「あの日の正月、台所でおせちをつまんでいたら、突然夫が立ち上がって私の脇腹を思いきり蹴り飛ばした。倒れて顎を打った私に、夫は酔った顔でにやにやしながら言った。『お前が悪いんだろうが。せっかくのめでたい正月に恥をかかせるから気合を入れてやったんだ』。廊下で誰も見ていなかった。私は笑って立ち上がり、お酒を運んだ。それが日常だったから。でもその夜、車の中で義理の叔母から電話がかかってきた。『今日、…

お正月の親戚の集まり。俺は台所でルミおばさんの特大の船盛りをつまみ食いしてから、居間へ戻った。すると、いきなり夫のケトが立ち上がって、俺の脇腹を思いきり蹴り飛ばした。 「うわあ、やめて。痛いのやだよ」 倒れた拍子に顎まで打った。廊下だから誰も見ていない。ケトは酔った顔でにやにやしながら言った。 「お前が悪いんだろうが。せっかくのめでたい正月に恥をかかせるから気合を入れてやったんだ。嫁の分際で俺らの酒を待たせるなんて何様のつもりだ。早く酒持ってこい、このクズが」 「はいはい。ただいま参上します」 「1分遅れるごとに、帰ってから1発ずつ追加で蹴り入れるからな」 「分かった。じゃあお酒とお料理、すぐお持ちしますね」 「これはしつけだ。分かってるな」 「分かってますよ」 俺が立ち上がろうとすると、ケトがさらに続けた。 「今日は特に機嫌がいいんだ。酔ってるからな」 「ええ、分かってます」 「さっきの件、誰にも言ってないだろうな」 「言うわけないじゃん」 「俺は優しい夫で通ってるんだ。黙ってろよ」 その夜、ケトはあと1時間ほど飲んでから帰ると言った。 「先に車に乗って温めておけ」 「了解。本日も運転手として頑張ります」 「エンジン温めるついでにアイスを買ってこい。一番高いやつだ」 「分かった。ついでに脇腹を冷やすための氷も買ってきていいかな。なんかさっきの蹴りで腫れてきてるんだよね」 「そんなの唾つけときゃ治るわ。甘えんじゃねえよ」 「もし警察に止められて、このアザが見つかったら警察沙汰になるのは嫌なんだけど」 「警察とか物騒なこと言うな。夫婦間のことには警察は介入できねえんだよ。民事不介入って知ってるか?」 「ケトって法律にも詳しいんだね。じゃあ安心だ」 「だから何の心配もせずに、これからも俺のサンドバックでいろ」 「お役に立てて何より。じゃあコンビニ行ってくるね」 コンビニから戻ると、車の中でルミおばさんから電話がかかってきた。 「リッカちゃん、どこ? おせちを用意したのにどこにもいないから」 「今、車でコンビニに来てます」 「なんで?」 「ケトがアイスを食べたいそうです」 「うちの冷凍庫にいくらでもあるわよ」 「高級アイスしか食べないんですって」 しばらく間があって、ルミおばさんの声が低くなった。 「あのね、ケトは私にとってずっと可愛がってきた甥よ。でも、私には隠さないでほしいの」 「何をですか?」 「今日、廊下で思いきり蹴られてたよね」 「え、見てたんですか?」 「笑い事じゃないでしょ。倒れたあともヘラヘラ笑ってたわよね。どうして平気でいられるの?」 「いつものことなんで」 「さっさと離婚したほうがいいわ。あと病院と警察にも行きなさい」 「そうですね。考えておきます」 「何を呑気なことを言ってるの? 笑ってやり過ごしたって何も解決しないわ」 「私だって楽しくて笑ってるわけじゃありません。痛いです。苦しいです。今すぐ逃げ出したいんです」 「だったら今すぐ行動しないと」 「今じゃないんです。分かってください」 「でも、取り返しのつかない事態になったらどうするの?」 「そうならないために頑張ってるんです」 「どういう意味?」 「アイスが溶けると怒られちゃうので、また戻ります。話はその時に」 「分かった。気をつけてね」 翌日、ルミおばさんがお礼の電話をかけてきた。 「ケト、昨日はありがとうね。お酒のお土産までいただいて。おばあちゃんも孫たちが集まって喜んでたわ」 … Read more

18 September 2026

義母が腕を組んで玄関に立っていた。「ご飯とかはいいから、まず最初に部屋の荷物をまとめてちょうだい」。仕事から帰った私は玄関で「おかえり」の一言さえもらえず、いきなりそう告げられた。あまりに突然で、言葉の意味が頭に入ってこなかった。「あんたと一緒に生活するなんて、私はうんざりだから」。夫は海外出張中で、この家には私と義母しかいない。義母は私の仕事が夫より稼ぎが少ないことを執拗に責め、「今すぐ離…

仕事から帰って玄関を開けると、義母が腕を組んで立っていた。疲れた顔も見せられないまま、僕は「おかえり」の言葉さえももらえずに、いきなりこう言われた。 「ご飯とかはいいから、まず最初に部屋の荷物をまとめてちょうだい」 「え、何かありましたか? 」 「もういい加減にして欲しいのよ。あんたと一緒に生活するなんて、私はうんざりだから」 「どういうことですか? いきなりそんなことを言われても」 「あんたって本当にどういう神経をしてるのかしら? 自分の立場ってものを全く理解してないよね」 「立場? 」 「あんたは弘樹のおかげでご飯が食べれてるんでしょ? 弘樹は超有名大学を卒業して大手企業で仕事をしてるわ。給料だってすごいし、出世してもっと稼げること間違いなしよ」 「それはもちろん理解してますよ。本当に弘樹のようなすごい人と結婚できてとても幸せだと思っています」 「それで今は私たちの家で生活をしているのよ」 「そうですね。本当に感謝してますよ」 「感謝? そんな風に思ってもないくせに」 「思ってますよ」 「だったらどうして私の言うことを聞けないわけ? 私がお願いしたことを何一つ聞いてくれないじゃない? 」 「何一つというのは大げさですよ。ただこの前みたいにいきなりバラ寿司を作れみたいな要求をされても難しいから断ることはありますよ。もう晩御飯を作り終えた後だったのでね」 「私が食べたいと言ったものが作れないのなら、あんたはシフトは呼べないわ」 「お母さんがわがまますぎるんですよ。こちらも仕事をしながら家事をやっているので何でもかんでもできるわけじゃないです」 「そうやっていつも口応えをするわよね」 「お母さんの要望を全て答えていたらこちらは体も精神も持ちませんから」 「あんたは弘樹の世話になってるくせに図々しいのよ」 「お母さんが弘樹のことを自慢してるのは分かります。ですけど、私だって仕事をして頑張っているんです。それなのによくそんなことが言えますね。そんなひどい言葉を人に言えるなんてお母さんはどうかしてますよ」 「私は事実を言っただけよ。実際にあんたの稼ぎなんて弘樹の半分以下なんだから」 「だとしても私はお母さんのわがままに全て付き合うつもりはありません。それに何度も弘樹から注意をされてるでしょう。私の意見は聞けなくても弘樹の言葉には耳を貸してくださいよ」 「あの子はあんたにそのかされて言ってるだけ」 「そうですか。そう思ってればいいです」 「じゃあさっさとこの家から出てってちょうだい」 「だから荷物をまとめろとか言ってたんですね」 「今がいい機会よ。弘樹が海外出張中に離婚しろ。今すぐ出ていけ」 「それ弘樹は知らないでしょ」 「当たり前よ。あの子はまだ理解してないから。でも海外出張であんたと距離を取ったことでいかにあんたが不必要な存在か分かると思うわ。あの子はもうすぐ出張先から帰ってくるんだから。それまでにあんたの存在を消しておかないとね。だから今のうちに離婚だけでもしておきなさい」 「どうしてそうなると思えるんですかね」 「親子なんだから分かるのよ。あの子は私が愛情かけて育てたの。だからあの子の考えなんて手に取るように分かるわ」 「申し訳ないですけどそんなことできません」 「はあ。また口応え」 「当たり前じゃないですか。離婚は夫婦が決めることです。あなたに何を言われて決めることじゃない」 その夜、弘樹に電話をかけた。弘樹は海外出張中で、時差の関係で深夜になっていたけれど、すぐに出てくれた。 「ちょっと大変よ」 「何かあった? もしかしてまた母さんか? 」 「ええ、しかも今までとはちょっと違うのよ」 「何があったんだ? 」 「いきなりあなたと離婚して家を出て行けって言われたの」 「はあ。マジで? 」 「本当よ。ついさっきそんなこと言われてさ。今から帰らないといけないってのに本当気が重いわ」 … Read more

17 September 2026

「今週末、ちょっと家を空けることになったんだ。」夫の健一がそう言ったとき、キッチンに立っていた私は、心のどこかで小さな違和感を覚えていた。最近、彼が週末ごとにゴルフ旅行へ出かけることが増えていたからだ。「最近多くない?どうかしたの?」と聞くと、彼は「向こうは勢いのある企業だから、断れないんだよ」と、どこか芝居がかった口調で答えた。その言葉に、私は言い知れぬ不安を感じたが、それ以上追及すること…

