さっきまでケーキにろうそくを立てて笑ってた。幸せがどうして、ここまで一瞬で壊れるんだろう。夫が「荷物まとめて、今日中に出て行ってくれ」って言った時、頭が真っ白になった。原因は、たった1通のメール。私に届いた「次は会える?」という、元夫からの何気ない1行だった。昨夜、隠れて見てたんだ。私への冷めた態度、スマホを離さない姿。夫には「ただの友達だ」と誤魔化したけど、違う。あの人は、私を試してたんだ…

さっきまでケーキにろうそくを立てて笑ってた。幸せがどうして、ここまで一瞬で壊れるんだろう。夫が「荷物まとめて、今日中に出て行ってくれ」って言った時、頭が真っ白になった。原因は、たった1通のメール。私に届いた「次は会える?」という、元夫からの何気ない1行だった。昨夜、隠れて見てたんだ。私への冷めた態度、スマホを離さない姿。夫には「ただの友達だ」と誤魔化したけど、違う。あの人は、私を試してたんだ...

「おい、息子の入学式が始まるのに、なんで母親が来ないんだ?」

電話の向こうで、元夫・勇気が怒鳴っている。久しぶりにかかってきたと思ったら、いきなりこれだ。

「もう離婚したんでしょ。今さら何の用?」

「離婚したって、子供の母親だろ。今すぐ来いよ」

「うちの子はまだ1歳よ。入学式に行けるわけないでしょ」

「え? あれ? まゆみの方?」

「まゆみの方って何?」

「単なる打ち間違いだ。気にすんな」

まゆみはため息をついた。勇気は昔からこうだ。自分勝手で、他人の事情を考えない。離婚して2年経っても、何も変わっていないらしい。

「この際、お前でもいいや。今からA小学校に来れないか?」

「さっきも言ったでしょ。今日は息子の入学式なんだよね」

「はあ? なんで私が? 勇気に小学生になる子供がいたの?」

「6年前に子供が生まれたってことになるよね。それっておかしくない?」

「何がだよ」

「だって、私と結婚したのは10年前で、離婚したのは2年前よ。婚姻中にできたことになるんだけど」

「俺が不倫してたって言いたいのか?」

「それしか考えられないでしょ」

「再婚相手の連れ子だよ」

「なんだ。だったら早くそう言ってよ」

「まあ、そいつとも離婚したんだけどな」

「なのに入学式に行くの?」

「一応、息子の父親やってたし、俺にも懐いてたからな。入学式くらいは参加してやろうと思って」

「じゃあ、私じゃなくて、その再婚相手に連絡しない?」

「連絡が取れないんだよ。息子も遅れてるし。何やってんだか。やっぱダメな母親だな」

「急に来られなくなった理由があるのかもしれないじゃない。それか、あなたより先について中に入ってるのかもよ」

「いなかったら、お前が学校まで来て謝罪しに来いよ」

「なんでそうなるの? まず私、1歳児の育児中だから無理だし。まだ授乳も昼寝も必要な子でぐずっちゃうから、そんな気軽に出かけられないよ」

「お前、再婚したのか?」

「離婚したんだから自由でしょ」

「離婚してたったの2年だぞ。1歳ってことは……お前も浮気してたな」

「悪いけど、あなたとは最後の3年くらい、ほぼ会話もなかったじゃない」

「だからって早すぎるだろう」

「離婚後に出会った人がすごくいい人で、すぐに子供に恵まれただけよ。浮気なんかしてない」

「怪しいが、まあいいか。お前と不毛なやり取りしてたら、もう始まる時間だ。いなかったら絶対に謝れよ」

「知らないわよ。あ、子供が泣いちゃったから、これで終わりね。もう連絡してこないで」

まゆみは電話を切った。あれだけひどい離婚をしておいて、今さら母親として来いだなんて。本当に自分勝手な人だ。

入学式が終わった後、勇気は校内を探し回った。だが、元妻も再婚相手の連れ子もいない。

「私に報告する必要ないんだけど」

まゆみに電話をすると、冷たく言われた。

「でも心配ねえ。入学式に来れないなんて、何かあったのよ」

「いや、俺の方を心配しろよ。ずっと探してたら、教師に声をかけられてさ。『関係者以外はお引き取りください』だとよ。保護者だっつうの。おかげで他の奴らから変な目で見られたんだぞ」

