義母から電話が来たのは、披露宴が終わったその夜だった。「あんたが息子を離婚に追い込んだんでしょ」——スマホに並ぶ何通ものメッセージを見て、私はホテルの部屋で一人、指が震えるのを止められなかった。ほんの数時間前まで、私は花嫁だったのに。式の準備は全部私が一人でやった。仕事も両立させて、彼のお母さんに何度も嫌味を言われても耐えた。「大手に入れなかったから中小で働いてるんでしょ?」って面と向かって…

あねさん、結婚式は半年後って言ってたわよね。 ええ、そうね。いま準備の真っただ中って感じかしら。 そうなのよね。こんなに決めなきゃいけないことがあるのかって思うくらい。 式はもちろん大事だけど、あなたには仕事も頑張ってもらわなきゃいけないわよ。 仕事ですか? そうよ。あなた、サトシと同じで代理店で働いてるんでしょ。 そうですけど。私、女だからって仕事をサボっていいとは思ってないんです。昔の人は女は家庭に入れって言ったけど、いまはそんな時代じゃない。女だってちゃんとしたキャリアを積まなきゃダメなんですよ。 確かにそうかもね。うちの息子は大手でバリバリ働いてるわ。 それに比べてあなたはどう? たいしたことない会社で働いてるみたいじゃない。 そんな言い方、やめてください。会社の規模で人を決めるなんて間違ってます。 だってあなた、大手に入れなかったから、そんな中小で働いてるんでしょ? はあ。どうしてこんなに分かってくれないのかしら。私はね、いまのままじゃサトシの妻としてふさわしくないから、せめて結果を出しなさいって言いたかったのよ。なのに、こんなに現実を受け入れない人だとは思わなかったわ。そりゃ、仕事だって結果を残せないはずよ。 勝手なことばかり言わないでください。私はいまの会社に満足してます。成果だって、言われなくても出し続けてますから。 サトシは今、大きな仕事を取るために必死なのよ。それなのに、あんたは式のことばかり考えて。 私だって仕事も式も両方きちんとやってます。 私はあなたがサトシの妻として恥ずかしくない結果を残してくれる方が嬉しいのよ。 それも、ちゃんとやってますから。 とにかく、仕事で手を抜いたら許さないからね。これからも厳しくチェックするから。 そういうのは会社がやってくれてるので、結構です。 1時間後。 サトシ、ちょっと聞いてくれる? なんだよ。仕事中だって言ってるだろ。式のことは全部お前に任せたから、いちいち聞いてこないでくれよ。 式に対して非協力的なことには言いたいこともあるけど、今日はそうじゃないの。 じゃあ何なんだよ。 あなたのお母さんよ。ちょっとひどいの。 どうしたんだ。 私にね、「サトシの妻にふさわしくなれ」って言ってきたのよ。仕事で結果を残せって命令もされたわ。 ああ、そうなのか。 そうなのよ。前はそんなこと言ってこなかったのに。仕事に口出しされるのは、さすがに我慢できないわ。 お前が母さんを怒らせるからだろう。 怒らせる? 何もしてないわよ。 同居を断ったからだろ。 それが理由なの? 最初から同居はしないって言ってたじゃない。 そうだけど、母さんはやっぱりしてほしかったんだよ。 なのに、お前がきっぱり断るから。正直、お前の言い方も冷たかったぞ。断るにしても、言い方ってものがあるだろう。 変に期待させたら可哀想だと思ったから、しっかり断っただけよ。それに、同居が前提なら結婚だって考え直すところだったわ。 そんなに同居が嫌なのか? 嫌よ。あなたも分かってるでしょ。私は家でも仕事をするタイプなの。だから、できるだけ家では集中したいの。そのためには、家の中に人が少ない方がいいの。 それはさっきも聞いたよ。でもよ、お前から母さんに言ってくれよ。俺を巻き込まないでくれって。 誤解を解いてくれればそれでいいのよ。 いや、めんどくさい。お前ら嫁と姑の争いに、なんで俺が入んなきゃいけないんだよ。 味方してよ。 俺は中立だ。これはお前たちだけで解決しろ。 ああ、もういいわ。じゃあ、式の準備も、私一人でやるから。 ああ、それでいいよ。 それから数日後。 あね、元気か? 何よ、突然。別に普通にやってるわよ。 そんな冷たくするなよ。兄貴として、お前のことはいつも心配してんだから。 この前、実家で会ったばかりじゃない。 そうだけどよ。まあ、それより本題なんだけどさ。 本題? … Read more

22 September 2026

「ねえ、悠一、浮気してるよね。」その一言から、私の日常は音を立てて崩れていった。八月の蒸し暑い夜、臨月の大きなお腹を抱え、私はスマホの通知を見てしまった。「新しい下着買ったから、早く見せたいな」——差出人は、さゆり。問い詰めると、悠一は「ゲームのキャラだ」と言い張った。ゲームの名前を聞けば「妊婦のくせに疑うのか」と逆ギレし、「一人で育てればいい。父親がいないかわいそうな子になるけどな」と吐き…

