「ねえ、ちょっと待って。私の腕時計、どこにあるの?」「知りませんよ。まさか私を疑ってるんですか?」その日、義理の妹・水希が突然、私たちの実家に現れた。三十路を過ぎた水希は、私の目を見て平然と言い放った。「家族なんだから、ちょっとくらい持っていってもいいじゃないですか。」は?家族だからって、物を盗んでいいルールなんてないでしょ?しかもこれ、初めてじゃない。過去には母の指輪、私のネックレス、娘の…

「ねえ、ちょっと待って。私の腕時計、どこにあるの?」「知りませんよ。まさか私を疑ってるんですか?」その日、義理の妹・水希が突然、私たちの実家に現れた。三十路を過ぎた水希は、私の目を見て平然と言い放った。「家族なんだから、ちょっとくらい持っていってもいいじゃないですか。」は?家族だからって、物を盗んでいいルールなんてないでしょ?しかもこれ、初めてじゃない。過去には母の指輪、私のネックレス、娘の...

水希さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。昨日、私の実家に来てたわよね。旦那の実家に行って何か悪いんですか?いや、悪いって話じゃないんだけど、あの時、私の腕時計を見なかった?腕時計なんて知らないですよ。本当に?ちょっと待ってくださいよ、まさか私を疑ってるんですか?疑ってるというか…何度も初めてじゃないからね。信じてくださいよ、本当に知らないんです。そうは言うけど…。ひどいですよ、何かあればすぐ私のせいにするんだから。私が一体何をしたって言うんですか?悪かったわね。でも、どうしてそんなに悪びれずにいられるの?だって私は何もやってないもん。私のネックレスに、お母さんの指輪、うちの娘の服だって盗んだことあるの、忘れた?それは去年までの私の話でしょ。一年経ったんだから、もう手を洗ってますよ。ああ、そういう割り切り方なんだ。盗んだ盗まないを年度ごとに計算するの?それ、どこの国のルール?私のルールですよ。とにかく、腕時計のことについては私は何も知りません。何でもかんでも私のせいにしないでください。お母さんが見たって言ってたわよ。え?お母さん、寝たきりでしょ。私、腕時計をお母さんのベッドの近くに置いてあったからね。ああ、じゃあ、やっぱり寝てると思ってたけど、認めるんだ。はいはい、そういうことにしときましょうか。私が盗みましたよ。ちょっと、それは立派な窃盗よ。謝って済む話じゃないでしょ。いいじゃないですか、家族なんですから。家族でも盗みは窃盗よ。そんなカリカリしないでくださいよ。今度、ババ抜きでもやりましょうか。何でババ抜き?頭を使えば、少しは認知症対策になるかなと思って。あ、でも、ちずるさんには無理でしたね。無理って何が?だって、ババ抜きでしょ。ババと一緒は無理でしょ。ああ、なるほど。反省してないってことね。さあ、私は反省してますよ。それが反省してる態度なの?反省してるって言ってるじゃないですか。それに、幸介さんはいいって言ってましたよ。幸介が?あの人なら確かにいいそうね。でしょ。家にあるものは何でも持っていっていいって。ああ、いいそうね。それはもう窃盗じゃないわね。いや、それはおかしいですよ。そもそも、ちずるさんは幸介さんの奥さんですよね。そうだけど。つまり、幸介さんの実家にただ同居してるだけの世帯主違いでしょ。世帯主の幸介さんの決定に文句を言うのは違うんじゃないですか?それで言うなら、世帯主はお母さんたちでしょ。あんなボケたじいさんばあさんに世帯主が務まるわけないでしょ。世帯主の意味分かってる?家の所有権者ってことよ。ボケてても世帯主は世帯主よ。はいはい、分かりましたよ。じゃあ、私に文句を言う前に、まず幸介さんに話を通してください。いいですね?その夜。幸介、水希を何とかしてくれよ。また何かあったのか。何かってレベルじゃないのよ。私の腕時計を勝手に持っていったの。なんだ、そんなことか。いつものことだろう。いつものことだから困ってるんでしょ。言っておくけど、甘やかしてる幸介にも責任あるからね。そうは言うけどな。お前の態度も悪いんじゃないか。私の態度?若い子でも、一応はお前の義理の妹だぞ。兄嫁相手に少しは失礼が過ぎるんじゃないか。