「自分のことより、心配すべきことがあるでしょ。あなたって本当に思いやりのない人ね」

「そんな話をしてんじゃねえんだよ。俺が変な父親だと思われたらどうすんだ?」

「離婚してるなら、どうだっていいじゃない?」

「良くねえよ。俺たちの子が同じ小学校に通うことになったら、あの教師が担任かもしれないんだぞ」

「はあ。何の話してんの?」

「この2年で気づいた。やっぱりお前がいい」

「あのさ、この間も言ったよね。私は再婚して、子供まで産んでるの」

「じゃあ、俺がその子の父親になってやる」

「何言ってるかよくわからないわ。お互い嫌になって離婚したのに、なんで戻らなきゃいけないのよ」

「今の旦那は離婚しろ」

「何も知らないくせに、適当なこと言わないで。自分のこともままならないあなたに、育児なんて高度なことできるわけないでしょ」

「2年前までの俺はそうだったかもしれない。だけど、今の俺は違う。俺は変わったんだ」

「あれだけ何ひとつやらなかった人が、今さら変わる? 料理や掃除、洗濯などの家事は愚か、妊活も非協力的だったじゃない」

「お箸やスプーンは自分で持てるようになったし、お皿だってちゃんと流しに持っていくようになった」

「それ、3歳児でもできるお手伝いなんだけど。当然、洗い物までしてたんでしょうね」

「それは女の仕事だろ」

「さした。そりゃ離婚するわ。再婚相手の人も、あなたと結婚して苦労しただろうね。でも今は離婚したみたいだし、よかったよかった」

「バカにしてんのか? 言っとくけど、バツがついた男ってのは魅力的らしいぞ」

「バツがついた数イコール、結婚に失敗した数よ。それの何が自慢になるの?」

「離婚してから2年経っても、俺の魅力が分からないとは」

「今は幸せよ。そのうち今の旦那も、お前に愛想を尽かすぞ」

「ご心配なく。あなたと違って、家事も育児も協力的なの。家事全般やってくれるし、子供の面倒まで見てくれるの」

「女の腐ったようなやつだな。その旦那かわいそうだわ」

「そういう古い考え方も持ってない、素敵な人よ。おかげで、あなたといた頃よりすっごく幸せ」

「はあ、当て付けか」

「そんなんじゃないけど、あなたには感謝してるの。私と離婚してくれなければ、今の旦那に会えなかった。私と離婚してくれて、ありがとう。それじゃあね」

まゆみは電話を切った。

30分後、今度は夫のケイから連絡があった。

「おい、まゆみ。さっき元夫から電話があったらしいけど、大丈夫か? 何の連絡だったんだ?」

「うん。なんかね、息子の入学式に母親として来てくれって、意味不明な話だった」

「はあ? そいつ、俺の妻に何かってなこと言ってんの?」

「もちろんちゃんと断ったよ。なんでか、また再婚してくれって迫られて、少し怖かったな」

「話に聞いてた通り、本当に自分勝手なやつだな」

「だから離婚したんだけど、まさか再婚を迫られるとは思わなかったよ」

「心配だな。これから1人で行動するのは控えよう」

「出かける時は車で送るよ」

「ありがとう、ケイ」

「なんか嫌な予感がするんだ。念には念を入れよう」

翌日、また勇気から電話がかかってきた。

「おい、まゆみ。なんで入学式に来なかったんだ?」

「ごめん。車で向かってたんだけど、行く途中で事故に遭って」

「事故? 何やってんだよ。これだから運転下手なやつは」

「私の過失じゃないの。赤信号で待ってたら、後ろからぶつかられちゃったのよ。ちゃんと学校には連絡しておいたから」

「俺はずっと待ってたんだぞ。なんで俺には連絡しなかったんだよ」

「着信何度か入れたけど、出なかったんでしょ」

「ああ、金融会社の催促がうるさいから、音が出ないようにしてたんだったわ」

「それより、子供のことは心配じゃないわけ?」

「逆だ。俺を入学式で1人にしたことを、2人で謝罪しに来るのが筋ってもんだろ」

「私は来なくていいって言ったよね」

「離婚しても父親だから行くって、言い張ったのは誰?」

「父親がいた方が喜ぶと思ったんだよ」

「だったら、まず養育費払ってくれる? あの子は、勇気の子でもあるんだからね」

「子供1人育てるのに、金なんていらないだろ。どうせ男でも作ってほったらかしにしてるくせに」

「彼氏なんていないし、作るつもりもないわよ。勝手に決めつけないでくれる?」

「そうやって気が強いから、俺に捨てられるんだ」

「やっぱり、まゆみの方が何倍もいい女だったな」

「まゆみって、前の奥さんだよね。あなたに絡まれてかわいそう」