「ねえ、悠一、浮気してるよね。」 「は? いきなり何言い出すんだよ。俺、残業中なんだけど」 「その残業、本当に仕事なの?」 「千尋、お腹の子のために働いてるのに、なんでそんなひどいこと言えるんだよ」 「この間、あなたのスマホの画面に出てた通知、見たよ。さゆりって人からメッセージが来てた。『新しい下着買ったから、早く見せたいな』って」 「お前、人のスマホ見るってプライバシーの侵害だぞ」 「たまたま見えてしまっただけ。ごめんなさい。でも、ちゃんと説明してくれる?」 「ゲームのキャラクターからの通知だよ。LINEからの通知だったけど、連動して実際にやり取りができる疑似恋愛ゲームなんだよ」 「じゃあ、そのゲームの名前、教えて」 「しつっこいな。妊婦のくせに俺の浮気を疑って離婚をちらつかせるのかよ」 「離婚したいなんて、まだ一言も言ってない。疑うなら離婚でいいぞ」 「一人で育てればいいんだろ。八月か? 父親がいないかわいそうな子になるけどな」 「だからそうならないためにも教えてって言ってるの。私だって疑いたくて疑ってるわけじゃないの」 「なんでゲームの名前まで教えなきゃいけないんだよ。俺に自由はないわけ? 千尋って、そういう奴だったんだな」 「違うし。そんなこと言ってないでしょ。どうしてそこまで教えてくれないの?」 「そんなに知りたいかよ。なら、何でも教えてくれる男と結婚すればよかっただろう。俺みたいな男が嫌なら離婚して一人で生きろ」 「じゃあ、離婚して一人で頑張ってみるね」 「やめとけよ。千尋にできるとは思えないけどな。俺がいないと弱くて何もできない生産性のない女なんて、社会の荒波に簡単に飲まれてゲームオーバーだぞ」 「悠一と結婚する前は、製薬工場で八年間働いてたけど」 「それは高卒で若かったから優しくしてくれてただけだろ。しかも工場勤務だろ。なめてんのか」 「何それ? 工場勤務をバカにしてるの?」 「バカにはしてないけど、社会的立場は俺の方が上だろ。俺は大卒で営業だから、こっちの方がもっと厳しいんだぞ」 「業種が違う時点で比べられないし、どんな仕事だろうと大変なことに変わりはないでしょ。大体、あなたが専業主婦になってくれって言ったんじゃない」 「そこまで怠けるとは思わなかったんだよ。妊娠してからつわりを言い訳に家事をサボってるよな」 「本当にしんどかったの。ご飯はおろか水さえ飲めなくて、吐き続ける毎日。つわりがひどすぎて、点滴入院したの、もう覚えてないの?」 「その割には編み物とかしてたじゃん」 「嘘おつ。かぎ針編みのこと? あれは気が紛れるからやってたの」 「金にもならない無駄な趣味だな」 「別に悠一には迷惑かけてないでしょ」 「俺の稼いだ金で毛糸買っただろうが」 「私の独身時代に貯めたお金で買ったのよ。そんなこと言ったら、悠一だってゲームに課金ばっかり。それこそ無駄遣いなんじゃないの?」 「俺の金なんだから、別にいいだろうが」 「じゃあ、私の趣味だって同じことだよね。悠一にとやかく言われる筋合いはない」 「じゃあ勝手にしろ」 「分かった。実家に帰るね」 「待て待て。なんでそうなる? まだ離婚してないだろうが」 「一人で育てればいいって言ったのは、悠一の方じゃない」 「だけど本当にいいのか? あんなに結婚を喜んでくれたお母さんのこと、裏切ることになるんだぞ」 「それは心苦しいけど、私にいてほしくないんでしょ?」 「そんなことは言ってない。離婚するまでの間だけ。ちゃんと家事するなら、家に置いておいてやってもいいぞ」 「それって、選択とか掃除とか、自分がやりたくないだけじゃない? 私を火(世話をする奴)としてしか見てないことが、よく分かったわ」 「今からお母さんに連絡して、今晩中に実家に帰ります」 「ああ、そうかよ。せっかく引き止めてやったのに」 「最後にもう一度聞くけど、本当に離婚でいいのね?」 「いいよ。だから、とっとと帰れ」 「分かった。さようなら。お世話になりました。残りの荷物は処分して構いませんから」 「おい、おい、本気か? … Read more

22 September 2026

「お母さん、助けてください」。その一言から、私の日常は音を立てて崩れていった。先月渡した30万はもう消え、カードも限界だと言う嫁のエリカ。でも夫の収入は悪くないはずで、私は「だったらカズに直接言いなさい」と返した。すると彼女は「お母さんだって、お父さんのロレックスを売らずに持ってるじゃないですか」と畳みかけてきた。亡き夫が何十年もかけて買った時計。それを息子夫婦より優先するのか、と。私は仕方…

「お母さん、助けてください」 「え?エリカさん、急にどうしたの?何かあった?」 「生活費が足りないんです。月に10万でいいんで、仕送りしてください」 「10万?何言ってるの?できるわけないでしょ」 「そんな息子夫婦を見捨てるんですか?」 「そうじゃなくて、そもそもカズの収入は悪くないはずでしょ。2人なら問題ないんじゃないの?」 「カズが家計のことを気にせずお金を使うんです」 「だったらカズに直接言いなさい。お金の管理をしてるエリカさんが言うなら聞くわよ」 「聞いてくれてたら、こんなことになってません」 「いいから、仕送りしてくださいよ」 「あのね、先月私が渡した30万はどうなったの?」 「もうなくなりました。カードもそろそろやばくて」 「バカを言うんじゃありません。そんな調子でお金を使う人に仕送りなんて」 「そっちだって、お父さんのロレックスを売らずに持ってるじゃないですか。自分は良くて、私はダメってどういうことですか?」 「お父さんは何十年もお金を貯めて買ったんだもの。しかも家計の範囲内でね」 「あの時計、3000万するらしいじゃないですか。知り合いの鑑定士に写真見せたら驚いてましたよ。それだけ欲しかったみたいです」 「亡くなった後も資産になるからって言ってたわね。じゃあ、その資産を売れば仕送りくらいできますよね」 「なんでお父さんの品を売らないといけないの?」 「息子夫婦よりも、亡くなった夫の品ですか?ああ、冷たい母親だ」 「わかりました。月20万でいいのね」 「やった。さすがお母さん」 「調子がいいことばっかり言って。仕送りはしてあげるけど、カズにも言うからね」 「え、なんでですか?」 「原因はカズにあるんでしょ?なら事情を伝えて、自覚させないと意味ないわ」 「ダメです。ダメ」 「何がダメなのよ。このままってわけにはいかないでしょ」 「お母さんだって知ってますよね。カズはプライドが高いんです」 「知ってるけど」 「お母さんから仕送りもらって説教までされるなんて、きっと仕送り自体を断りますよ」 「いくら何でも、状況を見るでしょ」 「いいえ、カズなら断ります」 「そうは言ってもね」 「そうなったら生活できないんで、カズには黙っててください」 「でも、それじゃ改善されないんじゃない?」 「そこは私からきつく言っておきます。さっきの話はなかったって」 「とにかく、そういうことです。なので、これ以上の干渉はやめてください」 「ああ、まあいいわ。それじゃあ数ヶ月くらいは仕送りするから。これが最後だからね」 数ヶ月後。 「マジでさあ、エリカ。ふざけてんの?」 「何が?」 「いや、今日の会社の飲み会、お前が小遣いくれないせいで行けなかったんだけど」 「しょうがないでしょ。お母さんへの仕送りで余裕がないんだから」 「そもそも、なんで仕送り?母さんってそんな生活に困ってたっけ?」 「知らないよ。向こうが仕送りしてくれって泣きついてきたの」 「息子夫婦相手に金せびるとか情けない。俺がこんなに苦労してるってのに」 「はいはい。仕事お疲れ様」 「趣味のマウンテンバイクも我慢してるんだぞ。最新のやつ買おうと思ってたのに。しかも飲み代まで減ってるし」 「ふふふ」 「何だよ」 「実はね、1年前くらいから投資してるの」 「投資?お前さ、専業主婦のくせに何言ってんの?俺の稼ぎで遊んでんじゃねえよ」 「遊んでないから。そもそもカズのせいでしょ?」 「俺のせいって何が?」 「カズが趣味だの酒だのでお金使うから。将来のために私が資産運用してるの」 「だからって、俺に黙って」 … Read more

