さっきまで普通に夕飯の準備してたのに、突然旦那に「お前と離婚するわ」って言われたんです。十五年、義理の両親の介護を一人でやってきて、やっと子育ても落ち着いたところだったのに。「お前は義理堅いから介護続けられるだろ」って、何言ってんだって話ですよ。しかも、その直後に私の部屋着を盗んで着てた小姑が、得意げに「私はもう貯まらないから」って。あの時、鏡の前で泣きそうになったのを今でも覚えてます。離婚…

さっきまで普通に夕飯の準備してたのに、突然旦那に「お前と離婚するわ」って言われたんです。十五年、義理の両親の介護を一人でやってきて、やっと子育ても落ち着いたところだったのに。「お前は義理堅いから介護続けられるだろ」って、何言ってんだって話ですよ。しかも、その直後に私の部屋着を盗んで着てた小姑が、得意げに「私はもう貯まらないから」って。あの時、鏡の前で泣きそうになったのを今でも覚えてます。離婚...

ねえ、水希ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。

なんでしょうか、ちづるさん。

昨日、うちに来てたでしょ。

行きましたよ。旦那の実家に行って、何か悪いことでもありましたか?

いや、そういうことじゃないんだけど……そのとき、私の腕時計見なかった?

腕時計? 知らないですよ。

本当に?

ちょっと待ってくださいよ。まさか私を疑ってるんですか?

疑ってるというか……これが初めてじゃないしね。

信じてくださいよ。本当に知らないんですから。

そうは言うけどさ……。

ひどい! 何かあるとすぐ私のせいにする! 私が一体何をしたって言うんですか?

……ごめんね。

どうしてそんなふうに、自分は悪くないって顔ができるんですか?

だって私は何もやってませんから。

私のネックレスに、お母さんの指輪。うちの娘の服だって盗んだことあるの、忘れたの?

それは去年までの私の話でしょ。もう一年経ったんだから、時効ですよ。

ああ、そういう感じ。盗んだ盗まないって、年度ごとに計算するの? それはどこの国のルール?

私のルールです。とにかく、腕時計のことは何も知りませんから、何でもかんでも私を疑うのはやめてください。

お母さんが見たって言ってたんだけどね。

え? お母さん、ベッドで寝たきりでしょ。私の腕時計、お母さんのベッドの近くに置いてあったからね。

なんだ、てっきり寝てると思ってたのに……認めるのね。

はいはい。そうですよ。私が盗みましたよ。

まじ?

あのね、これは立派な犯罪よ。謝って済む話じゃないでしょ。

いいじゃないですか。私たち、家族なんだし。

家族でも、盗みは窃盗ですから。

そんなカリカリしないでくださいよ。今度、ババ抜きでもしましょうか。

は? なんでババ抜き?

頭を使えば、多少は高齢者対策になるかなと思って。あ、でも、ちづるさんには無理でしたね。

無理って、何が?

だってババ抜きなんで、ババと一緒は無理でしょ。

……なるほど。反省してないってことね。

さあ、させて反省してますよ。

あのね、それが反省してる態度?

反省してるって言ってるじゃないですか。それに、幸介さんはいいって言ってましたけど。

幸介が? あの人なら、確かにいいそうね。

でしょ? うちにあるものは何でも持っていっていいって。

ああ、いいそうね。だったら窃盗じゃありません。

いや、それはおかしいでしょう。そもそも、ちづるさんは幸介さんの嫁ですよね。

うん、そうだけど。

つまり、幸介さんの実家で同居してるだけの遺相人でしょ。遺相人が家主の幸介さんの決定に文句を言うのは違いますよ。

それで言うなら、家主はお母さんたちでしょ。

あんなネタ切れのじいさんばあさんに家主は無理でしょ。

家主の意味、知ってる? 家の所有者、権利者のことよ。ネタ切れでも、家主は家主よ。

はいはい。まあ、私に文句を言う前に、幸介さんに話を通してください。わかりましたね。

同日。

幸介。水希ちゃんをなんとかしてよ。

ああ。また何かあったのか。

“また”ってレベルじゃないから。私の腕時計、勝手に持って帰ってたの。

なんだ、そんなことか。いつものことだろう。

いつものことだから困ってるんでしょ。言っとくけど、甘やかしてる幸介にも責任あるからね。

ああ、そうは言うけどな。お前の態度も悪いんじゃないか。

私の態度?

