「お姉ちゃん、久しぶり。元気してた?」電話の向こうから、懐かしいはずの妹の声が聞こえてきた。でも、その声にうれしさはなかった。3年前、私の夫を奪った美由。その彼女が、夫の会社が倒産して住む場所もないから、実家に住ませろと言ってきた。「許可とか必要ないでしょ?元々私たちの家じゃん」あまりの図々しさに言葉を失った。しかも、夫の武志は「女は男を立てるものだ」と私を平気で見下してきた。でもね、私はこ…
「お姉ちゃん、久しぶり。元気してた?」 電話の向こうから、懐かしい声が聞こえてきた。だけど、その声音にうれしさはなかった。むしろ、どこか軽くて、図々しい感じがした。 「誰かしら。うわ、ひどいな。妹の美由だよ。知ってて聞いてるでしょ」 「今さら何の用?」 「ようやく謝罪する気になったわけ?」 「え?謝罪?何のこと?」 「とぼけないでよ。3年前、お姉ちゃんの旦那を奪ったのは私でしょ。でもさ、親戚から聞いたんだけど、実家を立て直したんだって?すごいね。やっぱりお姉ちゃんは成功してるんだね」 「で、だから何が言いたいの?」 「あのさ、私たちも一緒に実家に住むから、よろしく」 「住む?誰が許可したの?」 「え、許可とか必要ないでしょ?だって元々は私たちの家じゃん。お姉ちゃんだけのものじゃないし」 「でも親の許可はいるわよね。実家なんだから」 「お母さんたちは優しいから、きっと許してくれるよ」 「何そのめちゃくちゃな理由。まあ、いいわ。来れるなら来てみたら?住所を送るから」 「行くわよ。行けないと困るし」 「何が何でも行くって感じね。何があったの?」 「夫の会社が倒産して、本当に困ってるのよ」 「ああ、武志の会社が潰れたのね。それは大変そう」 「大変なんてもんじゃないわ。アパートの家賃も払えなくて、追い出されそうなの」 「だからうちに逃げてくるわけね」 「うん、まあそういうこと」 「あなた、恥ずかしいとかないわけ?」 「仕方ないじゃん。生活に困ってるんだし。お姉ちゃんは弁護士事務所まで持ってるんでしょ?依頼者もたくさんいて、稼ぎもすごいって親戚から聞いたわよ。実家まで立て直せるくらいお金があるんだから、私たちくらい助けられるでしょ」 「へえ、よく調べたのね」 「だって余裕のない人に助けてって言っても無駄じゃん」 「そういうところだけしっかり常識があるのね。で、武志の会社は何が原因だったの?助けてほしいなら、事情くらい話せるでしょ」 「経理担当の人がミスしちゃったみたいでさ。帳簿の数字が合わなくなって、それが結構何回もあったらしいの。そのせいで取引先との契約も切れたみたいなのよね」 「“みたい”って、あなた働いてなかったの?」 「私、全然わかんないわよ、そういうの。経理なんて専門家の仕事だし。社長夫人なんだから、家で待ってるのが仕事でしょ」 「あ、そういう考えなの。じゃああなたは武志の会社には関係なかったわけね」 「武志は本当に真面目に経営してたのよ。社員の給料も遅らせずに払ってたし、取引先にも誠実だったし。でも、自分のせいで会社が潰れたって思い悩んでるのよ。その経理担当の人、今どうしてるの?」 「その人も仕事を探してるみたい。気の毒よね」 「社員みんな気の毒じゃない。働き口がなくなったんだし。あなたも今、生活に困ってるんでしょ?」 「でも私は武志を責めるつもりはないよ」 「え?あなたが真っ先に責めそうなのに」 「私を何だと思ってるの?姉の夫を奪った最低の性格ブス女?きっとこれでしょ」 「妹にそんなこと言う?大体、誰だってミスはするし、ミスしたらミスしたで仕方ないじゃん」 「そう。随分優しくなったじゃない」 「当たり前でしょ。お姉ちゃんと違って、私は思いやりがあるのよ」 「思いやりがある人は略奪なんてしないし、平気で実家に住ませろとか言わないわよ」 「実家なら家賃かからないもん。それにお姉ちゃんは実家を立て直せるほどお金あるんでしょ?別の家を借りればいいじゃない」 「はい、なんでそうなるのよ」 「私たちが実家に住むんだから。お姉ちゃんは気まずくて出ていくでしょ。元夫婦が同じ屋根の下なんてありえないし」 「ああ、やっぱり性格はそのままね。なんかちょっと安心したわ」 「え?何の話?」 「こっちの話よ。住所は送るから、どうするかはそっちで決めてね」 1時間後、美由は夫の武志に報告した。 「武志、やったよ!お姉ちゃんが住所を送ってくれた。来週引っ越せるわ。ホームレスにならずに済むよ」 「本当か。これで住む家に困らないな。いや、助かったけど。でも顔を合わせるのは気まずいな」 「え?何気にしてるの?堂々としてればいいじゃん。それに、きっとお姉ちゃんも気まずくて、すぐ家を出ていくわよ」 「あ、そうなのか」 「普通に考えて、お姉ちゃんのほうが出ていくでしょ。つまり実家は私たちが使えるってこと。お姉ちゃんは弁護士で稼いでるんだし、もっといいマンションでも借りればいいのよ」 「そうだな。それならありがたい」 翌日、武志は美由の姉・沙耶香のもとを訪れた。 「あら、久しぶり。美由から話は聞いてるわ。実家に住ませてくれるそうだな。感謝するよ」 … Read more