失礼?物を盗まれて、それを追求することが?口の利き方もそうだ。もうちょっと敬意を持てよ。義理の妹って言っても、一回り以上年下なんですけど。なんなら、うちの娘のほうが年が近いし。それは確かに…。とはいえ、その辺の不満は兄貴に言ってくれ。いや、50歳のくせに32歳の嫁か。羨ましいこった。今、羨ましいって言ったな。お前よりは若い嫁のほうがいいからな。それを思えば、水希のやることなんて可愛いもんだろう。だから、そうやって甘やかすから駄目なんでしょ。兄貴にしたって、出張で家を空けることが多いからって、水希を一切叱らないし。兄貴なりに嫁に責任を感じてるんだろ。勝手に感じてればいいけどね。その付けがこっちに来てるのよ。言ってもな、お前はうちの両親の介護をしてるだけじゃん。水希の姉として、もう少し世話してやれよ。介護だけで手一杯です。この上、三十路の子供の世話なんてできるか。ああ、うるさいなあ。うるさいって言ったわね。誰のせいで私がうるさくなってると思ってるの?まあ、ちょうどいいタイミングか。何の話?お前とは離婚するわ。は?年増のおばさんと暮らすのはきついと思ってたんだよ。いい機会だし、離婚だ。おい、同い年だぞ。私が年増のおばさんなら、あんたも年増のおじさんでしょ?分かってるの?男はいいんだよ。男はむしろ歳を取ったほうがダンディズムが漂うからな。だったら女だっていいでしょ。歳を取ったほうがマダミズムが漂うわよ。何だよ、マダミズムって。っていうか、あんまりあっさり言うから聞き流すところだった。離婚って本気?本気も本気だよ。実のところ、ちょっと前から考えてたんだ。俺もお前もいい歳だし、もういいだろ。もういいって何よ?というか、私がいなくなって、お母さんたちの介護はどうするの?十五年も私一人でやってきたのに。それはお前がこのまま続けるんだろ。は?離婚しても、親の介護だけはちゃんと続けてくれよ。頼むぞ。するわけないでしょ。ああ、お前はするよ。なんでそう言いきれるの?だって、お前は義理が好きだからな。うちの親のこと気に入ってるんだろ。母さんも父さんも優しいし。十五年も仲良くやってきた相手を、いまさら見捨てられるか?それはそういうことだ。悪いけど、今日から俺は別の場所に住むから。離婚届は送るから、サインだけよろしく。じゃあ、そういうことで。

翌日。ちずるさん、聞きましたよ。幸介さんに離婚届を突きつけられたんですって?ちょっと待って。今、落ち込んでるから、その話はやめて。いや、でも…。でもも減ったくれもない。落ち込んでるって言ってるでしょ。何で逆ギレしてるんですか。ていうか、これって私が悪いの?何がですか?いや、離婚のことよ。それはあれでしょ。ちずるさんがおばさんだからじゃないですか?そう、そこよ。え、どこ?あいつと私は同い年。つまり、私がおばさんなら、あいつもおじいさん。それはまあ、そうですね。それなのに、何よ、偉そうに。こっちはね、優しさで言わなかったけど、あいつ最近、髪が薄くなってきたの、すごく気にしてんのよ。毎日鏡と格闘してるの。それはそれで、いろいろあるんでしょうね。なら、こっちにもいろいろあるって分かるでしょ。普通、離婚する気があるなら、自分の嫁に言う?こっちは気を使って、見ないふりしてあげてたのに。私のことじゃなくて、毛の心配でもしてろっての。あ、はい。しかもね、こっちは子育てもようやく落ち着いてきたなってタイミングで、義両親の介護が始まったのよ。あ、そうなんですね。そこから十五年よ。十五年ずっと介護してきたの。ワンオペで、大変ですよね。そうよ、大変なのよ。確かに、お母さんもお父さんもいい人たちよ。すごく優しいし、私のことも気遣ってくれる。でも、そういうことじゃないでしょ?分かります。仕事が忙しいから、俺は無理。うっせえよ、お前の親だろ。お前もやれよ。え、ブチギレじゃないですか。それでもね、お母さんたちは好きだし、幸介も仕事大変だろうなって、一生懸命やってきたわけよ。あ、はい。その結果がこれよ?舐めてんの?何様?旦那様?うるさいわね。一人でツッコミ。すっきりした。ありがとう。ああ、いえ。何だよ、その切り替えの早さ。もはや怖いんですけど。用がないなら、もう帰るわ。