「ねえ、来週の実家帰りたいんだけど…」って言った瞬間、夫の顔色が変わったの。最初はただの手伝いの話だったのに、半年後、彼はこう言った。「お前の親父は無能だな。あれだけ繁盛した店を潰すなんて、逆に才能があるよ」って。その時、十年間の結婚生活が全部嘘だったって気づいたの。社長になるためだけに私と結婚してたって。あの日、彼の本性を知って、私が選んだ道は…まさか、その後、彼の母親が私の会社に泣きつい…

「ねえ、来週の実家帰りたいんだけど…」って言った瞬間、夫の顔色が変わったの。最初はただの手伝いの話だったのに、半年後、彼はこう言った。「お前の親父は無能だな。あれだけ繁盛した店を潰すなんて、逆に才能があるよ」って。その時、十年間の結婚生活が全部嘘だったって気づいたの。社長になるためだけに私と結婚してたって。あの日、彼の本性を知って、私が選んだ道は…まさか、その後、彼の母親が私の会社に泣きつい...

「ねえ、来週の土日なんだけど、実家に帰ってもいいかしら?」

「別に問題ないよ。でも、どうかしたのか?」

「ちょっとお店の手伝いをしようと思って。人手が足りないらしくて」

「そうなの?お父さんの和菓子屋って、店舗もたくさんあるって言ってなかった?従業員も大勢いるんだから、わざわざなお子が手伝いに行く必要もないんじゃないか?」

「いや、それがそうも言ってられない状況なのよ」

「え?どういうこと?」

「最近、原材料が高騰してるみたいでさ。以前ほどの利益が出なくなっちゃったの。だから、どうしても人件費を節約しないといけなくて」

「それで人手が足りてないってことか」

「そうなの。父さんも色々と考えてるみたいだけどね」

「すごく人気の店だって聞いてたんだけどな」

「人気は人気なのよ。父さんとか他の職人さんたちが作るお菓子は絶品だから、全国からお客さんが買いに来てくれるくらいなの。でも、売れたからって儲かるわけじゃないっていうのが、悩ましいところなのよね」

「そうか。でも、それならもっとたくさんの人に来てもらうしかないんだろうな。これどうだ?例えば動画配信をして多くの人に知ってもらうとか、職人さんたちの仕事の様子を配信するとかは?」

「宣伝に力を入れるってことね」

「そうそう。俺はそれがいいと思ってるんだ。動画配信だったら俺も知識はあるし、協力できるぜ」

「父さんがなんて言うかな。昔気質の人で、そういうのは嫌いそうだから。とはいえ、今のまま手をこまねいている場合じゃないわね。何かを変えないといけないわけだし」

「もちろんそうよ。私も色々と考えてるわ」

「だよな。ゆくゆくは俺たちが会社を継ぐわけだから」

「あなたはいいの?会社で頑張って仕事してるのに」

「こんなのはつなぎくらいにしか思ってないよ。俺はなお子と結婚した時点で、後継ぎになる気持ちを持ってたんだから」

「それ、本当なの?」

「当たり前だろ。なんで疑うんだよ」

「いや、そう言ってくれてたのは知ってるんだけどね。とにかく、会社のためにやれることはやった方がいいわね」

「うん。それじゃあ、私はお手伝いに行くから。あなたはどうする?」

「俺は遠慮しておくよ。ちょっと所用があってな」

「分かった。それじゃあ、土日はよろしくね」

「ああ。お父さんにもよろしく言っておいてくれ」

それから半年後。なお子の夫・高志は、帰宅した妻に切り出した。いや、正確には、妻のスマホに届いた義父からの連絡について話を始めたのだった。

「なお子、近々うちに帰ってこれる時間はあるか?」

「うーん、ちょっと厳しいかもね。仕事も忙しいし、他にも色々とやってることがあるから。でも、なんでまた手伝い?」

「いや、将来のことについて話をしておきたくてな」

「将来?うちの店のことだよ」

「ちょっと待ってよ。そんなこと言わないで。うちの作るお菓子は絶品なんだから」

「だがな、利益がどうやっても上がらないんだ」

「だとしても諦めちゃだめよ。これをなくすなんてことはあってはいけないわ。私、ずっと父さんの店を継ぐことが夢だったのよ。それがなくなってしまったら、私、どうしたらいいか分からない」

「そう言ってくれたのは嬉しいよ。でもな、これから先、どうやって利益を出していけばいいのかが、もう分からなくなってしまったんだ。新しく店を出して売上を伸ばすっていう方法も考えたが、銀行からは融資を断られてしまった。だから、八方塞がりなんだよ」

