昨日の朝、リビングでコーヒーを飲んでいたら、健太が突然「悪いけど、やっぱり離婚してくれ」って言い出したの。今日が結婚式なのに。頭が真っ白になって問い詰めても、彼は「結婚ってめんどくせえなって。今のうちに片付けたいんだよ」の一点張り。式まであと三時間、招待客はもう会場に集まり始めてる。なのに彼は署名済みの離婚届を差し出してきた。「気づいてなかったのはお前が鈍感だからだろ」「財産分与とか面倒だし…

結婚式当日の朝、リビングでコーヒーを飲んでいた私に、健太が信じられない言葉を投げつけてきた。 「悪いけど、やっぱり離婚してくれ。」 「え、ちょっと何言ってるの? 今日が結婚式よ? 」 「いや、考えたんだけどさ。結婚ってめんどくせえなって。今のうちに片付けたいんだよ。」 「片付けるって、私たちの結婚のことを? 」 「そう。今日離婚届を出せば一番早いだろ。」 式まであと三時間。招待客はもう会場に集まり始めているというのに、彼は離婚届を差し出してきた。しかも、すでに自分の欄には署名済みだという。 「冗談でしょ? 」 「マジだって。本気で言ってる。」 「どうして急にそんなこと言うの? 何かあったの? ちゃんと説明してよ。」 「色々考えたんだ。俺たち、合わないと思う。このまま結婚生活を続けても、お互い不幸になるだけだ。」 「合わない? 今まで何も言わなかったのに、急に? 」 「気づいてなかったのはお前が鈍感だからだろ。」 「なんで今なのよ。式まで三時間しかないのに。」 「早く決断した方がいいと思って。結婚してすぐなら、お互い失うものも少ないだろう。財産分与とか面倒だしな。」 「失うもの? 私たち、式の準備に半年かけたのよ。もうすでにたくさんのものを失ってるって、分からない? 」 「まあ、そういう細かいことはいいじゃん。」 「細かいことですって? 」 私は頭が真っ白になった。式場のキャンセル費用はどうするのか、お祝いをくれた人たちへの対応はどうするのか、すべてを問い詰めたが、健太は「なんとかなるって」「適当にやればいいって」と繰り返すだけだった。 「つまり、式場にいる私に全部丸投げして、あなたは何もせず逃げるっていうの? 」 「平謝りしとけばいいじゃん。お前が考えすぎなんだよ。」 私は深く息を吸った。もう何を言っても無駄だと分かった。 「本当に後悔しないの? 」 「全然。むしろすっきりした。俺はもう決めたからさ。お前も早く決断してくれよ。」 「……分かった。」 私は携帯を取り出し、親友のちひろに電話をかけた。 「ちひろ、どうしよう。健太が急に離婚したいって。」 「え? 離婚? どういうこと? 結婚式、今日でしょ? 」 「式当日の朝に、いきなり離婚してくれってLINEが来たの。しかも離婚届はもう書いてあるから、私も書いてくれって。」 「ありえないんですけど。何それ、最低すぎる。理由は何だって言ってたの? 」 「合わないから、早めに決断した方がいいって。今まで何も言ってなかったのに。」 「そりゃショックだよ。本当に何考えてるんだろうね。もしかして、他に好きな人ができたとか? 」 「そうかもしれないね……私、何か悪いことしたのかな。」 「ひなは悪くないよ。健太さんがおかしいだけだ。」 「でも、本当に私が至らなかったのかもしれない。」 「違うって。ひなは十分頑張ってたよ。それより、もう一度話し合ってみたら? … Read more

19 September 2026

「余命三ヶ月です」。医師のその言葉を聞いた瞬間、私は診察室を飛び出していた。廊下で夫の工事が私を見つけ、静かに言った。「裕子、戻ってこい。これからのことを話し合わないと」。あまりに落ち着いたその声に、私は怒りと悲しみで震えた。五時間後、自宅で夕食の準備をしながら、私は息子の安明に声をかけた。すると夫から電話が鳴った。「今日は帰らない」——まさか、その一言から、私たち家族の全てが崩れ去るとは思…

裕子が診察室から飛び出したのは、医師が「余命三ヶ月」と告げた直後のことだった。しばらくして夫の工事が廊下で彼女を見つけ、静かな声で言った。 「裕子、診察室に戻ってこい。これからのことを話し合わないとならない」 「ごめんなさい……でも、まさかそこまで取り乱すとはな」 夫は隣に立つ息子の安明に向かって、苦笑しながら首を振った。安明は病院のベンチに座ったまま、父を見上げた。 「どうしてそんなに落ち着いていられるの? 余命三ヶ月って言われたのよ」 「どこかで覚悟していたところがあるんだ。ずっと命を削って会社を大きくしてきた。おかげで多くの社員を抱える大きな会社に成長した。でも、こんな生き方をしていたら長くはないだろうなとは思っていたんだ。最近、けだるさが取れなかった時は、いよいよお迎えが来たかと思ったよ」 「でも私も安明も、あなたともっと一緒にいたかったわ」 「そう思ってくれるのは嬉しい。俺は素敵な家族に恵まれたと思っている」 「やめてよ。まだ諦めちゃだめよ」 裕子の声が震えた。工事は穏やかな表情のまま続けた。 「水癌で末期だ。悪あがきはしたくない。医者からは延命治療か緩和ケアか、どちらかを選べと言われている。俺は緩和ケアを選ぶつもりだ。これから余命が数ヶ月伸びたところで意味はない。残された時間をゆったりと、大切な人と過ごしたい」 「どうしてそんなに達観してるのよ」 「お前の気持ちは分かる。俺も立場が逆なら同じように感じただろう。でも自分のことだ。自分でけじめをつける。これからは残された人たちのために時間を使いたい。お前には苦労をかけるかもしれないがな」 「そんなこと言わないで。私はずっとあなたの妻なんだから。苦労なんてあるはずないわ」 「ありがとう。それじゃあ、会社のこととか、これからのことを話し合う必要があるな」 裕子が言った。 「今から安明を病院に呼ぶわね」 「いや、あいつは仕事が忙しいだろう。こんなことでわざわざ呼ぶ必要はない。LINEでいい。できれば俺もあいつの辛そうな顔を見たくないからな。俺が直接伝えるよ」 「いいの?」 「安心しろ。男同士でゆっくり話をするさ」 「わかった。それじゃあ早く診察室に戻ってきなさい。ちゃんと話し合いましょう」 五時間後、家の階段の下から裕子の声が響いた。 「安明、ご飯ができてるわよ。早く下で一緒に食べましょう」 安明がリビングに降りてきて、椅子に座る前に言った。 「父さんは?」 「用があるからって、出かけたのよ。心配だから一緒に行くって言ったんだけど、まだまだ元気だから心配するなって」 「母さん、俺、辛いよ。どうして父さんがこんなことになるんだ?」 「安明……それは私も同じ気持ちよ。神様って本当に残酷なことをするわね」 「俺は父さんに親孝行の一つもしてあげられなかった。孫の顔も見せられなくて」 「あなたはお父さんの後継ぎになれるように仕事を頑張っていたからね。結婚どころじゃなかったのはお父さんだって分かってる。そんなことを責めるような人じゃないって分かってるでしょ」 「会社としては、次の社長を決めることになるよな」 「そうね。お父さんはあなたを後継にすると思うわ。昔から息子に継がせたいって話してたから」 「俺なんかに父さんの後釜が務まると思う?」 「あなたなら大丈夫よ。だってそのために勉強や仕事を頑張ってきたんだから。あなたなら絶対になれるって、私は確信してるわ」 「そうか……分かったら早く降りてきなさい。お父さんにも私から連絡して、帰ってくるように言うから。家の中ではあまり暗い顔をしないようにしましょう。できるだけ明るく送ってあげるのがいいと思うから」 「そうだな。分かったよ」 その三十分後、工事は妻に電話をかけていた。 「あなた、気分が悪いとかない?」 「いや、大丈夫だよ。何かあったのか?」 「もう晩御飯の時間だから、早く帰ってきてよ。今日はあなたの好きなビーフシチューにしたから」 「悪いが、今日はちょっと帰らないでおくよ」 「え、何かあったの?」 「本当は大事なことだけを伝えて帰るはずだったんだけど……俺が余命三ヶ月だって伝えたら、泣かれちゃってな」 「もしかして、お友達か何か?」 「実は俺には、ずっと愛人がいたんだよ」 沈黙が流れた。 「え……ずっと隠し通すつもりだったが、そういうわけにもいかなくなった。だから正直に話すから、落ち着いて聞いてほしい」 「どういうことなのよ」 「ナツキという人と、ずっと愛人関係だったんだ。ナツキは俺が既婚者だというのを知った状態で関係を迫ってきた。それで俺は受け入れて、ここまで続いていた」 「ちょっと待って。混乱してて分からないわ。頼むから今は話を聞いてくれ。実は俺とナツキの間には子供がいるんだ。直と言って、今年で二十六歳になる」 「二十六の子供なの?」 「そうなんだ。大切な俺の息子だ。直にはうちの子会社に入社させて、実務経験を積ませてある。その直を社長に据えることにするよ。本当はもっと長い時間をかけて実績を積ませて、誰にも文句を言わせない状態で引き継ぎたかったが、こうなっては仕方がない。多少強引な方法を使わないとな」 「信じられない。そんなに長い間、私たちのことを裏切ってたの?」 「怒る気持ちは当然分かる。どう考えても悪いのは俺だからな。それで、余命を愛人に伝えに行ったら泣きつかれて、帰れないってこと?」 … Read more

