ある日、夫のスマホに届いた義妹からの一枚の写真。ログハウスの庭で、満面の笑みでピースする彼女と、隣に立つ夫。その写真の裏に隠された真実を知った時、私の世界は音を立てて崩れ始めた。彼女は言い放った。「私、勇希の子供を妊娠したから。この家、私がもらうから」夫は何の罪悪感もなさそうに「こが言ったならしゃあない」と平然と言い放つ。そして「お前みたいな賞味期限切れのババアとは離婚だ」という夫の言葉に、…

ある日、夫のスマホに届いた義妹からの一枚の写真。ログハウスの庭で、満面の笑みでピースする彼女と、隣に立つ夫。その写真の裏に隠された真実を知った時、私の世界は音を立てて崩れ始めた。彼女は言い放った。「私、勇希の子供を妊娠したから。この家、私がもらうから」夫は何の罪悪感もなさそうに「こが言ったならしゃあない」と平然と言い放つ。そして「お前みたいな賞味期限切れのババアとは離婚だ」という夫の言葉に、...

「ねえ、こちゃん、何回言ったらわかるの?うちに勝手に入ってこないでって言ってるでしょ。」

かほが玄関を開けると、そこにはスマホを構えた義理の妹が立っていた。

「ヤッホー」

「ヤッホーじゃないんだけど」

「てか、勝手に入ってないよ。SNSに上げたでしょ?うちの庭で撮った写真。庭は家ん中じゃないからセーフでしょ」

「アウトだよ。庭も私有地だから不法侵入なの」

「いいじゃん、家族なんだから」

「家族って、こちゃんと勇希のは鳩トじゃん。勇希はかほさんの夫でしょ。勇希と私は血が繋がってるんだから、家族ってことじゃん」

「あのね、知ってる?勇希の親のいとこの子供。他人でしょ」

「ひどい。寂しいこと言わないで」

「いや、実際そんなもんだからね。私だって自分の鳩がどこの誰か知らないし」

「私はそんな雑魚とは違うから。レベルが違うの」

「何?トってレベルなの?目があったらバトル始まっちゃうの?」

「何それ?受ける。てかやっぱログハウスっていいね。一面芝生の庭も最高」

「別にこちゃんのために住んでるんじゃないんだけど」

「いや、これを有効活用しない手はないって。実際、かほさんのとこで撮った写真はすぐバズるんだから。同じような写真でも、やっぱスタジオって大事よ」

「うちはスタジオアリスじゃないからね」

「無料で使える映えスポット。助かるわ」

「勝手に助かるのやめて」

「怒んないでよ。うちのマロンも気に入ってるんだから」

「マロンちゃんは可愛いから許可。こちゃんは迷惑だから却下」

「犬のマロンの方が私より扱い良くて笑」

「そのマロンちゃんにしたって、こちゃんがちゃんとしつけてないからでしょ。ああ、この間は笑ったよね。家の中で写真撮ってたら隅っこで動かなくなってさ、何してんだろうと思ったら、急にぶしゃーって」

