「ごま豆腐のわさびあんかけ」を出した瞬間、相手の母親が箸を置いて言った。「こんな底辺の料理が食えるか。庶民が一族の恥だわ。」——婚約の挨拶の席で、私は娘のために心を込めて作った料理を、目の前でゴミ同然に扱われた。しかも、その日の夜、婚約者からも「父の前であんなものを出すな」と怒られた。私は何も言い返せず、ただ台所で一人泣いた。でも、あの時私は気づいていなかった。彼らが知らないある事実が、数日…

「ごま豆腐のわさびあんかけ」を出した瞬間、相手の母親が箸を置いて言った。「こんな底辺の料理が食えるか。庶民が一族の恥だわ。」——婚約の挨拶の席で、私は娘のために心を込めて作った料理を、目の前でゴミ同然に扱われた。しかも、その日の夜、婚約者からも「父の前であんなものを出すな」と怒られた。私は何も言い返せず、ただ台所で一人泣いた。でも、あの時私は気づいていなかった。彼らが知らないある事実が、数日...

はじめまして。白崎幸子と申します。水希さんのお母様でいらっしゃいますか。

そうだ。わざわざ連絡をいただきありがとうございます。私とお話がしたいとのことでしたが。

はい、水希さんから連絡先をうかがいました。それで、お話というのは何でしょうか。

このたび、水希さんとうちの息子が結婚することになりました。

それはそれは、本当におめでたいことですね。

ところで、我が家の状況についてはご存じですか。

状況と申しますと。

夫のひ明は、食品のおろしを生業とする会社の社長をしております。

ああ、お父様が社長をされているとは聞いておりましたが、具体的にどんな会社かまでは存じ上げませんでした。

そうですか。100年近い歴史を持つ信用のある企業でしてね。多くの氷店や飲食店とパイプを持っております。

それは素晴らしいですね。

おかげさまで業績も右肩上がりです。そして直人は、将来うちの会社を継ぐことが決まっております。

ああ、もう決まっているんですね。

夫も祖父から継いだように、直人もそうなる決まりですので。

そのような方と娘が一緒になれるなんて、本当にすごいことです。

水希さんはお若いのに家事が完璧だと、直人も話しておりましたよ。最近の子はその辺りをないがしろにしていますからね。

それは、水希が長らくひとりっ子でしたからでしょうね。夫が亡くなったのは、水希が小学校に入る前のことでした。私が仕事でできない分を、小学校高学年の頃から水希は一通りの家事をこなせるようになっておりました。

なるほど。そういうことでしたか。

ですが、水希さんのような方であれば、親としても安心して嫁がせることができます。

そうですか。ありがとうございます。

心配なのは、あなたなんですよ。

私ですか。

今もお仕事をされているのですか。

はい、そうしないとご飯が食べられませんので。

確か、ファミレスの厨房でしたよね。

そうです。もうずっとお世話になっております。

正直、そのような方がうちの親族になるのは、我慢ならないんですよね。

どうしてですか。

我々は歴史ある会社の一族です。そして食事に関してもプライドを持っております。おろし先も、古くからのお付き合いや有名なお店だけに絞らせてもらっています。やはり味のいいところじゃないと仕事はしたくないですからね。私たちが仕入れた一流の食材を調理できるところじゃないと、任せることはできません。

