静かな住宅街のリビング。コーヒーを片手にテレビを見ていた私に、夫がとんでもない爆弾を落とした。「3人も愛人がいるけど、それでもお前は選ばれた女だよ」って。頭が真っ白になった。結婚してまだ2年なのに。私は怒りで震えながら「どういうこと?」と聞き返した。すると夫は笑って「お前は奥方の座を勝ち取ったんだ。これからはオープンマリッジでいこう」と言った。私が「納得できない」と告げると、夫は冷たい目で「…

静かな住宅街のリビング。コーヒーを片手にテレビを見ていた私に、夫がとんでもない爆弾を落とした。「3人も愛人がいるけど、それでもお前は選ばれた女だよ」って。頭が真っ白になった。結婚してまだ2年なのに。私は怒りで震えながら「どういうこと?」と聞き返した。すると夫は笑って「お前は奥方の座を勝ち取ったんだ。これからはオープンマリッジでいこう」と言った。私が「納得できない」と告げると、夫は冷たい目で「...

「3人も愛人がいたって、いったい何を考えてるの?」
「怒ってるのか?」
「当たり前でしょう。結婚してまだ2年目なのよ」
「大丈夫だ。お前は選ばれし女なんだから」
「はあ?」
「その3人は妻の座を手に入れられなかった。でもお前はどうだ?制裁のポジションを勝ち取ったんだぞ」
「だから何?そもそも戦いに参加すらしてないから、勝っても嬉しくないの。プロ野球だって2軍の試合は誰も見ないでしょ。注目されるのはいつだって一軍の選手よ」
「じゃあお前は一軍ってことか。しかもエースだ。すごいじゃないか」
「褒められてるの?けなされてるの?」
「今後はオープンマリッジでやっていこう」
「は?」
「夫婦が互いの合意の上で、配偶者以外の人と恋愛したり関係を持ったりするのを認め合うことらしいぜ」
「どっかのYouTuberみたいなこと言わないでくれる?」
「俺もお前が誰と遊ぼうが許容する」
「私はそんなことするつもりはない。あなただけを愛すると決めて結婚したの」
「そっか。お前はそれでも構わないぞ。ただ、俺は自由にさせてもらう」
「一方的な思いなら関係は続かない。私はそのなんとかマリッジみたいな考えには賛同できないから」
「なんでだよ。このままでいいじゃん」
「そんなに女遊びしたいなら、独身でいればいいでしょ。そうすれば慰謝料も請求されずに済むわ」
「お前、俺から金を取る気でいるのか?」
「当たり前でしょう。3人の女にも請求するわよ」
「やめろ」
「は?むしろ払うのはお前の方でしょ」
「なんでだ?俺は離婚したくないと言ってるのに、無理やり別れようとして俺を傷つけてるだろう」
「何なのよ、その理屈は」
「俺は徹底的に戦うからな」
「じゃあ、調停になるわね」
「調停でも離婚でも、かかってこい」
「じゃあ、遠慮なく行かせてもらうわ」
「待て待て待て。一旦落ち着け。お前が妻として堂々としていればいいじゃないか。お前は奥方のようなものなんだから」
「何時代の話をしてるのよ」
「一晩寝れば頭も冷めるだろう」
「お前が冷めなさいよ。こっちは頭に血が上ってるのに、無理して冷静に話そうと頑張ってるの。これ以上怒らせないでくれる?」
「アイスとトマトケーキを食って寝ろ。女が機嫌よくなる三大アイテムだ」
「女をなめすぎでしょ」