「今週末、ちょっと家を空けることになったんだ。」 まなみはキッチンから振り返り、夫の健一を見た。最近、そういうことが増えている気がする。 「最近多くない?どうかしたの?」 「ゴルフ旅行に誘われてな。友人の社長さんが主催らしいんだ。」 「そうなんだ。」 「向こうは勢いのある企業だから、断れないんだよ。同業だからこそ、仲良くしておかないと。」 「別に、嫌なら行かなくてもいいと思うけど。」 「そう言うなよ。こっちは会社を背負う立場なんだ。父さんから会社を任されてるんだから、できることは何でもやらないと。」 まなみはため息を飲み込んだ。 「あんまり無理しなくていいよ。お父さんだってプレッシャーをかけるつもりはないだろうし。休日くらいはゆっくりしないと体が持たないよ。」 「気遣ってくれてありがとう。でも、やっぱり父さんの後を継ぐっていうのは、どうしてもプレッシャーがあるんだ。父さんは一台でこの会社を大きくした偉大な人だからな。」 「お父さんも、運が良かっただけだって言ってるよ。コンサル業を始めて最初にうまくいって、そこから人脈が広がったのが大きかったって。」 「父さんが作り上げた人脈とノウハウがあるから、俺たちはこの会社で働いていられるんだ。」 「それはそうかもしれないけど、あなたが必要以上に背負う必要はないのよ。私だって専務として支えるつもりだし。」 「ありがとう。それは本当に心強いよ。でも、甘えてばかりもいられない。会社の中には、俺が専務の旦那だから社長になれたんだって言う奴もいるみたいだし。」 「言いたい人には言わせておけばいいわ。あなたが社長になるのは、父と株主の人たちが決めたことなんだから、胸を張っておけばいいのよ。会社が大きくなると、いろんな人が勝手なことを言うようになってくるわ。」 「この前なんて、私とあなたが離婚寸前だって噂が流されたりしてたんだよ。」 「そうなの?」 「そうそう。嘘すぎる話だろ?」 「だから、周りの意見になんて流される必要はないの。」 「うん、分かってる。でも、とりあえず今回の旅行には行かせてもらう。約束してしまったから、今さらなしにはできないし。」 「そうね。でも、気をつけてね。」 「何がだ?」 「そういう旅行で、羽を外しすぎるのはダメってこと。あなたはうちの社長なのよ。要は看板であり顔なの。そんなあなたが変な騒動に巻き込まれたら、株価とか信頼に直結するからね。」 「ああ、それは分かってるよ。俺が変なことをするわけないだろう。」 「まあね。それじゃあ、週末は気をつけて行ってきてね。」 「ありがとう。」 翌日、今度はまなみの父が電話をかけてきた。 「まなみ、今週末にご飯でも食べないか? 健一君も呼んで、妻と私の4人でどうだ? 私の知り合いがワイナリーをオープンしたんだ。そこにはレストランも併設されていて、とても美味しいと評判らしい。」 「へえ、そうなんだ。」 「昔からワインには目がないだろう? ワインの味は保証できる。」 「別にいいけど。そうやって毎週毎週お誘いされてもね。」 「しょうがないだろう。こっちは仕事がなくなって退屈なんだ。」 「会長として、やることがあるでしょ?」 「ないよ。社長に比べたら、やることなんて何もない。ただ会社に席を置いてるだけの飾りだ。」 「だったら、趣味とか好きなことをしたらいいじゃない。お金も時間もたくさんあるんだから、なんだってできるでしょ。」 「趣味も何も、俺にはないよ。ずっと仕事ばかりをやってきた人生だ。それはお前だって分かってることだろ。」 「確かに、家でも仕事の話しかしてなかったもんね。」 「そんな俺から仕事がなくなってしまったんだ。そうなると、楽しみはまなみたちとの食事しかないんだよ。」 「そんなに言うなら、社長を続ければよかったのに。」 「こんな年寄りがいつまでも社長にいたら、会社に迷惑だと思ったんだ。それに、あの時はまだ何か趣味ややりたいことが見つかると思ってたんだよ。でも、ゴルフも旅行も、何もかも楽しめなかった。本当に仕事しかなかったんだと思い知ったよ。」 「勝手に絶望しないでよ。週末のご飯にはちゃんと行くからさ。」 「本当か? それは良かった。でも、健一は来れないからね。」 「知り合いの社長さんとゴルフ旅行ですって。」 「みんなゴルフも旅行も好きだよな。」 「普通はそうなんじゃない? ただ、少なくとも健一は楽しみにはしてないわ。付き合いで行くだけだから。」 「付き合い? そんなの行く必要ないだろう。」 「やっぱりこの業界は人脈が大事だから、断れないのよ。」 「俺が作った人脈があるから、そんなことしなくても。」 … Read more

17 September 2026

義理の妹から「内定祝いのプレゼントは100万円のバッグね」とLINEが来た。冗談だと思ったら、本気だった。私は普通の会社員で、夫の実家はお金持ち。でも結婚してから、彼らは私を「下民」と呼ぶようになった。夫は「お前は運よく俺に気に入られただけ」と言い、義母は「あなたにはローション配合のティッシュ1枚ももったいない」と笑った。私は家族を馬鹿にされたことが許せなかった。だから離婚した。それなのに1…