なるほど。

こんな私たちからすると、ファミレスなんて具の骨頂ですよ。味もさっぱりしていて、ただ庶民が腹を満たすためだけに行くようなところでしょう。

そんなことないですよ。ファミレスという肩書きだけで判断しすぎです。それに、食事というのはいろいろな楽しみ方がありますから。

そんなのは無知な庶民の言い分です。とにかく、結婚後はあまり我々と関わらないでもらいたい。結婚式も欠席してもらいたいのですがね。

そんなことは、絶対にしません。

まあいいでしょう。そこら辺はおいおい話し合いをしましょう。とりあえず今日は挨拶だけをさせてもらいました。

嫌味を言うのは、挨拶じゃないですよ。

翌日。

お母さん、昨日、直人のお母さんから連絡があったでしょ。

え、そうね。

どうだった。

随分と強烈なキャラクターの人だったわ。

あ、やっぱり。私も初対面の時はいろいろと言われたもの。

大丈夫だった。

いや、そんな嫌味とかそういうことじゃないから。将来的に社長夫人になるのだから、その心構えを持ちなさいみたいなことよ。

そんな、結婚してすぐに社長になるわけじゃないんでしょ。

うん。だって向こうのお父様はまだバリバリ現役だから。社長になるのは10年以上先のことよ。

だったら、まだそんなことを言わなくてもいいのにね。まずはおめでとうだけでいいじゃないかしら。

でも、自分の会社に誇りを持つのは素敵じゃない。お母さんだって看板を背負ったことがあるんだから、それは分かるでしょ。

そうね。でも、私たちはその看板を振りかざすみたいなことはしたことがなかったわよ。

確かに。お父さんもそんなタイプじゃないしね。

そうよ。

まあ、向こうの両親とは同居するわけじゃないし、気にしないよ。

直人さんは大丈夫なの。あなたに嫌なことを言ってきたりしないの。

それはないよ。さすがにそんなタイプなら、結婚なんてしてないって。

それはそうか。

直人は今の仕事をとにかく頑張っているだけよ。将来社長になってちゃんと会社を引き継げるように、常にいろいろなことを考えているような人。そういうところに私は尊敬をして、好きになったんだから。時期社長だからって偉そうにしているタイプじゃないわ。むしろ兜の緒を締めているタイプね。

それなら大丈夫か。安心して。

それよりも、今度向こうの家族がうちに来るのは覚えてる。

え、結婚の挨拶と両家顔合わせを一緒にやるのよね。

そうそう。そこでお母さんの料理を出してね。

うーん。それって本当にいいの。出前で美味しいものを頼んだ方が良くないかしら。

お母さんの料理より美味しいものなんて、この世にないから。

そんなことないわよ。

お願いよ。向こうの家族の胃袋を掴んでよ。そうしたらきっと円満な関係になれるからさ。

まあ、あなたがそういうのなら、やってみるけど。

うん。お願い。

1ヶ月後。

あゆみさん、びっくりなんですけど。

え、どうかしましたか。

まさか、あなたが出す料理を全て作るつもりですか。

そうですよ。娘からお願いをされたので。

そこまで経済的に追い込まれてる状況なの。

どういうことですか。

結婚の顔合わせでババアの手料理を出すとは非常識だって、あなたはありえないことをやってると言ってるんですよ。

ババアとおっしゃいますけど、私よりも年上ですよね。

そんなのは今はどうでもいいのよ。それよりも、手料理を出すとは何事だと言ってるの。夫も息子も、あなたの料理が出てきたことに驚いてるの。

だったら、直接言えばいいじゃないですか。なんでわざわざLINEで苦情を言ってくるんですか。

今日は両家顔合わせという大事な場なんです。そんなところで声を荒げるような品のない真似はしたくありません。あなたも、こんな下品なものは今すぐ下げなさい。

ババアとかそういう下品な言葉は使ってますけどね。LINEならノーカウントってことですか。

黙りなさい。こんなことが許されると思ってるの。

娘のリクエストなもので、一応料理は得意ではあるんですよ。今出してるのは、ごま豆腐のわさびあんかけです。ごまも市販のものではなく、私が作ったんですよ。美味しいので、食べてみてくれないですか。