「その勢いで許されるのは子どもだけだろ」

「あれ掃除したの私だからね」

「あざす」

「そんな適当なこと言って。ログハウスの管理って大変なんだから。犬のおしっことか、木材が腐るかもしれないんだよ」

「私の家じゃないから知らない」

「あのね、庭の芝生だってしっかり維持してるの。トイレみたいにそこら中でされたら困るの」

「だから知らないって。てか、そんな大変なら業者でも呼べば?」

「ログハウスの防腐処理やら防虫処理、加えて芝生の全面管理まで全部任せたら、200万くらい吹っ飛ぶのよ」

「うわ、やば」

「だからできることは自分でやってるの。それを台無しにされたら、誰だって切れるわ」

「ぶち切れじゃん」

「まあでもさ、あの家はすぐに私のものになるし、別にいいでしょ」

「いや、ならないでしょう。頭大丈夫?」

「なるんだよ。だって私、勇希の子供を妊娠したし」

その言葉を聞いたかほは、すぐに夫の勇希へ電話をかけた。一時間後、彼は電話に出た。

「悪い悪い。ちょうど取引先にいてさ。今は会社に戻ってる途中だし、用があるなら今のうちに聞くわ」

「いや、それがさ、なんかこちゃんがつまらない冗談を言ってて」

「こが何?」

「勇希の子供を妊娠したとか」

「ああ」

「ね。つまらない冗談だよね」

「まあ、こが言ったんならしゃあないか。これから腹が出てくると隠しようもないしな」

「勇希?何その感じ?まさか」

「そのまさかだよ。こが俺の子供を妊娠してるのは本当」

「マジ?嘘でしょ?」

「嘘じゃないんだよ、これが。いや、俺もまさかでビビったけどさ」

「笑い事じゃないでしょ。あなた、私の夫だよね。これって不倫だよ。しかも相手がこちゃんで、妊娠って」

「あれ?かほ、知らないの?」

「何が?」

「いとこ同士って結婚できるんだぜ」

「いとこ同士とか興味ないよ。問題は不倫の方でしょ」

「何言ってんの?」

「というか、何その態度。勇希は私に悪いとか、そういうのはないわけ?」

「悪いとは思ってるよ。お前みたいな賞味期限切れのババアを独りにしておくのはな」

「私、33。お前、34。大して変わらないでしょ」

「男と女は別だろう」

「つまらないからって切れんなよ。だからそういう問題じゃないって」

「あーうるせぇ。とにかく、こが妊娠したから、ババアのお前とは離婚だ。その家はこが住むから、荷物まとめて出ていけ」

「本当にさ、意味わかんなすぎて頭痛くなってきた」

「その頭痛の原因はどこから?」

「てめえからだよ。そんだけ元気なら、離婚しても大丈夫そうだな。じゃあそういうことだから」

「そういうこととかじゃなくて、本気で離婚する気なの?」

「逆に聞くけど、お前は離婚する気ないの?それはそれでやばいだろう。不倫されて、不倫相手に妊娠されてますけど」

「ごめん。本当に、なんでその態度で来られるの?自分が悪いって自覚ないの?」

「お前こそ、自分が悪いって自覚ないの?」

「は?私が悪いって、何が?」

「ババアでごめんなさい的な」

「なら、なんでごめんなさいしろよ」

「口悪い。そんなんだから捨てられるんだよ。諦めてさっさと出ていけよ」

一週間後。

「ちょっとかほさん、いつになったら出てくわけ?」

「いや、そんなこと言われても」

「もう一週間なんですけど」

「こっちとしても色々と急だったの。引っ越しって時間がかかるし」

「我慢して。捨てられたババアが偉そうに。財産分与で家は勇希のものになったんでしょ?」

「なったよ」

「だったらさっさと出ていけよ」

「話聞いてた?」

「聞いてたけど、一週間は長すぎ」

「こっちだってすぐに出ていきたいけど、家の管理用に使ってたものとかいっぱいあるのよ」

「は?何それ?」

「防腐処理に使う塗料とか、防虫剤とか、芝生用の芝刈り機もあるし。意外と持っていくものが多くて困ってるわけ」

「そんなの置いていけばいいでしょ。どうせもう使わないんだし」

「使わないけど、使われるのは嫌ってやつ。こういうのって気持ちの問題だから」

「うわあ、気持ち悪い」