19 September 2026

義母から届いた出産祝いは、なんとゴミ捨て場から拾った錆びた自転車でした。しかも着払い。あまりの非常識さに固まっていると、義母は笑いながら言いました。「中卒の嫁にはこれがお似合いよ」。さらに、毎月送っていた仕送りも、実は兄が便乗して「共同で出している」と嘘をついていたことが発覚。長男の威厳のためだと言い訳する兄に、私は静かに告げました。「今月から仕送りもやめます。私たちは、もう家族をやめます」…

お母さん、素材ゴミはご自分で処理してくださいよ。はあ、素ゴミって何言ってるの、り子さん。いや、この錆びた自転車のことですよ。ああ、それね。ちょっと前に出産祝を送るって言ったでしょう。これが出産祝ですか。不法投棄じゃないですか。失礼ねえ。あなたのために近所のゴミ捨て場からもらってきたのよ。ガチのゴミじゃないですか。しかもこれ着払いでしたよ。ゴミを受け取ってお金を払うとか勘弁してください。チェーンも錆びてるし、フレームも曲がってて、詫び錆を感じるわよね。錆しか感じてないんですよ。詫びは実家に置いてきました。わがままな嫁ねえ。健一は文句なんて言わなかったのに。お兄さんたちにも送ったんですか。あんたと健一のところ、出産日が一週間違いだったでしょ。だからまとめてお祝いしたのよ。ちなみにお兄さんたちには何を送ったんですか。建一のところには六百万のベビーカーよ。まあ頭金の百万だけだけどね。いつもよくしてくれてるから当然よね。私たちも相当よくしてませんか。冗談やめて。やっぱり血のつながらない次男は頼りにならないわ。直樹はお父さんの連れ子でしたっけ。自分の息子の建一と比べて役立たずなのも当然よね。だから役立たずでケチなあんたらにはその自転車よ。それで十分でしょ、ケチ。今ケチって言いましたよね。事実でしょ。毎月二十万の仕送りをしてますよね。それでケチってどこのセレブですか。はいはい、知ってるわよ。何を知ってるんですか。健一が言ってたわ。あの仕送り、実際は直樹と健一が共同で送ってるって。はい、共同ですか。そもそも中卒のり子さんと高校中退の直樹、あんたたちが毎月二十万も払えるわけないものね。いや、あの、それ本気で言ってますか。建一が言うには、仕送りの半分以上は自分が出してるって。それでよくもまあ、そんな仕送りしてやってるって態度ができるわね。そのお兄さん、先月うちに三万借りに来ましたよ。私が追い返してやりましたけど。負け惜しみを言うんじゃありません。負けてないので死んでないです。ドケチな低学歴夫婦はすぐに嘘をつくわね。そんなにお金に困ってるなら、Uberでも始めたらどう?私のあげた自転車を使っていいわよ。あんなの走り出した瞬間、地面とランデブーですよ。ああ、もういいです。あら、認めるのね。自分たちがドケチの低学歴嘘つき夫婦だって。この件は一度、直樹と話し合わせていただきます。お好きにどうぞ。 三十分後。お兄さん、いい加減にしてください。おや、り子さんじゃん。何怒ってんの?お母さんから聞きました。うちからの仕送りを共同ってことにしてるって。あっちゃあ、聞いちゃった。悪い悪い。長男なのに仕送りしてないって母さんが怒るだろう。半分以上自分が出してるって嘘をつく必要ありますか。そこはほら、長男の威厳ってやつ。次男よりも金額が低いとかダサいじゃん。低いっていうか、払ってないですからね。あと先月、うちに三万借りに来た時点でダサいですよ。たまたま手持ちがなかっただけだから。お母さんが変な勘違いしてるんで、訂正してください。嫌だよ、めんどくさい。あのですね、人の善意に便乗するとか最低ですよ。はいはい、悪い悪い。てか母さんから出産祝、届いた?錆びたボロボロの自転車が届きました。うわあ、マジで送ったんだ。あれ、俺が選んだんだよ。ゴミ捨て場で見つけたから、これ良くねって。良くないですよね、どう考えても。でもほら、産後とか自転車漕いで痩せないとじゃん。太ってません。てかあれが自転車なら、私の靴はフェラーリですよ。まあまあ、そう怒んなって。俺たち家族だろ。困った時は助け合い。母親に仕送りしてるんですけど、もっと助けてもらっていいですか?去年の母さんの誕生日を思い出せよ。ああ、私と直樹が買ったブランドバッグ。あれも共同でのプレゼントにしてましたね。うちが全額出したのに。お前からもらうより、俺からの方が母さん喜ぶから。自分たちの分とまとめて渡しとくよ、なんて言って勝手に預かって。結局一円も出してないプレゼントを共同扱いですか?直樹は文句言ってなかっただろ。直樹は文句が言えないの、分かってますよね。さあ、何のことやら。今年の母さんの誕生日もそろそろだろう。今回も共同で頼むな。一から十までダサい人ですね。中卒嫁が大卒の俺に偉そうに。学歴と性格の良さは比例しないんですね。お兄さんを見てたらそれがよくわかります。はいはい、好きに言ってろ。どうせお前らが何言っても母さんは信じないしな。 同日。り子、さっき送られてきた自転車の写真。あれ何?お母さんがくれた出産祝。え?出産祝がこれ?だってさ、中卒嫁にはお似合いだって言ってたよ。なんだよそれ。お兄さんがゴミ捨て場で拾ったんだって。兄貴までかよ。ねえ、直樹、もういいんじゃない?り子の複雑な家庭環境は知ってるよ。お父さんが亡くなってから大変だったんでしょ?俺は親父の連れ子で、母さんたちとは血が繋がってないから。だから高校を退学させられても仕方ないの。バイトを強制させられて、お兄さんの大学費を払って、家を出ても仕送りを続けないといけないっていうの?り子はずっと言ってるよな。そんなのおかしいって。直樹がお母さんたちに対して遠慮してるのは分かる。自分だけ血が繋がってないんだもん。しょうがないよ。そうだな。けどさ、一生直樹が我慢して言うことを聞くのは違うと思う。直樹は誰のために生きてるの?お母さん、お兄さん?それは違うでしょ。自分の、直樹の人生なんだから。自分のために生きなよ。けど親父が亡くなる前に約束したんだ。家族を大事にするって。今の直樹の家族って、あの二人だけなの?違う。り子と、娘のノアもだ。答えが出たじゃん。ああ、私と結婚する前は確かにあの二人だけが家族だったよね。けど今の直樹には私もノアもいる。そうだよな。本当にその通りだ。私はノアと違って直樹とは血が繋がってないけど、あなたの家族だし、奥さん。あんな人たちがいなくても、直樹は一人じゃないよ。ありがとう、り子。俺ようやく分かったよ。俺の家族はあいつらじゃなかったんだな。よし。そうと決まれば、やることは決まってるね。だな。あいつらと家族をやめよう。 一週間後。り子さん、あんた一体何考えてるの?はい、何のことでしょう?着払いでうちにゴミを送り付けてきたじゃない。ゴミ?