母の口から出た言葉に、私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。 「『バーガーのお前が産んだガキがまともに育つか』って言われたの。あなたを産んだ直後に」…

「お父さんが私を捨てて、若い学生と再婚したって本当?」 母が突然そんなことを言い出したのは、夕食の後だった。何の前触れもなく、食器を片付けながらの一言だった。 「なんで急にそんなこと言うの?」 「知り合いから聞いたの。もう25年も前の話よ。私は離婚したとしか聞いてないわ」 母は申し訳なさそうにうつむいた。私は26歳。もう子どもの頃のように、ただ黙って受け入れる年齢じゃない。 「覚悟はいい?」 「そんなに気合いのいる話なのか?」 「そりゃね、いい思い出ではないから」 母は深く息を吸った。 「『バーバーのお前が産んだガキがまともに育つか』って言われたの。あなたを産んだ直後に」 私は言葉を失った。41歳での高齢出産で、父は医者だったからリスクを理解していたはずだ。 「でも問題はその次よ。医学部の学生が妊娠した。その子を大事に育てるって言われた時は、人生で初めて白目を向いたわ」 母は静かに話し続けた。研修医の若い女を妊娠させて、父は病院内でも噂の的になったらしい。それでも平然としていたという。 「お母さんは何か言い返さなかったの?」 「『そうですか』って言ったわ。それだけ。今でも忘れないわ。『覚えてろよ』とだけ言って、離婚届にサインした」 「かっけえ」 「生物学上の父親は、『覚えていられるかよ』って鼻で笑ってたわ」 私は確かに子ども時代にこれを聞いていたら、ショックだったかもしれない。でも今は違う。母は一人で私を育ててくれた。女手一つで大学まで行かせてくれたのだ。 数日後、私は遠藤先生の診察を受けた。私のかかりつけの医者だ。遠藤先生は私が母の娘だと気づいて、父との共通の友人だったことを思い出したらしい。そして、父から言われたことを私に話したのだ。 「お父さんは私を愛してないから捨てたんだと思う」 そう母に言った時、母はきっぱり否定した。 「それは違う。あの人は高齢出産がどうとか、いろいろ理由をつけてただ若い女が良かっただけなの」 それが何年も経って、後悔しても遅い。でも、母の言葉ははっきりしていた。 「クズはクズだね」 「うん。でもクズから天使が生まれたから、プラマイゼロどころかプラスの人生よ」 その後、遠藤先生を通じて父が連絡を取ってきた。私は一度会うことにした。母には内緒で。 喫茶店で会った父は、驚くほど老けていた。まず最初に言われたのは「女は若いうちに結婚して子供を産むべきだ」だった。いきなり上から目線が始まった。 「お母さんと離婚したのはどうして?」 「何も聞いてないのか?」 「うん。お母さん教えてくれなくて」 「そうか。いや、実はお前を妊娠してからお母さんは人が変わってしまった。神経症になって毎日怒鳴り散らかしてたんだよ」 「そうなの?」 「だろう。それに耐え切れず離婚したってわけだ」 「でも養育費すら払わないのはおかしくない?」 「俺は払おうとしたんだ。でもいらないってお母さんが断ったんだぞ」 私はその場では信じたふりをした。真実が分かってすっきりした、と。そして結婚式に招待すると言った。 「行くよ。是非行かせてくれ」 父は嬉しそうにそう言った。 数日後、母は父が私に連絡を取っていたことを知って激怒した。私は母に本当のことを話した。父が母を捨てた理由を知ったこと、そして父を結婚式に招待したことを。 「うちの親族だって来るし、みんなあの男が何をしたか知ってるんだからね」 「だからだよ。そんな居心地の悪い場に来て針のむしろになるのを見せたいんだ」 「やめなさい。大事な式を復讐のために使わないで」 「お母さん、お願い。結婚式じゃないとできないことなの。あいつの人生を終わらせるわ」 「何をする気なの?」 「大丈夫。式自体は絶対に成功させるし、多分着席して5分もいられないと思うから」 「なんか意味が分からないんだけど」 「お母さんは顔に出るから内緒。黙って見てて」 結婚式当日、父は入場したが、数分後には姿が見えなくなった。後で聞くと、私の夫の義父の病院でのトラブルが原因で、同じ系列の病院を首になっていたことを思い出して、気まずくなって帰ったらしい。 私はその後、母に真実を話した。私は医者になっていた。母が過労で倒れた夜、私は決めたのだ。もし母に何かあっても必ず自分が助ける。そのために医者になる、と。 そして、父に知らせた。私が医者になったこと、研修医として働いていることを。父は驚いていたが、すぐに「俺の遺伝子のおかげだ」と言い出した。 「冗談やめてよ。私は父親が医者だなんて知らなかったよ。お母さんが過労で倒れて私が絶対に助けるって気持ちで目指したの。あんたの影響なんて1ミリもない」 「俺の頭の良さが遺伝したんだ」 「お母さんも医学部だったんでしょ?」 「そうだけどあいつは中退した」 「おじいちゃんの会社が倒産したからって聞いた」 … Read more

1 September 2026

結婚式の最中、義理の兄になるはずの男性が、来賓の前で私にいきなりビールをかけた。「お前みたいな中卒の底辺が、エリート一家の式に来るんじゃねえ」と。私は妹の晴れ姿を見に来ただけだった。私が中卒なのは、両親が事故で亡くなり、妹を養うために進学を諦めたからだ。それなのに、彼は私を「ゴミ以下の存在」と罵り、式場から追い出そうとした。私は妹を守るために黙って引き下がった。しかし翌日、私は思いもよらない…