若い子でも、一応はお前の義理の姉だろ。兄嫁相手に、少し失礼が過ぎるんじゃないか。

失礼? 物を盗まれて、それを追求することが? そもそも、喋り方だってそうだろう。もうちょっと敬うくらいはしろよ。

義理の姉って言っても、一回り以上年下なんですけど。なんだったら、娘のほうが年齢近いし。

それはまあ確かに……とはいえ、その辺のクレームは兄貴にしてくれ。五十のくせに三十二の嫁とか……ああ、羨ましいこった。

今、羨ましいって言った?

お前よりは、若い嫁のほうがいいからな。それを思えば、水希のやることなんて可愛いもんだろう。

だから、そうやって甘やかすからダメなんでしょ。

お兄さんにしたって、出張で家を開けることが多いからって、水希ちゃんを一切怒らないし。

兄貴なりに、嫁に責任感じてんだろ。

勝手に感じてればいいけどね。その付けがこっちに来てんのよ。

言っても、お前はうちの両親の介護してるだけじゃん。水希ちゃんの義姉として、世話してやれよ。

介護だけで手一杯です。この上、三十二歳児の世話なんてできるか。

ああ、うっさいなあ。

うっさいって言った? 誰のせいで私がうるさくなってると思ってるの?

まあ、ちょうどいいタイミングか。

はい。何の話?

お前とは離婚するわ。

は?

年取ったおばさんと暮らすの、きついと思ってたしな。いい機会だし、離婚で。

おい、同い年。私が年取ったおばさんなら、あんたも年取ったおじさんなの、分かってます?

男はいいんだよ。男はむしろ年取ったほうがダンディズムが漂うから。

だったら女もいいでしょ。年取ったほうが、マダミズムが漂うわよ。

なんだ、マミズムって。

というかさ……あまりにもあっさり言われるから、流すところだった。離婚って、本気?

本気も本気。実のところ、ちょっと前から考えてたんだよ。俺もお前もいい年だし、もういいだろ。

もういいって、何よ? というか、私抜きでお母さんたちの介護はどうするの? 十五年間、私一人でやってきたのに。

それはお前、そのまま継続だろう。

は?

離婚しても、親の介護だけはちゃんと続けてくれ。頼むぞ。

するわけないでしょ。

ああ、お前はするだろ。

なんで、そう言いきれるの?

だってお前は義理堅いからな。うちの親のこと、気に入ってんだろ。なあ。お母さんたちは優しいし、だろ? 十五年も仲良くやってきた相手を、いまさら見捨てられんのか?

……それは、そういうことだ。

悪いけど、今日から俺は別の場所に住むから。離婚届は送るから、サインだけよろしく。じゃあ、そういうことで。

翌日。

ちづるさん、聞きましたよ。幸介さんに離婚届を突きつけられたって。

待って。え……今、落ち込んでるから、その話やめて。

え、いや、でも……。

でもも減ったくれもない。落ち込んでるって言ってるでしょうが。

なんで逆ギレなんですか。

てかさ、これって私が悪いの?

何がですか?

いや、離婚のこと。

それはあれでしょう? ちづるさんがおばさんだからじゃないですか?

そう、そこよ。

え、どこ?

あいつと私は同い年。つまり、私がおばさんなら、あいつもおじいさん。

それはまあ……。

そのくせ、何よ。偉そうに。こっちはさあ、優しさを見せて言わなかったけど、あいつ、最近はげてきたの気にしてんのよ。毎日、鏡と格闘してんの。

それはその……いろいろあるんですよ。

なら、こっちにもいろいろあるのは分かるだろう。普通、言う? 離婚する気とはいえ、自分の嫁に言う? こっちは気を使って、見て見ぬふりしてあげてたのに。私のことじゃなくて、毛の心配してろや。

あ、はあ……。

しかも、こっちはさ。子育てがようやく落ち着いてきたな、ってタイミングで、義両親の介護スタートしてんのよ。

あ、そうなんですね。

そっから十五年よ。十五年ずっと介護してきたの。

ワンオペで大変ですよね。

そう、大変なのよ。そりゃお母さんとお父さんはいい人たちだよ。優しいし、私のことも気遣ってくれるし。でも、そういうことじゃないじゃない?

分かります。

仕事が忙しいから、俺は無理。うっせえよ。お前の親だろ。お前もやれよ。

え、ブチギレじゃないですか。

それでもね、お母さんたちは好きだし、幸介も仕事大変だろうなって、一生懸命やってきたわけよ。

あ、はい。

その結果がこれですか? 舐めてんのか? 何様? 旦那様ってか。やかましいわ。

一人ツッコミ……

すっきりした。ありがとう。

ああ、いえ。

何のよ。

切り替え早いですね。もはや怖いんですけど。

用がないなら、もういいわよ。

良くないでしょ。

そう。じゃあ、用があるなら、早くして。

じゃあ、気を取り直して。ちづるさんって、今四十八歳ですよね。

それが。

その年で旦那に捨てられるとか、やばくないですか?

