「ねえ、ちょっと話があるんだけど」——あの日、いつも通り実家に立ち寄っただけだった。冷蔵庫にあった高級な和牛を見つけて、私は何気なく欲しいと言った。断られるとは思っていなかった。だって、私は娘なんだから。「あれはご近所さんからいただいた大事なものよ」——母の声は静かだったけど、その一言が、私の中で何かの火をつけた。次々と物を要求し、しまいには「更年期?」と口にした瞬間、母の顔が凍りついた。数…

母さん、ちょっといい? なあに、七美?急に改まって。 この間、そっちに行ったとき冷蔵庫に英語和牛あったじゃん。あれ、ちょうだい。 あったわね。でも、あれはご近所さんからいただいたものよ。それに、あれはあなたにあげるためにうちに置いてあるんじゃないの。 今度の日曜に、り介の会社の人が家に来るのよ。それで手料理を振る舞わなきゃいけないの。あの和牛、使いたいのよ。 あれはダメよ。私とお父さんで、って言われていただいたんだから。さすがに私たちが食べずに人にあげるわけにはいかないでしょ。 大丈夫だって。適当に「おいしい」って言っておけばいいんだから。 ダメに決まってるでしょ。それにああいう高級なお肉は年寄りには脂っこすぎるわ。お母さんたち、もう年なんだから。 あのね、そうやって何でも欲しがるのはやめなさい。この間だって、うちに来たときに… ああ、はいはい。もういいです、その話は。要らないです。 七美、あなたねえ… 私がわがままなんでしょ?わかりましたよ、じゃあリビングに飾ってある花瓶で我慢してあげます。あれ、ちょうだい。 何言ってるの?あれは結婚記念日に買った大事なものよ。あげられないわ。 ちょっと、あれもダメこれもダメって、いい加減にしてくださいよ。 いい加減にするのはあなたでしょ。前から思ってたけど、七美、あなた言動がひどすぎるわよ。 あーあ、また始まった。そうやってすぐ怒るんですね。更年期ってやつですか? そういうことじゃないでしょ。うちに来るたびに何かを持っていこうとする。恥ずかしいと思わないの? そういう古臭い考え方を押し付けないでくれます? 古臭くなんかありません。最低限の礼儀をわきまえなさいと言ってるのよ。 礼儀とか言われても、よくわかんないですもん。 あなた、り介と結婚したんでしょ。あなたの言動はあなただけの問題じゃないのよ。 また始まった。説教ですか。 子どもができたらどうするの?あなたの言動のせいで、子どもに嫌な思いをさせるつもり? 何なんですか、もう。口を開けば説教ばっかり。昭和の口うるさいお姑さんみたいなの、もう時代遅れなんですけど。 生まれが昭和の口うるさいお姑さんですよ、ええ。 開き直るとか、最悪なんですけど。 お説教されたくなかったら、されないような言動をしなさい。それができたら、私も卒業してあげるから。 はいはい、もういいです。お母さんの説教なんて、お腹いっぱいです。 まだ話は終わってないわよ。 ブーブー。ケチケチおばさん。もう知りません。 数十分後。 お父さん。ねえ、ちょっといい? おう、七美か。どうしたんだ? お母さんがね、意地悪するんですよ。ひどいんです。 意地悪?また何か言われたのか。 ちょっとお肉を分けてくださいって言っただけなのに、ダメだって。それで、他にもいろいろひどいこと言われて。私、何も悪いことしてないのに。 ふうん。そうか。 お父さん、私がかわいそうでしょ?ねえ、お父さんもそう思うでしょ? まあなあ。七美も大変だったな。 お父さん。ねえ、ずっと思ってたんだけどさ。 うん?なんだ? お父さん、あんな人といつまで夫婦やってるつもり?正直言って、お父さんには釣り合ってないと思うよ。 釣り合ってない?俺と、さち子が? そうですよ。お父さんって、年齢の割に全然若く見えるし、かっこいいじゃないですか。 おお、そうか? そうですよ。渋かっこいいっていうか、色気のある大人の魅力っていうか。私、お父さんのそういうところ、素敵だと思いますよ。 へへ、若い子にそう言われると、お世辞でも嬉しいもんだなあ。 お世辞じゃないですよ。ねえ、お父さんって、もうすぐ定年でしょ? ああ、今月で定年だな。 全然、定年には見えないですよ。私、最初に聞いたとき、びっくりしましたもん。 ははは、七美は口がうまいなあ。それに比べて、うちのやつは…まあ、年相応のばあさんって感じだし、口うるさいし、金に細かいし。まあ、我ながらよく我慢してやってるよ。 でしょ?だったら、これを機に離婚しちゃえばいいじゃないですか。 離婚?それはちょっと… 今時、離婚なんて普通ですよ。熟年離婚だって、よく聞きますし。 そうは言うけどなあ。俺たちの世代は、やっぱり離婚には抵抗があるっていうか。 … Read more

24 September 2026

ハワイ行きの飛行機に乗り込んだ瞬間、母から届いたLINEを見て血の気が引いた。「今日の便、キャンセルしといたから。ホテルもね」。え?だって私、今まさにその飛行機の中にいる。隣では夫の京介がグーグー寝てるし。昨日、母に「母さんには12時発って伝えてたけど、本当は10時発なんだ」って嘘をついた。母を置いて、京介の彼女の両親と親睦を深めるために。母が必死に貯めたお金で予約した旅行を、私たちだけで楽…