底辺の料理が食えるか。こんな庶民は一族の恥だわ。

そこまで言わなくてもいいじゃないですか。

言っておくけど、私よりも夫の方が怒ってるからね。この程度で済んでるうちに、さっさと美味しいご飯を出前で取りなさいよ。

それはちょっと。

ああ、もう、こっちで金は出してやるわよ。

最初からそれが目的だったんでしょ。私たちに金を出させるために、こんな貧乏料理を出して困らせようってわけ。

料理に貧乏も何もないですよ。高級な材料を使えばいいってもんじゃないんです。

黙れ。あんたは私たちの言いなりになってればいいのよ。こんな庶民の娘を嫁に取ってあげるって言ってるんだから。もっと感謝の気持ちを表しなさい。

私は庶民でも何でもいいですよ。でも、娘を悪く言うのは許さないですよ。

悪く言いたくもなるわよ。うちにとって都合のいい女だったから、結婚を認めてあげたのに。もしかしたら、間違いだったかもしれないわね。

都合のいい女。とりあえず、今日は帰らせてもらいます。

夫の怒りが爆発するとこちらも困りますので、次回はもうちょっとマシなものを用意しておいてくださいね。

5分後。

直人、ちゃんと説明してよ。いきなり帰っちゃうなんてひどいじゃない。

それはこっちのセリフだよ。なんでこんなことをしたんだ。

何が。

父さんの前で、あんな料理を出したりするなよ。うちが食のプロだって知ってるだろ。

母さんの料理が悪いって言うの。

俺たちは食材を扱うプロなんだ。そのためには常に舌を鍛えておかないといけない。だからこそ、俺たちは食事にはこだわってるんだ。なのに、あんなものを出すなんて。父さんは怒ってる。このままだと婚約破棄だってあり得る。お前はそれくらいのことをしたんだ。

は、母さんの味も分からないくせに、偉そうなことを言わないで。

おい、口応えなんてしないでくれよ。お前は白崎家に嫁ぐ人間なんだぞ。俺の嫁らしくしてくれって。

嫁らしくって何よ。私は私なの。私らしく言わせてよ。

そんなことを言うな。俺が社長になるためには、お前が嫁としてしっかりしてくれないと。

その嫁ってのは、あんたの言いなりってこと。

そうなる。

じゃあ、婚約破棄で。俺と結婚できなくていいんだな。

あんただって、自分の思い通りにならない女となんて結婚したくないでしょ。

当然だ。

だったら、もうあんたたちとは終わり。

ああ、よかった。式とかあげる前に別れられて。

後悔するぞ。

するのは、そっちよ。

2週間後。

ねえ、あなたって、昔料理人をしてたって本当なんですか。

藪から棒に、もう連絡なんて来ないものだと思ってましたよ。婚約破棄もしているので、あなたたちとは他人のはずですよね。

そんなのはいいから、さっさと答えてよ。

一応していましたけど、なんでいきなりそんなことを聞いてくるんですか。

いつも取引をしている高級料亭があるのよ。今、予約も取れないくらい有名なところでね。そこの大将と、あなたのことを話したのよ。

絶対私たちのことを馬鹿にする内容ですよね。

婚約をしたっていう話をしたのよ。それであなたの名前を話したら、向こうが驚いてて。

別に私の名前なんて、どこにでもあるものですから。

ごま豆腐のわさびあんかけを出してきたってのも言ったのよ。したら大将が古い写真を見せてきて、この人じゃないかってね。そこにあなたらしき人が映ってたのよ。

その大将って、何てお名前なんですか。

野村さんよ。

ああ、君ね。懐かしいわ。今でも年賀状だけは律儀に送ってきてくれるんですよ。

じゃあ、やっぱりあなたと大将はお知り合いだったのね。

そうですね。君でしたら、知り合いですね。20年くらい前に、夫と私の2人で小料理屋を始めたんです。夫がオーナーで、私が料理人としてね。その時にバイトとして働いてくれたのが、努君なんですよ。

何度も食べに来てくれって誘ってくれてたんだけど、私はそんなお金なんて出せないから遠慮してたんです。

昔からの知り合いなら、お金なんて取らないんじゃない。

心苦しいんですよ。私も一応料理人をやってたから、料理を作る大変さを知ってるんです。だからこそ、それをただで食べるなんて、とてもじゃないけどできないですよ。

大将が働いていた小料理屋があるというのは、噂で聞いたことがあったわ。数多くの料理人たちが足しげく通ってたってね。でも、いきなり閉店して、料理人がどこに行ったのかは誰も知らないって。

誰も知らないってわけじゃないです。昔からの知り合いには事情は説明してたから。でも、もしそのことがバレたら、スカウトされたりして色々めんどくさいことになると思ったから、みんなが黙っていてくれたんですよ。

どうして店を畳んだりしたの。

夫が亡くなったからですよ。私には経営の力なんてないし、他の人をオーナーとして呼べばいいって言われたんですけど、私はあの人の下以外で料理を作るつもりはなかったんです。元々私は、大好きな人に美味しいって言ってもらいたくて料理を頑張っていただけですから。人様にお金を出して食べてもらおうなんて思ってなかったんです。それで、娘と生活をしていくためにファミレスの厨房で働くようになったんですよ。