「お姉さん、私、内定もらったの!泣いちゃったよ。おめでとう!だから、うちでお祝いすることになったんだ。いいね。いつやるの?」「今週の土曜日。招待してあげるから、のどかさんも来てよ。」「え、私も行っていいの?」「うん。で、お祝いのプレゼントちょうだい。なんなら今日買ってそのまま渡しに来てくれてもいいよ。」「え、今日は忙しいから厳しいかも。」「忙しいとか言う割には連絡取ってんじゃん。」「いや、今昼休みだから。土曜日にプレゼント渡すね。どういうのが欲しいの?」「化粧品、お洋服、冒金のバッグ。」「冗談だよね。100万超える高級ブランドって知ってる?」「当たり前でしょ。うちはお父さんが投資家で資産家だから。つまり上流階級の娘よ。だから持ち物もそれなりのものじゃないと。」「言いたいことは分かるけど、下民のあんたと違って私に安いものは似合わないの。」「その下民からプレゼントをもらうことに抵抗はないんだ。」「一緒よ。納税よ。下民は上級国民に税金という名の贈り物を納めなさい。」「どこぞの国のお姫様か何か。お祝いしたい気持ちはあるけど、冒険は買えないです。」「なんでよ。義理とはいえ私は妹よ。妹が可愛いと思わないの?」「なら年上かつ義の姉を敬う気持ちはないのかな?」「あんたのどこに尊敬できる部分があるの?あんたの一族はみんな地味で見すぼらしくて、まさに貧乏人って感じよね。」「私だけならまだしも、私の家族や親戚のことまで馬鹿にしないでくれる?すごく嫌な気持ちです。」「いやいや、嫌な気持ちになったのは私の方よ。本当はあんたたちと身内になりたくなかったけど、お兄ちゃんが連れてきた人だから何も言えなかっただけ。」「私は小春ちゃんと仲良くなりたいと思ってたのに、そんな風に思ってたんだね。そういうことを言う人の内定祝には行きたくないかな。」「は?行かないんだったらお母さんに言うから。嫁が妹の私にプレゼントくれないって。」「なんでそこでお母さんが出てくるの?」「うちのお母さん嫌いでしょ。私が泣きついたら、家に怒鳴り込んでくるかもね。」「分かったよ。じゃあ土曜日ね。」 翌日。休みの日の朝から、晴樹は小春へのプレゼントを買いに来ていた。のどかが声をかける。「晴樹、小春ちゃんって何色が好きかな?」「は?小春のプレゼント?」「いや、小春ちゃんの内定祝のプレゼント買いに来てて。」「寝る前に声かけたじゃない。で、どうかな?限定品のコスメとかがいいかなと思ってるんだけど。」「いいんじゃね?てか、なんで内定祝のこと知ってんの?」「え?昨日の昼に小春ちゃんから連絡あったよ。」「てことはお前も来るわけ?」「そうだけど、行っちゃダメなの?」「私てっきり晴樹と一緒に行くもんだと思ってたよ。」「いやいや、妹の内定祝に嫁のお前も参加とは図々しいわ。」「何が図々しいの?普通に誘われたから行こうと思っただけなんだけど。」「お前さ、自分の立場とか身分分かってんの?」「嫁であることは分かってるけど、身分って何?晴樹を何だと思ってんだよ。資産家の不裕送だぞ。お前は運よく俺に気に入られたから結婚できただけ。俺の身内になったからって勘違いするなよ。」「何をどう勘違いするのか分からないけど、そこまで言うなら晴樹がプレゼント渡してくれる?」「は?なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ。そういうのは自分で渡せよ。男でしかも兄の俺からコスメ渡されたら気持ち悪いだろう。」「そんなことないと思うけど。そんなに嫌なら、やっぱり私も行くべきじゃない。」「分かったよ。朝寝坊したら置いてくからな。」 当日。「なんで着いた途端、晴樹だけ入って私を締め出すの?」「誰が家の中まで入っていいって言った?うちに来ていいのは玄関前までだ。家の中にまで上がるなよ。毛柄わし。俺たちは今、高級寿司を送ってるところなんだ。」「分かった。じゃあ玄関先でいいから、プレゼントだけ小春ちゃんに渡していいかな。」「開けたら開けたで空気が汚れるだろうが。そしたらせっかくの高級寿司がまずくなっちまう。」「ならないでしょ。」「ああ、ちなみにお前には高級寿司なしな。母さんたちも同意見だ。嫁は玄関で麦茶飲むので十分。」「じゃあ帰るね。晴樹から帰れって言われたから帰るね。だからプレゼント受け取りに出てきてくれる?」「プレゼントは置いてって。玄関のドアの部にかけてくれればいいから。」「いいけど、そこそこいい限定コスメだから盗まれるかもよ。」「限定コスメ?ふーん。すぐ取りに行くから、ドアの部にかけといて。」「できるなら直接渡したいんだけど。」「今いとこだから無理。じゃあかけとくね。内定おめでとう。」 1週間後。「ちょっと、あのプレゼント何?限定コスメとか言うから、デュオールとかショネルかと思ったのに。」「私が選んだコスメも、若い女性に人気のブランドなの。よかったら使ってくれる?きっと使いやすいと思う。」「そんな誰もが持ってるようなブランド、嫌なんだけど。」「だったら自分でお金貯めて買おう。そういう苦労があった方が達成感もあるし、もっと誇らしくなれると思うよ。」「私だって苦労して内定取ったんですけど。」「そうだけど、これからはもっと頑張らなきゃ。」「これ以上何を頑張んのよ。じゃあいらないなら返してくれるかな。」「は、それがお祝いする人の態度?」「お金を払ってプレゼントを買ったのは私なんだけど。そこまで言うならもらってあげるわよ。ああ、ケチ臭い義姉だこと。」「お金ないケチでごめんね。じゃあ内定祝ね。」 6時間後。「小春から聞いたぞ。プレゼント買わなかったんだって。」「その言い方はちょっと語弊が。」「ていうか、まだ帰らないの?」「飲み直してんだよ。飲まなきゃお祝いとは言えねえだろう。」「え、車で来たのにお酒飲んだの?明日仕事だよね。」「休むからいいんだよ。今日は実家に泊まるわ。」「そう。くれぐれもお酒抜けてから帰るんだよ。」「分かってるわ。で、小春に渡すものはないのか?」「プレゼントは買ったよ。でも小春ちゃんの好みじゃなかったみたいで。」「義理でも姉のくせに、小春のこと全然分かってねえな。俺はフラダのクマのキーホルダー買ってやったぞ。10万円ぐらいするやつをな。」「そうなんだ。太っ腹だね。でもそのお金は私のお金でもあるんじゃない?」「はあ、なんでだよ。俺が稼いだ金だぞ。」「私たちは夫婦だから、婚姻中に得たお金は2人のお金だよ。そんな高いお買い物、さすがに一言くらい言って欲しかったよ。10万円は相談するうちに入らないだろう。」「5万とか10万でいちいち相談するお前の方が異常。」「いや、晴樹の実家は太いかもしれないけど、うちの世帯の収入では要相談です。金銭感覚を一緒にしないでくれる?」「なんだよ。俺の妹が可愛くないのか。」「お顔は可愛いけど、中身はちょっと難ありかな。」「ひでえ。結婚相手間違えたかな?」「どうしたのよ?前はそんなんじゃなかったじゃない。付き合っていた頃はなるべく自炊したり、古着や中古品買って安く済ませたり、倹約家だったのに。」「ああ、あれは貧乏ごっこしてみただけ。家賃が払えないって私に泣きついたこと、あったよね。」「俺は本当に助けてくれるかどうか試したんだよ。お前は俺のお墨付きに叶って結婚できたってわけ。」「晴樹がそんな感じだったら、私結婚してないよ。お母さんたちだって優しく出迎えてくれた。だから結婚したのに、どうしてみんな変わっちゃったの?」「お前が勘違いしてただけで、元々こんなだよ。」「勘違いしてるのはそっちの方じゃない。晴樹たちがブランド物を好むようになったのは、お父さんが亡くなってからだったよね。悲しみを物で埋めようとしてるんだよ。」「だからって高級車を買う。しかも会社の隣に止めるの、すっごい気を使うんだけど。」「たまたま開会時期だったから別にいいだろう。」「お母さんも以前はそんなことなかったのに、宝石のアクセサリーを身につけるようになったし。」「自分の母親が綺麗なのはいいことじゃん。」「小春も安くてもおしゃれはできるとしてたのに、今は高い服やバッグを持つようになったよね。」「今まで我慢してただけだろ。」「明らかにお父さんの遺産使い込んでるよね。」「それの何が悪いんだよ。お金の使い道は自由だけど、あくまでお父さんが頑張って貯めてきたお金であって、晴樹たちが苦労して手に入れたお金ではないでしょ。」「うるせえな。何なんだよ。ケチな親父のせいで今まで散々我慢させられてきたんだ。別にいいだろう。それとも何だ?羨ましいのか?」「違うよ。自分たちの努力で手に入れたわけでもないのに、偉そうにしないでって言ってるの。」「でも貧乏人なのは本当のことだろう。」「確かに私の両親はそんなにお金があるわけではないけど、大学まで通わせてくれたし、普通の家庭だと思うな。」「学費、奨学金借りたんだろ?」「借りたよ。払うって言ってくれたけど、自分のことだから返さなくていいって断ったよ。」「いや、身近にこうも分かりやすい対象がいると、ついつい哀れんでしまうわ。」「晴樹たちのは哀れみじゃなくて、見下してるよね。今日だってお寿司どころか、家に入れてくれなかったし。」「お前はスーパーのお寿司で十分だろう。」「美味しいけど、そういう問題じゃないでしょ。」「下民のくせに口応えすんな。一般家庭で育った下民のお前は、我が家のつよしだ。」「そこまで言うなら離婚する。」「お好きにどうぞ。俺の助けなしで生きていけるのかな?」「私も働いてるから大丈夫だよ。」「それもそうか。じゃあ世話になったな。離婚届け書いて置いておくから、帰ったら書いてください。」「オッケーオッケー。今日はもう酒飲んじまったから、明日書くわ。」「今日は実家に泊まるから。」「分かりました。じゃあ今から荷物まとめるね。離婚届け書いてくれたら、それ持って出ていくから。俺名義で借りてるマンションだから当然だな。今月分の家賃は半分払うけど、来月からは払わないからね。」「下民の助けなんていらねえよ。じゃあな。」 翌日。「高級寿司、美味しかったわね。お母さん。」「私は食べてないのですが。」「あ、ごめんなさいね。晴樹と小春に送るつもりが間違えちゃった。」「そうでしたか。話は変わりますが、晴樹から聞いてると思いますが、離婚することになりました。」「やっと離婚するのね。清々したわ。」「そんなに嫌でしたか。」「他人が無理やり私たちの家族になったのよ。嫌だったに決まってるじゃないの。」「結婚挨拶の時や結婚当初は、心よく歓迎してくれたと思って嬉しかったのですが。」「ふりに決まってんでしょ。なぜかお父さんがあなたを気に入ってたから、強く反対することができなかっただけ。」「だからお父さんがいなくなった後に、そんな態度を取るようになったんですか?いつも地味で見すぼらしい見た目のあなたのことだもの。どうせお父さんの財産狙いだったんでしょ。ああ、やだ、やだ。なんて欲深いのかしら。どこぞの社長夫人みたいだこ。」「違います。ちゃんと晴樹さんのことが好きで結婚しました。」「どうだか。好きなふりなんていくらでもできるからね。まあ、別れるならいいわ。もう2度とうちに上がることもないならよ。」「だからこの間は家に上がらせてくれなかったんですね。」「あなたには、ローション配合のティッシュ1枚も、3枚重ねトイレットペーパー1cmも、もったいないものよ。」「お金持ちを自慢する割には、ケチ臭いですね。」「うるさいわね。貧乏人がうちに上がれるだけでも光栄なことなのよ。」「あの、勘違いしてるようですが、うちは普通の家庭で、生活に窮したことはないです。」「そうかしら。だって両家顔合わせの時、すっごく地味な格好で来たわよね。」「シンプルなデザインで常識ある服装だと思いますけど。」「あまりにも地味すぎて、恥ずかしいと思ったわ。やっぱりね、育ちとか賢さって、見た目にも出るのよ。あなたの母親は、さえない化粧をしてるし。父親は、風格も頼りもない情けない男ってのがよく分かるわ。」「情けないって何ですか?」「まるでダメな男ってことよ。ああ、こんな人たちと身内だったなんて。離婚してくれて本当に良かったわ。そこだけは感謝。」「私だけならまだしも、両親のことを悪く言うなんて、いくらお母さんでも許せません。」「どう許さないって言うのよ。」「そんな風に人を見下していたら、今は何ともなくても、いつか必ず報いを受けますよ。」「呪いでもかけるの?おお、怖い怖い。」「窮地に陥った時、私は絶対に助けませんからね。」「誰が見るに耐えない貧乏一家に助けを求めるか。それでは今までお世話になりました。」 1週間後。「ちょっと、のどかさん、どういうことなの?」「何の用かな?私、今仕事で忙しいんだ。」「それどころじゃないのよ。昨日内定先の社長から連絡が来て、『規約に違反したので内定を取り消します』って言われたのよ。」