京介、今日のハワイ旅行楽しみね。私もそろそろ空港つくわ。ウキウキワクワク。 楽しそうなところ悪いんだけどさ、ハワイの飛行機もう飛んでる。 え、母さんには12時フライトって伝えてたけど、あれ嘘。本当は10時フライトな。 はあ。 なんでそんなこと? 母さんが一緒だと、まなみの両親が気を使うだろう。 まなみちゃんのご両親? 母さんの代わりに連れてくことにしたんだよ。ほら、親高校ってやつ。 親高校ってあんた?私への親高校はしたこともないくせに? 淡い旅行に母さんは連れていかない。楽しみにしてるところ悪いけど、もう帰れ。 バカ言わないで。今回の旅行はお金出すのも計画したのも私よ。 色々と手配してくれてサンキュー。俺たちだけで楽しむわ。 だからちょっと待ちなさいって。京介もまなみちゃんも知ってるでしょ? 知ってる?私がこの旅行にかけてる思いよ。 ああ、去年亡くなった親父との約束だっけ? そうよ。お父さんと約束してたの。新婚旅行で行けなかったからいつか行こうって。去年の結婚記念日だったか。ようやく約束を果たせるってなったけど、お父さんが事故で亡くなった。だから今年私だけでもその約束を守ろうと思ったの。 で、1人で行くのもなんだからって俺とまなみも誘ってくれたんだろ。知ってるよ。 なら私を置いていくなんてしないでしょ。 するんだよな。これがあんたね。てか俺もまなみも最初から母さん連れてく気なかったし。出発日の飛行機だけは自分たちで手配するなんて言い出したのもこのためだったのね。気づくのがおせえよ。宿泊先のホテルや帰りの便は母さんが予約してんだろ。それ使わせてもらいます。 けーしゃーとなんだっけ? 何がよ? 母さんの優の目。そうそう。人生楽しんだもんがち。それが普段から母さんはヘラヘラしてんだしさ。こういう状況でも楽しめよ。じゃないと人生負けちゃうぞ。 本当に最低。 笑ってりゃいいことあるってよく言ってんじゃん。俺たちのことも笑って見送ってくれよ。 そう、あんたの考えはよくわかりました。楽しんできなさい。 悪いね。母さんの分も俺たちが楽しんで笑顔になってくるわ。 8時間後ハワイ到着。 ああ、ハワイの空気って美味しいですね。 まなみさん、まだ空港に着いたばかりでしょ。 空港の空気ってそんなに美味しいのね。 うわ、お母さんダっさ。置いてかれたからって負け惜しみですか? かもね。というかまなみさんは毎年ハワイ行ってるのよね。 そうですね。うちは両親がお金持ちなんで。ハワイ旅行は毎年の恒例行事ですよ。 ならなおさら分からないんだけど。 何がです? いいや。 私が計画したハワイ旅行を奪った意味よ。まなみさんのご両親だって自分で行けるでしょ。 はあ。それはですね、実は私京介と結婚してから大変なんですよ。結婚してから生活レベルがガクッと落ちたんです。うちの両親も結婚後は自力でとか言ってくるし。 でも住んでるマンションはご両親のだったと思うけど。 結婚祝にもらったマンションですね。けどこれだけです。あとはなし。 いや、十分でしょう。 そのせいでこっちは大迷惑ですよ。毎年恒例だったハワイ旅行も行けなくなって、友達にもセレブとか言われてるんです。 それは友達が悪いような。 今まで散々私が羨ましいとか言ってたくせに。というかそもそもの話としてまなみさんって専業主婦よね。 ですけど、今の時代専業主婦ができる時点で問題ないでしょう。セレブではないにしても生活に困ることもない。 だめです。セレブ出身の私は一般人レベルで測れない女なんで。 そうですか。 でもやっぱりわからないわね。私は元々あなたたちも一緒に旅行に行く予定だったのに。 親子高校ですよ。あなたのご両親への。ほら今年私たちの折でハワイ旅行ですよ。 いや私の折だけど。 そんなの言わないとわからないんで。で、うちの両親の性格からしたらお返しは確実。来年のハワイ旅行代を出してもらうってこと。すでにそういう話が出てるんですよ。これで2年連続ハワイ旅行確保成功です。 たったそれだけのために。 あとうちの親が金銭管理がどうのこうのうるさかったんで、ハワイ旅行に連れて行ける余裕があるぞって見せつければ、今後は黙るかなって。 くだらない。 そのくだらない話でハワイ旅行を逃したんですけどね。 … Read more

23 September 2026

朝、ソファで寝ていた夫のスマホが、ロックもされずに置かれていた。「見てはいけない」と思ったのに、指は勝手に画面を開いていた。そこには知らない女性とのLINE。「愛してる」と送っていたのは、夫の方だった。私は産後で体調が悪く、育児に追われ、義母からは「あなたのような人に母親が勤まるのかしら」と言われ続けていた。それでも家族のために全部後回しにして頑張ってきた。なのに、夫は妊娠する前からその女性…

妊娠したって切り出したのは、たけしの妻だった。 「たけし、私ね、妊娠したの」 「え、そうなの?」 「うん。検査したら陽性が出てさ。やっと子供を授かることができたわ」 「そうか。それは良かったよ」 言いながら、たけしの目線はどこか窓の外を泳いでいた。妻はそれに気づいた。気づいたけれど、あえて言葉にはしなかった。 「あれ? なんか嬉しくなさそうだけど」 「いや、もちろん嬉しいよ。でもまだ実感がなくてさ」 「まあ、それはそうね。私だってそんな実感があるわけじゃないから。でも昔から子供が欲しいって思ってたから、それが実現したって思うと、とっても嬉しくて」 2年くらいはかかった。不妊治療を受けなければいけないかもしれないと本気で焦り始めた頃だった。だからこそ、この知らせは二人にとって待ち望んだものだった。 「でもこれから仕事を頑張らないといけないよな。やっぱり子供の将来のためにも共働きは必須だからな」 「それはそうね。でもとりあえず、お腹が大きくなってきたら産休を取ることになると思うわ」 「ちなみに、どれくらいになりそうなんだ?」 「産休と育休、合わせて多分1年半くらいになるんじゃないかな。子供がある程度大きくなって、保育園とかに預けられるようになってからじゃないと、仕事復帰はできないしね」 「1年半か……その間って収入はどういう感じになるんだっけ?」 「産休は給料の3分の2かな。それで育休の6ヶ月が同じく3分の2で、そこから先は半分って感じになってるよ」 「そうか。休んでるのに金がもらえるのか。なんかずるいな」 「ずるいって何よ。ちゃんとした国の制度でしょ」 「まあそうだな。でも全額ってわけじゃないんだな」 「そうね。その間はたけしの収入が頼りになるわ」 「分かってるよ。あんまりプレッシャーをかけないでくれ」 「一応蓄えもあるし、そんなに背負わなくていいわよ」 「でも俺が働かなかったら、みんな飯を食えないんだろう」 「そうね。生活は厳しくなると思う。もし必要なら、私が昔買ったブレスレットとか、そういうのを売ったりするのも考えてるし」 「そんなの大した額にならないって」 「もちろん他にも色々考えてはいるわよ。それが当てになればいいけど」 「お金のことばかりになると暗くなるわ。それよりも、子供の名前とか、もっと楽しいことを考えましょう」 「そういうのはお前に任せるよ。俺はちょっと仕事が立て込んでてさ」 「大丈夫? なんか最近きつそうだけど」 「仕方ないだろ。働かないといけないんだから」 「それはそうだけどさ」 「休んでる間は家事とか、そこら辺は頼んだぞ。ちゃんと俺のことをサポートしてくれよな」 「ええ、それはもちろん約束するわ」 出産後、妻は体調を崩しやすい日々が続いていた。そんな中、たけしの母が頻繁に家に来るようになった。最初はありがたいことだと思っていた。ただ、その手伝い方がいつも「自分がやってあげている」という態度で、どこか上から目線だった。 「お母さん、今日も家に来てもらって、この子の面倒をお願いできる?」 「あら、大丈夫なの?」 「うん。ちょっとここ最近ずっと体調が悪くてさ」 「いいのよ。無理しないで。私がすぐに行くから」 「本当に情けないわ。母親になってからずっとこの調子で」 「出産直後っていうのはそういうものなのよ。私も同じような経験をしてきたから、よく分かるわ。私の場合も、母とか姑さんに手伝ってもらったから、何も気にしなくていいのよ。頼れる時は頼りなさい」 「ありがとう。実家が近くに助かったわ」 「でも、全部あなたが1人でするのは大変でしょ。たけしさんは手伝ったりしてくれないの?」 「全然。何を言っても無理だって言って」 「そうなの?」 「なんか、たけしって最近ずっとイライラしてるのよね。多分仕事がかなり大変みたいで」 「そうなんだ。仕事好きそうだと思ったのに」 「私もそういうところがいいなって思ってたの。でも、配置転換で希望してない部署に移動になったみたいなのよ」 「へえ、そうなんだ」 「それで、慣れない仕事を任されるようになって、ずっとイライラしてるんだよね」 「それはちょっとかわいそうね」 「私もできればたけしの心のサポートもしてあげたいんだけど、なかなかそこまでやる余裕がなくて。今はもう赤ちゃんのことだけで手いっぱいで」 「そうなるのは当然よ。赤ちゃんなんだから、あなたが近くにいないとね」 「でも、こんな頼りない母で申し訳ないわ。出産する前はもっと色々と頑張ろうと思ってたのに」 … Read more