22 September 2026

母さん、今年のお正月はうちで過ごさせてあげようか。そう電話で言ったら、あ、結構です、と即答された。え、可愛い息子と嫁に会いたくないの?と聞くと、あのね、言葉遣いも礼儀も知らない人たちに味付けから家の広さまで何から何まで文句を言われるのはごめんだわ、と母は言った。なんてひどい親なの、信じられない、と僕は思った。数日後、嫁の直美から聞いたんだが、帰ると言っているのに母が渋っているらしい。直美の要…

母さん、今年のお正月はうちで過ごさせてあげようか。 あ、結構です。 可愛い息子と嫁に会いたくないの? あのね、言葉遣いも礼儀も知らない人たちに、味付けから家の広さまで何から何まで文句を言われるのはごめんだわ。 なんてひどい親なの。信じられない。 今年は直美さんの実家で過ごすんじゃなかったの? うちの両親はお正月はハワイに行くんだって。 一緒に行けばよかったのに。 置いて行かれたんでしょ?暇してるんでしょ? そうね。でも今年は夫と二人で静かに過ごすつもりなの。 年寄り二人だけじゃ新聞読むだけだろう。若いうちがいて盛り上げてやるからさ。 うちはミシュランなんか取ってないわよ。 そんなのいらないって。ふざけないで、ちゃんと接待しなさいよ。 急に言われても無理よ。とりあえず条件だけ言っておくわ。 私、寒いのは無理だから、暖房はガンガンでよろしく。貸し布団もいいやつを置いておいて。あと、布団は古いのは不潔だから新品を買っておいて。 それから料理はこだわってよね。松坂牛と特大のタラバガニはマスト。わかった? やった。まとめて請求書を送ればいいのよね。 は?なんでこっちが払うのよ。 だって、そんなものを揃えるお金なんてうちにないもの。 貧乏すぎるんでしょ。若くて最先端を生きてる私たちと触れ合えるんだから、それくらい投資だと思って頑張りなさいよ。 投資先くらい自分たちで決めたいわ。 蒼太もたまには親孝行したいって言ってるのよ。息子の気持ちを無駄にする気? まあ、息子が帰りたいって言うなら仕方ないけど、できればやめてほしいわね。 なんてひどい親なんだ。夫に言いつけてやる。 数日後。 母さん、直美から聞いたぞ。帰るって言ってるのに、なんで渋るんだよ。 直美さんの要求がひどすぎるからよ。 直美は実家が金持ちなんだから、少しは向こうのレベルに合わせろよ。 でも松坂牛に新品の布団なんて、うちにそんな余裕はないわ。 出し惜しみするなよ。将来俺たちに介護してもらうんだろう。直美に見捨てられても知らないぞ。 いつ、誰が、あなたたちに介護を頼んだの? そうやって強がってられるのも今のうちだぞ。いずれ泣きついてくるのは目に見えてるんだから。 あなたも結婚して変わったわね。そんなことを言う子じゃなかったのに。 嫁の機嫌がいいのが一番だって母さんが言ったんだろ。 まあ、確かにそうだけど。 だったら奮発してくれよ。 おせちは毎年お父さんの好きなものだけ私が作ってるから。それでいいでしょ。 そんな安物で満足するわけないだろう。 とにかく直美の機嫌を損ねないでくれ。親なら息子の幸せを一番に考えろよ。 あなたの幸せって、親に無理をさせることなの? 長年暮らしてきたんだから、隠し持ってる金くらいあるだろう。 そんなものがあれば、もっと贅沢してるわよ。 借金でもして、ちゃんと持てなせてくれよ。 お父さんと相談してみるわ。 翌日。 親父、正月に帰る前に確認したいんだが。 和室の金庫ってまだあるよな。 あるけど、それがどうした? 暗証番号を教えてくれ。 はあ? 年の初めから金の話で揉めたくないから先に言っておくが、生前贈与してほしいんだ。 勝手なことを言うな。 俺、知ってるんだぜ。母さんに黙って、あの中にへそくりをためてただろ。 お前には関係ない話だ。 どっちみち全部、俺が相続するんだから。だったら今のうちに前渡ししても同じだろう。俺が働いて、俺が貯めた金だ。 … Read more

22 September 2026

義理の母から電話が来たのは、いつも通りの平日の午後だった。「さきさん、今日の献心はどうだった?」その言葉に、私は一瞬で血の気が引いた。妊娠中の私に、まるで監視するような口調で、義母は毎回のように口出ししてくる。私は思わず「お母さんと話すのが一番ストレスなんですけど」と返した。すると義母は「あなたの意思の弱さの責任でしょう」と切り返してきた。私はカッとなって「私が酒とタバコをやめられないのはそ…