やばいわね。

え? あ、実はあるんですか?

なかったら、こんなに切れてないでしょ。

それは……うん。まあ、用事ってこれだけ?

いや、幸介さんと離婚したってことは、もう本気でただの遺相人ですよね。じゃあ、私に文句を言う資格、なくないですか?

そうね。

「そうね」って。え、それだけ?

うん。それだけ。

なんか思ってたのと違う……というか。

あいつとの離婚届は、今日、速攻で出してきたし。

え、そうなんですか?

うん。腹が立ったから。

そうですか。

ああ、お母さんたちの介護はちゃんとやるから、そこは安心してね。

あ、はい。

他にないなら、失礼するわね。

じゃあ……。

三週間後。

いや、まじでお前って都合のいい女だよな。

はあ? 突然何だって?

そうだろう。離婚したってのに、親の介護までやってくれて助かるわ。

まあね。私は、親の介護を元嫁にぶん投げる人と違って、人間ができてるので。

嫌味かよ。

嫌味だよ。

はいはい。

まあ、これからもその調子で頼むな。

てかさ、あんたって今、どこに住んでんの?

はあ? なんで離婚した他人に、教えないといけないんだよ。

なら、なんで離婚した他人の親を介護してんの? 私。

それはお前の勝手だろう。嫌なら、うちの親を放置して出てけばいいだろ。

いいけど。そうなったら、母さんと父さんはどうなるんだろうな。ネタ切れなのに、誰にも世話されないとか。

そうだな。

いや、お前が介護しろよ。俺はほら、仕事が忙しいし。相変わらずゴミだね。

住所は早く送ってよ。

だから、なんで教えないといけないんだよ。

あ、そう。じゃあ、あんたの荷物は処分するけど、いいわね。

は? なんで処分? そこは俺の実家だぞ。

いや、だってもう、この家なくなるし。

は? なんだって?

だから、この家はもうなくなるから。

いやいやいや、なんで?

売ったのよ。お母さんが。来週には出ていかないといけないから、荷物まとめてんのよ。で、仕方ないからあんたの荷物を送ってやろうかなって思ってたけど、住所教えてくれないなら、無理じゃん。

いや、そういう問題じゃないだろう。どういうことだよ。俺、何も聞いてないぞ。

今、言いました。

そんな急な……てか、なんで売るんだよ。母さんたちはどうするんだ?

お母さんたちは、実家を売ったお金で介護施設に入るって。

はあ……。ちょっと前から、そういう話は出てたのよ。

俺に何の相談もなく?

だって、お母さんたちが「あんたはどうせ興味ないでしょ」って。

それはそうかもだけど。

介護を頑張ってくれてる私が知ってれば十分って言ってたわよ。いろいろと大変だったんだからね。「海が見える場所がいいよね」「じゃあ、ここなんていいんじゃない?」みたいな感じで、頑張って探したんだから。

いや、なんだその新婚みたいなやり取り。

私とお母さんの実際の会話ですけど、何か?

まあ、そういうわけで、来週には施設の入居だから。それまでに荷物取りに来てね。来ないなら、そのまま処分するからよろしく。

数日後。

なんだこれ? 百五十七万五千円の請求書? どういうことだよ。

いや、お母さんたち二人の介護費用よ。しっかりと請求の内訳も、詳細に書かれてるでしょ。

書かれてるけど、そういうことじゃなくて。なんで俺の荷物に、こんなもんが入ってんだってこと。

そりゃあ、あんたが依頼人だからでしょ。

依頼? 俺、自分で言ったじゃないか。「離婚後もお母さんたちの介護を頼む」って。

え? 何? 嫁でもない他人を、ただ働きさせる気だったの? 労働基準法って知ってる? 捕まるよ。

いや、それは……。

私はお母さんたちの家に住み込みだったから。時給は介護施設職員の平均、二千円。それを三十日間、休みなしのワンオペ。夜勤時給は労働基準法に基づいて二十五パーセント上乗せね。それで深夜帯は時給二千五百円。この「緊急対応費」ってのは、睡眠中でも何かあるか分からないでしょ。私一人しかいないんだから、その分よ。時間外労働だから、通常時給に加えて千円。

この「宿泊手当」ってのは?

それはそのままの意味。一泊当たり七千円ね。

複数人介護手当?