式場のトイレの個室で、私はスマホの画面をにらんでいた。スーツにビールの匂いが染みついている。あの瞬間の衝撃と怒りが、まだ体の中に残っていた。 「太田さん、どうしてあんなことをしたんですか?」 「おい、どうして俺の連絡先を知ってるんだ?」 「波から聞きました。どうしても確認したいことがあったので」 「確認することなんて何もないだろう」 「あるに決まってるでしょ。いきなりビールをぶっかけられたんですから」 式の最中、義理の兄になるはずだった太田さんが、私にビールをかけた。しかも「お前みたいなもんが式に来てるのが我慢ならなかったんだよ。エリート一家の結婚式に底辺が来るんじゃねえ」と言ってのけたのだ。 確かに私は中卒だ。でもそれは私が選んだ道じゃない。両親が事故で亡くなり、まだ高校生だった私が妹の波を養うために働き始めた結果だ。波に大学に行かせてやりたかった。それだけだった。 「お前みたいな奴が来られると迷惑なんだよ。中卒の底辺がどんな面下げてきてるんだ?」 「散列するのにエリートも何もないと思います。私には後ろめたいことは何一つありませんから」 「嘘をつくな。お前の本書はこっちはもう聞いてるんだぞ」 本書と言われても心当たりがない。何かの誤解だと思った。 「まさかまだ場内にいるのか?」 「当たり前でしょう。ビールでびしょびしょなのに外に出られるわけないです。今はトイレの個室にいるんですよ」 「そうか。じゃあ良いところで帰ってくれ。2度と式場内に戻ってくるんじゃないぞ」 私は拒否した。まだ式は終わっていない。波の晴れ姿を見るために来たのだ。 「妹のことを思うのなら欠席するべきだったんだ」 「どうしても私を排除するつもりなんですね」 「当たり前だ。これは我が家にとっても大事な式だからな」 私は言い返した。そんなに品格を大事にするなら、仕事で成果を出す方がいいんじゃないかと。すると彼は「黙れ。そんなこと言われなくてもやってる。今は大事な取引の最中なんだ」と怒鳴った。さらに「そんな大事な時だからこそ、お前のような底辺にうろつかれると困るんだよ」と続けた。 腹が立ったが、冷静さを保とうとした。電話で波に連絡を入れ、お色直しの後で話すことにした。 波と電話で話した。彼女は「お姉ちゃんのわがままなら私は聞くから」と言ってくれた。私は仕事の話をするとだけ伝えた。結婚式の日にこんな話を持ち込むのは気が引けたが、他に相談できる相手がいなかった。 その後、私は波の新郎である達也くんにも話をした。彼に義父が私を追い出そうとしていることを伝え、説得してほしいと頼んだ。 「お父さんを説得して欲しいの。私に式場から帰れって言ってて話を聞いてくれないのよ」 「やっぱりそうなりましたか。お父さんって昔からああいう人なの?」 「父は肩書きを大事にしてますからね。中卒なんて単なるどうしようもない生き物だと思ってるんですよ。だからお姉さんみたいな人が許せないんでしょうね」 「うちの事情は知ってくれてるでしょ? それを説明してくれないかしら?」 「それはちゃんと説明してますよ。これなりにやれるだけのことはやりました。でも残念ながら結果は変わらなかったみたいです」 「このままだと私、式に散列できないの」 「正直、すごく残念だと思います。波はお姉さんと仲良しですから悲しみますね。ただ私としては何よりも式を問題なく終わらせたいんです。変な揉め事は勘弁して欲しいというのが正直な気持ちです」 その言葉に私は絶望した。達也くんも義父と同類だった。彼は最後にこう言った。「中卒なんてろくでもないと思ってます。そんな人間が波の姉でいてほしくないです」 血の気が引いた。これ以上何を話しても無駄だと悟った。 私はもう一度、太田さんと対峙した。 「太田さん、もうすぐ妹がお色直しを終える時間なので戻りたいと思います。どうかおかしなことはしないようにお願いします」 「俺の言い分が守れないっていうのか」 「私の気持ちは変わりません」 「そんなことをする姉と親族になるのは無理だよ。今回の結婚はなかったことにするしかないと言ってるんだ」 「妹たちは関係ないでしょ」 「結婚ってのは親族同士の繋がりを作るものでもあるんだ。お前のようなろくでもない奴が家族にいるとなれば、結婚をなしにするのもありだと思ってるよ。お前のような中卒の姉と、まともに子供も育てられなかった親なんてゴミ以下の存在だからな」 私は堪えた。親のことを悪く言われたのが一番辛かった。しかし、太田さんは止まらなかった。このまま黙って帰るなら結婚を受け入れてやっても構わないと言ってきた。 「私がここから帰ればいいんですね」 「ああ、そうだ」 「じゃあ帰ります」 私はその場を離れた。波の晴れ姿を見ることは叶わなかった。 三時間後、太田さんの家では、波が父親に詰め寄っていた。 「お父さん、どういうつもりですか?」 「なんだ、どうかしたのか」 「お姉ちゃんを式場から追い出したんですって」 「姉から聞いたのか?」 「違いますよ。姉は答えてくれませんでした。ただ私の友人が見ていたんですよ。あなたが私の姉にビールをかけるところを。そのまま姉は式場出て戻ってこなかったと言ってました」 太田さんは平然と言った。 「家族を大切にする君の気持ちは素晴らしいと思う。ただこれから先のことを考えると、姉とは縁を切るべきだよ。君はエリート一家に嫁いだんだ。そうなると周りから見られる目も変わってくる。そんな時に中卒の姉という存在は、必ず君を苦しめることになるよ。だから私はそうなる前に彼女を排除したんだ。君のことを家族だと思ってるからだよ」 波は怒りをあらわにした。 「ふざけないで。お姉ちゃんだって私の大事な家族よ。誰よりも大切な家族だわ」 … Read more

1 September 2026

義母から電話がかかってきた。「あなたたち家族は結婚式に来なくていいから」って、笑顔で言われたんです。私はてっきり、何かの間違いだと思った。でも次の瞬間、義母は言いました。「貧乏人一家なんて呼ぶわけないじゃない」って。私たちが貧乏人?…