「ああ、おじさん。」「なんで身内に社長がいるって教えてくれなかったの?結婚挨拶とか両家顔合わせの時に言ってよ。」「いや、社長はおじさんであって、私の親が経営してるわけじゃないからね。嫁入りする側だし、わざわざ言う必要ないと思って。」「ふざけんな。あんたの父親は工場勤務で、母親はスーパーのパートって言うから油断したじゃない。」「何の油断?とりあえず本当に普通の家庭だから。」「冗談じゃないわ。あんたに騙されたせいでこんな目にあったのよ。」「騙した覚えはないんだけど。」「工場って低賃金なんでしょ?身内に社長もいるのに、なんでわざわざそこで働くかな?新卒の初任給の手取り25万円らしいよ。」「は、おじさんの会社のグループ会社だから、社員の給料も福利厚生も手厚いしいい職場だと思うけど。」「ならあんたのお父さんから社長に行ってやってよ。内定取り消しを取り消してって。それができないなら、ちゃんと理由を教えなさい。」「え、私関係ないのに。」 30分後。「理由聞いてみたよ。」「何だったの?」「面接官の顔を勝手に撮って、SNSにあげたらしいね。」「私のアカウント勝手に見たの?」「今はどこの企業も応募者のSNSはチェックするよ。」「最低じゃん。」「最低なのはどっちなの?面接官の顔と服装に点数つけて、批評したものを投稿したらしいじゃない。」「それの何が悪いの?男の面接官が批評されるような見た目してる方が悪いんじゃん。別に小春に迷惑かけたわけじゃないでしょ。」「私の目に迷惑かかってんだよ。」「本人に直接言ったわけじゃないんだから、別にいいじゃん。」「全世界に晒したよね。それは大枠だし、別にいいで済ませられないよ。」「みんなやってることじゃん。」「自分のことならいいけど、人のことでしょ。ましてや本人から投稿の許可も得ないんだから。こんな失礼な行為、内定取り消されて当然だよ。」「なんで私だけこんな目に会わなきゃいけないのよ。」「悪いことしたっていう自覚がないんだね。」「悪いことしてないんだから当たり前でしょ。だからお願い。可愛い妹の頼みよ。」「義理だとしても血も繋がってない妹の頼みなんていくらお金を積まれてもお断り。自分でどうにかしてね。」「待ってよ。」 5分後。「ねえ、お母さん、なんで教えてくれなかったの?」「突然どうしたの?何をそんなに怒ってるのよ?」「私の内定先の社長、あの下流階級女の親戚だったの?」「え?嘘でしょ?そんなわけがないわ。」「社長から直接聞いたから本当よ。」「じゃあラッキーじゃない。社長が身内にいるってことでしょ。」「アンラッキーだわ。内定取り消されたんだよ。腹立つ。」「なんでそんなことになってるのよ。」「面接官の顔、SNSにアップしたからだってさ。今時普通なのに。」「まあ、古い社風ってことよね。そんなところ、内定取り消されても良かったんじゃない?」「何言ってんの?他のところは全部落ちたから、あの女の親戚の会社しか望みないのよ。ってことは、このままじゃ私、ニート確定ってこと?」「えっと、バイトでもいいわよ。遺産まだ残ってるし。」「いやいや、世間体気にしろよ。ていうかお母さんも働いてよ。遺産、あと少ししかないんでしょ。」「あなたたちがそんなに散財すると思わなかったのよ。」「お母さんだってそうじゃん。ケチなお父さんが病気で亡くなりやいなや散財して。」「いいでしょ。今まであの人に我慢させられたんだから。だからこれは私へのご褒美なの。絶対に働くもんですか。」「じゃあこれからどうすんの?」「いい考えがあるわ。晴樹に協力してもらうのよ。」 5分後。「晴樹、あなたは知ってた?」「何を?」「あなたの底辺嫁の身内に社長がいるってことよ。」「はあ。そんなこと一言も聞いたことねえよ。どうせ嘘だろ。」「それが本当らしいのよ。小春の内定先の社長が叔父だったんですって。」「またまた。そんな冗談で内定取り消されたのよ。」「あ、マジなの?離婚されることに対する嫌がらせ。そうとしか思えないわよね。本当に性格の悪い嫁だこと。」「俺が仕返ししてやるわ。」「待って。むしろこれはチャンスよ。晴樹、その会社に転職しなさい。」「はあ、なんで。」「低所得嫁の身内が社長ってことは、あなたも社長の身内。そこに俺が入れば、身内として優遇されるってことか。」「その通りよ。それに仕事で実績を上げれば、いずれ社長にもなれるかも。」「それいいな。やっぱりあいつと離婚するのやめるわ。」「そうしなさい。うまくいった暁には、実家へ仕送りするのよ。」「もちろん。じゃあちょっとやめて就活してくるわ。」「頼んだわよ。」 翌日。のどかが仕事から帰って疲れているところに、晴樹から連絡が来た。「悪い話があるんだ。」「何?」「この間は済まなかった。頭に血が登って冷静じゃなかった。離婚は本意じゃない。だから帰ってきてくれ。」「もう離婚したけど。」「はい?そんな嘘だろ。」「本当。受理通知届いてない?」「郵便受けなんていちいち確認しねえよ。ていうか勝手に出すなよ。俺、了承してねえぞ。」「したよ。酔ってて覚えてない?」「LINE見返してみて。」「そんなの無効だろ。」「でも普通に会話できるくらい意識はしっかりしてたし。酔いが覚めて、やっぱり離婚したくないってなったら、もっと早めに言うこともできたよね。」「それは忙しかったから言えなかっただけで、離婚したくない。」「それを打って送信するのに5秒もかからないでしょ。本当に受理されちまったのか?」「うん。」「なんでだよ。せっかく会社やめてきたってのに。」「へ?今までやってた会社をやめたの?」「そうだよ。お前の身内が経営してるっていう会社に転職しようと思ってたのに、余計なことしやがって。」「いや、自分のせいだよね。そもそも晴樹が今やってる業種とは全く異なる業種だから、厳しいと思う。」「いや、でも小春の内定を取り消したってことは、まだあと1人採用枠があるんじゃないのか。」「中途は募集してないし、あの後すぐ別の人見つかったって。」「じゃあ俺はどうしたらいいんだよ。」「就活したら?私はもう知らないよ。」「待てよ。それなら再婚しよう。お前にも金持ちの恩恵をもたらしてやるから。」「結構です。それに言うほどお金に困ってないから。」「待ってくれ。せめて就職先のあっせんを。」「おじさんが社長なだけで、私自身は普通の会社員だから無理です。それじゃあ、もう連絡してこないでください。」 1週間後。「のどかさん、ごめんなさい。私が悪かったわ。だからもう1回、内定をちょうだい。」「だから無理だって言ったよね。あと仕事中に何回も連絡するのもやめてくれる?」「ちょっと待って。本当にお願い。今うちはピンチなの。お母さんは働かないし、お兄ちゃんは無職だし。」「お父さんの遺産があるんでしょ?」「それも尽きかけて。うちにはもうお金がないの。」「じゃあどうやって生活してるの?」「実は、夜の路上でずっと立ってるお仕事してるの。もう嫌だ、こんな生活。」「それ犯罪だからやめた方がいいよ。」「やめたくても、他に即金で稼げる仕事ないんだもん。節約して生活してる。普通のティッシュに変えるとか、タクシー移動をやめて徒歩やバスにするとか。生活レベル落とせるわけないじゃん。ねえ、助けてよ。」「嫌です。犯罪者の身内だなんて思われたくないから。これを最後にブロックさせてもらうね。本当にごめんなさい。」「のどかさんが身内で良かったと思ってるから。だからお願い、助けてください。」 翌日。「小春を助けなかったんですってね。この恩知らずの鬼、悪魔。」「どうして親子揃って仕事中に邪魔してくるんですかね。」「いいから助けなさいよ。」「無理です。内定に関しては私は何の関係もないですし、何よりも離婚したので、そちらとはもう身内でも何でもありません。他人です。」「困るわよ。うちにはもうお金がないのに。これからどうやって生きていけばいいの?小春の稼ぎだけじゃカツカツなのよ。」「小春ちゃんが今何をして稼いでるか、知ってるんですか?」「知ってるわよ。男に媚びる仕事でしょ?それが何?かわいそうだと思わないんですか?」「仕方ないじゃない。それしか方法がないんだから。」「方法はありますよ。お母さんが働いてください。親なら子供を養うために働くものです。」「分かった。ならあなたの親戚の会社の社長に、直接談判しに行くわ。」「え、どういうことですか?お願いですから、迷惑かけるようなことはしないでください。」「あなたの指図は聞かないわよ。」「やめてください、お母さん。」 1週間後。「どうしてあの時、もっとちゃんと止めなかったのよ。」「だから仕事中だって。ああ、もういいです。あなたの仕事なんてどうでもいいのよ。そんなことより大変なの。」「何がです?」「あなたがちゃんと止めてくれなかったせいで、SNSに私が会社に行った様子が拡散されてるの。警察を呼ばれて説教されてるところ。」「ああ、私も見ましたよ。採用しなさいって叫んで暴れてる動画ですよね。本当に離婚してよかったなって、心から思ってます。」「馬鹿にして。大体、人の姿を勝手にSNSにあげるなんて、性格悪すぎよ。」「あなたの娘さんがしたことと同じことですよ。」「一緒にしないでよ。ああ、もう人生終わりよ。どうしたら消せると思う?なんとかして。」「私は猫型ロボットじゃないので無理です。前に言いましたよね。今後何があっても助けないって。ではこれから会議なので失礼します。」 翌日。「おい、お前、ふざけんなよ。」「今度は何?仕事終わりで疲れてるんだけど。」「今、アパートから帰ったら、電子レンジとかテレビとか家のものがまるまるごっそりなくなってたんだけど。」「ああ、それは私のものだから、業者さんに頼んで私の家に運んでもらいました。」「いやいや、おかしいだろ。」「私が結婚前に買ったものだから、何もおかしくないよ。残ってるのは冷蔵庫だけ。冷蔵庫だけは結婚後に買ったものだったからね。」「これだけでどうやって生きろって言うんだよ。」「別に生きていけると思うけど。」「そうそう。家の鍵は、玄関の靴箱の上に返しておきました。家だけあっても意味ねえんだよ。」「これから買い揃えればいいじゃない。」「だから就活中で、仕事も金もないんだよ。だから今月分の光熱費と家賃も払えてないんだ。このままじゃ水も電気も止まって、このマンションからも追い出されちまう。」「ブランド品を売ればいいじゃない。晴樹の車全部売ったら、それなりのお金になるよ。」「あれは俺の趣味だから無理だ。」「そんな代々伝わってないでしょ。とにかく、お前が勝手に持ってったもん全部返せよ。」「返したところで、水も電気も止まるんだから使えないでしょ。」「お前に贅沢な生活は似合わないって言ってんの。俺より劣って生きようなんて、絶対に許さないからな。下民は下民らしく生きろ。」「1つ言わせてもらうね。お金の有無に関係なく、ブランド品が似合う人は似合うの。それはその人が頑張った証だから。」「何が言いてえんだよ。」「心が貧しい晴樹に、高級品は似合わないってこと。分かったら車を売って、似合う人に譲って、そして堅実に生きるの。」「なんで俺がそんな底辺みたいな生き方?」「晴樹は古車で十分。嫌なら一生懸命働いてね。」「嫌だよ。頼む、お金貸してください。せめて今月分の光熱費と家賃だけでいいから。」「懐かしい。昔もこうやって頼まれて貸したことあったっけ?あの時は晴樹も頑張ってたから貸してあげたけど、今の晴樹に貸そうとは思わない。」「何でもするから。」「じゃあ、自力でなんとかしてもらって。2度と連絡してこないで。さようなら。」 その後、小春は公園で立っていたところを警察に逮捕されました。多くの女性が逮捕されて大きな事件になったため、ニュースで実名報道されるほどの大きな騒ぎになりました。近所からも親戚からも敬遠され、一家は孤立しているようです。1万円の罰金刑と判決を受けましたが、1万円すらも払えず、6ヶ月の懲役刑となりました。春江は思い切りを上げて就活しますが、小春のせいでどこにも受からないようです。晴樹は家賃を払えずにマンションを追い出され、実家に身を寄せてそこで就活を始めたようですが、春江と同様、小春のせいでどこも受からないようです。生活が苦しくなった晴樹と春江が取った行動は、高金利の金融会社からお金を借りることでした。借りたはいいものの、以前の生活を改めず、あっという間にお金は尽き、借金返済ができず、その筋の人たちに仕事を紹介され、今はどこで何をしているかも分かりません。でも、必要最低限の暮らしはできていることでしょう。私はと言いますと、ついこの間ボーナスが出たので、回らないお寿司を両親と食べに行きました。とっても美味しかったです。お金があるのは悪いことではありません。でも、たまに贅沢することでしか得られない幸せがあると思います。この幸せのために、これからも貯金を頑張ります。