23 September 2026

午後2時、父の葬儀の最中に電話が鳴った。画面には夫の名前。嫌な予感しかしなかった。「今どこにいるの?今日はお父さんの葬式でしょ」。そう詰め寄ると、返ってきたのは信じられない一言だった。「悪いけど、温泉行くから欠席で」。実の父親の葬儀を前に、夫は平然とそう言い放った。「遺体に会ってどうすんの?喋んないし、動きもしないんだろ」。私は言葉を失った。さらに夫は続ける。「これだから親なし女は。自分の親…

「順夜、今どこにいるの?何よ、こんな時間に。今日はお父さんの葬式でしょ。分かってるなら、どうしてまだこっちに来てないの?私たち手伝いがあるって言ってあったでしょ。」 「ああ、それそれ。今日の親父の葬式だけどさ、温泉行くから俺は欠席で。」 「は?何言ってるの?前々から楽しみにしてたんだよ。今日の温泉、予約するのが大変だったんだ。」 「それは知ってるけど、葬儀の方が優先に決まってるでしょ。お前が散々言うから問題ないだろう。母さんたちにはお前からよろしく言っといて。」 「バカじゃないの?実の親の葬式よ。それなのに温泉って、あんた最低よ。」 「はあ。つか、遺体に会ってどうすんの?喋んないし、動きもしないんだろ。あの親父が喋ってたって、腹立つだけだし。」 「何それ?最低なんだけど。」 「ああ、もしかして、親の葬式に出ないとか息子失格とか思われそうで怖いってやつ?ああ、これだから親なし女は。自分の親がいないからって、他人の親をありがたがりすぎなんだよ。」 「言っていいことと悪いことがあるでしょ。」 「まあ、親なしのお前を拾ったのは親父だ。ありがたがる気持ちも分かるけどな。」 「そんな言い方はやめて。」 「事実だろう。ガキの頃に両親が亡くなった、天涯孤独のぼっち女が。」 「なんでそういうこと言うの?私、何か気に触るようなことした?」 「別に。ただ、昔からお前はそうだよなって話。」 「何?どういうこと?うちの親の点数稼ぎだけは上手ってこと?」 「俺と結婚したのだって、親へのアピールだろ。うちの親以外、家族なんていないもんな。」 「そんな風に思ってたの?」 「うちの親も、お前の方が可愛いんだろう。ガキの頃からずっと引き立てられてたわけだし。」 「引き立ててなんてないよ。」 「されてんだろう。俺よりも学費の高い大学に行って、いい会社に入ってさ。よそ様の金でよくそんなことできるよな。」 「さっきから何なの?そんなに不満があったなら、なんで結婚なんてしたのよ。」 「安牌ってやつだよ。身近にいたし、親もお前には甘いし、結婚すんのも悪くないかなって。」 「最低。最低。本当に最低よ。」 「じゃ、俺は魅惑の夢が待ってるから、もう行くわ。」 「本当にそれでいいのね。」 「いいぞ。じゃ、あとは頼むわ。」 翌日。 「お母さん、先日はすみませんでした。」 「順夜のこと、どうして千秋が謝るの?私だけ前日からそちらに泊まってましたけど、その時に無理やりにでも順夜も泊まらせてれば。」 「そんなの結果論でしょ。」 「それはそうですけど、それにもう終わったことよ。」 「けど、お父さんのことを色々と言ってて納得できなかった。確かにお父さんは厳しい人でした。だけど、それは順夜のことを思ってのことです。それをあんな風に言うなんて。」 「千秋は相変わらずね。」 「相変わらずって、何ですか?」 「あなたをうちで引き取って、何年経ったかしら?」 「え、私が小学生の頃に両親が亡くなったので、もう20年くらいですね。順夜とあなたが結婚してうちから出て行って、色々とあったわよね。」 「そうですね。子供には恵まれませんでしたが、本当に色々ありました。」 「もういいんじゃない?元々あなたを引き取ったのは、親友の忘れ形見だから。」 「それは知ってます。私の両親と、お父さんたちが仲が良かったって。」 「あなたのご両親は、親戚付き合いが壊滅的でね。亡くなった後、あなたは親戚中をたらい回しにされてた。今でも覚えてるわよ。」 「お父さんが『お前らみたいな奴らに任せられるか。そんなに嫌なら、俺たちがち草をもらう』って、単価を切ってくれたんですよね。」 「けど、その単価を切った本人は、もういないわね。」 「お母さん、何を言ってるんですか?」 「順夜との関係だって、うまくいってないんでしょ?なら、離婚してさっさと出ていきなさい。」 「いや、本気で言ってます。いい機会だからね。私たちの親子関係も、解消しましょう。」 「ちょっと待ってください。なんでそんな急に言うんですか?お父さんがもういないのに。」 「順夜との関係も悪いなら、この関係を続ける意味はないわよ。」 「そんな。あなたがここまで献身的に支えてくれたのも事実よ。だから、手切れ金くらいはくれてあげる。」 「手切れ金?私はそんなのいりません。」 「何もなしに関係を切ったら、私たちが悪く見えるでしょ。お父さんの遺産の一部を、贈与という形で送ります。それを持って出ていきなさい。二度と私たちに関わらないこと。分かったわね。」 数日後。 「いやあ、まさかだったわ。」 「急に何?」 「いや、母さんがち草を切るとは思わなくてさ。」 「切るって、別にそんなに不思議なことじゃないでしょ。」 … Read more

23 September 2026

昼時の休憩中、携帯が震えた。画面に妻の名前が表示され、私は一瞬ため息をついた。出張中は連絡するなとあれほど言ったのに。「もしもし、今は仕事中だぞ」と低い声で出ると、妻は静かに言った。「しばらく家を開けることになるわ。お父さんが倒れたらしいの。あなたが帰っても家にいないかもしれないから」私は苛立ちを隠さず返した。「勝手にやってくれ。染みったれた話で運が逃げるんだよ、仕事の邪魔をするな」。電話を…