数日後。
「男の浮気ぐらいで離婚だなんて騒いでんじゃないわよ」
「お母さん、なんで知ってるんですか?」
「サトシに相談されたの」
「母親に泣きつくなんて情けないわね。男の浮気くらい許してあげなさいよ」
「冷静に考えてください。1人でも許せないのに、3人もいるんですよ」
「息子が愛人を作ったのは、あんたに魅力がないからよ」
「私の味方をするんですか?同じ女性として理解してくれると思ってました」
「私の夫は18人も女がいたわ」
「何の自慢にもなりません」
「私は18人のハーレムの頂点に立ったのよ。その優越たるや、素晴らしいものよ」
「私には一切理解できない感情です」
「女が家庭をちゃんと守っていれば、男は最後に必ず戻ってくるものなの」
「お父さんと離婚してるお母さんが言っても、何の説得力もないんですが」
「それはあれよ。15番目の女が妊娠して大騒ぎしたから、そいつにくれてやっただけ」
「結果的に取られちゃってるじゃないですか」
「とにかく離婚はやめておきなさい」
「嫌です。こんな裏切り許せません。絶対に離婚します」
「心の狭い女ね」
「何と言われようと、無理なものは無理です。私だって不潔すぎて顔を見るのも嫌なんですよ」
「あんただって別に聖人ってわけじゃないでしょ」
「他の誰かに触れた手で私を触れてると思ったら、鳥肌が止まらないんです」
「汚れてるのはお互い様じゃないの?」
「私は結婚してから裏切ったりしてませんから」
「とにかくサトシは離婚したくないと言ってるの。それでもするって言うなら、あんたが慰謝料を払いなさい」
「なんでですか?私は悪いことなんかしてません」
「離婚したいって言い出した方が払うのよ。そんなことも知らないの?」
「知りませんね。そんな常識は存在しないので」
「私だって可愛い嫁を失うことを考えたら、胸が引き裂かれそうに辛いの」
「可愛い?誰のことですか?」
「あなたしかいないじゃない」
「こんな状況で味方もしてくれないのに、可愛い?」
「そうよ。離婚なんかやめましょ」
「嫌です。絶対に別れます」
「じゃあ、離婚の慰謝料は私にも払え」
「冗談やめてくださいよ。結婚の挨拶の時から、私の目を見て『子供に人の遺伝子が遺伝するのは勘弁してほしいわね』って笑ったのはお忘れですか?」
「うん。忘れた」
「新居に招いて初めて手料理を振る舞ったら、『ザリガニを生で食べた方が美味しいわね』って大口開けて笑ったのはお忘れですか?」
「冗談を言っただけじゃないか」
「緊張してる嫁がその冗談で笑うと思います?」
「思うから言ったけど、笑わなかったからがっかりした」
「そもそもお母さんと私は、笑いのツボも考え方も何ひとつ合いません」
「でも夫婦仲は良かったじゃない?」
「それはサトシさんが私だけを見てくれていると思っていたからです」
「あなた、運転免許持ってる?」
「持ってますけど、何の話ですか?」
「正面だけを見て運転できる?」
「まあ、無理ですね」
「そうよね。右も左も後ろも見ないと安全な運転はできないわよね」
「何を何と一緒にしようとしてるんでしょうか?」
「人間というのはよそ見をするものなの。30過ぎた大人なんだから、それくらい分かるでしょ」
「もういいです。これ以上話しても無駄だと思います」
「離婚だけはダメよ。いいわね?どうしてもするなら、お金を払って別れなさい」

数分後。
「お母さんに泣きつくなんて、何を考えてるの?」
「女性のことは、女性の先輩である母さんに聞くのが一番だと思ったんだ」
「さすが親子ね。まったく同じ思考回路で、遺伝の恐ろしさを感じたわ」
「母さんは俺の良き理解者だからな」
「お父さんは18人の女性と浮気してたらしいわね。サトシもお母さんも辛い思いをしてきたのに、どうして同じことができるの?」
「あ?誰が辛いって言った?」
「苦しい思いをしているお母さんを見てきたのよね。辛くないはずがないでしょ」
「綺麗なお姉さんたちに可愛がってもらえたし、まったく嫌なことはなかったんだよな」
「家庭環境が悪すぎたのね。ある意味あなたも被害者かもしれないけど、だからと言って許される問題じゃない」
「許さなくていいから、黙ってりゃいいじゃん」
「なんで離婚したがらないの?」
「なんか既婚者の方がモテるんだよな。背徳感っていうのか、人のものに手を出してる罪悪感で燃えるんだって」
「悪い女たちだよな」
「同意を求めるな」
「左手の指輪に興奮するっていう子もいるんだよ。揃いも揃ってアホ女」
「なあ、頼むよ。離婚を考え直してくれないか」
「そこまで言うなら、仕方ないわね」
「本当?」
「家庭環境のせいでこうなったんだとしたら、あなたに責任はない気がしてきた」
「ありがとう。会社に報告するのが一番だるかったんだよね。マジ助かるわ。サンキュー」