義母から電話がかかってきたのは、何の前触れもない昼下がりだった。 「みささん、マリ子の結婚式の件だけど」 「はい、何でしょうか」 「あなたたち家族は来なくていいから」 一瞬、何を言われたのか分からなかった。 「え? どういう意味ですか?」 「言葉通りよ。マリ子の結婚式にあなたたち家族は招待しないってことだから、勝手に来ないでちょうだいね」 頭が真っ白になった。私たちが何か粗相をしただろうか。それとも何か誤解があるのだろうか。 「ちょっと待ってください。それはどういう判断で? マリ子さんに何かしてしまいましたか?」 義母はあっけらかんと言った。 「判断も何もないでしょ。最初から決めてたのよ。娘の結婚式に貧乏人一家なんて呼ぶわけないじゃない」 貧乏人。その言葉が耳に刺さった。私たちが、貧乏人? 「私たちがですか?」 「そうよ。他に誰がいるっていうの」 「お義母さんの前で常識のないことはしていません。むしろ突然『貧乏人は来るな』と言う方が非常識だと思います。大体、どの辺りを見て貧乏人だと判断されたんですか?」 義母は鼻で笑った。 「今更そんなこと挙げたらきりがないわ。結婚式もあげられなかったくせに、何言ってるのよ。普通は結婚する時にちゃんと式をあげるの。それができなかった時点で分かるでしょ」 私たちは結婚式をあげなかった。それは事実だ。でも、それは夫婦で話し合って決めたこと。お金を使うなら旅行に使いたいと思ったからだ。それを義母は「強がり」と決めつけた。 「私たちはあげなかっただけで、それも夫婦で話し合って決めたことです」 「強がらなくていいのよ。お金がないからできなかった。それだけでしょ。それにまだあるわよ。ご祝儀だってそうじゃない」 「ご祝儀? きちんと相場通りにお渡ししたはずですが」 「あの金額でよく平気でいられるわ。長男の嫁ならもっと包むのが常識でしょ。妹の結婚式なのよ。それをあんな少ない額で済ませるなんて、恥ずかしいと思わないの?」 失礼だが、事前に「ご祝儀をくれ」と要求してきたこと自体、一般的ではない。でもそれを言ったら、義母はさらに激昂した。 「何それ? 言い訳? だから貧乏人は嫌なのよ。常識がないんだから」 何から突っ込んでいいのか分からなくなった。そもそも、私たちは本当に貧乏なのだろうか。 「それなら決定的なことを言うわ。健太の態度が何よりの証拠よ」 「健太さんが何か言いました?」 「あの子、あなたの実家の話、ほとんどしないでしょ。普通は嫁の実家が立派なら少しぐらい自慢するものなのよ。それが一切ないってことはどういうことか分かる?」 「分かりません」 「自慢できる要素がないってことよ。つまり、お金がない貧乏だから話せない。それだけの話でしょ」 そう思われていたのか。私はただ、義母が嫉妬すると思って実家の話をしなかっただけなのに。全てが義母の思い込みだと気づいたのは、もう少し後のことだった。 「結婚式ってね、誰を呼ぶかで価値が決まるの。変な人間が混ざると台無しになるのよ。ちゃんとした仕事をして、ちゃんとした暮らしをしている人たちの中に、あなたたちみたいなのが混ざったらどうなると思う?」 「浮くと言いたいわけですね」 「そうよ。浮くだけならまだいいわ。恥をかくのはこっちなのよ。ああいう人たちを呼んでるのかって笑われるのはこちらなの。分かる?」 その後も義母の言葉は止まらなかった。当日は家でおとなしくしていろ、式場に近づくこともやめろ、見かけたら警察を呼ぶ、と。挙句の果てには、私の子どもたちのことを「マナーも知らない猿」とまで言った。 「あなたの子どもって可愛くないもの。育ちが違うんだから。ちゃんとした家庭で育った子は場の空気が読めるのよ。でもあんたのところは違うでしょ。写真だって一生残るのよ。そんなところに猿みたいな子がいてもね」 自分の子どもたちを侮辱されて、頭に血が上った。でも、私はグッと堪えた。義母に反論するだけ無駄だと思ったからだ。 一時間後、今度はマリ子さんから電話がかかってきた。 「お姉さん、ごめんなさい。なんか母さんが色々言っちゃったみたいで」 「ええ、いいように言われましたよ」 てっきり謝罪かと思った。しかし、次の言葉で凍りついた。 「でも、私も同じ気持ちなんです」 「え?」 「お姉さんには来て欲しくなくて」 まさか。義母だけだと思っていた。マリ子さん本人も、私たちを結婚式に呼びたくないと言うのか。 「お母さんが勝手に言ってるとばかり思ってました」 「それならちゃんと言いますね。私もお母さんとは同じ意見です。お姉さんたちがいると、ちょっと雰囲気が崩れるというか、浮くと思うんですよね」 私は深く息を吐いた。 「分かりました。最初からそう言ってくれれば良かったですね」 「すみません。建前で呼んじゃったんですけど、貧乏人は空気が読めないからそのまま参加しちゃうんですよね。私がもっと配慮しておけばよかったです」 … Read more

1 September 2026

「あんた、自分が何をしてるか分かってるの?」そう問い詰めた瞬間、妹はスマホの画面を私に向けて笑った。そこには浴衣姿の夫と抱き合う妹が映っていた。「奪っちゃってごめんね。私たちは両思いなんだから」――その言葉と一緒に、夫からは「ちょっとした遊びのつもりだったんだ」という情けない言い訳の電話がかかってきた。こんな裏切りの中で、さらに最悪な知らせが舞い込んだのは、その数時間後のことだった。私はまだ…

「マミー、さっきの写真は何よ?」 「はあ?何が?楽しい思い出を共有しようと思っただけよ。」 妹のマミから送られてきたのは、私の夫・アキラと浴衣姿で並ぶ写真だった。しかも背景は旅館。二人で温泉旅行を楽しんでいる。 「どうしてあなたとアキラが一緒にいるの?」 「そうよ。お姉ちゃんの旦那と温泉旅行を楽しんでるの。奪っちゃってごめんね。彼と相性がいいんだよね。」 「あんた、自分が何をしてるか分かってるの?」 「もちろん分かってるよ。でもしょうがないでしょ。私たちは両思いなんだから。その邪魔をするなんてダメだよ。」 「ふざけないで。私とアキラは夫婦なのよ。」 「形だけでしょ。もし本当に愛し合ってたら、こんなことにはなってないわ。お姉ちゃん、社会的な地位を利用してマウント取ってきたりするから。そういうところが嫌だったんじゃない?」 「何を言ってるの?そんなことしないわよ。」 「でも愛されてないのは確かだから、そこは自覚して。」 「どうしてこんなことをするの?」 「だから、私たちは愛し合ってるからだよ。お姉ちゃんの立場を分からせてあげないとなって思ったの。愛されてもないのに夫婦を続けるなんて不幸でしょ?それなら一層終わらせた方が良くない?子供だっていないんだし。手続きもそんなに面倒くさくないでしょう。」 「そんなことをあなたに言われる筋合いはないわ。」 「私はお姉ちゃんのためを思って言ってるんだよ。そもそも、お姉ちゃんと結婚してたのが間違いなのよ。大きな会社に勤めて稼いでるアキラさんは、お姉ちゃんにはもったいない男性だわ。これからは私とアキラさんが幸せになるから、さっさと別れてくれる?」 私は電話を切った。怒りよりも、込み上げてくるものは悲しさだった。夫と妹に、こんな形で裏切られるなんて。 数分後、今度はアキラに電話をかけた。 「アキラ、今どこにいるの?」 「どこって?それはもうお前に言ってあるだろ。」 「あんたが出張に行ってないことは分かってるのよ。さっきマミから連絡があったの。あんたと仲睦まじい様子の写真が送られてきたわ。」 「は?マミが…」 「そうよ。あなたと楽しく旅行してるって言ってた。」 「嘘だろ?なんでそんなこと…」 「あんたは私を裏切ってたってことね。しかもよりによって妹に手を出すってどういうことよ。」 「いや、違うんだ。俺だって最初からそういうつもりじゃなかったんだよ。マミから相談があるって連絡があったんだ。離婚してシングルマザーになったから色々大変で、話を聞いて欲しいって言われて。しかもお前にはなかなか言い出せない内容だって言うから、俺は一応兄として会ったんだ。そしたら何だかすごく迫られてきて…それで不倫したんだ。」 「それって何?もしかして自分は悪くないって言いたいの?」 「いや、ちょっとした遊びのつもりだったんだよ。お前との生活はもちろん楽しいけど、ちょっと刺激がなくてマンネリっぽかっただろう?だからちょっとしたスパイスとして…」 「バカじゃないの。それで誰が納得するのよ。」 「頼むよ。悪かったって言ってるだろう。」 「言われるようなことをやってるのはそっちでしょ。これで冷静に話すなんて無理よ。しかも出張だなんて嘘をついて。どうしてこんなことをするの?」 「分かったから、後で話をするよ。とりあえずそれまでは待っててくれ。」 「後っていつ?」 「明後日の朝がチェックアウトだから、帰った時に話をしようぜ。」 「ここまで言われてるのに、不倫旅行は満喫しようってことなの?」 「いや、だってここの旅館めちゃくちゃ高かったんだ。それなりにいいところで、前から泊まりたいって思ってたし。途中で帰るのはさすがにもったいないじゃん。」 電話は切れた。何それ。 「だったらもう帰ってこなくていいよ。あなたがそういう態度なら、こっちもやることはやるから。」 「ちょっと待て。勝手なことはするな。マミともしっかり今後について話をしないといけないんだ。そのための時間であって、決して満喫するとかじゃない。」 「そういえば、マミはあなたと結婚するつもりみたいよ。そこでプロポーズでもすれば、きっと喜ぶわよ。」 「いや、俺は別にそこまでの気持ちは…」 「だったらさっさと帰ってきなさいよ。」 「頼む。俺たちに時間をくれ。それと、旅行期間中は連絡はしてこないでくれ。俺は俺で混乱してるんだ。それなのにお前からプレッシャーをかけられると、精神がおかしくなってしまう。とにかく連絡はやめてくれ。そうしたら、きっとリサが望む結果を出して見せるから。」 「私の望む結果なんて、あんたに出せるわけないわ。私が望んでたのは夫婦円満だけなんだから。」 「そのために今はマミと向き合わないといけないんだよ。とにかく連絡は取れないようにするから。」 5時間後、母から電話がかかってきた。 「ねえ、リサ、大変なの。」 「お母さん、どうかしたの?」 「サトシがすごい高熱を出して、うなされてるのよ。」 「え?サトシが?そうなの?顔色が悪くてぐったりして、名前を呼んでも反応があんまりないの。」 「ちょっと待って。どうしてサトシをお母さんが面倒見てるの?」 「マミから出張だから預かってくれって言われてたのよ。」 「なんですって?」 「うちに来た時は元気があんまりないのかなって思ってたんだけど、夜になって急に症状も激しくなって。とにかくまずは救急車を呼ばないと。それはもう呼んだの。でもうちは田舎だから、なかなか来るのに時間がかかって。電話では『とにかくそばにいてあげて、子供が楽な姿勢を取らせなさい』って言われたの。今はお父さんが見てるんだけど、どんな体勢にしてもずっと苦しそうで。マミには連絡したの?」 「それが全然電話が繋がらないの。何度電話してもダメなのよ。」 何をしてるのよ、あの二人は。 … Read more