ネタ切れの人を二人担当してるんだから、当然。介護する際の精神的、肉体的な疲労を考えて、一日五千円で計算してます。

平均の日中勤務が八時間で、夜勤が六時間。諸々の手当や緊急対応費で、一日五万二千五百円。そう、それが三十日で百五十七万五千円ってわけ。いやあ、私、頑張った。ちょっと痩せたもん。

そんなの知るか。それよりも、こんなのぼったくりだろ。

幸介ならそう言うと思ったけど、残念ながらその金額は妥当です。

なんでそんなことが言えるんだよ。

弁護士の方に相談して、出してもらったから。

は? 弁護士?

だから、弁護士が計算したから、間違った部分は一切ないわよ。実際、三十日間、寝てる時間以外は働いたわけだし。なんだったら睡眠時間も削ってるからね。

俺は払わないぞ。

はあ。困るんですけど。

金が欲しいなら、母さんたちに請求しろ。

あんた、お母さんたちの息子でしょ?

それが何だよ。

介護の親の扶養義務は、あんたにはあるの? 払わない場合は法的手段に訴えるけど、それでもいいのね。

だあ、もうくそ。払えばいいんだろ。払えば。

ありがとうございます。明日にはお母さんたちは施設に入るから、その準備は手伝ってあげるね。それじゃあ、お振り込みお待ちしております。

一週間後。

「夫婦会の皆様。私は夫の幸介と離婚しました。一方的な離婚で、妻としても義両親の介護を押しつけられ、その上、兄嫁と不倫までされて、悲しいことですが、私は夫婦会を退会させていただきます」

はあ。なんだこれ?

うん。

幸介。なんでお前が疑問なんだよ。

ああ、ごめん、ごめん。誤爆しちゃった。

「てへっ」って……いい年して何言ってんだ。

あ、誤爆。

ちょっと待て。お前、このLINE、どこに送る気だったんだ?

書いてあるでしょ。夫婦会だよ。

夫婦会って、あれだよな。うちの会社の……そうそう、奥様方でやってる互助会みたいなやつ。そこにこのLINEを……まさか、まだ送ってないよな?

ごめん。もう送っちゃった。てへ。

はあ。お前、何やってくれてんの?

そう言うけどさ。私も夫婦会に参加してて、みんなにはお世話になったのよ。それが何だってんだよ。で、あんたと離婚した以上、さすがに退会でしょ。なのに事情も言わずに離れるのは、ちょっとね。

バカかよ。お前、まじで奥様連中だぞ。俺の同僚の。

知ってますけど。なんだこれ? お前、どんな顔して出社すりゃいいんだよ。

鏡見てみ。その顔よ。

てか、この「兄嫁と不倫」って何だよ。適当なこと言ってんじゃねえぞ。

いや、してるじゃん。

してねえよ。

逆に聞くけどさ。あんな露骨な態度で、バレてないと思ってたの? 頭ハッピーターンかよ。

露骨な態度って、何だ?

「家にあるものは何でも持っていっていいよ」とか。「水希ちゃんは若くて可愛いから、許しちゃうよ」とか。それはお前、外から見てたら、いい年したおっさんが何言ってんのって感じで、かなりキモかったよ。

言いすぎだろ。

まあ、そういうわけで、慰謝料請求するから。

はあ?

かなり近しい間柄で悪質性が高いってことで、二百万くらいだって弁護士さんが言ってた。

バカ言ってんなよ。ついこの間、百五十万以上払ったってのに。てか、証拠は? 証拠あんのか?

まあ、いろいろあるけど、一番効果的なのは、これから手に入るかな?

これから? 何言ってんだ、お前?

ああ、来た、来た。

どうしたの?

兄貴が帰ってきた。

お兄さんが帰ってきたってことは、あんた、離婚してからずっと水希ちゃんといたってこと?

そんなことは今はどうでもいいんだよ。それよりも、出張中の兄貴がなんで急に……って、何隠れてんの?

そうだよ。どこに?

ベッドの下。

なるほど。

ちなみにさ。お兄さんが帰ってきたの、私が呼んだから。って言ったら、どう思う?

あ、ベッドの下にいるのか。お兄さんに教えちゃおっかな。

ちょ、やめろよ。絶対にやめろよ。

何それ? ふり?

違うから。頼むからやめてくれ。

なんで?