「むしろ心広すぎてビビるレベルでしょ」

「はあ、どこが」

「不倫妊娠からの家も奪われて、それで素直に出ていくって言ってるんだから。心の広さは東京ドーム級だと思うけど」

「そう。なんでもいいけど、さっさとしてよね。いつまでも狭いアパートとか嫌だから」

「その狭いアパートが妥当なだけだよ」

「うるさい」

「まあ、今月中には出ていくから安心して」

「当たり前」

「ああ、これでようやく始まる。私の夢のログ生活が」

「ああ、無理。無理」

「何が?」

「そんないいもんじゃないから」

「だから何が」

「ログハウスでの生活が、そんなわけないもん。今から色々と考えてるんだから」

「考えてるって何よ?」

「あんたが買った家具は全部捨てて、家の雰囲気に合うように木製の家具で揃えて。勇希とマロンと一緒に、幸せで穏やかな生活。うわ、何にも知らないんだね。受ける」

「前にも言ったけど、ログハウスの管理って大変だから。勇希は全部私に丸投げだったし、こちゃんたちがまともに管理できるわけないでしょ」

「できます。なんだったら業者を入れればいいし」

「財産分与で家を譲ったんだよ。その分のお金は私がもらったわ」

「だから何?」

「業者を呼ぶお金なんてないって言ってるの。ましてや、家具を全部買い換えるならなおさらね」

「それならそれで自力でやります。あんたにできたなら余裕でしょう」

「まあ、やってみたら。マロンちゃんのしつけもできないやつには無理だと思うけど」

「負け惜しみですか?おばさん」

「はいはい。てか、ニュース見た?来週台風が来るって」

「は?急に何?」

「別に。ただ、夢の生活がいつまで続くかなって思っただけ。せいぜい頑張りな」

数日後。

「ねえ、今日の帰りにホームセンター寄ってくれない?」

「ああ、なんで?」

「なんかかほさんが言ってたじゃん。家のメンテがどうのって話」

「ああ、あれか。うちらには絶対無理とか言われたから腹立って」

「それでやろうってこと。まあ、時期的にそろそろだもんな」

「そろそろって何が?」

「いや、かほが家の面倒を見てた周期からすると、そろそろ防腐処理とかしとかないとなって感じ」

「なるほど。で、防腐処理って何買えばいいの?」

「……わかんない。俺もGoogle先生に聞けば一発だろ」

「確かに。庭の芝生も色々やらないといけないっぽいけど、また今度でいいっか」

「大丈夫だろ。家にしろ庭にしろ、そんなすぐにどうにかなるはずないって」

「だよね。ああ、そういえばさ、今日マロンが家の柱におしっこしてて笑った」

「掃除はちゃんとしといてくれよ」

「大丈夫。ちゃんと拭いた。しかもその時の写真が大バズり。映えってやつ」

「おしっこも映えるとか。ログハウスすごいな」

「そりゃ良かったな。てか、風呂ってちゃんと洗ってくれた?」

「洗ったよ。ログハウスに木の風呂っておしゃれだよね」

「おしゃれかどうかは置いといて。なんかかほが言ってたんだよ。木の風呂って腐りやすいって」

「何が腐るの?」

「さあ。でも洗ったんだろ?」

「うん」

「なら大丈夫か。かほのやつがまめにやってたからちょっと心配だったけど、あいつが気にしすぎなだけだったかもしれないな」

「かほさんって潔癖っぽいもんね。絶対A型」

「じゃあ今日の帰りにホームセンター寄ってくわ」

「よろしく」

二週間後。

「ちょっと、これやばいって」

「何が?」

「うちの芝生に虫が大量発生してる」

「この前の台風の影響でしょ。そうそう、そうなんだよ」

「で、殺虫剤を撒いたんだけど」

「今度は芝が枯れた」

「なんでわかったんだよ」

「殺虫剤ってどれくらい撒いたの?」

「虫が多くて気持ち悪かったから、こう全面的にバーッと」

「多分撒きすぎ。あ、芝の根元まで薬剤が入っちゃったんじゃない?」

「そんな」

「あと、台風の後にできた水たまりとか、その辺ちゃんと処理した?」

「水たまり?放置してたけど」

「ばっかじゃないの?ただの水たまりだぞ。天然芝だから、水のやりすぎも良くないの。殺虫剤だけが原因じゃないね。水はけが悪くて根腐れしてると思うよ」