あなたのごま豆腐の話をしたら、大将はぜひとも食べてみたかったと言っていました。あなたが手作りしたごま豆腐は絶品だったってね。

懐かしい。努君は私のごま豆腐がとても大好きだって言ってくれてたわね。もし時間があったら作るって、伝えておいてくれますか。

会ったりとかもしてないの。

え、お互い忙しいし、立場も変わってますから。私みたいな庶民が近づいたらダメでしょ。

あのごま豆腐を、私も食べてみたかったわ。

もうダメです。私が料理するのは、家族のためだけですから。あなたたちとは、もう家族でも何でもない。

だったら、料理を振る舞う必要はないはずですよ。大将からあなたの料理がとても美味しいと聞いて、本当に興味があるの。

庶民の味ですよ。それに、私のことや娘のことを馬鹿にした人たちに、私の料理を味わって欲しくなんてありません。どうぞ高級なお店の料理を楽しんでください。それしか美味しいと思えないんでしょ。

3日後。

お母さん、お久しぶりです。ちょっとお時間よろしいでしょうか。

次から次に何ですか。もうあなたたちとは何の関係もないはずですよ。

そんなことを言わないでくださいよ。ちょっとお話をさせてもらいたいんです。

何ですか。

お母さんの経歴を知り、とても驚いてるんです。それで、我々と一緒に仕事をしませんか。

は。

実はうちはおろし業者ではあるんですけど、常々ね、自分たちでも食品を出そうかと考えてたんです。食品開発事業を成功させれば、我が社はさらに大きくなるんじゃないかと考えてたんですよ。

へえ、それはすごいですね。

そこで、お母さんが完全に監修した料理を、うちの商品として出すのはどうかなと思いまして。

バカ言わないで。私のような一般人が、出した料理を誰が食べてくれるの。そんなの企画として没にすべきよ。それこそ名のある料理人さんに頼んだ方がいいわ。

いや、お母さんは名があるんです。

そんなわけないわ。

お母さんの話が飲食業界で広まってるんですよ。お母さんの居所を探してる人たちがいて、合わせてくれって問い合わせをもらったくらいなんです。閉店して10年以上経ってるにも関わらず、多くの人がお母さんのことを知ってるんですよ。これはとんでもないことですよ。別にそんな流行った店でもないのにね。

もしあの当時にSNSやサイトみたいなのが今くらい普及していれば、たちまち人気店になってたでしょうね。

そうかしら。

どうですか。今からその夢を叶えませんか。お母さんの味を全国に広めるチャンスですよ。一緒に俺たちと手を組みましょう。

そんなの、私には全く興味ないわ。

お母さん、このままファミレスの厨房でいいんですか。そんなところで埋もれていいんですか。

あなたも、あなたの母親も勘違いをしてるわ。料理っていうのは、美味しいものを食べるだけじゃないの。家族や友達と一緒に食べて気持ちを共有するとか、空間を楽しむとか、そういう役割もあるのよ。味が全てじゃない。それが分かってないのに、プロを名乗らないでもらいたいわ。

でも、この事業が成功したら、お母さんもお金持ちになれますよ。それはいいんですか。

私は、料理で金儲けをするつもりはないと言ってるでしょ。私にとって料理は、大切な人を笑顔にするために作るものなの。それ以下でも、それ以上でもない。だからこそ、あなたのように何でもかんでも金儲けの道具に使う人は、本当に嫌いです。あなたたちには、料理に対する愛情がないと思いますよ。どうせ仕事をするのであれば、料理を愛し、食べてくれる人を大事に思う人と一緒にやりたいですね。あなたたちとは、絶対に仕事はしません。もう二度と連絡をしてこないでください。LINEはもうブロックさせてもらいます。

