってたんだぞ。なんで俺には連絡しなかったんだ?」

何度か着信入れたけど、出なかったんでしょ。

「ああ……金融会社の催促がうるさいから、着信音を消してたんだったわ。それより、子供のことは心配じゃないのか?」

逆だ。俺を入学式で一人にしたことを、お前たち二人で謝罪しに来るのが筋ってもんだろ。

「私は来なくていいって言ったよね。離婚しても父親だから行くって言い張ったのは誰よ?」

父親がいた方が喜ぶと思ったんだよ。

「だったら、まず養育費を払ってくれる? あの子はあなたの子でもあるんだからね」

子供一人育てるのに、金なんていらないだろ。どうせ男を作って、ほったらかしにしてるんだろ。

「彼氏なんていないし、作るつもりもないわよ。勝手に決めつけないでくれる?」

そうやって気が強いから、俺に捨てられるんだよ。……やっぱりまゆみの方が何倍もいい女だったな。

「まゆみって、前の奥さんよね。あなたに絡まれてかわいそうだわ」

お前にまゆみの何が分かるんだよ。

「今なら分かるわ。勇気との結婚は地獄でしかないって」

お願いだから、もう誰とも付き合わないで。

「関係ないでしょ。ほっといて」

三日後。

「まゆみ、今日空いてるか?」

あなたのために空く時間はありません。

「そんな冷たいこと言うなよ。一緒にどこか遊びに行こうぜ。もちろんお前の子供も連れてきていいぞ」

教育に悪いので、やめておきます。

「この間、お前に言われたことを振り返って反省したんだ。悪いところは全部直すから、俺とやり直してほしい」

私は今の夫と幸せだって言ってるの。なんでそうなるのよ。

「俺にはお前が無理してるようにしか見えないんだよ」

自分だけが不幸だからって、決めつけないで。

「頼むよ、まゆみ。本当に愛してるんだ」

もうやめて。本当に気持ち悪い。ブロックするわ。

一週間後。

「まゆみ、お会計終わったよ。車の中、涼しくしといた」

ありがとう。次はドラッグストアに行ってもいい? おむつも買っておきたいの。

「いいよ。じゃあ駐車場で待ってるね」

悪いんだけど、店の前まで来てもらってもいいかな? 元夫に似た人がずっとこっちを見てて。

「え? あいつが来てるってこと?」

多分、ここ数日何度か見かけたから、間違いないと思う。今日は帰ろう。

「いや、おむつは絶対に買いたいの」

分かった。店の目の前まで車をつけるから、すぐに来て。

二時間後。

「今日、私のこと尾行してたでしょ」

なんでそう思うんだよ。

「スーパーとドラッグストアで、似た人を見たの」

ああ、俺もたまたま行ったわ。偶然だな。運命かもな。

「ふざけないで」

でも、やっと話せたな。お前がブロックするから、神様が引き合わせてくれたんだよ。

「やっぱり朝からつけてたのね。いい年して、気持ち悪いことしないでよ」

怒るなら、神様に怒れ。てか、おむつとかお尻拭きとか買いすぎだろう。金遣いの荒い女は捨てられるぞ。ま、その時は俺が拾ってやるけど。

「ブロックするわ。次現れたら通報するから」

たまたま居合わせただけじゃ、逮捕されねえよ。それに、ブロックしたら俺、おかしくなってお前の子供に何するか分からないぞ。

「何それ? 脅し?」

仲良くしようぜってことだよ。まずは飯でもどうだ?

「分かった。ブロックはしないけど、ご飯は無理」

まあ、俺も焦りすぎたかもしれないな。ゆっくり愛を取り戻していこうぜ。

三日後。

「また出かけてるのか。車は旦那の運転か。旦那に運転させて買い物とか、いいご身分だな」

いい加減にして。あなたのせいで、買い物に行くだけで夫に迷惑をかけるはめになってるのよ。

「たまたまだって言ってんだろ」

遠くのスーパーに変えたのに、なんで一緒になるのよ。

「お前んちの近くにアパートを借りたから、出かける時は俺んちの前を通るんだよ」

信じられない。仕事もせず、昼間から何してるの?