「それって何?どうなるの?」

「そのまま放置してたら、芝は全滅」

「嘘だろ?どうしたらいいんだよ」

「根腐れしてる芝を剥がして、張り直すしかないよ」

「そんなこと言われても、根腐れしてるかどうかなんて見てもわかんないし」

「なら業者にやってもらったら?広めの庭ではあるけど、天然芝は人工芝より安いし、10万はかからないでしょう」

「高っ。家具とかに色々と入れ替えたから、今お金ないよ」

「払えないならそれで終了。あとさ、マロンの糞とかちゃんと処理してる?」

「え、わかんない」

「糞を放置してたら虫が湧くよ。芝にも悪影響だし、最悪ハウスの方にも影響するから」

「マジかよ」

「マジだよ。いや、でも今そんな出費は……」

「まあ、無理なら放置しとけば、緑のじゅうたんどころか茶色の砂漠になるだけでしょ」

「わかった。払う。業者呼ぶよ」

「勝手にしなさい。私はもう関係ないから」

「あ、でもなんだよ。まだなんかあるのか?」

「あ、いや。やっぱいいや。いや、気になるだろうなと思って。私はカスタマーサポートセンターじゃないのよ。自分たちの家なんだから、自分たちで管理しなさい」

一週間後。

「くっさ。この家、臭くない?」

「は?何が?」

「ちょっと前から、なんかもう、なんて言ったらいいかわかんない匂いがするの。家のどこにいても臭い。無理」

「ああ。元々大掛かりなメンテをしようと思ってたからね。離婚して家を追い出されたから、何もしてないけど」

「それってやばいの?」

「割とやばい。こちゃん、掃除って週に何回してる?」

「え?したりしなかったり」

「じゃあ換気は?」

「換気?換気は意識したことないと思うけど」

「マロンちゃんのトイレはちゃんとしつけられた?」

「それはその……」

「なるほどね。今も解放的なおトイレを楽しんでるわけだ」

「いや、ほら、マロンにはのびのび育ってほしいから」

「野生じゃないんだからさ。家の中でくらい、ちゃんとトイレシートでさせなよ」

「てか、それが何?掃除とか換気とか、匂いと関係あるわけ?」

「あるだろ。アホ」

「アホ」

「ログハウスとか関係なく、匂いの原因でしょ」

「いや、でも私がアパートに住んでた時は、そんなことなかったし」

「ああ、そういえば前から聞きたかったんだけど。マロンちゃんって前の家でもああだったの?」

「え?ちゃんとトイレシートでしてたよ」

「じゃあ、なんであの家だとできないわけ?」

「それはその……ちょっとした嫌がらせだった的な」

「わざとやらせてたの?私への嫌がらせのために?」

「それはもういいじゃん。昔の話なんだし」

「昔ってほど昔じゃないけど。で、その時の癖が抜けなくなってると。やっぱりアホじゃん」

「それはいいから。なんか原因とか理由とか分かる?」

「まあ、なんとなくは」

「何?どうしたらいいの?」

「多分、ログハウスの木材が腐ってるんじゃない?」

「え?腐ってる?防腐スプレーを買ってきて、プシューってしたけど」

「プシューする前に掃除した?」

「え?してないかも」

「ほこりとかを巻き込んだら意味ないでしょう。あと、あのハウスって杉でできてるからね。他の木材よりも湿気に弱いの」

「そうなの?」

「ちょっと前の台風の後、特に何もしなかったんでしょ?芝がああだったんだから。それは湿気が溜まって、木材自体が収縮してるはず。雨漏りとかもあったんじゃない?」

「あった」

「なら、隙間にほこりやらカビやらも溜まってるはずね」

「でも、見えてる部分は別に腐ってないし」

「内側から腐るに決まってるでしょ。床下、屋根裏。あとは木の風呂とかも、見えないところが腐ってるわよ」

「へえ。お風呂掃除はしてたのに」

「洗ってそのままじゃ意味ないから。乾かすまでちゃんとしないとだめ。ああ、いや。あとあれだ。シロアリ」

「シロアリ?」

「私が住んでた時から対策はしてたけど、ちょっと前からちょいちょい見てたのよ。多分どこかに侵入経路が残ってたっぽい。素人知識じゃ限界だし、業者を呼ぼうと思ってたの」