31 August 2026

夫がリビングに立ったまま、ケータイも見ずにこう言った。「兄嫁が俺の子供を妊娠したから、離婚してくれ」—…

夫が突然、リビングに立ったまま「兄嫁が俺の子供を妊娠したから、離婚してくれ」と言った。 意味がわからなくて、何度も聞き返した。でも夫は「そのまんまの意味だ」と涼しい顔で言う。 「お兄さんの奥さんと、できてたってこと?」 「詳しく言うと生々しいだろ。運命だから仕方ない。俺は責任を取る男だし、放っておけない」 私は頭が真っ白になった。3人の子供がいる。この家を、家族を、何だと思っているんだろう。 「お兄さんは知ってるの?」 「今から話しに行くところだ」 笑い事じゃない。なのに夫は「覚悟があるってことだ」と格好をつける。私は子供たちのことを聞いた。 「うちの子供たちはどうなるの?」 「それはお前に任せた」 「3人もいるのよ。責任はないの?」 「だからそれはお前がやってくれ」 頭がおかしいのかと思った。養育費の話をすると、夫は「1. 5人分でいいだろ」と言い放った。私は絶対に逃がさないと決めた。 その2時間後、私は夫の兄の家を訪ねた。 「お兄さん、ご無沙汰してます。夫が伺ったようですね」 すると兄はきょとんとした顔で「弟なら楽しそうに飲んで、さっき帰ったよ」と言う。そして、こう続けた。 「うちの妻が妊娠してな、そのお祝いに来てくれたんだよ。俺もやっと父親になれるんだ」 私は混乱した。兄の妻は、不妊治療の末に妊娠したらしい。夫が「自分の子だ」と言っていたのに、兄は自分の子だと信じて疑わない。 後で夫に問い詰めると、夫は「兄貴が喜んでいたから、合わせるしかなかった」と言った。本当のことを言うつもりで行ったのに、タイミングを逃したのだと。 「じゃあ、お姉さんは何を考えてるの?」 「分からない。お前から聞いてくれないか」 「何で私が、私を裏切った相手と話さなきゃいけないの?」 「頼む。慰謝料も払う覚悟はある。兄貴との離婚が成立しないと話にならないんだ」 私は嫌々ながら、翌日、義姉に会いに行った。妊娠のお祝いを伝えると、義姉は「やっと授かれたわ」と嬉しそうに言う。 「誰の子なんですか?」 「夫に決まってるじゃない」 「夫は、自分の子だと言ってましたよ」 義姉は笑った。「正君の思い込みよ。前から私に気がある素振りはあったけど、私が応じるはずがないでしょ」 二人の言い分はまるで食い違う。私はDNA鑑定を提案した。義姉は夫に心配をかけたくないからと、夫との鑑定のみで納得してほしいと言った。夫との父子関係が否定されれば、必然的に兄の子になるのだから、と。 数週間後、結果が出た。夫と義姉の間に、血の繋がりはなかった。 夫は信じられないと言った。「何度もホテルに行ったんだ。絶対に俺の子だと思ってた」 でも、鑑定は科学的な事実だ。義姉は「やっぱり夫の子で間違いないわね」と涼しい顔をしていた。 私は夫に言った。「お姉さんは何かを隠している気がする」 「俺は嘘はついてない」 「でも、本当のことをお兄さんに話したら、お兄さんを傷つけることになるわ」 「だから俺が直接話してくる」 翌日、夫は兄に全てを打ち明けた。「俺は洋子さんが好きだ。順番を間違えたことは謝る。でも愛してしまったんだ。譲ってくれ」 すると夫は、義姉の背中にある火傷の跡を口にした。子供の頃に祖母の家のストーブでできた跡だ。兄しか知らないはずの身体の特徴を、夫は知っていた。 「お前、本当に手を出したのか」 「そうだ。殴られる覚悟はできてる」 兄は怒りに震えながらも、最終的にはDNA鑑定に応じると決めた。そして夫には「お前だけは許さない」と言い放った。 1ヶ月後、兄から連絡が来た。鑑定結果が出たのだ。 「俺の子でもなかった」 「え?夫の子でもなく、お兄さんの子でもないなら、一体誰の子なんですか?」 「それが、ありえない結果が出たんだ。お腹の子のY染色体が、俺と一致したんだ」 Y染色体は男性から男性へ受け継がれる。兄と夫は兄弟だから同じだが、お腹の子のそれが兄と一致するということは、夫も兄も父ではない。父親は、同じY染色体を持つ誰か。つまり、義父か叔父だ。 叔父は北海道に住んでいて、義姉と会ったのは結婚式の1回きり。となれば、可能性は一つ。 「俺たちの父親だ」 「義父が、自分の嫁に手を出したってこと?」 私たちは震撼した。義姉は、夫との不倫を隠れ蓑にして、実は義父との関係を隠していたのだ。 数時間後、兄が義姉を問い詰めた。義姉は「ごめん」と認めた。「強く言い寄られて断れなかったの。不妊治療の効果もなくて、もうダメだと思ってた。でも妊娠して驚いたわ」 さらに話を聞くと、義姉は夫とも義父とも関係があった。目的はただ一つ、子供を産むこと。誰の子でもよかった。三人の男の顔が似ていて血液型も同じだから、鑑定しなければ一生分からないと思っていたのだ。 「あなたたち兄弟から種をもらえれば、どれか一人は当たると思ったのよ」 「恐ろしい女だ。お前のせいで家族が崩壊する」 … Read more