「お前に、まゆみの何が分かるんだよ」

「今なら分かる。勇気との結婚は地獄でしかないって」

「お願いだから、もう誰とも付き合わないで」

「関係ねえだろ。ほっといてくれ」

3日後、また勇気からメッセージが届いた。

「まゆみ、今日開いてるか?」

「あなたのために空く時間はありません」

「そんな冷たいこと言うなよ。一緒にどこか遊びに行こうぜ。もちろん、お前の子供も連れてきていいぞ」

「教育に悪いので、やめておきます」

「この間、お前に言われたことを振り返って、反省したんだ。悪いところは全部直すから、俺とやり直してほしい」

「幸せだって言ってるのに、なんでそうなるの?」

「俺には、お前が無理してるようにしか見えないんだよ」

「自分だけ不幸だからって、決めつけないで」

「頼むよ、まゆみ。本当に愛してるから」

「もうやめて。本当に気持ち悪い。ブロックするわ」

1週間後。まゆみは、新しい夫のケイと買い物に出かけていた。

「まゆみ、お会計終わったぞ。車の中、涼しくしといたよ」

「ありがとう。次はドラッグストアに行ってもいい? おむつも買っておきたいの」

「いいよ。じゃあ駐車場で待ってるね」

しばらくして、まゆみから電話がかかってきた。

「悪いんだけど、店の前まで来てもらってもいいかな? 元夫に似た人がずっとこっちを見てて」

「え、ストーカーってこと?」

「多分、ここ数日何度か見かけたから、間違いないと思う」

「今日は帰ろう」

「いや、おむつは絶対に買いたいの」

「わかった。店の目の前まで車をつけるから、すぐに来て」

「うん。わかった」

2時間後、また勇気の電話がかかってきた。

「今日、お前のこと見てたでしょう」

「なんでそう思うんだよ」

「スーパーとドラッグストアで、似てる人を見た」

「ああ、俺もたまたま行ったわ。偶然だな。運命かも」

「ふざけないで。でも、やっと話せたな。お前がブロックするから、神様が引き合わせたんだよ」

「やっぱり朝からつけてたのね。いい年して、気持ち悪いことしないでよ」

「怒るなら神様に怒れ。てか、おむつとかお尻拭きとか買いすぎだろう。金遣いの荒い女は捨てられるぞ。ま、その時は俺が拾ってやるけど」

「ブロックするけど、次現れたら通報するから」

「たまたま会っただけじゃ、逮捕されねえよ。それに、ブロックしたら俺、おかしくなって、お前の子供に何するかわからないな」

「何それ? 脅し?」

「仲良くしようぜってこと。まずは飯でもどう?」

「分かった。ブロックはしないけど、ご飯は無理」

「まあ、俺も焦りすぎたかもな。ゆっくり愛を取り戻していこうぜ」

3日後、まゆみたちは再び外出した。もちろん運転はケイだ。

「また出かけてんのか。車は旦那の運転か。旦那に運転させて買い物とか、いい甲斐性だな」

「いい加減にして。あなたのせいで、買い物行くだけで夫に迷惑かけるはめになってんのよ」

「たまたまだって言ってんだろ」

「遠くのスーパーに変えたのになんで一緒になるのよ」

「お前んちの近くにアパート借りたから、出かける時、俺んちの前通るんだよ」

「信じられない。仕事もせず、昼間から何してんの?」

「今は充電中ってやつ。ちゃんと働いて面倒見てやるから、心配すんなって」

「今から警察に行くわ。ストーカーされてるって、警察に相談するから」

「ストーカーって、大げさだなあ」

「本当に怖いし、困ってるの。実害は出てるわ」

「お前と一緒にいたいだけなのに、なんで警察に行くんだよ。自分のことを客観視すれば、よくわかるはずだよ。お願い。もう連絡してこないで」

「照れるなって。あの夫が話したいって言ってるんだけど。俺も話したかったんだよ。人のもの奪っておいて、挨拶もないからな」

「分かった。じゃあ、連絡させる」

5分後、勇気のスマホに知らない番号から電話がかかってきた。

「まゆみの夫のケイです。これ以上、まゆみに付きまとわないでください」

「何お前? 正義のヒーロー気取りか?」

「メッセージだけなら注意しようと思いましたが、付きまとい行為に関しては、警察に相談します」

「はあ? 俺を犯罪者にしようってか。そうはいかないぞ。俺は最初の夫だから、お前より偉いんだよ」

「そんなもの、優劣の付けようがないでしょう。とにかく、このことは警察に相談します。あなたとまゆみのやり取りも証拠になりますので、これ以上メッセージを送らない方が、あなたのためかと」

