今日、夫の葬式が終わったばかりなのに、義母が笑いながら私に言ったの。「遺産は全部私たちがもらうわ。あんたはもう用済みよ」と。あの日、夫が病床で「最後に母に会いたい」と願ったのに、義母は「醜い姿は見たくない」と一蹴した。私は何も言えず、ただ立ち尽くすだけだった。でも、夫が私に残してくれた一通の封筒——そこには「すべてを君に託す」と書いてあった。私は今、その封筒を開けるべきか迷っている。あなたな…

今日、夫の葬式が終わったばかりなのに、義母が笑いながら私に言ったの。「遺産は全部私たちがもらうわ。あんたはもう用済みよ」と。あの日、夫が病床で「最後に母に会いたい」と願ったのに、義母は「醜い姿は見たくない」と一蹴した。私は何も言えず、ただ立ち尽くすだけだった。でも、夫が私に残してくれた一通の封筒——そこには「すべてを君に託す」と書いてあった。私は今、その封筒を開けるべきか迷っている。あなたな...

お母さん、お話したいことがあります。お時間を作ってもらえませんか。すぐにそちらへ伺います。

はあ、いきなり何よ。そんな急に言われて、はいどうぞなんてならないでしょ。こっちはあんたたちと違って貧乏暇なしで働いてるんだから。

定年ではなかったんですか。

定年退職はしたわよ。でも年金だけじゃ将来が不安でね。働かないといけないのよ。私も夫も別々のところで今も働いてるの。

必要であれば支援はさせてもらいますが。

馬鹿にしないで。私たちのことを見下してるの?

いえ、そんなつもりは。たまたま仕事で金を手にしただけのくせに偉そうにするんじゃない。少なくともあんたにそんな顔をされる筋合いはないわ。

不快に思われたなら申し訳ありません。少しでもお力になれればと思っただけです。

そんなのあんたに気にされるようなことじゃないわ。こっちはこっちで好きにさせるから。

お母さん、弘樹と仲直りをしてください。お母さんと弘樹の間に色々あったのは知っています。でも今はそんなことを言っている場合じゃないんです。

何よそれ。

夫がずっと体調が悪いと言っていて病院に行ったんです。そしたら膵臓癌だと判明して。お医者さんがかなり進行していると言っていました。放射線治療などである程度進行を遅らせることはできるようですが、もう完治は難しいと言われました。つまり、もうあまり長くないということです。

あの子が……

お母さん、お願いです。これからはお互いのわだかまりなんてなくして、夫と親子として昔のように触れ合ってください。夫に一つでも心残りを持ってほしくないんです。

ちょっと考えておくわ。

お母さん、考える時間なんてないんですよ。

うるさい。あんたは出しゃばってくるな。これは家族の問題よ。私があいつにどれだけ裏切られたと思ってるの?そのことを今更なかったことになんてできないわ。

どうしてそこまで?

あんたにそんなことを言われる筋合いはないわ。弘樹はもう長くないって言ってるんでしょ。

だから何よ。どうするかはこっちが決めるわ。病気を盾に攻めてこないで。こっちの気持ちを無視しないで。

お願いします。賢明な判断をしてくれると思っています。

はあ、あんたに言われる筋合いはないわ。

その十日後、今度は夫が一人で義父母の家を訪ねた。

お父さん、こんにちは。

おお、久しぶりだね。どうかしたのか。

お母さんから話は聞いていないですか?

話?

弘樹が膵臓癌になりました。そしてあまり長くないと言われています。

なんだって……。

それでお二人に弘樹のお見舞いに来てもらいたいんです。色々あったのは分かりますが、お願いできますか?