妻からの電話は、昼時のわずかな休憩時間を縫ってかかってきた。健二は画面に表示された名前を見て、一瞬ため息をついた。出張中の連絡は一切するな。あれほど強く言い含めてあるのに、という苛立ちが先に立った。 「もしもし、今は仕事中だぞ。何の用だ」 「健二、しばらく家を開けることになるわ。もし出張が終わっても、すぐには帰れないかもしれないから。その時はよろしくね」 「は?どういうつもりだよ。俺は今、出張で必死にやってるんだぞ。それは分かってるよな」 「うん、もちろん。だからこそ、事前に連絡しておこうと思ったの。実はね、お父さんが倒れたらしいのよ。命に別状はないって母さんは言ってたけど、やっぱり心配だから、一度実家に帰るわ。あなたが帰ってきても家にいないかもしれないから、驚かせないようにと思って」 「そんなのは勝手にやってくれ。俺がたまたま携帯を触れたから良かったものの、LINEにでも残しておいてくれれば十分だったんだよ」 「それもそうね。でも、別にLINEに残しておくくらい問題ないはずよ。仕事中でも、後で見ればいいんだから」 「違うんだよ。そういうのが良くないんだ。染みったれた話のせいで、運が逃げる可能性があるからな」 「何それ?意味が分からないんだけど」 「仕事で成功するためには運も大事だろう。変なことをしてる場合じゃないんだ。俺は仕事に集中してる。そうやって実績を積むことで出世の道が切り開かれるんだ。お前には、そんな俺を支えてほしいんだよ」 「もちろん、必要なら何でもやるつもりよ。でもじゃあ、何?私は連絡をしなかったらいいわけ?出張中は一切連絡するなって、そういうこと?」 「出張っていうのはな、勝負の仕事なんだ。だからこそ、集中させてほしい。プライベートのことを仕事に持ち込みたくないんだよ」 「意味は分からないけど…まあ、それだけ仕事に本気だっていうことは伝わってくるわ。分かったわよ。そこまで言うなら、私も引き下がるわ。でも、後から文句を言うのはなしよ。私はしばらく帰れないかもしれないから、気にしないで」 「好きにやってくれ。俺は自分の信じた道を進むだけだからな」 「そう。じゃあ、今後はそうさせてもらうわ」 電話が切れた。健二は深く息を吐いて、気持ちを切り替えるようにスマホを机の上に置いた。そして、もう二度とこの日のことを考えないと決めたように、分厚い資料へと視線を落とした。 ――その10分後のことだった。 デスクに戻った健二のところへ、後輩の拓が声をかけてきた。 「先輩、ちょっとお願いがあるんですが」 「どうした?急に改まって」 「実は、しばらく家庭の事情で家を空けることになったんです。もし何かあったら、連絡先として頼れる人がいたらと思いまして。身近で一番仲がいいのは、先輩だなと思ったんです」 「ああ、なるほどね。いいよ。もし何かあったら、俺に言ってくれ」 「本当ですか?ありがとうございます。あ、でも、心配しなくて大丈夫です。命に関わるような話じゃないんで。父が庭先で足をひねって、年齢的に母一人に任せるのが不安で、少しの間だけ世話をしに帰るだけなんで」 「足をひねっただけか。それは大変だな。でも、何かあったら遠慮なく言ってくれよ」 「ありがとうございます。……そういえば、先輩、またお世話になろうかなと思ってるんですけど、奥さんから新玉ねぎを分けてもらったらしくて。よかったら食べに来ませんか?天ぷらとかサラダとか、たくさん作ってくれるみたいなんで」 「ああ、それなら、ちょっと後になりそうだ」 「あ、そうなんですか?お仕事が忙しいんですか?」 「いや、そういうわけじゃないんだ。今、家のことをやることになってて。妻がしばらく実家に帰ってるんだ」 「あ、そうだったんですか。それはお気の毒に。……でも、そういえば奥さんから聞いてませんでしたよ。てっきり一緒にご飯を食べに来れるものかと思ってました」 「ちっ、あいつ、そういうこと言ってなかったのか」 「え?」 「いや、なんでもない。気にすんな」 「はあ、そうですか。……あ、じゃあ、こうしませんか?今度、新玉ねぎを家に届けますよ。調理ができなくても、サラダとかにして食べられるんで」 「いや、それは大丈夫だ。あいつが事前に用意してくれてるから。……それより、俺が呼ばれてたのって、いつだ?」 「え?ああ、そうですね。連絡もなしに押しかけるのもあれなんで、段取りだけでもと思ったんですが。……でも、考えてみれば、先輩はお仕事が大事なお立場ですからね。そんな遊びの話で引き止めてしまって、申し訳ないことをしました」 「気にするなよ。お前がそう言ってくれると助かる」 「いえいえ。それに、奥さんが『拓さんは本当に仕事熱心で、尊敬しちゃいますよ』って言ってましたよ。私なんて、その足元にも及ばないですけどね」 「……そう言われてるんだ」 「はい。本当に、先輩はすごい人ですよ。私の憧れの先輩ですから。……じゃあ、お邪魔しました。また何かあったら、いつでも言ってくださいね」 少し話をして、拓は去っていった。健二は閉められたドアをしばらく見つめたあと、パソコンの画面へと意識を戻した。胸の奥で何かが引っかかるような、もやもやとした気持ちは、しかし、これ以上考えることではないと、頭を振って追いやった。 ――あれから一ヶ月。 仕事は順調だった。いや、順調すぎるほどだった。大きな契約もいくつか成立させ、上司からの評価も上がっている。部下からの信頼も厚い。健二はこの一ヶ月、一度も家庭のことを考えなかった。いや、考えないようにしていた。 そんなときだった。 携帯が震えた。画面には、妻からの着信履歴が十几件も積もっている。 「はあ、今度は何の用だ」 健二は舌打ちをして、コールに応じた。 「健二!ようやく出てくれた!お願い、どうして電話に出てくれなかったの?」 「今、仕事中だって言ってるだろ。何度言ったら分かるんだ。あれだけ連絡するなって言ったよな?」 「それは……ごめん。でも、本当に大変なことがあって。あなたにどうしても話しておかないといけないことがあるの。ちょっと今から時間、大丈夫?」 「何だよ。手短にしろ。これから大事な打ち合わせがあるんだ」 「……分かった。じゃあ、手短に言うわね。お願い、今すぐうちに帰ってきて。いても立ってもいられないの。このままじゃ、あなたのこと、嫌いになりそうなの」 「はあ?どういう意味だよ、一体」 「ああ、もう、うまく言えない!とにかく、帰ってきて!木刀でぶん殴ってやってもいいってくらい、腹が立ってるんだから!」 電話は一方的に切られた。健二は、しばらく無言のまま、切れた画面を見つめていた。 「……ふん、何を言い出すかと思えば」 … Read more

23 September 2026

病院の個室で、赤ん坊を抱きながらスマホを見つめていた。隣では夫の大機がベッドの端に腰かけ、画面をいじっている。「ねえ、お母さん、また連絡してきてない?」と私が聞くと、彼は「ああ、さっき着信が一件。無視してやった」と答えた。その一週間前、私は義母と決定的な衝突をしていた。お祝い金のことで頭に血が上り、大機と二人で義母にきつく当たってしまったのだ。でも、電話越しに聞こえた義母の声は、思っていたよ…