「やってみろ。居場所を確認してるだけなのに、犯罪になるわけねえだろ」

「わかりました。では、今から警察に行きます」

翌日、勇気は元妻のまみに電話をかけていた。

「なあ、助けてくれ」

「今さら何よ」

「元嫁にストーカー扱いされて、捕まりそうなんだよ。居場所を確認してただけなのに。警察から警告受けてさ、次やったら禁止命令ってやつが発令されるらしい。こんなの理不尽だよな」

「なんでそんなことになってんのか知らないけど、警察から警告を受けるって、よっぽどじゃん。それだけのことを自分がしたってことでしょ」

「俺は無罪だ。息子の父親が犯罪者とか嫌だろ」

「いや、もう離婚してるから関係ないし。悪いことしたなら、ちゃんと償ったら」

「ちょっと様子見に行っただけなのに。ストーカーって勝手に騒がれる、こっちの身にもなれよ」

「まゆみさんが嫌だと感じたら、それはもうストーカーなの。悪いけど、私は味方しないわよ」

「頼みがあるんだ。お前と会ってたことにしてくれないか」

「ありもしない工作ってこと?」

「人聞きの悪い。嘘も方便って言うじゃん」

「嘘の使い方を間違ってるわよ。なんで私がそんな嘘をつかなきゃいけないの?」

「とにかくそういうことにしといてくれよ。そしたら、元嫁との件ってことで終わるからさ」

「嫌よ。私は協力しないからね」

「協力しないなら、こっちにも考えがある。お前、実家にいるだろう」

「なんでそれを知ってるのよ。まさか、私のこともストーカーしてたの?」

「だからストーカーじゃねえって言ってるだろう。元嫁たちの様子を見に行くことが、そんなに悪いことか」

「普通は見に行かないのよ」

「とにかく、俺に協力してくれないなら、お前の実家に行って、息子を連れ去ってやる」

「は? あの子は関係ないでしょ」

「お前と引き離されたら、泣くだろうな。かわいそうに」

「最低ね」

「だったら、俺の味方をしろ」

「分かった。お願いだから、あの子には何もしないで」

「最初からそう言え」

後日、勇気の元妻であるまみが、まゆみに突然連絡をしてきた。

「突然すみません。私、勇気の元妻のまみと申します。まゆみさんでお間違いないですか?」

「ええ、そうですが。勇気の元妻って……どうして私のLINEを?」

「全てお話しします」

まみは話し始めた。あれは2年前。結婚したばかりで、まみが育児に奮闘していた時、勇気はまったく興味を示さなくなった。不倫しているんじゃないかと思い、いけないと思いつつ、勇気の携帯をこっそり見た。すると、そこにまゆみの連絡先があった。

「会話の流れから、あなたが前の奥さんだって分かりました。このことは、勇気は知りません」

「そうでしたか。それで、何の用でしょうか?」

「単刀直入に言います。逃げてください。勇気は、息子が通う小学校の周辺を見張ってるみたいなんです。不審者情報として、保護者同士で共有されてるんです。あなたたち家族にも、何をするか分かりません。どうか、何か起こる前に逃げてください」

「そのために、わざわざ連絡してくれたんですか? ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。警察にも相談して、本人に警告が行ったと思うので」