良くないでしょ。そうね。じゃあ、用があるなら早くして。じゃ、じゃあ、気を取り直して。ちずるさんって、今、四十八歳ですよね。それが、その歳で旦那に捨てられたら、やばくないですか?やばいわね。え?あ、実はあるんですか?なかったら、こんなにキレてないでしょ。それは、うん。まあ、用事はこれだけ?いや、幸介さんと離婚したってことは、もう本気でただの世帯主違いですよね。じゃあ、私に文句を言う資格、なくないですか?そうね。そうねって…え、それだけ?うん、それだけ。え、なんか思ってたのと違う。というか、あいつとの離婚届は、今日、速攻で出してきたし。え、そうなんですか?うん、腹立ったから。そうですか。ああ、お母さんたちの介護はちゃんとやるから、そこは安心してね。あ、はい。他にないなら、失礼するわね。じゃあ。三週間後。いや、マジでお前って都合のいい女だよな。は?突然何だって。そうだろう。離婚したのにお前、親の介護をそのまま続けてるじゃん。こっちは助かってるわ。まあね。私は、親の介護を元嫁に投げるような人と違って、人間ができてるので。嫌味かよ。嫌味よ。はいはい。まあ、これからもその調子で頼むな。ていうか、あんた、今どこに住んでんの?はあ?何で離婚した他人に教えなきゃいけないんだよ。なら、何で離婚した他人の親を介護してんの、私は。それはお前の勝手だろう。嫌なら、うちの親をほっといて出て行けばいいだろ?いいけど。そうなったら、お母さんとお父さんはどうなるんだろうね。ボケたじいさんばあさんが、誰にも世話されずに…。そうだな。いや、お前が介護しろよ。俺はほら、仕事が忙しいし。相変わらずゴミね。住所は早く送ってよ。だから、何で教えなきゃいけないんだよ。あ、そう。じゃあ、あんたの荷物は処分するけど、それでいいわね。は?だから、住所教えたくないんでしょ。それはそうだけど、何で処分なんだよ。あそこは俺の実家だぞ。いや、だって、この家、もうなくなるし。は?何だって?だから、この家はもうなくなるのよ。いやいやいや、何で?売ったのよ、売った。お母さんが。母さんが、来週には出て行かないといけないから、荷物をまとめてるのよ。で、仕方ないから、あんたの荷物を送ってやろうかなと思ってたんだけど、住所を教えてくれないなら、無理じゃん。いや、そういう問題じゃないだろう。どういうことだよ。俺、何も聞いてないぞ。今、言いました。そんな急な。ていうか、何で売るんだよ。母さんたちはどうするんだ?お母さんたちは、実家を売ったお金で介護施設に入るって。はあ?ちょっと前から、そういう話は出てたのよ。俺に何の相談もなく?だって、お母さんたち、あんたはどうせ興味ないだろうって。それはそうかもしんないけど。介護を頑張ってくれてる私が知ってれば十分だって言ってたわよ。なほな。いろいろと大変だったんだからね。海が見える場所がいいよね。え、でも、私も通いたい。じゃあ、ここなんていいんじゃない?みたいな感じで、頑張って探したんだから。いや、なんだよ、その新婚みたいなやり取りは。私とお母さんの実際の会話ですけど、何か?まあ、そういうわけで、来週には施設の入居だから、それまでに荷物を取りに来てね。来ないなら、そのまま処分するから。よろしく。数日後。何だこれ?百五十七万五千円の請求書?どういうことだよ。いや、お母さんたち二人の介護費用だけど。しっかり請求の内訳も詳細に書かれてるでしょ。書かれてるけど、そういうことじゃなくて、何で俺の荷物にこんなもんが入ってんだってことだよ。そりゃ、あんたが依頼人だからでしょ。依頼?俺が自分で言ったじゃないか。離婚後も、お母さんたちの介護を頼むって。え?何?嫁でもない他人を、只で働かせる気だったの?労働基準法って知ってる?捕まるよ。いや、それは、私はお母さんたちの家に住み込みだったから。時給は介護施設職員の平均、二千円。それを三十日間、休みなしのワンオペ。夜勤時給は労働基準法に基づいて、二十五パーセント上乗せね。それで深夜帯は時給二千五百円。この緊急対応費ってのは、睡眠中でも何かあるか分からないでしょ。私一人しかいないんだから、その分よ。時間外労働だから、通常時給に加えて千円。この宿泊手当ってのは、そのままの意味。