31 August 2026

「パパに、私の大学の学費300万を盗まれた。しかも、その金で不倫相手とレストランを開くって言い出した。『みゆにはお前から謝っといて』って、何が何だか分からないまま、パパは家を出て行った。涙も出なかった。ただ、目の前が真っ暗になった。でも、その日の夜、ある決意をして、パパの元恋人に『1年だけ時間をください』って土下座して頼んだ。あの時パパは気付かなかった。私がただの“恥ずかしい娘”じゃなかった…

「大地、今どこ?」 「どこって会社だけど。今日は残業で帰りが遅くなるって言っておいただろう」 「嘘よね」 「はあ? 嘘ってなんだよ」 「私の友達が偶然見たって言ってたの。大地が知らない女の人とホテルに入っていくところ」 「ああ……あれか。あれは飲み会で酔ってたから、介抱してただけだ」 「飲み会? 残業じゃなかったの?」 「飲み会も残業みたいなもんだろう」 「じゃあ聞くけど、介抱ってラブホで?」 「……そこまで分かってたのかよ。もったいぶった言い方しやがって」 「何その言い方? 開き直る気?」 「逆に聞くわ。男女でラブホに入って、何もないと思ってるのか?」 「大地、あなたね……私と再婚して、まだ3年よ。たった3年で不倫?」 「しかも、みゆちゃんが大学に合格したばかりなのに」 「いや、みゆは関係ないだろ」 「ついこの間、家族でお祝いしたばかりじゃない。みゆちゃんに何て説明する気よ」 「みゆだってもう18だろ。この程度のことでガタガタ言わないって」 「そんなはずないでしょ。年頃の女の子が、父親の不倫なんて知ったら……」 「ああ、はいはい。お前には分かんないか。まあ、初めから血のつながらない母親だもんな」 「どういう意味?」 「みゆはこれくらい慣れっこだってことだよ」 「慣れっこ?」 「俺がみゆの母親と離婚したのも、不倫が原因だしな」 「何それ? 私には教育方針の違いだって言ったじゃない」 「そんなの嘘に決まってんだろ。不倫して離婚しました、なんて正直に言ったら、お前は俺と結婚しないだろ」 「……そういうことなのね」 「てか、みゆで思い出したわ」 「今度は何?」 「みゆの学費。不倫相手と店をやるための資金に使ったから」 「は? 店に? 300万全部?」 「学費の支払いはすぐなんだよ。俺とあいつの夢の店だから、理解してくれよ。ああ、みゆにはお前から謝っといて」 「ふざけないで。あのお金は私が独身の頃から貯めてたお金よ。夫婦共有の通帳に入れてたから、共有財産だろ?」 「そんなバカな話が通るわけないでしょ。店だって、私とやるって言ってたじゃない」 「ああ、俺は最初からお前とする気なかったけどな」 「え?」 「ああ、そうそう。お前が一生懸命作ってたレシピも、もらってくから」 「そんな……」 「じゃあ、俺は今日からそっちに帰らないから。後のことはまるっと任せたぞ」 十分後。 「みゆちゃん、バイト終わった?」 「優香さん、どんぴしゃ。マジで今さっき終わったとこ」 「みゆちゃん……本当にごめんなさい」 「何? 急にどうしたの?」 「みゆちゃんの大学の学費、無くなったの」 「あー、まあ、それは……やば」 「実は大地が全額使っちゃったみたいで。さっきネットバンクを確認したら、残ってなくて」 「うわ、パパ終わってんね。らしいっちゃらしいけど」 「マジで勘弁してよ。せっかく合格したのに」 … Read more

31 August 2026

「あやか、早く帰って家事やれ。1800万の負債があるからな。」離婚した元夫から突然届いたLINEで、私のスマホは凍りついた。10年の婚姻生活中、彼が入れてきた生活費は「私への給料」で、足りない分は「俺に返済しろ」だって。しかも、断った翌日には、会社の上司から「お前の元夫が『社員が給与を横領した』って騒いでるぞ」と呼ばれた。職場にまで来て大声で恫喝した俊介に、私はとうとうある決断をした。それは…