3ヶ月後。
「なんだ、この内容証明は?」
「不倫の慰謝料請求だけど」
「800万って何の数字だよ?」
「4人×200万。まさか探偵に依頼している間に、1人増えてるとは思いもしなかったけどね」
「え?お前、探偵なんかつけてたのか?」
「そうよ。証拠がないと請求できないから。そのために、離婚するのを遅らせたの」
「詐欺だ」
「詐欺の意味を調べてから出直してくれるかな?」
「ふざけやがって」
「ちなみに4人のアホ女たちにも請求するわ。探偵さんのおかげで、全員の住所が特定できたし」
「はあ。かわいそうだろ。やめてやれ」
「人の旦那に手を出した奴らがかわいそう?可愛い女の子たちなんだぞ」
「じゃあ私は何?浮気されても平気な強気のメスゴリラにでも見える?私だって女なのよ。裏切られれば傷つくわ」
「ごめん」
「やっと謝ったね」
「そうだった。お前はゴリラじゃなくて女だった」
「今気づいたのかよ。でも不思議なのよね。収入も顔も身長も、すべてが平均値のあなたが、どうしてこんなにモテるのか」
「俺も分からない。でも俺には、女を子に付けるホルモンが絶え間なく放出されてると、2番目の愛人が言ってた」
「フェロモンじゃない?」
「そうとも言う。3番目の愛人が言うには、駆け引き上手で会話してて心地がいいんだって」
「それは分かる気がするけど」
「1番目の愛人は、ガツガツしてないところが好きなんだって」
「え、親父も金持ちイケメンってわけでもなく普通だったけど、遺伝子ってあるのかもしれないな」
「そんなもの存在しないし、遺伝してるとしたら理性がないところだけだと思う」
「まあ、運命ってやつだよな。我ながら罪な男だよ。ただちょっと慰謝料が多すぎるんで、減額してくれ」
「無理。1円も負けない。文句があるなら、裁判でも何でもして」
「ええ、めんどくせえよ」
「離婚の件も、弁護士を通してください。ではさようなら」
「おい、金の話がまだだろ」

翌日。
「この強欲な強気メスゴリラ」
「息子さんにLINEを見せてもらったとしか思えない」
「見覚えのある悪口ですね」
「何が800万よ。払うのはあんたでしょ」
「なんでですか?私は被害者ですよ」
「その上の子たちにも請求するなんて、かわいそうだとは思わないの?」
「思考回路が同じなんですね。さすが親子」
「男の浮気の1つや2つ、笑って許しなさいよ」
「3つや4つは、さすがに無理でした」

「カッパを見たことある?」
「また始まった。今度は何の話ですか?」
「答えなさい。カッパを目撃したかと聞いてるの?」
「ないですね」
「存在を信じる?」
「ああ、いえ、いるわけがないと思ってます」
「それよ。いい?この世にカッパがいないのと同じで、浮気しない男ってのも存在しないの」
「お母さんの例え話は毎回極端すぎて理解に苦しむのですが、それでも別れるって言うなら、離婚すると主張した方が慰謝料を払うのよ」
「すみませんが、どの国の常識ですか?」
「日本に決まってるじゃない」
「サトシにも言いましたけど、納得がいかないようでしたら裁判でも何でもしてください。受けて立ちますので」
「そんなことして損するのはあんたなんだから、さっさとお金を払って終わりにしなさい。500万円、今すぐよ」
「はーい」
「え、本当?やっと諦めたの?」
「はーい。そうよね。最後くらい、立つ鳥跡を濁さず綺麗に割りたいものね」
「はい。素直でよろしい」
「じゃあよろしく。楽しみね」

数日後。
「あんたの愛人は全員頭がおかしいのかな?」
「お、4人から1人当たり300万円の慰謝料請求が来たんだけど」
「へえ、そうなんだ」
「不思議なことに思考回路がお母さんと同じで驚いてるんだけど」
「俺に言われても分かんないな」
「お母さんが先導したとしか思えない」
「そんなわけないだろう。こっちが100万円で勘弁してやったっていうのに、その3倍を請求してくるって、何なの?」
「そうね。大体、私が奴らに何をしたって言うのよ」
「知らね」
「気が収まらないわよ。あんたも絡んでるんでしょ?」
「違うって。そもそも、どうして私の実家の住所を知ってるの?」
「なんでだろうな」
「あんたが教えたからに決まってんでしょ」
「そんなことするわけないし」
「何が嫌って、実家の住所を知られたことよ」
「何かするってことはないと思うよ。それなりに常識はある子たちだし」
「常識があったら、こんなことはしないのよ」
「まあまあ、そんなに怒るなよ。大体、お母さんが私に慰謝料を要求するのが間違ってるんだけど」
「なんで?」
「お前は母さんを傷つけたでしょう」
「絶対に違うけど」
「1億歩譲ってそうだとしようか。だとしても、愛人たちはどう傷ついたの?」
「慰謝料請求をされて、精神的にダメージを受けた」
「だから私に請求してきたってこと?」
「うん」
「はあ。慰謝料請求に対して慰謝料請求するなんて、30年も生きてて初めて聞いたんだけど。弁護士から書類が届くということが、どれだけストレスになるか分かる?」
「ちょっとびっくりしてるわ」
「何が?」
「大人6人が集まって、その結論に至ることがよ」
「さっさと金を払って終わりにしようぜ」
「やだ。この親子、同じことしか言わない。怖い。腹が立つのを通り越して恐怖だわ。無視しよう。もう無理。さようなら」
「は?待てよ。金の話が終わってないぞ」
「さっさと離婚届にサインして。じゃないと調停になるわよ」
「受けて立ってやるぜ」

