夕方の保育園、迎えに行けなくて電話したら「俺より稼いでから言え」って夫に言われた。三流大卒の私が、家事も育児も全部やってるのに。あの人、大手広告代理店に勤めてるからって、お給料が俺の半分以下だとか、子供まで足手まといだって言った。泣き寝入りするしかないと思ってた。でもね、あの日から私は動き始めた。薫に相談して、隙間時間にアプリを作ったの。「稼げない奴に人権はない」って言ったあの人に、今度は同…

夕方の保育園、迎えに行けなくて電話したら「俺より稼いでから言え」って夫に言われた。三流大卒の私が、家事も育児も全部やってるのに。あの人、大手広告代理店に勤めてるからって、お給料が俺の半分以下だとか、子供まで足手まといだって言った。泣き寝入りするしかないと思ってた。でもね、あの日から私は動き始めた。薫に相談して、隙間時間にアプリを作ったの。「稼げない奴に人権はない」って言ったあの人に、今度は同...

大輔、ちょっとお願いがあるんだけど。
なんだよ、こっちは仕事中なんだよ。
それは分かってるんだけど、どうしても頼みたいことがあって。
今日、勇気のことを保育園に迎えに行ってほしいのよ。

は?なんで俺がそんなことをしないといけないんだよ。そういうのはお前の仕事だろ。
いや、息子のことなんだからどっちの仕事ってわけじゃないでしょ。基本的には私がやってるけどさ。
だったらお前がやれよ。今日は残業しないとダメで、お迎えに行けないの。だからお願いしてるのよ。

俺だって働いてるんだ。そんなことできるわけないだろ。
でもあなたは基本的に残業とかないでしょ。
当たり前だろ。うちは大手で労働環境がしっかりしてるんだ。残業なんてやるのは無能の証拠なんだよ。
そこまで言わなくてもいいじゃない。私だってやりたくてやってるわけじゃないんだから。
じゃあ断れよ。そんな残業、お前がやる必要はない。

これも家計を支えるためなのよ。
お前の稼ぎなんてあってもなくても一緒だ。俺の半分以下の給料のくせによくそんなことが言えるな。
あなたが稼いでるのは知ってるけど、そんな言い方しなくてもいいじゃん。
いいや、言わせてもらうぜ。お前は俺がいなかったらまともに飯も食えないんだぞ。
そんなことないから。
それでも俺の嫁としていい暮らしをさせてやってるんだ。最低限の役割くらいはこなしてくれないと困る。家事なんて誰でもできる簡単なことを大変そうに言うな。それに子供の迎えくらいはやってくれよ。それ以上は求めないからさ。

子育ては夫婦で協力してやるものでしょ。
その考えは間違ってるんだよ。家事も育児も、稼いでないほうがやるのが当然だろ。俺にやってほしけりゃ、俺より稼いでから言え。
何よそれ。勇気が可愛いと思わないの?お金とかじゃなくて、愛情でやるもんじゃないの?
甘いわけないだろ。お前ら二人は俺にとっちゃ足手まといでしかない。俺の稼いだ金を使うだけしかできない脳なんだよ。
私だけならまだしも、子供にまでそんなことを言うなんて。
俺は事実を言ってるんだ。とにかく子供のことはお前がやれ。俺は絶対にやらないからな。