「あやか、早く帰って家事やれ。家が散らかってんぞ」 元夫・俊介から突然届いたLINEに、私は思わずスマホを二度見した。 「は? 何言ってるの?」 「家事炊事は嫁の仕事だろ。お前の仕事だ。母さんもぶち切れてるぞ」 「それ、私に何の関係があるの? 私たち、半年前に離婚したよね? 無関係の他人ですけど」 「そうだな。だから?」 「『だから?』って……」 「お前は算数もできないのか。離婚したからって、お前の負債がなくなるわけないだろう」 負債? 何を言っているんだろう。財産分与はとっくに終わっている。 「財産分与は終わってるはずだけど」 「それは夫婦としての生産だろう。俺たちは10年も夫婦生活をやったんだぞ。その間、俺は毎月25万円の生活費を入れてきた。合計3000万円だ」 「ええ、まあ……確かに」 「つまりだ。お前のやってた家事を市場価値に換算してみろ。パート代なら時給1200円がいいとこだろ。家事なんて1日3時間もあれば十分。月々10万ちょいの計算だ。1年で120万ちょい、10年で1200万ちょいだ」 私は頭痛を感じ始めた。 「ちょっと待って。1日3時間だけだと思ってるの? 私は仕事終わりにやってたんだけど」 「仕事終わりにやってただけだろう。3時間でも多く見積もってやってるんだよ」 「それは平日の話でしょ。休日は普段できない掃除をしたり、布団を干したり……」 「そういうのはいいんだよ。計算上は1200万だ。俺が払った3000万から引いてみろ。1800万。お前には1800万の負債があるってことだ」 「は? なんで?」 「理解力なさすぎだろう」 「いや、あなたが理解させる気なさすぎでしょ。ってか、あなたの入れてた生活費で、あなたも生活してたよね? その3000万全額を私の負債扱いするのは変でしょ」 「細かいことはどうでもいいんだよ。事実として、俺が払った金でお前が生きてたんだ。それに、お前の稼ぎは俺以下だろ。給料なんて」 「そんなの関係ないでしょ。私からも生活費は出してたし」 「今言ってるのは、俺が払った額についての話だ。つまり、俺とお前の雇用関係についての話だ」 「夫婦が雇用関係? それは違うでしょ」 「とにかく数字が証明してるんだ。お前は給料を持ち逃げしてる状態だ。分かったら、これから毎日3時間、うちに来て家事をしろ。残り1800万、10年以上かけて返してもらうからな」 数日後、再び連絡が来た。 「おい、いつになったら家事しに来るんだ?」 「行くわけないでしょ」 「お前がうちから出て行ったせいで、うちは大変なんだぞ。お前が家を開けてから半年で、風呂場はカビが生えてきたし、リビングは誇りだらけだ。母さんは足が悪いから家事もできない」 「じゃあ、俊介がやったら?」 「バカなのか? 俺は仕事があるんだ。家事なんてしてる暇ない」 「私は仕事しながら家事やってたけどね」 「それはお前が俺と違って、大して働いてないからだろ」 「そういう問題じゃないでしょ。私も正社員としてフルタイムで働いてるわよ」 「中小企業の平社員が何言ってんだ」 「だとしても条件はあなたと同じでしょ」 「同じなわけない。俺はお前んとこの重要取引先の部長様だぞ。仕事の内容も密度もお前とは違う」 「その部長様が、仕事と家事の両立もできないの? そんな容量の悪さでよく出世できたわね」 「……お前、俺を馬鹿にしてんのか?」 「馬鹿にされてる程度のことは理解できるのね。よかった。話が通じないんじゃないかと思ってたわ」 「話が通じないのはそっちだ。こっちは親切で、家事でチャラにしてやるって言ってんだ」 「それはご丁寧にどうも。でも、お断りします」 「なんだと?」 「一応、取引先の部長様なので、今後も連絡することもあるかと思って、あなたをブロックしてなかっただけよ。プライベートな連絡は、今後は控えてくださいね」 … Read more

31 August 2026

朝食の席で夫が私の作った弁当を見て「手抜きだ」と怒鳴った。13年間、睡眠4時間で義母の介護と家事を全て一人でやってきた私に、夫は「お前は一円も稼いでない。寄生虫だ」と言い放ったの。泣き崩れる私を見て、義母が突然こう言ったんだ。「あなた、今から嫁終了よ。離婚しなさい」でも夫は余裕の顔で「どうせすぐ帰ってくる」と笑ってた。私は静かに離婚届を出し、実家に帰ると宣言した。夫は「お前に実家なんてないだ…

朝の食卓で、夫の和馬が弁当箱を開くなり、嫌な顔をした。 「何だよ、これ。昨日の残りじゃん。手抜きすんなよ」 私は弁当を作りながら、昨夜のことを思い出していた。母の喉に痰が詰まり、吸引機で吸い出していたのだ。息もできない様子で、手が震えていた。 「お母さんの喉に痰が詰まって、吸引機で吸い込んでたの。夜中まで手がかかって、眠れなかったんだよ」 「はあ?痰が詰まった程度で大騒ぎしてたのか?」 「程度って…。場合によっては命に関わるんだよ。自分の母親のことでしょ。なんでそんな無責任なことが言えるの?」 「母さんの介護はお前の仕事だろう。俺は関係ないじゃん」 この13年間、彼はずっとそうだった。私は毎日介護と家事に追われ、睡眠時間は4時間。身を削って家族を支えてきた。 「文句くらい出るわよ。こっちは毎日介護して家事して、4時間睡眠で頑張ってるんだから」 「何様だよ。介護してる程度で疲れたとか抜かすな。誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ。文句あるなら出ていけ」 「あのね、そっちこそ何様なの?私が家事や介護をしてるから生活できてるんでしょ」 「頭悪すぎだろ。冷静に考えろ。俺は外で働いて生活費を稼いでる。お前は?お前の家事や介護が一円でも稼いでるのか?」 「そういう問題じゃないでしょ」 「そういう問題だ。俺は給料を100%家庭に入れてる。お前は一円も稼いでないだろう。誰の金で生活してるか自覚あるのか?」 確かに、私はお金を稼いではいない。でも、その分家族のために尽くしてきた。それなのに、彼は私の存在価値をまるで認めようとしない。 「あなたに期待してた私がバカでした」 「分かってるならちゃんとしろ。次もこんな弁当を作ったら叩き出すからな。この寄生虫が」 その言葉に、私は静かに頷いた。涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。 翌日、私はお母さんにLINEで聞いた。 「お母さん、昨日なんで泣いてたの?」 「え、気づいてたの?」 「いくら寝ぼけてても、そのくらいは気づくわよ。私の介護をしてた時、どうして泣いてたの?」 「何でもないんです。目にゴミが入っちゃって」 「あなたはこの13年間、本当によくやってくれたわ。私の介護が辛いなら、私が施設に入ってもいいのよ」 「どうしてそんな話になるんですか?」 「自分でも分かってるの。お先短い身であなたの負担になってることは。もういいんじゃないかって思ったのよ」 「いいって、何がいいんですか?私の介護なんて、ヘルパーでも雇えばいいわ。さおりさんが我慢し続ける必要はないの」 「そんな我慢だなんて…」 「でも、しんどいんでしょ?」 確かにしんどくないと言ったら嘘になる。夜遅くに起きてお世話をして、辛いこともたくさんあった。 「そんな寂しいこと言わないでくださいよ。私にはもう両親がいません。両親は駆け落ち同然に結婚して、親戚にも会ったことないんです。そんな私にとって、お母さんは母親なんです。結婚して辛いこともあったけど、お母さんが本当の母親みたいに迎えてくれたから」 「さおりさん…」 「嫁失格かもですけど、私、今は和馬のためにってあまり思ってないんです。介護を続けてるのは、お母さんのため。すみません」 「そんなことないわ。和馬の態度は、私から見てもひどいものよ。さおりさん、私だってね。あなたのことを本当の娘みたいに思ってるの」 「え、はい…。どうしました?」 「ちょっと待って。それ、いいじゃない」 「はい?」 「あなた、今から嫁終了よ。あなたは嫁失格です。和馬と離婚しなさい」 翌日、私はいつも通り弁当を作った。朝5時に起きて、全部手作りした。彼の好きな唐揚げを揚げて、卵焼きも焼いて、きんぴらごぼうも作った。 「お前さ、反省とかできないわけ?何だよ、この弁当。テンション下がるわ」 「昨日の残りじゃないよ。今日は朝5時から起きて、全部手作りしたの」 「頑張ったかどうかはどうでもいいんだよ。結果だよ。結果としてこんな弁当は論外だって言ってるの」 「あなたの好きな唐揚げを朝っぱらから揚げたのよ。卵焼きも焼いて、きんぴらごぼうも作って…」 「お前、SNSとか見たことないのか?彩りってものがあるだろう。お前と同じ主婦がもっと綺麗な弁当を作ってるんだぞ」 「お弁当を作ってすぐに介護があるから、あそこまでの時間はかけられません」 「それは手抜きのための言い訳だろ。生活費を入れている俺がこれじゃダメだって言ってるなら、間違ってるのはお前だ。分かるか?」 「作った私が一生懸命作ったって言ってるなら、うちのお弁当はそれが正解よ。分かる?」 「舐めてんのか。弁当を作った程度で何様だよ」 「この弁当で金が稼げるか?無理だよな。けど俺はこの弁当を食って金を稼ぐんだよ。俺のためにもっと努力しろ」 「頑張ってるとか関係ないんじゃなかったの?」 「それはお前の話だ。お前の頑張りは一円にもならないからな。俺の頑張りは給料っていうリソースに変わるんだよ」 「そうですか」 「前にも言ったよな。次くだらない弁当だったら叩き出すって」 「オッケー。じゃあ出ていくね」 「はあ?ふざけてんのか」 … Read more