17 September 2026

塾が終わった娘に「迎えに行くよ」と電話したら、「お母さんを友達に見られるのが恥ずかしい。なんでそんなブクブク太った人が母親だってバレなきゃいけないの?」って言われた。普通の夜だった。ただ娘を迎えに行こうとしただけ。でもその一言で、私の人生は音を立てて崩れ始めた。夫に相談したら「俺も同じ気持ちだ。豚の餌を買うために働いてるんじゃない」と。十六年間、家族のために料理を作り続けてきた私に、二人は口…

「あや、塾はもう終わったの?」 「終わったよ。」 「じゃあ早く帰ってきなさいよ。さすがに遅すぎるわ。」 「友達とちょっと喋ってたんだよ。」 「もう最近は物騒なんだから気をつけないと。」 「はいはい。分かってるって。うるさいな。何でもかんでもいちいち口出ししてこないでよ。」 「何でもかんでもじゃないでしょ。こんなに遅くなるなら事前に連絡しておいてよ。こっちはご飯を作って待ってるんだから。」 「そんなの知らないって。」 「今から迎えに行くから場所教えて。」 「だめよ。絶対に来ないで。」 「なんで?何か後ろめたいことでもあるの?」 「そんなのないから。」 「じゃあなんで?」 「お母さんを友達に見られるのが恥ずかしいんだよ。なんでそんなブクブク太った人が母親だってみんなに見られたら私が恥をかくって分からないの?」 「ブクブクって、そんなに太ってる?ひどいよ。」 「マジで最悪なくらい太ってるから。昔は服が綺麗に着こなせてたからまだ良かったけど、今のあんたはマジで見てられないから。」 「そこまで言わなくてもいいじゃない。」 「それくらい言わないと自分では気づかなかったんでしょ。だからはっきりと言ってあげてるのよ。あんたの存在は私にとって恥だから。私はもっと美人でモデルみたいな人が母親でいて欲しかったわ。」 「でもしっかり食べることは健康的な体作りには必要だと思うの。私は気にしなさすぎだけど、あなたは気にしすぎよ。いつもダイエットとか言ってご飯をちょっとしか食べないでしょ。それだといつか倒れたりするかもしれないわよ。」 「うるさい。今はそんな話はしてない。私の母親を名乗りたいのなら、その見た目をどうにかして。じゃなかったら二度と一緒に外を歩かないから。」 「分かったわよ。とにかく早く帰ってきてね。」 十分後、みち子は夫のとひに電話をかけた。 「もしもし、ちょっといい?」 「なんだよ。残業だって伝えてただろ。今もまだ仕事中なんだから連絡してくるなよ。」 「あやが私の存在が恥ずかしいって言われちゃって。」 「どういうことだ?」 「私が太ってるのが許せないらしいのよ。」 「ああ、それは俺も同じ気持ちだな。」 「え、あなたまで?」 「ああ、正直お前のだらしない体にむかついてるよ。どうしてそんなことになってしまったんだ。」 「私は昔から美味しいご飯屋を見つけるのが趣味で、最近は出前でも色々なものを注文してるから。でもそれは友達も喜んでくれてたじゃない。」 「だとしても太られるのは全然違う。」 「あなただってお腹が出てるし。」 「俺は別にいいんだよ。俺は社会で戦っててストレスがあるんだ。お前みたいにストレスもないくせにバクバク食って太ってるのとはわけが違う。」 「私だって仕事はしてるわ。」 「単なるパートタイマーのくせに偉そうなことを言うな。俺は豚の餌を買うために仕事してるんじゃないんだ。」 「ひどい。それはさすがに言いすぎよ。自分の奥さんのことを豚扱いするなんて。」 「それが嫌なら痩せてみろ。お前のために仕事してると思うと気が滅入るんだよ。俺は今、娘の幸せのために仕事をしてると自分に言い聞かせながらやってるんだ。」 「何よそれ。」 「お前は我が家じゃそういう存在だってことだ。嫌なら努力をちゃんとしろ。だらしない奴を俺は妻とは認めないからな。」 「もういい。」 三日後、みち子は友人で仕事仲間でもあるみほに相談を持ちかけた。 「今度の休みにまたご飯に行きましょうよ。どこかおすすめのところない?あなたのおすすめなら間違いなしだからさ。」 「ヘルシーなところでもいい?」 「私は全然いいけど、急にどうかしたの?」 「ちょっとダイエットをしててね。」 「ええ?なんでまた?」 「さすがに太りすぎてる気がして。」 「みち子がそんなこと気にするなんてね。でもあなたの体型は年齢からしたら普通だと思うよ。私も年と共に丸くなってきてるから。」 「でも娘と夫から怒られちゃってさ。」 「そうなの?」 「うん。娘から、母親だって周りに思われるのが恥ずかしいって言われて。」 「うわ、それは結構きつい言い方されたね。」 「最初は腹立ったんだけど、恥ずかしい思いをさせてたのなら申し訳ないって思って。」 「みち子の娘って今高校生でしょ?」 … Read more