「さきさん、今日の献心はどうだった?」 お母さんからの電話は、いつものように私の心をざわつかせる。だって、母の口から「献心」なんて言葉が出てくること自体が、もう不自然でしかない。 「どうだったも何もありませんよ。至って正常順調です」 「本当に?本当なの?疑うんじゃないわよ。じゃあ聞くけど、お酒とタバコはもうきっぱりとやめたの?」 「いや、それは……ああ、そんなことだろうと思った」 「妊婦の喫煙や飲酒は、他でもないこの子への悪影響なのよ」 「ちょっとくらいは大丈夫ってネットで見ましたし」 「ダメに決まってるでしょ。何度も注意してるわよね」 「ああ、はいはい」 「本当に分かってるの?そうやって後悔してきた母親が一体どれだけいると思ってるの?」 「元産婦人科の看護師様の経験則ですか?」 「そうよ。妊娠出産を甘く見てる人は多いの。タバコやお酒が原因で流産してしまう人だって」 「私はそうはなりませんよ」 「その根拠のない自信はどこから来るの?本当に危険な行為なのよ」 「てか、お母さんと話すのが一番ストレスなんですけど」 「さきさん、あのね」 「細かい小言ばっかで疲れるし、私が酒とタバコをやめられないのはそっちの責任です」 「あなたの意思の弱さの責任でしょう。母親としてもう少し自覚を持った方がいいと言ってるだけ」 「責任転嫁やめてください」 「してないわよ。妊婦にストレスは禁物よ」 「義理の母親が妊婦のストレスためるとか最低」 「この程度でストレスって……幸恵さんは、あなたのお母さんは何も言わないの?」 「ママはお母さんたちと違って優しいんです。ちょっとくらいならって目をつぶってくれますよ」 「それは優しいんじゃなくて甘いだけよ。子供に嫌われるのが怖くて母親ができますか?」 「そうやって何でもかんでも厳しくするから。お母さんって考え方が古いですよね」 「なんですって」 「今の時代、子供の自主性を重んじるのが主流なんで。押し付ける教育は時代遅れです」 「あなたはむしろ大人の自覚を持ちなさい。何が悲しくて息子の嫁を叱りつけないといけないのよ」 「嫌ならやめてくださいね。私はお母さんとは違って教育熱心なんです。今も胎教してますし」 「胎教?お腹の子に音楽とか聞かせるってやつ?」 「そうそう、それです。この子にはモーツァルトとかベートーヴェンとか、いい感じの音楽を聞かせてます」 「いい感じって何よ。小学校の頃、授業で聞いたことあるけど。あれでしょ?有名なんでしょ?義務教育で何を習ってきたの?」 「ついでに英語もリスニングさせてます。バイリンガルで東大卒のエリートに育てるんで」 「子供の自由はどこ行ったのよ。押し付けてるのはあなたの方じゃない」 「ああ、もう、小言とかいりません。時代遅れのババアのお節介とか一番迷惑なんで」 「これはお節介じゃなくて、あなたと赤ちゃんのためを思っていってることなのよ」 「だからそれが押し付けだって言ってるんです。まあいいんで、黙っててください」 その日、私は電話を一方的に切った。ああ、むかつく。あの口うるさいババア。妊娠してる私の気持ちも知らないで、何が「母親の自覚」だ。こっちはこっちでちゃんと考えてるのに。 三十分後、今度は夫の友人である裕子さんから電話がかかってきた。 「幸恵さん、さっきさきさんから聞きました」 「あら、裕子さん。聞いたって何を?」 「喫煙や飲酒をしているそうですね。見逃していると」 「これはその、ほら、ストレスが溜まると良くないって言うから」 「だからなんだって言うんですか?さきさんや達也さんと同居してるんですよね。なら普段から言って聞かせて、やめさせるべきです」 「そうは言うけどね。あまりきつく言ったら、さきが可哀そうじゃない」 「可哀そうって。一番可哀想なのはお腹の赤ちゃんですよ。最悪の場合、障害が残るかもしれないんです。それに流産のリスクだって高まるんですよ」 「でもさきは、少しなら平気だってネットで見た程度の知識を信じるんですか?冗談やめてください」 「だからってねえ、ゆう子さんみたいに厳しくして嫌われたくないし」 「呆れました。それが母親の言うことですか?自分が嫌われたくないからって子供や孫を危険にさらして。親なら、嫌われてでも止めるのが優しさでしょう」 「うーん。でもでも……」 「言い訳も減ってくれもありません。赤ちゃんに何かあった時、責任が取れるんですか?」 「だけど、私が急に強く言うなんて今までやったこともないし、虐待みたいじゃない」 「二十五歳の娘相手に何言ってるんですか?今、さきさんがやってることの方が虐待ですよ」 「そんな大げさな。お腹の中の子に暴力を振ってるわけでもないのよ」 「子供の将来を根本から壊しかねないんです。これ以上の虐待はありません」 … Read more

22 September 2026

母の容体が急変したと連絡が来たのは、いつもと変わらない平日の午後だった。父の切迫した声に、私はすぐに実家へ帰る準備を始めた。だが、その前に夫のたやに伝えなければと電話をかけたところ、彼は仕事中だと言いながらも、私の話を聞いてくれた。しかし、義母に伝えるようにと言われ、私は恐る恐る義母の部屋のドアをノックした。「あなたの母親は白血病でしょ。そんなの、これからいくらでもあるわ」と冷たく言い放たれ…

「ゆい、今すぐ実家に戻ってきてくれ。」 「え?もしかして母さんに何かあったの?」 「そうだ。母さんの容体が急変したんだ。」 「嘘でしょ?だってこの前お見舞いに行った時は、すごく元気そうだったのに。」 「本当に綱渡り状態だったんだよ。とにかく今すぐ病院に来てくれ。」 「助かるのよね?」 「わからない。でも、二人で母さんが元気になるように祈ろう。」 「分かった。すぐにそっちに行くから。」 それから十分後、ゆいは夫のたやに電話をかけていた。 「たや、ちょっと話があるの。」 「なんだよ。こっちは仕事中だぞ。仕事中の私的な連絡は禁止だって言われてるんだ。」 「お願い。大事な話だから聞いてよ。」 「何だよ?」 「お母さんの容体が急変したの。」 「え?この前元気だとか言ってなかったか?」 「そうね。すごく元気そうだったのに。さっきお父さんから連絡があって…。もうずっと入院してたんだって。」 「そうなのか…。白血病になっちゃってね。それでも、抗がん剤治療とか受けて、ちゃんと元気になってるはずだったのに。」 「それで、何の話だ?」 「今から実家に帰るから、夜は自分でご飯を買ってくるなりして欲しいの。」 「ああ、そういうことか。俺は別にいいけどさ。」 「じゃあ、お願いね。」 「ちょっと待てよ。これは母さんには伝えてるのか?」 「いいえ。あなたに伝えておけば、それでいいでしょ。」 「駄目に決まってるだろう。母さんはお前に家事を任せてるんだから。急にいなくなったら怒るに決まってる。」 「前に実家に帰った時は、お母さんも普通に許してくれたじゃない。」 「それはたまたまだよ。さすがにこんなに続けて帰るってなったら、母さんだって怒るはずだ。だから、その前に母さんにもきちんと連絡をしておけよ。」 「私はすぐにでも帰りたいんだけど…。」 「軽く連絡をするだけでいいんだよ。とにかく、母さんを怒らせるようなことはするな。」 「事情が分かれば、理解してくれると思うけど。」 「いいや、ちゃんと筋は通せよ。お前のせいで俺が母さんに叱られるんだぞ。」 「あなたいくつなのよ。」 「俺たちの生活を支えてるのが母さんだって忘れるな。母さんは化粧品メーカーを一人で大きくしたんだ。だから俺たちは母さんの建てた家で生活してるし、母さんの会社で俺は働けてるんだぞ。その母さんに見捨てられたら大変なことになるって、考えれば分かるだろう。」 「あなただって仕事を頑張ってるんだし、そこまで必死にならなくてもいいと思うけど。」 「俺たちがいい暮らしができてるのは、母さんのおかげだって感謝してるんだよ。だからお前もちゃんと母さんに話をしてくれ。それが最低限の礼儀だ。」 「分かったわよ。」 三分後、ゆいは義母の部屋の前に立っていた。そして、意を決してドアをノックした。 「お義母さん、突然の連絡で申し訳ありません。少しお話ししてもいいですか?」 「何?忙しいから手短にして。こっちは今、大型プロジェクトの準備をしてるのよ。あなたに割く時間はないわ。」 「実は、母の容体が急変しまして。実家に帰らせていただきたいんです。」 「あなたの母親は、確か白血病だったわよね。」 「はい。そうです。」 「それだけ重い病気なら、容態が変わることもあるでしょう。なのに、その度にいちいち帰ってたら、我が家のことがおろそかになるでしょ。」 「それは…帰るなということですか?」 「そうよ。この間帰ったばかりなんだから、今回は駄目よ。」 「ですが、危険な状態なんです。本当に、命に関わることなんです。」 「それだけ重たい病気なのよ。そんなことは、これからいくらでもあるわ。」 「あなたは、医者か何かですか?」 「はあ?」 「どうして何も知らないのに、そんなに偉そうに言い切れるんですか?」 「私に逆らうの?誰のおかげで生活ができてるか分かってるの?」 「お義母さんには感謝してますよ。でも、私をここまで育ててくれたのは、私の母ですから。その母が危険な状態なら、私はそばにいてあげたいと思ってるんです。」 「それこそ、あんたは医者かなんかなの?そばにいて、病気が良くなったりするのかしら?」 「もしかしたら、もう会えなくなるかもしれないんですよ。それでも行くなとおっしゃるんですか?」 「私は、仕事を怠るなと言ってるの。あなたの仕事は、我が家の家事よ。専業主婦になったら、家事をしないといけないの。それをサボるなんて、許されることじゃないわ。」 「帰ってきたら、ちゃんとやりますから。」 … Read more