2年後。
「まだ誰ですか?」
「もう忘れたの?サトシの母よ」
「ああ、そんな人もいましたね」
「調停で離婚が成立してから、挨拶にも来ないなんて」
「お金の話しかされないと思ったので、行きませんでした」
「あなた、今何をしてるの?」
「言いたくないです」
「知ってるのよ。再婚したんでしょ?」
「いや、してませんけど」
「なんで隠すのよ」
「隠してないです。仮に本当だとしても、お義母さんに詮索される筋合いはありませんよね、このメス豚」
「は?離婚して2年も経たないうちに再婚ですって。風船より軽い女ね」
「婚姻中に他の女性に手を出した息子さんのことは、1度も叱らなかったのになぜ私だけの軽さを怒られるんでしょうか?」
「他人だからよ」
「他人の再婚に口出ししてる現状を、どう思います?」
「うるさいわね。いいから早く降りてきなさいよ」
「はい?今あんたの会社の受付にいるの?」
「嘘でしょ?」
「このカウンターに座ってるブスが全然仕事しないから、今怒鳴りつけてやったところよ」
「なんでここまでするんですか?」
「別に意味はないわ」
「何かあったんじゃないですか?」
「え?」
「確かにお母さんはすごく非常識で変人のクソババアですけど、ここまでするのには何か理由があるんじゃないかと思って」
「あなた、今すごいこと言ったわよ」
「本当は事情があるんですよね?」
「やあ、それが実はね。サトシがあの後、愛人4人を紹介してくれたんだけど、私、今そいつらにいびられてるの」
「え?笑った?今笑ったでしょ?」
「ごめんなさい。気にせず続けてください」
「ご飯を作らされたり、4人のマンションの部屋を掃除させられたり、人気のスイーツの行列に並ばされたり」
「はい」
「あ、あなた、今ご飯中なの?」
「まあ、そんなところです。続けてください」
「それで毎日使われて、疲れ果てるのよ」
「普通に断ればいいじゃないですか。お母さんなら、そのくらいのことは言えますよね」
「サトシが気づいたハーレムを私が壊したら、あの子が悲しむと思って、何も言えないの」
「お母さん、その気遣いは間違ってますよ」
「え?」
「正直に答えてください。お父さんに18人も女性がいて、本当に幸せでしたか?」
「それは……人間というものは、男女問わず嫉妬するものです。男性ですら『あいつは俺より稼いでる』とかで嫉妬するし、ママ友の子供が自分の子よりいい学校に入ったとか。大抵の人はそういうものに囚われてるんです」
「確かにそうね」
「本当は悔しかったんじゃないですか?」
「そうよ。嫉妬で頭がどうにかなりそうだった。でも、それも最初の5人まででね。あとはもう諦めるしかなかったの。叩いても叩いても湧いてくる虫みたいに、浮気相手がうじゃうじゃいたのよ」
「お辛かったですよね」
「割り切るしかなかったわ。『私は浮気されても耐える制裁なのよ』って。虚勢を張っていれば、強くいられたのかもね」
「お母さん、かっこいいです」
「え?ああ、ごめんなさい。もう離婚してるし、お母さんなんて呼んじゃいけないですよね」
「そんなことないわ。好きに呼んで。ただ、私がかっこいいってどういう意味?」
「虚勢を張るって、強くないとできません。自分は制裁なんだってプライドを最後まで守ったこと。なかなかできることじゃないと思いますよ。不倫は契約違反なんですよ」
「え?」
「お母さんが、家電量販店で洗濯機を買ったとします。来週の日曜日に配達と聞いていたのに、いつまで待っても届かなかったら、どうします?」
「そんなの怒るに決まってるわ。約束が違うもの」
「そうなんです。不倫は契約違反なんですよ。民法上も不法行為として扱われます」
「そうなの?」
「あなただけを愛するって、結婚式で誓いましたよね」
「そうね。神父の前で『誓います』って言ったわ。でもすぐに浮気されちゃったけどね」
「約束を守らず洗濯機を配達しない電気屋と同じです」
「確かにそうかもしれない。私が間違ってたわ。今さら腹が立ってきた。夫にもだけど、息子に対しても」
「2年間、理解してくれて嬉しいです」
「結局、慰謝料は払われたの?」
「いいえ。時効が3年なんで、そろそろ裁判しようかと思っていたところでした」
「私、協力するわ」
「え?」
「女のプライドを守る戦いよ。浮気されて泣き寝入りなんてあってはならないの。男と愛人たちに報いを受けさせましょう」
「お母さん、私、いいこと思いついたわ。また連絡するわね」
「何をする気ですか?」
「いいから任せてちょうだい」