一泊当たり七千円ね。複数人介護手当。ボケた人を二人担当してるんだから、当然。介護する際の精神的、肉体的な疲労を考えて、一日五千円で計算してます。平均の日中勤務が八時間、夜勤が六時間。諸々の手当や緊急対応費で、一日五万二千五百円。それが三十日で、百五十七万五千円ってわけ。いやあ、私、頑張った。ちょっと痩せたもん。知るかよ。それよりも、こんなのぼったくりだろ。幸介ならそう言うと思ったけど、残念ながら、その金額は妥当です。何でそんなことが言えるんだよ。弁護士の方に相談して出してもらったから。はあ?弁護士?だから、間違った部分は一切ないわよ。実際、三十日間、寝てる時間以外は働いたわけだし。なんなら、睡眠時間も削ってるからね。俺は払わないぞ。はあ、困るんですけど。金が欲しいなら、母さんたちに請求しろよ。あんた、お母さんたちの息子でしょ?それが何だよ。親の扶養義務は、あんたにはないの?払わない場合は、法的手段に訴えるけど、それでもいいのね。ああ、もうクソ。払えばいいんだろ。払えば。ありがとうございます。明日には、お母さんたちは施設に入るから、その準備は手伝ってあげるね。それじゃあ、お振り込みお待ちしてます。

一週間後。夫婦会の皆様。私は夫の幸介と離婚しました。一方的な離婚で、義両親の介護を押しつけられ、その上、兄嫁と不倫までされて、悲しいことですが、私は夫婦会を退会させていただきます。はあ。何だこれ?うん。幸介?何でお前が疑問なんだ?あ、ごめん、ごめん。誤爆しちゃった。てへ。いい歳して、何言ってんだよ。あ、誤爆。ちょっと待て。お前、このLINEをどこに送る気だったんだ?書いてあるでしょ。不人会だよ。不人会って、あれだよな。うちの会社の…。そうそう、奥様方でやってる互助会みたいなやつ。そこにこのLINEを…まさか、まだ送ってないよな?ごめん、もう送っちゃった。てへら。はあ。お前、何やってくれてんだよ。そう言うけどさ、私も夫婦会に参加してて、みんなにはお世話になったのよ。それが何だってんだよ。で、あんたと結婚した以上、さすがに退会でしょ。なのに、事情も言わずに離れるのは、ちょっとね。バカかよ。お前、マジで奥様連中だぞ。俺の同僚の嫁たちだ。知ってるだろ。何だこれ?お前、どんな顔で出社すればいいんだよ。鏡を見てみなさいよ。その顔よ。ていうか、この、兄嫁と不倫って何だよ。適当なこと言ってんじゃねえぞ。いや、してるじゃん。してねえよ。逆に聞くけど、あんな露骨な態度で、バレてないと思ってたの?頭ハッピーターンかよ。露骨な態度って何だ?家にあるものは何でも持っていっていいよ、とか。水希ちゃんは若くて可愛いから許しちゃうよ、とか。それはな、お前、外から見てたら、いい歳したおっさんが何言ってんだって感じで、かなりキモかったよ。言いすぎだろ。まあ、そういうわけで、慰謝料を請求するから。はあ?かなり近しい間柄で悪質性が高いってことで、二百万くらいだって、弁護士さんが言ってた。バカ言ってんなよ。この前、百五十万以上払ったばかりだぞ。ていうか、証拠は?証拠あんのか?まあ、いろいろあるけど、一番効果的なのは、これから手に入るかな?これから?何言ってんだ、お前?ああ、来た来た。え?なんかやばいの?どうしたの?兄貴が帰ってきた。お兄さんが帰ってきたってことは、あんた、離婚してからずっと水希ちゃんといたってこと?そんなことは今はどうでもいいんだよ。それよりも、出張中の兄貴が、何で急に…。ちょっと、何してんの?どこに隠れてんの?そうだよ、どこに?ベッドの下。なるほどね。ちなみにさ、お兄さんが帰ってきたの、私が呼んだから。って言ったら、どう思う?え、ちょっと待って。ベッドの下にいるのか。お兄さんに教えちゃおうかな。ちょ、やめろよ。絶対にやめろよ。何それ、冗談だろ?違うから。頼むからやめてくれ。何で?何でって、兄嫁と不倫してたのがバレたら、大変だろう。兄貴だって傷つくし、家族がバラバラになっちまうよ。お母さんたちを捨てて、私を捨てて。もう、あんたの家族はバラバラだけど。それは、その…。あと、これから、お兄さんともバラバラになるね。あんたと水希ちゃんのせいで。やめてくれよ。マジで、一生のお願いだ。私はね、義理が好きだからさ。元とはいえ、義理のお兄さんを裏切れないの。ってわけで、じゃあね。ベッドの下で、反省してなさい。