あ、いえ、それ、今年の誕生日プレゼントですよ。は?ハッピーバースデー。お母さん、おめでとうございます。こんな薄汚れた軍手がプレゼント?しかも片方しかないじゃない。詫び錆を感じますよね。詫びと錆はどこよ?いやあ、見つけた時は興奮しました。ゴミ捨て場でこれ良くねってなりまして。ゴミ捨て場?これ、ゴミ捨て場から拾ってきたの?管理してるおじさんに頼んで譲ってもらいました。お母さんにぴったりなプレゼントでしょ。どこがよ?あんたね。私、知ってるのよ。何をでしょう?先月誕生日だったうちの姑にブランドの服を送ったんですってね。ええ、すごく喜んでいただけました。なんで年に数回しか会わない、義理の母親である私がゴミなのよ。ノアが生まれてから色々と送ってくれるんですよ。お下がりの服とか粉ミルクとか、とっても助かってます。だから何だって言うのよ。いつもよくしてくれてるんですよ。あれくらいのプレゼントは当然です。だったら私にももっとあるでしょ。お母さんはいつもよくしてくれてないんで、その軍手がお似合いかなって。お似合いって、あんた、穴の開いた軍手がお似合いの人間性だとでも言う気?自覚あったんですか?ふざけるのも大概にしなさいよ。真剣に選びましたけど。軍手の他に、割れた茶碗も候補に上がったんですが、吟味した結果、差で軍手に軍配が上がりました。なんてひどい嫁なのかしら。直樹に言って離婚させてやるわ。だったらお兄さんのところも離婚ですね。は?なんでそうなるの?だってお兄さん言ってましたよ。今年もお母さんへのプレゼントは共同だって。え、つまりこれは私たち全員での共同プレゼントってことですね。家族愛がこもったいいプレゼントだ。いや、ちょっと待って。本当にこれ、去年と同じで共同なの?はい。お兄さんが自分で言ってたんで。嘘だったら承知しないわよ。本当なんで、承知しといてください。そもそも軍手を送ってきたのはあんたじゃない。嘘であれ、本当であれ、絶対に許さないからね。ええ、怖いので、今後の支援はなしにさせていただきますね。やってみなさいよ。半分以下の小金なんてなくても困らないから。 一時間後。健一、誕生日プレゼント届いたよ。ああ、もう結構早かったな。今回のプレゼントも直樹たちと健一たちの共同だって。そうそう、そうなんだよ。なんか直樹たちが金がないって言っててさ。しょうがないからうちと共同にしちゃったんだ。金がない?このプレゼントのどこに金がかかってるって言うのよ。はあ、何そんな怒ってんだよ。今年のプレゼントも高かったんだぞ。ふざけんじゃないわよ。り子さんに続いて、あんたまで私をバカにして。いや、マジで?何なんだよ。一体どうしたんだ?どうしたもこうしたもありません。ゴミ捨て場から拾ってきた軍手のどこが高いのよ?軍手?そうよ。指に穴の開いた汚い軍手よ。しかも片方だけ。いや、それ何の冗談だよ。り子さんは確かにブランドの服を買ったって、メーカー名すら書いてないけど。え、マジで?冗談じゃなくて、マジでゴミを送られたんだから。そう言ってるでしょうが。うわ、マジか。母さん、それ、やられてるわ。どういうこと?り子さんが勝手に送ったんだろう。俺はその軍手のことなんて知らないから。あんた、さっき共同って言ってなかった?いや、それは…さっき高かったって言ってたわよね。つまりもう払ってるってことでしょ?現物のブランドの服はどこよ?それはもちろんうちに置いてあるよ。さっきもう届いたのかって言ってたのに、発送したんじゃないの?いや、よくよく考えたらまだだったみたいで。り子さんが買うって言ったみたいなことも言ってたわね。それが何だよ。共同のプレゼントなのに、別々で買う気だったの?あんたの手元に現物があるのよね。細かいことはいいだろう。共同にしたのは直樹が金がないから。なのにり子さんが別でブランドものの服を買うの?いや、だからさ、あんたさっきから言ってることがめちゃくちゃじゃない?ごめんて。俺もちょっと混乱してて。てかさ、来月から同居しようって話してたろ。俺らも引っ越し準備進めてるから。いやよ。え?誰がゴミを送ってくるような息子夫婦と同居しますか?いやいやいや、ちょっと待ってくれよ。言ってることもめちゃくちゃだし。本当は私のプレゼントなんて買う気ないんでしょ?そんなわけないだろう。もうちゃんと買ってやるって言ったろ。じゃあ今すぐ持ってきて。いや、それはほら、俺、仕事中だし。持ってこれないなら同居はなしです。ちょちょ、落ち着けって。落ち着いていられますか?あんたには失望しましたよ。頼むよ、お母さん。同居してくれないと、車のローンが…やっぱりそういうことじゃない。あ、いや、これは…さっさとプレゼントを持ってきなさい。じゃないと同居は白紙ですからね。 十分後。直樹、今すぐブランドの服を買って母さんのところに行け。はあ?なんでもクソもあるか。お前んとこのクソ嫁のせいでこっちは大変なんだよ。クソ嫁様だよ、お前が。あ、なんか文句でもあんのか?血も繋がってねえ他人が。その他人にいつまで頼る気なんだ?頼ってねえよ。使ってやってるだけ。ご利用ありがとうございました。当サービスは本日限りで終了いたします。ふざけてねえで、さっさと買ってこい。このままじゃ母さんとの同居が…ああ、それで焦ってるのか。車のローン払えなくなるもんな。な、なんでお前がそれを…ちょっと考えたら分かるよ。何にでも便乗してくる兄貴のことだ。母さんと同居して、うちからの仕送りを使う気だろ。いいだろ、別に。お前には関係ない。うちが払ってるんだから、関係あるだろう。わざわざ俺を高校中退させてまで大学に行ったのに。大学まで出て、そんなことも分からないのか。お前なあ、バカにすんなよ。バカにするほど兄貴のことは気にしてない。子どもが生まれた途端、偉そうになりやがって。そっちも生まれたばかりだろ。父親がガキのままでどうすんだ?いいのか?親父から言われてんだろ。家族を大事にしろって。親父の最後の言葉を無視して、機会を大事にしようと思ったから、この態度なんだよ。俺にとってお前らはもう家族じゃない。り子とノアだけが俺の家族だ。その家族を大事にするためにお前らとは家族をやめる。やめるって、お前?その証拠に、今月から母さんへの仕送りもやめるしな。は?嘘だろ。だから安心しろよ。母さんと同居できても、ローンは払えないから。ふざけんな。どうすんだよ。ローンは月に十五万だぞ。母さんへの仕送りの半分以上払ってるんだろ。そっちをやめれば余裕で払えるじゃん。俺が仕送りしてないことは知ってるだろう。俺たちに便乗してただけだもんな。だったら分かるだろう。子どもが生まれたばかりで余裕がないんだよ。分かるよ。子どもってお金がかかるよな。だろ?なら助けてくれよ。俺ら家族じゃん。家族は助け合いだろ。