「今は充電中ってやつだ。ちゃんと働いて面倒を見てやるから、心配すんなって」

今から警察に行くわ。ストーカーされてるって相談するから。

「ストーカーって、大げさだなあ」

本当に怖いし、困ってるの。実害は出てるわ。

「お前と一緒にいたいだけなのに、なんで警察に行くんだよ。自分のことを客観視すれば、よく分かるはずだよ。お願い。もう連絡してこないで」

照れるなって。

「あの夫が話したいって言ってるんだけど」

俺も話したかったんだよ。人のもの奪っておいて、挨拶もないからな。

「分かった。じゃあ、連絡させる」

五分後。

「まゆみの夫のけいです。これ以上、まゆみに付きまとわないでください」

何だお前? 正義のヒーローの気取りか?

「メッセージだけなら様子見しようと思いましたが、付きまとい行為に関しては警察に相談します」

はあ? 俺を犯罪者にしようってのか? そうはいかないぞ。俺は最初の夫だから、お前より偉いんだよ。

「そんなものに優劣の付けようがないでしょう。とにかく、この件は警察に相談します。あなたとまゆみとのやり取りも証拠になりますので、これ以上メッセージを送らない方が、あなたのためかと」

やってみろよ。居場所を確認してるだけなのに、犯罪になるわけねえだろ。

「分かりました。では、今から警察に行きます」

翌日。

「まみ、助けてくれ」

今さら何よ。

「元嫁にストーカー扱いされて、捕まりそうなんだよ。居場所を確認してただけなのに。警察から警告を受けてさ。次やったら禁止命令ってやつが発令されるらしいんだ。こんなの理不尽だよな」

なんでそんなことになってるのか知らないけど、警察から警告を受けるって、よっぽどでしょ。それだけのことを自分がしたってことよ。

「俺は無罪だ。息子の父親が犯罪者とか嫌だろ」

いや、もう離婚してるから関係ないし。悪いことしたなら、ちゃんと償いなさいよ。

「ちょっと様子を見に行っただけなのに。ストーカーって勝手に騒がれて、こっちの身にもなれよ」

まゆみさんが嫌だと感じたら、それはもうストーカーなの。悪いけど、私は味方しないわよ。

「頼みがあるんだ。お前と会ってたことにしてくれ」

口裏合わせってこと?

「人聞きの悪い。嘘も方便って言うじゃん」

嘘の使い方を間違ってるわよ。

「とにかくそういうことにしといてくれよ。そしたら元嫁との揉め事ってことで終わるからさ」

嫌よ。私は協力しないからね。

「協力しないなら、こっちにも考えがある。お前、実家にいるだろ」

なんでそれを知ってるのよ。まさか、私のこともストーカーしてたの?

「だからストーカーじゃねえって言ってるだろう。元嫁たちの様子を見に行くことが、そんなに悪いことか?」

普通は見に行かないのよ。

「とにかく俺に協力してくれないなら、お前の実家に行って息子を連れ去ってやる」

は? あの子は関係ないでしょ。

「お前と引き離されたら、泣くだろうな。かわいそうに」

最低ね。

「だったら俺の味方をしろ」

分かった。お願いだから、あの子には何もしないで。

「最初からそう言え」

後日。

「突然すみません。私、勇気の元妻のまみと言います」

まゆみさんでお間違いないですか?

「勇気がどうして私のLINEを?」

全てお話しします。あれは二年前。結婚したばかりで私が育児に奮闘していた時、勇気は私に興味を示さなくなりました。もしかしたら不倫してるんじゃないかと思って、いけないと思いつつ、勇気の携帯をこっそり見たんです。結局、不倫はしてなかったんですけど、そこにあなたの連絡先があったんですね。

「はい、その通りです。会話の流れから、あなたが前の奥さんだって分かりました。このことは勇気は知りません」

そうでしたか。それで、何の用でしょうか?

「単刀直入に言います。逃げてください」

え?

「勇気は、息子が通う小学校の周辺を見張ってるみたいで、不審者情報として保護者同士で共有されてるんです。あなたたち家族に何をするかも分かりません。どうか何か起こる前に、逃げてください」

そのために、わざわざ連絡してくれたんですか? ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。警察にも相談して、本人に警告が行ったと思うので。

「でも、全く反省していません。まゆみさんと、身近な人の身の安全も確保してください」

それは、命の危険があるということですか?

「分かりません。ただ、あの人はおかしくなってます。あなたを尾行した日に、一緒にいたことにしろって」

え? あなたは大丈夫なんですか?

「今のところは大丈夫ですが、口裏合わせに協力しないと、私の息子を連れ去ると脅されて……」

なんて卑怯な。

「勇気の実の息子ですが、親権は私にあるのに」

あ、お子さんと勇気は血のつながった親子なんですか?