ああ、そう。分かったわよ。もうあなたには頼らないから。

数日後、薫が喫茶店で友人の里に切り出した。
ねえ、弁護士って今からなるの、大変かな?
え?どうしたのよ、急に。
弁護士として活躍してる薫に聞きたくてね。
もちろん大変よ。今からならロースクールに行かないとだめだし、司法試験に受かるまで最低でも二、三年はかかるわ。しかもその間、法律の勉強を毎日十時間くらいやるイメージよ。子育てをしながらじゃ、かなりきついと思う。
そうなんだ。
でもどうして急に弁護士なんて?
今よりも収入を増やしたいと思ってさ。それでどうだろうって。
あなた、旦那さんが稼いでるんでしょ?大手広告代理店に勤めてるんだから、別にいいじゃない。
その夫から、お前の稼ぎなんてなくても一緒って言われちゃったのよ。
そんなこと言われたの?
そう。だから家事も育児も全部私に押し付けてきてさ。稼げてないのは事実だけど、全部私がやらないといけないのは大変よ。それで夫に意見できるようになるには、私が稼がないとだめだなって思ったの。
そんなことしなくていいわよ。ていうか、あんたの夫、やばい人だったの?
付き合ってた当初は、仕事ができて何事にも自信満々で頼れる人だったんだけどね。今はただただ自分勝手な感じになっちゃったのよ。だから私もお金を稼げるようになりたいってわけ。そうしたら関係性も少しは良くなるかなって。
まあ、そういうなら私からは何も言わないわ。でも弁護士はやめておいたほうがいい。仕事も家事も育児もやりながら資格を取るなんて、基本難しいから。
そうよね。
でも副業で何かできるものがあるんじゃない?あなた、学生時代にいつもパソコンで何かやってたでしょ?
ああ、サイトを作ったり、バイトでそういう仕事もしてたわね。
そういうのを生かした仕事ってあるんじゃない?
確かに。ちょっとやってみようかな。
弁護士よりそっちのほうが稼げるかもしれないわよ。なるまでの労力とコストを考えたら、絶対そっちのほうがいいと思う。
本当?じゃあ考えてみるね。
あんまり無理はしないようにね。
ありがとう。また相談させて。
そうね。そのときは私からいろいろアドバイスするわ。

三か月後。
大輔、ちょっと買い物をお願いしてもいい?
あのさ、前に話したこと、もう忘れたのか?稼ぎがないからっていうやつ。
そうよ。
なんで俺が買い物なんてしないといけないんだ?俺は仕事をして稼いでるんだ。それだけで十分だろ。
それは感謝してるわ。でも今の状況を考えてよ。勇気が風邪を引いて寝てるのよ。私も看病で外に出られないから買い物をお願いしてるの。今日だけはお願い。
嫌だ。俺みたいなエリートが庶民的な買い物なんてダサくてやってられない。同僚に見られたら笑いものにされるからな。
みんながやってることなんだから、誰も笑わないわよ。
俺たちはエリートなんだ。みんながやってることをやってられないんだよ。庶民のお前には分からないかもしれないけどな。
分かった。それじゃ早く家に帰ってきて。私が代わりに買い物に行くから。
おい、勇気はどうするんだよ。
あなたが見てあげてよ。
そんなこと俺がするわけないだろ。風邪がうつったらどうするんだ?
だったらどうするのよ?
俺はそっちには帰らない。ホテルに泊まることにする。
ふざけないでよ。子供が寝込んでるのよ。心配じゃないの?
風邪を引くなんて、体調管理ができてないやつが悪いんだ。
相手は子供なのに。
俺は子供の頃からできてたよ。エリートだからな。勇気は残念ながらお前の血を強く引いてしまったらしい。そのまま庶民ルートまっしぐらって感じか。俺と同じように優秀だったら可愛がってやろうと思ったんだけどな。

エリートとか優秀とか、そんなところでしか判断できないの?
俺にとってはそれが全てなんだよ。稼げてないやつに人権なんてない。お前ら二人は、俺の邪魔をすることしかできないやつなんだ。そんな奴が俺に偉そうに指示なんてするな。
稼げるって、そんなにすごいことなのね。
そうさ。人間の価値はそれが全てだ。お前みたいに月二十万程度しか稼げてない奴が調子に乗るな。俺と結婚できてるだけありがたいと思え。
だから私が家事も育児も全部やらないといけないってわけね。
そういうことだ。嫌なら稼げ。それだけのことだ。
分かったわ。じゃあ、私も頑張って稼いでみせるから。
せいぜい無駄な努力をやってみろ。三流大学卒のお前じゃ、どれだけ頑張っても俺には追いつけないだろうがな。それじゃ俺はホテルに泊まるから、明日までに勇気の風邪を治しておけよ。それくらいはやれるだろ。
そうね。できる限りやらせてもらうから。