そうだな。じゃあ先に助けてもらっていいか?は?高校中退してお前の学費を払うためにバイトして、大人になってからも散々助けてやったろ。それはそうかも。だけど助け合いって言うくらいなんだから、今度はそっちの番だ。いや、でも今まで助けてきた分を返してくれないと、助けられないな。分かった。俺にできることなら何でもする。だからその後にちゃんと俺を助けろよ。そうか。助かる。じゃあ二度と俺たちに関わらないでくれ。は?お前らが俺たちに関わらないでくれるのが一番助かる。何でもするんだろ。頼んだぞ、兄貴。 数日後。ちょっとり子さん、今月分の仕送りはまだ?お母さん、仕送りだったらお兄さんに言ってください。なんでよ。ああ、いや、うちからの支援はやめるって伝えましたよね。それはそうだけど。そもそも半分以上はお兄さんが出してたんでしょ?なら、そちらにご連絡した方がいいかと思いますが。その健一と連絡が取れないんだから、あんたに連絡したんじゃない?うん。まあ余裕がないんじゃないですかね。余裕?お母さんが同居を断ったんでしょ?そりゃそうよ。あの子ったら私をバカにして。それで車のローンを払う目途が立たなくなったんです。生まれたばかりの子どもと奥さんを抱えて、きっと今頃奥さんのご両親に頭でも下げてますよ。いや、それよ、それ。どれよ、どれ。健一も言ってたけど、そもそもローンくらい払えるでしょ。ああ、それですか。だって私のところに毎月二十万の半分以上、まあざっくりと十五万は入れてるんでしょ。ならローンくらい自力で払えるわよね。いや、無理ですよ。ああ、どうしてだって、最初から仕送りなんて払ってないんですから。は?今回のプレゼントと一緒ですよ。お兄さんと話して感じたはあったでしょ?確かに。言ってることはめちゃくちゃだったけど。去年のプレゼントもお兄さんは何もしてません。え、共同って言ってなかった?うちが買ったものを勝手に共同って言ってただけです。直樹が何も言えないからって、本当に吐き気がします。じゃあ仕送りも、うちからしか出てませんね。二十万全額、私と直樹が節約しながら捻出したお金ですよ。そんな…あの子、ずっと私に嘘をついてたのね。血のつながった母親を何だと思ってるのよ。お兄さんを責められる立場ですか?まあ、そういうことなので、これで失礼します。それに引き換え、直樹たちはいい子ね。はあ?前々から思ってたのよ。血のつながりだけが家族じゃない。相手を思いやる心が一番大事なんだって。お母さんって、本当に私を怒らせるのがお上手なんですね。あ、家族、家族ですか?直樹の気持ちも知らないで、よくそんなこと。ちょっと何をそんなに怒ってるのよ。直樹が高校を中退させられて、バイト代も全部奪われて、あなたたちにどれだけ搾取されてきたか。それを分かってて、よく家族なんて言えましたね。それは健一を大学へ進学させるために仕方なく…直樹も家族なんですよね。家族って言っても、それぞれ役割があるでしょ。役割?直樹の役割は、黙って搾取されることなんですか?それが家族だって言えるんですか?だからちょっと落ち着いて。直樹はお酒を飲むと、たまにぽろっとこぼすんですよ。俺も大学に行ってみたかったって。高校も最後まで通いたかったって。それは直樹を利用して、一方的に家族を押し付けて。私は直樹の妻として、あなたたちを許す気なんてありません。もう二度と、直樹の家族をしないでください。ちょっと待ちなさいよ。あんたたちの仕送りがなくなったら、どうしたらいいの?パートなりなんなりすればいいじゃないですか。今月の家賃だって払えるお金が残ってないのよ。パートしたとしても、給料が出るまではどうするの?知りませんよ、そんなこと。せめて今月だけ。今月だけでも仕送りしてちょうだい。いいでしょ。なら、お母さんからいただいた自転車を…自転車?あれをお返しします。ああ、確か着払いもできたはずですよ。Uberでも初めてみてはいかがでしょうか。 一ヶ月後。り子、これから帰るけど、ノアはもう寝ちゃったよ。でも夜中になったらまた起きるんじゃないかな。昨日はり子が夜対応してくれたろ。明日は俺が休みだし、今日は俺がやるよ。本当にありがとう。これくらいはな。そういえば今日のお昼にね、親戚のおばさんから連絡があったよ。また粉ミルクを送ってくれるのか?それもだけど、お母さんのこと。母さん、家賃を払えなかったのは知ってたけど、もしかして…おばさんのところに転がり込んだみたい。けど全然働く様子も見せなかったらしくてね。さすがに迷惑だって、追い出したんだって。それで今はボロアパートを借りて、パートしてるんだってさ。あのボロ自転車が今じゃ愛車になってるみたいよ。なんだそりゃ。てか、兄貴の方は離婚したんだと。ああ、やっぱり。子どもが生まれたばかりなのに、身の丈に合わない車のローン。それで激怒されたんだって。まあ、そうでしょうねって感じだね。今まで直樹に搾取してた分を払っただけでしょ。そうなのかもな。なあ、明日さ、親父の墓参りに行かないか?お父さんの?もちろんいいけど。お盆とかじゃないけど、ノアが生まれたろ。その報告をしたいんだ。そっか。そういえば忙しくていけてなかったね。親父に改めて紹介したいんだよ。俺が本当の意味で大事にしたい家族ができたぞって。お父さんとの約束は守ってくれるんでしょ。当然だろ。俺はり子とノアを、これから先もずっと一生大事にするよ。じゃあ私も、直樹とノアを一生大事にするからね。 その後、お母さんは今もあのボロ自転車に乗って、ボロアパートとパート先を往復する日々を送っています。中卒の嫁にはこれがお似合い、そう笑っていましたが、きっと私以上にあの自転車が似合っていることでしょう。今後も地面とランデブーしない範囲で乗り回してほしいものです。地面の方がお母さんとのランデブーは嫌でしょうからね。お兄さんはというと、離婚後は借金返済の日々なんだとか。月十五万のローンに加え、子供の養育費を月五万。合計で毎月二十万の支払いに頭を抱えているそうです。車の売却も、売却禁止の契約があってできないとか。結局、支えてくれる家族を失い、残ったのは返済と車だけ。今となっては、その支払いを共同で払ってくれる相手もいなくなったようです。私が今回の件で痛感したのは、家族とどう向き合うか。それがその家族の形や行方を決めるということです。血がつながっているかどうか、そんなことは些細な問題です。夫婦なんて、元から血のつながりのない他人同士なんですから。だからこそ、相手を思いやり、尊重し合うこと。都合よく利用するだけの関係は、必ず破綻します。お父さんの墓前に、これが俺の大事な家族だよ。そう誇らしげに紹介してくれた直樹を見て、私も直樹とノアを心の底から大事に、そして愛していこうと思います。