17 September 2026

「今日で俺たちが別れる日だって、忘れてねえよな。お疲れ様でした」——その言葉を聞いた瞬間、私は30年連れ添った夫の顔を、初めて他人のように見た。夕食の片付けをしていた、何の変わりもない火曜日の夜だった。夫はテーブルに突っ伏すように座り、目も合わせずに「離婚だ」と言った。私が「急にどうしたのよ」と聞き返すと、彼は吐き捨てるように言った。「顔も性格も、貧乏臭いところも、お前の全部が大嫌いなんだ」…

「今日で俺たちが別れる日だって、忘れてねえよな。お疲れ様でした」 「……愛想がないわね。まあ、いいわ。単刀直入に言うぞ。離婚だ」 「はい?」 「30年も一緒に暮らして、もうお前にうんざりしたんだよ。顔も性格も、貧乏臭いところも、お前の全部が大嫌いなんだ」 「急にどうしたのよ、いったい」 「急も何も、ずっと思ってたんだ。今日まで私はあなたを支えてきたつもりよ。息子も育て上げたし、やっとこれから二人でゆっくりできると思ってたのに」 「支える? 笑わせんな。毎日毎日、茶色い煮物ばっかり食わせやがって。お前のせいで俺の人生、ずっと不味かったんだよ」 「それはあなたの血圧や健康を考えてのことよ」 「うるせえ! その押し付けがましい思いやりが、一番気持ち悪いんだ。俺はもっと華やかな人生を送る男なんだよ。お前みたいな底辺の味覚に合わせるのが、どれだけ苦痛だったか」 「30年も、そんなふうに思ってたの?」 「ああ。お前との時間は、人生の無駄だった。もっと早く捨てればよかったわ」 「……分かったわ。じゃあ、私はもう出ていくから」 「なんだその態度は。泣き喚いて縋るもんじゃねえのか?」 「別に、出ていけと言われたから出ていくだけよ。捨てられたからって、土下座なんてしないわ」 「強がりやがって。どうせ今頃、心の中では泣いてるんだろうな」 「そうね、泣きそうだわ。あんたに言われて、嫌でも現実を思い知ったから」 「ふん。もう知らねえ。俺はな、これから本当の愛のために生きるんだ」 「本当の愛? まさか、浮気でもしてたの?」 「浮気じゃねえよ。本気だ。前は俺の才能をちゃんと認めてくれてる。お前みたいな無能な家政婦とは訳が違うんだ」 「……そう。で、どんな人なの?」 「銀座でエステサロンを経営してるんだ。29歳で独立した、聡明で美しい女性だよ。全身ハイブランドで決めてる、俺の隣に立つにふさわしい女だ」 「へえ、珍しい名前ね。なんて読むの?」 「はあ? ……『まい』だ」 「そう。まいさんね。……で、私、その方と会ったことある気がするのだけど。銀座のエステサロンって、もしかして『エルム』って名前?」 「……なんで知ってるんだ」 「私、あそこに通ってるのよ。祐子さんて方に、いつもお世話になってて」 「はあ?! ちょっと待て、俺の連れがお前を知ってるだと? そんなはず…」 「どうかしらね。あ、そう言えば、その祐子さん、近々ハワイに移住するって嬉しそうに話してたわ。あなたと一緒にって、ね」 「……っ」 「で、その代わりに、こっちの家のことは全部私に任せて、向こうで新生活を始めるんだって言ってなかった? 退職金も全部かき集めて、ね」 「……お前、よくも俺の連れにちょっかい出したな!」 「ちょっかい? 私はただ、自分の行きつけのエステで聞いた話をしてるだけよ。あ、そうそう、その祐子さん、他にもお客さんの亭主を何人か誑し込んでるって、噂になってるわよ。あなたが何人目かは知らないけどね」 「嘘をつけ! お前が妬んでるんだろ!」 「妬む? よく言うわ。あなた、私に内緒でクレジットカードの家族カード、持ってたでしょ。あれ、私が解約しておいたから。ついでに、あなた名義のローンも、全部私が払っておいたわよ。だって、妻の私がちゃんとしないと、あなたが困るでしょ?」 「……何を言って……。俺の金を勝手に!」 「あなたの金? 30年、家庭を支えた妻としての、正当な報酬よ。さて、とりあえず離婚届は出しておくわ。あなたが勝手に書いたあの偽物じゃなくて、私がきちんと揃えた書類でね。もう裁判所には出してあるから、あとは取り下げるならどうぞご自由に」 「……ふ、ふざけんな! そんなの無効だ!」 「あら、あなたこそ、文章偽造って犯罪だって、よく知ってるでしょ? 私が黙ってりゃ済むと思ってる? 私は連れ戻されてもいいけど、あなたが刑事事件になるのは、あの銀座の美人エステティシャンとの未来がパーになっちゃうわよ?」 「……っ……!」 「私は今日から、この家を出ていくわ。あなたはここに残って、どうぞ本当の愛を育んでくださいな。ああ、でも、しばらくローンの支払いは続くから、忘れずにね。大丈夫、あなたなら、どこかの安アパートから、私みたいな年増女の成功を遠くから見守っててちょうだい」 その言葉だけを残して、裕子は静かにスーツケースのファスナーを閉めた。私は、しばらく言葉を失っていた。 … Read more

17 September 2026

「高卒の底辺が、よくうちの息子に近づけたわね」…

「リエさんで良かったかしら。初めまして。ケ太の母のひみです」 「初めまして、りえです。よろしくお願いします」 「いきなり連絡して悪かったわね。健太からあなたと婚約したとお話を聞いてね。どのような人かちょっと気になったのよ」 「そうだったんですね。健太からお母さんに連絡先を教えていいかと聞かれた時は、ちょっと驚きました」 「でしょうね。もちろん普通の家庭ならこんなことはないでしょう。ただ、我が家は他とは違うのよ。それはあなたもよく知ってるはずだと思うけど」 「もちろんです。スーパーを経営されてるんですよね」 「うちの夫が社長をしててね。何もなかったところから店を大きくしていって、今じゃ県内に6店舗の店を構えるようになったの。これからもどんどん店舗数は増やす予定でね。うちはそういう家だってことを理解してほしいわ」 「素晴らしいことだと思っています」 「健太はその後継者になるのよ。そしてあなたは将来の社長夫人ってわけ。その自覚はあるのかしら?」 「私は私で仕事はやるつもりではいます」 「別に経営をしてくれなんて、そんなことは言ってないわ。あなたにはそんなの無理だって分かってるから。でもね、社長夫人ともなると気品が求められるのよ。あなたのせいで健太が周りから白い目で見られるなんて、あってはならないことでしょ」 「それはそうだと思います」 「だとしたら、将来の社長夫人としての自覚を持って、今後は行動してもらいたいと思います」 「わかりました」 「ちなみに、あなたのことを教えてほしいのよ。お仕事は何をしてるの?」 「父が農業をやっているので、そのお手伝いよ」 「農業? 土いじりで生活をしているの?」 「そういう言い方はやめてください」 「そんな生活を送った人が、うちの家計に入るのはちょっと嫌だけどね」 「そういうのは関係ないじゃないですか」 「ちなみに、最終学歴は何?」 「高卒ですが」 「嘘でしょ?」 「本当ですが」 「そんな人間と健太が結婚しようとしてるの?」 「学歴や生活環境なんて関係ないと思います。私たちは愛し合ってるから結婚をするんです」 「どうやって健太を丸め込んだのかしら」 「後ろめたいことは何もしてないですよ」 「ちょっとあなたとの結婚は考えさせてもらうわ」 「それは私たちが決めることであって、お母さんの意見は関係ないですから」 「黙りなさい。こっちは会社の将来もかかってるのよ」 そう言い放つと、ひみは立ち上がり、振り返りもせずに店を出て行った。リエはテーブルに残された冷めたお茶を見つめながら、深く息を吐いた。緊張で固まっていた肩の力がゆっくりと抜けていく。 その日の夜、健太がリエのアパートに足を運んだ。部屋に入るなり、彼は真剣な表情で尋ねた。 「リエ、母さんとは話したか?」 「うん。でも、いい印象は持たれなかったわ」 「もしかして、学歴とかそういうことか?」 「そう。農家の娘ってのも引っかかってたわ」 「あの人は本当に変なところを気にするな。別に母さんだって大学を出てるわけじゃないんだよ。それなのに、偉そうに学歴がどうとか言うなよな」 「コンプレックスがきっとあるんでしょうね」 「だとしても、それを息子の妻に求めるのは変だろう」 「そうね。それは変ね。もしかしたら、結婚の挨拶で反対されるかも」 「そんなことは俺が絶対に許さないから安心して。俺にとってはリエしか結婚相手はいないんだよ」 「それは私もそうよ。だからこそ、みんなに祝福をしてほしいわ」 「うちの両親はどっちも変わってるからな」 「昔からそういう感じなの?」 「勉強を頑張るみたいなことは、子供の時から言われてたよ。でも、会社の業績が上がっていって店舗を多くしていった辺りから、2人ともなんか人を見下すような言葉を頻繁に使うようになったんだよ。父さんは自分が一代で会社を大きくしたっていう自負があるからこそ、そういう言動になるんだと思うんだけど、母さんもそれに影響されちゃってさ」 「なるほどね。高卒の私のことは下に見て当然か」 「そんなことないよ。リエはすごいことをやってるじゃないか。俺は心からリエのやってることを尊敬してるよ。それに、うちだってその恩恵を受ける予定なんだし。2人にあのことを話したら手のひらをすぐに返すと思うよ」 「いや、そのことはまだ話さないでね」 「どうしてだ?」 「やっぱり嫌なんだ。それで結婚を喜んで認められるのは、少し悲しいわ。私自身のことを受け入れてもらいたいから」 「それは分かるけど」 「どうにかして気に入ってもらえないかしら」 「リエがそこまで考える必要はないよ。何も考えずに、普通に挨拶をすればいいんだ。俺から2人にもきつく言っておくしさ」 … Read more