私は個人的には弘樹に何の怒りもないんだよ。

喧嘩しているのはお母さんと弘樹だったんですよね。

そうだな。私はできるだけ間に入るようにしていた。そんな時に弘樹は君と結婚をしてね。それで私が弘樹の味方をしてしまうと、お母さんを一人ぼっちにしてしまう。それは避けないといけないと思ってたんだ。

ずっとお母さんのために一緒になって距離を取っていたんですね。

夫婦としてあいつの味方ではいてやりたいと思ってた。君がそばにいてくれれば弘樹は大丈夫だろうと思ってたからな。

今までお気遣いありがとうございます。ですが、今後はお母さんを説得する方向でお願いできますか?弘樹はもう長くないんです。

君も大変だね。

まだ現実感がないんです。だからこういうことができているんだと思います。お願いします。弘樹のために動いてください。

分かった。なんとかやってみる。

うちのマンションのカードキーを送らせていただきます。これを使えばいつでもうちに入れます。オートロックの暗証番号もお送りします。

ああ、分かった。なんとかしてみるよ。

それから一週間後、夫の友人で司法書士の木島明彦が突然訪ねてきた。

お久しぶりです。覚えていらっしゃいますか?木島明彦です。弘樹とは学生時代からの友人で、何度か食事にも行ったことがあります。

はい、覚えてますよ。

突然すみません。弘樹から連絡先を教えてもらいました。病気についても聞かされました。

そうでしたか。

まさかあいつがこんなことになるなんて。本当に神様なんていないんだなって分かりました。誰よりも仕事を頑張って、誰に対しても優しく接していた夫にこんな仕打ちをするなんて。

そうですよね。

すみません、愚痴を聞かせてしまって。それで、どうしてこちらに?

実は弘樹からこれからのことについて色々相談を受けたんです。

相談?

私は司法書士をしていますので、権利関係のことを任せたいと言ってくれました。昔からの付き合いだから信頼しているとも言ってくれてね。

そうだったんですか。

それで奥様とも色々と話し合いをしたいので、お時間を作ってもらうことは可能ですか?LINEでのやり取りは可能でしょうか?

できれば時間がある限り、今は弘樹と一緒にいたいんです。

もちろんです。ではLINEでやり取りをしていきましょう。

ありがとうございます。お手数をおかけしますが。

そんなの気にしなくていいんですよ。友人の頼みです。喜んでやらせてもらいます。ではまた手続き関係で連絡をさせてもらいますので。

分かりました。

あれから一年後、義母に電話で知らせた。

お母さん、弘樹が天国に旅立ちました。

あら、そう。随分と長かったわね。私が聞いた時は半年くらいって聞いてたんだけど。

抗がん剤治療などで頑張って、長く生きようと戦ってくれていました。

あらあら。そんな余計なことはしてほしくなかったわね。

なんですって?ああ見たいな醜いことはしてほしくなかったわ。天命だと思って素直に受け入れるべきだったと思うわ。

ふざけないでください。よくもそんなことが言えますね。

私たちからしたら、あいつはそれくらい憎らしい存在ってことよ。

信じられない。あんたは何も知らないんでしょ。

知っていますよ。弘樹が大学受験に失敗したことを今も根に持っているんでしょ。でもそれから弘樹は仕事を頑張って、さらに独立して事業を成功させています。それなのにどうしてそんなに憎んでいるんですか?

受験に失敗したことももちろん腹が立ってるわ。こっちがあいつにどれだけの金をかけて塾に通わせたと思ってるのよ。でもね、それだけじゃないわ。私は浪人してもう一度受験しなさいって言ったのよ。なのにあいつは就職するって言い張って。

それは弘樹としても、大学に行くよりも仕事をした方がいいと思ったんです。弘樹は高校時代からプログラミングが得意で、その分野で活躍できると思っていました。実際にそうなりましたし。

そんなのは全部結果論よ。私の思う通りにならない奴を、私は家族だなんて認めないから。

何ですか、その偏った考え方は。とにかくあいつに対する愛情なんて一つもないから。

じゃあもういいです。これから私たちに関わらないでください。一度もお見舞いにも来ない人を、私は家族だなんて認めませんから。

はあ、そりゃどうも。葬儀は明日なの?

そうですけど、あなたたちに出席する資格はありません。来てくださるのは弘樹のことを知っている方たちだけです。彼らと一緒に弘樹を見送りたいと思います。

はあ。そうやって良い妻を演じるわけだ。

何を言っているんですか?