19 September 2026

「はるかさん、明日から私と夫は息子と一緒に暮らすわ」…

お母さんからの電話は、唐突にそう切り出した。 「はるかさん、明日から私と夫は息子と一緒に暮らすわ」 「はあ、そうですか。お母さんたちは物好きですね」 「うちの旦那が部屋を開けておけってさ」 「部屋は……うん、まあ、開いてると思いますよ」 「何その反応?」 「そう言われましても、達也さんとクラスって本気ですか?」 「本気も本気よ。実は前々から思ってたのよね」 「思ってた? 同居ですか?」 「息子の稼ぎでいい生活してるあんたが許せないって」 「え、あ、そっちですか? というか、私が達也さんの稼ぎでいい暮らししてるんでしょ。私、知ってるんだからね」 「知ってるとは? 達也がよく愚痴ってたわよ。あんたは稼ぎも低いくせに、家のこともしないダメ嫁だって。達也が」 「うー、そうなんですね」 「そうなんです。それにね、お父さんの同僚の山田さんね」 「山田さん? 誰ですか?」 「その人が早期退職するの?」 「それはおめでとうございます」 「おめでたくないわよ」 「なんかすみません」 「息子夫婦と同居するんですって」 「それで?」 「そう、達也やちゃんは有名大学卒で大企業勤めのエリート。山田さんとこの息子よりも顔も稼ぎも上よ」 「顔は関係ないんじゃないですか」 「あそこの息子夫婦にできるなら、達也ちゃんにもできる。お父さんも最近は年で仕事が辛いって言ってたしね」 「だといいですね」 「ん? あれ、ってことは達也は知ってたんですか? 同居のこと?」 「当然でしょ。三ヶ月前に伝えて承諾も得てるわ」 「三ヶ月前……ああ。ふーん。そういうこと」 「何? 何の納得、それ?」 「こっちの話です。ていうか、私は何も聞いてませんよ」 「F大卒の低学歴嫁に伝えるわけないでしょう」 「学歴って関係あります?」 「達也ちゃんに養われてるだけの嫁に言う必要ないってこと。相変わらずの学歴至上主義、痛み入ります」 「ってことで、明日から私と夫も暮らす。息子の家だし当然よね」 「それは別に、お好きにどうぞ。ところでお母さん」 「何よ?」 「お母さんって虫とか平気ですか?」 「は? 虫? 平気だけど」 「なら虫除けスプレーは忘れずに」 「タワマンの最上階でしょ。虫なんて入ってこないわよ」 「ああ、というか住所、知ってます?」 「知ってるわよ。引っ越し祝いで行ったことあるじゃない」 「じゃあ改めて送っておきますね。ご確認をお忘れなく。それじゃあ、いい気分で」 その日のうちに、はるかは義母へメッセージを送っていた。 翌日、義母から電話がかかってきた。 「お母さんすみません、お昼の時、伝え忘れたことがあって」 … Read more

19 September 2026

朝、ヘアメイクの最中に彼から電話が来た。「悪いんだけどさ、今日の結婚式、なしにしてくんない?」一瞬、頭が真っ白になった。式まであと数時間。会場にはもう親族が向かっている。なのに彼は軽い口調で続けた。「他に好きな人ができたんだわ。ももかっていうんだけど、妊娠したんだよ。だから今日の式、俺とももかの結婚式に変更しようと思う」「は?今から?招待客の半分は私の親族なんだけど」「そこはお前がうまく説明…

式当日の朝、電話の向こうで彼は軽い口調で言った。 「悪いんだけどさ、今日の結婚式、なしにしてくんない?」 「は?何言ってるの?今からヘアメイク始まるんだけど。悪い冗談はやめて」 「俺、お前とは結婚できない」 「なんで?今日まで一緒に準備してきたでしょ?」 「他に好きな人ができたんだわ」 「式当日に言うこと?」 「いつ言おうか迷ってるうちに今日になった」 「マリッジブルーでもこじらせたの?」 「違うって。実は半年くらい前から付き合ってて、その子が妊娠したんだよ。今朝検査したら陽性だったって言われたんだ。こんな気持ちであかと結婚なんかできないだろう」 「本当にあなたの子なの?」 「当たり前だろ。だから俺はももかと結婚する。責任取らなきゃいけねえからな」 「私への責任はどうなるのよ」 彼は一呼吸置いて、とんでもないことを言い出した。 「そこでちょっと相談なんだが、今日の式は俺とももかの結婚式に変更しようと思う」 「はい?」 「キャンセル料がもったいないだろう。どうせ俺とももかもいずれ式はあげなきゃいけないし。譲ってくんないかな」 「何言ってんの?」 「分かりやすく言うと、新郎だけ入れ替えるってこと」 「分かった上で何言ってんだって聞いてんのよ。招待客の半分は私の親族や友人なのよ。新郎が知らない女に入れ替わって納得するわけないでしょ」 「そこはお前がうまく説明しとけよ」 「もう会場に向かってる人もいるのよ」 「だから今連絡してるんだろう」 「遅すぎるでしょ」 「金なら俺が全額払うから頼むよ」 「私に全部払わせたあなたにお金なんてあるわけないよね」 「それがまとまった金が近々入る予定なんだ」 「怪しい。騙されてんじゃないの?」 彼女は深く息を吐いた。式の準備を最初からやり直すことを考えただけでぞっとする。だが、彼の顔を見て、はっきりと理解した。この男は本気だ。 「また式の準備を一からやるって考えたらぞっとするわね」 「だろ?このまま使わせてくれたら楽できるじゃん」 「いやいや、私が準備してたのよ。あんなのだるいに決まってんだろう」 「私が気を使うことじゃないけど、お下がりの結婚式なんて、相手の女性が嫌がるんじゃない?」 「ももかはそういうの気にしないって」 「女いるのかよ」 「じゃあお前の身内には飯だけ食って帰ってもらうか」 「誰が納得すると思ってんのよ。頭おかしいの?」 「じゃあ今すぐ連絡して、お前の方だけ断ってくれ。みんな今日のために予定を開けてくれたのに」 「悪いな」 彼女は怒りを通り越して、冷めた目で彼を見た。 「混乱して見逃してたけど、半年も騙してたってことよね。ありえないんだけど」 「どっちもいい女だから選べなかったんだよ」 「ケーキ屋に並んだケーキみたいに言わないで」 「確かに昔からケーキ選ぶの苦手だったわ」 「お母さんはなんて言ってるのよ」 「おふは大賛成してくれてるよ。後継ぎができたって大喜びだ」 「親子してどうかしてるわ。不貞行為を容認するなんて」 「おふが言うにはももかの方が愛嬌があって好きだって」 「ああ、そうですか」 「大体、後継がどうとか言ってるけど、まだ性別も分からないのに浮かれていいわけ?」 「母さんの勘は当たるんだよ。とりあえず今回は身を引いてくれ」 「次回があるみたいに言わないで」 「式場スタッフが近くにいるだろう。ドレスをお前のサイズより二つくらい下げたやつでいくつか用意するよう言ってくんない?」 「よく私に頼めたわね」 「それと、新居のマンション、あれもももかに譲ってやってほしい」 … Read more

18 September 2026

「ねえ、京介、この前の旅行のお土産、お母さん喜んでた?」何気ない一言だった。なのに、京介は「え、わかんない。なんで?」とすぐに否定から入った。先週持って行くと言ったはずなのに、彼は「言ってない」と嘘をついた。LINEの履歴を見せると、彼は「先週はすぐ持って行こうと思ってたんだよ。けど時間がなくてさ」と言い訳を始めた。小さな嘘。でも、その小さな嘘が、私の人生を根底から壊すことになるなんて、その…