なんでって……兄嫁と不倫してたの、バレたら大変だろう。兄貴だって傷つくし、家族がバラバラになっちまうよ。

お母さんたちを捨てて、私を捨てて。もうあんたの家族は、バラバラだけど。

それはその……。

あと、これからお兄さんとも、バラっバラになるね。あんたと水希ちゃんのせいで。

は、やめてくれよ。まじで。一生のお願い。

私は義理堅いからさ。元とはいえ、義理のお兄さんを裏切れないの。ってわけで、じゃあね。

そのままベッドの下で反省してください。

二時間後。

あんた、なんてことしてくれてんの?

こっちのセリフですけど。一年くらいに、急に出てきた挙句、なんてことしてくれてんのよ。

は? 私は別に悪くないでしょ。

他人の旦那と不倫してる時点で、悪いから。

もう不倫の余波で、兄弟仲まで終了させて……なんだ? サークルクラッシャーか。

だって、両兵とは結婚したばっかなのに、出張とかで忙しくて、寂しくて。

寂しいから不倫? しかも、不倫するにしても、旦那の弟はないでしょ。チャレンジャーなの? ギリギリで生きてたいの?

だって、幸介さんは優しかったし。

幸介の優しさって、完全に下心ありきだったじゃん。

それでも、一人よりは寂しくなかったから。

あんたの寂しさを埋めるために、こっちが寂しいことになったんだけど。

知らないわよ。

ついでに、幸介の頭も寂しくなってるけど。

いや、もっと知らんわ。それよりも、どうしよう。両兵がすごく怒ってる。

不倫されて、怒らない人のほうが稀でしょ。

ちづるさんは、怒ってないじゃん。

怒っとるわ。

怒ってるけど、一周回ってんの。逆に冷静になっちゃってんの。いろいろとあったからね。

その割には、私にめちゃくちゃぐちぐち言ってたような。

またマシンガントークしてあげましょうか。私の口が火を吹くわよ。

ごめんなさい。

謝られるのも、それはそれで癪なんだけど。て、そんなことはどうでも良くて。それよりも、どうしよう。両兵が離婚して、慰謝料を請求するって。

二百万、妥当でしょ。

そんなの払えない。

それこそ知らないわよ。まあ、安心して。私は請求しないから。

よかった。

幸介に請求したから。

そうそう。別に分けて請求する気もなかったしね。慰謝料は全額、幸介に請求しました。

そうなんだ。よかった。

その代わり、水希ちゃんには、別で請求がございます。

へ?

腕時計にネックレス、お母さんの指輪に、うちの娘の服。それらの弁償を要求します。

それ、その……。

何? あれ? 全部、もう質屋で売っちゃって。

なら、購入時の金額分のお金を払って。

それって、ちなみにおいくら?

お母さんの指輪が特に高かったからね。確か、合計で百万だったはずよ。

百万……。

両兵からの慰謝料を合わせて、三百万ね。言っておくけど、逃げられると思わないで。私、あなたが盗む人だって知ってるから、自宅にあるものは全部、写真撮るようにしてるの。

何のために?

正確な金額を出すためと、所有してた証拠に。あと、盗まれたことは、その日のうちに記録を取ってる。

じゃあ、これって、積んでる?

払う以外に、選択肢なんて残ってないわよ。

今度こそ反省するから、もう二度としないから。だから、許してください。

私ね、もうあんたの言葉を信じてないの。口先だけの反省なんていらないから。反省は行動で示してちょうだい。そんな今回ばかりは、あんたのルールじゃなくて、国のルールに従ってもらうわよ。

その後、水希ちゃんとお兄さんは離婚。ベッドの下から出てきた幸介は、その場でお兄さんにしばかれたとか。二人で土下座したものの、結果はご存知の通り。水希ちゃんも幸介も、慰謝料を請求されることとなりました。私からの請求もあって、金銭的なダメージはかなり大きいです。

幸介に至っては、今回の件を知った娘から「金も二度と近づくな、クズ」と冷たく切り捨てられ、膝から崩れ落ちていました。その場面を見た私は、思わず吹き出してしまいました。また、夫婦会から広がった噂によって、職場での立場もさようなら。会社では針のむしろ扱いを受けているそうです。

一方、私はといえば、娘夫婦の家の近くで家を借り、一人でのんびりとした日々を送っています。たまに娘夫婦の家にお邪魔してお茶を飲んだり、お母さんたちの入居した介護施設へ行って、お茶を飲んだりしています。お茶を飲んでばっかりじゃないか、とは思いますが、それもまた幸せな日々です。

人にしたことは、いいことも悪いことも、いつか自分に帰ってきます。見事に悪いことが帰ってきた二人を反面教師に、私はいいことが帰ってくるように、日々を過ごしたいと思います。

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