「それで、もう畳むの?」

「そうしようと思っている。なお子は、うちの店のことなんて忘れて、高志君と2人で幸せな生活を送ってほしい」

「高志も、店を継ぐことが目標だって言ってたわよ」

「気持ちはありがたいがな」

「父さん、まだ諦めたりしないで。私ね、何か父さんの力になれないかって、ずっと考えてたの。今の状況で続けるのが難しいってのも分かってたから」

「そうなのか」

「うん。そのために勉強もやってきたの。だから、もうちょっとだけ粘ってほしいの。そうしたら、必ず好転すると思う。私にはその自信があるの」

「分かった。お前は昔から優秀だったからな。なお子が言うのなら、信じてみるよ」

「ありがとう。お願いだから、潰すのだけはやめてね」

「ああ、分かった。ただ、俺のような老体は、早いとこ引退した方が良さそうだ。すぐにでもなお子にバトンタッチをしたいよ」

「うん。私もその覚悟はもうあるわよ」

そして一年後。今度は高志が、妻に電話を入れていた。

「なお子、ちょっと話をしたいことがあるんだ。仕事が終わったら、早めに帰ってきてくれるか?」

「それが、ちょっと残業を押し付けられちゃって。断れないの?」

「無理だよ。そんなことできるわけがないだろう。仕事はちゃんとやらないと首を切られてしまう」

「早くお父さんの店の後を継ぎたいよ。そうしたら、俺もさっさとこんな仕事やめられるのにな」

「ちょっと、そのことについて大事な話があるの。お父さんの店について」

「そうなのか?だったら、今してくれよ」

「でも、大事な話だから、直接言いたくて。こんな焦らされたら、仕事が手につかなくなるって。だから、今言ってくれって」

「そう。分かったわ。実はね、お店を畳むことになったの」

「は?なんだって?」

「長い間、利益を出せてないって話はしてたでしょう。ここ最近、さらに原材料の高騰が進んでね。これ以上、値上げをするかどうかって話になったんだけど、それもできないってことになったの」

「なんでだよ。値上げすればいいじゃん」

「ちょっとずつ値上げはしてたのよ。でも、それでも追いつかなくなって、また値上げをしなくちゃいけなくなったの。でも、これってもういたちごっこじゃない?どうせ今値上げをしても、来年にはまた同じことをしないといけなくなる。この状況に、父さんは疲れたって言ってね」

「なんだよ、それ」

「でね、これから先の話をしたいなと思ってるの。これはさすがにLINEではできないことだから、早めに帰ってきて、色々と話をさせてほしいの」

「いいよ。もう、そんなの聞いてられるか」

「え?どうしたの?」

「お前たちにはがっかりだよ」

「ちょっと待って。急に変よ」

「こっちはな、時期社長を狙って、お前と結婚したんだよ」

「何を言ってるの?社長になりたいって思ってたのは知ってるわよ。だからって、なんでそんなに怒ってるのよ」

「お前の実家は人気の和菓子屋で、売上もすごいってのは聞いてたんだよ。実際にかなり羽振りのいい感じも見えてたからな。それで俺もその甘い汁を吸いたくて結婚したんだよ。それなのに、潰れるなんて最悪だよ」

「ちょっと待って。そんな下心を持って結婚したの?私のことが好きで結婚したとかじゃなく?」

「そんなわけあるか。お前のことなんて全然好きじゃない。それなら、もっと他のいい女と結婚してるよ」

「な、なんですって。マジで十年という時間を無駄にしたよ。ああ、これってお前らのこと訴えたりできないわけ?社長になれるって騙して結婚させたんだから、立派な結婚詐欺じゃねえの」

「それはこっちのセリフよ。私のことを騙してたなんて」

「お前みたいに、いつも机にかじりついてネットを見たり勉強したりしてるつまらない女と、誰が好き好んで一緒にいると思う?その時点で気づかないお前が悪いんじゃねえか」

「あんた、相当なクズ野郎だったのね。私は経営やネット通販について勉強してたのに、そのことを理解してなかったなんて。あなたこそ、自分がおかしいって自覚はあるの?」

「俺はまともだよ。自分の幸せのために金を得ようとするのは当然だろ。ただ、甘い汁を吸おうとしてただけでしょ。でも、それもできなくなってしまったわけだ。マジでお前の親父って無能なんだな。あれだけ繁盛していた店を潰すって、逆に才能があるとしか思えないぜ」