「ねえ、京介、この前の旅行のお土産、お母さん喜んでた?」 「え、わかんない。なんで?」 「なんでって……まだ持って行ってないの?」 「え?持って行ってないの?先週持って行くって言ってたよね」 「いや、言ってないけど」 「言ってたじゃん。生き物だからすぐ持って行くって」 「お土産を持って行くとは言ったけど、『すぐ』とは言ってなかっただろう」 「あのさ、なんでこんな小さなことで嘘つくの?忘れてたなら忘れてたでいいじゃない」 「忘れてない。『すぐ』行くとは明言してなかっただけだ」 「その時のLINE残ってるよ。見ようか?」 「……いや、先週はすぐ持って行こうと思ってたんだよ。けど時間がなくてさ」 「だったら最初からそう言えばいいでしょ。嘘をつく意味がわかんない」 「嘘ついたわけじゃないから」 「はい」 「ていうか、先週のことだし。自分が言った内容をいちいち覚えてなくて当然だろう。それを嘘ついたって揚げ足取る方が悪いんだよ」 「覚えてないって言わない方が悪いでしょ。京介ってそういうとこあるよね」 「どういうとこだよ」 「とりあえず否定から入って、小さな嘘をつくところ」 「はあ……そんなことしてないだろう」 「してないと思うなら、このLINE見返してみたら?」 「見返したけど、してなかった」 「また嘘。こんな一瞬で全部読み返したの?即読とかのレベルじゃないでしょ、それ」 「いや、読まなくても、なんとなく見たらわかるだろう」 「わかんないでしょ」 「まあ、もういいや。とりあえずお土産を持って行くなら早めにお願いね」 「言われなくても、明日持って行く気だったよ」 「そうですか」 「旅行から帰ってすぐお母さんに連絡入れてたからさ。あんまり遅くなると、私がガミガミ言われるんだからね」 「分かってるって」 「本当にお願いね。ただでさえ私はお母さんから嫌われてるし。これ以上変な揉め事とか嫌だから」 数日後、美咲は義母の家を訪ねていた。 「美咲さん、お土産もらったわ。ありがとうね」 「いえいえ。それよりも、今回も顔を出せなくてすみません」 「京介から聞いたわよ。仕事が忙しいんだって」 「はい。望美が生まれてから、一度も顔を出せてなくて。もう生まれて三ヶ月です。その間、一度も顔を見せないなんて……どうなの?」 「本当にすみません。今やってるプロジェクトが落ち着いたら、必ず」 「それっていつよ?」 「来月いっぱいは忙しいんじゃないかと」 「ああ、そうですか。全く、仕事熱心すぎるのも考え物だわ」 「すみません」 「産休や育休だって、最低限しか取らなかったんでしょ」 「タイミング的に、仕事を離れるのが難しかったので」 「そんな仕事仕事ばっかりじゃ、家族との時間も取れてないんじゃない?」 「いえ、先週はそれこそ家族旅行に行きましたし」 「旅行には行けるのね。でもうちには顔を見せないの?それって嫁としてどうなのかしら?」 「お声がけはしましたよ。都合が合わなくてご一緒できませんでしたけど」 「そうだったっけ?京介が誘ったって言ってましたよ」 「そうだったかもしれないわね。じゃあそれは一旦いいわ」 「ええ、いいんですか?」 「それよりも、普段の家事や育児はどうなってるの?平日の帰りが遅いって聞いてるけど」 「確かに残業とかもあって、遅い日も多いです。けど家事や育児はしっかりやってますよ」 「本当かしら?」 「本当ですよ。京介に手伝ってもらうこともありますけど」 「口で言うのは簡単だけどね。できてると思ってるのは美咲さんだけじゃないの?」 「それはどういう意味ですか?」 … Read more

18 September 2026

帰宅すると、玄関に大きなスーツケースが二つ。嫌な予感しかなかった。リビングには、最も会いたくない人物がいた。姉だ。「今日から私とメイも一緒に住むから」。「は?何言ってるんですか」。「ヤの許可は取ってあるから」。2週間のつもりが、1年が過ぎた。姉は働かず、なぜか毎月きっちり生活費を置いていく。その金の出所がずっと引っかかっていた。姪のメイは週に一度、大きなカバンを持って友達の家に泊まりに行く。…

家に帰ると、玄関に見慣れた大きなスーツケースが二つ並んでいた。嫌な予感しかしない。リビングへ足を踏み入れると、そこには私が最も会いたくなかった人物がソファに座って足を組んでいた。姉だった。 「ゆうな、家誰もいないんだけど」 「お姉さん、仕事中ですから。って、え?うちに来てるんですか?」 「そう。今日から私と娘のメイも一緒に住むから」 「意味が分かりませんよ」 「あ、ゆうなってバカなの?こんな簡単なことも理解できないとか受けるんだけど」 「受けません。というか、本当に何なんですか?」 「実はさ、旦那と離婚しちゃって行く当てがないんだよね。小実家に帰ったらいいじゃないですか。無理無理。私、両親から勘当されてるから」 「だからって、こんな急に来られても」 「まあまあ、いいじゃん。お、窓開いてる。こっから家の中入っとくね」 「だめです。やめてください。不法侵入ですよ。ヤの許可は取ってあるから大丈夫」 「へ?ヤが許可したんですか?」 「うん。2週間くらい同居させてって言ったら、OKって」 「2週間?」 「次の家が見つかるまで、だってさ。ってことで、よろしく」 「ちょっと、何考えてるのよ。私は反対ですから」 姉は肩をすくめて、子連れで行く当てがない私がかわいそうだと思わないのかと聞いてきた。思わない。そもそも、あんたは何を平然としているんだ。昔、私とヤが実家で同居していた頃、自分が何をしたか覚えていないのか。 「あ、なんかしたっけ?」 「私の私物を勝手に売り払ったんですよ。しかも何回も」 「あー、思い出した。でもあれ、そっちも悪いよね。名前書いてなかったし。リビングに置いてあったんだからしょうがないじゃん」 「小学生みたいな理屈が通るとでも?私のバッグも服も勝手に売っといて」 「はいはい。ごめんごめん」 「いいから、さっさと帰ってください」 「帰るとこないって言ってんじゃん。人の話はちゃんと聞いた方がいいよ。社会人の常識だから」 「ならそっちも聞いてください。私は帰れって言ってるんです」 「てか、悪い話じゃないでしょ。どこがですか?宮で子宮全摘してんでしょ?メイが一緒に住むとかラッキーじゃん」 「あなたって人は、どこまで馬鹿にする気なんですか?」 「はいはい。怒んない。てかこの話もうめんどいから終わりね。部屋1個もらうわ。メイは廊下とかでも寝れる子だから気にしないで。じゃ、これからよろしく」 その日から、姉と姪のメイは私の家に居座ることになった。姉は何も働かない。それなのに、毎月きっちり生活費を置いていく。どこからそんな金が出てくるのか、私はずっと疑問だった。 1年が経った。姉は「仕事で遅くなる」と言って出ていき、「また彼氏と別れた」と帰ってくる。その繰り返しだ。最初は2週間だけの予定だったのに、もう1年も同居している。何かの拍子に彼氏と暮らすからと出ていって、数日後に喧嘩して帰ってくる。姉の気まぐれに、私はもう振り回されていた。 「お前が姉貴と喧嘩ばっかだからって、メイを巻き込むなよ」 夫のヤがそう言った。私はメイのことが気になっていた。小学4年生の姪は、1週間に1回は友達の家に泊まりに行く。頻度が高すぎる。しかも、1日だけしか泊まらないのに、毎回大きなカバンを持っていくのだ。 「メイちゃんって、荷物少ないじゃない?ランドセルと教科書、あとは服くらい。なのに持ってたのよ。ゲームソフト」 「ゲーム機もないのに?」 「変だと思うでしょ」 「お前が姉貴を嫌いだから、メイも色メガネで見てるんだよ」 「私の私物を平然と使うのよ。この前もデート行くって言って、勝手に私の服を着てった。このままにしてたら、また売られるわよ」 「分かったって。とりあえず落ち着けよ。明後日には帰ってくるんだぞ」 「いや、ダこ拒否します。これ以上お姉さんに振り回されたくない」 「メイはどうするんだ?メイまで家から追い出すっていうのか?」 「それは……そういうことだ」 「どうせすぐにまた彼氏と復縁したとか言って出ていくでしょう。その時は、また数日で帰ってこないことを祈っとくわ」 翌日、姉が帰ってきた。荷物を抱えて、また別の男と別れたと笑っている。私は覚悟を決めて、話を切り出した。 「お姉さん、お話があります」 「ああ、何?てか仕事は?」 「今日は用事があって、半球をもらったんです。それよりも、うちから出ていってくれませんか?」 「出ていってって。今日の朝に来たばっかなんですけど」 「数ぶりの帰宅ですね。彼氏さんと別れたんだとか」 「そうそう。聞いてよ。あいつもマジで最悪でさ」 「ああ、そこら辺は興味ないんでいいです」 「あ、冷たい。女同士の会話は共感が大事って知らないの?共感できないといざって時の味方減るよ」 「残念ですけど、人のものを平気で売ったり使ったりする人には共感できません」 「はいはい。そうですか。で、出ていってくれませんか?」 「私が出ていくってことは、メイも家なくなるんだけど。かわいそうだと思わないの?」 「思いますよ。なので、メイちゃんはそのまま家にいてもらいます」 … Read more

