お姉さん、お久しぶりです。ご結婚おめでとうございます。
ああ、どうも。ありがとう。
中卒のあなたに「お姉さん」なんて呼ぶ価値もないけど、一応便宜上そう呼んであげるわ。結婚おめでとう。
……それはどうも。
余計なディスが多すぎて祝福が入ってこないんですけど。
あら、本音でしょ。お兄ちゃんと結婚したのは学歴目当てでしょ。はい、認めなさいよ。
は?何言ってるんですか。私はお兄さんと恋愛して結婚したんです。
大卒の夫ステータスが欲しくて一緒になったんでしょ。正直に言いなよ。
なんで私がそんなもののために兄さんと結婚しなきゃいけないんですか。まったく意味がわからない。
だって中卒らしいじゃん。あなた。
うん、そうだけど。それが何か問題でも?
学歴コンプレックス持ってるんだよね、あなた。
持ってないよ。そんなわけないでしょ。
見え張らないで。どうせ必死に隠してるんでしょ。ちょっと話にならないんだけど。
ああ、こっちこそごめんね。漢字が多くて読めなかったんだよね。中卒には難しかったか。
全部読めてますから。それに、中卒のことを何だと思ってるんですか?
義務教育しか受けてない哀れな人たちのことよ。そういう人たちが親族にいるって、こっちは恥ずかしくてたまらないわ。
哀れかどうかは人が決めることじゃないです。いろんな事情でそうなった人もいれば、自らその道を選んだ人もいます。
綺麗に言えばそうだけど、結局のところ負け組じゃん。世の中には中卒で政治家になった人もいれば、社長になった人もいるんだよね。でも、あなたはそのどれでもないでしょ。普通の底辺じゃん。
とにかく、私は学歴でお兄さんを選んでないです。それだけは断言する。
じゃあ、なんで結婚式しないの?
別に、写真だけ撮れればいいかなって、2人で決めただけですよ。
隠さなくていいから。紹介とか、友人への挨拶とかで、中卒ってバレるのが嫌なんでしょ。
別に隠すつもりはないけどね。
お兄ちゃんの友達には、黙っててあげようか?
大丈夫。気が済むまで言いふらしてくれて結構です。
またまた、そんなこと言って。恥を晒すわけないじゃん。……とりあえず、これでどう?
何のお金ですか?
口止め料。これでお兄ちゃんには言わないであげるから。
そっちの方こそ、いくら積まれても私は辞めませんよ。
あっそ。まあいいわ。今後は、可愛い義妹って呼んでくれる?よろしくね。
自分で言ってます? ……はあ。
数分後、投稿者夫が帰宅した。
おう、どうだった?妹に会ったんだろ?
ええ、まあ。入籍して3日目にして、熱烈な祝福を受けましたよ。
ははは、お前らしいな。まあ、仲良くしてやってくれよ。
あのね、冗談どころじゃないんだよ。あなたの妹さんに、めちゃくちゃ嫌なこと言われたんだからね。
……何て言われたんだ?
学歴のことでボロクソに。中卒の何が悪いんだって。ずっと見下されてたよ。
……そうか。悪かったな。でも、あいつは悪意があって言ったわけじゃないんだよ。末っ子だからちょっとわがままだけど、可愛い妹なんだ。勘弁してやってくれ。
私だって、あれ以上攻撃されたら黙ってないからね。よっぽどあなたを奪われたのが悔しかったんだろうけどさ。
……なら、いいけど。ところで、さらちゃんはどこ大学出たんだ?
ああ、あいつは考察大学だよ。
はあ?考察?それであんなにマウント取ってきたの?中卒と高卒とじゃ、運の差なのに。
まあ、そういうことだな。……もしかして、お前も学歴主義者だったりするのか?
違うわよ。そんなんだったら、あなたを選んでないもん。
それはどうも。……これからも、あいつが中卒いじりしてきたら、嫌なんだが。
俺からもちゃんと言っておくから、気にしないでくれ。
ちゃんと言っといてよ。本当だから。
数日後。
ねえ、お兄ちゃん。あの女から、10万円振り込まれたんだけど。
おお、そうか。何でだ?
さあ?これだけ払っておけば納得するかと思ったんじゃない?
……いや、これは何かの間違いだろ。返さないと。
でも、こんなに払わせていいの?お兄ちゃん、お金ないんでしょ。
あのな、これはちゃんと返す。
……それより、お前、ちょっと話があるんだ。
何?
妹がさ、落ち着いたら、また仕事探すって言ってたんだ。
エミが?
ああ。それで、家のことも手伝ってくれるらしい。
へえ、そう。……それで?
それで、だ。……本当にごめん。俺、お前と離婚したいんだ。
は?
数日前に妹が言ったこと、全部聞いたんだろ?お前がどれだけ嫌な思いしたか。俺、あんなことになるまで気づかなくて、情けなくて。
……別に、いいよ。あんなの、ただの八つ当たりだったんだから。
違う。そうじゃないんだ。お前を悲しませるような女とは、やっていけないと思ったんだ。
お兄ちゃん、それは違うよ。あの子は、あなたのことが心配で言ってただけ。私だって、ああいう状況で結婚するのは良くなかったって、今なら分かる。
……でも、エミが言ったことは、全部事実だろ。お父さんが介護状態で、お母さんもパートで働きながら介護してて、お前が家にお金を入れてて。それで俺が、お前を苦しめてるんだったら、離れた方がいいんだよ。
だから、そういうことは全部知ってるって言ってるの!
エミ?どうしてそれを……
妹が、全部教えてくれたの。あなたが黙ってるから、こっちから言わせてほしいって。
……あいつ……。
でも、私はそれでもいいと思ってるの。だって、あなたと一緒にいたいから結婚したんだもん。貧乏でも、病人がいても、私は構わないの。
……本気で言ってるのか?
本気も本気。ここで逃げたら、あの子に負けた気がするんだもん。
……はあ。本当に、お前には頭が上がらないな。
でしょ?だから、そんな顔しないで。一生、私のそばにいてよ。
ああ。ありがとう、エミ。
その日、2人は離婚を思いとどまった。お互いの家族のことを隠さずに話し合えば、道は開けるんだと知った。エミは夫と一緒に、義理の両親の介護を手伝うことを決めた。中卒の一家と大卒の一家の間に、学歴なんて関係ない壁は存在しなかったのだ。
数週間後、エミは義実家を訪れていた。
お邪魔します。あれ?お母さん、どうしたんですか?お孫さんの写真、飾ってくれてるんですか?
ああ、ええ。娘がね、こんなに綺麗になってしまって。なかなか帰ってこれないから、せめて写真だけでもって。
お母さん、写真より先に、自分の娘の顔を見てあげてくださいよ。ほら、元気な姿を見せに来たんですから。
そうね。……エミさん、この間は本当にごめんなさい。あなたがこんなに良い子だって、あの時は分かってなかったの。
急に謝らないでくださいよ。私こそ、言いすぎました。お義父さんが入院したって聞いて、いてもたってもいられなくて。今日は、何か手伝えることがあればって思って来たんです。
まあ、そんな。あなたにまで手伝ってもらうわけにはいかないよ。嫁のあなたにこんな苦労をかけるなんて、あの子も不器用なんだから。
いいえ、私はもうこの家の娘ですよ。苦労なんかじゃないです。それに、これからは私も家族なんですから、遠慮なく言ってくださいね。
エミさん……本当に、良いお嫁さんをもらったわ。
お母さん、泣かないでくださいよ。これから、いろいろ大変かもしれないけど、一緒にやっていきましょう。