「父さんのことを悪く言うのはやめてよ。父さんはできる限りのことをやったんだから」

「それでこの結果かよ。だったら無能ってことだよ。この世界は結果が全てなんだからな」

「会社員のあんたに何が分かるっていうのよ」

「舐めた口を聞くな。とにかく、もうお前とは終わりだ」

「社長になれないから別れるっていうの?」

「会社が潰れたのなら、お前らと一緒にいる意味はない。今すぐ離婚しろ」

「あんたのしょうもない本性が分かって、よかったわ」

「はっ。それじゃあ、もう俺はそっちには帰らねえよ。実家にでも帰ることにするから。マジで使えねえ一家だったよ」

「じゃあ、離婚の手続きを早めにした方がいいわね」

「当たり前だ」

「こっちは色々と忙しくなるから、あなたも変にごねたりしないでね」

「するか」

翌日、なお子の職場に、一人の女性が押しかけてきた。高志の母親だった。

「なお子さん、あなた、とんでもないことをやってくれたわね。高志から話は聞きました。私たちは離婚をすることになりました」

「別に、離婚すること自体を怒ってるわけじゃないわ。ただ、私たちを裏切るようなことをしたことは許しておけないわ」

「裏切るって、何ですか?私たちがどんな思いで、大切な息子を養子に出したと思ってるの?あなたたちが息子を後継ぎにしてくれると思っていたからよ。それなのに、こんな裏切りをしてくるなんてね」

「別に、私たちは後継ぎにするということを約束したわけではありません。無理だって、あなたたちの方から言ってきたんですよ。私や父は、そんなことをしてほしいとは思ってなかったんです」

「今更そんなことを言わないでよ。あなたたちに騙されたせいで、うちの息子は大事な時間を奪われたのよ」

「親子揃って同じようなことを言ってくるんですね。本当に似た親子って感じです」

「なに?あんたの父親が無能なせいで、こんなことになったのよ」

「ですから、父は何も悪くありません。本当に、使い物にならないわね。勝手に勘違いをしておいて、こちらを責めるようなことはしないでもらえますか?それに、もう離婚するんですから、関係ないでしょう」

「こんなことになるのなら、もっと他の女と結婚させておけばよかったわ。もう今すぐ、婚活をさせて新しい奥さんをもらわないといけないんだから、さっさと離婚してよね」

「四十代で、さらにあの性格では、再婚は難しいと思いますよ」

「うるさい。とにかく、ぐだぐだ言ってないで、さっさと離婚しろ」

「そんなの言われなくても、そうしますよ」

それから二年後。なお子のスマホに見知らぬ番号から着信があった。出てみると、それは高志の母親だった。

「ちょっと、これはどういうことなの?」

「え、何ですか?いきなりどうして急に連絡なんてしてくるんですか?もう高志と離婚してるから、あなたとは無関係なはずですよ」

「そんなの、今はどうでもいいのよ。あなたがテレビでインタビューを受けてたのを見たのよ。社長として大成功してるってね」

「ああ。ありがとうございます。なんかテレビの人が取材をしたいと言ってくれまして、反響も結構あるんですよ」

「成功してるってあれはどういうこと?潰れたって言ってたじゃない」

「そうですね。一度、会社自体は畳んだんですよ。店舗も全て売却をしてね。ですけど、完全に終わらせるということではなくて、生まれ変わるために一度畳んだだけなんです」

「生まれ変わる?」

「原材料の高騰で利益が出づらくなってることを、父はとても悩んでいました。私もそれをどうにかして改善できないかと考えてたんです。そこで、完全に通販に切り替えるという案が思い浮かんで、それに向けて準備をしてたんです。店舗だと店の維持費とか人件費がかかりますけど、ネットなら全くかかりませんからね。それで通販に完全に切り替えたんです。その時に父は引退をして、私が会社を引き継いだんです」

「名前も変わってたわね」

「昔ながらの名前は渋いんですけど、ネットでより検索しやすくしようと思って、今の名前に変更させてもらったんですよ。おかげ様で商いはうまくいって、かなりの利益を出せているんです。元々常連さんがたくさんいたりして、味には自信がありましたから。ネット販売にすることで、より多くの人の手元に届けやすくなれて、よかったと思います」

「まさか、こんなことになってたなんて。どうして言ってくれなかったのよ」

「説明をするつもりでしたよ。一度店を畳んで、復活するための準備をするってね。でも、その前にそちらさんがボロクソに罵られたのでね。それに、離婚をすると言ってきたのもそっちですよ。だとしたら、他人に事業の話をすることはないなと思ったんです」