18 September 2026

正月の親戚の集まりで、酔った夫が突然怒鳴った。「おい、嫁の分際で偉そうにするな。早く酒持ってこい、このクズが。」私は台所でつまみを食べていただけなのに、彼は本当に脇腹を蹴ってきた。倒れて顎まで打った。「誰にも言ってないだろうな。俺は優しい夫で通ってるんだから黙ってろよ。」そう言われ、私は笑顔で「お酒とお料理、すぐにお持ちします」と答えた。その夜、ルミおばさんから電話がきた。「今日廊下で思いき…

「おい、嫁の分際で親戚の集まりで偉そうにするな。おら、親戚一同が酒を待ってるんだよ。早く酒持ってこい。このクズが。」 酔っ払った夫のケトが、正月の親戚の集まりでいきなり怒鳴ってきた。私は台所でルミおばさんが特大の船盛りを出してくれたから、ちょっとつまみを食べてただけなのに。 「ごめんごめん、今台所でつまみ食いしてた」 「はあ? なめてんのか。嫁の分際で俺らを待たせるなんて何様のつもりだ。サボってるともう1発蹴るぞ。」 「うわあ、やめて。痛いのやだよ。」 彼は本当に蹴ってきた。正月から、親戚の家の廊下で、容赦なく脇腹にドーンと。私は倒れて、ついでに顎まで打った。 「おい、さっきの件は誰にも言ってないだろうな。」 「言うわけないじゃん。」 「俺は優しい夫で通ってるんだから黙ってろよ。」 「相変わらずサッカー選手並みのいい蹴りするね。」 「せっかくのめでたい正月なのに恥を欠かせるから気合入れてやったんだ。」 「まあ目が覚めたのは確かだね。おかげでやるべきことが明確になったわ。」 「だろ。嫁ってのはな、夫の親戚の集まりでは黒子に徹するもんなんだよ。お前みたいにヘラヘラ笑って親戚と慣れ合ってる姿見ると虫が走るんだよ。」 「ええ、だって皆さんと仲良くしたいじゃん。お母さんもルミおばさんもリッカちゃん座っててって言ってくれてるのに。」 「社交辞令に決まってんだろうが。本当に座ろうとするやつがいるか。お前の居場所は台所と廊下だけだ。」 「ちょっと犬じゃないんだからさ。」 「犬以下だろ。飯も作るの遅い。酒も持ってこない。芸能の1つもできない。試しぐらいのゴミだ。」 「相変わらずひどい言われようだなあ。」 彼は酒を1分遅れるごとに、帰ってから1発ずつ追加で蹴りを入れると言った。私は笑顔のまま「お酒とお料理、すぐにお持ちします」と返した。 「たく、手間を取らせやがって。」 「ああ、そうだ。さっき蹴られたところが北海道の形をした痣になってる。写真見る? 」 「いらねえからさっさと働け。」 その夜はあと1時間くらい飲んで帰るから、先に車に乗って温めておけと言われた。「了解、本日も運転手として頑張ります」と答えると、エンジンを温めるついでにアイスを買ってこいと言う。 「え、なんで? お腹空いたの? 散々おせちやご馳走食べてたのに。」 「違うわ。デザートだよ。1番高いやつな。」 「分かった。今から行ってくるね。ああ、ついでに脇腹冷やすための氷も買ってきていいかな。」 「そんなの唾つけときゃ治るわ。甘えんじゃねえよ。」 「うん、なんかいつもと痛みが違ってさ、晴れてきてるんだよね。」 「俺のキックの後が残るなんて光栄に思え。」 「うん、確かにありがたいんだけど、もしたまたま警察に止められたりして、この痣が見つかって警察沙汰になるのは嫌じゃん。」 「警察とか物騒なこと言うな。夫婦間のことに関して警察が介入できるわけねえだろう。」 「ええ、そういうもんなんだ。」 「民事不介入って知ってるか? ケトって法律にも詳しいんだな。」 「じゃあ安心だね。」 「おおよ。だから何の心配もせず今後も俺のサンドバックでろ。」 「お役に立てて何より。」 そう言ってコンビニに向かおうとした時、ルミおばさんから電話がかかってきた。「リッカちゃんどこ? おせちを用意したのにどこにもいないから。」 「今車でコンビニに来てます。」 「なんで? うちの冷凍庫にいくらだってあるわよ。」 「ケトが高級アイスしか食べないんですって。」 「あのね、ケトは私のおいでずっと可愛がってきたわ。でも私には隠さないで欲しいの。」 「何をですか? 」 「今日廊下で思いきり蹴られてたよね。」 「え、私見ちゃったの? そうだったんですか? 参っちゃったなあ。」 「笑い事じゃないでしょ。」 … Read more

18 September 2026

あの電話が鳴った瞬間、私は冷たい台所のタイルに立ち尽くしていた。義理の妹・小春からだった。「お姉さん、あたし内定もらって泣いちゃったの。決まったのよ!おめでとうって言って!」その明るい声のあと、彼女はこう続けた。「で、お祝いのプレゼントちょうだい。限定コスメと、あと百万超える冒金のバッグがいいな。だってうちは上流階級の娘だから、安いものは似合わないの」。私は必死に平静を装って答えた。すると彼…