17 September 2026

病院から電話がかかってきた瞬間、私は自分の耳を疑った。「お母さん、ちょっと大輝に泣きつかないでくださいよ。いい大人が恥ずかしくないんですか?」冗談だろうと思った。でも、その声は紛れもなく、産後で入院しているはずの嫁だった。私はただ、生まれたばかりの孫の顔が一目見たかっただけ。なのに、息子は「お前の金で育ったやつに、孫は渡せない」と言い放った。え、私、何か間違えた?…

お母さん、赤ちゃんが生まれたのね。おめでとう。みさにもお疲れ様って伝えてくれない? ありがとう。顔は見たいんだけど、産んだばかりで大変だろうから、日程を調整してほしいの。私が直接言うと断りづらいだろうから、先に話しておいてくれない? ちょっと待って。みさに相談してから決めるわ。 そうね。ちゃんとお嫁さんへの気遣いができてるみたいで安心したわ。 俺だってちゃんとやってるよ。もう父親なんだし。また連絡するから。 翌日、俺は病院のみさにその話を伝えた。 お母さん、話は聞きました。直接言ってくれればいいのに。出産で疲れてるのに、義母の相手なんて嫌でしょ。でも連絡してくれたのは嬉しいわ。 いや、ちゃんと言っておかないとなって。 えっと、はっきり言いますけどね、孫に会いに来たって言われても、いい迷惑ですよ。それにお金が絡んだら困るし。赤ん坊に絶対近づけないでください。 え? お金? お金って、どういうこと? お母さんって、大輝の子育てに失敗したじゃないですか。聞いてますよ。家庭で結構苦労したって。 それは確かに、たくさん苦労はかけたわ。でも大輝はちゃんと育ったでしょ。立派に働いて、家庭も持って。 でも、育った過去は変えられないですし。大輝が言ってましたよ。幼少期は不幸だったって。 あの子が…そんなことを…。 そういう風に考えてる時点で、幸せじゃないですし。子育て失敗のお金なんて、映ったら困るんですよ。ダメ親の育児なんて参考にならないし、赤ちゃんに悪いでしょ。 失敗って…私なりに一生懸命育てたのよ。 一生懸命? それで大輝が寂しい子供時代を送ったって、散々愚痴ってましたけど。仕事ばっかりで放置されてたって。 それは生活のためだったの。仕方なかったのよ。 言い訳ですね。やっぱりお母さんの育児方針って、完全に時代遅れじゃないですか? 時代遅れ? 今は科学的な育児が主流なんですよ。お母さんみたいな感覚だけの育児は、むしろ害悪です。 確かに、私は胸を張って立派な子育てをしたとは言えないわ。でも、あなたはまだ母親になったばかりでしょ。そんな風に言われる謂れはないわ。 私は私なりに勉強してます。育児書は二十冊読みましたし、専門家のアドバイスも受けてますから。お母さんに教わることなんて、何一つありません。 本と実際の育児は違うのよ。それに私には経験があるわ。 経験? 失敗した経験ですよね。むしろ、お母さんの常識って、昭和で止まってると思うんですよ。今は令和ですよ。 時代が変わっても、子供を愛する親の気持ちは変わらないわ。 愛する気持ち? それで放置してたんですか? 矛盾してますよね。家庭って、やっぱりどこか歪んでるじゃないですか。 ちょっと待って。それは言いすぎじゃない? とにかく、私はお母さんみたいな失敗を繰り返したくないんです。私の母は完璧な育児をしてくれました。だから私も完璧な母親になれるんです。 完璧な親なんていないのよ。みんな手探りで育てるのよ。 お母さんみたいな中途半端な親とは、レベルが違うんですよ。分かります? ああ、分からないか。だって失敗した人には、成功が分かりませんもんね。 分かったわ。もう何も言わない。産後ですぐ気が立ってるのね。こちらも配慮が足りなかったわ。 とにかく、お母さんの古臭い価値観を押し付けられるのは迷惑なんで。来ないでくださいね。赤ちゃんのためですから。 その日の夜。みさに言われた言葉が頭から離れない。私はあの子に何か、気に触ることを言ってしまったのかしら。 母さん、何か言ったんだろ? いつも人を傷つけるから。 え? …えって何? 俺が味方すると思ったのか? どういうこと? 母さんは、俺が寂しがっても仕事ばっかりだったじゃん。そうやって人との関わり合いから逃げてたんだろ。 なら、どうしたらいいの? だから、今は金を出すくらいしか、母さんの役割はないんだよ。 なんですって。 だって、俺から見ても、お袋への信頼度はゼロなんだぜ。そんな状態で、子供に合わせられるはずないじゃん。 でも、私はあなたのために必死で働いて… 必死で働いた。その結果が、俺の寂しい子供時代だよ。母さんが仕事優先したせいで、俺がどれだけ我慢したと思ってるの? 大輝…そんな風に思ってたのね。 … Read more

17 September 2026

「勝彦、ちょっとお母さんに注意してくれない?」その一言から、私の日常は音を立てて崩れていった。数日前、義母が勝手に私の部屋に入っていたと伝えると、夫は「俺が買った家なんだから、何の問題もないはずだ」と当然のように言い放った。三年も前に亡くなった私の母を引き合いに出され、「そんなに嫌なら、お前だって家族を呼べばいいだろう」と笑ったあの瞬間、私はこの人と本当の家族にはなれないのだと悟った。それで…

「勝彦、ちょっとお母さんに注意してくれない?」 「はあ?何がだよ。母さんが何をしたんだ?」 「いきなりうちに来て、しかも私の部屋に入ってたのよ。いくら家族でも、少しはデリカシーを持って行動してほしいの」 「お前、俺の母さんに文句があるわけ?別に部屋に入るくらい何てことないだろ。もしかして、見られたら困るようなものでもあるのか?」 「そういうわけじゃないわ。でも、私にとって大切な宝物があるの」 「別に、お前のものなんて母さんが取るわけないだろ。お前、人の親を犯罪者扱いするつもりか?」 「そういうわけじゃないけど、勝手に部屋に入ってこられるのは嫌よ。来る前に一言連絡が欲しいの」 「俺が買った家なんだから、何の問題もないはずだ」 「私の家でもあるのよ」 「この家は俺が買ったもので、ローンの支払いも俺がやってる。その俺がいいって言ってるんだから、口答えするなよな」 「そんな言い方しないでよ。私だって貢献はしてるんだから」 「生活費を払ってるくらいで偉そうなこと言うな。こっちがどれだけの出費をしたと思ってるんだ」 「感謝はしてるわよ。でも、二人で力を合わせた部分だってあるんだから」 「生活費を払ってギリギリのお前の力なんて、そこまで必要とはしてないんだよ。でも、そんなに嫌なら、お前だって家族を呼べばいいだろう」 「お母さんは三年前に亡くなってるわよ。知ってるでしょ?嫌味にしても立ちが悪すぎるわよ」 「ああ、そうだっけ。すまん、すまん」 「お母さんのことを馬鹿にするのは許さないわよ」 「だったら、俺の母親を盗人扱いするんじゃねえよ」 「そんなことしてないって」 「とにかく母さんには好きにさせろよ。俺は育ててくれた両親を心から尊敬してるんだ。だからこそ、あの家だって好きに使ってもらいたい。お前にとやかく言われる筋合いはねえよ」 「せめて部屋には入らないでって言ってよ」 「お前が言えばいいだろ」 「聞いてくれるわけないでしょ」 「だったらお前が我慢しろ。何度も言うが、その家を買ったのは俺なんだぞ。そのことは絶対に忘れるな」 一週間後、トミは義母の祥子と墓地で鉢合わせした。 「おばさん、さっきお墓参りに行ったら綺麗なお花が飾られてたんですけど、あれはおばさんですか?」 「そうよ。あら、入れ違いになっちゃったのね。いつもありがとう」 「お彼岸でもないのに、わざわざお参りなんて珍しいですね」 「ちょっとお姉さんと話をしたくなってね」 「きっと母も喜んでますよ」 「トミも偉いわね。そうやって豆に墓参りをしていって」 「そんなことはないですよ。実はしばらく来られなくなりそうなので、今のうちにできるだけ来ておこうと思ったんです」 「そうなの?」 「はい。ちょっと仕事の都合で」 「大丈夫?頑張りすぎてるんじゃないの?」 「いえ、私は全然無理してないですよ。今の仕事はとっても楽しいので」 「それならいいんだけどね。あなたに余計なものを背負わせてるんじゃないかって心配なのよ」 「そんなことはないですよ。私は別に何も背負ってなんてないですから。ただ、母の代わりになろうとしているだけです。母からいろんなものをバトンとして受け継いだので」 「本当に、お姉さんは幸せ者だったわ。あなたのような素晴らしい娘さんがいてね」 「私は別に、そんな大したことはしてませんよ。それに、母のことを思っているのなら、おばさんだって同じじゃないですか」 「私は本当に姉さんに迷惑をかけっぱなしだったから、学生時代なんて、とにかく怒られた記憶しかないわ。でも、私のことを見捨てずにずっと姉妹でいてくれた。それが、私は何よりも嬉しかったし感謝してるの」 「色々とあったんですね」 「だから、姉さんの一人娘であるあなたのためなら、私は何でもするつもりだから、遠慮なく言ってね」 「はい、ありがとうございます」 「でも、そんなこと言って、あなたって何も頼んでこないわよね」 「どういうことですか?」 「家を買ったことだって、後から聞かされたし。事前に言ってくれてたら、力になれたのに」 「さすがにそれはお願いできないですよ。そこまで私は図々しいことはできないですって」 「そんな風には私は全然思わないわよ」 「何か他で困ったことがあったら、お願いすることはあるかもしれません」 「本当に遠慮なんてしないでね。私はあなたの力になりたいと思ってるんだから」 「ありがとうございます」 三日後、トミは祥子に頭を下げた。 「お願いがあるんですが」 「あなたからそんなことを言ってくるなんて珍しいわね」 … Read more