だからそうやって周りからの同情を買おうとしているんでしょ?意味が分かりませんね。

葬儀で涙を流しても誰も同情しないわよ。あんたの本性はみんな知ってるんだから。遺産でしょ。そもそもあのバカに近づいたのだって金欲しさでしょ。思ったよりも早く金が手に入ってラッキーってところかしら。

バカなのはそっちですよ。私がそんなことを考えているわけがないでしょう。

悪いけど、息子の遺産は私と夫のもの。あんたには一円もやらないから。

何を言っているんですか?というか、施しは受けない的なことを言っていたでしょう。

死んだのならもらってやってもいいわ。今までの世話になった迷惑料とか慰謝料代わりにね。なんかあの子、高い時計をコレクションしてたんでしょ?ちょうど私もいい時計が欲しいと思ってたから、とりあえずそれだけ送っといてくれない?

ふざけないで。そんなことが許されるわけないでしょう。

うるさい。とにかく全額遺産は私たちがもらう。他人のあんたはさっさとどこかへ行ってちょうだい。

そんなこと誰が許すもんですか。

二週間後、今度は義両親がこちらのマンションに押しかけてきた。

ねえ、いい加減遺産について話をしましょうよ。

まあ、全部私たちのものにしちゃうんだけどね。

バカなことを言わないでください。そんなわけないでしょう。あなたたちは弘樹のために何をしましたか?お見舞いにすら来なかった人たちが遺産を全部もらえるわけがないでしょう。

どうやらそのようね。なんだか取り分みたいなものが決まってるって言われたわ。仕方ないけどそれを受け入れてあげる。半分は私たち夫婦のものになるってことだから、さっさと金をよこしなさいよ。こっちは色々買うものとか決めてるんだから。

何を言っているんですか?

何がよ。

全額、私の受け取りになっていますが。

え?

遺産は全て私のものになっているんです。夫がそういう遺言を残していたので。ですのであなたたちには一円たりとも渡しませんよ。

そんなわけないでしょ。さっきも言った通り、相続っていうのは親族間で分けるようにルールで決められてるの。

弘樹が亡くなった時、あなたは弘樹を家族だと認めないとおっしゃいましたよね。つまり家族ではないということです。ですので遺産を受け取る資格はありません。それは理解してください。

ふざけるな。そんな横暴が許されると思ってるの?

横暴?どの口が言っているのよ。今まで散々弘樹のことを蔑ろにしておいて、遺産だけは受け取ろうなんて。横暴以外の何者でもないわ。私は絶対に許さない。弘樹の資産は弘樹が命がけで手に入れたものです。私には妻としてそれを守る使命があります。絶対にあなたたちに渡したりしません。

本気で独り占めするつもりなのね。

そういうことになります。

残念ね。あんたがこんな人間だと思わなかった。

どういうことですか?

弘樹のことを思いやっているふりをして、結局あんたもお金が欲しいだけだったのね。

変な言いがかりはやめてください。

言いがかりじゃないわ、この恥知らずめ。まあ、そんなあんたを見抜けなかった弘樹にも問題はあると思うけどね。

さっきから何を言っているのか分かりません。

こっちには遺言書があるのよ。そこには弘樹が全財産を私たちに譲ると書いてあるわ。

遺言書?そんなわけないでしょう。どうしてあなたがそんなものを持っているんですか?

弘樹が私に渡してくれたのよ。あなたはお見舞いにも来なかったでしょ?

いえ、一度だけ行きました。

その時に渡されたんだから。

嘘ばっかり。これが弘樹の本音よ。あんたみたいなもんに金を渡すのが嫌だったのよ。もしあんたに弘樹を思いやる気持ちがあるのなら、弘樹の遺言の通りに全財産を私たちによこしなさい。それがあんたのできる唯一の務めよ。

……分かりました。それではまた連絡をします。

時間稼ぎなんてしないでね。次はいい答えが聞けることを願ってるわ。

三日後、今度は木島明彦が義母に電話をかけた。

突然の連絡失礼します。私は弘樹の友人の木島明彦です。

弘樹の友人?どうしてそんな人がいきなり連絡をしてくるの?というか、どうしてこの連絡先を知ってるのよ。

これは真理さんからお聞きしました。

はあ。なんでそんな勝手なことを。それで用件は何?

弘樹の遺言書の件についてお話がありまして。

あんたには関係ないことよ。単なる友人というだけなのに口を出さないでもらえる?

友人として、弘樹からお願いをされていたことがありまして。

何よそれ。

あの世に行く前に、色々と権利関係をちゃんと対応しておいてくれと言われたんです。

権利関係って何よ?