22 September 2026

「ヤッホー。みほ。あんたの旦那の子妊娠しちゃった。」…

みほのスマホに、見覚えのない連絡先からLINEが届いたのは、突然のことだった。本文を開いた瞬間、みほの指が止まった。 「ヤッホー。みほ。あんたの旦那の子妊娠しちゃった。」 頭が真っ白になった。嫌な予感しかしない。それでも冷静さを保とうと、みほは返信を打ち始めた。 「あの、どちら様ですか?」 「私だよ。ゆき。覚えてないの?婚約者奪った次は旦那まで奪ってごめんね」 ゆき。その名前を見た瞬間、5年前の記憶が蘇った。みほの婚約者だった男を、何の躊躇もなく奪っていった元親友。今度は夫だと?信じられなかった。 「ゆき…。どの面下げて連絡してきたわけ?私から交際相手を奪ったくせに」 「あの時はごめんごめん。でも今回は妊娠までしちゃったから、あんたも文句は言えないよね」 「妊娠って…何の話?」 「そのままの意味だよ。あんたの旦那の子供が、私のお腹にいるの」 「意味、わかんないんだけど」 「あれ?ショック受けちゃって現実見えてない?まあ仕方ないか。大体、あんたには彼がいたでしょ」 「彼って、どの彼?」 「ああは。5年前に奪った、あんたの婚約者」 「そんなの、もうとっくに捨てたよ。稼ぎが悪かったからね。恋人には良かったけど、夫には無理、って感じだったし」 「ふーん。でも今回は大手企業のエースだから大満足。あんたの旦那、優秀だもんね」 「なんで…私の旦那のことを知ってるの?」 「SNSで見たのよ。結婚報告してたじゃん。すっごいイケメンだし、会社でもエース級なんでしょ。将来安泰。今度こそ勝ち組になれるわ。前回は失敗したけど、今回は大成功」 みほはゆっくりと息を吐いた。頭の中を整理しようとしているのか、それとも怒りを抑えているのか、自分でもわからなかった。ただ、ひとつだけ確かなことがある。この電話の相手は、とことん舐め腐っている。 「あのさ、もしあなたの言うことが本当なら、今のこの会話で、あなたが浮気をしているって自白したことになるんだけど、理解してる?」 「え?それが証拠になるって言いたいの?」 「そうよ。立派な証拠になるわ」 「ははっ、証拠なんて残してないわよ」 「LINEの履歴は残るわよ?」 「残らないわよ。私が消すんだから。それに、後から消せるし、捏造もできるでしょ。ちゃんとした証拠がないと、意味ないじゃん。5年前もそれで逃げ切ったでしょ。あんた、慰謝料請求しようとしたけど、証拠不十分で訴えられなかったんだから」 みほは奥歯を噛みしめた。悔しいけれど、その通りだった。5年前、ゆきはみほの元婚約者と関係を持ちながら、一切の証拠を残さなかった。みほは慰謝料を請求しようとしたが、決定的な証拠がなくて泣き寝入りするしかなかったのだ。 「それは…私が賢いからよ。証拠なんて残さないわよ。LINEも全部消してるし、ホテルだって現金払い。写真も一切撮ってないから、完璧。5年前に学んだのよ。証拠がなければ訴えられないってね」 「本当に…最低な人間ね」 「あんたのことは好きじゃなかったけど、今回は本当にごめんね。でも、これも全部、私と彼の愛のためなんだから」 「彼って…」 「あんたの旦那よ。そういうわけで、慰謝料とか請求しないでね」 「は?なんでそうなるの?」 「だって、私、妊娠してるのよ。子供が生まれたら、これからお金が必要になるでしょ。私、母子家庭で育ったのよ。お金がない辛さがわかるの。母親が苦労してるのをずっと見てきたから。この子には同じ思いをさせたくないの。みほは保育士でしょ?お金のない子供がどれだけ大変か、よくわかってるでしょ。貧しい家庭の子供をたくさん見てきたんじゃない?そういう子供って、かわいそうよね。同じ服でずっと遊んで、ご飯もたくさん食べられないのよ。みほなら、その辛さがわかるわよね。だから、慰謝料請求しないでね」 「…なるほどね。つまり、あなたは私からお金を取ると、子供が貧しくなるって言いたいのね」 「そうよ。結果的に子供が苦しむのよ。みほは、そんなひどい人間じゃないわよね?」 「ふん。よく言うわ。自分の不倫の結果でしょ。私だって、あなたに言われなくても、子供のことは考えてるわ。でも、慰謝料は当然の権利よ」 「そんなこと言わないでよ。みほは優しいから、わかってくれるって信じてる」 「私は優しくなんかないわよ。あなたに言われたくないわ」 「…っていうか、あんた、本当にクズよね。みほは恵まれてるんだから、いいじゃない。実家も普通だし、好きな仕事もしてるし。私は、母親が男に苦労させられるのをずっと見てきたの。だから、賢く生きるって決めたの。あんたにはわからないでしょ」 「…ふうん。で、結局なにが言いたいの?私にどうしろって言うの?」 「どうもしないよ。ただ、今回は私に譲ってほしいの。5年前もそうだったじゃん。みほはいい人だから、許してくれるでしょ?」 その言葉に、みほは何かを確信した。この女は、何もわかっていない。いや、わかっていてあえて言っているのだ。 「わかったわ。離婚する」 返信を見たゆきは、意外そうな顔をしたに違いない。スマホ越しでも、機嫌が良さそうなのが伝わってくる。 「あ、マジで?意外とあっさりしてるじゃん。もっと泣いたり怒ったりすると思ったのに。でもありがとう。話が早くて助かるわ」 「もし、あなたが本当に浮気をしてるなら、離婚しかないもの。悔しいけれどね」 「じゃあ、彼は私が幸せにするから安心して。今度こそ、本物の愛を手に入れたわ。みほはまあ、頑張って新しい人でも見つけなよ」 「大きなお世話よ」 ゆきとの通話を切った後、みほはしばらくその場で動けなかった。怒りと悲しみと、そして、どこか冷静な自分がいた。ゆきの言葉には、どうしても引っかかることがあったのだ。 「なんで私の大切な人を奪うの?そんなに恨まれるようなことした?」 みほはひとりごちて、ため息をついた。5年前からずっと、この女は何を考えているのだろう。みほが何をしたというのか。 数時間後、仕事を終えて帰宅した夫・たくに、みほは切り出した。 「ねえ、たく。ちょっと話があるんだけど」 「どうしたの?改まって。何かあった?」 「あなたの元親友から連絡が来たの」 … Read more