金の話を出したのは、本当に自分が正しいと思ったからだ。昨夜の電話のあの口調、大機が代わりに投げつけた言葉のひとつひとつが、母の感情を完全に無視していた。でも、泣き言を並べるつもりはなかった。ただ、自分がされてきたことを思い出せば、何を言われても仕方がないと思う部分も、正直、あった。 翌日、病院の個室のベッドで、みは赤ん坊を抱えながら、スマホの画面を見つめていた。隣で大機がベッドの端に腰かけ、スマホをいじりながら、妻の言葉に相槌を打っている。みが口を開いた。 「ねえ、お母さん、また連絡してきてない?」 「ああ、さっき着信が一件。無視してやった。」 「出なくてよかったの? 何かあったら、どうするの?」 「何もねえよ。あの人にかまってたら、きりがないだろ。」 みはため息をついた。昨夜のやり取りを思い出す。大機が電話口で、母に対して、思いの丈をぶつけた。みも、自分が言いたいことを全部言った。でも、スマホ越しに聞こえてきた義母の声は、思っていたよりもずっと小さく、か細かった。それが、胸に引っかかる。 「大機、ひとつ聞いていい?」 「何だよ、急に。」 「お母さん、私たちに何か言ってきたこと、後悔してるのかなって思ったんだけど。だって、あんなにすごい剣幕で怒鳴ったのは、私たちの方でしょ。」 「向こうが先に火をつけたんだよ。お前には関係ない。あの人の言い分聞けよ。」 「でも、お祝い金の話、私も出しすぎたわ。頭に血が上ってて、あんなこと、言うつもりなかったのに。」 「あれでいいんだ。あの人が本気で変われるなら、金を出せって言われても、仕方ないだろ。俺たちの子供のためだ。」 大機はそう言って、またスマホの画面に視線を戻した。みは、赤ん坊の小さな顔を見下ろした。すやすやと眠っている。この子を守れるのは、自分たちだけだ。そう思うと、少しだけ、心が強くなった。 一週間後。みは、大機の実家から車で十五分ほどの場所にある、自分たちのマンションの一室にいた。ベビーベッドの横で、洗濯物をたたんでいる。インターフォンが鳴った。モニターを確認すると、そこには、ぎこちない笑顔を浮かべた義母の姿があった。 「みさん、いるんでしょ。話がしたいの。そんなに長く時間は取らせないから。」 みは、大機に目で合図を送った。大機は、台所から出てきて、眉をひそめた。 「出なくていい。あの人は、また何か企んでるに決まってる。」 「ちょっと待って。さすがに玄関先で追い返すのは、大人げないわ。私が話す。」 「み、無理するなよ。」 「大丈夫。お母さんも、人間だから。何を言われるか分かったもんじゃないけど。」 みは、深く息を吸ってから、玄関に向かった。ドアの鍵を開けると、義母が立っていた。手には、紙袋。中をのぞくと、薄ピンクのベビー服が入っていた。 「みさん、この間は、ごめんなさい。言い過ぎたわ。私、あの時は、自分が情けなくて。でも、あなたたちのおかげで、いろいろ考えることができたの。」 「お母さん、私は……。」 「聞いて。あの日、大機に言われたことは、全部、本当なんだと思う。私は、仕事にかまけて、あの子の心を壊してしまった。でも、今度は、違うわ。孫には、ちゃんとしたおばあちゃんでいたいの。」 みは、紙袋を受け取って、あいまいにうなずいた。でも、玄関のタイルの上に立ったまま、道を譲ろうとはしなかった。 「それで、どうしても、というか、その……。お祝い金の件なんだけど。」 「もう、いいです。あんな話は、なかったことにしてください。」 「いえ、聞いて。私、あなたたちと、あの子の将来について、話し合いたいの。昨日、出かける前に、区役所で聞いてきたんだけど、児童手当のこととか、これからの教育資金のことを考えて……。」 「お母さん、お金のことなら、もう。」 「お金だけじゃないの! あの子に会わせてほしいの。もちろん、無理にとは言わない。でも、月に一度でいいの。いえ、二か月に一度でも、散歩に連れて行くくらいは、許してほしいの。」 みは、大機の方を見た。大機は、腕を組んで、黙ったまま、母の背中を見つめていた。そして、ゆっくりと口を開いた。 「母ちゃん。俺が言えたことじゃないけどよ。母ちゃんが働いててくれたから、今の俺がいるんだっていう、その事実は、本物だと思う。」 「大機……。」 「でもな、あの時、母ちゃんが何を考えてたか、俺は知らない。知ろうとも思わなかった。それでいいんだ。でも、これからは、どうしても知りたいんだ。俺は、もう子供じゃないから。」 義母は、唇を震わせた。目の縁が、涙で光る。 「大機……。お母ちゃん、間違ってなかったって、思いたいだけなんだ。あの子に、ちゃんと伝えたいの。おばあちゃんになれて、本当に幸せだって。」 みは、ラップの音が鳴るように、心がはっと動くのを感じた。そして、ドアを広く開けて、一歩、脇に寄った。 「上がってください。お茶、淹れますから。でも、今日だけですからね。」 義母の顔が、ぱっと明るんだ。たくさんの皺が、一瞬で深くなるような笑顔で、こっくりとうなずいた。家に上がった義母は、手を洗って、ソファに座る前に、こう言った。 「ありがとう、みさん。もう、あなたをATM扱いするような、そんな恩知らずなこと言わないわ。私ができることなら、何でもするから。それで……、その、孫の名前、もう決めたの?」 みは、リビングのテーブルの上に置いてあった短冊を指さした。 「はい、これ。『ひなた』って書くんです。春に生まれたから。」 義母は、その文字を目で追って、何度も何度もうなずいた。 「ひなたか……。いい名前だね。ぴったりだ。」 その言葉を聞いて、みは、自分がずっと息を詰めていたことに気がついた。そして、ゆっくりと、息を吐き出した。 数時間後、義母はソファから立ち上がった。帰り支度をして、玄関で靴を履いている。大機が、近づいて、声をかけた。 「母ちゃん、今度の日曜日、何かあるか? もし暇だったら、こっちに来て、ひなたと遊んでくれよ。」 義母は、驚いた顔で、大機を見上げた。そして、ふっと、幼い子どものようにいたずらっぽい笑顔を見せた。 「いいのかい? 迷惑じゃないか?」 「迷惑だったら、言わねえよ。ただ、メニューは、作ってやるからよ。インスタントラーメンが食べたいって言ったら、すげえ怒るからな。」 … Read more

23 September 2026

夕方、台所で夕食の支度をしていたら、インターホンが鳴った。玄関を開けると、三年間一度も笑顔を見せなかった姑が、にこやかに立っていた。「息子の浮気を許してくれてありがとう。本当にいいお嫁さんだわ」頭が真っ白になった。夫は私に謝ったことなんて一度もない。それなのに、姑はまるで私が許したことになっている。しかも数日後、夫がぼそりと言った。「お袋が、なんか企んでるって、お前も気づいてるんだろ」。私は…