二時間後。あんた、何てことをしてくれたのよ。こっちのセリフですけど。一年くらい前に、急に出てきた水希ちゃんが、何てことをしてくれたのよ。はあ?私は別に悪くないでしょ。他人の旦那と不倫してる時点で、悪いから。もう不倫の余波で、兄弟仲も終了させて。何だよ、サークルクラッシャーかよ。だって、両兵とは結婚したばっかなのに、出張とかで忙しくて、寂しくて。寂しいから不倫?しかも、不倫するにしても、旦那の弟はないでしょ。チャレンジャーなの?ギリギリで生きてたいの?だって、幸介さんは優しかったし。幸介の優しさって、完全に下心ありきだったじゃん。それでも、一人よりは寂しくなかったから。あんたの寂しさを埋めるために、こっちが寂しい思いをすることになったんだけど。知らないわよ。ついでに、幸介の頭も寂しくなってるけど。いや、もっと知らんわ。それよりも、どうしよう。両兵、すごく怒ってる。不倫されて、怒らない人のほうが珍しいでしょ。ちずるさんは、怒ってないじゃん。怒っとるわ。怒ってるけど、もう一回転してるの。逆に冷静になっちゃってるの。いろいろとあったからね。その割には、私にめちゃくちゃ愚痴ってたような。またマシンガントークしてあげましょうか。私の口が火を吹くわよ。ごめんなさい。謝られるのも、それはそれで癪なんだけどね。ていうか、そんなことはどうでもよくて、それよりもどうしよう。両兵が離婚して、慰謝料を請求するって。二百万?妥当でしょ。そんなの払えない。それこそ、知らないわよ。まあ、安心して。私は請求しないから。幸介に請求したから。そうそう。別に分けて請求する気もなかったしね。慰謝料は全額、幸介に請求しました。そうなんだ。よかった。その代わり、水希ちゃんには、別で請求があるけど。へ?別?腕時計にネックレス、お母さんの指輪に、うちの娘の服。それらの返還を要求します。あの…。何?ああ、全部、もう質屋で売っちゃって。なら、購入時の金額分のお金を払って。それって、ちなみに、おいくら?お母さんの指輪が特に高かったからね。確か、合計で百万だったはずよ。百万?両兵からの慰謝料と合わせて、三百万。言っておくけど、逃げられると思わないでね。私、あなたが盗む人だって知ってるから、自宅にあるものは全部、写真に撮るようにしてるの。何のために?正確な金額を出すためと、所有してた証拠に。あと、盗まれたことは、その日のうちに記録を取ってる。じゃあ、これって、詰んでる?払う以外に選択肢なんて、残ってないわよ。今度こそ反省します。もう二度としません。だから、許してください。私ね、もう、あんたの言葉を信じてないの。口先だけの反省なんていらないから。反省は、行動で示してちょうだい。そんなことは、今回ばかりは、あんたのルールじゃなくて、国のルールに従ってもらうわよ。

その後、水希ちゃんとお兄さんは離婚。ベッドの下から出てきた幸介は、その場でお兄さんに張られ、二人で土下座したものの、結果はご存知の通り。水希も幸介も慰謝料を請求されることとなりました。私からの請求もあって、金銭的なダメージはかなり大きい。幸介に至っては、今回の件を知った娘から、金も二度と近づくな、クズ、と冷たく切り捨てられ、膝から崩れ落ちていました。その場面を見た私は、思わず吹き出してしまいました。また、夫婦会から広がった噂によって、職場での立場もさようなら。会社では、腫れ物扱いを受けているそうです。一方、私はといえば、娘夫婦の家の近くに家を借りて、一人でのんびりとした日々を送っています。たまに娘夫婦の家にお邪魔してお茶を飲んだり、お母さんたちの入居した介護施設へ行って、お茶を飲んだりしています。お茶ばっかり飲んでるじゃないか、と思われるかもしれませんが、それもまた、幸せな日々です。人にしたことは、いいことも悪いことも、いつか自分に帰ってきます。見事に悪いことが帰ってきた二人を反面教師に、私はいいことが帰ってくるように、日々を過ごしたいと思います。

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