翌日。

水希、もう一度俺たちの関係を見つめ直さないか。

は、今さら何。お母さんに断られたから、今度は私を使おうってこと。そんなにお母さんを使って金儲けをしたいの。

俺はただ、お母さんの味を広めたいんだよ。

食べたこともないくせに、よくそんな風に思えるわね。

お前は、美味しいって言ってただろ。

だから何。それでもあんたは、出されたものに一つも口をつけずに帰ったんじゃないの。なのに、今さら広めたいとかバカじゃない。

あんなことをしたのは謝る。でも俺も、父さんの手前、残るわけには。

あら、そうだったら、お父さんのためにも、お母さんを使おうなんて考えない方がいいんじゃない。あの頭でっかちが庶民の料理を商品化するなんて、許すわけないと思うから。

父さんからは許可は得てるよ。必ず実現しろと命令をされてるんだ。

あのさ、あんたたちって本当に食通なの。自分たちの信念とかそういうのないわけ。お母さんの作ったものが無理なら無理で、それはいいよ。でも、ちょっと肩書きがすごいからって態度をころっと変えるなんて、ダサすぎるから。あんたたちは単なるミーハーよ。そんなやつがグルメを気取ってて、本当にダサいわね。

何と言われても受け入れる。俺たちが間違ってたのは確かだからさ。でも間違いは認めて、謝罪だってするよ。だからそっちも受け入れてくれ。そして、話だけでも聞いてくれないか。お母さんのことだけじゃない。お前との結婚だって、俺は考え直したいと思ってるんだ。

何それ。それを言ったら私が折れるとでも思った。こっちはもうすでにあんたに愛想を尽かしてるから。あんたが欲しかったのは、自分の思い通りになる人間なんでしょう。私はそんな風にならないから。お互いをリスペクトし合えるお父さんとお母さんのような関係が、私の理想の夫婦像よ。自分の価値観やルールを押し付けるあんたとなんて、絶対に一緒になるつもりはない。

俺は会社の社長になる、金持ちになることが決まってるんだぞ。

あ、そう。でも、将来は大変になるかもね。

どういうことだ。

あなたたちのおかげで、昔の従業員の人と会うことになったのよ。努さんって人とか、他にも当時の母さんのことを慕っていた料理人の人たちが、我が家に来て食事会をすることになったの。

そうなのか。

そうなの。聞いたら全員人気の料理人になっててね。その人たちに対して、あんたらが私たちにどんなことをやったか、全部話してやるから。

なんでだよ。

あんたたちだってあちこちで言いふらしてるんでしょ。お母さんの知り合いだって自慢して回ってるって、こっちは知ってるんだから。お母さんは静かに暮らしたいって言ってるのにさ。だからこっちも、あんたたちのことを言いふらしてやるわ。

いや、待てよ。

もしかしたら、あんたたちのところから食材を買う人たちはいなくなるかもね。

分かってるなら、やめろって。

いやよ。私の大好きなお母さんと、その手料理をバカにした人間を、私は絶対に許さないから。

勘弁してくれよ。

するわけないでしょ。母の作った料理に箸もつけずに帰るような非常識には、これくらいしてやっても足りないくらいよ。

その後。

それから悪い評判が立ったせいで、誰も直人さんの会社と取引をしなくなったことで、会社の業績は急降下したとのこと。さらに、社長である直人さんのお父さんの部下へのパワハラなども問題となり、社長は解任され、直人さんも居場所を失ってしまい、自主退職をしたのだとか。そこから直人さんは再就職先を探したそうですが、父親のおかげで会社に採用されただけで何ひとつ実績や資格を持っていなかったこともあり、どこも採用してくれなかったとのこと。そこから家族3人揃ってパートをして、なんとか生活をしているそうです。食費を節約するために自炊をするようになったそうですが、お母さんは料理経験がなかったそうで、ずっと美味しくないご飯を3人で食べ続けているのだとか。

一方の私は、努君から一緒に仕事をしたいとお願いされたので、努君の料亭でお手伝いをさせてもらっています。料理を仕事にするつもりはなかったのですが、お世話になった努君の恩返しになればと思って承諾をしました。でも、実際に働いてみると、昔の楽しかった記憶が蘇ってきて、とても幸せな気持ちになれています。

水希は婚約解消も気にせずに、仕事を頑張っています。またいつかいい人がいたら、結婚をしてほしいなと思っています。理想の夫婦像は私と夫のような夫婦だと、水希が言ってくれたのを後から知りましたが、本当に嬉しかったです。だからこそ、水希には必ず素敵な人がやってきてくれると信じています。それまでに私は、胃袋をつかむような秘伝のレシピを教えてあげようかなと思っています。

ご視聴ありがとうございました。

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