姑が突然、にこやかな顔で家に現れたのは、夕方のことだった。私が台所で夕食の支度をしていると、インターホンが鳴って、玄関を開けたらそこに姑が立っていた。それだけで十分に異様だった。この三年間、姑は私に一度も笑顔を見せたことがなかったからだ。 「ふかさん、ちょっといいかしら」 「何の用ですか」 「上がらせてもらうわね」 勝手に上がり込んだ姑は、リビングのソファに座るなり、私の手を両手で握ってきた。その手は思ったより温かくて、なんだか気持ち悪かった。 「息子の浮気を許してくれてありがとう。本当にふかさんは最高のお嫁さんだわ」 私は何を言われているのか分からず、首を傾げた。 「お母さん、何の話でしょうか」 「ひろつぐに聞いたわよ。浮気したけど許してもらえたって」 思わず手を引っ込めた。あの男、よくもまあ平気な顔で言ったものだ。 「夫がそんなこと言ってたんですか」 「確かに、愛する人の裏切りはショックよね。でも男は必ず本斎の元に戻ってくるものなの。自信を持って堂々としてればいいのよ」 「はあ」 「ふかさんは自分で会社を立ち上げて立派に経営なさってるんだもの。このくらいのことで同じる弾じゃないわよね」 「仕事のことと夫婦のことは別ですし、お母さんもコロコロと態度を変えられると困ります」 「あら、そう」 「結婚者は女社長なんか三文もないって散々おっしゃってませんでしたっけ。会社にまで押しかけてきて、こんなちけな会社潰してしまいなさいと。社員の前で私を怒鳴ったのもお忘れですか」 姑の顔から笑みが消えた。一瞬、何か言い返すかと思ったが、すぐにまた別の笑顔を浮かべた。 「言った記憶はないけど、言ってたとしたらごめんなさいね」 「なかったことにする気ですか」 「私やっと自分の謝ちに気づいたの。確かに息子のことが可愛いがあまり、あなたに強く当たってきたわ」 「はい。ゴリゴリに当たられました」 「でも間違ってた。可愛い息子が選んだ人だからこそ大事にしなきゃいけなかったのよね」 「それに気づくのに三年かかったんですか」 「そうなのよ。でも今からでも遅くないわよね。ね」 「え、だいぶ遅いと思いますよ」 「ちょっと話は変わるんだけど、車が欲しいの」 いきなり何の話だ。私は思わずため息をつきかけた。 「いきなり何の話なんですか」 「人生で一度でいいからベンツに乗りたいのよ」 「買えばよろしいのでは」 「え、いいの」 「お好きになさったらいいかと」 「やった。嬉しい。若い頃からずっと会社に憧れてたのよね。本当に素敵な会社だったわ。あなたが社長でいてくれてよかった。そういうわけで、早速ディーラーに行ってくるわ」 そう言って、姑は上機嫌で帰っていった。あれだけ私のことを潰せだの言っておいて、今度は私の稼ぎで車を買おうとしている。呆れるというより、怖かった。姑のあの手のひら返しは、何か裏があるとしか思えない。 数日後、今度は夫の広告が、何やら言いにくそうにソファに座っていた。 「お母さんから連絡来たんだけど、どういう風に話をすればあんな勘違いになるわけ」 「あ、何が」 「息子の浮気を許してくれてありがとうって言われた。お前、何言ったんだよ」 「許してくれたじゃん。あれは、俺が謝ったら、許すって言ってくれたじゃん」 「は?二時間バ取った結果、あなたが逆切れして離婚届けをプリントアウトして私に投げつけたよね。その反省してるって意味で書いただけだよ。それで、あの姑が急に優しくなったんだよ」 「そういうことか。じゃあ、お前も気づいてるんだな」 「何が」 「お袋が、なんか企んでるって」 「当たり前だろ。というか、お前、今まで何も言わなかったけど、気づいてたのか」 「ああ。なんか、お前が実家に帰った後、俺のところにも連絡が来てな。お前がものすごい勢いで怒ってるから、離婚するとか言い出して、俺が止めたんだ」 「は?私が離婚するって言ったから止めたの?お前が何か言ったんじゃないのか」 「いや、俺もお前に謝りたかったんだ。本当に悪かったと思ってる。だから、離婚はやめろって言ったんだ」 「どうして?」 「どうしてって、愛してるからだよ」 私はため息をついた。本当に信じられない男だ。 「じゃあ、どうして浮気なんてしたの」 「スーパーでウィンナーの試食やってたら、つい食うだろう。どんな味かなって興味が湧くよな」 「は?」 「うん。ね、結局食っては見たものの買わずに帰ることがあるよな」 … Read more

23 September 2026

玄関を出る直前、スマホが震えた。画面には母からのLINE。今日は娘の内定祝いに高級寿司を食べに行く。ひろさん、今日は高級店なの。ちゃんとTPOをわきまえた服装で来てね。ああ、TPOって言葉わかるかしら?中卒さんには難しい単語を使っちゃってごめんなさいね。俺はため息をついて妻を見た。昨夜、兄から「明日の集まり、大丈夫か?」と連絡が来たときから嫌な予感はしてた。妻が笑ってドアを閉めて一時間後、「…