要は相続に関することです。私は司法書士をしていますので、その辺は専門なんですよ。で、弘樹は生前に遺言書を残していました。もちろん、あなたが持っているものではないです。そこには遺産の全ては妻である真理に相続させると書いてあります。

そんなの捏造だわ。あの女が一人で守るために無理やり作ったのよ。

いえ、これは弘樹が書いたものです。

あんたもあの女とグルでしょ。そうやって弘樹の意思を踏みにじろうと。

踏みにじっているのはそっちですよ。この遺言書はしっかりと手続きをして、公正証書として登記してあります。つまり、こちらの遺言書が本物ということです。その手続きには弘樹も関わっていますから、俺たちが勝手にやったということはありません。

嘘よ。

本当ですよ。弘樹は残り少ない貴重な時間を、真理さんたちが困らないようにするために費やしたんです。きっとあなたたちが変なことをしてくると分かっていたんでしょうね。本当にあいつには頭が上がらないな。俺が同じ立場ならそこまで考えが至るかどうか。だからこそ、俺は友人としてあいつの意思を守ります。あなたたちがおかしなことを仕掛けてくるのなら、その全てと戦う意思があります。あいつからは真理を守ってくれとお願いもされています。だから俺はどんな手を使っても真理を守ります。

じゃあもうこの遺言書は無効ってこと?

当たり前でしょう。これ以上弘樹の思いを汚すようなことはやめてください。

翌日、今度は義理の両親がこちらのマンションに来た。

お母さん、木島さんから話は聞きましたか?

聞いたわよ。それじゃあ遺産は受け取れないって理解しました。

分かったって言ってるでしょ。

実を言うと、全額を私がもらうっていうのは制度的にダメなんですよ。

どういうこと?

遺留分っていうのがあって、どれだけ弘樹が私に全てを渡したいと思っていても、ある程度は相続する権利のある人に渡さないといけないって決められているんです。

え、じゃあ私たちももらえるってこと?

そうですね。本来なら。

じゃあさっさと寄こしなさいよ。

でもお母さんたちはその権利を手放したんです。

何を言ってるの?手放すわけないでしょ。

いいえ、手放しましたよ。だって遺言書の捏造なんてことをしたんですから。

あれが何なの?

遺言書の捏造なんて許されるようなことじゃないですよ。お母さんのやったことは私文書偽造罪と言って、立派な犯罪なんですから。

犯罪ですって。

これに関しては警察に被害届も出します。

ちょっと待ってよ。

それだけじゃないです。そのようなことをした人間は、相続人としての資格を剥奪されるんです。つまりお母さんたちは遺留分すら受け取れなくなったということです。

嘘よ。

事実です。そんなに気になるのなら、弁護士にでも聞いてみたらどうですか?呆れ顔で説明してくれると思いますよ。

一円ももらえないなんて……

私たちとしては悲願達成です。弘樹は一円ともあなたたちには渡したくないと言っていましたからね。

なんであいつにそんなことを言われないといけないのよ。

学歴ごときで見捨てたんだから、言われて当然です。弘樹は学歴以外のところで、あなたたちに認められようと頑張ってきたのに、あなたたちはそんな弘樹の頑張りを見ようとさえしなかった。そして亡くなる直前だと分かっていても、葬儀にすらあなたたちは来なかった。そんな人間に弘樹は愛情を注いでいたんです。だから、こうしてあなたたちに弘樹が残したものを一つも渡さなくてよくなって、本当に嬉しいわ。

ふざけないでよ。

こっちは大真面目よ。ふざけたことをずっと言っているのはそっち。それじゃあ警察が来ると思うから、その時は素直に従ってくださいね。

三日後、こちらのマンションに義父が一人で現れた。

お父さん、お久しぶりですね。

真理さん、色々とうちの者が迷惑をかけて申し訳なかった。

これに関してはもう刑事事件になっていますから、謝罪されても困るんですけどね。

だとしても謝らせてほしい。本当にあいつはとんでもないことをしてしまって。

お父さんは何も知らなかったんですか?