22 September 2026

「ゆうな、家に誰もいねえんだけど。」——仕事中の昼休み、スマホに届いた姉からのLINE。嫌な予感だけが走った。まさか、と思って電話をかけると「今日から私とメイ、そっちに住むから。ヤクザの許可は取ってあるし」と平然と言い放つ。私は必死に拒否した。昔、居候していた私の私物を全部勝手に売り払った人だ。なのに姉は「名前書いてなかったじゃん」で終わらせる。その夜、兄から衝撃の事実を聞かされる。姪のメイ…

「ゆうな、家に誰もいねえんだけど。」 その連絡は、仕事中の私のスマホに届いた。姉からの、いつもの傍迷惑な連絡だ。 「は?お姉さん、今仕事中です。って、ちょっと待ってください。まさか、うちに来てるんですか?」 「そうそう。今日から私と、娘のメイも一緒に住むから。よろしくね。」 「は?いや、意味が分かりませんよ。てか、勝手に上がり込まないでくださいよ。不法侵入ですから!」 「ああ、ユウナちゃんってバカなの?ヤクザの許可は取ってあるから大丈夫。2週間くらい同居させてくれって、ちゃんと話を通してあるよ。ってことで、よろしく。」 「はあ?!何言ってるんですか。私は反対ですからね!ていうか、ヤクザが許可したからって、何で私が住まなきゃいけないんですか。私、お姉さんと同居するなんて、絶対に嫌ですから。」 「ああ、そう?じゃあ、行く当てのない私とメイが、これから野宿でもしろって言うの?かわいそうだと思わない?」 「思いません。というか、何でそんなに平然としてるんですか。昔、私がまだお姉さん夫婦の家に居候してた時、自分が何したか覚えてるんですか?」 「え?何かしたっけ?」 「私の私物を、全部勝手に売り払ったでしょ!しかも、何回も!」 「あー、思い出した。でも、あれはそっちも悪いんだよ。名前書いてなかったじゃん。リビングに置いてあったんだから、処分してもしょうがないだろ。」 「そんな小学生みたいな理屈が通ると思ってるんですか!私のバッグも、服も、みんな売ったのは事実でしょ!」 「はいはい。ごめんごめん。じゃあ、そういうことで。部屋、一個もらうから。メイは廊下でも寝れる子だから、気にしないで。」 そう言って、姉は電話を切った。 はあ、何なんだよ。マジで。 その日の夜。仕事から帰ると、居間で兄貴が寛いでいた。 「あれ、お前、今日遅かったの?」 「仕事だよ。って、そうじゃなくて!姉さん、また帰ってきたんだって?」 「ああ、そうそう。また彼氏と別れたんだとよ。まあ、今回も長く続くと思ってなかったけどな。」 「今回も?」と私はソファに乱暴に座った。「これで何回目?もう1年よ。1年。最初は『2週間だけ』って出て行ったくせに、喧嘩して数日で帰ってきて、その繰り返しでしょ。」 「まあ、そうだな。でも、向こうも家にはいないし、ある意味自由でいいだろ。いつもみたいに、いきなり帰ってくるわけじゃないんだし。」 「私の実家って、何なの?旅行気分の休憩所じゃないんだよ。それに、生活費は入れてくれてるの?」 「あー、それがさ…」 兄貴は言いにくそうに頭を掻いた。 「実は、一応生活費は入れてくれてるんだよ。」 「何よ、それ。じゃあ、いいんじゃない。」 「いや、それが問題でさ。姉貴、働いてないじゃん?どこから金が出てるんだ?」 「慰謝料でももらってるんじゃないの?また離婚したんだろ。」 「だとしても、だろ。それがもう1年も続いてんだぜ。しかもだ。」 兄貴はスマホをいじりながら、画面を私に向けた。 「昨日、メイが学校休んだんだと。んで、担任から連絡があったんだ。『メイちゃん、最近お友達の家に行ってるみたいですが、ゲーム機とか持ってませんか?』って。」 「は?どういうこと?」 「いや、メイが友達の家に泊まりに行く時、毎回だぞ。1日だけの泊まりのはずなのに、でかいバッグを持って行くんだ。中身は、着替えだけじゃねえらしい。ゲームソフトとか、持ってるんじゃねえかって、担任が疑ってるんだ。」 「ゲームソフト…。」 私は、メイが今日持って帰ってきた荷物を思い出した。確かに、ランドセルと教科書、あとは服くらいだった。でも、そこにゲームソフトが一枚。 「でも、メイちゃん家にゲーム機なんてなかったよね?おかしいと思わない?」 「思うだろ?でもな、そんなこと言ったら、お前が姉貴と喧嘩ばっかしてるから、メイまで変な目で見られるんだ。お前のせいだって言われたら、俺も何も言えねえからな。」 「は?私のせい?お姉さんが私の私物を平然と売るからでしょ。この前も、私のデート服、勝手に着て行ったんだから。アンタは、ちょっと目を離すとすぐそれだ!」 「はいはい。分かった分かった。とりあえず、姉貴のことは俺に任せろ。考えておくから。あと、お前、明日は休みだろ?引っ越しの手伝い、してやってくれよ。」 「何で私が。断る。ていうか、私は明日でこれらから出ていくから。」 「へ?どういうことだよ?」 「あのね。お姉さんがメイを連れて、うちに来るんでしょ?私、られるの嫌だから。私、別のところに移るわ。」 「ふうん、そう。で、どこに?」 「…ユウナの家に決まってるでしょ。」 私はそう言って、部屋に戻ろうとした。 「それは無理だと思うぞ。」 兄貴が、だらりと呟く。 「何が。」 「その返事を聞いたら、ユウナに、『姉ちゃんは来てくれるな』って言われたわ。さっき、電話で。」 私は足を止めた。 「何よ、それ。」 「お前、仕事中に姉貴から電話あっただろ?あれ、俺が掛けさせたんだ。メイの件もあったからな。で、姉貴が『もしや、あなたの家に…』って聞いたら、『ええ、ちょっとやめておきます』ってさ。お前の保険所の住所教えろって言ったら、『もう関わりたくないんで』だって。」 「はあ?!何それ!ありえないでしょ!私はあの人のこと、何だと思ってるの!」 「何だと思ってるかって、そりゃお前、ずっと邪険にしてたからだろ?お前はまともに面と向かって話もしたことないくせに、姉貴の悪口ばっかり言ってるじゃねえか。そりゃあ、誰だって嫌がるわ。」 … Read more