「お姉さん、あたし内定もらって泣いちゃったの。決まったのよ!おめでとうって言って!」 電話の向こうで、義理の妹・小春がはしゃいでいる。私はスマホを耳に当てたまま、冷たい台所のタイルに視線を落とした。 「そうなの?おめでとう。だから、うちで内祝いやることになってさ。」 「いいね!いつやるの?」 「今週の土曜日。招待してあげるから。のどかさんも来てよ。」 「え?私も行っていいの?」 「うん。で、お祝いのプレゼントちょうだい。」 私は思わず笑ってしまった。図々しいにもほどがある。 「なんなら今日、プレゼント買ってそのまま渡しに来てくれてもいいよ。」 「え、今日は忙しいから厳しいかも。」 「忙しいとか言う割には連絡取れてるんじゃん。」 「いや、今はお昼休みだから。土曜日にプレゼント渡すね。」 「どういうのが欲しいの?化粧品、お洋服、冒金のバッグ。」 「……冗談だよね。冒金って、百万超える高級ブランドでしょ?」 「当たり前でしょ。ほら、うちはお父さんが投資家で資産家だから。つまり上流階級の娘ってわけよ。だから持ち物もそれなりのものじゃないと。」 私はため息をついた。 「言いたいことは分かるけど、下民のあんたと違って、私に安いものは似合わないの。」 「その下民からプレゼントをもらうことに抵抗はないんだ。」 「納税よ、納税。下民は上級国民に、税金っていう名の贈り物を納めなさい。」 「……どこぞの国のお姫様か何かね。」 「お祝いしたい気持ちはあるけど、冒金は買えないです。」 「なんでよ!義理とはいえ、私は妹よ。妹が可愛いと思わないの?」 「なら、年上かつ義理の姉を敬う気持ちはないのかな?」 「あんたのどこに尊敬できる部分があるの?あんたの一族はみんな地味で見すぼらしくて、まさに貧乏人って感じよね。」 その瞬間、私の手が固くなった。 「私だけならまだしも、私の家族や親戚のことまで馬鹿にしないでくれる?すごく嫌な気持ちです。」 「いやいや、嫌な気持ちになったのは私の方ね。」 「本当はあんたたちと身内になりたくなかったけど、お兄ちゃんが連れてきた人だから何も言えなかっただけ。」 「……小春と仲良くなりたいと思ってたけど、そんな風に思ってたんだね。」 「そういうこと言う人の内定祝には、行きたくないかな。」 「は?行かないんだったら、お母さんに言うから。嫁が妹の私にプレゼントくれないって。」 「なんでそこでお母さんが出てくるの?」 「私が泣きついたら、家に怒鳴り込んでくるかもね。」 「分かったよ…………じゃあ、土曜日ね。」 通話が切れた。スマホを置いて、私はしばらくその場に立っていた。 翌朝、私はコスメ売り場の前で商品を眺めていた。すると背後から、夫・はるきの声がした。 「おい、のどか。」 「あ、はるき。」 「小春ちゃんって、何色が好きかな?」 「は?小春のなんで?」 「いや、小春ちゃんの内祝いのプレゼント買いに来ててさ。」 「休みの日の朝から何してるかと思ったら、買い物かよ。」 「寝る前に声かけたじゃない。」 「で、どうかな?限定品のコスメとかがいいかなと思ってるんだけど。」 「いいんじゃね?てかなんで内祝いのこと知ってんの?」 「昨日の昼に、小春ちゃんから連絡あったよ。」 「てことは、お前も来るわけ?」 「そうだけど、行っちゃダメなの?」 「私てっきり、はるきと一緒に行くもんだと思ってたよ。」 「いやいや、妹の内祝いに、嫁のお前も参加とは図々しいわ。」 「何が図々しいの?普通に誘われたから行こうと思っただけなんだけど。」 「お前さ、自分の立場とか身分、分かってんの?」 「嫁であることは分かってるけど、身分って何?」 「うちを何だと思ってんだよ。資産家の富裕層だぞ。」 「お前は運よく俺に気に入られたから結婚できただけ。」 … Read more

18 September 2026

週末の夕食、私が作った料理を一口食べた妹が「お姉さんの家、近くてラッキー。今日も夕飯、ごちになります」と笑った。それが当たり前になっていた。毎週、妹とその子供7人が私の家に来て、食材費も出さず、私は10人分の食事を作り続けた。ある日、夫に「10人分も2人分も一緒だろ」と言われ、私は自分の人生が何かに押しつぶされていくのを感じた。それでも私は気づいていなかった。本当に苦しんでいたのは、妹の高校…

「お姉さんの家、近くてラッキー。今日も夕飯、ごちになります」 まゆがスマホを片手に、にこやかにそんなことを言い放った。週末の夕方、食卓を囲むその台詞にもう何度目かの呆れが込み上げてくる。 「まゆちゃん、もういい加減にしてくれない?」 「ああ、何がですか?」 「何が、じゃないでしょ。毎週末、うちにご飯を食べに来て」 「りにって言い方、やめてくださいよ。兄夫婦のお家へご馳想になりに行ってるだけです」 「まゆちゃんと子供7人、合計8人よ。それが毎週って、ありえないでしょ」 「うち、大家族なんで」 「そういう問題じゃないの。そもそも、食材費も出さないって、どういうこと?」 「だって、お兄ちゃんが出さなくていいって」 「大輔が言ったことは忘れて。月1回とかならまだしも、毎週でしょ。大人として、食費は出すでしょ」 「あ、お姉さん、それってパワハですか?上の立場の人が下の人にお金を要求するとか、最低、典型的なパワハですよ」 「いや、ごめん。れ、何言ってるの?これでパワハが通るの、正規の世界だけよ」 「言い訳は聞きたくありません」 「そういうことじゃなくて…。てか、そんな考え方で、普段どうしてるの?」 「普段って、何ですか?」 「いや、7人の子供の母親でしょ。面倒見たり、できてるの?」 「うわ、お姉さん、最悪」 「え?何が?」 「今時、そんな考え方、ありえませんから。母親だから子供の世話をするの当然とか、時代錯誤すぎてびっくりした。ジェンダーハラスメント、全ハです」 「全ハ?急に知らない単語、出てきてびっくりしたわよ。何でもハラスメントって言うの、やめてくれない?」 「知らないんですか?ハラスメントはね、された側がそう思ったら、そうなんですよ」 「都合のいい解釈ね」 「そういう時代なんで」 「あ、そう。だから今の時代、母親だからとか、関係ないんです」 「いや、まゆちゃん、シングルマザーよね」 「そうですけど」 「じゃあ、まゆちゃんが面倒見ないで、誰が見るの?お母さんたちは北海道だから、頼れないでしょ」 「うちの長女が、見てくれてるんで、大満足です」 「凪沙ちゃんがあの子…。高校生よね」 「ピッチピチの16歳ですよ。バイトもしてるって言ってたし。学校にバイトに、下の子のお世話に、家事も全部やってくれてます」 「それ、自慢できる話じゃなくて、もう怖い話だからね。16歳の子供に、どれだけ負担かけてるの?」 「あ、だったら、お姉さんが負担減らしてくださいよ。はい。明日から、毎日、食事の世話、してください」 「は?何言ってんの?」 「これからは、毎日ごちになります。凪沙の負担、お姉さんも嬉しいですよね」 「バカ言わないでよ。ただでさえ大変なのに、毎日なんて無理」 「家族8人で、いつもごめんね。明日も行くから、よろしく」 「ちょっと、勝手に決めないでよ。聞いてるの?まゆちゃん!」 翌日。 「うわあ、今日も疲れた」 「大輔、仕事お疲れ」 「わ、なんだ、なんだ…。もしかして、凪沙君もお疲れか?」 「まゆちゃん、本当に今日も来たのよ」 「ああ、それで。まあ、来るって言ってたんだろ」 「言ってたけど、まさか本当に来るとは思わなかったわよ…。でも、凪沙が念のためにってさ、夕飯、まゆんとこの分も作ってたじゃん」 「それはそうだけど。なら、予定通り、何も問題なくね?」 「問題しかないでしょ。私たちとまゆちゃんとこ、合わせて10人分の食事よ。それを毎日って、うちは食堂か?」 「大げだなあ」 「はあ。どこが大げか。食材費も全部うち持ちだよ。こんなの、破産するわ」 「しないって。食費だったら、凪沙のパート代だけで足りるじゃん」 「全部使えってこと?」 「言ってるよね」 「…。そもそも大輔は、10人分の食事を甘く見すぎ。2人分作るのと、10人分作るのと、どれだけ違うか、理解できないの?」 「いや、だから、大げだって。人数増えるってことは、食材増やすだけだろう」 「は、それ本気で言ってるの?」 … Read more

18 September 2026