半年後。
おい、どこで油を売ってやがる。
は?なに?
家に帰っても飯も何も用意できてないじゃねえか。
ああ、ごめんね。今日はママ友たちとご飯を食べる約束をしてたの。安心して。勇気はこっちに連れてきてるから、夜ご飯は一人でどうにかしてくれる?
は?お前、そんな好き勝手に何やってんだよ。お前は俺のために家事をするのが最低限の役割だろうが。
それって何だっけ?前にそんなこと言ってたわよね。稼げてない奴が家事をやらないといけないみたいなことだったっけ?
そうだよ。俺のおかげでいい暮らしができてるんだから、家事や育児はやれよ。
じゃあ、明日から全部よろしく。
え?
今日まで私が家事も育児もやってたから、正確には今日の夜からになるのかな?

いや、何を言ってんだよ。どうして俺がそんなことをやらないといけないんだ。
だって、あなたが私より稼いでないから。
おい、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ。お前、俺の給料を知ってるよな?その上でそんな舐めたことを言ってるのか?
もちろんよ。知らずにこんなこと言えないわ。
じゃあ、お前みたいな三流大学卒の三流会社の奴が、どうやって俺より稼いでるっていうんだよ。
実はね、私、副業を始めてたのよ。
副業?
そう。アプリを作ってたの。
お前がアプリ?
私、大学時代にプログラミングを勉強してて、アルバイトでウェブ制作とかもやってたのよ。それでそのスキルを生かしてアプリを作ったの。作ったのはママ友同士をつなげるマッチングコミュニティアプリよ。ママ友ってみんな大変だったり孤独だったりするからさ。そういうのを共有できる仲間が作れたらいいなって昔から思ってたの。それでリリースしてみたら思いのほか当たって、多くの人に使ってもらえてるのよ。
そのアプリが話題だって聞いたことあるぞ。
そう?それで今日も、そこでできた友達と会って話してたのよ。
そのアプリでめちゃくちゃ稼いでるってことか。
そうよ。あなたとは稼いでる額が一桁違うの。
何?
私もこんなに稼げるようになるんだって驚いてるわ。だから今後は、あなたが家事や育児を全部やってね。
ふざけるなよ。俺にそんなことができるわけないだろ。
おかしなことを言うわね。稼げない方がやるって約束だったでしょ。
いや、だとしても急にそんなこと言われても、無理なものは無理だよ。
無理なんて言い訳、聞かないわ。
まあでも、勇気のお世話をあなたに任せるのはできないわね。勇気は正直、あなたに全然なついてないから。そこまで放っておいたんだから当然だけど。
あいつ、俺のこと好きじゃないのか?
当たり前でしょ?もしかして好かれてると思ってたの?どういう神経してるのかしら。だから勇気の世話は私がこれからもやるわよ。その代わり、あなたは家事全般をよろしくね。
だから待てって。俺はそんなことできないって言ってるだろ。
反論する権利なんて、私には許されてなかったわよ。どれだけ忙しくても勇気のお迎えに行かないとだめだったし、風邪を引いた勇気の世話も全くしてくれなかったしね。なのに私はあなたの泣き言を聞かないとだめなの?そんなの不公平じゃない。
でも無理なものは無理で…。
今日は私たち、帰りが遅くなるかも。だから今のうちに練習しておいたら?ネットでも何でも見ながらなら、あなたでもできるでしょ。
なあ、待ってくれよ。
嫌よ。明日から全部あなたがやるのよ。これはあなたが言い出したことなんだからね。