31 August 2026

義母が突然、離婚届を私に投げつけた。七年間、不妊治療に通いながら妻としてできることは全てやってきたのに、息子の子どもを産めない女は「血管品」だと、家を追い出された。夫も「お前に子どもが産めるわけがない」と、あっさり私を見捨てた。三年後、新しい家族を連れた元夫と再会した時、彼は私の連れている子どもを見てこう言った。「どうせ誘拐したんだろ」。私は微笑み返しながら、彼に伝えた。再婚相手の名前を。す…

「お母さん、どこに行ったんですか?話し合いをちゃんとしましょう」 私は義母の背中に向かって叫んだ。でも彼女は振り返りもせず、バッグから書類を一枚取り出して私に投げつけた。 離婚届だった。 「あんたと話すことなんてもうないわ」 「いきなり離婚届を突きつけて、話が終わりなんてありえないでしょ!」 「あんたが全部悪いのよ。こっちが被害者なんだから。これ以上私たちを苦しめるのはやめて」 「被害者って何を言ってるんですか?私はもう七年も待ったんですよ。なのにあなたは全然子どもを産まない。私だって我慢の限界があるの。あんたなんて我が家にはもう必要ないから、出ていきなさい」 「子どもができないのは事実ですけど、それだけで私を家から追い出すんですか?」 「当たり前でしょ。うちは代々続く本家なの。この血筋を絶やさないために女がやるべきことは、子どもを産むこと。それさえやってればあとは何もしなくてもいいくらいなのに、あんたは肝心な子どもを産まなかった」 「子どもができないのは私だけが原因じゃありませんよ。責任があるとしたら、夫婦二人にあるんです。だから、子どもが欲しいなら啓介にも言ってください。どうして私だけが責められないといけないんですか?」 「子どもを産めないってのは女に原因があるに決まってるでしょ」 「何ですかその思い込みは?」 「こっちはあんたが子どもを産んでくれると思ったから、嫁として受け入れたのに。不妊のダメ嫁と知ってたら結婚なんて認めなかった。今まで私たちから騙し取った生活費とか、全部今すぐ返しなさい」 「は?騙し取った?」 「子どもを産むと言うから生活の面倒を見てきたのよ」 「産むなんて言ってないです。産みたくて、そのために頑張ってるとは言いましたけどね」 「あんたは自分の役割も果たさないくせに、よくものうのうと生活してたわね」 「私は妻としてやれるべきことはやってきました。それなのに、子どもを産まなかったというだけで、全部がなかったことになるんですか?」 「当たり前でしょ。それが妻の仕事なんだから。後継ぎも産めない血管品は不要。出ていきなさい」 「啓介が納得するわけないでしょ。私と啓介は気持ちが通じ合ってるんです」 「きっとあっさり認めてくれるわよ。とりあえず話だけはしてみますから」 「そう。それじゃあ話が終わったら、さっさと出ていく準備をしてね」 五分後、私は夫の啓介に話しかけた。 「ねえ、お母さんに離婚しろって言われたわ」 「はあ?なんだよ、急に」 「いきなり離婚届を投げつけられたの。子どもを産めないなら離婚だってさ」 「ここ数年はずっとプレッシャーをかけられてたけど、いよいよ爆発したみたいね」 「そうよ。あなたからお母さんにちゃんと注意してよ。こんなの私、許せないわ」 「母さんはずっと早く孫の顔が見たいと言ってたんだ」 「それは後継ぎが欲しいだけでしょ」 「そうだよ。うちはそういう家柄なんだ。俺は長男として子孫を残す義務がある」 「へえ、義務があるんだ。それについては別に否定しないけど、子どもを産めないから離婚なんてひどいとは思わないの?」 「俺だって子どもは欲しいんだよ」 「にしては、全然妊活に協力してくれないじゃない。私は一人でやれることを頑張ってるけど、あなたは何もしてない。それなのに義務があるとか、よく言えるね」 「妊娠できないのはお前のせいだろうが。どうして俺が妊活なんてしないといけないんだ」 「夫婦で協力してやるものでしょ」 「俺の周りの友人たちは、もっと早くに子どもを産んでたぞ。なのにどうしてお前は妊娠しないんだよ」 「そんなのこっちが聞きたいわよ。私だって子どもを早く欲しいって思ってるんだから。そのために産婦人科に通って不妊治療もやってるのよ」 「それでも産めないってことは、お前の体に原因があるってことだろう」 「そんなことないわよ」 「悪いが、俺もお前と結婚生活は続けられない。不妊の役立たずとは離婚だ」 「あなたも、子どもが産めないから離婚するっていうの?」 「そうだ。何の文句もないだろう」 「あるに決まってるでしょ。それに、あんたは自分が離婚を切り出せる立場だって本気で思ってるの?」 「何がだよ」 「昔、私があんたを許したから結婚生活を続けられてるのを忘れたの?」 「まさかそんなことを言うのか?過去を引きずりやがって、虫酸が走る」 「開き直らないで。自分が何をしたか忘れたの?」 「今はそんなことは関係ない。とにかくお前とは離婚だ。今すぐ家から出ていけ」 十分後、義母が戻ってきた。 「どう?話し合いは進んだ?もしかして荷造りをしている最中かしら?」 「ええ、もう出ていこうと思います」 「本当?認めてくれてよかったわ。私もあなたたちとこれ以上一緒にいたくないと心から思ってますから」 「そうですか」 「じゃあ、私が帰ってくるまでには出て行ってくれる?実家があるから、家は問題ないわよね」 … Read more

