授業参観で見知った顔を見つけた瞬間、全てが始まった。「まさか学校であんたに会うなんてね。久しぶりじゃない?負け犬さん」ー小学時代からの親友だった女が、私の夫を奪い、捨てた相手だとは。しかも今、彼女は裕福な弁護士の妻として幸せそうに微笑んでいた。私は再婚して平和に暮らしていたのに、彼女はそれを知りながら「どうせ貧乏なんでしょ?」と煽ってきた。羨ましさから嫌がらせをしないかと釘を刺しに来たのだと…
まさか学校の授業参観であの女に会うなんて思わなかった。ゆいの母親が、まさか私の親友・あかりの母親だとは、あの瞬間まで気づかなかったのだ。 「まさか学校で会うなんてね。久しぶりじゃない?負け犬さん」 あの口調は忘れられない。夫を奪った女の、勝ち誇った笑顔。私は挨拶を無視したわけではない。人目のある場所で、昔の恨みを表に出すのはみっともないと思っただけだ。 「無視してないわ。挨拶はしたでしょう。授業参観だし、人の目もあるもの」 「いや、それにしても、まさかあなたの娘があかりちゃんで、うちのゆいの親友だったなんてね。世間って狭いわ」 「そうみたいね。私も驚いたわ。というか、元親友ね。もうあなたのことは親友だと思ってないから」 「あっそ。私ももう思ってないわよ。それにしても、今日は期待外れだったわ。なにかこっちを見てくる人がいるから、誰かと思ったら、私に夫を奪われた負け犬じゃない。そう思ったら笑いをこらえるのが大変だったわ」 私は平静を装った。別れた男のことは、もうどうでもよくなっていた。それよりも、なぜこの女が私の連絡先を知っているのか、なぜわざわざ連絡をしてきたのか。その方が気になった。 「それで、何のために連絡してきたの? 私はあなたに連絡先を教えた覚えはないんだけど」 「ゆいとあかりちゃんは友達だからね。ゆい経由で教えてもらったのよ」 「そう。それで、いったい何の用?」 「いやあ、ちょっと釘を刺しておこうと思って」 「何の話?」 「どうせあなたのことだから、シングルでしょ? 貧乏暮らし、大変でしょ? うちが羨ましいからって、嫌がらせしないでよ」 「別に、そんなことしないわ」 「強がらなくていいのよ。私の夫は弁護士で、年収一千万はあるの、知ってるわよね? あなたの元夫なんだから」 「ええ、あなたが浮気して駆け落ちしたんだもの。経済能力は知ってるわ」 「あなたみたいな普通の会社員とは違うの。うちはお金があるけど、あなたはそうじゃない。だから、警戒しておかないと」 「そう。言いたいことはそれだけ? もういいかしら。時間の無駄だもの」 「はあ? なによ、その態度。むかつくわね。嘘だと思ってるの? 言っておくけど、うちの娘は優秀だし、大学だって良いところに通うの。あなたの娘は、どうせしょぼいところでしょ。かわいそうに」 ここで、私は一言だけ返した。この女が大きな勘違いをしていることを、教えてやらなければならなかった。 「何か大きな勘違いをしているようだけど、私は再婚してるわよ。あなたと違って、シングル家庭じゃないの」 「はあ? あっそ。だからって、貧乏と決めつけないでもらえないかしら」 「でも、愛のない家庭でかわいそうね」 「どういう意味?」 「あなたが再婚って、どう考えてもおかしいじゃない。夫を他の女に取られるような人間よ。そんなのが再婚できたってことは、どうせ子供ができたから結婚したに決まってるわ。愛のない家庭のくせに」 「そう思うなら、それでいいわ」 「やっぱりね。あなたみたいな貧乏人は、子供ができないと結婚できないのよ。うちは違うわよ。愛があって結婚したんだから。あなたとは運の差ね」 私はこれ以上話す価値もないと感じ、切り上げた。許す気はないが、子供たちにまで余計な影響を及ぼしたくなかったのだ。 「そう。つまり、自慢話をしに来たわけね。もういいかしら。あなたのことは許してないし、これ以上近づかないで。でも、子供たちのことまで口出しはしないで。あの子たちには関係ないんだから」 数時間後、家のリビングで、あかりがソファに縮こまりながら、突然切り出した。 「ねえ、お母さん。私さ、高校卒業したら、家を出ようと思う」 「え? どうしたの? いきなり」 「うち、もうめちゃくちゃなの。正直、限界」 「何があったの?」 「父さん、借金してるの。弁護士事務所も、倒産寸前らしい」 「借金? それ、やばいじゃない」 「うん。しかも、それだけじゃなくて。父さんも母さんも、浮気してるの」 「はあ? え、マジで? 何それ、地獄じゃん。離婚協議中なんだけど、どっちが慰謝料を払うかで揉めてるの。毎日怒鳴り声が聞こえるし、子供のことなんて、何も考えてない」 「ゆいは大丈夫?」 「大丈夫かな。今は、高校卒業したら家を出るって決めたら、色々諦めがついて楽になったけど」 「そうなんだ。辛かったら、何でも言ってよ。なんなら、うちに泊まってもいいし」 … Read more