一週間後。
おい、もう無理だ。俺に家事なんてできるわけないって。せっかくの休日が家事だけで終わってしまう。早く帰ってきてくれよ。
私はせっかくの休日を勇気と楽しんでるんだから、邪魔しないで。
もう勘弁してくれ。俺にはもう無理だ。
あなたね、まだ一週間も経ってないのよ。私がいろいろ教えてあげてるんだから、やってよ。
仕事をしながらこんなことできるわけないだろ。
私は仕事をしながらこれに育児もやってたのよ。そんな言い訳は聞いてられないわ。
でもさ…
あなた、家事は簡単なことだって言ってたくせに、どうしてできないの?一流大学を卒業してるんだから、これくらいすぐにできるようになるんじゃないの?
ふざけるなよ。俺にこんなことをして、ただで済むと思うな。
あら、何かするつもり?
後で吠え面かかせてやるからな。

一か月後。
これはどういうこと?リビングに離婚届があったけど。
分かるだろ?お前とはもう終わりってことだよ。
あら、そうなんだ。私は別にいいけどね。
俺がいなくてもいいってか。
当たり前でしょ。こっちは家事だってできるし、お金だって稼いでるの。あなたがいなくなって家事の負担も減ってありがたい限りだわ。
相変わらず俺のことを舐めやがって。
こっちとしても、お前らと顔を合わせなくていいから、むしろ清々してるわよ。
共働きじゃなくなるけど、それはいいの?
そんなもん、俺が稼いでるからいいんだよ。それにお前の稼ぎの半分は財産分与でもらえるしな。バカを追い出せて、なおかつ臨時収入も入ってくる。最高だ。
なるほどね。だから離婚しようと思ったんだ。
どうだ?びっくりしたか?
ええ、とっても驚いたわ。
こんなに私の思った通りに動くなんてね。
は?
後から私の知り合いの弁護士があなたに連絡をすると思う。今後はその人を通して話し合いをよろしくね。

三日後。
お久しぶりです。今回の弁護士を担当する、浅法律事務所の朝田薫です。
やっぱりあんただったか。
何度かそちらに遊びに行かせてもらったことがありましたもんね。
弁護士をしてるって紹介されたときは驚いたよ。ちゃんと覚えてる。
ありがとうございます。では、離婚の話し合いをさせてもらいます。
ああ、できるだけすんなり終わらせてほしいぜ。こっちは早くあんな女と縁を切りたいからな。
分かりました。その前に、里さんから財産分与について話すように言われています。
ああ、そうかよ。
あなたは、里さんのアプリでの収益も財産分与の対象になるとおっしゃったそうですね。
そうだ。だから俺は少しだけ我慢して結婚生活を続けてやったんだ。そうしたら俺に入ってくる金が増えるからな。あいつのアプリ、かなり稼いでるんだろ。
とてもすごいです。月で数千万円を稼いでいるようですから。
いいね。その半分が俺のものになるってことか。ちょうど狙ってた車があるんだよ。それを買っちまうか。
勘違いされているようですが、アプリの収益はあなたには入ってきませんよ。
は?何を言ってるんだ?財産分与だろうが。
いいえ、あのアプリの収益は共有財産ではなく特有財産です。つまり、財産分与の対象ではありません。
はあ?なんだよそれ。俺を騙そうとしてるのか?
そんなことはありませんよ。理由はしっかりとあります。まず、あのアプリ制作は、里さんが自身のスキルを生かしてやったことです。あなたは一切協力をしていません。さらに、開発にかかったネットの通信費などは、全て里さんが払っています。
バカな。そういうのは全部俺の給料で払ってるはずだ。
里さんは事前に、ネットの通信費だけは自分で出すように手続きをしていたみたいですね。それだけではなく、里さんはアプリをリリースするときに開業届を出して、すでに法人化しています。あのアプリの収益は会社の収益であり、家庭とは全く関わりのないものだと完全に分離されているんです。
なんだよそれ。あいつ、まるでこうなることを…。
そうです。里さんはアプリをリリースする時点で、すでにあなたと離婚するであろうことを予測していたんです。というよりも、離婚するための準備をしていたと言いますか。
あいつ、俺のことをはめたのか?
違いますよ。あなたが自らはまってきたんです。私は親友として、アプリの収益が出た時点で離婚するように言いました。でも里さんは、最後のチャンスをあなたに与えたんです。家事をすることで家事の大変さを知り、それでもう一度家庭にしっかりと目を向けてくれる人になってくれれば、離婚なんてしないってね。里さん自身も反省していたんですよ。あなたが変わってしまったのは自分のせいでもあるってね。
なんだそれは。
新卒で入ったとき、あなたが仕事を頑張って家計を支えていたそうですね。家族を守るためだった。でもそこで、あなたはその頑張りが認められて、会社内での立場が偉くなった。その結果、調子に乗って態度がでかくなってしまったと仰ってましたよ。それでも最初はあくまで家族のためだったし、そんなあなたに感謝も尊敬もしていると、里さんは話してました。だから、あなたにどれだけ理不尽な扱いをされても耐えてきたんですよ。だけど、あなたはそんな里さんの気持ちを知らずに離婚届を突きつけた。全てはあなたが招いたことだということを、ちゃんと分かってくださいね。
じゃあ俺は、あいつの金を一円足りとももらえずに離婚することになるのか。
財産分与なので、共有財産は精算となります。まあ、あなたが支払う分が多くなりますけどね。