「そうですけど、私には連れ子だと言ってたんですけど、紛れもなく勇気の子供です」

なんてひどい嘘。ということは、あなたは勇気の不倫相手だったんですね。

「私と出会った頃は、離婚したばかりだって言ってました」

お子さんが今、六歳なんですよね?

「はい、その通りです」

今年七歳となると、計算が合いません。

「え、どういうことですか?」

いつ頃、勇気と出会って、妊娠して、出産したのか聞いてもいいですか?

「勇気と出会ったのは八年前です。その三ヶ月後に妊娠が分かって、出産したのが七年前です」

結婚しようとは思わなかったんですか?

「本当はすぐにでも結婚したかったけど、借金があるから私に負担をかけたくないって。だから完済するまで待っててくれって、待ってたんです」

そうでしたか。……何か問題が。

「八年前だとすると、まだ私たちは離婚してません」

え? 私に嘘をついてたってこと?

「おそらく」

信じられない。まゆみさん、ごめんなさい。私、知らなかったんです。知ってたら、絶対に付き合いませんでした。本当にごめんなさい。

「過ぎたことは仕方ないです。それより、彼をどうにかしないと」

でも、どうしたら……

「私たち、手を組みませんか?」

え?

「私たちは被害者です。この苦しみを勇気に、そして世間に知らしめましょう」

一週間後。

「まゆみ、警察に相談したこと、取り消してくれよ」

被害届けを取り下げるってこと?

「とにかくなかったことにしてくれ」

ストーカーに関しては、被害届じゃなくて相談ね。記録に残るものだから、なかったことにはできないよ。

「あのな、あの日、俺は元嫁と息子と一緒にいたんだよ。お前なんかを気にする暇はなかった」

何言ってるの? あの日、丸一日、私に付きまとってたよね。LINEでやり取りもしておいて、嘘だとは言わせないよ。

「それ、お前の妄想だから。俺のLINEには、お前とのやり取りは残ってないけどな」

削除したんでしょ?

「ちげえわ。お前、頭大丈夫か? 病院行った方がいいぞ」

本気で言ってるなら、あなたが病院に行った方がいいよ。だって、ちゃんとスクショしてあるもの。他にも証拠はあるんだよ。店員さんによる、買い物客に見えない不審者情報。旦那の車のドラレコにも、尾行してるあなたが映ってる。言い逃れはできないよ。

「壮大で過激な妄想だな」

警告を受けて分かってると思うけど、次やったら禁止命令。これを破ったら、今度は逮捕されるからね。

「勝手にしろ。俺は絶対にやってない。その日は口裏合わせがある。元嫁も証言してくれる。俺はストーカーなんかじゃない」

そう思うなら、勝手にそう思ってればいいよ。少なくとも、私とまみさんはそう思ってないから。

「は? なんでお前がまみの名前を知ってるんだよ」

どうでもいいでしょ。それより、私にいくつか嘘をついてるよね。

「何の嘘だよ」

あなた、本当は不倫してたでしょ。

「不倫してないけど」

まみさんから直接聞いたよ。お子さん、本当は連れ子じゃなくて、あなたの子供だよね。

「俺の子なわけがないだろ。本当に頭大丈夫か?」

じゃあ、DNA鑑定でもする? まみさんと連絡を取ってるから、頼んでみるわ。

「あ……」

あなたがまみさんと付き合ってた時のやり取り。お子さんが生まれた時、あなたが出した認知届。全部揃えてもらえるけど。

「まみのやつ、余計な真似をしやがって」

これでよく分かったよ。

「何がだよ」

何かと書類を揃える時、やたら私に戸籍謄本を取らせようとしなかった?

「そうだっけ?」

そうだよ。そりゃそうだよね。だって、戸籍謄本を見られたら、子供がいるのがバレちゃうもんね。

「ああ、そうだよ。お前と結婚してた時、まみとは隠れて付き合ってたんだよ。でも、不倫したのにはお前にも原因がある。女としての努力を怠ったお前が悪いんだ」

仕事に家事、あなたのお世話に妊活……。確かにあの頃の私はボロボロだったかもしれない。でも、あなたならどんな私も受け入れてくれると思ってた。

「甘えんなよ。ま、まみも息子を産んだら女を捨ててたけどな。女ってのは、本当に根性がねえよな」

女を捨てたんじゃなくて、母親になったんだよ。子供のために頑張る妻を見て、何とも思わなかった?