22 September 2026

哲夫が「別れてくれ」と言ったのは、新居の鍵を受け取った夜だった。「お前とこれ以上は一緒にいたくない」——十二年連れ添った婚約者から、突然そう告げられた。銀行のローン契約も済ませ、婚姻届を出す日取りまで決めていたのに。理由を問い詰めても、彼は「説明しただろう」の一点張りで、荷物も残したまま出て行った。頭が真っ白なまま、私は同僚のユリアに電話をかけた。数日後、喫茶店で彼女が重い口を開く。「先週、…

あやね、再来週に銀行でローンの契約があるからな。それは分かってるよな。ちゃんと休みを取っておいてくれないと困るぞ。 大丈夫よ。ちゃんと有給を取ってあるから。 そうか。なんか色々と忙しそうだったからな。 ちょっと今新しいプロジェクトを任せてもらってて。私がそのプロジェクトの主担当だから、忙しいってのは事実よ。でもさすがに将来のために大事なことだから、上司も快く了承してくれたわ。 そうだよな。家を買うんだからな。 そうよ。私たちの家を買うんだから。 本当に信じられないよ。ずっと二人で約束してたことが、やっと実現するんだからさ。 婚姻届けはいつ出す予定なの?婚約者のまま家を買うことになるんでしょ? やっぱり記念日と合わせたいと思っててさ。あやねの誕生日に婚姻届けを出そうかと考えてるんだ。 そうなると半年くらい先になるわね。私は別にいつでもいいと思ってるけど。 いや、こういうのは記念日と合わせた方がいいんだよ。式とかは婚姻届けを出した後にやろう。 そうね。それがいいと思ってる。できれば早くに安心させたいのよね。お母さんがもう七十を超えてるから。 それは俺も同じだよ。だから式もちゃんと上げさせてもらう。だけど順番は大事にしたいんだ。 でも家を買うって時点で、もう順番はめちゃくちゃになってると思うけど。 それはいい条件の家が見つかったから仕方ないだろう。これを逃したら他の人に買われてたんだから。 まあ確かに、値段も立地も信じられないくらい理想的だったわね。 だろう?だから家はもう仕方ないとしてさ。それ以外のところはちゃんと順番を大事にしたいと思ってる。 そうなんだ。それに、これからずっと一緒にいるわけだし、少し式が遅くなるくらい大したことじゃないわ。 そうだよ。まあ、本当に結婚するまでは長かったけどな。 待たせてしまって、本当にごめんな。俺も仕事のこととか色々あってさ。 それは分かってるわ。別に責めてるわけじゃないの。あなたが私のことを真剣に考えてくれてるのは分かってたから。 それじゃあ、仕事頑張ってね。 ああ、あやねもな。 三日後。 ユリア、再来週なんだけど、私、有給を取るのよ。だから、ちょっとその日に私の代わりに任せたい仕事があるんだけど、いいかしら? ええ、別にいいですよ。でも先輩が有給を取るなんて珍しいですね。いつも上の人から取れって言われるまで有給は取らなかったじゃないですか。 確かにそうかもしれないわね。私が有給申請した時、部長も驚いてたし。でも、そんな理由じゃないの。銀行に行って、色々と契約をしないといけないから。 契約?家を買うのよ。それで共同ローンを組むことになるから、その契約をしないといけなくて。 なるほど。それって、もちろんアイノスってやつですよね。 そうよ。哲夫と二人でそこで暮らすの。 あれ、でも結婚はまだされてないですよね。 そうなの。プロポーズはされたから婚約関係ではあるけど。 式とか結婚する前に家を買うんですか?ちょっと順番が変ですけどね。 いえいえ、そんなの関係ないですよ。二人で幸せになれるのなら、何でもいいじゃないですか。 確かにユリアの言う通りね。でも哲夫さんも素晴らしいわよね。若いのに家を買う決断をするなんて。 昔から二人の夢だったのよ。いつか大きな家を買って暮らしたいねって、ずっと話してたの。 へえ、なんか羨ましいです。哲夫さんみたいな素敵な人が旦那様で、それで家を買って一緒に住むなんて。 ユリアは何回か哲夫と会ったことあるものね。そんなに哲夫を評価してるなんて思わなかったわ。 いやいや、本当に素晴らしい人だと思ってますよ。それに先輩も勝ち組ですね。 いや、別に勝つとか負けるとか、そういうのはないから。でも、ようやく哲夫と結婚できるのは嬉しいわ。十二年も一緒にいたんだからね。 本当に素晴らしい結婚ですよ。 新しい家に引っ越したら、ユリアも招待するからね。 本当ですか?もちろん喜んで行きます! きっと哲夫も喜ぶわ。 二週間後。 お母さん、無事にローンも通ったわ。これでいよいよ引っ越しをすることになるから。 そう、本当に良かったわね。若くして家を買うなんて、最近じゃ珍しいと思うけど。 二人で働いてローンを返していく予定だからね。そこまで無茶をしてるって感じじゃないのよ。 哲夫さんとは、もちろん結婚をするのよね? 当たり前でしょ。私の誕生日に婚姻届けを出すから。 あやねが結婚するなんて、ちょっと現実味がないわね。 何を言ってるのよ。私だってもう三十五歳よ。若年層はとっくに過ぎてるんだから。 私の中では、あやねはいつまでも二十歳くらいで止まってるわよ。 そんなことないわよ。私はずっとお母さんには若い頃のまま見えてるのね。 ずっとその若さを保てたら、どんなにいいかしらね。 … Read more