「なんで呼んでないの?」

「呼ぶ前に追い出されたからだけど」

「はあ、やば」

「やばいんですよ。シロアリ。そんな家じゃ映えないじゃん」

「知らんけど」

「ちょっとかほさんが管理してたんでしょ?ならちゃんとアフターフォローもしてよ」

「私、業者じゃないんだわ。本物の業者を呼んでください」

「それっていくら?」

「外壁も再塗装しないといけないだろうから、それだけで150万でしょ。屋根の点検と補修で50万くらい。床下の点検と防腐処理で30万だったかな?」

「なんそれ?合わせて230万じゃん」

「加えて、状態も全体的に悪そうだから、多分300万は行くんじゃない?」

「この間、芝生を張り替えたばっかなんですけど」

「それとこれは別問題でしょう。夢のログハウス生活を守るために頑張りなさい。じゃないと、映えじゃなくてハエが湧く家になるよ」

数日後。

「かほさん。いや、かほ様。様?」

「何気持ち悪いんだけど」

「そのですね、お金を貸してください」

「私は金融じゃないんだわ」

「それは知ってる」

「ついでに言えば、カスタマーサポートセンターでもないし、家の修繕業者でもないのよ」

「それも知ってます」

「なら、どういう要件なわけ?」

「お前から言われて、業者に家の修繕の見積もりを頼んだんだよ」

「それで?」

「そしたら300万だって言われて」

「300万?」

「そう、300万。でも、そんな大金払えないし」

「あなたのご両親に頼んだら?それか、こちゃんのご両親」

「不倫して妊娠して再婚だぞ。しかもいとこ。もう親含めて親族全員から白い目で見られてるよ」

「ああ。はい。分かってたことでは?」

「それでもいいと思ってたんだよ。なのに、こんな大金を払うはめになるなんて。もう頼れる相手はお前しかいない。頼む」

「なんでこの状況で私を頼れると思ったの?普通の神経してたら、無理だってわかるよね」

「いや、かほはなんだかんだ言って、俺の言うことを聞いてくれるし」

「それは夫婦だったからに決まってるでしょ」

「とはいえ、こうなると運命的なものを感じるわ」

「あ、運命?何が?」

「だって、私が請求する慰謝料と同じ金額だもん」

「えっと、ちょっと待って。ごめんな。頭の処理が追いついてないかもしれない。誰が誰に慰謝料を請求するって?」

「私があなたに。300万ね」

「はあ。嘘だろ」

「さっき自分で言ってましたよね。不倫して妊娠して再婚。しかも相手はいとこ。遠いとはいえ親族が不倫相手で、こちゃんは週に数回はうちに来るほど近しい人物。こりゃ悪質ですわ」

「だからって、このタイミングでこの金額は……」

「それは私が決めることじゃないから。あなたがやったことの結果でしょ」

「でも、払えないんだよ。請求されても」

「家を売ったら払えるでしょう」

「いや、それはちょっと……」

「ちょうどいいんじゃない?郊外で土地は安いし、家もボロボロだし。300万になるかはわかんないけど」

「なるだろ。300万には」

「元々中古で買ったのを忘れたの?どっかの金持ちの別荘だかなんだかで、購入費用500万とかだったでしょ。半分くらいは無理かな?」

「無理だと思うよ。不動産じゃなくて不動産だから。マイナスにならなかったらいいほうだ」

「なら、どっちみち払えないだろう。家具も全部売りなさいよ」

「何も残んないじゃん」

「私さ、あの家を買った時のこと、まだ覚えてるよ」

「急になんだよ」

「勇希がログハウスがいいって言って買ったよね。私ものんびりしてて好きだった」

「そうだったっけか」

「毎週丁寧に掃除して、毎月メンテして、数年に1回は業者レベルのことまでしてさ。お金がかかるから自分でやるって言ってたな。芝生の維持のために、慣れない土いじりも随分したな。かほ、大変だったけど、勇希が喜んでくれるから頑張れた」