知らなかったんだ。一緒にいて気づけなかったのは申し訳ないと思っている。

お母さんからも、あなたが共犯だという証言はないみたいですね。

知ってたら止めていたよ。

まあ、それはもういいです。私がお話したいのは別の件ですよ。

どうかしたのか。

お父さん、弘樹の時計を盗んだでしょう。

はあ?何を言っているんだ?

知らばっくれても意味ないですよ。弘樹がコレクションしていた時計の一部がなくなっていました。盗んだのはあなたです。

バカを言うな。言いがかりだよ。

お父さん、カードキーを使って入られましたよね。まあ、それ以外に入る方法はないので当然ですけど。

そんなの私は知らない。

カードキーを使ったら履歴が残るのをご存知ですか?いつ誰が入ったかを管理会社が把握できるようになっているんですよ。

嘘だ。

残念です。

ちょっと待ってくれ。警察は勘弁してくれよ。時計はすぐに返すからさ。許してほしい。

あなたは最低ですよ。亡くなった人の物を盗み出すなんて。

しょうがないだろう。こっちは遺産が入ると思って、色々と先に買い物をしてしまったんだ。その支払いができなくなってしまったら……。

だから盗みを働いたと。しかも、自分の息子の時計を盗んだんですか?

背に腹は変えられないだろう。

とんでもない開き直り方ですね。このことはすぐに警察に通報しますからね。

待ってくれよ。そんなことはしないでくれ。家族なんだから別に問題ないだろう。親族間での窃盗は罪にならないって言うし。

その時計は夫のものですよ。しかし相続をして全て私のものになっているんです。だから窃盗は成立しますよ。私はあなたとは親子でも何でもないんですから。

そんな……頼むよ。見逃してくれ。弘樹だって俺が逮捕されるのは嫌なはずだ。

私は弘樹とは同居しているわけじゃないし。確かにお母さんとは喧嘩していましたが、あなたとはそういうことがあったとは聞いていません。

だとしても、あなたは一度として弘樹のために動いたことはなかった。一度でも弘樹の味方をしたことはありましたか?

いや、だからそれは説明しただろう。

だったらどうしてお母さんを説得してくれなかったんですか?お見舞いに来るように言ってくれと、私はお願いしたはずですよ。

いや、聞いてくれなくてさ。

じゃあどうして来なかったんですか?説得はできなくても、夫婦の代表としてあなたが来てくれても良かったはずですよ。

いや、それはさあ……。

あなたもお母さんと同じくらい弘樹に無関心だったんですよ。争い事も起こさないくらい、弘樹のことをどうでもいいと思っていたんです。だから病気になっても入院しても、一度もお見舞いに来ようとしなかった。あなたは弘樹のことを何とも思っていなかったんですよ。

違う。そんなことはない。俺は心から弘樹のことを愛してたんだ。

口でどれだけ言っても意味ないです。あなたが弘樹のためにやった行動こそが、あなたの弘樹に対する気持ちを表していますよ。

いや、本当に違うんだ。

まあ、もうどうでもいいです。お父さんが奥さん思いだというのはよく分かりましたから。

どういうことだ?

だって、お母さんを一人ぼっちにさせないために、自分も同じ道を選んだんでしょ?素敵な夫愛ですね。

その後、二人は警察のお世話になった。お母さんは遺言書の捏造をしたということで書類送検された。お父さんの方も、被害が大きかったということでしっかりと制裁を受けることになった。結果的に二人とも刑務所行きは免れたが、私への不当利益を返還しないといけなかったり、ローンの支払いをしないといけなかったりで、生活は追い込まれることになった。親戚たちにお金を借りようと駆けずり回ったようだが、犯罪に手を染めたことをみんなが知っていたのですぐに追い払われてしまったそうだ。結局二人は消費者金融からお金を借りて返済することになり、当然のように今度は借金に追われ、二人揃って夜逃げをして、今は船の上で肉体労働をさせられているとのことだ。

一方の私は、今は一人で生活している。二人で住んでいたマンションは広すぎたので、単身者用のマンションで生活を始めた。弘樹の遺産だが、自分一人では使い切れないので基金を立ち上げた。弘樹と同じように、周りからのサポートが得られないような人が、それでも夢を叶えられる手助けが目的の基金だ。弘樹からは自由に使っていいと言われていたが、きっとこの使い方は喜んでくれるだろうと思っている。

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