31 August 2026

「20年間、お袋の介護をしてくれてありがとう。ちょうど区切りもいいし、出て行ってくれ。若い部下と再婚するから」—…

20年間、お袋の介護をしてくれてありがとう。そう言われた時は、本当に報われた気がした。でも、その次の言葉で全てが崩れた。 「ちょうど区切りもいいし、出て行ってくれ。若い部下と再婚するから」 50歳過ぎたおじさんの何がいいのよ、と冗談めかして返したのに、彼は真顔で答えた。 「門太君だ」 あの若い女性か、と気づいた時、頭の中が真っ白になった。何度か家に連れてきたことがある部下。まだ30歳くらいの、綺麗な子。 「愛に年齢は関係ない」 「あるでしょ。彼女のご両親がいい顔すると思いますか?」 「お前の価値観は昭和のままだな。今は多様性の時代なんだよ」 要は若い子が好きってだけでしょ、と言えば、内面で引かれ合ってるんだと言い張る。呆れて物も言えなかった。 離婚したらお母さんの介護はどうするのかと聞けば、「彼女が喜んで介護すると言っている」と平然と言う。私はこの20年、義母のために身を粉にしてきたのに。彼は私が遺産目当てだと糾弾した。確かに義母の預金が2300万あるのは知っていた。でも、一度だって狙ったことなんてない。 「お前みたいな強欲な女はいらん。二度と顔を見せるな」 私は荷物をまとめ、介護ノートをテーブルに置いて、その家を出た。 翌日、彼とレナさんは電話で楽しそうに引っ越しの話をしていた。「奥さんはすんなり出て行ったの?」と聞くレナさんに、彼は得意げに言った。 「もちろんだ。20年分の労をねぎらって、円満離婚だったよ」 「素敵。綺麗に別れられるって男の器量でしょ」 「レナちゃんは俺が守るから」 私はその会話を全て知っていた。レナさんから連絡をもらっていたからだ。 数日後、義母が救急搬送されたと、離婚したはずの夫から連絡が来た。トイレに行こうとして転んだらしい。彼は介護ノートをちゃんと読んでいなかった。義母がおむつを嫌がることも、トイレの世話が必要なことも、全て書いてあったのに。仕事があるからと、病院のことは私に押し付けてきた。 「頼むよ。お前しか頼れるやつがいないんだ」 「新しい彼女はどうしたのよ」 「もうすぐ一緒になる。時間がかかってるだけだ」 ふざけるな、と思った。そして、私は病院で義母に会い、全てを話した。あの搬送は、義母を家から連れ出すための私の計画だった。心配はいらない。義母はしっかり理解してくれた。 病院に現れた夫は、義母に会いたいと言った。しかし義母は「来て欲しくない」と言っていると伝えると、彼は怒り出した。 「お前に何が分かるんだ。れなちゃんは俺のことを好きだと言ったんだぞ」 「あれは全部演技よ」 そう言った時、彼の顔色が変わった。レナさんは、私の知らないところで彼の浮気を調査していた。最初に家を訪ねてきた時、彼女は複数の女性と彼が不倫していることを教えてくれた。彼女の父親も、同じように不倫をして母親を追い出したという。「自分の父親が不倫してお母さんと、まだ高校生だった自分を追い出した」と、彼女は泣いていた。 「あなたがどん底に落ちて不幸になるところが見たかったのよ。父親の代わりに復讐したかったみたいね」 私はレナさんと手を組んだ。彼がどれだけ私を顧みなかったか。介護で腰を痛め、マッサージにも行けない私を置いて、彼は若い女と楽しい時間を過ごしていた。 「私が欲しかったのは、ほんの少しの自由と、直接的な言葉と、物理的なサポートだったのよ」 彼はようやく事の重大さに気づき始めた。「今後はちゃんとする」と言うが、もう遅い。 「離婚は撤回だ。戻ってきてくれないか?」 「何言ってるの。離婚できて清々してるわ」 「母さんはどうするんだよ。見捨てる気か」 「心配いらないわ。待機してた施設に入所した。あの入院も全部嘘よ。あなたを試したの」 彼は慌てた。施設に入れるには費用がかかる。それは遺産が減るということだと、彼は暗に言った。彼は家を売ったらどこに住めばいいのかと、自分のことばかり考えていた。義母はずっと早く施設に入れていいと言っていたのに、私は思い出の詰まった家でゆっくりしてほしかった。それだけなのに。 「説明したでしょ。お母さんのお金は全て施設の費用に消える。私にもいくらかくれると言ったけど断ったわ」 「なぜだよ!」 「あなたと浮気した複数の女性から慰謝料をもらえるから。それで十分よ」 彼は絶句した。レナさんから情報を得た時点で、私は探偵をつけて証拠を掴んでいた。慰謝料請求は、彼の不倫相手たちの夫からも来る。彼の退職金で貯めた貯金も、慰謝料で消えていく。俺を騙したのかと彼はレナさんに電話した。 「やっとこの日が来ましたね。あなたの臭い息を吸うのも、退屈な武勇伝を聞くのもこれで終わりです」 「ふざけんなよ。訴えてやる!」 「どうぞ。自分の恥をさらすような真似ができれば、自由にしてください」 「俺たち愛し合ってたよな?」 「はい。全て嘘です」 彼は家も妻も母親も、そして架空の恋人も失った。唯一残った仕事にしがみつこうとしたが、レナさんが彼が手を出していた女性たちが全員既婚者であることを会社に報告した。会社は彼を解雇した。さらに彼女たちの夫からの慰謝料請求も合わせて、総額900万円。貯金は500万しか残っておらず、それでも足りずに借金までした。 現在、彼は引っ越しや宅配便のバイトを転々として食いつないでいるという。エアコンの効いた部屋で偉そうに指示をしていた人間が、若い男たちに怒鳴られるのはどれほどのストレスだろうか。自業自得だが。 義母は施設で明るくなった。私に気を使わずにすんだのも大きいのだろう。友達もできて、楽しそうにしている。 レナさんは夫から逆恨みされることを警戒して職場を辞め、引っ越した。素敵な恋人もできたようで、会うたびに本当の笑顔を見せてくれるようになった。 私は今、居酒屋で接客をしている。楽しそうに自分の時間を過ごしている人たちを見ているだけで、嬉しくなる。人生を大きく変える決断は苦しいものだ。勇気もいるし、恐怖もある。それでも、あの日私の背中を押してくれたレナさんには感謝しかない。この選択で良かったと、人生の最後に笑えるように。今日も私は、ビールジョッキを笑顔で運ぶ。

31 August 2026