「知ってます。でも、全く反省していません。まゆみさんと、身近な人の身の安全も確保してください」

「それは、命の危険があるということですか?」

「分かりません。ただ、あの人おかしくなってます。あなたを尾行した日に、一緒にいたことにしろって言われました」

「え、あなたは大丈夫なんですか?」

「今のところは大丈夫ですが。ありもしない工作に協力しないと、私の息子を連れ去ると脅されました」

「なんて卑怯な」

「勇気の実の息子なのに、親権は私にあるのに」

「あ、お子さんと勇気は、血のつながった親子なんですか?」

「そうです。私には『連れ子だ』と言ってたんですけど、紛れもなく勇気の子供です」

「なんてひどい嘘。ということは、あなたは勇気の不倫相手だったんですね」

「私と出会った頃、勇気は『離婚した』って言ってました」

「お子さんが今6歳なんですよね?」

「はい、その通りです」

「今年7歳となる……計算が合いません」

「え、どういうことですか?」

「いつ頃、勇気と出会い、妊娠して出産したか、お聞きしてもいいですか?」

「勇気と出会ったのは8年前です。その3ヶ月後に妊娠が判明して、出産したのが7年前です」

「そうでしたか」

「何か問題が?」

「8年前だとすると、まだ私たちは離婚してません」

「え、私に嘘ついてたってこと?」

「おそらく」

「信じられない。まゆみさん、ごめんなさい。私、知らなかったんです。知ってたら絶対に付き合いませんでした。本当にごめんなさい」

「過ぎたことは仕方ないです。それより、彼をどうにかしないと」

「でも、どうしたら。私たち、手を組みませんか?」

「え? どうするんですか?」

「私たちは被害者です。この苦しみを勇気に、そして世間に知らしめましょう」

1週間後、勇気はまゆみに電話をかけていた。

「まゆみ、警察に相談したこと、取り消してくれよ」

「被害届けを取り下げるっていうの?」

「とにかく、なかったことにしてくれ」

「ストーカーに関しては被害届けじゃなくて相談よ。記録に残るものだから、なかったことにはできないよ」

「あのな、あの日、俺は元嫁と息子と一緒にいたんだよ。お前なんかに構ってる暇はねえの」

「何言ってるの? あの日、丸一日、私に付きまとってたよね。LINEでやり取りもしておいて、嘘だとは言わせないよ」

「それ、お前の妄想だから。俺のLINEには、お前とのやり取りは残ってないけど」

「削除したんでしょ?」

「違えわ。お前、頭大丈夫か? 病院行った方がいいぞ」

「本気で言ってるなら、あなたが病院に行った方がいいよ。だって、ちゃんとスクショしてあるもの。他にも証拠はあるんだよ。店員さんによる『見えない不審者情報』、旦那の車のドラレコにも、尾行してるあなたが映ってる。言い逃れはできないよ」

「壮大で過激な妄想だな」

「警告を受けて分かってると思うけど、次やったら禁止命令。これを破ったら、今度は逮捕されるからね」

「勝手にしろ。俺は絶対にやってない。その日はアリバイがある。元嫁も証言してくれる。俺はストーカーなんかじゃない」

「そう思うなら、勝手にそう思ってればいいよ。少なくとも、私とまみさんは、そう思ってないから」

「は? なんでお前が、まみって名前を知ってるんだよ」

「どうでもいいでしょ」

「それより、私にいくつか嘘ついてるよね」

「何の嘘だよ」

「あなた、本当は不倫してたでしょう」

「不倫してないけど」

「まみさんから直接聞いたよ。お子さん、本当は連れ子じゃなくて、あなたの子供だよね」

「俺の子なわけがないだろ。本当に頭大丈夫か?」

「じゃあ、DNA鑑定でもする? まみさんと連絡を取ってるから、頼んでみるわ。ああ、婚姻中にあなたがまみさんと付き合ってた時のやり取り、お子さんが生まれた時、あなたが出した認知届、全部揃えてもらえるけど」