玄関を出る直前、スマホが震えた。画面には母からのLINE。今日は娘の内定祝いに高級寿司を食べに行く。ひろさん、今日は高級店なの。ちゃんとTPOをわきまえた服装で来てね。ああ、TPOって言葉わかるかしら?中卒さんには難しい単語を使っちゃってごめんなさいね。 俺はため息をついて、妻を見た。昨夜、一番上の兄から「明日の集まり、大丈夫か?」って連絡が来たときから嫌な予感はしてたんだ。 「そんなの送ってきたのか?マジかよ。」 妻はスマホを置いて、肩をすくめた。「お母さん、暇な人なのね。」 「本当にごめん。俺だけ遅れることになって。俺の家族ってまともじゃないだろ。だからひろ子だけを行かせるなんてしたくなかったのに。」 「多分、あなたが忙しいのをわかっててやってるわ。」妻は優しく言った。「でも、きちんと声をかけられたんだし、無視するわけにはいかないもの。今回はお祝いだから特別よ。仕方ないわ。これが終わったら、これまで通り距離を置いておけばいいんだし。まあ、何かされてもいつも通り言い返してやり返すわ。」 「本当、強いよな。その強さに甘えて申し訳ないよ。」 「私が強く出れるのは、あなたが味方ってちゃんとわかってるからよ。」妻はそう言って、鞄を持った。「それじゃ行ってくるね。そっちは焦らなくていいから。」 「わかった。なる早で仕事終わらせてくるから。」 「だから急がなくていいってば。」 妻が笑ってドアを閉めた。一時間後、スマホに妻から連絡が入った。 「もう帰ってるから。」 「え?帰ってるの?」 「お母さんに追い返されたの。中卒の他人は帰れってさ。そもそも私の分は予約もしてなかったわ。」 「え、わざわざ呼んだのに?」 「社交辞令だったらしいわよ。」 妻は、少しも悲しんでいない様子で話し始めた。店に着いたら、母が待っていて、「あら、やだわ。ひろこさん本当に来るなんて」と嫌味を言ってきたという。旦那さんを呼んだのはそちらなのに、いざ夫婦で来てくださいと言われたから来たのに、中卒の嫁は場違いだ、邪魔だ、存在自体が迷惑だ、と散々言われたそうだ。 「○○さん(夫のこと)に言っておいて。中卒が高級店に来るなんて100年早いって。もう二度と来ないでって。」 妻は言った。「じゃあ、お言葉に甘えて、もう二度と嫁としては来ないことにします。でも、そのかわり、もう二度と私を呼ぼうとしないでくださいね。呼んでも無視しますから。」 母は言った。「中卒のくせに生意気なのよ。あんたみたいなのがいるから、まゆみが恥ずかしい思いをするのよ。現に昨日は高級店に中卒が入って、お店の雰囲気を壊したでしょ。」 妻は笑ったらしい。「呼んだのはそちらでしょ。でも、わかったわ。こっちから願い下げよ。毎回毎回、嫌みばかり言われて面倒だったのよ。これで心置きなく行事も断れるわ。本当、お母さんと一緒の行事なんて時間の無駄でしかなかったから、助かるわ。」 「なっ……なんですって、あなた、何様よ。」 「周りくどく嫌味を言ってますけど、まだ何かある?昨日は大人しく帰りましたよね。それで満足では?」 「昨日の件で釘を刺しに来たのよ。そんなのもわからないのね、あなたみたいな学歴のない人がいると、まゆみが恥ずかしい思いをするかもしれないじゃない。」 「釘を刺すって、そういうことですか?中卒には難しいかしら、なんて気取ったことを言ってましたけど、あなたの言ってることはただの嫌がらせですよ。よく覚えましたよね、覚えたての言葉を。」 「あら、中卒のくせに、よくそんな風に言い返せるわね。まあ、いいわ。とにかく、あなたは無学なんだから、これ以上顔を出さないでちょうだい。」 「ええ、もう出ませんよ。来たくて来たわけじゃないんで。ふんだりけったりだけど、今日でようやく解放されるんでしょ?それはよかった。」 妻は、そう言って店を出た。そして、一人で回転寿司にでも行こうかと思ったが、足が向いたのはコンビニだった。何だかんだで、今日は高いお店でお祝いしてもらえると思ってたから、少しだけショックだったのかもしれない。 それから数分後、家に帰ると、俺がソファに座って待っていた。 「おかえり、早かったな。」 「うん、追い返されたからね。」 「そうか。で、何を言われたんだ?」 「『中卒の嫁は場違いだ』『学歴がないくせに』『存在自体が迷惑』って、それはもう念入りに。最後には『もう二度と顔を出すな』ってさ。だから、『はい、もう出ません』って言っといたわよ。」 「それはすごい、すっぱりした。」 「でしょ?ああ、すっきりした。これで向こうから何か言ってきても、無視できるもん。」 「いや、でも、大丈夫か?」 「大丈夫よ。」妻は俺の隣に座って、ぽつりと言った。「でも、本当に高級なお寿司が食べたかったわ。」 「帰りにでも食べてくればよかったのに。」 「一人で高級寿司屋には入れないわよ。それに、今日のところはもういいの。ああ、でも、お腹すいた。夕飯まだでしょ?」 「そうだな。回転寿司行くか。」 「あ、いいね!じゃあ、○○(夫)は回転寿司で、私はタコの唐揚げが食べたい気分!」 「は?なんでタコの唐揚げなんだよ。」 「だって、あなたのせいよ。お母さんに追い返されて、何かされるかと思ったけど、あなたの話を聞いてたら、私がタコになった気分だったから。」 「え、俺、タコに見える?」 「見える。タコの唐揚げは、タコの身でしょ?私はタコにされるかと思ったんだけど、お母さんの目には、私はもうとっくにタコだったのよ。なら、いっそ美味しく食べられてやるわ。」 「ははは。意味がわからん。」 「笑い事じゃないわよ。でも、まあ、もう気分は晴れたから。」妻は笑った。「行きましょう。今日は、あんたのおごりで、おいしいタコを食べるわ。」 「俺の給料から、だろ。わかったよ。」 その後、二人で回転寿司に行って、妻は念願のタコの唐揚げと、大トロを何皿も食べた。俺はとりあえず、無事に帰ってきてくれたことに安心しながら、ビールを飲んだ。 そして、数日後のことだった。 妻がスマホを手に、難しい顔をして立っている。聞けば、今度は母から、また別の長文のLINEが来ているという。 「昨日の件で思ったのだけど、あなたは文をわきまえていないというか、知能的に多分理解ができてないのよね。理解していると思い込んで話していたから、きっと困惑されたと思うわ。ねえ、困惑しています。こんなすっごく遠回しな罵倒を初めて見ました。悪い意味での日本語の奥ゆかしさを存分に発揮していて、さすがはお母さんですね。学歴にはできない芸当よ。」 「何これ、中卒には難しすぎてわからないって、嫌味を言ってるんじゃなくて、文化的なレベルが違うって言いたいのね。」 妻は呆れた顔で笑った。「そういうことね。相変わらず、私のことは嫌ってるのね。で、今回は何が言いたいんだろうね?」 「さあ。『あなたは文が理解できない』って言いたいんじゃないか?で、『中卒には無理』って。」 … Read more

23 September 2026

母が亡くなった日の夜、私はリビングでひとり、スマホを握りしめていた。通夜の準備でバタバタしていたのに、ふと画面に映ったのは、10年ぶりの着信履歴。相手は、私が最も憎んでいた人だった。「今さら何の用?」そう思った瞬間、また電話が鳴った。出るべきか、無視すべきか。私は震える指で、通話ボタンに触れた——その時、玄関のチャイムが鳴り響いた。画面には「弘樹」の文字。まさか、彼がここに?私は息を呑み、電…

お母さん、お話したいことがあるので、お時間を作っていただいてもよろしいでしょうか?すぐにでもそちらに伺わせてもらいます。 はあ、いきなり何よ。そんな急に言われて「はい、どうぞ」なんてならないでしょ。こっちはあんたたちと違って貧乏暇なしで仕事をしてるんだからね。 定年じゃなかったでしたっけ? 定年退職はしたわよ。でも年金だってもらえるようになったけど、それでも将来のことを考えると不安だからね。仕事をしないといけないのよ。夫も私も別のところで今は働いてるの。 必要であれば支援はさせてもらいますが。 馬鹿にしないで。私たちのことを見下してるの? いや、そんなわけじゃ。たまたま仕事で金を手にしただけのくせに偉そうにするんじゃない。少なくともあんたにそんな顔をされる筋合いはないのよ。 不快に思われたなら申し訳ありません。私は少しでもお母さんたちの力になれればと思ってるだけです。 そんなのあんたに気にされるようなことじゃないわ。こっちはこっちで好きにさせてもらいますから。 お母さん、弘樹と仲直りをしてください。お母さんと弘樹の間に色々あったのは知ってます。でも今はそんなことを言ってられる場合じゃないんです。 何よ、それ。 夫がずっと体調が悪いということで病院に行ったんです。そしたら膵臓癌だということが判明して。 水ですって。 お医者さんかなり進行しているようです。放射線治療などである程度進行を遅らせることはできるようですが、もう回復することは難しいと言われました。それつまり、もうあまり長くないということです。 あの子が。 お母さん、お願いです。これからはお互いのわだかまりなんてなくして、夫と親子として昔のように触れ合ってください。夫に1つでも心残りを持って欲しくないんです。 ちょっと考えとくわ。 お母さん、考える時間なんてないんですよ。 うるさい。あんたは出しゃばってくるな。これは家族の問題よ。私があいつにどれだけ裏切られたと思ってるの?そのことを今更なかったことになんてできないのよ。 どうしてそこまで? あんたにどうこう言われる筋合いじゃないわ。 弘樹はもう長くないと言ってるでしょ。 だから何よ。どうするかはこっちが決めるわ。病気を盾に攻めてこないでよ。こっちの気持ちを無視しになんてしないでよ。 お願いします。懸命な判断をしてくれると思ってますよ。 は、あんたに言われる筋合じゃないわ。 10分後。 お父さん、まりです。 おお、久しぶりだね。どうかしたのか。 お母さんから話は聞いてないですか? 話? お母さんから弘樹が膵臓癌になりました。そしてあまり長くないと言われています。 なんだって。 それでお2人には弘樹のお見舞いに来てもらいたいんです。色々あったのは分かりますが、お願いできますか? 私は個人的には弘樹に何も怒りなんかはないんだよ。 喧嘩しているのはお母さんと弘樹だったんですよね。 そうだな。そして私はできるだけ間に入るようにしていた。そんな時に弘樹は君と結婚をしてね。それで私が弘樹の味方をしてしまうとお母さんが1人ぼっちになってしまう。それは避けないといけないと思ってたんだ。 ずっとお母さんのために一緒になって距離を取っていたということですね。 夫婦としてあいつの味方ではいてあげたい。まりさんがそばにいてくれれば弘樹は大丈夫だろうと思ってたからな。 今までお気遣いありがとうございます。ですが、今後はお母さんを説得する方向でお願いできますか?弘樹はもう就活をしないといけないので。 君も大変だね。 まだ現実感がないんです。だからこういうことができてるんだと思います。お願いします。弘樹のために動いてください。 分かった。なんとかやってみる。 うちのマンションのカードキーを送らせていただきます。これを使えばいつでもうちに入ることができますので、オートロックの暗証番号も送らせてもらいます。 ああ、分かった。なんとかしてみるよ。 1週間後。 お久しぶりです。覚えてらっしゃいますか?木島明彦です。弘樹とは学生時代からの友人で、何度か食事にも行ったことがあるんですけど。 はい、覚えてますよ。 突然すみません。弘樹から連絡先を教えてもらいました。病気についても聞かされましたよ。 そうでしたか。 まさかあいつがこんなことになるなんて。本当に神様なんていないんだって分かりました。誰よりも仕事を頑張って、誰に対しても優しく接していた夫に、こんな仕打ちをするなんて。 そうですよね。 すみません、愚痴を聞かせてしまって。それで、どう言うご用件なんですか? 実は弘樹から、これからのことについて色々と相談を受けたんです。 相談? 俺は司法書士をしていますので、権利関係のことを任せたいと言ってくれたんです。まあ、昔からの付き合いだから信頼してると言ってくれてね。 … Read more