一週間後。
おい、お前、いい加減にしろよ。
何よ。離婚の話し合いは薫とやるように言ってるでしょ。私たちは、引っ越しとか最低限のやりとりだけって約束したはずよ。
俺は必要だから連絡したんだよ。
何よそれ。
離婚はしてやるけど、なんで慰謝料まで払わないといけないんだよ。
はあ?あんた、それマジで言ってるの?
俺は慰謝料を払わないといけないことなんて、何もしてないぞ。
今まで散々私に対してモラハラしてたくせに、よく言うわ。
モラハラ?
私のことを三流大学卒って言ったり、挙げ句の果てには人権がないとまで言ったわ。そんなことをしたんだから、慰謝料を払うのは当然でしょ。
そんなこと言った覚えが俺にはない。
ああ、そう。言った側って、こういうの大抵覚えてないのよね。でも安心して。私が全部メモしてあるから。
薫がね、もし裁判になるかもしれないから、結婚生活中に何を言われたかはずっとメモしておきなさいってアドバイスしてくれたのよ。
それだよ。あなたのことを相談したときよ。私は意味が分からなかったけど、薫の言いつけを守って日記に全部書いてたの。
あの野郎…。
それで、しっかりと証拠を残さないといけないから。そのために、離婚をせずに耐えてたのよ。
お前、俺に感謝があるとか言ってたんじゃないのか。
そんなのは本当に最初だけよ。あとはずっと、離婚の準備を万全にするために結婚生活を続けてただけ。おかげで私に有利な証拠をたくさん集めることができたわ。これを証拠にして、慰謝料を請求させてもらうわ。
マジかよ。
あと養育費も請求するから、全部ちゃんと払ってよね。それとあんまりごねないで。私はさっさとあんたと縁を切りたいのよ。