17 September 2026

「お兄さん、突然なんの冗談ですか?」——深夜11時、夫が出て行ったあとのリビングで、私は浩司さんから信じたくない話を聞かされていた。半年前から、義姉のエリカが深夜にウォーキングと称して家を出るようになった。運動嫌いだったはずの彼女が、なぜ真夜中に濃い化粧をして出かけるのか。そして三日前、浩司さんはついに尾行した。二人は公園で落ち合い、多目的トイレに二十分もこもった。「三日連続で、具合が悪くな…

「お兄さん、突然なんの冗談ですか?」 「本気だ。行動がおかしいんだよ」 そう切り出したのは、夫の健一の兄・浩司だった。彼の妻であるエリカが、最近あまりにも怪しいという。運動が大嫌いだったはずのエリカが、突然ウォーキングを始めたのだ。 「健康のためじゃないんですか?」 「そう思いたいけど、23時頃に出ていくんだぞ。さすがにおかしいだろ」 「確かに、それは遅いですね。女性の一人歩きは危ないって言ったんですけどね。深夜の方が静かだからって聞かなくて」 「それ、いつからですか?」 「半年くらい前だよ」 健一が言葉を継いだ。自分もランニングだと言って、同じ時間帯に外に出るようになったのは、ちょうどその頃からだという。 「こっちは男だから、大して気にしてなかったんですが」 「何時頃帰ってきてる?」 「日付が変わる少し前くらいです」 「エリカも同じくらいだ」 浩司は最初、運動を応援していた。だが、どうにも引っかかることがあった。ウォーキングに行くにしては、化粧が濃いのだ。深夜に、そんなに綺麗に化粧をして出かけていくのは変だ。 そして三日前、浩司は二人の後をつけた。二人は家と家の中間地点にある公園で落ち合っていた。 「ホテルとかじゃないなら、相談事があったとかじゃないですかね」 「信じたい気持ちは分かるよ。でもな、二人で多目的トイレに入ったんだ。二十分も出てこなかった」 さとみは言葉を失った。 「私たち、仲良くしてますし、夫婦仲が悪いとかもないんですけど」 「うちもそうだった。だから驚いてるんだ」 さとみは夫に問い詰めるべきか悩んだが、浩司は待ったをかけた。エリカが体調不良で、健一が付き添いでトイレに入っただけかもしれないではないか、と。しかし浩司は首を振る。 「三日連続で、具合が悪くなってトイレに入ると思うか? あの日から毎日続いてるんだぞ」 確かに、本当に体調が悪いならウォーキングを休むはずだ。さとみは納得するしかなかった。 「さとみちゃんに言うべきか迷ったよ。でも妊活してるって言ってたし、真実を知るなら早い方がいいと思ったんだ。辛い思いをさせてごめんな」 「いえ、辛いのはお兄さんも同じですから」 浩司はスマホで動画も撮ったらしい。しかし暗くて、はっきりと顔が映っていなかった。弁護士の友人に相談したら、これでは言い逃れされるかもしれないと言われた。はっきりと顔が分かる証拠が必要だった。 「そのために俺は、直近でいくつか出張を入れることにした。さとみちゃんも、どこか行くことできないかな」 「私たちが同時にいなくなれば、相手が動き出すってことですか?」 「そうなんだ。その日に探偵をつけようと思ってる」 さとみは、ちょうど母の体調が良くないので実家に帰ろうと思っていたところだった。出張は来週の火曜日。その日で調整することになり、さとみは健一にそれとなく伝えておくと言った。 翌日、さとみは健一に実家に帰りたいと申し出た。母の体調が悪化したという話に、健一は快く送り出してくれた。「排卵日なのにチャンス逃しちゃうけどごめん」と謝るさとみに、健一は「また来月頑張ればいいじゃん」と笑った。「いい旦那さんでよかっただろ?」と得意げな顔で。さとみは胸の内だけで、その言葉がどれほど皮肉に聞こえたかを呑み込んだ。 数分後、さとみは浩司に連絡を入れた。出張の日、実家に帰ることになったと。浩司も健一に伝えたらしい。二人が家を空ける時間が確保できた。浩司は言った。 「俺が考えるに、普段はトイレでこそこそしてるから、家を空けたら羽を伸ばすと思うんだ。ホテルか、どっちかの家かに。」 浩司は小さなカメラを用意していた。見つかりにくい場所に設置してほしいという。 「そこまでするんですか?」 「家に入っただけだと、挨拶に寄っただけと言い逃れされるかもしれないだろう」 さとみは迷ったが、浩司の真剣な眼差しに頷いた。自分も真実を知りたい。そう思った。カメラはリビングと寝室に一つずつ設置することになった。 一週間後、さとみは予定より早く帰ってきた。母の体調が良くなったのと、「主婦がいつまでも家を開けるのはダメ」と言われたからだ。電車の中で、健一に買い物を頼まれ、駅の裏のパン屋でメロンパンを買って帰ることになった。 家に着くと、健一は慌てた様子だった。「部屋が汚い」と言って、さとみに掃除をさせまいとした。さとみが片付けようとすると、「疲れてるんだし、俺がやっとく」と言って、パンだけを渡した。 さとみは確信した。この家に、さっきまで他の女がいた。いや、他の男がいたのだ。エリカがこの家に来ていた。健一は、さとみが帰ってくる前に片付けようとして、時間を稼いでいたのだ。 さとみは浩司に電話した。探偵の報告では、エリカは一時間前にこの家に入ったらしい。 「私、無理です。あの二人が使ったベッドで寝られません」 「だよな。まさかそっちの家ばっかり使うとは思ってもみなかった」 「お姉さんが、自分たちの家に呼ばないのには理由があるんですか?」 「うちは近所付き合いが結構あるからな。人の目を気にしてるんだろう」 さとみは実家に戻ることも考えたが、両親に心配をかけたくないとホテルに泊まることにした。浩司がお金を出すと言ったが、さとみは断った。明日、カメラを回収したら連絡すると言って、電話を切った。 翌日、健一から何度も電話がかかってきた。さとみは出なかった。結局、母の容体が急変したという連絡があって、急いで駆けつけた、と嘘をついた。健一は心配してくれたが、さとみの返答は冷たかった。「次からは帰ってくる前に連絡してほしい」と言う健一に、「なんで?」と問い返すと、「ちゃんと片付いた部屋で出迎えたいからさ」と答えた。その言葉が、どれほどさとみの心を抉ったか、健一は知る由もなかった。 数日後、浩司がエリカを問い詰めた。さとみも立ち会い、健一も呼び出された。 「俺の弟と浮気するなんて大した根性してるな」 「はあ? 浩司とちょくちょく会ってるのは、身内だからよ。あなたやさとみちゃん抜きで会うのがおかしいの?」 「なんで浩司の家に行ったんだ?」 「さとみちゃんが実家に帰ってるでしょ。あなたも出張でなかったし、料理や掃除とか助けになればと思っただけよ」 「朝まで掃除してたのか?」 … Read more

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