「まみのやつ、余計な真似しやがって」

「これでよくわかったよ」

「何がだよ」

「何かと必要な書類を揃える時、やたら私に戸籍謄本を取らせようとしなかった?」

「そうだっけ?」

「そうよ。そりゃそうだよね。だって、戸籍謄本を見られたら、子供がいるのがバレちゃうもんね」

「ああ、そうだよ。お前と結婚してた時、まみとは内縁の関係だったんだよ。でも、不倫したのには、お前にも原因がある。はい。女としての努力を怠ったお前が悪いんだ」

「仕事に家事。あなたのお世話に、さらに妊活。確かにあの頃の私はボロボロだったかもしれない。でも、あなたなら、どんな私も受け入れてくれると思ってた」

「甘えんなよ。ま、まみも息子を産んだら女捨ててたけどな。女ってのは本当に根性がねえよな」

「女を捨てたんじゃなくて、母親になったんだよ。子供のために頑張る妻を見て、何とも思わなかった?」

「めっちゃ女捨ててんなとしか。ボサボサの髪にすっぴんは、笑うだろ」

「そっか。そうなるぐらい、まみさんは1人でも頑張ってきたんだね。あなたにはもったいないくらい、素敵な人」

「女を捨てたもの同士、お前ら仲良くなれそうだな」

「そうだね。おかげで、とっても仲良くなれた。あなたを追求するために」

「今さら何を追求するんだよ」

「あなたに慰謝料を請求します。私からは『不貞行為をされたことによる慰謝料』300万円。もちろん、まみさんからも『配偶者の権利を侵害されたことによる慰謝料』200万円」

「ふざけんな。もう時効だろ」

「残念だけど、慰謝料請求は不法行為から20年以内、かつ事実を知ってから3年以内であれば可能なの。だから、私もまみさんも、あなたに請求できるんだよ」

「ふざけんな。そんなの不当請求だろ。俺は絶対に払わないからな」

「そしたら、差し押さえてもらうから、大丈夫。大人しく払った方が、あなたのためだね」

「ちっ。払えばいいんだろ。払えばこの金でチャラだな」

「あともう1つ、忠告しておくね」

「まだなんかあんのかよ」

「あなた、子供を利用してまみさんを脅したんだってね。そのことを、警察に相談したそうだよ。だから、あなたはもう逃げられないね」

「は? まみが? ふざけんなよ。俺のことを守らないばかりか、裏切りやがって。こんなの名誉毀損だ。訴えてやる」

「訴えても、あなたがまみさんに勝てる要素は1つもないよ」

「なんであの女の肩を持つんだよ。不倫相手だぞ。俺には慰謝料請求しといて、まみには何もしないって。そりゃ不公平だろうが」

「あなたがまみさんに独身だって騙してたからだよ。既婚者であることを知らなかったのは仕方ないし。聞けば、家事も育児も全く手伝わないらしいじゃない。そんなの聞いたら、味方するしかないでしょ。私には、まみさんの気持ちも苦労も分かる。だから、味方することにしたの」

「これだから女は嫌なんだ。共通の敵を見つけたからって結束しやがって。そんな女の元で育てられる息子がかわいそうだ。息子は俺が育てる」

「残念だけど、育児してきたっていう実績はないでしょ。なら、親権は間違いなくまみさんになるね」

「俺の子なのに。そんなの納得できるか?」

「結婚した過去があるからって、血が繋がってたって、父親としての資質がなければ、誰も味方してくれない。さようなら。あなたが変わらない限り、あなたはずっと1人よ。もう2度と、私たちに関わってこないでね」

「待ってくれ、まゆみ。俺を1人にしないでくれ」

「さよなら。2度と結婚せず、子供なんか作らないように」

その後も、勇気はまゆみとまみに付きまとい続けた。禁止命令を受けるも、また付きまい。今度こそ、禁止命令違反罪で捕まった。罰金50万円の判決を受け、渋々支払ったものの、それでもなおストーカー行為をやめなかったため、今度は懲役2年という実刑判決となった。

どうしてここまで、まゆみたちに執着したのか。その答えは、裁判所にて明かされた。

「自分のことを見ていて欲しかった。誰も俺のことを見てくれない」

どこまでも自己中な人だ。

満期を迎えて出所した後の勇気は、実家からは勘当され、帰る家もなくなった。噂になり、地元にいられなくなった勇気は、遠くの町に引っ越していった。日雇いで雇ってくれる工場に就職するものの、前科持ちであることがバレ、陰湿な扱いを受けているという。無視されたり、仕事のミスをなすりつけられたり。他に働ける場所もないため、耐えて働いているようだが、いつまで持つだろうか。

まみさんは、知らなかったとはいえ幸せを壊したのは事実だからと、自分から100万円の慰謝料を払ってくれた。まゆみは「いいですよ」と言ったが、払うと言って聞かなかったので、いただくことにした。いただいたお金は、子供の将来のために貯蓄しようと思う。

ワンオペだったまみさんは、今は実家の助けを借り、お子さんと暮らして幸せそうだ。

まゆみは以前のような平和な日常を取り戻した。勇気と過ごした日々には得られなかった、幸せな家庭。それを、ケイと子供と築いている。

今度こそ、人並みの幸せを手に入れた。この平穏な日々が、これからも続きますように。

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