一年後。
大輔、久しぶり。
は?なんだよ。今まで俺のことをブロックしてたくせによ。
ちょっと話をしたいことがあってね。どうなの?生活はちゃんとしてるの?
舐めてんじゃねえよ。俺はめちゃくちゃいい暮らしができてるぞ。そっちが調子いいからって、俺のことを見下してくるんじゃねえ。
まあ、私もアプリが好調なおかげで、忙しくさせてもらってるわ。そのせいで、こんなことになってるんだけどね。
なんだよ。
私のことを勝手に利用して、情報商材を売っている人がいるって報告があったのよ。具体的に言うと、苦情ね。私が制作したアプリの共同制作者を名乗る人間がいて、その人が、アプリを売るために必要なものだと言って商材を売ってるらしいの。
当然、あのアプリは私が独自で作ったもので、共同制作者なんていないわ。だから業者にお願いして調べてもらったのよ。そしたら驚いた。その商材を売ってたのは、あなただったわ。
何が悪いんだよ。俺はお前の夫だぞ。共同制作者で間違いないだろ。
間違いだらけよ。それにあんたはもう、夫でも何でもないし。
あなたは私がアプリを作ってたこと、リリースした後も知らなかったでしょ。どうしてそんな詐欺みたいなことをしたのよ。
稼げるチャンスがあるんだから、それを利用して何が悪い?
ああ、そう。お金のためなら、人を騙すことも平気なわけだ。
騙すって…。
あんたの商材を見たわよ。何よ、あの薄っぺらい内容は。ネットの記事を貼り付けただけのしょうもない内容だったわ。あれで十万も払わせるなんて、詐欺以外の何者でもないわ。
別に騙すつもりなんてなかったんだよ。
あっそ。それじゃ警察でそのことを話せばいいわ。あんたの言い訳なんて、刑事さんが聞くとは思えないけど。
警察?お前、警察に知らせるのか?
そりゃそうよ。あんたのせいでうちの会社は風評被害に遭ってるんだから。あんたには損害賠償も請求するからね。
そんな、待ってくれよ。ちょっとした小遣い稼ぎのつもりだったんだ。お前がすごい稼いでるって聞いてさ、悔しくなって…。
嘘をつかないで。生活に困ってるから、こんなことをしたんでしょ。
なんだと?
噂よ、夫だったから。あんたの話は私の耳にも入ってくるのよ。会社で偉くなって、部下にパワハラをしてたんでしょ。しかも出世のために、部下の手柄を横取りしたりしてたってね。それがバレて降格されて、部署も左遷されたって聞いたわ。それで給料が下がっちゃって、周りに金がないって愚痴ってるらしいじゃない。
誰だよ、そんなことを言ったのは。
あんたに恨みがある人たちが言ってたみたいよ。たくさんいすぎて、誰とは言えないけど。
くそ…。
あんたは最低の男だった。人を見下して、家族を内から壊してしまった。でもあんたは、それでも努力で社会的地位を獲得していた。私はね、そこだけはあなたのことを認めていたの。まあ、それも嘘だったみたいだけどね。
でも私はあなたのことを信じていたし、尊敬もしてた。だから私は、あなたよりも稼げるようになりたいと思って努力した。それなのに、あんたは努力もせず、人を騙してお金を稼いでしまった。私はそれが許せないのよ。あんたのことは警察に突き出す。そして、二度と勇気の前に現れないで。父親が犯罪者なんて、あの子にとってマイナスでしかないからね。
ちょっと待てよ。許してくれ。今回だけは見逃してくれ。
ダメに決まってるでしょ。罪を犯したら償わないといけないのよ。一流大学卒のくせに、そんなことも分からないの?

その後、大輔は詐欺の罪で警察に捕まりました。裁判では初犯で被害額も小さかったこともあり、執行猶予がついたそうですが、それでも会社は当然クビになり、里からも多額の損害賠償を請求されました。その結果、今は昼はコンビニのアルバイトをし、夜は配達員の仕事をするために睡眠時間を削ってバイクで走り回っているみたいです。住んでる部屋も安いところに引っ越し、半額シールのついた食材を食べて、なんとか生活しているとのこと。

一方の里は、現在社員を雇い、本格的に会社を経営するようになりました。社長業にはまだ慣れてないけれど、優秀な社員たちの支えがあって、なんとか切り盛りできています。勇気は今年小学校に入り、お友達もたくさんできたようで、毎日楽しそうに笑顔を見せています。勇気に少しでも負担や寂しい思いをさせないために、これからも母親として頑張っていきたいと思っています。

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