2週間後。
「愛人Aに本命の彼氏がいることが分かったわ。結婚間近で、近々ハーレムを抜けるそうよ」
「お母さん、一体どうやって?」
「今までは嫌々あいつらに使われてきたけど、従順な家政婦のふりをすることにしたの。そうしたらあっさり騙されてくれて、何でも話してくれるようになったわ」
「さすがです」
「探偵を使ったから、あいつらの素性は把握してるのよね」
「はい。ただ、ここまで詳細までは知らなかったです」
「Bはモデルの卵なんだけど、来週CMのオーディションがあるらしいわ」
「へえ」
「愛人Cは看護師で、議員の愛人もやってる。議員は既婚者で有名らしいわ」
「ほお」
「愛人Dはマネーの猿にも出てる女社長なんだけど、近々上場を目指してるらしいの。スキャンダルには敏感な時期よ」
「こんな大物まで。妻の私が言うのも変ですが、どこにリスクを置いてまで付き合うほどの魅力があるんだろう」
「こういうタイプこそ、お金じゃない部分に価値を見出すのよ」
「なるほど。それにしてもすごいメンツだ」
「まずはハーレムの破壊ね。慰謝料も払わず、のうのうと暮らしてる女たちに正義の鉄槌を食らわせてやりましょう」
「お母さん、頼もしい」
「私たちは謝罪を犯したわ。本当に反省してる。息子可愛さに、あなたを傷つけてしまった。今さらだけど、償わせてほしいの」
「簡単に許しますって言えないくらいには傷つきましたけど、お気持ちはありがたく」
「許す必要なんかないわ」
「え?」
「これは私の戦いでもあるの。散々浮気して償いもせず逃げた旦那と、本当の意味で決別するための戦いよ」
「あんだけ嫌いだったお母さんが、今では最高に素敵に見えます」
「あなたは昔から一言余計よね」
「すみません」
「よし、早速ハーレムという名の砂の城を踏み潰して壊してやりましょう」
「はい」