「めっちゃ女捨ててんなとしか。ぼさぼさの髪にすっぴんは笑うだろ」

そっか。そうなるぐらい、まみさんは一人でも頑張ってきたんだね。あなたにはもったいないくらい、素敵な人だわ。

「女を捨てたもの同士、お前ら仲良くなれそうだな」

そうだね。おかげで、とっても仲良くなれたわ。あなたを追求するために。

「今さら何を追求するんだよ」

あなたに慰謝料を請求します。私からは、不貞行為をされたことによる慰謝料、三百万円。もちろん、まみさんからも、親権を侵害されたことによる慰謝料、二百万円。

「ふざけんな。もう時効だろ」

残念だけど、慰謝料請求は不法行為から二十年以内かつ、事実を知ってから三年以内であれば可能なの。だから、私もまみさんも、あなたに請求できるんだよ。

「ふざけんな。そんなの不当請求だろ。俺は絶対に払わないからな」

そしたら、差し押さえてもらうから大丈夫。素直に払った方が、あなたのためだよ。

「ちっ……払えばいいんだろ。払えばこの金で済むんだな」

あともう一つ、忠告しておくね。

「まだなんかあるのかよ」

あなた、子供を利用してまみさんを脅したんだってね。そのことを警察に相談したそうよ。だから、あなたはもう逃げられないね。

「は? まみが? ふざけんなよ。俺のことを守らないばかりか、裏切りやがって。こんなの名誉毀損だ。訴えてやる」

訴えても、あなたがまみさんに勝てる要素は一つもないよ。

「なんであの女の肩を持つんだよ。不倫相手だぞ。俺には慰謝料請求しといて、まみには何もしないって。そりゃ不公平だろうが」

あなたがまみさんに独身だって騙してたからだよ。既婚者であることを知らなかったのは仕方ないし。聞けば、家事も育児も全く手伝わないらしいじゃない。そんなの聞いたら、味方するしかないでしょ。私にはまみさんの気持ちも苦労も分かるから、味方することにしたのよ。

「これだから女は嫌なんだ。共通の敵を見つけたからって結束しやがって。そんな女の元で育てられる息子がかわいそうだ。息子は俺が育てる」

残念だけど、育児してきたっていう実績はないでしょ。なら、親権は間違いなくまみさんになるね。

「俺の子なのに。そんなの納得できるか?」

結婚した過去があるからって、子供と血がつながってたって、父親としての資質がなければ誰も味方してくれないよ。さようなら。あなたが変わらない限り、あなたはずっと一人だよ。もう二度と、私たちに関わってこないでね。

「待って。まゆみ。俺を一人にしないでくれ」

二度と結婚もせず、子供なんか作らないように。

その後。勇気は私とまみさんに付きまとい続けました。禁止命令を受けるも、また付きまとい。今度こそ、禁止命令違反罪で捕まりました。罰金五十万円の判決を受け、渋々支払ったものの、それでも必要なストーカー行為をやめなかったため、今度は懲役二年という実刑判決となりました。

どうしてここまで、私たちに執着するのか。その答えは、裁判所にて明らかにされました。自分を見ていてほしかった。誰も俺のことを見てくれない、と。どこまでも自己中な人ですね。

満期を迎えて出所した後の勇気は、実家からは勘当され、帰る家もなくなったそうです。噂になり、地元にいられなくなった勇気は、遠くの町に引っ越していきました。日雇いで雇ってくれる工場に就職するものの、前科持ちであることがバレて、いじめられているそうです。無視されたり、仕事のミスをなすりつけられたり。他に働ける場所もないため、耐えて働いているようですが、いつまで持つのでしょうね。

まみさんは、知らなかったとはいえ、幸せを壊したのは事実だからと、自分から百万円の慰謝料を払ってくれています。私はいいと言ったのですが、払うと言って聞かなかったので、いただくことにしました。いただいたお金は、子供の将来のために貯蓄しようと思います。

大変そうではありますが、勇気といた頃はワンオペだったまみさん。今は実家の助けを借りて、お子さんと暮らして幸せそうです。私は以前のような平和な日常を取り戻しました。勇気といた頃には得られなかった幸せな家庭。それをけいと子供と築いています。今度こそ、人並みの幸せを手に入れた私。この平穏な日々が、これからも続きますように。

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