「そんな…」

「では、もうこれでいいですか?」

「ちょっと待ってよ。高志とは話はした?あの子はまだ独身なのよ」

「だから、何ですか?高志のことなんて、私はこの二年間、一度も考えたこともなかったですよ。あの人が今どうしてるかなんて、私には関係ありません」

「そんなこと言わないで。一度会ってあげたらどう?」

「嫌です。あんな人の顔も見たくない。では、もう二度と連絡が取れないように、ブロックをさせてもらいますから」

三日後。今度は高志が、義父のもとを訪れていた。

「お父さん、どうして俺に言ってくれなかったんですか?」

「誰だ?俺のことを父親呼ばわりできる人間なんていないはずだがな」

「高志ですよ。もう忘れたんですか?」

「ああ、お前か。忘れるわけがないだろう。社長になることを目当てに娘に近づいたクズのことを、俺が忘れるわけがない」

「社長目当てっていうのは酷いですよ」

「違うとでも言うのか」

「俺は、自分がやった方がいいかなって思ったんです。正直、お父さんのやり方は古いなって思ってました。もっと動画配信とかSNSとか、そういうのを駆使してバンバン宣伝した方がいいのに、と考えてたんです。自分が社長になったら、そういうことをやるのになってね。だから、会社が潰れるってなった時は、正直、怒りとか失望が大きかったんですよ。自分が社長になってたら、こんなことにはならなかったのにって。それで感情的になって、離婚とか言ってしまったんです」

「そうか。だとしても現在はなお子が社長になって、会社はうまく回ってるよ。だから、もう気にする必要はない」

「なお子がまさかこんなにできるとは思いませんでした。ですけど、それでも俺はまだ物足りないと感じてますよ。今は勢いがあるからなんとかなってるのかなって感じです。でも、俺ならもっとこの売上を盤石のものにできます」

「口では何とでも言えるよ」

「だったら、実践して見せますよ。そのためにも、お父さんから俺に連絡をするようになお子に行ってもらえませんか?俺、ブロックをされてて、連絡ができないんですよ」

「ふざけるな。なんでそんなことを」

「感情的にならないでください。冷静に判断をしてくださいよ。会社をさらに大きくするためには、絶対に俺の力が必要なんですって。そのためにはまず、あいつと話をしないといけないのにな。なお子も感情的になって、連絡を取ろうとしてこないです。似たもの親子なのはいいことですけど、こればかりは悪影響ですよ。だから、お父さんの方からなお子を説得してください」

「貴様は何を勘違いしている?」

「何がですか?」

「お前に、何度も言うが、会社の経営なんてできるわけがないだろう」

「何を言ってるんですか?俺はそれなりの大学を卒業してるんですよ。会社でも仕事はできる方ですし」

「それが何だ?それで何が分かるんだ?少なくともなお子には熱意があるんだ。何としても会社を守るという思いがあるんだよ。幼い頃から私のそばで店を見守ってきたのはなお子なんだ。なお子は子供の時から、うちの後を継ぎたいと言ってくれた。そのために経営の勉強だってしていたんだ。あいつには覚悟がある。お前のような肩書きだけを欲しがってるような人間とは、わけが違うんだよ」

「失礼な」

「二度とうちの娘に近づくな。もしなお子に何かあったら、俺はお前を許さないからな」

それからまた半年後。なお子の携帯に、見覚えのある名前が表示された。

「高志?久しぶりだな。まさか連絡をくれるなんて、嬉しいよ」

「できれば、こんなことは私もしたくなかったけどね」

「それで、どうしたんだ?もしかして会社の経営に行き詰まってるのか?俺に聞いてくれたら、どんなことでもアドバイスできるよ」

「あなたって、どうしてそんなに自分ができるって勘違いしてるの?」

「何が?」

「父さんから話を聞いたけど、高志って経営をした経験とかあるの?」

「いや、そういうのはないよ」

「経営の勉強はしてた?」

「大学では法学部だったから」

「じゃあ、なんで自分が社長になったらうまくいくって思い込めるわけ?」

「そんなの、見てたら分かるんだよ。商品を売るんなら、動画配信とかでたくさんの人に知ってもらうとかさ。俺はそういうアイデアがすぐに浮かぶんだよ」

「そんなの、誰でも浮かんでるよ。その上で、じゃあどんな動画にしたらいいとか、投稿する内容はどうしたらいいとか、具体的な案はあるわけ?」

「いや、まだ浮かんでないけどさ」

「その程度のやつが、社長になったらうまくいくとか口にしないでよ。父さんも私も命がけでやってるの。あんたのやってることは、それを汚してるだけ。そういうのが一番ムカつくんだよね」