「かほがそんなこと言うわけないだろ」

「今思えば、あの生活もいい思い出ね」

「え、俺は仕事が忙しいからそういうの無理。素人が手伝うくらいなら、何もしない方がいい」

「私も素人だし、仕事の合間にやってました」

「いや、俺はその、邪魔になるかと思っただけで」

「力仕事でも何でも手伝えたでしょ。言い訳並べて楽してただけじゃん」

「ごめんなさい」

「そこまでして頑張ってたのに、何も知らないガキがスタジオ感覚で来て、犬の世話までさせられてたんですけど」

「それは俺は悪くないというか……あの時から不倫してたから、見逃してたんでしょ。ならお前が悪いに決まってんだろ」

「ま、もう終わったことだしな。そのことは水に流して」

「流せるようになる前に問題を追加したのはそっち。何がお金貸してくださいだ。こっちが今までの分を払ってほしいわ」

「それはその……払えない」

「払いなさい。はい」

「ああ、すっきりした。言いたいことも言えたし、もう思い残すことはなし」

「あなたは思い残すことというか……残ってるものがなしって感じだけど」

数日後。

「かほさん、お願いがあります」

「夫婦揃って何なの?不倫した分際で、よくもお願いとか言えるわね。神経を疑う」

「お願いできる相手が他にないんだもん」

「だもんじゃないよ。言っとくけど、私はランプの精霊じゃないから。三回どころか一回もお願いを聞く気はないよ」

「そんなこと言わないで」

「言います」

「今回のお願いは、かほさんが原因なんですけど」

「私が?」

「そう。かほさんが慰謝料を請求したせい」

「え、当然の権利を行使しただけなんですけど」

「勇希が家を売ろうとしてるの」

「そうするしかないからね」

「でも私は嫌」

「そうですか」

「で、だから、慰謝料を取り下げて、ついでに家の修繕も払って」

「嘘だろ?おい、なんだこいつ?自己中の化身か?」

「自己中でもタコ中でも、何でもいいの?」

「あ、いや、むしろ元タコの視点を持ちなさいよ。びっくりするわ」

「もうこうするからなんだから」

「お前はな、こっちは違うから」

「だって、ログハウスで暮らすのは私の夢だったんだもん。なのに、こんな形で失うなんて嫌」

「でも、そのまま放置しても失うよ。ログハウスの寿命で、物理的に」

「それが嫌だから、修繕も出せって言ってんの」

「不倫したのはそっち。ずさんな管理で家と庭をボロボロにしたのもそっち。家が臭いのもそっちの責任」

「あれ?なんで私がお金を出すの?」

「他に頼れる人がいないから」

「バカかよ」

「バカじゃない」

「ちなみにさ、あれから家の掃除とかしたの?自分たちでできる範囲で修繕しようとした?」

「してない」

「勢いがあれば許されると思ってんの?」

「だって、この家の管理はかほさんの仕事でしょ。なのに私たちがやるって、おかしくない?」

「おかしいのはお前の頭だよ。びっくりしたわ。この短時間で何回びっくりさせるの?びっくり箱かよ」

「だって、だって、この家を手放すなんて嫌なんだもん」

「なるほど。腐ってたのは家だけじゃなかったみたい」

「どういうこと?」

「こちゃんの中身が、私の想像よりも腐ってたって話。そういう意味ではいいんじゃない?」

「いいって何が?」

「そのままその家に住み続ければ。でも修繕は……」

「直さなくてもいいでしょう。腐った家と腐った住人で、お似合い」

「ひどい」

「ひどいのはそっちでしょ。夢のログハウスだから何?その家で住み続けるってことが、どういうことか分かってる?」

「は?何の話?」

「あなた、妊婦でしょ?」

「そうだけど」

「カビって、普通に考えて体に悪いでしょ?それでお腹の子供に悪影響があるかもしれないって思わないの?マロンちゃんにも悪いって考えない?」

「それは思うけど……」

「思うけど何?じゃあ掃除するなり、手放すなり、選択肢はあるでしょ。なのにそうしない。子供や愛犬よりも自分優先とか、終わってるよ」

「でも、この家がないとSNS映えが……」

「映え?そんなものが子供や愛犬の命よりも大事?自分がやった不倫への慰謝料よりも大事?」

「そこまで言わなくてもいいじゃん」

「そこまで言われることをやってるんでしょ。お願いできる立場じゃないでしょ」

「それは……」

「わかんないなら、分かるまで考えてから発言して。私から奪っただけで満足しておきなさい。自分の子供や愛犬から奪っちゃいけないよ。じゃないと、違う意味でバズることになるよ」

その後、こちゃんは泣く泣くログハウスを売却した。かほの想定通り、大した金額にはならず、むしろログハウスの解体費を払うはめになった。一応土地代で解体費は払えたようだが、慰謝料までは届かず、家具なども売り払った上で、100万円ほどの借金が残った。お金がないと言っていた通り、この100万円は今の二人には重い金額だ。頼れる親も親族もいない。せめてしっかりと責任を持って払ってほしいものだ。

こちゃんのお腹の子については、生まれたらこちゃんの両親が引き取ることになった。出産はまだ先だが、今回の件で孫を育てさせるのは危険だと考えたのだとか。マロンちゃんについても、生活費が苦しい状況になったことで手放すことになった。親戚の中に犬の多頭飼いをしている方がおり、その方が引き取った。なんだかんだ、こちゃんはマロンちゃんに愛着があったらしく、離れることになってそれはもう号泣していたという。

自分の子供と、心から可愛がっていた愛犬。両方を失ったのは、こちゃんが欲をかいたからだろう。ログハウスなんかよりも、よっぽど大事なものだったはずなのに。私は、自分の大事なものを間違えないようにしたいと思う。

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