1週間後。
「お前の仕業か?」
「はい」
「俺の元から女たちが去ってった。一気に4人全員だぞ。こんなのおかしいだろ」
「マジ?すごいな」
「お前が何か吹き込んだんだろ」
「離婚して2年も経つのに、まだ俺に執着すんのかよ」
「私は何もしてないけど」
「嘘つけ。俺が確実に嫌がることをするのは、お前しかいないんだよ」
「それがさ、やったのはお母さんなんだよね」
「何を言い出すかと思えば、今度は母さんのせいか。母さんは俺の味方だぞ。裏切るわけがないだろう」
「正確には、味方だったってのが正しいかも。つい先日、私の方に味方してくれたから」
「どういう意味だ?」
「ようやく気づいてくれたみたい。浮気される側がどんなに辛いかってことに」
「アホ言うな。母さんは父さんに18人の愛人がいても耐えてた女だぞ」
「それすら間違ってたと、今になって分かったのよ。父さんと離婚してから10年以上経つのに、今さら」
「10年だろうと20年だろうと、愛する人に傷つけられたことは忘れないわ」
「女ってそういう生き物なの?」
「本当は嫉妬で苦しかったそうよ。でも割り切るしかなかったって本音を教えてくれた」
「だからって、敵対してたお前と手を組むなんてありえない」
「私だって全て許したわけじゃない。でもこうして実際に動いてハーレムを破壊してくれた。その点においては信用に値すると思ってるし、心から感謝してるわ」
「でもお前、再婚したらしいじゃん。今さら俺のことなんてどうでもいいだろう」
「再婚なんかしてないわよ」
「え?知り合いの知り合いからそう聞いたぞ」
「仕事で結婚式場に出入りすることが多いから、それを見た誰かが誤解して拡散したのかもね。人の噂なんてそんなもんよ」
「そうだったのか」
「誰かを好きになって結婚するのが怖いのよ。また裏切られるんじゃないか。浮気しない男なんて、この世にいないんじゃないかって。どうしても疑ってしまうの」
「その通りだ。ようやく悟ったみたいだな」
「それでも浮気しない人を求めてしまうのよ。それが女性なの」
「くだらない。そんなもの、叶わぬ願いだ」
「そうかもね。だからせめて、あんたらみたいなゴミから金を取ってすっきりしたいってこと」
「俺は払わないぞ」
「彼女たちは、100万円ずつ払ってくれたわ」
「嘘だろ。2年も5年も続けてきたのに」
「100万円よりも守りたいものがあったみたいね」
「俺には守るものなんて何もない。女だって、また見つければ済むことだし」
「うん。それはどうかな?」
「どういう意味だよ」
「最近、あなたのお母さんがSNSを始めたのよ」
「それがどうした?」
「初心者だからネットリテラシーが低くて、書いてはいけないことの区別がついてないみたいなの。過去に夫が18人も愛人を作ってたこと。その遺伝子を息子が引き継いだことを、けっこう詳細に書いて、結構人気があるみたい」
「別に個人が特定されるわけじゃないし、そのくらいなら自由に書かせておけ」
「言ったでしょ。ネットリテラシーが低いって。実名はやばいとか、顔出ししない方がいいとか、まったく分かってないみたいでさ」
「はあ。俺の顔も名前も出してんのか」
「フォロワーに指摘されて焦ってたみたいだけど。初心者でしょ。消し方も分からないみたいで」
「嘘だろ?会社の人間に見られたらどうすんだよ。俺は既婚者で通ってるっていうのに」
「は?離婚したことまだ言ってないの?」
「結婚してる方が警戒心が薄れて女が寄ってくるから」
「くだらない」
「まさか指輪もつけてる?」
「もちろんだ。これがあるからモテるんだよ」
「ここまで来ると病気ね。一生そうやって女の尻ばっかり追いかけて、崖から落ちればいいわ」
「頼む。母さんにSNSを削除するよう言ってくれ」
「自分で言えばいいじゃない」
「それがLINEも既読にならないし、電話も出ないんだ」
「お母さんもあんたに見切りをつけたのね」
「お前なら連絡が取れるだろう」
「いいえ。私も着信拒否されてるみたい」
「なんで?」
「最後のLINEは『私の仕事はこれで終わり。幸せに』これだけだった」
「どういうことだ?」
「実の息子には理解できないかもしれないけど、他人の元嫁の私には理解できる。まさかこんな結末になるなんて、あの頃の私は思いもしなかったわ」
「意味が分からない」
「私に慰謝料を払うまで、きっとお母さんはSNSの投稿をやめないわよ」
「そんなあ」
「新しい投稿がされてる」
「何だ?」
「何て書いてある?」
「浮気する奴は地獄に落ちろ」
「さ……」

その数時間後に、200万円が振り込まれたのにはさすがに驚きました。残りは分割で支払うとのことです。ただ、お母さんと連絡が取れない状況なので、SNSの更新を止めるよう呼びかけることができず、ひたすら更新されていくサトシの黒歴史。小学生の段階で二股をかけていたとか、高校の頃に親友の彼女を3人も寝取ったとか、最低エピソードばかりでした。義母はその全てを知っておきながら止めることもせず、正当化してきた自分を省みるかのように、息子の最低エピソードを吐き出し続けています。

サトシは会社での居場所をすっかり失ってしまい、好感度ナンバーワン上司の地位から転落。社員からの、排泄物の生ゴミを見るような視線に耐えられず、3ヶ月後には会社を辞めたそうです。家でもSNSでもすっかり有名人になってしまい、外に出かけることもできなくなり、今は知り合いの印刷会社に就職し、男ばかりの工場で帽子を目深にかぶって働いているそうです。

お母さんとは連絡を取っていません。でもたまにSNSを覗くと、不倫に悩む女性の相談に乗ったりと、楽しくやっているみたいです。サトシの言う通り、浮気をしない男性なんて少ないのかもしれません。でも、そんな運命の人に巡り合える奇跡を信じて生きていくのも悪くないかと思って、気長に出会いが訪れるのを待ちたいと思います。

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