22 September 2026

昨日、玄関のチャイムが鳴った。出てみたら3年会ってなかった妹で、第一声が「お姉ちゃん、久しぶり。元気してた?」だった。嫌な予感はしたけど、案の定、夫の会社が潰れてアパートを追い出されそうだから、実家に住ませろと言う。3年前に私の夫を奪った本人が、なぜか当然の顔で「元々私たちの家でしょ」と笑った。私は来るだけなら許可すると伝えた。数時間後、荷物を勝手に運び込んだ妹に、私は家賃を払いなさいと言っ…

「お姉ちゃん、久しぶり。元気してた?」 「…誰かしら?」 「うわ、ひどいなあ。妹の身でしょ。知ってて言ってるでしょ。」 「今さら何の用よ。ようやく謝罪でもしようって気になったの?」 「え? 謝罪? 何のこと? それよりさ、親戚から聞いたんだけど、実家を立て直したんだって? すごいね。やっぱりお姉ちゃんは成功してるんだね。」 「で、だから何の用事なの。要件を言ってほしいんだけど。」 「あのさ、3年前にお姉ちゃんの旦那を奪ったのは私だってことは分かってるよ。でもさ、実家を立て直したんだったら、私たちも一緒に住むからよろしくね。」 「はあ? だから住むの、実家に。」 「住むって、誰が許可したの?」 「え? 許可とか必要なくない? だって元々私たちの家じゃん。お姉ちゃんだけのものじゃないでしょ。だから住むのにお姉ちゃんの許可なんていらないじゃん。」 「でも親の許可はいるわよね。実家なんだし。お母さんたちは優しいから、きっと許してくれるわよ。」 「何よ、その滅茶苦茶な理由。…まあいいわ。来れるなら来てみなさいよ。」 「え、本当? じゃあ実家の住所を送ってよ。行くから。行けないと困るし。」 「何が何でも行くって感じね。で、何があったの?」 「夫の会社が倒産して、本当に困ってるのよ。」 「ああ、たけしの会社が潰れたのね。それは大変そうね。」 「大変なんてもんじゃないの。アパートの家賃も払えなくて、追い出されそうなのよ。」 「へえ。だから私のところに逃げてくるわけね。」 「うん。まあ、そういうこと。…あなた、恥ずかしいとか思わないの?」 「仕方ないでしょ。生活に困ってるんだから。お姉ちゃんは弁護士事務所まで持ってるんでしょ? 依頼者もたくさんいて、稼ぎもすごいんだって親戚から聞いたわよ。実家を立て直せるくらいお金があるんだから、私たちくらい助けられるでしょ。」 「へえ。よく調べたのね。」 「だって、余裕のない人に助けてくださいって言っても無駄じゃん。そういうとこだけはしっかり常識あるのね、って感心しちゃったわ。」 「…で、父さんの件だけど、何が原因だったの? 助けてほしいなら、事情くらい話せるでしょ。」 「経理担当の人がミスしちゃったみたいなんだよ。」 「ミス?」 「うん。帳簿の数字が合わなくて、それも結構何回もミスがあったらしいんだよ。そのせいで取引先との契約も切られたらしくて…」 「…って、あなた働いてなかったの? 会社の手伝いすらしてなかったの?」 「私が分かるわけないじゃん、そういうの。経理なんて専門家の仕事でしょ。私は社長夫人なんだから、家で待ってるのが仕事なのよ。」 「ああ、そういう考えなの。じゃあ、あなたは父さんのことには何も関係なかったわけね。」 「たけしは本当に真面目に経営してたのよ。社員の給料も遅れずに払ってたし、取引先にも誠実だったし。」 「そういえば、あいつは会社の人間にはいい顔してたわね。でも、自分のせいで会社が潰れたって思い悩んでるんじゃない?」 「…で、その経理担当の人は今どうしてるの?」 「その人も仕事を探してるみたい。気の毒よね。」 「気の毒なのは社員みんなでしょ。働き口がなくなったんだし。あなただって、今生活に困ってるんでしょ? でも、私はたけしを責めるつもりはないわよ。」 「え? あなたが真っ先に責めそうなのに。」 「私を何だと思ってるの? …姉の夫を略奪した最低の性格ブス女、って思ってるんでしょ、きっと。」 「妹にそんなこと言う? 大体、誰だってミスはするし、許すことも仕方ないでしょ。」 「そう。随分と優しくなったじゃない。」 「当たり前でしょ。お姉ちゃんと違って、私には思いやりがあるのよ。」 「思いやりのある人は、人から旦那を略奪したりしないし、平気で実家に住ませろなんて言わないわよ。」 「実家なら家賃かからないもん。それにお姉ちゃんは実家を立て直せるくらいお金があるんでしょ? 別の家を借りればいいじゃない。」 「はい? なんでそうなるのよ。」 「だって私たちが実家に住むんだから。お姉ちゃんは気まずくて出て行くでしょ。元夫婦が同じ屋根の下なんてありえないし。」 「ああ、やっぱり性格はそのままね。…うん。なんかちょっと安心したわ。」 「え? 何の話?」 「こっちの話よ。住所は送るから、どうするかはそっちで決めなさいよ。」 1時間後。 「たけし、やったわよ! お姉ちゃんが住所を送ってくれたわ。来週引っ越せるわよ。ホームレスにならずに済むわ。」 「本当か? これで住む家に困らないな。…いや、助かったけど。でも、顔を合わせるのは気まずいな。」 「え? 何を気にしてるの? 堂々としてればいいでしょ。それに、きっとお姉ちゃんも気まずくて、すぐ家を出て行くわよ。」 「ああ、そうなのか?」 「普通に考えて、お姉ちゃんの方が出て行くでしょ。つまり、実家は私たちが使えるってことよ。お姉ちゃんは弁護士で稼いでるんだし、もっといいマンションでも借りればいいのよ。」 「そうだな。それならありがたい。」 翌日。 「あら、久しぶり。美ゆから話は聞いてるわ。実家に住ませてくれるそうだな。感謝するよ。」 … Read more

22 September 2026