「俺はマジでやれると思ってるんだよ」

「思うだけなら別にいい。あんたさ、そのことを動画でペラペラ喋ってるでしょ?」

「え?」

「うちの会社が通販に切り替えたのは、さも自分がアドバイスをしたかのようなことを喋ってたでしょ。その動画、私、見たんだからね」

「そんなことは言ってないって」

「じゃあ、見返したら、私が言った通りのことをあんたは喋ってる。その上で、私が経営権を奪って家から追い出したとか、わけの分からないことを言ってたわね。何が令和の黒田官兵衛よ。黒田官兵衛はもっと優秀な人だっての」

「いや、それはさ……」

「あんたのやったことは、営業妨害と名誉毀損だからね。あんたのことは訴えさせてもらうわ。動画もすぐに消しといてもらえる?あんたのせいで、私に対して誹謗中傷してくるやつもいて困ってんのよ。店の売上にも悪影響だし、その分の損害賠償も請求させてもらうから」

「いや、ちょっと待てよ。落ち着けって」

「落ち着いてなんていられないわよ。こっちはようやく念願叶って、父さんの後を継いで社長になったのよ。順風満帆に見えてるかもしれないけど、正直ずっと綱渡り状態なの。お店の味を守るために、こっちは必死で戦ってるのに。あんたみたいな奴の対応をしないといけないのが、めちゃくちゃストレスなのよ。自意識過剰の勘違いは結構だけど、他人に迷惑をかけるようなことだけはやめてよね」

「でも、俺は本当に社長になりたくて」

「待ってるだけで社長になれると思ったの?」

「そのために、あんたは何をしてたのよ。私は足しげくお店に顔を出して、どういう状況かを見てたのよ。うちの和菓子の味を残していくために、どうしたらいいかの案を練ってた。そこでネット通販を思いついたけど、ノウハウがないから机にかじりついて勉強してたの。それに比べて、あんたは何をしてた?ただ家でだらだらとしてただけじゃない。あんたはただ、社長になれる日が来るのを待ってただけ。私は社長になるために努力をし続けてたの。だから、あんたと私は大違いってこと。それは分かるわよね」

「いや、俺もさ、動画配信とかできるための勉強を……」

「あんたがかわいそうだから、否定してあげなかっただけ。あんたが思いつきそうなことは、お父さんも全部やってたから。もちろん今もね」

「それは分かったよ。俺が悪かった。だから、訴えるとかそういうのはやめてくれ」

「嫌よ。あんたのことは絶対に許さないから」

「俺にそんな損害賠償とか、払える金なんてねえって」

「だったら、あんたも会社を起こしてお金を稼いでみたら?自信があるんでしょ。だったらやってみなさいよ。まあ、無理か。あんたはただ甘い汁が吸いたいだけだったんだもんね。そんなに甘い汁が好きなら、お汁粉でも飲んでればいいのよ。私の店では買えないけど、冬なら自販機でも買えるわよ」

その後、なお子は宣言通りに高志を訴えた。当然、全ての訴えが認められ、高志は高額の損害賠償を払わないといけなくなった。さらに、そこで分かったのは、高志がなお子と別れてから会社を首になっていたということだった。元々なお子の家の会社を継ぐと思っていたので、仕事に身が入ってなかったらしい。

収入源としていた動画もなくなり、高志はアルバイトをしながら実家で生活をしていたようだが、そこから一発逆転をしようと、自分でお菓子の会社を起こそうとした。しかし、相変わらずのノープランで、何もうまくいかず、借金を作る結果に。それからは別の和菓子工場でライン作業のバイトをして、年下の先輩に怒られながら仕事をしているようだった。

高志の母親も、何度かなお子の会社に泣きついてきたらしい。金銭的な援助を求めてきたようだが、もちろんなお子は追い返した。どこにも頼ることができず、貧しい生活を送っているんだと思う。それから、あの連中がどうなったかは分からない。

一方のなお子は、今も会社を切り盛りし続けている。大切な店の看板を守るために、今もなんとか戦い続けていて、大変ではあるが充実した毎日を過ごしている。高志のように口だけで何もしない人間にはなりたくないので、何事にも果敢に挑み続け、父が守ってくれた最高のお菓子が、多くの人の手に届けられるように頑張っていきたいと思っている。

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