23 September 2026

「京介、今日のハワイ旅行、本当に楽しみね」と私は空港に向かう車の中で呟いた。去年亡くなった父との約束を、やっと果たせると思っていたからだ。新婚旅行に行けなかった両親のために、私が全額を出して計画した旅行。なのに、京介から届いた一言は「悪いけど、ハワイ行きの飛行機、もう飛んでるよ」だった。意味がわからず問い返すと、彼は「母さんには12時フライトって言ってたけど、あれ嘘。本当は10時フライトなん…

京介、今日のハワイ旅行、本当に楽しみね。私もそろそろ空港に着くわ。わくわくする。 楽しそうなところ悪いんだけどさ、ハワイ行きの飛行機、もう飛んでるよ。 え、お母さんには12時フライトって言ってたけど、あれ嘘。本当は10時フライトなんだ。 はあ?なんでそんなことするの? 母さんが一緒だと、まなみの両親が気を使うだろ。だから母さんの代わりに、まなみの両親を連れてくことにしたんだよ。ほら、親孝行ってやつ。 親孝行って、あんた?私に親孝行したことなんて一度もないくせに? 悪いけど、もう帰れ。 バカ言わないで。今回の旅行は、お金を出すのも計画するのも私よ。 いろいろ手配してくれてありがとう。でも俺たちだけで楽しむから。だからちょっと待ちなさいって。 京介もまなみちゃんも、私がこの旅行にどれだけ思い入れがあるか知ってるでしょ? ああ、去年亡くなった親父との約束だろ? そうよ。お父さんと約束してたの。新婚旅行に行けなかったから、いつか一緒に行こうって。去年の結婚記念日になって、やっと約束を果たせるってなったんだけど、お父さんが事故で亡くなった。だから今年、私一人だけでもその約束を守ろうと思ったの。 で、一人で行くのもなんだからって、俺とまなみを誘ってくれたんだろ。知ってるよ。 なら、私を置いていくなんてしないでしょ。 するんだよ。これがあんたなんだよ。 てか俺もまなみも、最初から母さんを連れてく気なんてなかったし。 出発日の飛行機だけは自分たちで手配するって言い出したのも、全部このためだったのね。気づくのが遅いよ。 宿泊先のホテルや帰りの便は、母さんが予約してるんだろ。それを使わせてもらうから。 けーしゃーってやつ?何が? 母さんの、余裕の笑みだよ。そうそう。人生楽しんだもん勝ちなんだって。普段から母さんはへらへらしてるし、こういう状況でも楽しめよ。じゃないと人生負けちゃうぞ。 本当に最低。 笑ってりゃいいことあるって、よく言ってるじゃん。俺たちのことも笑って見送ってくれよ。 ……そう、あんたの考えはよくわかりました。楽しんできなさい。 悪いね。母さんの分も、俺たちが楽しんで笑顔になってくるわ。 八時間後、ハワイ到着。 ああ、ハワイの空気って美味しいですね。 まなみさん、まだ空港に着いたばかりでしょ。空港の空気って、そんなに美味しいのね。 うわ、お母さん、ダサい。置いてかれたからって負け惜しみですか? かもね。というか、まなみさんは毎年ハワイに行ってるんでしょ? そうですね。うちの両親はお金持ちなんで。ハワイ旅行は毎年恒例行事ですよ。 なら、なおさらわからないんだけど。何がわからないんですか? 私が計画したハワイ旅行を奪った意味だよ。まなみさんのご両親だって、自分で行けるでしょ。 はあ。それはですね、実は私、京介と結婚してから大変なんですよ。結婚してから生活レベルががくっと落ちたんです。うちの両親も、結婚後は自力でやりなさいとか言ってくるし。 でも住んでるマンションは、ご両親の持ち物だったと思うけど。 結婚祝いにもらったマンションですね。でもこれだけですよ。あとは何もなし。 いや、十分でしょ。 そのせいでこっちは大迷惑なんですよ。毎年恒例だったハワイ旅行にも行けなくなったし、友達にはセレブとか言われてるんです。 それは友達が悪いような気がするけど。というか、今まで散々私が羨ましいって言ってたくせに。 というかそもそも、まなみさんって専業主婦ですよね。 ですけど、今の時代、専業主婦ができる時点で問題ないでしょう。セレブではないにしても、生活に困ることもない。 だめです。セレブ出身の私は、一般人レベルで測れない女なんで。 そうですか。 でも、やっぱりわからないわね。私は元々、あなたたちも一緒に旅行に行く予定だったのに。 親孝行ですよ。あなたのご両親への。ほら、今年は私たちの番でハワイ旅行ですよ。 いや、私の番だけど。そんなこと言わないとわからないんで。で、うちの両親の性格からしたら、お返しは確実。来年のハワイ旅行代を出してもらうってこと。すでにそういう話が出てるんですよ。これで二年連続ハワイ旅行確保成功です。 たったそれだけのために? あと、うちの親が金銭管理がどうのこうのってうるさかったんで、ハワイ旅行に連れて行ける余裕があるぞって見せつければ、今後は黙るかなって。 くだらない。 そのくだらない話で、ハワイ旅行を逃したんですけどね。 くだらないのはお母さんですよ。ってことで。 本当にそうかしらね。 負け惜しみどうも。そろそろホテルに行くんで、ここら辺でお母さんが予約したホテルで、のんびりしますね。 ああ、そのホテルの予約、キャンセルしたわよ。 へ? ついでに、帰りの便の飛行機もね。 … Read more

23 September 2026